総合研究開発機構

概要

 東日本大震災から2年が経過した。NIRAは、この度、復旧・復興の状況の全体像を把握することを目的に公表してきた「東日本大震災復旧・復興インデックス」の改訂を行った。今回は、インデックスを2012年12月分まで延長し、震災発生後1年9か月間の復旧・復興状況の推移を把握するとともに、産業基盤・生活関連基盤の毀損の状況や、生活者の視点に立った復旧・復興の状況を概観した。

INDEX

エグゼクティブサマリー

1.東日本大震災復旧・復興インデックスで見た被災3県の状況

 本インデックスは、大震災で津波被害を受けた地域(被災37市町村)の復旧・復興の状況及びその推移を把握する次の2本の「指数」からなる。①被災地での生活を支えるインフラの総合的な復旧度を示す「生活基盤の復旧状況」指数、及び②被災した人々やその地域の生産・消費・流通などの状況を総合的かつ時系列に把握する「人々の活動状況」指数。いずれも、震災直前の状況を100とした指数である。

●被災3県の「生活基盤の復旧状況」:復旧の進捗テンポは緩やかなまま
 今回延長分(2012年4~12月分)(図表1)をみると、宮城県と福島県では緩やかな進捗テンポは維持されているが、岩手県では進捗のテンポが更に緩やかになっている。
 瓦礫撤去・処理は改善がみられ、義援金支払済率の改善も指数の伸びに寄与した。岩手県と宮城県では、教育・医療基盤や交通インフラなど息の長い取り組みが必要となる分野の進捗が小幅にとどまった。福島県では、原発警戒区域等の見直しなどもあり、応急仮設住宅への移転や小中学校の復旧状況にも改善がみられ、人口移動の関係の指標も改善傾向を示した。

図表1 「生活基盤の復旧状況」指数の動き

●被災3県の「人々の活動状況」:産業活動の全国的な弱さを受け、低下傾向
 時系列でみると(図表2)、全国の指数値が2012年初から低下傾向にある中、岩手県と福島県は、全国の動きと同様に低下し、宮城県は同年第2四半期以降に若干低下した。鉱工業生産や大口電力使用量など、世界経済の動向の影響を強く受ける指標の値が低下したことが、指数低下の主な原因である。消費、住宅着工や雇用は、2012年に震災前水準を回復した。
 活動水準でみると、岩手県と宮城県はほぼ同水準で、福島県の指数は低く推移した。

図表2 「人々の活動状況」指数の動き

2.産業基盤・生活関連基盤はどの程度毀損していたか

 
人々の活動が、中長期的な復興の中で回復を続けていくかどうかについては、被災地における関連の産業基盤や教育・医療・介護などの生活関連基盤がどのようになっているかを知る必要がある。
 例えば、被災地の商工業者の多くが被災したが、「被災なし」と「再開」を合わせると(図表3)、岩手県では86%、宮城県では90%が事業を継続・再開している。しかし、福島県では73%にとどまる。他方で、県レベルでは新規設立法人企業数が前年比で増加し、また、被災地にも新規設立の動きがみられ、このような動きが今後も続けば、長期的な雇用が創出され、被災地の活気も高まってくるものと考えられる。
 報告書では、同様の分析を、統計等に基づき、農業・漁業や、教育、医療・介護について行っている。

図表3 商工業者の事業再開状況

(注)出所は報告書の図表3-4-3を参照。

3.被災3県の生活者の状況
 
 生活者の視点に立ったとき、復興状況をどのように捉えるかを、様々な統計・データ等により分析した。例えば、人口の推移をみると(図表4)、岩手県と宮城県では、人口が被災市町村から県庁所在地等の都市に向かう一方、福島県では、被災市町村から、福島市以外の、県内の被災地近辺の市町村や、県外に移動している可能性が窺える。なお、報告書では、被災生活において特に困難を抱えやすいとされる高齢者と女性に焦点を当て、生活環境、生活・健康状況、就労状況などを分析している。

図表4 被災者が、岩手県・宮城県では県庁所在地に、福島県では県外と被災地近辺に向かう

(注)出所は報告書の図表4-2を参照。

目次

1.はじめに
2.東日本大震災復旧・復興インデックスについて
3.復旧・復興インデックスで見た被災3県の復旧・復興の状況
 (1)「生活基盤の復旧状況」指数
 (2)「人々の活動状況」指数
 (3)市町村別にみた「生活基盤の復旧状況」
 (4)産業基盤・生活関連基盤はどの程度毀損していたか
4.被災3県の生活の状況をデータで捉える
5.おわりに

参考
 資料1 東日本大震災復旧・復興インデックス 採用指標の一覧表
 資料2 「生活基盤の復旧状況」指数 -グラフおよび数値-
 資料3 「人々の活動状況」指数 -グラフおよび数値-
 資料4 市町村別にみた「生活基盤の復旧状況」
 資料5 「人々の活動状況」指数に含まれる個別指標 ―グラフおよび数値―
 資料6 指数の更新状況について
 資料7 東日本大震災復旧・復興インデックスの加工方法について
 資料8 人々の活動状況指数 前月差に対する個別指標別の寄与度

図表

図表3-1-1 「生活基盤の復旧状況」指数の動き
図表3-1-2 指数の各構成指標の状況(2012年12月と同年3月の比較)(震災前=100)
図表3-2-1 「人々の活動状況」指数
図表3-2-2 「人々の活動状況」指数を構成する個別指標の状況
参考図表1 雇用のミスマッチの状況について
参考図表2 震災前水準を上回った場合のデータ固定化処理を行わずに作成した「人々の活動状況」指数
図表3-3  復旧が比較的着実に進む市町村
図表3-4-1 農業経営体の事業再開状況
図表3-4-2 漁業者の事業再開状況
図表3-4-3 商工業者の事業再開状況
図表3-4-4 休廃業件数は震災後に増加
図表3-4-5 新規設立法人企業数が震災後に増加
図表3-4-6 復興需要の効果が大きい宮城・福島で資金繰りも改善
図表3-4-7 被災地では事業所数・従業員数とも大幅減少(2012年2月時点の状況)
図表3-4-8 生徒の県外就職率が震災後に上昇(宮城県及び福島県)
図表3-4-9 福島では学校が再開しても教員が減少、岩手・宮城では2012年以降横ばい
図表3-4-10 医師・看護師数、医療施設数
図表3-4-11  医療従事者数は足元では改善
図表3-4-12 介護供給は震災後に厳しい状況
図表4-1 被災3県の人口動態(2009-2012年)
図表4-2 被災者が、岩手県・宮城県では県庁所在地に、福島県では県外と被災地近辺に向かう
図表4-3 高齢者人口の推移
図表4-4 高齢者の居住形態(釜石市の例)
図表4-5 一人暮らし高齢者の増加
図表4-6 福島県内の看護職員の就業状況
図表4-7 生活への安心度・不安の有無(岩手県の調査の例)
図表4-8 サポート拠点数
図表4-9 こころの状態(男女差)
図表4-10 保育環境
図表4-11 有効求職者数(男女別、前年比)
図表4-12 福島県の転出入差(性、年齢階級別)
図表4-13 福島県年齢別性比(0-59歳)

復旧・復興インデックス検討チームメンバー

市村英彦 東京大学大学院経済学研究科・公共政策大学院教授
柳川範之 東京大学大学院経済学研究科教授/NIRA理事
澤田康幸 東京大学大学院経済学研究科教授
和川央  岩手県復興局産業再生課主査
神田玲子 前NIRA研究調査部長
斉藤徹史 NIRA研究調査部主任研究員
江川暁夫 NIRA研究調査部主任研究員
辻明子  NIRA研究調査部主任研究員
森直子  NIRA研究調査部研究コーディネーター・主任研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)総合研究開発機構(2013)「東日本大震災復旧・復興インデックス(2013年3月更新)-データが語る被災3県の現状と課題Ⅲ

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