総合研究開発機構

概要

 東日本大震災からの復旧・復興を着実かつ重点的に進めるには、統計・データといった科学的証拠に基づき、政策を立案・ 推進することが重要である。そこで、NIRAでは、震災後1年間の復旧・復興状況の推移を客観的に把握するために「東日本大震災復旧・ 復興インデックス」を作成・更新し、インデックスから窺える今後の課題を整理した。
 また、災害時の統計・データの活用のあり方については、利用ニーズの高い統計・データを整備し、統計・データの一元的・ 迅速な集約ルールの構築を進めるべきであると官民の有識者等の間でも意見が一致している。これらを踏まえ、 次の災害発生に備えた取組について提言した。

INDEX

エグゼクティブサマリー

第Ⅰ部 データが語る被災3県の現状と課題

1.復旧・復興インデックスで見た被災3県の復旧・復興の状況

 
本インデックスは、大震災で津波被害を受けた地域(被災3県、被災37市町村)の復旧・復興の状況及びその推移を把握する次の2本の「指数」からなる。

●被災地での生活を支えるインフラの総合的な復旧度を示す「生活基盤の復旧状況」指数は(図表1(1))、昨年8~9月頃を境に3県ともに伸びが鈍化し、その後の進捗は緩やかなままである。しかし、これまで復旧が遅れていた、瓦礫処理、保険金・共済金支払い、融資については、直近の3か月間で改善がみられた。一方、県内・県外避難者数が、岩手県と福島県では再び増加に転じており、生活基盤の復旧の進捗が鈍化する中で、住民が地元を離れる動きとなっている。

●被災した人々やその地域の生産・消費・流通などの状況を総合的・時系列的に把握する「人々の活動状況」指数は(図表1(2))、昨年8~9月頃から年末にかけ、岩手県と福島県では足踏み状態となった後、直近では3県ともに改善した。この指数の改善には、鉱工業生産や大口電力使用量など、産業活動を示す指標の伸びが寄与したが、これらの水準は、現時点でもなお、震災前の水準に回復していない。

図表1 NIRA東日本大震災復旧・復興インデックスの推移(いずれも、震災前=100)

(注)報告書図表3-1及び図表3-3を基に作成。

●被災37市町村別にみた「生活基盤の復旧状況」指数は、鉄道の復旧や瓦礫の撤去・処理などの進捗を受け、足踏みしながら緩やかに改善している。復旧度が高い市町村は、①宮城県利府町、松島町、岩沼市、塩竈市、岩手県岩泉町(全体的に着実な回復を維持)、②岩手県洋野町、久慈市(鉄道の復旧により復旧度が改善)、③宮城県名取市、仙台市、福島県いわき市(瓦礫の撤去・処理の進展により復旧度が改善)。

2.データから見て取れる今後の復旧・復興における課題

 各種データから更に掘り下げると、住民の復興ニーズは、住環境や交通網の復旧、教育・医療・介護環境の整備に関するものが高い。このうち、住環境は、瓦礫撤去・処理、資金面での支援などによって改善しつつある。他方、交通網(鉄道)は改善が鈍い。教育・医療環境は、施設の復旧が不十分ながらも進む一方、医師数の減少がみられる。また、人々の活動状況の足元での改善は、当面の公共事業や各種の支援制度に支えられている面があり、こうした制度的な支援がなくなっても十分な雇用機会が確保されるよう、産業基盤の復旧・復興、高度化等の取組が必要である。

第II部 データを活用した復旧・復興期の政策形成に向けて

 官民の有識者や実務家等が一堂に会して議論したところ、災害等の緊急時においても科学的証拠に基づく政策立案を行うためには、データの正確性や客観性を確保する必要があること、また、利用ニーズの高い統計・データを整備するとともに、緊急時には一元的・迅速に集約するルールの構築が重要となること、について意見が一致し、これらを平常時から行っておくべき、との共通理解を得た。
 これらの議論や、インデックス作成におけるこれまでの経験を踏まえ、NIRAとしては、今後の取組に関する提案として、①国・地方自治体は、今回の復旧・復興政策の企画立案・実施における統計・データの利用のタイミングや目的、活用方法などの経験を早急に記録する、②被害状況・被害額は、算出根拠となる統計・データの精度が時間の経過とともに向上し、利用可能なデータも増えることから、適切なタイミングで逐次改訂する、③官民が保有する統計・データで災害時の政策立案に不可欠なものについて、緊急時の一元的・迅速な集約ルールを構築するとともに、政策立案をはじめ公益の利用に供する、という3点を提案する。

目次

第Ⅰ部 データが語る被災3県の現状と課題―東日本大震災復旧・復興インデックス(2012年6月更新)―
 1 はじめに
 2 東日本大震災復旧・復興インデックスについて
 3 復旧・復興インデックスで見た被災3県の復旧・復興の状況
 4 データから見て取れる今後の復旧・復興における課題
 5 おわりに
第Ⅱ部 データを活用した復旧・復興期の政策形成に向けて
 1 「東日本大震災復旧・復興ワークショップ」での議論から
 2 次の災害に備えて

参考
 資料1 東日本大震災復旧・復興インデックス採用指標の一覧表
 資料2 「生活基盤の復旧状況」指数―グラフおよび数値―
 資料3 「人々の活動状況」指数―グラフおよび数値―
 資料4 市町村別にみた「生活基盤の復旧状況」
 資料5 「人々の活動状況」指数に含まれる個別指標―グラフおよび数値―
 資料6 指数の更新状況について
 資料7 東日本大震災復旧・復興インデックスの加工方法について
 資料8 「人々の活動状況」指数個別指標別バックデータ

図表

図表3-1 「生活基盤の復旧状況」指数の動き(震災前=100)
図表3-2 指数の各構成指標の状況(2011年12月と2012年3月の比較)(震災前=100)
図表3-3 「人々の活動状況」指数
図表3-4 「人々の活動状況」指数を構成する個別指標の状況
参考図表1 震災前水準を上回った場合のデータ固定化処理を行わずに作成した「人々の活動状況」指数
図表3-5 復旧が比較的着実に進む市町村
図表4-1 交通網、瓦礫、住宅再建資金の復旧状況
図表4-2 学校施設の被災からの修復状況
図表4-3 医師数・看護職員数の推移の推移
図表4-4 岩手・宮城では児童生徒が戻り、福島では転出
図表4-5 3県へのボランティア活動者数が昨夏以降激
図表4-6 生産活動は、改善してきているが震災前を回復せず
図表4-7 高速道路利用は早々に回復後、無料化措置で増加
図表4-8 空路、海路はなお回復に至らず
図表4-9 消費活動、雇用は公共事業頼み
図表4-10 雇用保険受給者実人員は減少、しかし支給終了とともに就職できた者は多くない
図表4-11 医療・介護関連支出は震災後も伸びている
参考図表 「復旧・復興ワークショップ」の議論の概要

復旧・復興インデックス検討チームメンバー

市村英彦 東京大学大学院経済学研究科・公共政策大学院教授
柳川範之 東京大学大学院経済学研究科教授/NIRA理事
澤田康幸 東京大学大学院経済学研究科教授
米岡大輔 東京大学大学院医学系研究科(国際保健)修士課程
和川央  岩手県復興局産業再生課主査
浜岡誠  岩手県復興局企画課企画専門員
神田玲子 前NIRA研究調査部長
斉藤徹史 NIRA研究調査部主任研究員
江川暁夫 NIRA研究調査部主任研究員
辻明子  NIRA研究調査部主任研究員
森直子  NIRA研究調査部研究コーディネーター・主任研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)総合研究開発機構(2012)「東日本大震災復旧・復興インデックス(2012年6月更新)-データが語る被災3県の現状と課題Ⅱ

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