谷口将紀
東京大学公共政策大学院教授/NIRA総合研究開発機構理事長

概要

 人びとのポピュリスト態度は、日本においてはどのような性質を持っているのか。本稿は、ポピュリスト志向を「いまの政党や政治家は腐敗しきっており、人びとの敵をやっつける強い指導者が必要」であり、かつ、「政策を決定する際は、ふつうの人びとの意見を優先するべきだ」と考えていることと操作化した上で、社会経済的属性やさまざまな態度との関連を分析した。
 学歴が高くなるほどポピュリスト志向にはなりにくい。世帯年収が多くなるほどポピュリスト志向を帯びにくい傾向も見られる。神経症傾向が強い人はポピュリスト志向になりやすい。信仰に価値を置かない人はポピュリスト志向になりやすい。将来社会を楽観している人ほどポピュリスト志向にはなりにくい。
 政治的有効性感覚が強いと、ポピュリスト志向は抑えられる。ただし、政治関心が高いほどポピュリスト志向になりやすく、ポピュリスト志向とは政治的疎外の単なる言い換えではなく、既成のエリートに対して不信を強め、政治への効力感を減じつつも関心は持っている、政治的疎外の進行段階と言えるのかもしれない。
 そして、ポピュリスト志向の人はそうでない人と比べて、長期的党派性と投票予定政党の両方で自民党の支持率が低いが、立憲民主党や共産党の支持率を押し上げるわけでもない。日本維新の会とれいわ新選組については、無党派層や棄権志向と並んで、ポピュリスト志向の人びとが相対的に支持している可能性がある。

INDEX

図表

図1 ポピュリスト志向の性別構成
図2 ポピュリスト志向の年齢構成
図3 ポピュリスト志向の最終学歴分布
図4 ポピュリスト志向の職業分布
図5 ポピュリスト志向の世帯年収分布
図6 ポピュリスト志向の経済評価
図7 ポピュリスト志向の階層意識分布
図8 ポピュリスト志向の性格構成
図9 ポピュリスト志向の価値観の分布
図10 ポピュリスト志向の生活満足感
図11 ポピュリスト志向の5~10年後の日本の見通し
図12 ポピュリスト志向のデジタル化や技術革新の影響への認識
図13 ポピュリスト志向の社会に関する意識
図14 ポピュリスト志向の政策態度
図15 ポピュリスト志向の理想の社会
図16 ポピュリスト志向の政治的有効性感覚
図17 ポピュリスト志向の政府・国会・政治家への信頼
図18 ポピュリスト志向の政治への関心
図19 ポピュリスト志向の投票予定政党
図20 ポピュリスト志向の長期的党派性
図21 ポピュリスト志向のロジスティック回帰の推定結果

1.はじめに

 日本でポピュリストは勢力を拡大しているのか。重要な質問ではあるけれども、回答はなかなか難しい。

 そもそも、誰がポピュリストであるかの共通了解がない。学術研究に限ったとき、日本にもポピュリストが存在するという立場を採る者の多くは、橋下徹・松井一郎・吉村洋文と大阪維新の会、小池百合子と都民ファーストの会、山本太郎とれいわ新選組を該当例として挙げており(水島 2016、松谷 2022)、橋下自身も、正しいポピュリズムこそ民主政治の根本と言い切るが(橋下 2018)、これらには大都市を支持基盤としている点でヨーロッパの主要ポピュリスト政党――例えば、フランスの国民戦線(現・国民連合)、ドイツのための選択肢、イギリス独立党(当時)、オランダの自由党――と違いも指摘されている。逆に、中曽根康弘、細川護煕、菅直人、石原慎太郎、田中康夫、加藤紘一、田中真紀子、小泉純一郎など、さらに多くの政治家または政治運動をポピュリスト/ポピュリズムとみなす例も見られる(大嶽 2003、吉田 2011)。

 このようにポピュリストの外延が定まらないのだから、ポピュリストの内包も明らかにはならない。ポピュリストの概念的定義が決まらなければ、その操作的定義も試論的たらざるを得ない。操作化のやり方次第で、冒頭の問いに対する答えはイエスにもノーにもなりうる。

 以上を前提としながら、本稿はしばしば参照される学術的定義に基づいて操作化したところの、という限定条件――その定義が正しいかどうかは措くとして――を付した上での人びとのポピュリスト態度は、日本においてはどのような性質を持っているのかを考察するものである。

2.ポピュリズム態度

2-1.ポピュリズムの定義

 しばしば参照される学術的定義として、本稿では、The Oxford Handbook of Populismで示された3つのポピュリズム/ポピュリストの概念的定義を検討したい(Kaltwasser et al. 2017)。

 初めは、イデオロギーとしての側面を重視したミュデの定義である。それによると、ポピュリズムとは「社会が究極的に『汚れなき人民』対『腐敗したエリート』という敵対する2つの同質的な陣営に分かれると考え、政治とは人民の一般意志の表現であるべきだと論じる、中心の薄弱なイデオロギー」とされる(Mudde 2004: 543(注1)

 これに対してウェイランドは、ポピュリズム/ポピュリストの政治戦略としての側面を強調する。すなわち、ポピュリズムとは「個性的なリーダーが、ほぼ未組織のフォロワーの多数からの直接的で、媒介されない、非制度的な支持にもとづいて、政府権力を追求または行使する政治戦略」である(Weyland 2001: 14)。

 他方、オスティガイは社会文化的側面に着目し、「ポピュリズムとは、政治において、文化的に大衆的で土着的であることを、そして意思決定のモードとして個人主義的であることを敵対的、動員的に誇示することと定義される。(中略)総合すると、ポピュリズムとは敵対的、動員的な『下』の誇示である。」という定義を提案した(Ostiguy 2017: 84)。

2-2.ポピュリスト態度の計測法

 これらのうち、人びとのポピュリスト態度を計測するために広く用いられているのは、ミュデの定義である。すなわち、前述の概念定義を基にして、Akkerman, Mudde and Zaslove2014)は、①国会議員(注2)は人びとの意思に従う必要がある、②最も重要な政策決定は政治家ではなく人びとが行うべきだ、③エリートと人びとの政治的差異は人びとの間にあるそれよりも大きい、④自分は1人の政治家よりも1人の市民によって代表されたい、⑤政治家は口先ばかりで行動を伴わない、⑥政治において「妥協」と呼ばれているものは原理原則への裏切りにすぎない、という質問への回答(全く賛成~全く反対の5点尺度)の平均値を以て、ポピュリスト態度を操作化した。

 しかし、この操作的定義には、ウェイランドやオスティガイが強調した政治的リーダーの要素がほとんど含まれない。それでも各国のポピュリスト政党支持をよく説明できるとされるが、少なくとも日本に関して、ミュデらの操作的定義を原型にしたポピュリスト態度は(注3)、東京都議会選挙における都民ファーストの会に対する投票、あるいは大阪維新の会・日本維新の会、橋下徹・松井一郎・吉村洋文に対する支持態度や感情温度と明確な関連が認められなかった(Hieda et al. 2019、善教 2021)。都民ファーストや維新支持者は(これらの研究で採用された定義に拠る)ポピュリストではないという解釈も成り立ちうるし、操作的定義にもっとリーダーの要素を加味するなど別の操作的定義を採用したり、首長選を対象にした調査を行ったりすれば、別の所見が得られたかもしれない。

 この点で、リーダーシップを前面に出してポピュリスト態度の操作化を試みたのが、松谷(2022)である。同書は「A:首長(知事や市長)を選ぶなら、『素人だが市民の代表』がよい/B:首長を選ぶなら、『市民の代表ではないが行政のプロ』がよい」および「A:物事を決定する際、リーダーシップによるすばやい決定が重要である/B:時間をかけて皆で話し合い、納得した結論を導くことが重要である」という2つの質問(Aに近い~Bに近いの4点尺度)を行い、両項目共「Aに近い」または「どちらかといえばAに近い」と回答した者をポピュリストとして定義した。ただ、そこでは人びととエリートを対立的に捉える側面、特に後者を「腐敗した」と形容するポピュリズムの善悪二元論的要素が抜け落ちている。また、「首長(知事や市長)を選ぶなら」という条件を付しており、国の政治、特に議院内閣制を分析する指標としては疑問が残る。

 もう1つ、日本におけるポピュリスト態度の分析でミッシング・チャプターとなっているのは、全国の人びとを対象にした、無作為抽出に基づく公開データが(管見の限り)提供されていないことである。前述の先行文献は、特定の自治体を対象にした、かつ/または社会経済的属性のみによっては補正しきれないバイアスを含みうるモニター型インターネット調査に基づいている(注4)

2-3.本稿の方法

 そこで本稿は、以下の要領で日本におけるポピュリスト態度を計測することにした。

 ポピュリスト態度の操作的定義としては、①「いまの政党や政治家は腐敗しきっており、人びとの敵をやっつける強い指導者が必要だ」という質問(そう思う~そう思わないの5点尺度)に対して「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答し、かつ、②「A:政策を決定する際は、専門家が議論した結果を優先するべきだ/B:政策を決定する際は、ふつうの人びとの意見を優先するべきだ」という質問(Aに近い~Bに近いの5点尺度)に「Bに近い」または「どちらかといえばBに近い」と回答した人をポピュリスト志向とみなすことにした。

 善悪二元論を以て人びとを主役に据える一方でエリートを腐敗していると敵視するミュデ流のポピュリズムの各要素を含めつつ、ウェイランドやオスティガイが重視したリーダーの要素を加味したのが、①の質問文である。ただし、次に述べるとおり、本稿が用いるデータの収集期間は政治資金パーティーをめぐる政治家の政治資金規正法違反事件が大きく報道されていた時期と重なったため、ポピュリスト志向を計測しようという調査票設計時の意図を超えて、回答者が「いまの政党や政治家は腐敗しきっており」の部分に強く反応したものと推定される。そこで、エリートと人びとの対置を強調した②の質問文を組み合わせた操作的定義を採用することにした。

 データは、2024NIRA基本調査を用いる。日本全国の18歳以上男女から層化二段無作為抽出により5,000人のサンプルを選び、2024119日から24日にかけて、調査員が対象者宅を訪ねる留置法によって調査を実施し、有効回収数は2,441人(48.8%)であった(注5)。無作為抽出による調査であっても未回収などによるバイアスが含まれうるが(谷口・大森2022)、本稿ではあえて補正は行わない。本データに前記の操作的定義を適用した結果、一部無回答者を除いた2,395人のうち539人(22.5%)がポピュリスト志向となった。

3.分析結果

3-1.社会経済的属性

 まず、ポピュリスト志向と他の主要な調査項目との関連を、1つずつ確認しておく(注6)

 性別(男女比)については、非ポピュリスト志向は4852、ポピュリスト志向は4654と、統計的有意な差は認められない(図1)。

 年齢については、非ポピュリスト志向は平均54.9歳、ポピュリスト志向は平均57.3歳と、加齢とポピュリスト志向には関連がある(図2)。

 居住地の都市規模については、最も大規模な都市部に住んでいる者の割合を見てみると、非ポピュリスト志向では26.2%、ポピュリスト志向では25.6%と差はない。全国を11地域に区分したときの人口比も、ポピュリスト志向の有無による有意差は存在しない。

 学歴について、大学卒業以上の割合をとると、非ポピュリスト志向では30.3%、ポピュリストでは21.0%と、ポピュリスト志向の人には大卒者が少ない傾向が認められる(図3)。

 就業上の地位について、無職(高齢などを含む)の割合を見てみると、非ポピュリスト志向では34.4%、ポピュリスト志向では34.5%と差はない(図4)。

 世帯年収について、0(収入なし)から132,000万円以上)の尺度で回答してもらった平均値を見ると、非ポピュリスト志向は5.90、ポピュリスト志向は5.45と、ポピュリスト志向の方が低年収である(図5)。

 世帯の家計状況と日本の経済状況の評価について、1年前と比べて悪くなったと答えた者の割合は、非ポピュリスト志向では世帯38.4%、日本62.7%であったのに対し、ポピュリスト志向では世帯51.2%、日本78.1%と、ポピュリスト志向はより低く現状を評価している。同様に、510年後の家計や日本の経済見通しが悪くなると答えた割合についても、非ポピュリスト志向の世帯46.6%、日本56.6%に対し、ポピュリスト志向は世帯53.0%、日本71.2%とより悲観的である(図6)。

 階層意識について、「中の下」または「下」と回答した者の割合を見ると、非ポピュリスト志向では33.4%、ポピュリスト志向では44.3%と、ポピュリスト志向の人の方が階層意識は低い(図7)。

3-2.性格や価値観

 性格(ビッグ・ファイブ)のうち、外向性、協調性、勤勉性、開放性については、ポピュリスト志向の有無による有意差は確認されなかった(注7)

 唯一、神経症傾向について、非ポピュリスト志向の人の平均値は5.72、ポピュリスト志向の人の平均値は6.02と、ポピュリスト志向の人の方が情緒不安定の傾向にある(図8)。

 価値観のうち(注8)、伝統(注9)については非ポピュリスト志向の平均1.50に対してポピュリスト志向は1.40とやや弱く、普遍主義については非ポピュリスト志向の平均2.32に対してポピュリスト志向は2.37と強く、安全については非ポピュリスト志向の平均2.56に対してポピュリスト志向は2.67と強くなっている。調和、博愛、自立、刺激、快楽主義、達成、権力については両群に有意差は見られなかった(図9)。

3-3.社会意識

 生活満足度(0=不満だ~4=満足している)については、非ポピュリスト志向の平均は2.54であるのに対して、ポピュリスト志向は平均2.31と現在の生活に対する不満感が強い(図10)。

 510年後の日本の予測について、非ポピュリスト志向とポピュリスト志向を比較すると(0=そう思わない~4=そう思うの5点尺度の平均値)、「物価が上がって生活が苦しくなる」3.123.40、「より高齢まで健康でいられるようになる」2.001.86、「十分な年金や医療サービスを受けられなくなる」2.713.02、「国内に住む外国人が増加する」3.123.25、「コロナのような感染症が再び世界的に流行する」2.602.90、「生活を揺るがすような異常気象や大規模災害が発生する」3.213.44、「近隣諸国で武力衝突が起きる」2.803.05、「国内の治安が悪くなる」2.582.87と、全ての項目に有意差が認められた。いずれも(外国人の増加をどう評価するかを別にすれば)ポピュリスト志向の方が将来の日本社会を悲観している(図11)。

 デジタル化や技術革新によって起こりそうなことについても、非ポピュリスト志向とポピュリスト志向を比較すると(0=全く起こりそうにない~3=とても起こりそうの4点尺度の平均値)、「自分や家族ができる新たな仕事が生まれる」1.301.16、「自分や家族の仕事がなくなる」1.441.55、「コミュニケーションや人間関係が希薄になる」1.912.02、「生活が便利になる」1.781.65、「情報漏えいや不正アクセス等のセキュリティ被害が増える」2.402.56、「うその情報が増えてだまされやすくなる」2.382.55、「富む人と貧しい人の所得格差が拡大する」2.422.63と、またも全ての項目でポピュリスト志向の方が有意に悲観的な傾向が示された(図12)。

 社会に関する意識についてはどうだろうか。同様に非ポピュリスト志向とポピュリスト志向の平均値を比較すると(0=そう思わない~4=そう思うの5点尺度)、「努力をして働けば豊かな暮らしができる」2.312.07、「大多数の市民は善人だ」2.492.31、「たいていの人は信頼できる」2.272.12、「日本で働く外国人の受け入れを増やすべきだ」2.041.83と、ポピュリズム志向の方がネガティブに捉えている。なお、今生きている人びとの負担となっても将来世代のことを考えて行動すべきであるという意見に対しては、非ポピュリスト志向とポピュリスト志向に有意差は見られなかった(図13)。

3-4.政策態度

 直前の項目に関連して、より具体的な政策態度を見てみよう。「A:日本は財政赤字の懸念はなく国債を発行しても問題ない/B:日本の財政赤字は危機的水準であるので国債の発行は抑制すべきだ」のどちらの考えに近いかを聞いたところ(1Aに近い~5Bに近いの5点尺度の平均値)、非ポピュリスト志向3.50:ポピュリスト志向3.75と、ポピュリスト志向の方が国債発行に消極的なことが分かった。「もし所得税を1割増やすなら、A:所得のある人全員の税率を10%ずつ引き上げるべきだ/B:高額所得者の税率の引き上げ幅をより大きくすべきだ」については、非ポピュリスト志向3.52:ポピュリスト志向4.00とポピュリスト志向の方がより強く累進強化に賛成であった。「A:老後の生活は自助努力でまかなうのが基本で国による生活保障は最低限にとどめるべきだ/B:すべての人が充実した老後を暮らせるように国は十分な生活保障を行うべきだ」については、非ポピュリスト志向3.48:ポピュリスト志向3.94とポピュリスト志向の方がより手厚い生活保障を望んでいる(図14)。

 ポピュリスト志向の人の方が国債発行に消極的な点は意外に映るかもしれないが、自らの税負担引き上げを望まず、また、将来自分たちの負担になるかもしれない国債発行にも慎重で、高額所得者により多くを負担させて、全ての人びとに十分な生活を保障すべきだ、というある意味一貫したロジックが存在しているようにも思われる。ちなみに、転職に対する態度については、非ポピュリスト志向とポピュリスト志向に有意差は存在しなかった。

 自らの負担増を望まない中で、あえて自身の負担が増えても質や給付を充実させたい公的サービスを挙げてもらったところ(複数選択可)、医療、介護・障がい者支援、年金制度、生活支援については、非ポピュリスト志向の人よりもポピュリスト志向の言及率が有意に高かった。逆に公共安全についてはポピュリスト志向の言及割合は低く、子育て支援、学校教育、雇用支援、緊急時・災害時の支援、防衛について有意差は確認されなかった。

 関連して、現在のサービス水準を維持したまま、それぞれの公的サービスの無駄な支出をどれだけ減らせるかを尋ねたときには、社会保障費、行政の人件費、公共事業費のいずれに対しても、ポピュリスト志向の人の方がより多くの支出を削減できると回答した。

 それでは、ポピュリスト志向の人は、どのような社会を理想としているのか。「A:働いた成果とあまり関係なく貧富の差が少ない平等な社会/B:自由に競争し成果に応じて分配される社会」のどちらに近いか(1Aに近い~5Bに近いの5点尺度の平均値)については、非ポピュリスト志向3.38:ポピュリスト志向3.22と共にB寄りながらも、ポピュリスト志向の方が自由競争社会に比較的慎重である。「A:税負担は大きいが福祉などの行政サービスが充実した社会/B:福祉などの行政サービスを必要最小限に絞り税負担の少ない社会」については、非ポピュリスト志向2.67:ポピュリスト志向2.80とポピュリスト志向の方が大きな政府への踏み込みが弱い。「A:経済成長を重んじ公共投資や公共事業を盛んに行う社会/B:財政規律を重んじ国や地方自治体の借金を大きくしない社会」については、非ポピュリスト志向3.11:ポピュリスト志向3.24と、ポピュリスト志向の方が財政規律重視であることの解釈は前述のとおりである。行政により規制の是非や個人の利益と公共の利益のいずれを優先すべきかについては、両群に差は見られなかった(図15)。

3-5.政治的疎外

 かつて著者は、政治的疎外は政治に対する否定的意識の総称であり、それがもたらす帰結のうち脱政治化、投影(政治的疎外を他の個人や集団のせいにすること)、カリスマ的リーダーへの同一化がポピュリズムに関連すると論じた(谷口 2018)。政治的疎外とポピュリズム志向の関係を確かめよう。

 政治的疎外を表す変数として、本稿では政治的有効性感覚(のなさ)、政治不信、政治的無関心を取り上げる。

 政治的有効性感覚は、政治が自分に何かをしてくれるという外的有効性感覚と、自分は政治に何かをできるという内的有効性感覚から成る。

 このうち外的有効性感覚は、①「今の政治家は、あまり私たちのことを考えていない」、②「国会議員は、おおざっぱに言って当選したらすぐ国民のことを考えなくなる」の2つの質問によって操作化された(0=そう思う~4=そう思わない、の5点尺度。数値が大きいほど外的有効性感覚が高いことを意味する)。①については非ポピュリスト志向の平均1.03に対してポピュリスト志向は平均0.47、②については非ポピュリストの0.96に対してポピュリスト志向0.44と、いずれもポピュリスト志向の外的有効性感覚は有意に低い。

 一方の内的有効性感覚は、①「自分には政府のすることに対してそれを左右する力はない」、②「政治とか政府とかは、あまりに複雑なので、自分には何をやっているのかよく理解できないことがある」の2つの質問で計測された(尺度は外的有効性感覚と同じ)。平均値を比較すると、①については非ポピュリスト0.91/ポピュリスト志向0.64、②については非ポピュリスト1.33/ポピュリスト志向1.13であり、やはりポピュリスト志向の内的有効性感覚は低い(図16)。

 政治不信については、政府/国会/政治家をどの程度信頼するかを尋ねた(0=信頼しない~3=信頼する、の4点尺度)。非ポピュリスト志向の不信度は順に1.351.280.93、ポピュリスト志向は0.870.790.58と、政府、国会、政治家のいずれに対してもポピュリスト志向の人びとの方が不信感は強い(図17)。

 関連して、公的サービスの満足感についても、わずかに有意水準を下回った子育て支援を除く、医療サービス、介護・障がい者支援、年金制度、学校教育、雇用支援、生活支援、公共安全、緊急時・災害時の支援、防衛の全てにおいて、ポピュリスト志向の満足度は非ポピュリスト志向を有意に下回った。

 もう1つの政治的無関心については、①「自分は政治に関心がある方である」、②「日本をとりまく国際問題に関心がある方である」という2つの質問を行った(0=そう思わない~4=そう思う、の4点尺度)。①/②の平均値は非ポピュリスト志向が2.002.42、ポピュリスト志向は2.202.57であり、ポピュリスト志向の方が関心はより高い。ポピュリスト志向とは政治的疎外の単なる言い換えではなく、既成のエリートに対して不信を強め、政治への効力感を減じつつも、一般の人びとを代弁してくれる新たなリーダーの出現に望みを託している点では政治関心を失ってはいない、政治的疎外の中途形態の1つと言えるのかもしれない(図18)。

3-6.政党支持

 かくてポピュリズム志向は、日本政治に対してどのような帰結をもたらしうるのか。最後に政党支持との関連を見てみよう。一口に政党支持と言っても、投票した(するつもりの)政党というワン・ショットの行動(予定)から、より持続的な感情や認知までの広い幅がある(谷口 2012)。そこでNIRA調査では、政党支持を「もし、この週末に選挙があるとしたら、あなたは、どの政党に投票したいと思いますか」という投票予定政党および「多くの人が「長期的に見ると、自分は△△党寄りだ」とお考えのようです。短期的に他の政党へ投票することはもちろんあり得るとして、長い目で見ると、あなたは『何党寄り』でしょうか」という長期的党派性の2種類計測した。

 まず、投票予定政党としての各党支持率については、非ポピュリズム志向/ポピュリズム志向の比較で、自民党33%22%、立憲民主党11%11%、日本維新の会12%15%、公明党4%4%、国民民主党3%2%、共産党4%4%、れいわ新選組3%5%、(中略)棄権(注10)23%29%であった(図19)。

 次に、長期的党派性については、自民党39%27%、立憲民主党8%7%、日本維新の会6%13%、公明党4%2%、国民民主党2%1%、共産党3%3%、れいわ新選組1%3%、(中略)そのような政党はない29%33%であった(図20)。

 ポピュリスト志向の人は、そうでない人よりも自民党を支持しにくい傾向がはっきりと表れている。しかし、ポピュリズム志向の人びとは、旧民主党出身者が多い立憲民主党や国民民主党、または共産党のような既成野党をより多く支持するわけでもない。他方、日本維新の会とれいわ新選組に関しては、ポピュリスト志向の人びとの支持率が高くなっているけれども、れいわは標本誤差の範囲内であり、維新についても計測法によって有意差があったりなかったりする。同時に脱政治化の行動様式である無党派または棄権へという流れも見られるから、ポピュリスト志向の人びとは両党を支持している兆候がある、といったあたりだろうか。

3-7.ロジスティック回帰分析

 ここまではポピュリスト志向と他項目との関連を1つずつ検証してきたが、最後にロジスティック回帰分析により、各要素の影響力を考察したい。

 目的変数は、本稿で定義されたポピュリスト志向に該当するかどうかである。

 モデル1の説明変数は、性別、年齢、最終学歴、都市規模(大都市ほど高値)、世帯年収(14点尺度。多いほど高値)、階層意識(下降するほど低値)、性格(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)、価値観(調和、伝統、博愛、普遍主義、自立、刺激、快楽主義、達成、権力、安全。逆順)である。これに加えて、モデル2では生活不満、将来楽観(510年後の日本の予測に関する回答を合計)(注11)、公的サービス不満を、さらにモデル3には政治不信(政府・国会・政治家に対する不信度を合計)、外的・内的有効性感覚(それぞれ2項目の回答を合計。有効性感覚があるほど高値)、政治的無関心(2項目の回答を合計。関心がないほど高値)を含めた。

 推定結果は図21のとおりである。図中の〇□◇が95%信頼区間付きの回帰係数である(注12)。他の要因をコントロールした場合においても、最終学歴が高くなるほどポピュリスト志向にはなりにくい傾向が認められる。10%水準ながら、世帯年収が多くなるほどポピュリスト志向を帯びにくい様子も見られる。階層意識は、モデル23では影響を持たなくなる。性格については、神経症傾向が強いほどポピュリスト志向になりやすい。価値観については、重視すべき伝統あるいは信仰を持っていない人はポピュリスト志向になりやすい。普遍主義や安全に関しては、政治意識などをコントロールした場合は有意な関連を持たない。

 社会意識については、将来の社会を楽観視している人ほどポピュリスト志向にはなりにくい。公的サービスへの不満は、政治意識に関する変数を投入すると有意な影響力が消える。

 ポピュリスト志向は政治に対する態度の1つであるから、他の政治意識との関連は強い。政治不信が強いほどポピュリスト志向になりやすい。政治的有効性感覚が強いと、ポピュリスト志向は抑えられる。ただし、政治的疎外のうち政治関心に関しては、前節に述べたとおり関心が高いほどポピュリスト志向になりやすい傾向が見られた。

 なお、モデル3における主要説明変数の平均限界効果は、世帯年収-0.006、神経症傾向0.011、伝統-0.017、将来不安0.006、政治信頼-0.025、外的有効性感覚-0.043、内的有効性感覚-0.013、政治関心0.011であった。

4.おわりに

 本稿は、ポピュリスト志向を「いまの政党や政治家は腐敗しきっており、人びとの敵をやっつける強い指導者が必要」であり、かつ、「政策を決定する際は、ふつうの人びとの意見を優先するべきだ」と考えていることと操作化した上で、社会経済的属性やさまざまな態度との関連を分析した。

 人びとのポピュリスト態度は、日本においてはどのような性質を持っていたのだろうか。このクエスチョンに答える主な分析結果は、以下のとおりである。

 最終学歴が高くなるほどポピュリスト志向にはなりにくい。また、世帯年収が多くなるほどポピュリスト志向を帯びにくい傾向も見られる。神経症傾向が強い性格の人はポピュリスト志向になりやすい。価値観として、信仰を持っていない人はポピュリスト志向になりやすい。社会意識については、将来の社会を楽観視している人ほどポピュリスト志向にはなりにくい。

 政治態度については、政治的有効性感覚が強いと、ポピュリスト志向は抑えられる。ただし、政治関心が高いほどポピュリスト志向になりやすい傾向も観察された。ポピュリスト志向とは政治的疎外の単なる言い換えではなく、既成のエリートに対して不信を強め、政治への効力感を減じつつも、一般の人びとを代弁してくれる新たなリーダーの出現に望みを託している点で政治関心を持っている、政治的疎外の進行段階と言えるのかもしれない。

 そして、ポピュリスト志向の人はそうでない人と比べて、長期的党派性と投票予定政党の両方で自民党の支持率が低いが、さりとて立憲民主党や共産党の支持率は高くない。日本維新の会とれいわ新選組については、無党派層や棄権志向と並んで、ポピュリスト志向の人びとが相対的に支持している可能性がある。

 はじめに述べたように、広くポピュリストと解されている政治家や政治勢力からポピュリストとは何かを帰納的に定義するのが常である。本稿が参照した諸定義も、そのようにして導き出されたものであろう。本稿の試みは、その論理の流れをあえて逆転させて、ポピュリズム/ポピュリストの概念定義から操作的定義に進み、個別具体の事例に適用しようとするものであった。

 もし、こうした方法や定義が妥当であるならば、という仮定を付した上で、ポピュリズム/ポピュリストに関する一般のイメージに再考が必要になるかもしれない点を2つ指摘しておきたい。

 ポピュリスト志向の人は、そうでない人と比べて(たとえ学歴は低くても)政治関心はむしろ高い。(既得権益の擁護者に見える)既成政党からは疎外感を覚えつつも、政治そのものから離れてしまうのではなく、新たなリーダーの登場を待っているのである。

 そして、国債発行を厭わずに財政を拡大すべしという巷間見られる主張は、ポピュリストと相関はあるにしても、必ずしも理念型のポピュリストではない。なぜなら、ポピュリスト志向の人びとは、そうでない人よりも国債発行を抑制すべきと考えているからだ。もちろんポピュリスト志向の人が自助努力社会や税・保険料負担を良しとしているわけではなく、自分以外の富裕層や資産課税あるいは行政による「無駄」使いの削減によって財源は調達可能としている。これは、現在の日本でポピュリストと呼ばれている人びとや勢力(がそうであるかどうかはともかく)以上の、さらなるポピュリストが理念上あり得ることを意味する。ただし、かくのごとき「ザ・ポピュリスト」が日本政治に福音をもたらすどうかは、まったく別の話である。

参考文献


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小塩真司・阿部晋吾・カトロニ=ピノ(2012)「日本語版 Ten Item Personality Inventory TIPI−J)作成の試み」『パソナリティ研究』21(1), pp.40-52
善教将大(2021)「ポピュリスト態度と維新支持―大阪市民を対象とする分析」『法と政治』71(4), pp.1-17
谷口将紀(2012)『政党支持の理論』東京大学出版会.
――(2018)「忍び寄る「新しい政治的疎外」」谷口将紀・水島治郎編著『ポピュリズムの本質―「政治的疎外」を克服できるか』中央公論新社, pp.9-34
谷口将紀・大森翔子(2022『インターネット調査におけるバイアス―国勢調査・面接調査を利用した比較検討』NIRA総合研究開発機構.
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松谷満(2022)『ポピュリズムの政治社会学―有権者の支持と投票行動』東京大学出版会.
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Kaltwasser, Cristóbal Rovira, Paul Taggart, Paulina Ochoa Espejo and Pierre Ostiguy (eds.) (2017) The Oxford Handbook of Populism, Oxford University Press.
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Mudde, Cas and Cristóbal Rovira Kaltwasser (2017) Populism: A Very Short Introduction, Oxford University Press.(永井大輔・高山裕二訳(2018)『ポピュリズム―デモクラシーの友と敵』白水社.)
Ostiguy, Pierre (2017) “Populism: A Socio-Cultural Approach,” in C.R. Kaltwasser, P. Taggart, P.O. Espejo and P. Ostiguy (eds.), The Oxford Handbook of Populism, Oxford University Press, pp.73-98.
Sandy, Carson J., Samuel D. Gosling, Shalom H. Schwartz and Tim Koelkebeck (2016) “The Development and Validation of Brief and Ultrabrief Measures of Values,” Journal of Personality Assessment, 99(5), pp.545-555.
Schulz, Anne, Philipp Müller, Christian Schemer, Dominique S. Wirz, Wettstein Martin and Werner Wirt (2018) “Measuring Populist Attitudes on Three Dimensions,” International Journal of Public Opinion Research, 30(2), pp.316-326.
Weyland, Kurt (2001) “Clarifying a Contested Concept: Populism in the Study of Latin American Politics,” Comparative Politics, 34(1), pp.1-22.

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)谷口将紀(2024)「ポピュリスト態度に関する基礎的分析:日本におけるポピュリスト志向の性質」NIRAワーキングペーパーNo.10

脚注
1 日本語訳はMudde and Kaltwasser2017 = 2018: 14)に拠った。 1 日本語訳はMudde and Kaltwasser2017 = 2018: 14)に拠った。
2 原著論文ではオランダ議会議員。 2 原著論文ではオランダ議会議員。
3 厳密に言うと、ミュデを原型にしたSchulz et al.2018)による操作的定義。 3 厳密に言うと、ミュデを原型にしたSchulz et al.2018)による操作的定義。
4 インターネット調査に含まれるバイアスに関しては、谷口・大森(2022)を参照されたい。 4 インターネット調査に含まれるバイアスに関しては、谷口・大森(2022)を参照されたい。
5 調査方法の詳細は、NIRA総合研究開発機構「第2回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)(速報)」を参照されたい。本調査は、公益財団法人NIRA総合研究開発機構倫理審査委員会の承認(23107-2023R46-01)を得て実施された。データは同機構のウェブサイトで公開予定。 5 調査方法の詳細は、NIRA総合研究開発機構「第2回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)(速報)」を参照されたい。本調査は、公益財団法人NIRA総合研究開発機構倫理審査委員会の承認(23107-2023R46-01)を得て実施された。データは同機構のウェブサイトで公開予定。
6 以後、各項目の無回答者は集計から除いている。 6 以後、各項目の無回答者は集計から除いている。
7 測定方法は日本語版Ten Item Personality Inventoryによる(小塩他 2012)。ただし、本稿では最低値0~最高値12になるように、同論文の尺度(範囲214)から2を減じた尺度を使用している。 7 測定方法は日本語版Ten Item Personality Inventoryによる(小塩他 2012)。ただし、本稿では最低値0~最高値12になるように、同論文の尺度(範囲214)から2を減じた尺度を使用している。
8 測定方法はTen Item Values InventoryTIVI)による(Sandy et al. 2016)。NIRA調査では尺度が逆転していたが、本稿では元(高値ほど当該価値を重視、最低値0)に戻した。 8 測定方法はTen Item Values InventoryTIVI)による(Sandy et al. 2016)。NIRA調査では尺度が逆転していたが、本稿では元(高値ほど当該価値を重視、最低値0)に戻した。
9 上記論文の直訳だが、少なくとも日本においては「信仰」とした方が分析結果を解釈しやすいように思われる。 9 上記論文の直訳だが、少なくとも日本においては「信仰」とした方が分析結果を解釈しやすいように思われる。
10 「投票所で棄権する」「投票に行かない」の合計。 10 「投票所で棄権する」「投票に行かない」の合計。
11 楽観している人ほど高値になるように一部項目の尺度を反転。 11 楽観している人ほど高値になるように一部項目の尺度を反転。
12 推定値の詳細は付録を参照されたい。 12 推定値の詳細は付録を参照されたい。

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