大久保敏弘
慶應義塾大学経済学部教授

概要

 近年、グローバリゼーションが進行する中、世界的な所得格差の拡大や中間層の所得の低迷が著しい。日本もその例外ではない。今回、慶應義塾大学大久保敏弘研究室とNIRAが実施した「テレワークに関する就業者実態調査」の結果にも、その傾向は現れている。 
 現在の経済社会情勢は、感染症対策を起因とする経済的な不況の側面を有している。特にコロナ感染症対策により就業が困難となった業種や職種に負の影響が集中しており、所得の低い層ほど経済的な打撃が大きい。 
 また、今回の新型コロナウイルス感染症は、経済的な不況にとどまらず、技術革新の波を一気に引き起こし、一段の格差拡大につながるおそれがある。その背景には、テレワークの利用が所得格差に連動していることがある。すなわち、所得の高い人や大企業はテレワークや業務のデジタル化を積極的に進めており、今後生産性を伸ばすものとみられる一方で、所得の低い層や中小企業ではデジタル化の波に乗れていない。
 このようにデジタル格差を通じた経済的な格差が著しく広がりつつある。新型コロナショックが、両者の負の連鎖を生む問題であることを念頭に、短期、中期、長期の視点から政策を整理する。

INDEX

はじめに

 今回の新型コロナウイルス感染症による不況が、これまでの経済不況と異なるのは、感染予防の観点から、業務や働き方のデジタル化が一気に進んでいることである。これまでも「AI(人工知能)で近い将来、雇用が奪われ、特定の職種がなくなる」という議論はあったが、その波が突如現れ、急速に、かつ、経済不況の状況の下で押し寄せている。デジタル化の波に対応可能か否かで、日本経済の明暗が分かれるかもしれない。

 そこで、本稿では、NIRA就業者実態調査で得られたデータに基づいて、直近の就業者の状況を明らかにし、その政策課題と対応について提起していきたい。

グローバリゼーションと所得格差

 第二次世界大戦後、自由貿易は世界的な潮流となった。自由貿易を推進する理論的支柱となったのが、伝統的な国際貿易理論における「比較優位」の考え方である。つまり、ある国の輸出産業は、得意分野の輸出に専念し、それ以外のものを輸入することで利益を上げることができる。一方、同国の輸入産業は安価な輸入品により打撃を受けるものの、消費者全体が安価な商品を多く購入することができるため、社会全体でみれば大きなメリットを得る。したがって、自由貿易は一国全体にとってプラスであり、国内での適切な分配政策を行えばよいことになる。

 
 しかし、近年は、生産体制がグローバル化し、世界的なサプライチェーンが構築されたことで、伝統的な国際貿易理論が想定していた前提は大きく変わった。職種や工程間での国際分業が進み、輸出産業と輸入産業の区別が明確ではなくなった。職種間の所得格差が広がり、以前のような分配政策は難しくなっているのである。そのため、経済のグローバリゼーションに伴う国内の経済格差が、今日の大きな問題となっている。

 
 最近の貿易理論(いわゆる、「企業の異質性の下での貿易理論」)では、生産性が企業ごとに大きく異なることに着目する。ごく一部の生産性が高い企業だけが製品を輸出して、貿易自由化の恩恵を受ける。一方で、他の企業(特に生産性の低い零細企業)は製品を輸出できない上、外国からの輸入品との厳しい競争にさらされ、生産性が低い企業は利潤を減らし、撤退することになる。

 
 グローバリゼーションは大きく進んだものの、中小企業あるいは中間層、非熟練労働者では所得が低下し、疲弊している。富が一部の大企業や富裕層に集中する一方で、所得が低迷する中間層はフラストレーションをため込み、保護主義」や「自国第一主義」的な流れを加速させている。日本も例外ではない。かつて日本は終身雇用、年功序列賃金が主流で「一億総中流社会」だった。しかし、ここ20~30年ほどグローバリゼーションが進展し、製造業ではアジアに生産拠点が移り、日本国内は長らく産業空洞化に苦しんでいる。諸外国と同様に、中間層を構成する中小・零細企業、非正規雇用者の所得が低迷したままで、格差が広がっている。

 
 こうした格差の実態は、慶應義塾大学大久保敏弘研究室とNIRAが行った12,000人ほどの就業者に対するコロナ禍での実態調査(注1)でも明らかになっている。以下では、この調査結果を紹介しながら、議論していく。

「一億総中流社会」とはほど遠い現実

 まず、調査対象者の所得分布についてみてみたい。図表1は所得階層ごとの分布を示したものだが、所得の低い層の分布がかなり厚い。一億総中流社会とは、ほど遠い現実になっていることが分かる(注2)
 
 この背景を探るために、対象者の所得階層ごとに産業、職業(製造業のみ)、企業規模の構成をみる。

 まず、図表2は就業している人の産業構成をみたものである。全体では、製造業17%、卸売・小売12%、医療・福祉11%、情報サービス7%、金融7%となっており、サービス産業に就業する人の割合が約7割と経済のサービス化が進んでいる(注3)。他方、所得を階層ごとに分けると、年収500万円以上の所得階層では製造業が20%以上を占めている。依然として製造業では中~高所得水準を維持しており、製造業企業は所得や雇用を一定程度、保障しているようである。一方で、卸売・小売や飲食・宿泊、その他サービスは、所得の低い層になればなるほど高い割合を占めている。これらは、近年、就業者の増加がみられる産業であり、雇用機会は、所得が相対的に低い産業で提供されてきたことが分かる。

図表1 調査対象者の所得分布

出所) NIRA総研「第2回テレワークに関する就業者実態調査報告書」(2020年8月)より筆者作成。以下同じ。

図表2 所得階層別にみた産業構成

 図表3は、厳しい国際競争にさらされている製造業に絞って、所得階層と職種の関係をみたものである。製造業では、所得階層が高くなるほど、その層に占める管理職の割合が高くなり、1,000万円以上の所得階層では、管理職が64%を占めている。一方、所得が低い層ほど、生産工程従事者の割合が高くなり、300万円未満では30~38%を占める。また、事務職は、1,000万円未満の所得階層では、どの層でも21~35%を占めており、所得階層による違いが比較的少ないのが特徴だ。

図表3 製造業における就業者の所得階層別にみた職業構成

 さらに、図表4で所得階層別に勤め先の企業規模の分布をみると、所得階層が高くなるほど大規模な企業の割合は大きくなり、一方、中小企業の割合は小さくなる傾向があることが分かる。 

 以上、みてきたように、所得階層別でみると業種や職種、企業規模にかなりの集中や偏りがあることが分かる。所得の低い層に対面サービス業(飲食業・宿泊業、卸売・小売業、その他サービスなど)、中小・零細企業が集中しており、所得の高い層は大企業、情報通信業、管理職などが占めている。特に製造業では職種による所得格差が顕著であり、生産従事者は低所得にとどまっている。かつてのように、職場で何らかの仕事をしていれば安定した所得が保障されるということは、もはや、なくなってきている。

図表4 所得階層別にみた企業規模構成

コロナショックによる所得の減少

 次に、今回のコロナショックによる経済的な影響についてみてみる。就業者実態調査では、2020年1月から3月の所得変化と、3月から6月の所得変化を比較することができる。図表5で示したように、所得階層別にみていくと、6月時点で3月時点と比べて全般的に所得が減ったと感じている人(「所得が大きく減少」あるいは「減少」と答えた人)が全就業者のうち3割弱存在する。一方、「変わらない」が7割弱となり、また、所得が増加した人は5%程度となった。また、6月時点と3月時点の2時点を比べると、すでに3月段階で経済的な影響を大きく受けており、どの所得階層においても所得が減少したと答えている人の割合が3月よりも増加している。6月も悪化の傾向が継続し、波及していることが分かる。特に、コロナショックは負の影響が低所得層に集中する傾向にある点には留意が必要だ。

図表5 所得階層別の所得変化

 さらに、図表6でコロナショックによる負の影響を産業別にみてみると、一部の業種に集中していることが分かる。飲食・宿泊業では、「大きく減少した」が6月時点で30%、「減少した」が28%と、合わせて58%の人が、所得が減少したと回答している。この割合は他業種に比べて群を抜いて高い。次いで、負の影響が大きいのが、その他、教育・学習支援業(学校教育を含む)、その他サービス業となっている。これらの産業は、対面でのサービスを行っているため、感染予防対策による打撃が大きいことが分かる。特に、飲食・宿泊業では、小規模の自営業で負の影響がすでに3月時点で顕著であったことが推測される。

図表6 産業別の所得変化

 所得階層別の所得変化を、製造業と対面サービス業に分けてみたのが、図表7と図表8である。製造業(図表7)では、6月時点で3月と比較して所得が減少していると答えた人の割合は、所得1,000万円未満までではどの階層でも26~34%であり、所得階層によって大きな差はみられない。製造業では、コロナショックによる所得の減少は、所得階層とそれほど相関していないようである。低所得になるほど減少した人の比率が明らかに高くなるということはない。

 一方、対面サービス業(注4)(図表8)では、所得が低いほど所得が減少したと答えた人の割合が高くなる。600万円未満までの所得階層を6月時点の結果でみると、500~599万円では33%、また、400~499万円では32%であるのに対して、299万円以下の所得階層では40%を超える。一方で600万円以上の所得層では25%に満たない。

 以上の結果から、製造業では各所得階層で一定の割合の人々の所得が低下しているのに対して、対面サービス業では、低所得の人が、より一層、所得を低下させている可能性が高い。その結果、所得格差が一層拡大する可能性が強まっていることが分かる。

図表7 所得階層別にみた製造業の所得変化

図表8 所得階層別にみた対面サービス業の所得変化

コロナ禍での「デジタル格差」

 以上みてきたように、新型コロナショックにより、対面サービスを行っている業種が大きな打撃を受け、所得格差が大きくなっている。しかも、所得が低い人ほど打撃が大きいことが明らかとなった。しかし、今回の新型コロナショックは従前のような経済的な不況にとどまらない。感染症対策として経済社会全体でテレワークが推進され、デジタル化の波が一気に押し寄せているのである。

 そこで少し視点を変え、デジタル技術を業務や職場に導入することでもたらされる「デジタル格差」に注目してみることにしよう。図表9は、所得階層別にテレワーク利用率の時系列変化を示している。1月時点ですでにテレワーク利用率には、所得階層間で大きな差が生じている。所得が1,000万円前後と高くなるにつれてテレワーク利用率が上昇している。3月以降の利用率をみると、所得が高いほど4~5月にかけて、テレワーク利用率がさらに上がっていることが分かる。緊急事態宣言解除後の6月も、ある程度以上の所得階層(700万円以上)では30~40%と高い率を維持している。一方、低所得層のテレワーク利用率は伸び悩んでいる(注5)

図表9 所得階層別テレワーク利用率の推移

(注) 上記計数は、左欄の項目について、減少(増加)傾向にあると回答した人の割合を 企業規模別にみたもの。 各項目について、相対的に割合が大きいセルに色を塗っている。

 この背景として、1)現場で働くことでしか業務を達成・生産できないような、テレワークに不向きな職種(肉体労働)や業種(対面サービス)が存在すること、2)テレワーク環境を整備する余裕のない中小企業に所得の低い層が多いこと、3)所得の低い層がテレワークに必要な環境を十分整える金銭的な余裕がないことなどが考えられる。所得格差とデジタル格差が連動しているのである。

 
 こうした状況下で政府が感染症対策としてテレワークを一律に普及させようと推進しても、限界がある(注6)。テレワークに向いているか、不向きかの違いが業種によって顕著である。テレワークにより業務を継続維持している企業もある一方で、テレワークに向かない対面サービス業種は感染症対策の中心になっている。対面サービス業種の人々は休業要請や自粛により働けず、所得は減少する。あるいは働くと感染症のリスクが高くなる。このように所得格差とデジタル格差が連動して経済格差をさらに拡大させているのである。

 テレワークを利用している就業者の間でも、格差があるようだ。ここでは、テレワーク利用者のみに絞って検討を進める。就業者実態調査では、テレワーク利用による仕事・生活の変化について尋ねている。図表10は、テレワークを利用している人に対して、それぞれの項目ついて、減少傾向、あるいは増加傾向にあると答えた人の割合を企業規模別に示したものである。セルの色が青またはオレンジは、該当する人の割合が相対的に多いことを表している。

 
 ここで明らかなのは、大企業では多くの人がテレワークの利点や欠点をともに感じているということだ。大企業の就業者(従業者数500人以上)は、同僚とのコミュニケーションが減ったり(36%)、仕事の相談やアドバイスが減ったりする(30%)などテレワークによる問題を感じている一方、リラックスして働くことができ(23%)、仕事時間の調整がつきやすく(17%)、家族とのコミュニケーションが増えた(25%)と答える人の割合も高い。しかし、大企業以外の中小規模の企業では、テレワークを利用しているものの仕事や生活における変化がなく、テレワークの利点を感じる人が少なくなる。こうした中小規模企業ではテレワークをうまく利用できていない可能性もあるのではないか。

図表10 テレワークによる労働や生活の変化

 今後、大企業では問題点を克服し、利点を生かす環境を作ることができれば、就業者はテレワークを活用することで、さらに大きな便益を得ることができるだろう。生産性は大きく上昇することになる。これに対して、大企業以外ではテレワークの利点を享受できず、そうであるがために、テレワークの利用が伸びない、という悪循環に陥る可能性がある。今後、企業規模により、テレワークの有効利用においても格差が大きくなると思われる。

 これまで取り上げてきたテレワークは、本格的なデジタル化の序章にすぎない。ここからは企業全般のデジタル化についてみていこう。今回の就業者実態調査では勤め先のICT(情報通信技術)ツールの導入状況についても尋ねている。具体的には、テレビ会議、コミュニケーションツール、データ共有ソフト、勤怠管理、事務・会計・人事・販売業務のICTツール、RPA(Robotic Process Automation)やバーチャルオフィスといったシステムを導入しているかどうかなどの項目を調査した。図表11は企業規模別にその導入状況をみたものである。大規模企業では49%が何らかのツールを導入しているのに対し、99人以下の小規模企業では20~30%にとどまり、大企業の半分程度の割合にすぎない。コロナ禍以前に、企業規模間でデジタルツールの導入状況に格差が生じていたことが分かる。

図表11 企業規模別のICTツールの導入状況

(注) 調査で提示したICTツールを少なくとも1つは導入しているとした回答者の割合。

 今回のコロナショックを機に、テレワークのみならず全般的なデジタル化が、大企業を中心に急速に進む可能性が大きい。デジタル技術を導入できない企業では、利潤は減少し、倒産するおそれも高まるだろう。デジタル化に対応できる企業とそうでない企業の間でデジタル格差がさらに大きくなる可能性がある。そうなれば、デジタル化への対応が困難な就業者は職を失うことになるになるだろう。

新技術による労働調整とコロナショックへの対応

 新技術の登場で労働が代替され、職を失う人が出てくる現象は、歴史的な転換点でしばしば観測される。例えば、馬車の御者は自動車の登場で代替され、電話交換手は電話の自動化により代替された。また、ワープロの普及でタイピストがいなくなったし、近年では駅の改札は自動化され、「切符切り」の駅員がいなくなった。スーパーやコンビニではレジが自動化されつつあり、やがて「レジ打ち」の店員もいなくなるだろう。

 
 歴史を振り返れば、新技術の登場により既存の職種で雇用が減ることは何も新しいことではない。これまでは、影響が一部の職種にとどまり、徐々に代替が進行し、それに合わせて人員の調整が行われてきた。しかし、昨今のデジタル経済の進展は、広範囲に影響が及び、多くの職業がなくなることが予想されている。

 
 オックスフォード大学のフレイ教授とオズボーン教授は将来のAIの普及によってなくなる職種をリスト化した。このリストでは、タクシー運転手やレジ打ちなどを、なくなる可能性の高い、典型的な職種としている。実際のところ多くの職は完全消滅ということはないだろうが、大きく雇用を減らすだろう。問題は今までの技術革新とは異なり、AIの進展は社会全体で一気に広がり影響が出てくるということである。その一方で、労働者が新たなスキルを学ぶなどして別の産業にスムーズに移行できるとは限らないため、労働調整には時間がかかる。

コロナショックへの対応:格差の是正で負の連鎖を断ち切れ

 今回のコロナショックは、こうしたAIによる技術革新の波が経済不況に加わったものであり、ドラスティックな変化と格差の拡大が生じるだろう。通常の経済不況にはない以下の課題を念頭におかなければならない。

 
 まず労働面をみると、感染症蔓延による経済活動自粛のため、実質、労働供給は減っている。と同時に、対面サービス業を中心に労働需要が落ち込んでいる。業種、職業、企業規模の違いによって、所得の変化や就業の可否など様相が大きく異なる。

 
 これに加えて、テレワークを中心にデジタル経済やAI化が進展していくと、上述のように定型業務を中心に職そのものがなくなり、あるいは大幅縮小し、労働がAIなどのデジタル技術に代替される。これがコロナショックを受けて一気に進むことで、今後、低所得層を中心に大規模な失業や所得格差の拡大など社会的に深刻な問題が出てくると思われる。

 
 一方、財の生産面でみると、今後、積極的に投資を行い、デジタル化にうまく対応できた大企業は、コロナ禍でも生産性を引き上げる。こうした企業は、デジタル技術の利用により海外人材の活用や輸出など国際化を進め、利益を増大させられるため、グローバリゼーションの恩恵を大きく受けるだろう。これによりデジタル化の波に乗れない零細企業との格差はさらに進むと思われる。

 
 これらの導出された結論から明らかになったことは、新型コロナショックは、所得格差とデジタル格差という負の連鎖を生むということだ。そのことを念頭に、今後、議論すべき政策について、短期、中期、長期の視点で整理する。

 
 短期的には、今回のショックで所得が大幅に減少した業種や職種に手厚く支援することが重要である。これまで述べたように、グローバリゼーションによる所得格差が大きくなっている中で、さらにコロナショックによる技術革新の波が押し寄せ、デジタル経済による格差(「デジタル格差」)がさらに広がろうとしている。経済的な格差は、健康の格差や子供の教育の格差へと波及し、社会全体の破綻につながりかねない。このため経済的な格差の是正は急務であり、特定業種や小規模企業や低所得層への所得支援やデジタル化に向けた支援が重要である。

 
 中期的には感染症の終息が重要になるだろう。財政出動による助成金は無尽蔵に出せるものではない。また、営業自粛や停止など強い規制を加えないと感染症は終息しない。このため、「ウィズコロナ」に順応すべく、労働調整のスピードを上げるような政策や、就業者の副業・兼業などを促進することで、外的なショックに対する労働の耐久性・柔軟性を高め、就業を維持する必要があるだろう。

 
 長期的には、経済の復活と経済のAI・デジタル化をどう進めていくのか、経済格差をどう是正していくのかといった問題が出てくるだろう。格差の広がっている今日、逆進性の強い消費税の増税で財政を賄うのには大きな問題がある。むしろ、政府が全国民に生活に最低限必要な現金を支給する「ベーシックインカム」の導入や消費税の減税による経済格差の縮小に比重をおくべきだろう。あるいは、ロボット課税やAI課税を導入し財政を賄い、同時にデジタル化の流れを緩め、労働調整のスピードをあげるのも一案であろう。 

 
 将来的には、大規模財政支出後の政府の財政債務をどうコントロールするのか、増税で財政赤字に対応していくのか、デジタル経済を加速させて経済成長を目指すのか、非常に難しい課題に直面していることを指摘しておきたい。

大久保敏弘(おおくぼ としひろ)

慶應義塾大学経済学部教授。NIRA総合研究開発機構上席研究員。ミシガン大学修士課程修了、ジュネーブ大学及びジュネーブ国際開発高等研究所博士課程修了(Ph.D.国際関係学・経済学)。専門は国際経済学、空間経済学。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)大久保敏弘(2020)「コロナショックが加速させる格差拡大-所得格差とデジタル格差の「負の連鎖」-」NIRAオピニオンペーパーNo.53

脚注
1 2020年4月(緊急事態宣言前)と6月(緊急事態宣言解除後)の2回行っており、調査結果の詳細については、以下を参照のこと。大久保敏弘・NIRA 総合研究開発機構(2020)「第2回テレワークに関する就業者実態調査報告書」及び同(速報) 大久保敏弘・NIRA 総合研究開発機構(2020)「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査結果に関する報告書」及び同(速報)
本調査での所得分布は就業構造基本調査(2017年)と比較しても偏りはほとんどない。
3 本調査での就業者の産業別の割合を就業構造基本調査(2017年)と比較しても偏りはほとんどない。
ここでは、対面サービス業は、飲食業・宿泊業、教育・学習支援業、運輸、その他を指す。
5 詳細はOkubo, Toshihiro (2020). “Spread of COVID-19 and Telework: Evidence from Japan”. Covid Economics (2020.6.26).
6 詳細は、大久保敏弘(2020)「テレワークを感染症対策では終わらせないー就業者実態調査から見える困難と矛盾―」NIRAオピニオンペーパー No.47を参照。

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

研究の成果一覧へ