武藤祥
関西学院大学法学部教授

概要

 スペインでは、民主化以降、社会労働党と国民党の二大政党が政権交代を交互に繰り返してきた。近年は、グローバリズムを積極的に主張する既成政党に対し、統一ポデモスやVox、市民党などの反グローバリズムを主張する新興政党が出てきた。直近の選挙では、二大政党は支持を維持し、新興政党では市民党が大惨敗したが、Voxは第3党となった。新興政党の中でも、統一ポデモスは、2008年金融危機を契機とし、若年層や大都市部の住民、極左層から支持を受け、勢力を拡大させた。
 統一ポデモスが他国の左派ポピュリスト政党と異なる点は、反グローバル化を志向しながらEUなどの国際協調を積極的に評価していることである。同じく新興政党で、右派ポピュリスト政党に近いとされるVoxは、移民排斥からカタルーニャ独立反対に主張を変えたことで、支持を拡大させた。
 2019年11月総選挙の結果、統一ポデモスと社会労働党の連立政権が成立した。2015年以降に総選挙を4回も行った政治の不安定化に対して、連立政権として一定の解決の契機を示したが、直後に新型コロナ問題が起きたため、その評価は難しい。スペインでは、反グローバリズム政党は存在するものの、他の南欧諸国と同様に、全体としてEUなどの国際協調の枠組みを否定する、中長期的に反グローバリズムを主張する政党は存在しない。反緊縮を掲げるが、反グローバリズムの主張にはつながっていない。加えて、統一ポデモスやVoxは、反グローバリズム政党ではあるが、ポピュリスト政党と評価できない側面も持つ。

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
第2部 イギリス 
第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
第5部 オランダ 
・第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
第9部 韓国

INDEX

第6部 スペイン

左右軸が明確な5つの政党の政策スタンス

 スペインにおける直近の選挙で5%以上の得票を得ている政党は、概ね5政党である。そのうち、社会労働党(PSOE)と国民党(PP)が、民主化以降政権交代を交互に繰り返してきた二大政党であり、主流の既成政党と見なすことができる。政策的な位置づけとしては、社会労働党が中道左派、国民党が中道右派であるが、近年は国民党がやや右寄りの傾向を強めている。

 その他に新興政党がある。これらの政党をポピュリズム政党と呼ぶべきかについては議論が分かれる。1つ目は、統一ポデモス(UP)である。ポデモスと統一左派などの選挙連合として(後述)、現在「統一ポデモス」と呼ばれている。2つ目は、市民党(C’s)である。この党の政治的スタンスは見えにくい。3つ目は、Vox(ボックス)である。ここ2~3年、非常にセンセーショナルな形で登場し、極右として評価されている。

 加えて、スペインの政治状況で忘れてはならないのが地域主義政党、特にカタルーニャ問題やバスク問題の中心的な役割を担う政党である。しかし、全国レベルにおいては、これらの政党の得票率は5%未満にとどまる。

経済的スタンスと社会文化的スタンスの相関は伝統的

 CHES調査について述べる。まず、経済的な争点に関しては、中道左派であるPSOEとUPの評価は、概ねCHES調査の通りで良い。しかし、C’sは、もとより明確な政治的なスタンスを取らない政党であるため、真ん中の5とした。右派寄りの2つの政党であるPPとVoxについては、民営化や減税などの小さな政府路線の政策を強調しているものの、福祉を削減するのではなく、経済的弱者である失業者への保障や、医療分野では予防接種の無料化を主張するなど、福祉政策への関心も強いため、CHES調査よりも1ポイントずつ中道寄りに位置付けた。

 社会文化的争点に関しては、CHES調査と大きな差はない。ただし、PPに関しては、たしかに右寄りの主張が多いものの、公約では、例えば、労働市場における男女の平等も強調していることから、Voxよりは中道寄りに評価した。

 経済的な左右と、社会文化的な左右は、概ね正の相関をなしており、伝統的な左右軸が形成されていることがわかる。

 グローバリゼーションへの各政党の立場に関しては、新興政党のVoxとUPが反グローバリゼーションを主張する政党として、4以下となる。一方で、意外と思われるかもしれないが、伝統的な中道左派政党で、現在の与党であるPSOEは、主要5政党の中ではもっとも積極的にグローバル化を主張している。中道右派のPPと比べても、明確に政治・経済的にグローバル化に積極的な立場だ。このようにグローバル化については、伝統的な左右軸と関連しない、独自の対立軸になっている。

図6-1 スペインの政党の政策位置

カトリック国の宗教的争点と根強い地域主義

 スペイン独自の政治的な争点としては、宗教の問題やフェミニズム、ジェンダー暴力などが、近年重要になっている。カトリック国のスペインにおいて、妊娠中絶、尊厳死、同性婚などの宗教に関わる争点や、ドメスティック・バイオレンス、ジェンダー・バイオレンスなどは非常に重要な問題であり、中でも極右とみなされているVoxは極端な主張を繰り広げている。

 加えて、地域主義の問題がある。2006年ぐらいから顕在化し、特に2010年代以降は、まさに国を二分にする争点として、カタルーニャ独立問題が浮上した。

 全国レベルでは、カタルーニャの自治権拡大や独立を認める政党はほとんどなく、対話を通じて問題解決を図るという自治への一定の理解を示す政党を10、一切自治や独立を認めない政党を0とすると、右寄りの政党は5以下、特にVoxやPPは明確に反対している。また、C’sは、もともとカタルーニャを地盤として、独立に反対する地域政党として作られたという来歴を持つ。他方で、5以上すなわち自治独立に理解がある政党は、PSOEとUPとなる。PSOEは憲法の枠内での問題解決を主張しており、UPも独立は認めてはいないが、抜本的な憲法の見直しも含めて、対話重視で解決するというスタンスをとっている。

 もう1つ挙げるならば、2015年以降の新興政党の登場によって、「新興政党vs.既成政党」という対立軸も形成されている。しかし、それぞれの新興政党の政策的主張は大きく異なるため、新興政党同士が組んで既成政党に代わる政権プランを提示することは、現実的には不可能な状況となっている。

直近の選挙で票を伸ばしたVox

 スペインでは、2015年から4回、うち2019年だけで2回の総選挙があった(注1)。直近の2019年11月に行われた総選挙の結果、それまで第1党であったPSOEは、議席を微減させつつも第1党の立場を維持した。第2党の中道右派PPは、前回(2019年4月)の歴史的惨敗を挽回するほどではないが、若干持ち直した。

 注目すべきは、3つの新興政党である。トータルで考えると、3党の獲得議席数は123議席から97議席へと減少し、議席占有率も40%から35%へと微減した。これは、新興政党ブームに陰りが見えたのではなく、C’sの大惨敗の結果である。C’sは、それまで順調に得票を伸ばしてきたが、一気に57議席から10議席に減少させた。代わりに得票を伸ばしたのがVoxである。2016年の総選挙では議席ゼロだったのが、前回は24議席を獲得し、直近の2019年11月の総選挙では52議席を獲得して、一気に第3党にまで上り詰めた。

 40dBという世論調査機関の調査によると、2019年4月と11月の総選挙での投票行動を比べると、6~7割の有権者が2回の選挙で同じ党に投票している。だが、C’sだけは、4月の投票者のうち11月も引き続きC’sに投票した人は4割にも満たなかった。C’s票の流出先は分散しており、明確な流れが見えにくくなっている。

PSOEとUPによる民主化以降、初の連立内閣

 下院の選挙制度は、定数が350で、50の県を単位とした比例代表制(ドント式)である。各県の定数は、まず、各県に2議席ずつ、またアフリカ側の飛地(自治都市)であるセウタとメリリャに1議席ずつ分配して、残りの248議席を各県の人口により比例配分する。例えば、人口の1番多いマドリード県では37議席、バルセロナ県では32議席といった具合である。

 2019年11月再選挙の結果、少なくともPSOEとUPに関しては、得票や議席数に大きな変化はなく、連立交渉もまとまり、PSOEとUPを柱とする連立政権が形成された。それまでは、二大政党が政権交代を繰り返し、地域主義政党などが閣外協力するパターンで政権が担われていた。民主化以降約40年以上経過したが、正式な連立政権は初めてのこととなる。ただ、連立与党の議席は過半数に達しておらず、現在も、法案ごとに地域主義政党やC’sなどとの協力を得て、政権を運営している。

金融危機を契機に生まれたポデモス

 反グローバリズム政党はどのような特徴を持っているか。まず、先ほどの反グローバリズム争点において、2及び4と評価した、UPとVoxの特徴を説明する。

 UPに関しては、2008年の金融危機、及びその後の緊縮政策がきっかけとなって、前身のポデモスが結党された。金融危機は、イタリアやポルトガル、ギリシャなどに壊滅的な打撃を与え、特に緊縮政策による困窮は、いわゆるプレカリアート、非正規労働者や失業者の問題を、スペインにもたらした。スペインでは失業率が他の南欧諸国と比べても突出して高かったため、経済的・社会的困窮を前に自然発生的に起こった抗議運動が、ポデモスの母体となっている。

 この抗議運動は、アメリカの「ウォール街を占拠せよ」というオキュパイ運動にインスパイアされ、マドリード・コンプルテンセ大学で政治学を教えていたイグレシアスが中心となった。SNSを駆使する一方でアナログなデモも行うなど、様々な次元での活動を展開することによって、徐々に存在感を増していった。当初は政治システムそのものが腐敗していると議会外からの変革を訴えていたが、その後に紆余曲折を経て議会への進出に方針を転換し、2014年2月にポデモスとして正式に結党、同年のヨーロッパ議会選挙や2015年の地方選挙で、大きく躍進した。

若年層、大都市部、極左からの支持を得る

 国政レベルで、ポデモスは、2016年の総選挙を前に、統一左派(旧スペイン共産党系の流れをくむ左翼政党など)と選挙協力を締結することで、現在の「統一ポデモス(UP)」として活動を始める。統一左派とポデモスは、選挙協定は結んでいるが合併はしておらず、現在もそれぞれ独立した政党として残っている。

 UPの支持層に関しては、若年層が中心となっている。25歳~34歳の支持政党の第1位はPSOE、第2位にUPが来ている。男女別では、男性のほうが2%ほど多くUPを支持している。都市規模が大きいほど支持が高く、また学歴が高い人ほど支持率が上がっており、大卒以上のUP支持率は8.2%である。

 世論調査によると、自己を極左と認識する層がUPを支持している。一方で、自己を左派寄りと認識する人の間では、UPとPSOEの支持率が拮抗している。UP支持層が重視する争点としては、労働問題や失業問題、社会的平等、男女の平等、あるいは気候変動などの環境問題が挙げられる。

 UPの反グローバリズムに関連した公約としては、例えば、国際金融資本に対して民主的な統制を強める、あるいはタックスヘイブンを許さないなど、多国籍企業やグローバル資本主義から国家国民を守る、あるいは、港湾などの重要なインフラにおける主権を保護すべきという主張が見受けられる。左派ポピュリズムの典型例とされる「屈しないフランス」やギリシアのシリザと比べて、ラディカルな印象は薄く、グローバル化や資本主義の暴走に対して歯止めをかける、富の収奪は許さないというニュアンスが強い。EUに関しては、むしろ積極的に評価しており、組織としてのEUの民主化や、EUが依拠する価値観のグローバル化や統合をより深めていくべきだと主張している。

カタルーニャ独立に反対して票を獲得したVox

 他方で、もう1つの反グローバル政党であるVoxは、2013年に結党された。当初は、移民の排斥、特にイスラム系移民を露骨に嫌っており、キリスト教を中心とした西洋文明を守るといった、かなり右寄りの主張をしていた。SNSを駆使したことも、ヨーロッパの右派ポピュリズム政党と共通している。Voxが、国政政党において初めて議席を取ったのは、2019年4月の総選挙で、いきなり10%を超える票を得た。ただ、Voxの主張に強い反発を持つ層も多く、反Vox票も同時に掘り起こしたと言われている。

 そこで、Voxは主張のポイントを移民排斥からカタルーニャ独立反対に変えた。つまり、カタルーニャの分離主義者を許さないという主張にスイッチし、カタルーニャ以外の地域から反カタルーニャ分離主義の票を集めた。これが奏功して、Voxへの反発が多かったにもかかわらず、2019年11月の総選挙では第3党へと躍進する。

 イギリスのEU離脱国民投票やアメリカのトランプについては中高年の支持が高かったとされるが、VoxはUPと同じく若年層の支持が多い。都市規模では、大都市と地方に支持率の差はないが、5万~10万の中規模都市で最も支持が高い。学歴については、UPと明確に異なり、中等教育の第1段階、日本でいう中学校卒業の層で最も支持率が高い。政治意識に関しては、自己を極右と認識している人が最も支持している。一方で、自己を右寄りに認識している層になると、PPとVoxが競合している。

福祉排外主義の傾向がみられるVox

 Voxの公約を見ると、表立ってはいないものの福祉の充実を主張しており、他のヨーロッパ諸国と同様の福祉排外主義の傾向が見られる。ただし、移民を一括して排除するというよりは、スペイン語を話す中南米からの移民を優先すべきだと主張するなど、モロッコなどからのイスラム系移民をターゲットに、彼らを福祉受給対象から排除することを目的にしている。そこでは、イスラム教は女性を蔑視する宗教であるために排除すべきなどと、独自の論理がとられている。

 他にもVoxは、現行のDV(ドメスティック・バイオレンス)法が男性を加害者、女性を被害者と想定しており、これを男性も被害者になり得る、すなわち全ての家庭内の暴力を包括的に取り締まる法律に改めることを主張したり、中絶を公的医療機関において認めるべきではないと主張したりしている。伝統的・極右的な立場をとりつつも、(イスラム教が掲げるとされる)女性蔑視反対を唱えるという、多義的な側面がある。

反グローバル政党の政権参加

 前述の通り、2019年11月の総選挙の結果、UPがPSOEと連立を組んだ。ポデモスを率いていたイグレシアスは、かねてからPSOEと連立を組む準備はできていると主張していた。つまり、それまでの中道右派のPP政権に代わる枠組みとしては、UPとPSOEの組み合わせしかないと考え、PSOEにボールを投げていたのである。2019年11月総選挙の後に、正式に連立交渉がまとまり、UPは連立のジュニアパートナーという形で参加した。現時点では全閣僚の22名中4名、具体的にはポデモスからは党首イグレシアスが第2副首相、モンテロが平等問題担当大臣として、加えて統一左派から2人が入閣している(注2)

 政権に入ったことで、かねてからUPの主張していたベーシックインカムが実施されることとなった。ただし、このベーシックインカムは、全国民に一律支給するものとは異なり、一定水準の所得に満たない世帯に対し現金を支給するというものである。

 このPSOEとUPの連立政権については、2020年1月に成立した直後から新型コロナウイルス感染症への対応に追われることになり、現時点で評価することはできない。しかし、2011年から見られた政党システムの変化や2015年以来4回も総選挙が行われてきた政治の不安定化に対し、連立政権の枠組みが示されたことで、一定の解決の契機を示すことができたとは言えよう。隣国のポルトガルでは、2015年から中道左派と左派の連立政権が続いており、政権運営は比較的安定していることから考えると、スペインもポルトガルのようになっていく可能性もある。

 UPやVoxの他にも反グローバリズム政党や勢力が、社会レベルと議会政治レベルの両方に存在するが、明確な力は有していない。

 反グローバリズム政党の既成政党に対する影響に関して、PSOEは、UPとの連立を前提としていなかった選挙前の公約においても既に、生活防衛的なプログラムの積極的導入を明記するなどUPの影響がうかがえる。UPとの連立が成立した現在では、生活者の防衛や金融危機の緊縮から人々を守るという政策を一層明確に打ち出している。

 他方、中道右派のPPは、移民の厳密な取り締まりを掲げており、Voxの主張にも類似しているように見えるが、これについてはVox登場以前からPPは主張していた。PPとVoxの政策には類似点も多いと考えられるが、それ以上に既成政党PP vs.新興政党Voxの対決構図は明確であり、現在まで連立結成には至っていない。

 現在(2021年7月時点)、著者は、スペインで在外研究に従事しており、新型コロナウイルス感染症の影響を肌で感じている。スペインは最も被害を受けている国の1つとなっている。2020年3月の第1波においては、PSOEのサンチェス首相が早期に非常警戒体制(非常事態宣言)を布くことに対して、Voxを除いて、野党第1党のPPを含む主要政党が賛成した。しかしその後、この措置が、議会の審議を省略する政令という形で、約2週間単位で繰り返し延長されたため、徐々に議会軽視という批判や議会を重視すべきという主張が多くなった。

 特に、2020年10月からの第2波に対処するための非常警戒体制に関しては、Vox支持者は「全体主義」、進歩主義者は「独裁」などと、強い言葉を用いて政権を批判している。新型コロナウイルス感染症が落ち着いた後には、こうした政党支持者による分極的な政治状況になる可能性もある。

 また、地域主義とは違う形で中央地方関係が問い直されている。例えば、自治州の医療や衛生に対する権限に関して、全国レベルで新型コロナ対策を取るために見直しが必要という意見が出されている。

 なお、2021年5月に実施されたマドリード州議会選挙では、コロナ危機への対応が一定程度評価された州与党のPPが、改選前30議席から65議席へと大勝する一方、PSOEは13議席減らして24議席、そしてC’sは26あった議席をすべて失うなど、明暗が分かれた(註2も参照)。こうした変化が国政レベルでも起こるかどうかが今後注目される。

反緊縮の主張は、反グローバルや反EUにつながらず

 グローバリズムへの対応に関しては、新型コロナとは別の話として、非常に興味深い議論がある。他の南欧諸国を同様にスペインも、かつて金融危機や緊縮政策によって大ダメージを受けた。こうした緊縮政策に対して、ポデモスをはじめとする反グローバリズム勢力が台頭したが、全体として、かつ中長期的に見ると、EUやヨーロッパレベルにおけるグローバル化やグローバリズムを全面的に否定するような勢力は、スペインにほとんど存在していない。つまり、反緊縮を掲げる政党はあるものの、それらも反グローバリズムや反EU、すなわちEU離脱やスペイン・ファーストというような露骨な主張にはつながっていない。

 PPやVoxは、グローバリズム自体には反対しているが、その内実はEUなどの国際機関などの枠組み自体を否定するものではなく、そこでのスペインの発言権を強めようという主張である。UPも、EUには問題はあるが、それはEUという存在そのものに起因するのではなく、ブリュッセル(欧州委員会など)が全てを決めるという現在の運営方法が間違っていると主張している。UPは、EUが自由や人権、民主主義などの価値観に基づく共同体であるべきだという認識を重視しており、EUをより民主的にすべきだというスタンスをとっている。

 反緊縮が、なぜ反グローバル、反EUにならないのかと言うと、アメリカやイギリスなど反グローバリズム勢力が台頭した国と比べて、スペインでは自国の製造業の基盤が強固ではなかった。このため、グローバリズムによる経済的な剥奪感、例えば移民に仕事が奪われた、外国に生産拠点が移って仕事がなくなったといった剥奪感が比較的少なかった。

反緊縮でも、EUを支持

 古い調査ではあるが、スペインの世論も、他の南欧諸国と比べて反EUの割合が突出して低い。また、欧州議会選挙時の調査では、EUがスペインに対して有益な存在かという質問に対して、かなり一貫してポジティブな回答が得られている。EUから得られてきた経済的なメリット、緊縮前を含めた補助金などに関する評価が、国民の間でかなり高いと考えられる。

 今後の展望としては、やはり新型コロナウイルス感染症の影響を考えなければならない。今のところは参加していないが、中国が主導する一帯一路構想に経済的な活路を求めて参加する可能性がある。

 さらにイタリアやギリシャなどとともに、スペインには地中海経由で移民が大量に押し寄せている。報道では、EU特にドイツが主導する、割当制のない移民の受け入れに対し、スペインとイタリア、ギリシャ、マルタは、そろって反対を主張しており、今後の展開の鍵になってくる。

反グローバル政党はポピュリズム政党か

 最後に、反グローバリズム政党はポピュリズム政党かという問いに関しては、UPとVoxともに注意が必要である。UPは、エリート対人民というポピュリズムに典型的な構図を打ち出しているが、ギリシャのシリザと比べると、EUやユーロ圏に対して否定的な見方をほとんど示していない。前述のとおり、EUを内側から、より民主的な組織に改編していこうというスタンスをとっている。このような意味では、ポピュリズムというよりも、民主主義を深化していくべきだというラディカルデモクラシーの立場に近いスタンスをとっていると考えられる。ただ、これも連立政権参加によって、反既成政党というアイデンティティが揺らいでいる側面もある。

 仮にUPを左派ポピュリズム政党と評価した場合でも、Voxを右派ポピュリズム政党と呼んで良いかは疑問符がつく。Voxはかつて移民に反発し、近年ではカタルーニャ分離主義者へ反発するなど、様々な敵を見つけては攻撃している。そこではエリート対人民というポピュリズム特有の構図が強調されておらず、単一国家スペインという存在を脅かすものに対して非常に激しい批判を浴びせるという意味で、むしろ極右政党と呼ぶべきである。ただし、既成政党が触れないようなタブーに踏み込んで、有権者から支持を受けているという点では、Voxへの支持拡大をポピュリズム的現象と言うこともできる。世論調査でVox支持者に支持理由を聞くと、必ずしも移民排斥の主張自体に同意するからではなく、移民排斥を「歯に衣着せずに」主張することが1番目に挙がっている。ポリティカル・コレクトネスへの反発が理由となって支持を集めているのである。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)武藤祥(2021)第6部スペイン谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

脚注
1. 2019年4月総選挙後の各党間連立協議が不調に終わり、同年11月に再選挙が実施された。
2. イグレシアスは2021年5月に副首相を辞任し、同月実施されたマドリード州議会選挙にUPの州首相候補として臨んだが、同党の敗北を受け、政界からの引退を表明した。

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

研究の成果一覧へ