吉田徹
同志社大学政策学部教授

概要

 フランス政治は、1970年代には保革対立、そして80年代以降には「大きな政府と小さな政府」の対立が、左右の既存政党を中心に展開していた。だが、90年代以降の欧州統合めぐる問題では、保革政党内での対立から反欧州統合勢力が離党し、多党化を招いた。その結果、政党間の対立は、それまでの経済的争点から、移民や治安からなる社会文化的争点やグローバリズムに関する争点へと移行した。
 こうした政治的対立ならびに92年と2005年の2度に渡る国民投票から、フランスでは「有権者市場の3分割化」が生じた。左右既成政党に包括されない「下」の有権者からの支持を獲得したのが、右派ポピュリスト政党の国民連合(旧国民戦線)である。他方で、左派側では、「屈しないフランス」が、やはり反グローバリズムを前面に打ち出し、若年層や高学歴層から支持を得て、左派陣営内での地位を固めた。こうした左右ポピュリスト政党の支持拡大は、反グローバリズムの主張を支持する有権者が一定程度いることを示している。
 中道与党の共和国前進は、こうした反グローバル勢力に対して明確に親EU、親グローバル化の方針をとっている。国民連合が既存の右派勢力との協力関係を構築できない以上、既存の保革勢力に対して優位に立つことができるためである。今後、マクロン率いる共和国前進は、グローバル化によって没落しつつある中間層を積極的な支持層に変えられるかがポイントとなる。一方で、黄色いベスト運動やヨーロッパ全体に広がる緑の党の支持拡大など、既成政党や左右ポピュリスト政党ですら代表できない有権者層の出現は、更なる政治的な変化の予兆を示唆している。

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
・第1章 フランス 
第2章 イギリス 
第3章 ドイツ  
第4章 イタリア 
第5章 オランダ 
第6章 スペイン 
第7章 北欧諸国 
第8章 アメリカ 
第9章 韓国

INDEX

第1章 フランス

中道連合の与党と、対抗勢力としての両極の政党

 フランスの主要政党は7つある。最大与党は、マクロン大統領が2017年の大統領選に際に結成した「共和国前進」である。さらにキリスト教民主党の流れをくみ、1974年から1期だけ大統領を務めたジスカール・デスタンがつくった中道右派政党であるUDF(The Union for French Democracy)と、中道諸派の連合体の2つが統合して生まれた中道政党の「民主運動(MoDem)」がある。この「共和国前進」と「民主運動」が連立を組んでいるのが、現在のフランスの与党である。

 これに対する有力な対抗勢力(オルタナティブ)は、「国民連合(RN)」である。マリーヌ・ル・ペンが率いる国民連合は、かつては、国民戦線(FN)という名称で、極右政党と見なされていた。2017年の大統領選後に改称し、現在は右派ポピュリスト政党とみられている。国民連合が有力なオルタナティブであることは、2017年の大統領選で、マリーヌ・ル・ペンが、第1回投票で2位につけ、決選投票に進んだことからも理解できる。

 また、左派側の既成政党の社会民主主義の立場をとっていた政党が中道化したことで、左派のポジションに取って代わったのが、「屈しないフランス」とも呼ばれるフランス・アンスニーズ(LFI)である。LFIは、社会党から分派をした党首メランションが共産党と組むことでつくった極左政党であり、ドイツのDie Linke(左派党)と似たように、既成の左派政党が取りこぼした左派層を獲得することで勢力を拡大しつつある。

 その他にも、フランス政治の中心的な存在であった保守政党であるLR(共和派・共和党、かつてのRPR、UMP)や、同じく左派側の政党である社会党がある。この2つの政党は、歴史的に大きな勢力を得ていた左右の既成政党である。また、注目を浴びつつあるのが、環境政党である緑の党である。

 これら政党を、経済争点、及び社会文化争点の2軸で位置づけると、図のようになる。その中で、特徴的なのは、共和国前進である。中道に位置する共和国前進は、当初のアピール対象として右派傾向の支持層を想定して政策を掲げ、そこから徐々に左派傾向の支持層を想定して政策を行うなどすることで、中道の包括政党として、政策のウイングを広げ、支持層の拡大を図ったことだ。他方で、共和国前進の社会文化的争点は、リベラル寄りに位置づけられる。支持層や幹部が中道、ややリベラルよりの改革志向を有しており、文化的争点において、かなり脱物質主義的、リバタリアンのスタンスをとる。

 共和国前進は、経済・社会文化ともに左派(リベラル)志向である。その対抗である国民連合(RN)は、大きく右派に位置づけられる。経済的には、大きな政府を志向する保守であり、かつ、社会文化的には権威主義といえ、経済・社会文化ともに保守(右派)である。

 一方で、左派側の新興勢力であるLFIは、経済的には左派の大きな政府を志向し、また、社会文化的にはリベラルの立場を取っていることで、与党の共和国前進との違いを示している。さらに、既成の保守政党であったLRは、経済的にはリベラルで、社会文化的に権威主義の立場を取っている。

図1-1 フランスの政党の政策位置

コラム

 反グローバル化に関して、注目すべき点がある。イギリスの労働党を率いたトニー・ブレアの「第三の道」が象徴的であるが、冷戦が崩壊して、西欧の社会民主主義政党は党勢を回復させるために、経済次元で新自由主義(ネオ・リベラル)な傾向を帯びるようになった。社民政党は、元から文化的にはリベラル傾向であったが、経済もネオ・リベラルに接近することで、ヨーロッパ各国で支持を拡大し、90年代後半に「バラ色のヨーロッパ」と呼ばれる時代をもたらした。そして2000年代には、保守側が文化的にリベラルになることで、保革の主要政党が、ともに経済的にも、文化的にもリベラル志向となる「リベラル・コンセンサス」が見られたが、これに対する反作用として、ポピュリズムが生まれた。

社会文化的争点の重要性の高まりとグローバル化への立場

 ここで、フランスにおける政治的な対立軸の変遷を歴史的に振り返ってみる。現在の戦後のフランスの憲政は、第五共和政憲法と呼ばれている。1958年にド・ゴールが首班指名を受けて(大統領就任)始まった第五共和政は、1970年代の社会党と共産党の協力による革新勢力と、ド・ゴール、ポンピドゥーと続く大統領の保守化による保守勢力との対立が明確になった。フランスにおける保革対立が形成された。

 1980年代には、社会党ミッテラン大統領のもとで、大きな政府路線の政策が取られたが、その路線は大失敗に終わる。小さな政府路線を掲げるネオリベラリズムが大きな支持を得て、86年の下院選挙ではミッテラン大統領が所属する社会党が敗北し、ネオリベラリズム路線を掲げたゴーリスト党(後の共和派)が議会の多数派を獲得した。このような大統領と議会の多数派の党派が異なるのをコアビタシオン、つまり保革共存政府、日本でいうところの「ねじれ議会」という。第1次コアビタシオンのミッテラン政権下、86年に首相となったゴーリスト党のシラク首相(のちの大統領)のもとで、小さな政府志向の大規模な民営化が行われた。これを機に、「大きな政府か、小さな政府か」という対立軸が形成された。

 こうして「保守か革新かの保革対立」、「大きな政府か、小さな政府か」という争点が生まれた。続いて、1992年にマーストリヒト条約をめぐる国民投票が行われ、EUにどのように対応するのかが、政党間での大きな争点になっていく。欧州統合を中心とした争点は、政党内部の勢力関係にも影響を与え、社会党で分党騒ぎや、保守や中道政党の中でも反欧州統合勢力が出たことで、多党化現象につながった。

 既成政党である社会党とゴーリスト政党は、ともに与党を経験したことで、基本的な経済政策や、それに伴うEUへの立場に関して、大きな違いは見られない。そういった現実主義化した経済的な立場の代わりに、社会文化的な立場の対立が両党間で生じており、社会文化的争点の政策的位置づけの比重が増している。これは、フランスのみならず、先進国では過去20~30年ぐらいに見られる共通の現象である。

 しかし、社会文化的な立場を通じて、既成政党が支持を獲得しているわけではなく、イシュー・オーナーシップを有する政党が支持を獲得している。イシュー・オーナーシップとは、ある争点に対して、最も重点的に取り組んでいると有権者が見なしている政党のことである。そして、フランスにおいて、社会文化争点のイシュー・オーナーシップを有しているとみなされているのが、国民連合(国民戦線)である。

 社会文化的争点の比重の高まりに大きく関係しているのが、グローバリゼーションに対する立場である。共和国前進のグローバリゼーションに対するスタンスは、2017年にマクロン大統領が明確に示したように、親グローバル・親EU・多国間協調主義を進めるものである。オルタナティブ政党であるRNは、ル・ペンがフランスの主権を強調するなど、グローバリゼーションに否定的な立場を取っている。ユーロ危機時のオランド政権下では、雇用が傷み、失業率も高止まりしたことを背景に、グローバル化に対する経済的な危機感、難民流入やテロ問題などへの懸念が高まっていた。RNの反自由貿易、反移民のスタンスは、グローバル化による影響に呼応したものであった。

 共和国前進のグローバリゼーションに対するスタンスは、2017年にマクロン大統領が明確に示したように、親グローバル・親EU・多国間協調主義を進めるものである。これに対し、RNは、ル・ペンがフランスの主権を強調するなど、グローバリゼーションに否定的な立場を取っている。当時、ユーロ危機時のオランド政権下では、雇用が傷み、失業率も高止まりしたことを背景に、グローバル化に対する経済的な危機感、難民流入やテロ問題などへの懸念が高まっていたことから、RNは反自由貿易、反移民を掲げた。

極右から変容した国民連合

 反グローバリズム政党の1つである右派側に位置する国民連合(RN)は、1972年に設立された国民戦線が2018年に改名・改組した政党である。70年代の国民戦線は、言うなれば既成政党が見向きもしない、政治的に正しくないとされる問題を積極的に取り上げ、規制緩和や自由主義的なネオリベ的な政策を掲げていた。

 しかし、80年代に入ると、グローバル化による移民問題と雇用問題の関連を指摘するようになる。そして、86年に下院選挙で比例代表制が採用されたこともあり、国民戦線は、国政において初めて2議席を獲得する。さらに、90年代、既成政党のEU協調路線へ反発する形で、反EUの旗手としての立場を鮮明にさせて、支持を拡大させていった。

 一方、国民戦線の支持拡大への危機感から反国民戦線の機運が生まれ、一時は国民戦線に対する支持は伸び悩みを見せた。しかし、2011年にジャン=マリー・ル・ペンの三女であるマリーヌ・ル・ペンが党首に選出されたことで、再び大きく流れが変わることとなる。マリーヌ・ル・ペンは、2012年のサルコジ大統領から社会党のオランド大統領への政権交代のように、保革の既成政党間での政権交代の常態化へのオルタナティブとして、メディアでもてはやされるようになった。また、経済政策に関して、大きな政府と反EUがセットとなり、従来、国民戦線が弱いとされた経済政策でも、様々な知識やアイデア、数字などを用いて政策論争できるように変化したことで、躍進していく。

 マリーヌ・ル・ペンの下で国民戦線にとっての経済・社会文化政策の連立方程式が、従来の国民戦線の支持層の中小企業の経営者や自営業者、移民の多いフランスの南西部を中心とした地域ではなく、北東部などの旧鉄鋼・炭鉱地域といった、アメリカのトランプ大統領を支持した「ラストベルト」のように、グローバル化で排除されたと主観的に感じている層へ変化していった。ある論者が「国民連合(RN)は、21世紀におけるキャッチ・オール政党(包括政党)になったのが」と評したように、与党に拮抗する政治勢力となった。

既成政党を割って出た「屈しないフランス」

 一方、左派の反グローバリズム政党でそのポジションをとったのが、「屈しないフランス(LFI)」である。LFIは、もともと社会党に属していた左派グループが、2005年欧州憲法条約案への賛否で内部分裂が起き、反対派のジャン=リュック・メランションが、2008年に離党し、Parti de Gauche(左派党)を経て、政策的ポジションが近い共産党と連携し、結成した。2017年大統領選では、マクロンとル・ペン、それからゴーリスト政党の候補者フィヨンに次ぐ、約20%の得票率を得ており、既成政党の候補者が失速する中で、LFIは、カルチュラル・プロフェッショナルと呼ばれる公共部門のホワイトカラーや若年層からの支持を受け、場合によっては決選投票に進む可能性があった大きな躍進を見せた。

 こうしたLFIの支持層は、アメリカのサンダース、イギリスのコービンと同様に、若年層かつ高学歴、所得が低い層である。一方で、右派であるRNは、中間層よりも下の層や高齢者が主な支持層となっている傾向がある。こうした右派・左派の支持層は、90年代以降に、グローバル化や、様々な利益団体・就労構造における敗者、いわゆるLosers of Globalizationが生じたが、既成政党では繋ぎ止めることができず、政治的支持の空白が生まれたところに、こうした右派ポピュリスト、次いで左派ポピュリストが出てきたのである。

左右のポピュリスト政党の勢力拡大をもたらした反グローバリズム

 反グローバリズムを掲げるポピュリスト政党であるLFIとRNは、市場における反自由貿易主義や反EU傾向を主張しており、グローバルに関しては重なる部分が多い。しかしながら、両政党を分析した研究や前述の支持層の分析によると、その支持層は、ほとんど重なっていない。つまり、支持層は異なるものの、左右ポピュリスト政党ともに似た政策を主張し、支持拡大させていることは、グローバリズムという対立軸が形成された可能性が高い。

 例えば、時々の世論の動きを把握できる欧州議会選挙の結果を見ると、90年代以降、反EUや反グローバルの次元がかなり先鋭的に出てきており、ユーロ危機や移民難民問題をめぐって、反グローバルの意識や投票が続いていると分析できる。

 加えてフランスは、日本に次いで、グローバル化に対して、拒否反応を強く示す傾向があると国際比較調査で分かっている。こうした左右のポピュリスト政党以外にも、90年代にグローバリゼーションの象徴としてマクドナルドを壊すといった活動を行った農民アクティビスト、ジョゼ・ボヴェや、為替取引に課税するトービン税の導入を目指した団体ATTACがフランスで初めて創設され、注目を浴びるなど、下からの社会運動からも、反グローバリズムが重要な対立軸であったことが理解できる。

有権者市場の3分割によるポピュリズム政党の勢力拡大

 既成政党を中心とした保革対立、大きな政府と小さな政府の対立、そしてEU統合に関する対立と、フランスにおける争点の移り変わりは、90年代後半から「有権者市場の3分割化」を導いたと言われている。「有権者市場の3分割化」とは、右派・左派に加えて、「下の有権者層」と言われる、既成政党に包摂されない有権者が存在していることを示すものである。そして、そういった包摂されない有権者層に対して、既存政党から分派した政党が支持獲得を目指す現象が生じ、支持の獲得競争に勝利したのが、80年代から反移民を掲げていた国民戦線(後のRN)、そして近年支持が拡大しているLFIである。

 前述の通り、社会文化的に極右的な立場を取っていた国民戦線は、90年代までは既成政党の争点対立に応じるように、小さな政府路線に代表されるネオリベ的な経済政策が主張の中心であった。しかし2000年代になると、どちらかといえば大きな政府路線である経済的保護主義に舵を切った。こうした変化は、3分割化され、包摂されない「下の有権者」市場を狙った政策的な変化である。多党化の中で、政策的な変化を遂げた国民戦線は、90年代半ばに労働者階級において得票率のトップとなり、保革の二大政党に代わるようなオルタナティブとなったのである。

 有権者市場の3分割化と反グローバリゼーションが相まって、2002年大統領選で党首ジャン=マリー・ル・ペンが第2位となり、2012年大統領選で後を継いだ党首マリーヌ・ル・ペンが第3位につけ、保革政党に次ぐ有力な政治勢力として確立した。加えて、LFIも下の有権者層からの支持を得ている。さらにフランスにおいて、テロやユーロ危機、難民問題などの社会的背景により、さらに社会文化軸の重要性が高まったことで、反グローバル化を担うRNやLFIの影響力がさらに大きくなっていると評価できる。

既成保守政党の右派ポピュリスト政党化への反発

 グローバリズムと言っても、自由貿易政策などの経済的次元と、移民政策などの社会文化的次元に分けて考えなければならない。例えば、サルコジ大統領は、ユーロ危機が起きるまでは社会文化的にかなり権威主義的あったため、移民に対する規制などを行い、さらに右派のFNを封じ込めることに成功した。こうした既成政党の右傾化は、他国でも極右ポピュリズム政党を封じ込める戦略として用いられている。こうした既成保守政党の対応は、極右ポピュリズムの拡大に大きく影響を与えるものである。例えば、アメリカのトランプに対する共和党、イギリスのブレグジットを進めた保守党などは、右派ポピュリズムを受け入れたことで、党内の勢力図が変わり、従来の右派の主張よりも、より極端な主張へ変化してしまい、極右ポピュリスト政党化してしまう。

 フランスの場合も、既成保守政党であるゴーリスト党が、右派側の支持者の票を得ようと、極右ポピュリスト政党化してしまう可能性が十分ある。しかしながら、フランスは、他の主要国と比べて、地方議会において、既存政党への支持が強いため、既存政党の支持者がル・ペンに乗り換えず、右派ポピュリスト政権が誕生することはないのだろうと考えている。

 他方、現状では、マクロン大統領は、主要国の中でも、いわゆるリベラルな国際秩序という旗を振り、EUの基金などを設立したが、それによって人々の日々の暮らしが必ずしもよくなったわけではなく、その成果を有権者がなかなか知覚されていない部分がある。マクロン率いる「共和国前進」は、上院選挙と地方議会選挙の結果から分かる通り、組織的基盤が乏しく、かなり脆弱で、危うい均衡で成り立っている。その中で、RNのル・ペンへの対応を強いられるのは、非常に難しさがある。

消極的な支持を受けたマクロンと新型コロナ

 マクロン大統領は、大統領選挙で勝利したと言え、決して人気のある政治家ではない。社会党オランド前大統領が、雇用問題などの失策によって、史上最低の支持率であったことや、有力候補であったゴーリスト政党のフィヨン前首相が、スキャンダルによって実刑判決を受け、完全に既成政党への信頼が失われた状況で、消極的な形で選出された。そういった消極的な支持に基づく、脆弱なプレジデンシーは支持率にも現れ、2017年夏に支持率が急落し不支持率が50%を超えた。そして2018年末に起きた黄色いベスト運動によって、不支持率が70%以上の値となって、非常に致命的な数値となった。

 黄色いベスト運動は、改革志向的なマクロンとエドワード・フィリップ首相の政権が、年金改革案を進めたことで、かなり大規模なゼネストと言ってもいいストライキと運動が拡大していった。マクロンも黄色いベスト運動に対しては、財政支出を行うという形で大幅に譲歩し、加えて様々な税制改革を撤回したが、コロナ禍が起きた。

 コロナ禍の当初は、旗下結集効果(rally ‘round the flag effect)によって、陣頭指揮に立ったマクロン大統領や首相への支持率は持ち直したが、ロックダウンが長期化することで、徐々に支持率を減らして行った。2020年3月の時点で、支持が大きく改善し、不支持率が2017年夏頃の51%程度になったが、12月時点では、57%程度となっている。

 フランスの世論調査で、「仮に次の日曜日に大統領選が行われたとき、あなたは誰に投票しますか」と言った質問において、仮にマクロンとル・ペンとともに、社会党とゴーリスト党といった既成政党の党首が出馬した場合は、マクロンとル・ペンが1位と2位と予測されている。このシナリオでは、第1回投票でル・ペンがトップで通るが、既成保守政党や左派政党の有権者がル・ペンよりマクロンが望ましいと考え、約10%程度の差をつけてマクロンが再選と予測されている。しかし、この結果からも分かる通り、消極的な選択肢としてのマクロン大統領であり、現状では次の任期でも低空飛行は続いていくと考えられる。

既成政党のリベラル化による中間層の凋落

 ピケティの『資本とイデオロギー』における「複合エリート」の分析でも、社民政党、左派政党が高学歴化し、保守政党が金持ちの投票する政党になったことで、高学歴でもなく、金持ちでもない人の投票先がなくなっていることを論じている。この分析を踏まえると、フランスにおける「有権者市場の3分割化」と同様に、多くの国で既成政党に代表されない層がポピュリズムを支持して行った可能性がある。

 別の分析では、イギリスとドイツにおいて、2000年代から中間層や労働者層が、左派政党や社民政党に投票しなくなり、右派ポピュリスト政党への投票が伸び始めていることが指摘されている。こうした分析結果は、NIRAでの中核層の研究と同じように、各国で中間層がどんどん傷んでいることがポピュリズムの伸長の要因であると考えられる。

 例えば、ヨーロッパ各国における雇用率を見ると、高学歴・ハイスキルの人たちは非正規の率も高いが、雇用率も高く、コロナ禍でも雇用が安定している。しかし、ロースキルの人たちは、移民が入ってきているため、雇用が安定していない。他方で、戦後のリベラルデモクラシーを安定させてきたミディアムスキル・中間層は、行き場がなくなっており、ポピュリズムへ支持が向かっている可能性が考えられる。

 また、フランスの有名な行動経済学者ヤン・アルガンが、政治勢力の支持に関しての調査において、他者への信頼と、自分の人生に満足しているかという主観的幸福感に着目して分析している。この分析結果では、他者信頼が低く、かつ自分の人生に満足していない、主観的幸福感が低い人たちが右派ポピュリスト政党を支持し、他者信頼はあるが、主観的幸福感が低い人たちが左派ポピュリスト政党、他者信頼がなく、人生に満足している、主観的幸福感が高い人が保守政党、他者信頼も主観的幸福感が高い人たちがリベラル政党を支持している。この分析は、ソーシャル・キャピタルの研究に近く、ポピュリスト政党への支持が、グローバル化に対する賛否や、恐怖感・危機感と言った感情的な部分と、大きく関係していることを示している。

 こうした、グローバル化によって凋落している中間層に対して、労働市場に参画しやすく、ジョブホッピングできるような北欧的な社会保障制度を作ることが、マクロンの社会政策の方針である。この政策変更は、社会モデルを構造転換させるものであるため、現在の社会モデルの下で最も庇護を受けている地方の市井の人々は、警戒感を抱いている。マクロンにとって、そのような層をネガティブでなくてポジティブな形で、支持層に変えられるかどうかが、支持率の上昇や、大統領としてのプレジデンシーを再び持ち直すことができるかの大きなポイントになる。しかしながら、ここまでの議論から分かる通り、現状では、その変化が生じるのはかなり難しい。

どの政党にも代表されることのない新しい層

 最近、マクロンは、黄色いベスト運動などの反発を受けて、内閣改造を兼ねて、首相を交代させた。これは、マクロンに対する高慢で、エリート主義的で、金持ちの大統領といった自身への批判を回避するために、地方政治の畑が長かったカステックスを首相に据え、地方への関心をアピールした。カステックスの就任は、彼自身「社会的ゴーリスト」と自称していることからも、福祉や環境を始め、年金問題などの社会保障に力を入れていくというメッセージとなっている。

 一方で、黄色いベスト運動が広まった後の大規模な選挙である欧州議会選挙において、いわゆる黄色いベスト運動党やそれを語る政党が出てきたが、大して得票しなかった。黄色いベスト運動の支持獲得は、本来マクロン批判につながるため、多くの政党は触手を伸ばしそうだが、下手に手を突っ込むと逆に火傷してしまう懸念があり、ル・ペンを含め、既存の政治家たちは、アプローチを躊躇していた。

 この傾向は、最近の社会運動が、従来のようにリーダーがいて、組織化された運動ではなく、同時多発的に、細胞のように運動を行い、各組織も非常にフラットな関係になっており、スピーカーとしての代弁者はいるが、階層的な組織構造になっていないという特徴に起因している。それにより、抗議運動としては成功し、広がりを見せるが、政治運動として、そこまで現状に何らかの変化を及ぼすことはできなかった。

 加えて、統一地方選挙や欧州議会選挙で、「緑の党」の支持が拡大している。こうした傾向は、黄色いベスト運動や、2019年の気候変動に対する市民会議によって、特に投票意欲の強い若年層を中心に環境問題が注目された結果である。

 この状況からも分かる通り、黄色いベスト運動の広がりや、緑の党の支持拡大は、既成政党に代表されなかった層から支持を受けたポピュリスト政党ある、「国民連合」や「屈しないフランス」ですらも、政治的に代表できない層を顕在化させており、フランスにおいて、更なる大きな地殻変動を予知させるところがある。

参考資料

※フランスにおける主要政党
La République en marche (LREM、共和国前進) 〔与党〕
Mouvement démocrate (MoDem、民主運動) 〔与党〕
Rassemblement national (RN、国民連合)
La France insoumise (LFI、屈しないフランス)
Parti socialiste (PS、社会党)
Europe Écologie Les Verts (EELV、緑の党)
Les Républicains (LR、共和派)

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)吉田徹(2021)「第1章フランス」谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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