国末憲人
朝日新聞社ヨーロッパ総局長

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
・第2部 イギリス 
第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
第5部 オランダ 
第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
第9部 韓国

INDEX

第2部 イギリス

保守党と労働党の二大政党と、リーダーの政治的な傾向

 イギリスの政党を見る上で、党首や側近などの党上層部の意向によって、大きく方針転換することを踏まえなければならない。こうした観点で、CHES調査における各政党の経済・社会文化争点への政策的な立場や、実際の政党の政策的な立場を確認していく。まず政権与党の保守党は、CHES調査では、経済・社会文化争点の立場に関しては、どちらも右派寄りの政策位置だと言える。従来、保守党は、上中流からの支持が高く、進歩的インテリ政党であった。しかし、近年はイングランドを中心に物事をとらえるようなイングランドナショナリズム政党に変化していっている。イングランドナショナリズムの概念自体が、非常に曖昧なものだが、この考えが強くなることで、スコットランドや北アイルランドへの関心が低くなり、イギリスに必要ないとまで考えてしまう。保守党の党首ボリス・ジョンソンは、必ずしもイングランドナショナリズムの立場を明確に取っているようなイデオロギーではなく、後述の通り、非常に場当たり的な要素がある。逆に、現在の保守党上層部のイデオロギーが、イングランドナショナリズムに近く、それに左右されている側面が強い。

 対する二大政党の一翼を担っている労働党は、保守党とは真逆に、経済的にも社会文化的にも左派寄りの政策的な立場を取っている。CHES調査において、左派傾向が強くなっており、経済争点に関しては1.9ポイントとなっている。労働党は、従来は労働者の政党から、近年は多くの支持層の傾向に引っ張られるように、都市型インテリ、中道左派の傾向が強まっていた。しかしながら、労働党も保守党と同様に、党首となったコービンとその側近によって、より社会主義に近く、左派色が強いオールド・ソーシャリスト路線と、左翼ポピュリズム路線を進めていた。しかしながら、労働党が2019年総選挙で敗北したことで、コービンは党首を辞し、現在は、それまでの労働党の立場であった中道左派傾向に戻りつつある。

 その他の政党として、自由民主党は、経済争点では中道傾向にあるが、社会文化争点に関しては、左寄りに位置付けられる。また自由民主党は、EU離脱に否定的な立場を示し、EU残留を政策の中心に据えようとしていたが、必ずしも支持を広げることができなかったという面がある。

 また、得票率が5%以下だが、スコットランド国民党は、スコットランド独立を掲げる地域政党であり、スコットランド地域において多くの支持を得ている。左寄りの政策位置を示す傾向が強いが、特徴としては、スコットランド独立を掲げつつも、現在は実質的な統治を行うことができる自治を得るという戦略を取っている。加えて、Brexitに対して、反対の姿勢を示しており、Brexitが成立した場合には、EUの再加盟と、スコットランドのみのEU再加盟を主張している。

 加えて、ブレグジット党がある。もともと欧州懐疑的な政策を掲げていたUKIP(連合国独立党)の党首であったナイジェル・ファラージが離党し、EU離脱を主張する単一争点政党のブレグジット党を作った。ブレグジット党は、フランスの国民戦線と同じように、欧州議会選挙では最大の支持を得たが、主張しているようにイギリスがEUから離脱した場合、政党としての意味がなくなってしまう。そのため、Brexitが達成した後に、政党としての活動を休止していた。しかしながら、新型コロナの感染拡大によって実施されたロックダウンへの反対を掲げ、党名をリフォームUK(Reform UK)と変更した上で、政党としての活動を再開している。

図2-1 イギリスの政党の政策位置

グローバル化の3つの観点:Brexit・移民・自由貿易

 グローバル化に関する各政党の立場を確認するには、いくつかの点を考える必要がある。1つ目が、各政党のBrexitへの立場の違いだ。多くの人たちが、Brexitと言って思い浮かぶのは、2019年10月にジョンソン政権とEU政府の間で結んだイギリスの離脱をする際に、北アイルランドを事実上切り離した上で、EUの単一市場と関税同盟から離脱する協定のことであろう。こうしたBrexit協定に対して、賛成なのか、反対(再交渉)なのかで各政党のグローバリズムへの立場が理解できる。例えば、新興シンクタンクIfG(The Institute for Government)の分析を参考にすると、保守党は、強くEUからの離脱を主張し、そのために北アイルランドをイギリスから切り捨てても良いと主張していた。ブレグジット党は、その名の通り、Brexitの完遂、何がなんでもEUからの離脱を主張していた。一方で、労働党は与党の保守党が進めるEU離脱協定の再交渉を公式には主張していた。労働党と少し異なる観点だと、自由民主党は、EU加盟国の離脱に関する条項が書かれているリスボン条約50条の行使の撤回、つまりEUからの離脱撤回を主張していた。また、スコットランド国民党も、概ね離脱の撤回を主張した。このように、保守党とブレグジット党は離脱に賛成、労働党をはじめとする他の政党は離脱に対して反対または懐疑的な立場にいた。

 グローバリズムの2つ目の観点は、グローバル化によって生じる人の流れに関する賛否、つまり移民に対する主張である。与党である保守党の主張は、厳しい移民の規制、移民排斥の傾向が強くなっている。一方で、労働党や自由民主党は、概して人権問題への関心が強いため、そのようなイシューに深く関わる移民に対しても寛容な姿勢をとっている。地域政党であるスコットランド国民党は、移民に関してもスコットランド独自の問題を取り上げているため、評価が難しい。

 3つ目の観点は、経済的なグローバル化、自由貿易に関する主張である。保守党は自由貿易を推進し、グローバル化を推進する方針である。EUとは異なる形の自由貿易推進を主張していることになるのだが、一方で保守党支持層は、グローバル化による自由貿易自体を望んでおらず、政党と支持者の間に認識のズレが生じている。対する労働党は、Brexitへの立場と同様に、EUと連携し、単一市場と関税同盟に留まることを主張している。

 このように、グローバル化に関する各政党の立場と言っても、個別のイシューに対する主張を見ていかなければ本来は判断できない点をことわった上で、最もグローバル化を推進する政党は、自由民主党やスコットランド国民党、それに次ぐ形で、労働党と評価した。一方で、Brexitに賛成しつつも、自由貿易を推進しようとしている保守党は、ややグローバル化に否定的ではあるが、中立的な立場と評価した。そして、最もグローバル化に否定的な立場であるのが、ブレグジット党となっている。

イングランドナショナリズムと各地域への認識

 少し、Brexitとも関連する部分があるが、イギリスにとって、各地域の自治、ナショナリズムの問題は、非常に重要な対立軸となっている。ご承知の通り、イギリスは、イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4つの地域で構成されており、それぞれ違うステータスを持っている。イングランドは、イギリス全体の半分強の面積を占め、人口が約85%に至る。スコットランドは非常に強い自治を有し、特に2014年の独立に関する住民投票で僅かに過半数に満たなかったが勢力が増しており、自治をどんどん獲得している。対比して、ウェールズは少ない自治しか有していない。特殊なのが北アイルランドで、自治は有するが、イギリスとアイルランド共和国の共同主権のような形となっている。このような北アイルランドの状況が、Brexitによって、北アイルランドの内部で対立が激しくなり、自治が事実上崩壊しつつある。このような自治の問題は、スコットランドや北アイルランドから見ると、イングランドとの関係や対応自体が、一つのグローバル化への態度となるため、イギリス国内におけるグローバル化という別の問題が生じており、グローバル化という問題を複雑にしている。

 一方で、イギリスの大半を占めるイングランドにとっても、各地域に対する考えが変化しつつある。例えば、ある世論調査で「北アイルランドについてどうするかイギリスに残った方がいいかどうか」という質問に対して、54%が「どちらでも構わない」と回答をしており、一般市民の感覚として、北アイルランドへの関心は高くない。実際に、今回のEU離脱協定で、北アイルランドは事実上EUに残留し、関税同盟の中に残るため、イギリス内部での分裂が広がると予想される。北アイルランド内部においてもイギリスへの態度が変化しつつある。

 現在、北アイルランド居住者のキリスト教の宗派比率は、カトリックとプロテスタントが半々となっている。一般的に、プロテスタントは、イギリス寄りでユニオニストと呼ばれる一方で、カトリックは、アイルランド共和国寄りでナショナリストと呼ばれている。加えて、カトリックは、その宗派上の考えから、出生率が高いため、北アイルランドで約2年前から人口が増え続けており、将来的にはアイルランド共和国寄りの人が増えることが予測される。そのため、長期的には北アイルランドの独立やアイルランド統合の方向へ議論が進められるという予想がある。しかしながら、問題はそう簡単ではなく、経済的好調が続いているアイルランド共和国の中には、非常に貧しく援助依存になっている北アイルランドを統合することを迷惑に感じる見方もある。

 前述とは別の世論調査において、「北アイルランドがイギリスの中に残ることを支持するか」という質問に、全体としては「残るべき」との回答が若干多いが、対象を労働党支持者に限ると、「英国としてアイルランドと統合されるべきだ」が多くなる。また別の質問で「どんな犠牲があってもBrexitをしたほうがいいか」と質問では、「スコットランドが独立することになってもBrexitしたほうがよい」と考える保守党支持者が63%もいる。保守党支持者の多くは、イングランド居住者であることもあるが、スコットランドや北アイルランドへの関心が低く、イギリスから出て行っても良いと考えている。

 こうした世論調査結果を踏まえると、イデオロギーに関係なく、イングランド・ナショナリズムが強まっており、北アイルランドもスコットランドもイギリスに必要ないとまで考える人が増えるなど、政治に大きな影響を及ぼしている。このようなイングランド・ナショナリズムは、EUによって制約された国内の権利を取り戻すのだという意識につながっており、反EUとの関連性が非常に強い。しかし、イングランド・ナショナリズムが主張するような権利の制約の多くは、EUによって奪われたのではなく、イギリス国内でスコットランドやウェールズに分権しただけである。それを全てEUが奪ってしまったと誤認して、反EU運動につながっているのである。

 スコットランド独立の可能性については、まだ課題が多く存在している。その顕著な例として、独立派が嫌がる「王様」、「国境」、「通貨」という3つの質問を挙げられる。1つ目は、スコットランドが独立した場合に、王制をそのまま引き継ぐのか、あるいは共和国になるのかといった議論である。2つ目は、独立スコットランドがEUに再加盟した場合、EU圏内を単一市場とみなすため、イギリスとの国境を閉鎖しなければいけなくなるが、そもそもイングランドとスコットランド間の「国境」閉鎖は可能なのかという問題である。3つ目に、スコットランドでは現在ポンドを使用しているが、独立した際にはユーロを使うのかという問題もある。スコットランドの首都エジンバラは、金融都市でもあるため、現在のポンドからユーロに変わってもやっていけるのかという議論である。これらの3つ質問は、スコットランドの独立とEU再加盟に関するタブーと言われている。

 このように、イギリス独自の問題としての、各地域の自治の問題や、それに伴うイングランド・ナショナリズムが、イデオロギーとは関係なく、生じていることが近年の特徴である。

2019年総選挙での労働党の歴史的大敗

 2019年12月の総選挙は、保守党が大勝した。2016年の国民投票でEU離脱が決定し、テリーザ・メイの保守党政権が成立した。その中で、EUとの間で離脱協定を結んだが、国内の承認が得られず、ジョンソン政権へと引き継いだ。ジョンソン政権もまた、新しい離脱協定を結んだが、国会を通らなかったため、解散総選挙を行い、大勝したという経緯である。その結果、2020年1月にEUからの離脱が実現し、別途、EUとの間で通商条約であるFTAに2020年12月に合意した。

 当初、保守党は労働党と支持率を二分していたが、メイ首相が離脱協定をまとめられなかった際に、保守党支持率が急激に下がった。それがジョンソン首相の就任前から回復に転じ、解散時の各党支持率は、保守党37%、労働党24%であった。従来イギリスでは議会を解散するためには3分の2の賛成がなければならなかったが、ジョンソン政権は過半数の賛成で解散できる法律を成立させた。もっとも、最終的には労働党も解散に賛成しており、圧倒的多数で解散が決まっている。

 なぜ労働党が政党支持率でリードされていたにもかかわらず議会解散に賛成したのかに関しては、2つの理由が指摘されている。1つは、2017年総選挙において、事前に劣勢と言われていた労働党が、蓋を開けてみれば保守党を過半数割れに追い込んだ前例があった。そのため、コービン党首は選挙に強いと言われており、その可能性に賭けた。もう1つは、労働党内でコービンの地位が危なくなっており、選挙に打って出ることで、地位の回復を図ったというものである。国家があって、党と党首があるというものではなく、党首のために党と国家を犠牲にするという発想だ。これは保守党も同じで、ジョンソン個人のために保守党を犠牲し、保守党のために国家を犠牲にする、という発想が往々にして見られる。

 選挙結果は、保守党が650議席中365議席を獲得する、1987年以来の大勝となった。一方で、労働党は203議席にとどまり、1930年代以来の大敗となった。Brexitを掲げていた保守党が勝利したことで、改めてEU離脱が決定した。地域別には、イングランドでは保守党が他党を圧倒しており、逆にイングランド以外では保守党候補はほとんど当選していない。労働党は、ロンドンなどの大都市で強かった。

保守党と労働党の支持層と各党の政治的傾向による選挙調整

 この選挙結果を見る上で、参考になるのが、各政党の国会議員とその支持者の傾向の違いだ。ロンドン大学のティム・ベイルが行った調査によると、労働党は、国会議員と支持者の間で、ほとんどイデオロギーの差がない。しかし、保守党に関しては、国会議員は右寄り、支持者は左寄りと、イデオロギーの差が非常に大きい。この傾向は、曖昧なスローガンを掲げることにより広い範囲で支持を集めるという、非常にポピュリスト的な戦略が大勝をもたらしたという見方ともつながる。

 ブリストル大学のポーラ・サリッジ(Paula Surridge)による政党と支持層の傾向に関する研究によると、2018年頃から、各政党は従来の左右イデオロギー軸よりも、リベラル・権威主義の軸の比重を高めている。また、この傾向は、各政党におけるEU離脱派と残留派において強く見られ、左右イデオロギー軸ではEUへの立場の違いで大きな違いはないものの、権威主義かリベラルかの軸においては、その位置づけは大きく異なっている。また、イングランドに限って政党の位置付けを見ると、2015年からの総選挙から、左右イデオロギー軸においては、保守党が徐々に左に寄っているが、労働党は変化していない。その一方で、労働党は、権威主義・リベラル軸において、リベラル方向に変化している。

 各政党の政策位置を見ると、保守党の近傍には、他の競争相手がいないが、労働党の近くには自由民主党やスコットランド国民党があり、特にスコットランドでは労働党が1人も勝てない状況になっている。保守党は、総選挙の直前にブレグジット党が候補者を引き上げたことで、政策位置の近い政党間での票の食い合いを防ぐことができたが、EU残留派の票は労働党、自由民主党、スコットランド国民党に分散してしまった。労働党や自由民主党、スコットランド国民党の合計得票率は、保守党の得票率を上回っており、ひとえに野党による選挙調整の失敗が保守党圧勝の最大原因であったことがわかる。

イギリスにとってのグローバル化と英連邦の存在

 前述の通り、イギリスにとってグローバリズムは、特殊な側面がある。例えば、フランスは、フランスの外側にEUという市場があり、さらに外側にグローバルな世界市場があるため、EUを通じたグローバル化が優先事項となる。

 一方で、イギリスにとってのグローバル化は、EU市場と世界市場を別々に捉えており、EUへの立場だけでグローバル化を判断するのが非常に難しい。例えば、イギリスにとってはEUがなくとも、英連邦として、インドやオーストラリア、さらにはアメリカの存在があることで、EU以外のグローバル化にも正当性がある。かつて租借していた香港も、グローバル市場における1つの選択肢であり、現在の香港問題を重く捉えている。一方で、中国市場も非常に重要であるため、イギリスがこの問題にどう対応するのか、先行きを見通すことが非常に難しくなっている。このように、英連邦を通じたグローバル化という主張が、実際には幻想であってもまかり通ってしまうため、Brexitが進められたのかもしれない。

 イギリスにとっては、EUに残ることは、グローバル化と反グローバル化の両側面がある。EUには単一市場というグローバル化の要素が含まれる。その一方で、EU加盟国はEUの法体系(アキ・コミュノテール)を受け入れる必要がある。このEUの法体系は、2013年頃の取材時に約16万ページあったが、現在では約20万ページと推測されるなど、膨大なものである。このようにEUは、グローバル化を推進する側面もあれば、イギリスにとっての政策的な独自性を制限してしまう側面もある。

Brexitを支持したレフト・ビハインド?

 さらに、Brexitとグローバリゼーションの関係では、EU離脱を支持した労働者層を考えなければならない。Brexitを支持した労働者層は、アメリカのトランプ大統領を生み出したラストベルトに似て、イギリスでは、マシュー・グッドウィンにより「レフト・ビハインド」と呼ばれる地域に多く住んでいる。

 2019年の総選挙でもレフト・ビハインドに注目が集まった。マンチェスター、リーズ、ブラッドフォード、シェーフィールドといった伝統的に労働党が非常に強く、「赤い壁」と呼ばれていた地域で、保守党が勝利したからだ。この「赤い壁」に属する地域は、旧炭鉱地帯、鉄鋼重工業地帯といった産業革命期の繊維産業を支えた地域であることから、アメリカでいうラストベルトに近い。

 私自身も取材で「赤い壁」のウェイクフィールドに訪れた。この街には周辺地域を統括する労働党支部があり、1932年から労働党が議席を維持していた。住人のほとんどは労働党支持者であり、市議会にも保守党議員は1人しかいないにもかかわらず、今回初めて国政選挙で保守党が議席を獲得したことに、保守党自体が驚いていた。

 このように、レフト・ビハインドに属する労働者層の投票先の変化が、保守党勝利やBrexitを生み出したと言われているが、実際にはそう簡単なものではない。2019年総選挙における属性別の投票先を見ると、社会階級に関しては、ブルーカラーとホワイトカラーの間に支持政党の差はほとんどない。一方で、年齢別に関しては、若年層の多くは労働党を支持し、高齢者層の多くは保守党を支持している。もう一つ顕著なのは教育水準であり、労働党支持層は非常に教育水準が高く、逆に保守党支持層は教育水準が低い。この傾向は、フランスなどでも見られ、従来の左右とは逆転した、左派のインテリ化が生じている。

イギリスにおけるグローバル化の現状と、市民の意識

 このように有権者の間で反グローバル化傾向が高まっている一方、イギリスでは海外資本依存が高まっている。ヨーロッパ資本が多いが、アメリカや中国などからも資本が入ってきている。こうした傾向はロンドンなどの都市部では強いが、田舎になると弱く、特にイングランド以外のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドといった地域では、海外資本によるグローバル化は進んでいない。

 身近な例を挙げると、ロンドンにある私の家の電気は、市内最大の電力会社であるフランス電力(EDF)が提供している。私の家の前を運行しているバスは、パリ市交通局(RATP)が運営している。ロンドン名物の2階建てバスですら外国資本の運営だ。イギリスの鉄道も、今やほとんどがドイツやオランダなどの鉄道企業によって運行されている。中国企業による投資も見られる。このように、グローバル化はイギリスの人々の生活のより近いところを支え、切り離すことができない状況となっている。

 グローバル化の重要な観点となっている移民については、イギリスでは、もともとポーランドからの移民が1番多かった。しかしながら、2016年のBrexitに関する国民投票以降、EUからの移民が、本国に帰国するなどし、減っており、ポーランド移民も減っている。その代わりとして、EU以外のインドなどからの移民が増えてきている。

 もっとも、移民問題に対する関心は、国民投票の時にこそ盛り上がったが、それまでは全く問題と思われていなかった。国民投票後も、逆に移民に対するポジティブな意識が高まり、Brexitで主張されていたネガティブな意見が減っている。精査の必要があるものの、国際比較でもイギリス人が最も移民に対してポジティブで、逆に最もネガティブなのは日本人となっている。

 イギリスでは、農業の収穫期になると、ルーマニアやブルガリアからの季節労働者が多くなる。東欧諸国から労働者が来るようになったのは20年ほど前からだが、今ではルーマニアやブルガリアからの出稼ぎ者が収穫のほとんどを担っている。こうしたEU加盟国の国民は、EU市民としてイギリスで働くため、これまでは移民としてカウントされなかった。しかし、Brexitによって、彼らはEU域内のような市民権を失い、移民としてカウントされることになる。今後は非常に厳しい移民政策がとられるだろうから、これまで単純労働を担ってきた東欧諸国のEU市民だけでなく、パキスタンなどからの移民をも締め出すことになろう。

 こうしたBrexitや反グローバル化を保守党内で強力に推進するのは、ヨーロピアン・リサーチ・グループ(欧州研究グループ)というリバタリアンのグループである。ジェイコブ・リース=モグという人物が中心の同グループは、イギリスがEU離脱することで、各国との自由貿易を推進できると主張している。このように、Brexitを支持して保守党に投票した有権者層と、彼らの主張するBrexitは、グローバル化の観点で全く逆の主張となっている。バスの運転手はリバタリアンでグローバル化を推進する保守党グループなのに対し、乗客である大衆は反グローバル化を望んでいる。同じBrexit行きのバスに乗っていても、運転手と乗客がそれぞれ思い描く目的地は異なっている。バスが進むにつれて、乗客は目的地が異なっていたことに気づき、騒ぎ出してしまうだろう。

ジョンソン政権の政策的な揺らぎと新型コロナ

 2019年総選挙で大勝したため、ジョンソン政権は、決して大物とは言えない離脱派で閣僚を固めるなど、ジョンソン首相の意向が大きく反映された。選挙で勝利した勢いをそのままに、Brexitのプロセスを歩み、2020年1月31日にブレグジット・ダウンが確立し、その直後に新型コロナが流行した。当初、Brexitを達成した高揚感もあったのか、ジョンソンも12日間休暇を取るなど、かなり気が緩んでいた。しかし、ジョンソン自身も新型コロナに感染してしまい、1週間入院する事態となった。さらにBrexitによって、EUとの連携もなくなり、被害が広がってしまった。

 新型コロナに関連した特徴的な政策でいえば、国民健康サービスであるNHSに関して、従来保守党は無駄が多いとして、民営化すべきだと主張していた。ところが、今回の新型コロナの感染拡大と、ジョンソン自身が新型コロナに感染してしまったことで、今までとは逆にNHSは必要と方向転換している。このようにジョンソン政権には、必ずしも政策的な一貫性があるわけではなく、ある種ポピュリストとしての特徴が見られる。当初、新型コロナの感染拡大はないと主張していたが、実際には全くそのような状況にならなかった。このような主張と反する結果が相次いだ結果として国民からの信用を失い、首相の支持率は下がりつつある。

 ジョンソンは、あまり主義主張を持っていない一方、自分の名前を歴史に残したいという意識が強い。彼はロンドン市長だった頃には、どちらかというとリベラル寄りだったが、その後にEU離脱を主張するようになり、離脱派の象徴になった。結果的に、彼の振る舞いが保守党を変え、イギリスを変えていったことになる。ジョンソン自身は、自らの政治的な主張、ジョンソンニズムを進めると言うが、その本質は不明な部分が多い。このような政策的な揺らぎというか、場面ごとの主張の変化が、新型コロナ対応に関しても現れており、今後も同様のことが生じるだろう。

 保守党内も政策的に揺らいでいる。例えば、総選挙前には、2007年の労働党政権が計画していた「赤い壁」が属する北イングランドに高速鉄道を敷く大規模な投資計画の引き継ぎに関して、保守党内で財政出動に反対する、リバタリアンと、5年後の選挙を見据えた推進派が対立していた。結果的に、総選挙後の2020年2月に、ジョンソン政権は、計画を引き継ぎ、高速鉄道の整備を進めると決定している。

イギリス政治の今後

 ジョンソンは、何があっても今の地位を、決して手放そうとはしないだろう。議員の任期は5年なので、今後4年半は選挙が行われることはないだろう。

 その理由の1つとして、現在、Brexitを支持したと言われているレフト・ビハインド、労働者層や白人貧困層は、実は存在しないのではないかという疑問が持たれ始めていることを挙げられる。イギリスにおいて、最も貧困なのはパキスタンなどからの移民であり、たしかに彼らの多くはBrexitを支持しているが、投票には行かない。流行語にもなったレフト・ビハインドが想定する白人貧困層が、選挙結果を変えてしまうほどの規模で存在しているのかどうか分からない。

 もう1つは、今回の選挙結果は、一過性のトレンドが小選挙区制の影響で拡大されたものであり、そのまま次の選挙までは継続しないという見方だ。2019年の総選挙では、Brexitが明確な争点となったが、それ以外のマニフェストに記載されている政策に関しては、どの政党が何を言っているか、人々はほとんど関心を持たなかった。次の選挙ではBrexitは争点にならないから、今回の選挙結果が続くとは限らない。

 一方、労働党も「赤い壁」の崩壊に関して、一度立ち止まって考える必要がある。「赤い壁」の崩壊は、こうした地域に住んでいる労働者層の意に反して、労働党がインテリ化してしまったために、彼らが保守党へ支持政党を変えた可能性を示すものである。

 労働党のインテリ化や、コービン前党首の左派ポピュリズム路線は、富裕層や教育程度の高い層の支持を高めたが、本来、アプローチを行うべきだった労働者層には届いていなかった可能性が高い。労働者層は、結果として、左派側ではなく、右派側のポピュリストを支持するようになった。フランスにも同様の傾向が見られるが、フランスとの違いは、ポピュリスト政党の支持拡大が、移民排斥のような差別的な背景を持ったものではなく、EU離脱といったグローバル化に基づいていたことだ。

 労働党のインテリ化によって生じた労働者層の変化は、一過性のものではなく、今後も続くものだと考えられる。一方で、フランスで指摘されているように、このような変化は、反作用としての変化であり、元に戻るという可能性もある。しかしながら、労働党も、保守党も、労働者層の支持を得られず、彼らは第3勢力へ支持を移すという可能性もある。その可能性の一端を示しているのが、欧州議会選挙で第1党になったブレグジット党であり、こうした第3勢力の拡大が国政選挙でも十分に起こりうる。

 このようにBrexitないし反グローバル化を望んだ層の支持を、保守党と労働党のどちらが得るか(またはどちらの既成政党も支持を得られないか)によって、今後のイギリス政治は大きく動くだろう。今回の選挙で保守党を支持した層が求めた反グローバル化と、実際の保守党が推進するグローバル化との齟齬を埋めることができるか。さらに、労働党が手放してしまった労働者層からの支持をいかに取り戻すことができるかが鍵となるだろう。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)国末憲人(2021)第2部イギリス谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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