大久保敏弘
慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員
辻琢也
一橋大学大学院法学研究科教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員
中川雅之
日本大学経済学部教授/NIRA総合研究開発機機構上席研究員

概要

 新型コロナウイルス感染症対策を契機に、政治的リーダーシップのあり方がかつてなく強く問われている。そこで、全国の市区町村長を対象にアンケート調査を実施した。調査結果から、コロナ禍において、最もリーダーシップを発揮して取り組んできた政策は「住民への積極的な情報発信・公開」であることがわかった。「情報」を制することで、リーダーシップを発揮できることの現れといえる。他方、コロナ禍以前に、市区町村長が最も重要視してきた政策は「子育て支援の充実」であることがわかった。

INDEX

ポイント

●問われる情報発信・管理能力
 新型コロナウイルス感染症対策において、全国の市区町村長がリーダーシップを発揮して取り組んできた政策として回答が最も多かったのは、「住民への積極的な情報発信・公開」である。個人情報保護に細心の注意を払いながら、感染者の出現情報を迅速・正確に得て、それを的確に感染症対策に反映させて実施することが、全国市区町村長の最大のがんばりどころとなっている。

現代版米百俵:最重視される子育て支援策
 市区町村長が最も重要視してきたのは、「子育て支援の充実」である。待機児ゼロ対策の徹底や子ども医療費の助成など、「子育て支援の充実」は全ての人口規模別階層で第1位の優先順位を記録している。しかし、実際に子育支援策の充実が、出生率の構造的な改善や総人口の増加に帰結するまでには、相当の時間を要することが想定される。超高齢・人口減少社会の財政逼迫時代に、長期的な人口回復を期待して子育てに持続的に重点投資していくことは、いわば、現代版「米百俵の精神」なのである。

改革の最大の障害は、自治体の内にあり
 改革を阻む障害として「財源が不足していること」を、4分の3の市区町村長が指摘している。また、「現行の法制度等を前提とした国・県等との調整が進まないこと」よりも、「市町村長と議会が対立していること」や「住民が協力的でないこと」が、改革を阻む障害と認識されている。国や県との調整よりも、自治体内の合意形成に、政治的リーダーシップが期待されているのである。

勤勉性が生み出す取引型かつ漸進型リーダーシップ
 市区町村長は、一般の人々の調査結果と比較して、外向性や勤勉性、開放性が高く、神経症傾向が低く、かつ、リスク愛好的であることが明らかとなった。その一方で、自治体運営の実際を尋ねてみると、「鼓舞型かつ変革型」(周囲を鼓舞しながら現実を変革していくタイプ)よりも、「取引型かつ漸進型」(関係者の合意を取りつつ時間をかけて少しずつ変えていくタイプ)が多い。個人よりも組織を圧倒的に重視し、既存組織を維持しながらプロジェクトチームを活用する。成果を重視しながらも過程の努力にも配慮する人事評価を心掛ける。一般の人々よりも、外交的・開放的でリスクを好む性格ながら、組織を重んじて地道に合意形成を重ねて、少しずつ変革を図っていくというのが、日本の市区町村長なのである。

目次

Ⅰ.主なポイント
参考 調査概要
Ⅱ.本論

1.市区町村長がリーダーシップを発揮して取り組んできた政策と緊急時の自治体運営におけつ課題(Q1~Q2)
2.市区町村長がコロナ禍以前から重要視してきた政策課題と政策運営上の意思決定についての考え方(Q3~Q4)
3.組織運営の考え方と障害(Q5~Q6)
4.市区町村長の性格(Q7~Q8)
参考資料 問2自由記入の内容紹介(一部)

図表

図表 参考-1 アンケートの回収状況
図表 参考-2 回答した自治体の人口規模別構成比
図表 参考-3 回答のあった自治体一覧
図表 1-1 リーダーシップを発揮して特に取り組んできた政策
図表 1-2 リーダーシップを発揮して特に取り組んできた政策(人口規模別)
図表 1-3 感染者規模別のリーダーシップを発揮して特に取り組んできた政策(人口20万人以上の自治体)
図表 1-4 問2「自由記入」にみる災害時の自治体が抱える問題・課題
図表 2-1 重要視してきた政策(第1~第4順位の合計)
図表 2-2 重要視してきた政策として回答した首長の割合(優先順位別)
図表 2-3 人口規模別、重要視してきた政策(第1~第4順位の合計)
図表 2-4 経常収支比率の水準別、行財政改革を重要とする首長の割合(5万人以上20万人未満の自治体)
図表 2-5 首長による政治的な判断の必要性
図表 2-6 「行政のルール」と「政治的な判断」についての考え方
図表 2-7 問3の優先順位別、首長による政治的な判断の必要性
図表 2-8 人口規模別、首長による政治的な判断の必要性
図表 2-9 2018年の1人あたり課税対象所得と、課税対象所得総額の増減率(増減率は2008年を基準)
図表 3-1 改革を進める上での障害
図表 3-2 人口規模別、「住民が協力的でないこと」が障害であると回答した割合
図表 3-3 人口規模別、「現行の法制度等を前提とした国・県等との調整が進まないこと」が障害であると回答した割合
図表 3-4 人口規模別、「首長と議会が対立していること」が障害であると回答した割合
図表 3-5 組織運営をする上での考え方
図表 3-6 人口規模別、「意思決定の内容」についての考え方
図表 3-7 人口規模別、「意思決定の期限」についての考え方
図表 4-1 一般人と首長の性格(平均)
図表 4-2 一般人と首長の性格(分布)
図表 4-3 一般人と首長のリスク選好度
図表 4-4 市区町村長のリーダーシップの類型
参考図表1 人口規模別にみた一般人と首長の性格
参考図表2 地域別にみた一般人と首長の性格
参考図表3 首長のリーダーシップ(変革型、漸進型)と首長の性格
参考図表4 首長のリーダーシップ(鼓舞型、取引型)と首長の性格
参考図表5 人口規模別にみた一般人と首長のリスク選好度
参考図表6 地域別にみた一般人と首長のリスク選好度
参考図表7 首長のリーダーシップ(変革型、漸進型)とリスク選好度
参考図表8 首長のリーダーシップ(鼓舞型、取引型)とリスク選好度

調査概要

・調査方法:インターネット調査、郵送による調査
・調査対象者:全国の市町村長、東京23区長の計1,741自治体首長
・回収数:815件(回収率46.8%)
・調査期間:2020年10月12日(月)から11月30日(月)

研究体制

大久保敏弘  慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員
辻 琢也    一橋大学大学院法学研究科教授/NIRA総研上席研究員
中川雅之   日本大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員
神田玲子   NIRA総研理事・研究調査部長
井上敦    NIRA総研研究コーディネーター・研究員
渡邊翔太   NIRA総研研究コーディネーター・研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
NIRA総合研究開発機構・大久保敏弘・辻琢也・中川雅之(2020)『「全国市区町村長の政策意識とリーダーシップのあり方」に関する アンケート調査(速報) 』

©公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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