大久保敏弘
慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員
辻琢也
一橋大学大学院法学研究科教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員
中川雅之
日本大学経済学部教授/NIRA総合研究開発機機構上席研究員

概要

 超高齢化や人口減少など、様々な要因がまちづくりのあり方に政策転換を迫っている。そのような中、地域における改革を成功させるキーマンは市町村長だ。そこで、全国市長村長を対象に、「政策意識とリーダーシップ」に関するアンケートを実施した。
 第1部では市町村長に実施したアンケート結果に基づいて、市町村長の平均的な姿を描き出した。市町村長の約7割が「子育て支援策の充実」を重視していることや、「一般人よりはやや社交的で、リスクを厭わない普通の人間」であるというパーソナリティが明らかになった。しかし、そのパーソナリティが現場では必ずしも生かされていない。
 第2部では先駆的な成果を上げている6市町村長へのインタビューをまとめた。平均的な市町村長とでは、リーダーシップのスタイルに違いがあり、自身の考えを言葉で伝えて、相手を説得させる―つまり、鼓舞的な要素―が強いことが分かった。

INDEX

ポイント

全国の市町村長がもっとも重視している政策課題は、「子育て支援策の充実」。重視してきた政策には、国策として財源措置されているものが目立ち、自ら財源調達のリスクをかけて先行して行っているものは、決して多くない。

重視してきた政策に、自分の政治判断を強調する傾向にあり、超高齢化や人口減少に「抗する」拡大志向のものが多い。予想される人口減少に即してダウンサイジングしたり、行政改革を進めたりすることに関しては、「自分の政治判断である」ことよりも「国の方針である」ことを強調する傾向がある。

日本の市町村長は一般人と比べても、外向性、開放性が高く、比較的勤勉、神経症傾向が低く、また、リスクを積極的に取っていくタイプ。「一般人よりはやや社交的で、リスクを厭わない普通の人間」であり、組織としての意思形成に努めるという「地味で実直な姿」が浮かび上がっている

図表1 一般人と市町村長のリスク選好度

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(注)リスク選好度について、0(まったくリスクをとろうとしない10(とても進んでリスクをとろうとする) で選択した際の回答分布。

●ジョセフ・S・ナイが用いたリーダーシップの類型に基づき、「目標」と「スタイル」の2軸で分類した。全体の4割弱の市町村が、関係者の合意を取りつつ、時間をかけて少しずつ変えていく取引型かつ漸進型」に分類される。周囲を鼓舞しながら現実を変革していく「鼓舞型かつ変革型」タイプは1%程度に過ぎず、市町村長のリスクを厭わないパーソナリティが、現場では必ずしも生かされていない。

図表2

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先駆的な結果を出している市町村長は、殊更、政治判断を強調するわけではない。しかし、平均的な市町村長と比べて、リスクを厭わないタイプが多く、それは、目標設定の高さではなく、スタイルの違いに表れている。目標達成のために、合意してもらうための取引材料を相手に提示するのではなく、あくまでも、自身の考えを言葉で伝えて、相手を説得させるつまり、鼓舞的な要素が強い。

低成長期のゼロサムゲームにおいては、取引できる余地が低くなる。とすれば、自らリスクを取って、周囲の人々を説得しながら支持を取り付ける鼓舞的な要素が、新しいリーダーシップ像に求められているといえる。

目次

はじめに 本研究の背景・目的・方法
1部 市町村長アンケート調査結果:政策意識とリーダーシップ 
 1章   アンケート調査概要
 2章   重視する政策課題
 3章   行政ルールVS 政治判断
 4章   組織の運営方針
 5章   改革の障害要因
 6章   市町村長のパーソナリティ
 7章   市町村長のリーダーシップの類型化
2部 事例研究:成功した政策転換と市町村長のリーダーシップ
 8章    インタビュー調査と事例選定
 9章    北海道伊達市
 10章   富山県富山市
 11章   宮崎県川南町
 12章   京都府木津川市
 13章   東京都文京区
 14章   神奈川県川崎市
総括:求められるリーダーシップ
参考資料1、2

図表

図表 1-1 アンケートの回収状況
図表 1-2 回答した自治体と全国の人口規模別構成比
図表 1-3 人口規模別、全国と回答自治体の総人口比較
図表 1-4 市町村長の当選回数別の割合
図表 1-5 市町村長の年齢別分布
図表 1-6 回答自治体と全国の自治体のクラスター別の自治体比率
図表 2-1 アンケート調査で提示した施策
図表 2-2 重視してきた政策(第14順位の合計)
図表 2-3 重視してきた政策と回答した市町村長の割合(優先順位別)
図表 2-4 人口規模別、重視してきた政策(第1~4順位の合計)
図表 2-5 行財政改革を重要とする市長の割合 ―520万人の自治体を財政状況別にみる
図表 3-1 市町村長による政治判断の必要性
図表 3-2 「行政ルール(A)」と「政治判断(B)」についての考え方
図表 3-3 問3の優先順位別にみた、市町村長による政治判断の必要性
図表 3-4 政策分野ごとの政治判断の必要性に関する全政策平均(各順位)との差異
図表 3-5 「定住人口確保策」を重要施策とした市町村数
図表 3-6 「農林水産業の振興等」を重要施策とした市町村
図表 3-7 実証分析に用いた変数の記述統計
図表 3-8 政治判断の必要性に関する実証分析結果
図表 4-1 組織運営のあり方
図表 4-2 組織運営をする上での考え方
図表 4-3 人口規模別、「意思決定の内容」についての考え方
図表 4-4 人口規模別、「意思決定の期限」についての考え方
図表 4-5 カテゴリー分類
図表 4-6 カテゴリー1とカテゴリー2の市町村の属性の相違
図表 4-7 組織運営方針による市町村の差異
図表 5-1 アンケート13項目の3つの区分
図表 5-2 改革を進める上での障害
図表 5-3 都市規模でみた障害に関する回答の平均件数
図表 5-4 人口規模別、「財源が不足していること」についての市町村長の回答割合
図表 5-5 人口規模別、「職員の数や質が不十分であること」についての市町村長の回答割合
図表 5-6 人口規模別、「市町村長と議会が対立していること」についての市町村長の回答割合
図表 5-7 人口規模別、「住民が協力的でないこと」についての市町村長の回答割合
図表 5-8 人口規模別、「現行の法制度等を前提とした国・県等との調整が進まないこと」についての市長村長の回答割合
図表 5-9 緊急時における10個の課
図表 6-1 質問した16項目
図表 6-2 一般人と市町村長の性格平均
図表 6-3 一般人と市町村長の性格分布
図表 6-4 一般人と市町村長のリスク選好度
図表 6-5 市長と町村長の特徴
図表 6-6 コロナ禍前の政策選択と市町村長の特徴市区
図表 7-1 タイプ分けに関わる質問事項
図表 7-2 市町村長のリーダーシップの類型
図表 7-3 「取引型かつ漸進型」とそれ以外との差異
図表 9-1 伊達市の年齢別人口当たりの転入者(2019年)
図表 9-2 伊達市の概要
図表 9-3 伊達市長が重視してきた政策
図表 9-4 組織運営をする上での考え方
図表 10-1 富山市の都心地区・公共交通沿線居住推進地区マップ
図表 10-2 人口集中地区の人口増加率トップ5(2005年~2015年の増加率)
図表 10-3 富山市の概要
図表 10-4 富山市長が重視してきた政策
図表 10-5 「(A)行政のルール」と「(B)政治的な判断」についての考え方
図表 11-1 川南町の概要
図表 11-2 豚の産出額の伸び率と、食料品製造業の労働生産性の伸び率
図表 11-3 川南町長が重視してきた政策
図表 11-4 リーダーのタイプ(変革or漸進、鼓舞or取引)
図表 12-1 木津川市の概要
図表 12-2 人口510万人の市における人口増加率(2000年~2020年、上位5市)
図表 12-3 木津川市長が重視してきた政策
図表 12-4 リーダーのタイプ(変革or漸進、鼓舞or取引)
図表 13-1 年少人口の増加率(2010年~2020年)
図表 13-2 持ち家住宅1戸当たりの床面積の変化幅(2008年~2018年、上位5区)
図表 13-3 文京区の概要
図表 13-4 文京区長が重視してきた政策
図表 13-5 リーダーのタイプ(変革or漸進、鼓舞or取引)
図表 14-1 製造業における製造品出荷額等の大都市比較
図表 14-2 人口全体に占める生産年齢人口割合の減少幅(2010年~2020年、減少幅が少ないトップ5市)
図表 14-3 川崎市の概要  
図表 14-4 川崎市長が重視してきた政策
図表 14-5 改革を進める上での障害
図表 15-1 先駆的市町村長の政治判断の必要性
図表 15-2 先駆的首長のリーダーシップの類型
付表 1-1 クラスター分析に用いる変数
付表 1-2 デンドログラム
付表 1-3 各クラスターの特性
付表 1-4 各クラスターを構成する自治体リスト
付表 2-1 文書単語行列の頻出上位50
付表 2-2 各トピックの解釈
付表 2-3 人口規模別の各トピックの平均比率(%)
付表 2-4 クラスター別の各トピックの平均比率(%)
付表 2-5 財政力指数別の各トピックの平均比率(%)

調査概要

・調査方法:インターネット調査、郵送による調査
・調査対象者:全国の市町村長、東京23区長の計1,741自治体首長
・回収数:824件(回収率47.3%)
・調査期間:20201012日(月)から1130日(月)

研究体制

大久保敏弘  慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員
辻琢也    一橋大学大学院法学研究科教授/NIRA総研上席研究員
中川雅之   日本大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員
神田玲子   NIRA総研理事・研究調査部長
井上敦    NIRA総研研究コーディネーター・研究員
渡邊翔太   NIRA総研研究コーディネーター・研究員(~2021年3月)
鈴木壮介   NIRA総研研究コーディネーター・研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
NIRA総合研究開発機構・大久保敏弘・辻琢也・中川雅之(2022)「人口減少社会に挑む市町村長の実像と求められるリーダーシップ ー全国市町村長アンケート調査結果を中心にー」

©公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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