English version 研究報告書 2023.07.03 デジタル技術利用に関する企業調査(速報) この記事は分で読めます シェア Tweet 大久保敏弘 NIRA総合研究開発機構上席研究員/慶應義塾大学経済学部教授 NIRA総合研究開発機構 概要 慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室、(公財)NIRA総合研究開発機構では、「デジタル技術利用に関する企業調査(注1)」を実施した。本調査は、日本の企業におけるAI(人工知能)やロボットの利用状況、データ活用、経済安全保障対策などの実態を明らかにすることを目的に実施したものである。調査は2022年12月5日(月)~2023年2月28日(火)にかけて行われた。回収数は953件であった。速報結果は以下のとおり(注2)。 速報を読む(2023年7月3日公表) INDEX Ⅰ調査結果 1.デジタルツール・技術の利用率 2.人工知能・ロボットの利用率 3.人工知能の利用を阻む要因 4.人工知能が処理する業務 5.人工知能を利用した理由 6.人工知能、ロボットの影響、効果 7.人工知能技術の利用予定 8.テレワークの利用 9.テレワークを行っている従業員の割合 10.テレワークが認められている条件 11.経済安全保障対策 12.顧客の個人情報の収集・活用 13.データ越境移転規制の影響 Ⅱ調査概要 1.調査の趣旨・目的 2.調査名 3.主な調査項目 4.調査期間 5.調査方法 6.回収数 7.回答企業の属性 8.研究体制 9.外部資金 ポイント●人工知能を利用している企業は23%、ロボットを利用している企業は40%であった。●人工知能、ロボットを利用した理由として、回答割合が高かった選択肢は、「従業員が行っていた作業を自動化し、既存の労働力を省力化するため」、「プロセスや手法を改善し、業務効率や生産性、品質を高めるため」だった。●人工知能の利用を阻む要因として、「既存スタッフのスキルが不足している、または、適切なスキルを持つ人材の確保が困難である」ことを半数以上の企業が挙げた。●人工知能が処理する業務として回答割合が高かったのは、「研究者、情報処理・通信技術者の業務」、「事務従事者の業務」であった。一方、同割合が低かったのは、「販売従事者の業務」、「管理的職業従事者の業務」であった。●人工知能を利用することの影響は、どの項目でも「変化なし」と答える企業が最多だった。一方、比較的変化が見られた項目は、「ルーティン業務を行う労働者数」、「労働者全体の仕事量」、「労働者全体の仕事時間」の減少、「労働者全体の仕事効率」や企業の知識ストックの向上に関するものだった。●テレワークを利用している企業は77%であった。テレワーク利用開始時期別にみると、50%はコロナ禍初期(2020年2月~5月、第1回目の緊急事態宣下時含む)にテレワークを利用し始めた。●テレワーク実施企業のうち、従業員のテレワーク利用者割合が0~19%の企業だけで半数以上を占めた。企業としてテレワークを実施していても、実際に利用している従業員は限定的である。●テレワークを認めている雇用形態について、テレワークを実施している企業の99%は正規職員をテレワークの利用対象としているが、非正規職員をテレワークの利用対象としている企業は67%だった。●テレワークの場所について、「共同利用オフィス・テレワーク拠点」、「ホテル」、「飲食店・公共施設」を認めている企業は19~24%と限定的であった。 図表図1 デジタルツール・技術の利用率図2 人工知能・ロボットの利用率図3 人工知能の利用を阻む要因図4 人工知能が処理する業務図5-1 人工知能を利用した理由図5-2 ロボットを利用した理由図6-1 人工知能の影響、効果図6-2 ロボットの影響、効果図7 人工知能の利用予定図8 テレワークの利用図9 テレワークを行っている従業員の割合図10-1 テレワークが認められている条件―対象図10-2 テレワークが認められている条件―場所図10-3 テレワークが認められている条件―雇用形態図10-4 テレワークが認められている条件―テレワーク利用者に要請する出社の頻度図11-1 経済安全保障対策として、専門部署や担当役員、職員の配置図11-2 経済安全保障法制の影響図12 顧客の個人情報の収集・活用図13 データ越境移転規制の影響 Ⅰ調査結果 1.デジタルツール・技術の利用率 Q1.現在、貴社では、コミュニケーションを図るために、以下のデジタルツール・技術を利用していますか。(あてはまるものすべてに〇)(1)テレビ会議・Web会議(Zoom、Meet、Webex、Teamsなど)(2)チャットやSNSによる社内情報共有(Slack、LINE、Teams、Talknoteなど)(3)ファイル共有・共同作業(Dropbox、Google Drive、OneDrive、Boxなど)(4)リモートアクセス(SWANStor、Platform V System、Splashtop Business、RemoteCallなど)(5)タスク・プロジェクト管理(Trello、Backlog、Asana、Redmineなど)(6)VR・ARを用いた視覚情報の共有(HoloLens、Google Glass、Kom Eye AR、ARビューなど)Q2.現在、貴社では、業務管理のために、以下のデジタルツール・技術を利用していますか。(あてはまるものすべてに〇)(1)電子決裁(ジョブカンワークフロー、Create!Webフロー、WaWaFlow、J-MOTTOワークフローなど)(2)勤怠管理、グループウェア(outlook、サイボウズ、desknet’s NEO、Aipoなど)(3)従業員のメンタルヘルスチェック(jinjerワーク・バイタル、Refcome、Engage、音声こころ分析サービス、Geppoなど)(4)営業管理(Sales Cloud、kintone、Senses、Zoho CRMなど)(5)生産管理・販売管理・在庫管理(楽商、アラジンオフィス、楽楽販売、ExeQuintなど)(6)採用管理・育成管理(HRMOS採用、JobSuite CAREER、e2R PRO、SuccessFactorsなど)(7)人事管理(SmartHR、OBIC7、ジームクラウドHR、COMPANYなど)(8)会計管理(弥生会計、SuperStream-NX、OBIC会計情報ソリューション、Oracle Fusion Cloud ERPなど)(9)ブロックチェーンを用いた取引記録の蓄積、管理(IBM Blockchain、ContractGateなど)Q3.上記以外に、現在、貴社では、以下のデジタルツール・技術を利用していますか。(あてはまるものすべてに〇)(1)RPA(WinActor、Robotic Crowd、BizRobo!、SynchRoidなど)(2)バーチャルオフィス(Sococo、Remo、Remotty、oViceなど)(3)非接触型テクノロジー(自律配達車両、セルフレジ、顔認証、RFIDなど)(4)自動翻訳(Google翻訳、DeepL翻訳、Microsoft Translator、Amazon Translateなど)(5)BIツール(Tableau、Googleデータポータル、Domo、Lookerなど)(6)画像認識・画像解析ツール(Amazon Rekognition、Face API、Cloud Vision API、IBM Watson Visual Recognition APIなど)(7)各種仮想化技術を用いた業務システム(VMwareやCitrixの仮想化ソリューションなど) 選択肢に提示したデジタルツール・技術を1つは利用している企業の割合は、コミュニケーションツールで99%、業務管理ツールで95%、その他のデジタルツールで67%となった(図1)。 図1 デジタルツール・技術の利用率 コミュニケーションツールでは、利用率が高い順に、「テレビ会議・Web会議」、「ファイル共有・共同作業」、「チャットやSNSによる社内情報共有」となった。他方、利用率が低かったのは、「タスク・プロジェクト管理」、「VR・ARを用いた視覚情報の共有」が挙げられる。 業務管理ツールでは、利用率が高い順に、「勤怠管理、グループウェア」、「会計管理」となった。他方、利用率が低かったのは、「採用管理・育成管理」、「ブロックチェーンを用いた取引記録の蓄積、管理」が挙げられる。 その他のデジタルツールでは、利用率が高い順に、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」、「自動翻訳」、「BI(ビジネスインテリジェンス)ツール」となった。他方、利用率が低かったのは、「画像認識・画像解析ツール、「非接触型テクノロジー」、「バーチャルオフィス」が挙げられる。 2.人工知能・ロボットの利用率 Q5.現在、貴社では、業務や生産工程で、人工知能やロボットをどの程度利用していますか。(それぞれあてはまるもの1つに〇)なお、人工知能、ロボットの定義は以下をご確認ください。【人工知能】 大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの。【ロボット】 生産およびサービスにおいて自動化された機械。 人工知能を利用している企業の割合(「頻繁に利用している」、「適度に利用している」、「少しは利用している」の合計、以下同)は23%となった。また、ロボットを利用している企業の割合は40%であった(図2)。 図2 人工知能・ロボットの利用率 3.人工知能の利用を阻む要因 Q4.人工知能の利用を阻む要因として、貴社が課題や障壁として経験したことを回答してください。 人工知能の利用を阻む要因として、内部要因と外部要因に分けて、あてはまるものすべてを選んでもらったところ、回答割合が高かった順に、「既存スタッフのスキルが不足している、または、適切なスキルを持つ人材の確保が困難である」(57%)、「導入のコストが大きい、または、導入資金や運用資金が不足している」(42%)、「既存の業務プロセスに適応させるためのコストが大きい」(36%)となった(図3)。これらはいずれも内部要因であり、外部要因よりも内部要因が人工知能の利用の障壁となっていることがわかる。特に、スキルをもった人材の確保は半数以上の企業が挙げており 、多くの企業にとって、人工知能の利用を阻む要因となっている。人工知能の利用の障壁を低くするには、ユーザー企業がスキルを向上させるとともに、人工知能の製品やソリューションを提供する企業が、各企業のニーズに合わせて、よりユーザーフレンドリーな人工知能を作っていく必要があることが伺える。 図3 人工知能の利用を阻む要因(クリックすると拡大します。) 4.人工知能が処理する業務 (人工知能を「利用している」と回答した企業のみ)Q6.貴社の人工知能は、通常、職業従業者が従事する以下の業務を、どの程度行っていますか。各業務についてお答えください。(それぞれあてはまるもの1つに〇)(1)管理的職業従事者(会社・団体の課長以上)の業務(2)研究者、情報処理・通信技術者(システムエンジニア・プログラマーなど)の業務(3)(2)以外の専門的・技術的職業従事者(弁護士・公認会計士・金融・保険専門職業従事者、翻訳家、編集者、デザイナーなど)の業務(4)事業企画職(マーケティング、企画など)の業務(5)事務従事者(一般事務、会計事務、オペレーター、営業事務員など)の業務(6)販売従事者(小売店、卸売店の店主や店員、外交員、不動産仲介など)の業務 人工知能を利用している企業のうち、人工知能が処理する業務(「ほぼ行っている」、「一部行っている」の合計、以下同)として回答割合が高かったのは、「研究者、情報処理・通信技術者の業務」(48%)、「事務従事者の業務」(47%)であった(図4)。一方、同割合が低かったのは、「販売従事者の業務」(23%)、「管理的職業従事者の業務」(19%)であった。 図4 人工知能が処理する業務 5.人工知能を利用した理由 (人工知能を「利用している」と回答した企業のみ)Q7.貴社が業務や生産工程で、人工知能を利用した理由はなぜですか。(あてはまるものすべてに〇)Q9.貴社が業務や生産工程で、ロボットを利用した理由はなぜですか。(あてはまるものすべてに〇)(1)従業員が行っていた作業を自動化し、既存の労働力を省力化するため(2)不足している労働力を補完するため(3)プロセスや手法を改善し、業務効率や生産性、品質を高めるため(4)商品またはサービスの生産範囲を拡大し、新しい価値をもった業務を創出するため(5)先端技術を採用し、業務に取組む意欲や満足度を高めるため(6)その他 業務や生産工程で、人工知能、およびロボットを利用した企業に、それぞれ利用理由を聞いた。 人工知能を利用した理由について、回答割合が高かった選択肢は、「従業員が行っていた作業を自動化し、既存の労働力を省力化するため」(68%)、「プロセスや手法を改善し、業務効率や生産性、品質を高めるため」(64%)が挙げられる。 一方、ロボットを利用した理由について、回答割合が高かった選択肢は、人工知能の結果と同様、「従業員が行っていた作業を自動化し、既存の労働力を省力化するため」(85%)、「プロセスや手法を改善し、業務効率や生産性、品質を高めるため」(56%)が上位に並んだが、特に既存の労働力の省力化の回答割合が高かった。また、「不足している労働力を補完するため」という理由も、人工知能と比較して、回答割合が高かった。 図5-1 人工知能を利用した理由 図5-2 ロボットを利用した理由 6.人工知能、ロボットの影響、効果 (人工知能を「利用している」と回答した企業のみ)Q8.貴社が業務や生産工程で人工知能を利用することで、どのような影響や効果がありましたか。(それぞれあてはまるもの1つに〇)(ロボットを「利用している」と回答した企業のみ)Q10.貴社が業務や生産工程でロボットを利用することで、どのような影響や効果がありましたか。(それぞれあてはまるもの1つに〇)(1)労働者数全体(2)生産部門の労働者数(3)生産部門以外の労働者数(管理・事務・技術労働者など)(4)(3)のうち、技術を管理・監督する労働者数(5)労働者全体の仕事量(6)労働者全体の仕事時間(7)労働者全体の仕事効率(8)労働者のSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の知識・専門性・ノウハウ(9)労働者のSTEM分野以外の知識・専門性・ノウハウ(10)熟練の技や独自のノウハウを持った労働者数(11)ルーティン業務を行う労働者数(12)非ルーティン業務を行う労働者数 以下では、人工知能を利用している企業における、人工知能を利用することの影響をみていく(図6-1)。 図6-1 人工知能の影響、効果 労働者の数については、どの部門の労働者であっても「変化なし」の回答割合が非常に高い結果となった(62~72%)。人工知能の利用により、労働者数が変化した企業はごく一部であることがわかる。なお、「減少した」の回答割合は「増加した」よりもやや高い結果となった。また、「減少した」の回答割合が比較的高かったのは「生産部門の労働者数」(9%)だった。 ルーティン業務とノンルーティン業務を行う労働者数については、「変化なし」の回答割合が高い結果となったが、ルーティン業務を行う労働者はノンルーティン業務を行う労働者よりも、「減少した」との回答割合が高く、27%に上る。業務内容によって人工知能の利用の影響が大きく異なることがわかる。 労働者の仕事の量・時間・効率性については、いずれも「変化なし」の回答割合が高い結果となった(38~47%)。一方で、変化があった企業もある程度存在し、仕事量、時間が「減少した」の回答割合は26~28%、仕事効率が「向上した」の回答割合は34%となった。 労働者の知識・専門性・ノウハウについては、「変化なし」の回答割合が高い結果となった。一方で、STEM分野の知識・専門性・ノウハウが「向上した」の回答割合は20%、STEM分野以外の知識・専門性・ノウハウが「向上した」の回答割合は13%となり、一部の企業では人工知能を利用することで知識ストックが高まったことが伺える。 以上の結果からは、人工知能を利用することの影響として、ルーティン業務を行う労働者数、労働者の仕事量、仕事時間が減る一方、仕事効率、企業の知識ストックが高まっていることが伺える。 ロボットを利用することの影響については、全般的に人工知能に関してみられた傾向がより顕著に表れている(図6-2)。特に、仕事効率が「向上した」の回答割合は高く、42%に上る。さらに、「生産部門の労働者数」の減少や、「労働者数全体」の減少も、人工知能の結果に比べて、回答割合が高い。一方、知識・専門性・ノウハウについては、「向上した」の回答割合は、人工知能の結果よりも低くなった。 図6-2 ロボットの影響、効果 なお、「わからない」の回答割合を人工知能(図6-1)とロボット(図6-2)で比較すると、全般的に人工知能のほうが高い。ロボットの影響、効果の方が見極められており、人工知能については評価がまだ途上であることが伺える。 7.人工知能技術の利用予定 Q11.以下の人工知能の技術について、貴社の現状および今後の利用予定をお答えください。(1)音声認識、機械翻訳、チャットボットなど、自然言語処理(文法やスペルチェックは除く)(2)視覚認識、顔認識、画像認識などコンピュータビジョン(3)不正検知やリスク分析など、異常検知(4)感情や行動を分析する、いわゆるセンチメント分析(5)機械学習アルゴリズムによる予測、価格最適化、意思決定(古典的な統計手法の利用は除く)(6)人工知能を用いたプロセスや設備の最適化(プログラマブルロジックコントローラ(PLC)による最適化は除く)(7)人工知能を用いたレコメンデーション&パーソナライゼーションエンジン(8)人工知能を用いたプロセスオートメーション(倉庫の自動化、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを含む)(9)スマートな自律型ロボットや車両などの自律型機械(10)仮想空間に物理空間の環境を再現し、実際の対象物を用いない実験(仮想実験)や製品を再現するなど(デジタルツイン)、IoTや人工知能を用いたシミュレーション 人工知能技術の今後の予定について、回答割合(「現在利用している」および「2年以内に利用を開始する予定がある」の合計、以下同)が高い順に、「音声認識、機械翻訳、チャットボットなど、自然言語処理」(29%)、「人工知能を用いたプロセスオートメーション」(22%)、「不正検知やリスク分析など、異常検知」(22%)、「視覚認識、顔認識、画像認識などコンピュータビジョン」(20%)となった(図7)。自然言語処理が最も高くなった背景には、2022年11月末に公開されたChatGPTの急速な浸透があるかもしれない。 図7 人工知能の利用予定 一方、回答割合が低かった項目として、「人工知能を用いたプロセスや設備の最適化」(8%)、「人工知能を用いたレコメンデーション&パーソナライゼーションエンジン」(6%)、「自律型機械」(6%)、「センチメント分析」(4%)が挙げられる。 8.テレワークの利用 Q14.貴社は現在、テレワークを実施していますか。実施している場合は、開始時期をお答えください。(あてはまるもの1つに〇)なお、ここでのテレワークの実施とは、実証実験は含まず、制度としてテレワークを実施している場合を指します。また、全社的なテレワークの実施だけではなく、一部の部門での実施の場合も含みます。テレワークの定義については以下をご確認ください。【テレワーク】 インターネットやメールなどのICT(情報通信技術)を利用した、場所などにとらわれない柔軟な働き方としています。通常の勤務地(自社および顧客先、出先など)に行かずに、自宅やサテライトオフィス、カフェ、一般公共施設など、職場以外の場所で一定時間働くことを指します。具体的には、在宅勤務、モバイル勤務、施設利用型勤務などが該当します。ただし、移動交通機関内や外回り、顧客先などでのICT利用は含みません。また、回答者が個人事業者・小規模事業者等の場合には、SOHOや内職副業型(独立自営の度合いの業務が薄いもの)の勤務もテレワークに含まれます。 調査時点でテレワークを利用している企業の割合は77%となった。また、テレワーク利用開始時期別にみると、50%はコロナ禍初期(2020年2月~5月、第1回目の緊急事態宣下時含む)にテレワークを利用し始めたことがわかった。 図8 テレワークの利用 9.テレワークを行っている従業員の割合 (制度としてテレワークを実施していると回答した企業のみ)Q15.貴社の従業員のうちテレワークを行っている人は何%程度ですか。(あてはまるもの1つに〇) 制度としてテレワークを実施している企業で、テレワークを行っている従業員の割合をみると、「0~10%未満」が39%、「10~19%」が13%となり、テレワークを行っている従業員の割合が19%以下の企業だけで半数以上になった(図9)。企業としてテレワークを実施していても、実際に利用している従業員は限定的であることが伺える。 図9 テレワークを行っている従業員の割合 10.テレワークが認められている条件 (テレワークを実施していると回答した企業のみ)Q16.現在、テレワークが認められている条件について、あてはまるものを回答してください。条件を付けず、テレワークの利用条件を限定していない場合には、「特に限定していない」のみを回答してください。1.対象(あてはまるものすべて〇)(1)特定の部署・職種(2)育児・介護・看病などの家庭の事情や、自身の病気療養等の事情がある特定の社員(3)自然災害・感染病の蔓延・公共交通機関の麻痺などの緊急時(4)特に限定していない(5)その他2.場所(あてはまるものすべて〇)(1)自宅(2)会社のサテライトオフィス(3)共同利用オフィス・テレワーク拠点(会社のサテライトオフィスを除く)(4)飲食店・公共施設(図書館・学校・公民館・公園など)(5)ホテルなど(ワーケーションの利用場所)(6)特に限定していない(7)その他3.雇用形態(あてはまるものすべて〇)(1)正規職員(2)非正規職員(パート・アルバイト、派遣労働者、契約職員・嘱託)(3)役員(4)特に限定していない(5)その他4.テレワーク利用者に要請する出社の頻度(最もあてはまるもの1つに〇)(1)出社は要請していない(2)1か月で3日以下(3)週1日(4)週2日(5)週3~4日(6)週5日以上(出勤日は出社を要請しているが、1日のうち一部でテレワークを認めている等) テレワークを実施している企業において、テレワークが認められている条件についてみていく。 対象に関しては、「特に限定していない」と回答した企業は49%となった(図10-1)。また、テレワークを実施している企業の25~35%は、部署・職種、家庭や個人の事情、感染症対策や公共交通機関の麻痺などの緊急時に限定して、テレワークを認めていることがわかる。 図10-1 テレワークが認められている条件―対象 場所に関しては、「特に限定していない」と回答した企業は17%となった(図10-2)。また、テレワークを実施しているほとんど企業で、自宅をテレワークの場所として認めていることがわかる。「特に限定していない」、「自宅」を合わせると、テレワークを実施している企業の99%が自宅でのテレワークを認めていることになる。一方、「共同利用オフィス・テレワーク拠点」、「ホテル」、「飲食店・公共施設」でテレワークを認めている企業は限定的であり、「特に限定していない」と合わせても、19~24%となった。 図10-2 テレワークが認められている条件―場所 雇用形態に関しては、「特に限定していない」と回答した企業は48%となった(図10-3)。また、テレワークを実施しているほとんど企業で、正規職員をテレワークの対象としており、「特に限定していない」、「正規職員」を合わせると、テレワークを実施している企業の99%が正規職員にテレワークを認めていることになる。一方、「特に限定していない」、「非正規職員」を合わせると67%となり、テレワークを実施している企業であっても非正規職員には認めていない企業が33%に上ることがわかった。 図10-3 テレワークが認められている条件―雇用形態 テレワーク利用者に要請する出社の頻度に関しては、「出社は要請していない」の回答が最も多く42%、次に「週3~4日」が23%となった(図10-4)。出社の要請頻度には、企業によってばらついていることがわかる。 図10-4 テレワークが認められている条件―テレワーク利用者に要請する出社の頻度 11.経済安全保障対策 Q21.貴社は経済安全保障対策として、専門部署や担当役員、職員を設置していますか。(あてはまるもの1つに〇)Q22.経済安全保障法制の強化(半導体など重要物資のサプライチェーンの確保、基幹インフラ設備の事前審査、先端技術開発、特許の非公開)は、貴社の企業活動に影響を与えていますか。(あてはまるもの1つに〇) 経済安全保障対策として、専門部署や担当役員、職員を配置している企業は11%であった(図11-1)。また、経済安全保障法制の強化は、企業活動に影響がある(「大いに影響がある」、「多少影響がある」の合計)と回答した企業は45%であった(図11-2)。 図11-1 経済安全保障対策として、専門部署や担当役員、職員の配置 図11-2 経済安全保障法制の影響 12.顧客の個人情報の収集・活用 Q23.貴社における顧客の個人情報の収集・活用について、お答えください。(あてはまるものすべてに〇) なお、個人情報の定義は以下をご確認ください。(1)自社で収集し、自社内で活用している(2)自社で収集し、関連会社と連携して活用している(3)自社で収集し、社外へ無償で提供している(4)自社で収集し、社外へ販売している(5)自社で収集しているが、活用・提供はしていない(6)関連会社や社外から無償で取得している(7)関連会社や社外から購入している(8)現在は収集や取得・活用をしていないが、将来的には収集・取得・活用・提供することを検討している(9)現在は収集・取得・活用・提供をしておらず、検討もしていない【個人情報】 属性情報や購買履歴など、顧客個人に関する情報を指します。特定の個人を識別することができるかどうかは問わず、匿名加工情報も含みます。 個人情報の収集・活用の状況について、回答割合が高かった項目は、「自社で収集し、自社内で活用している」で65%、「現在は収集・取得・活用・提供をしておらず、検討もしていない」で22%、「自社で収集し、関連会社と連携して活用している」で16%となった。 個人情報を関連会社や社外から購入したり、逆に、社外に販売、提供している企業はごくわずかである。 図12 顧客の個人情報の収集・活用 13.データ越境移転規制の影響 Q24.EUでは、GDPR(一般データ保護規則)が2018年5月25日から適用され、EUを含む欧州経済領域(EEA)域内で取得した個人情報をEEA域外に移転することを原則禁止しています。また、中国は、「サイバーセキュリティ法」のもと、海外へのデータ移転に関する規制を強化しています。これらのデータ越境規制は、貴社の企業活動に影響を与えていますか。EUと中国の規制について、それぞれお答えください。(それぞれあてはまるもの1つに〇) データ越境移転規制の影響が企業活動に及ぼす影響について、影響がある(「大いに影響がある」、「多少影響がある」)と回答した企業は、EU、中国のいずれの規制においても、10%強であった。 図13 データ越境移転規制の影響 Ⅱ調査概要 1.調査の趣旨・目的 近年、情報通信処理技術の飛躍的な進歩により、遠隔での業務の実施や業務の自動化が進み、業務プロセスの見直しや部門の再編成など、組織的な変革が行われている。本調査は、こうした状況を踏まえて、日本の企業におけるAI(人工知能)やロボットの利用状況、データ活用、経済安全保障対策などの実態を明らかにすることを目的として実施した。 2.調査名 デジタル技術利用に関する企業調査 3.主な調査項目 ・デジタルツール・技術の利用状況・人工知能の利用を阻む要因・人工知能、ロボットの利用状況・人工知能、ロボットを利用している理由・人工知能、ロボットを利用することの影響・人工知能の今後の利用予定・IT投資額・IT投資の目標、計画・テレワークの利用状況・テレワークの利用条件・輸出、海外直接投資、業務・技術提携の状況・経済安全保障対策の状況・個人情報の収集・活用の状況・データ越境移転規制の影響 4.調査期間 2022年12月5日(月)~2023年2月28日(火) 5.調査方法 1)実施方法:郵送およびWeb調査2)調査機関:株式会社東京商工リサーチ3)調査対象企業:日本の大企業、および中堅企業を対象とした。具体的には、株式会社東京商工リサーチが保有する企業データベースから、以下の①、②の企業、計10,500社を抽出し、調査を依頼した。 ①上場企業すべて(3,989件) ②①を除く、以下(a)~(d)に該当する株式会社・有限会社 (a)卸売業、資本金3億1千円以上で従業員301名以上(320社) (b)小売業、資本金3億1千円以上または従業員301名以上(139社) (c)サービス業、資本金5千万1千円以上で従業員101名以上(1,852社) (d)製造業・その他、資本金3億円以上または従業員300名以上(4,200社) 6.回収数 総数:953件 10,500社に調査票を送付し、953社から回答を得た(回答率9.1%)。 7.回答企業の属性 (注)「サービス業」には、学術研究・専門・技術サービス業、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、他に分類されないサービス業が含まれている。また、「その他」には、農業、林業、鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸業、郵便業、不動産業、物品賃貸業、教育、学習支援業、医療、福祉が含まれている。 8.研究体制 大久保敏弘 慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員加藤究 フューチャー株式会社シニアアーキテクト/NIRA総研上席研究員神田玲子 NIRA総研理事・研究調査部長井上敦 NIRA総研研究コーディネーター・研究員関島梢恵 NIRA総研研究コーディネーター・研究員鈴木壮介 NIRA総研研究コーディネーター・研究員 9.外部資金 本調査研究は科研費(基盤研究B「大規模災害時代の「災害の経済学」と防災-国際貿易・空間経済学の視点から」研究代表者:大久保敏弘19H01487、基盤研究B「ポストコロナの世界経済とデジタル経済:国際貿易・空間経済学・災害の経済による分析」研究代表者:大久保敏弘23H00812)、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム(研究代表者:大久保敏弘)、旭硝子財団サステイナブルな未来への研究助成(「自然災害における家計の防災意識とエネルギー意識に関する実証研究」:研究代表者:大久保敏弘)の補助を受けている。 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2023)「デジタル技術利用に関する企業調査(速報)」 脚注 1 この一連の調査研究は科研費(基盤研究B「大規模災害時代の「災害の経済学」と防災-国際貿易・空間経済学の視点から」研究代表者:大久保敏弘19H01487、基盤研究B「ポストコロナの世界経済とデジタル経済:国際貿易・空間経済学・災害の経済による分析」研究代表者:大久保敏弘23H00812)、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム(研究代表者:大久保敏弘)、旭硝子財団サステイナブルな未来への研究助成(「自然災害における家計の防災意識とエネルギー意識に関する実証研究」:研究代表者:大久保敏弘)の補助を受けている。 2 本文の図表中の構成比(%)は小数第1位を四捨五入しているため、内訳の合計が100%にならない場合がある。また、本文中の数値の記載と一致しない場合がある。 ※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp シェア Tweet 関連公表物 21世紀の「資源」:ビッグデータ NIRA総研 DIJ(ドイツ日本研究所) AI時代の人間の強み・経営のあり方 柳川範之 新井紀子 大内伸哉 AI時代の雇用の流動化に備えよ 大内伸哉 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