研究報告書 2022.04.28 テレワーク、感染症対策から得た教訓とはコロナ禍で見えた効果、課題、近未来 この記事は分で読めます シェア Tweet 大久保敏弘 NIRA総合研究開発機構上席研究員/慶應義塾大学経済学部教授 井上敦 NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員 関島梢恵 NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員 概要 2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が蔓延し、社会のデジタル化が急速に進んだ。コロナ禍を契機に加速するデジタル化の波に乗りきれるかは、日本経済の明暗を左右するのは間違いない。また、国際経済・グローバリゼーションの観点からは、テレワークを活用することで、ホワイトカラー労働者が国際競争の波に晒されるようになる。 こうした認識に立ち、NIRA総研と慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室は、「テレワークに関する就業者実態調査」を過去6回にわたって共同で実施し、データ分析を行った。その結果、テレワークで仕事効率を上げるためには、職場とICTでつながるだけでは不十分であることがわかった。評価基準や業務分担を明確にし、仕事に集中できる空間を確保しなければならない。またテレワークの利用機会は、職業はタスクを調整しても、企業規模や地域の差が残る。これらの均等を図るには、労働者のICTスキルを高めるとともに、企業組織や地方のデジタル環境、テレワークを可能とする就業制度の整備が必要である。さらに、テレワークは感染症対策として機能する可能性が高く、テレワークの活用で人流がある程度は緩和されたことも推察された。 サマリーを読む 全文を読む INDEX ポイント●感染症対策としての機能するテレワーク 東京圏における人流変化とテレワーク利用の関係を分析すると、第1回目の緊急事態宣言の時期に都心の平日昼間の滞在人口が大きく減少する一方、都内の他のエリアでは滞在人口が増加した。つまり、テレワークの活用で通常は通勤者で密集するビジネスエリアの人流がある程度は緩和されたことが推察できた。さらなる研究の蓄積は期待されるものの、テレワークは今後も公衆衛生上の対策の1つとして有力視されるだろう。●テレワークの仕事効率向上に不可欠な仕事、働き方の刷新 コロナ禍でのテレワークと仕事効率の関係を分析した研究では、テレワークで仕事効率が低下したとする結果が多くを占める。効率の変化をプラス面とマイナス面にわけて分析すると、仕事効率の低下には、仕事の裁量が少ない、リモートからオフィスにアクセスができないことが関係していた。一方、仕事効率の上昇には、評価基準や業務分担が明確であること、静かな部屋で仕事により集中できることが影響する。単に働く場所をリモートに移し、ICTでオフィスとつながるだけでは仕事効率の向上は期待できない。既存の仕事や働き方をアレンジするとともに、快適な仕事部屋を確保してテレワークのメリットを享受しやすい状態に変える必要がある。●テレワークの利用機会の均等に必要な ICTスキル向上、デジタル環境整備 コロナ禍では、職場や職種、所得などによってテレワークの利用状況が大きく異なり、テレワークの利用機会の均等の課題が表面化した。例えば、男女間では、女性のテレワーク利用率は低い。その要因を分析すると、これは、職業やタスクが男女間で異なるためであり、性別以外の要因を考慮すると、女性の方がテレワークの利用率は高くなる。ここから、テレワークは女性にとって労働参加の重要なツールになることが伺える。また、1回目の緊急事態宣言時には、非正規労働者は正規労働者と比較して、テレワーク利用が進んでいなかったが、その後、2021年9月時点では両者の差は認められなかった。他方、個人のICTスキル、大企業と中小企業、大都市圏と地方の間では、職業はタスクを調整してもテレワーク利用率に差がみられ、労働者のICTスキルや、企業組織や地方のデジタル環境、就業環境整備の改善が、テレワークの利用機会の均等につながることがわかった。●日本経済の5つの課題 テレワークを有効活用するには、日本経済の課題に政府が取り組むことが求められる。 第1に個人のデジタルスキルの向上だ。デジタルスキルの蓄積は、企業組織単位ではなく、個人レベルで行われることが望ましい。個人への支援を通じて、社会全体のレベルアップを目指すべきである。第2に、再教育や労働調整の問題だ。日進月歩の科学技術に対応するためには、インセンティブを確保した再教育が必要である。第3に、雇用環境の整備だ。テレワークで有能な外国人頭脳労働者を取り込んだり、日本に居ながらにして海外でも仕事ができる雇用環境の整備が求められる。第4に、職場と居住、都市と地方を結ぶためのインフラ整備だ。デジタルインフラを日本各地で進め、東京一極集中の緩和、地方創生につなげるもとともに、地方や低所得者に対してデジタル格差が及ばないようにすることが重要だ。第5に、さらなるデジタル技術の推進を後押しするための研究体制の充実だ。産官学の垣根を超えて研究をする必要がある。 目次総論 デジタル経済とテレワークの進展第1章 感染症対策としてのテレワーク第2章 テレワークによる仕事効率の変化第3章 テレワークの利用機会の均等第4章 テレワークの可能性を問う ー実務家たちによる座談会ー 図表図1 テレワーク利用率の推移図2 都道府県別のテレワーク利用率の推移図3 仕事の効率(全体)図4 仕事の効率(職種別)図5 就業者実態調査から作成した職種別テレワーク可能指標とテレワーク利用率表6 自宅スペースの有無とテレワークの効率性図7 自動化・在宅勤務ボックスダイアグラム付表1 通勤時間別でみたテレワーク利用率付表2 就業者実態調査から作成した職種別テレワーク可能指数付表3 テレワークの利用場所図1-1 東京都における平日の滞在人口の増減(左:昼 右:夜)図1-2 テレワーク利用率と平日昼の滞在人口の変化率との関係(東京圏、2020年4~5月)図2-1 テレワークの仕事効率を低下させると認識されている要因図2-2 テレワークの仕事効率を上昇させると認識されている要因図2-3 マイナス要因と主観的効率性図2-4 プラス要因と主観的効率性付表2-1 テレワークのマイナス要因、プラス要因とテレワーク利用者の主観的効率性図3-1 性別でみたテレワーク利用率の差図3-2 雇用形態別でみたテレワーク利用率の差図3-3 緊急事態宣言発令時(1回目、2020年4~5月)の雇用形態別でみたテレワーク利用率の差図3-4 ICTスキル別でみたテレワーク利用率の差図3-5 企業規模別でみたテレワーク利用率の差図3-6 地域とテレワーク利用率付表3-1 職業内のタスクの違いとテレワーク利用率の差付表3-2 所得階層別のテレワーク利用率付表3-3 記述統計付表3-4 属性、特性間にみられるテレワーク利用率の差のまとめ付表3-5 推定結果付表3-6 管理的職業のICTスキルとノンルーティンスキルの程度付表3-7 企業規模別でみたICTツール利用率、コロナ禍での就業規則の変更の実施率の差付表3-8 地域別でみた ICT ツール利用率、テレワークにより仕事の効率性を維持できるという認識の差図4-1 産業別でみたテレワーク利用率表4-2 テレワークでの業務効率の上昇要因・低下要因図4-3 新型コロナウイルス感染拡大後の組織の変化図4-4 産業別、テレワークによる海外へのアウトソーシングの可否 調査概要 「テレワークに関する就業者実態調査」は、テレワークに関する就業者実態調査は、新型コロナウイルスの感染拡大による、全国の就業者の働き方、生活、意識の変化や、業務への影響等の実態を捉えることを目的とした、NIRA総研と慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室による共同研究である。 詳細については、こちらからご確認ください。 研究体制大久保敏弘 慶応義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員加藤究 フューチャー株式会社シニアアーキテクト/NIRA総研上席研究員神田玲子 NIRA総研理事・研究調査部長井上敦 NIRA総研研究コーディネーター・研究員関島梢恵 NIRA総研研究コーディネーター・研究員鈴木壮介 NIRA総研研究コーディネーター・研究員 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)大久保敏弘編著(2022)「テレワーク、感染症対策から得た教訓とはーコロナ禍で見えた効果、課題、近未来ー」NIRA総合研究開発機構 シェア Tweet 関連公表物 テレワークの可能性を問う ー実務家たちによる座談会ー NIRA総合研究開発機構 感染症対策か経済対策か 大久保敏弘 コロナショックが加速させる格差拡大 大久保敏弘 テレワークを感染症対策では終わらせない 大久保敏弘 公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ