政策共創の場No.4 2024.12.16 日本のエネルギー政策は何を目指すべきか制度・政策の変遷と論点整理 この記事は分で読めます シェア Tweet 宇田川淑恵 NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員 前田裕之 NIRA総合研究開発機構「政策共創の場」プロジェクトプロジェクト・パートナー リード文デジタル化が進む中、脱炭素・カーボンニュートラルや再生エネルギーの導入など地球環境に配慮した試みに向けて、世界各国でエネルギー政策への試行錯誤が続いている。さて、NIRA総合研究開発機構で一般の方に専門家へ聞きたい内容についてアンケートを実施したところ、エネルギー政策の関連では以下の問いが寄せられた。・脱炭素社会の実現に向けた見通しはあるのか・脱炭素に向けた取り組みは現行ペースで十分か・脱炭素社会への具体策はどのようなものかなどである。本稿ではこれらの質問に答えるために、日本のエネルギー自給率、需給などの基礎データを整理し、今後のエネルギー政策のあり方について論点をまとめ、エネルギー政策の現状とこれまでの変遷を概観した。キーワード:今後のエネルギー政策、脱炭素とGX(グリーントランスフォーメーション)、S+3Eの考え方 PDFで読む INDEX はじめに 1.日本におけるエネルギーの現状 1-1.エネルギー自給率 1-2.エネルギーの電源構成 1-3.温室効果ガス排出量の推移 2.エネルギー政策における論点と専門家の見解 2-1.エネルギー政策の争点 3.日本のエネルギー政策の体系と変遷 3-1.日本のエネルギー政策の基本的な考え方 3-2.エネルギー政策の変遷:5つの段階 4.総括 はじめに 日本の安全神話が崩壊した2011年3月の福島第一原子力発電所事故から、13年の月日が経つ。原発事故による被害や今後の原発の在り方が議論される一方、エネルギー政策を取り巻く外的状況も大きく変化した。デジタル化が進む中、脱炭素・カーボンニュートラルや再生エネルギーの導入など地球環境に配慮した試みに向けて、世界各国で試行錯誤が続く。さらに、昨今のウクライナ情勢を契機に、各国のエネルギー需給や地政学上の課題が浮き彫りとなり、安定した電力の確保への関心が強まっている。 本稿では、日本のエネルギー自給率、需給などの基礎データを整理し、今後のエネルギー政策のあり方について専門家の見解を基に論点を把握する。後半では、エネルギー政策の現状とこれまでの変遷を概観する。 1.日本におけるエネルギーの現状 エネルギーは、人びとの暮らしや産業に欠かせない生産要素である。本項では、エネルギーに関する3つの基礎データである「エネルギー自給率」、「温室効果ガス排出量」、「エネルギー発電の電源構成(電力を作るエネルギーの種類で分類した発電設備の割合)」を整理し、政府の目標値と現状を確認する。 1-1.エネルギー自給率 石油・石炭・天然ガス・太陽光・風力のエネルギーは、発電所や石油精製工場などを経て、電力や都市ガス、石油製品に転換、加工され、家庭や企業が最終的に消費する。石油や石炭などを一次エネルギー、電力や都市ガスを二次エネルギーという(図1)。 図1 一次エネルギーと二次エネルギー (出所)経済産業省「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」を基にNIRA作成。 エネルギー自給率とは、一次エネルギーのうち、国内で産出・確保できる比率をいう。日本のエネルギー自給率は2022年度時点で12.6%であり、OECD34カ国中で低い方から2番目(2021年)である。非資源産出国のスペイン(2021年度30.5%)やイタリア(2020年度25%)よりも、かなり低い。 エネルギー自給率が低いことは、国際情勢の不安定さが増していく現状において、安定供給へのリスクとなる。日本では、海外から輸入する石炭・石油・天然ガスの化石燃料が一次エネルギーの83.5%を占めており、輸入依存度が高い(図2)。資源に乏しく、欧州のように他国と送電ネットワークのつながりがない日本にとって、自給率の向上は喫緊の課題である。 図2 一次エネルギー供給構成 (出所)資源エネルギー庁「令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」に基づきNIRA作成。 日本のエネルギー自給率の推移をみると、2011年の東日本大震災までは、ほぼ20%の水準であったが、震災後は原子力発電の停止により6%台に落ち込み、最近では13%の水準で推移している(図3)。 図3 日本のエネルギー自給率の推移 (出所)資源エネルギー庁「令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」に基づきNIRA作成。 他方、日本全体のエネルギー消費量は2005年度以降減少しており、2022年度は、2013年度と比べて15.8%減だった(年率1.9%減)。その内訳をみると、最も大きなシェアを占めているのは企業・事業所他部門で、2022年度はエネルギー消費全体の61.3%(経済産業省「エネルギー白書」2024)。続いて運輸部門で23.6%、家庭部門は15.0%となる。 また、エネルギーを使ってどれだけの生産を行っているかを示すエネルギー効率(1単位の国内総生産=GDPを生み出すために必要な一次エネルギーの供給量)をみると、2022年度は、1973年度の半分以下の水準にまで低下している。諸外国と比較してすでに低水準にあることから、日本は省エネによる効率の向上余地が少ないと言われている。 1-2.エネルギーの電源構成 日本のエネルギー供給には、どのような電源が使われているのか。2022年度の電源構成比をみると、化石燃料72%程度、再エネ22%程度、原子力5.5%であった(図4)。再エネと原子力を合わせた非化石燃料は、およそ27%で全体の3割となる。 図4 電源構成比と年間発電電力量の推移 (出所)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計 時系列表」を基にNIRA作成。 さまざまな電源をどう組み合わせるかによって、エネルギーの安定供給がどの程度実現されるのか、また、どの資源をどの程度他国に依存するかが決まる。使用する主要なエネルギー源を1つに絞ることが大きなリスクであることから明らかなように、エネルギーの安定供給のためには、複数の種類の電源を組み合わせて効率的に電力を供給することが求められる。これをエネルギーミックス(最適な電源構成)という。 1-3.温室効果ガス排出量の推移 動植物などが地中に堆積してできた化石燃料は、二次エネルギーに転換・加工する際に二酸化炭素(CO₂)を含む温室効果ガスを排出する。燃料を燃焼する過程で発生するものであり、このエネルギー起源のCO₂が日本の温室効果ガス排出量の9割程度を占める。政府は、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言し、エネルギー起源のCO₂を2030年度には、2013年の12.4億トンから6.8億トンへと45%程度削減することを目標に掲げている。日本のCO₂排出量の推移をみると、2013年度をピークに減少傾向にあり、2013年度の約13億1,800万トンから2022年度には約10億3,700万トンと、2013年度対比で21.3%減となった。 また、CO₂の排出量を部門別にみると、工場等の産業部門が最も多く、次いで、自動車などの輸送部門、商業・サービス・事業所等の業務その他部門、家庭部門の順となる(図5)。また、エネルギー転換部門は全体の8%と低い水準にある。部門別のCO₂の排出量からは、目標達成のためにはエネルギー転換部門のみならず、より大きなシェアを占める産業部門や輸送部門での使用削減が必須であることがわかる。 図5 部門別のCO₂排出量の推移 (出所)国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」に基づきNIRA作成。 2.エネルギー政策における論点と専門家の見解 エネルギー政策をめぐっては、重視する価値や立場の違いから論者によって見解が分かれる。以下では、エネルギー政策についての論点に関する3人の専門家からのヒアリングをもとに整理する。今回、ご協力いただいたのは、東京大学名誉教授の横山明彦氏(電力・ガス取引監視等委員会委員長)、東京大学教授の髙村ゆかり氏(中央環境審議会会長)、NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏である。 議論の前提として、2030年までAI関連事業やデータセンターなどで、当初予想されていたよりもエネルギー需要が伸びる見込みであることについては、3人の間で認識が一致している。電力広域的運営推進機関(オクト)によると、2024年度から電力需要は伸び始め、2033年度には現在よりおよそ4%増となる8,345億kWhの電力需要となる予測を立てている。 以下では、3つの論点についての識者の意見を提示する。第1の論点は、エネルギー政策の基本的な考え方を示すS+3Eと2030年度の電源構成の見通しについて、第2と第3の論点は、2030年度の温室効果ガス削減目標と、2050年目標の実現可能性に関する見解である(注1)。 2-1.エネルギー政策の争点 論点1 S+3E、および電力供給の電源構成について 1つ目の論点は、エネルギー政策の基本的な考え方に関するものである。日本のエネルギー政策は、「安定供給の確保」「市場原理の活用」「環境への適合」という3つの条件に基づいて実施されている。これらは英語の頭文字をとって「3E」と呼ばれる。 ・安定供給の確保(Energy Security):エネルギー資源の確保と自給率の向上 ・経済効率性(Economic Efficiency):電気事業の効率的な運営と電気料金の低下 ・環境への適合(Environment):環境負荷の低いエネルギーへの転換による温室効果ガス排出の削減 さらに、2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、安全性(Safety)の視点が「3E」に追加され、「S+3E」に更新された。ここでの安全性(Safety)とは、安全性の高いエネルギーを確保・追求することを意味する。 「S+3E」のうち、安全性の確保は前提として、「3E」のどれを重視し、電源構成をどう考えるかは専門家の間でも意見が分かれる。この3つの条件はそれぞれ異なる方向性を持っており、3つ全てを満たすエネルギー源は存在しないため、トリレンマの関係にあるともいわれている。 安定供給および経済効率性の面では化石燃料と原子力が、また、環境適合の面では、原子力、再エネ、水素発電などの次世代エネルギーが優れているとされる(表6)。 表6 エネルギー政策の争点 (出所)NIRA作成。 この3つの条件はそれぞれ異なる方向性を持っており、3つ全てを満たすエネルギー源は存在しないため、トリレンマの関係にあるともいわれている。 論点1-1 S+3Eに対する見解 今回ヒアリングを行った識者の「S+3E」に対する見解はどういうものか。横山氏:これからはエネルギーセキュリティ(安定供給)を優先すべきだ。安定供給とは、上流のエネルギー供給が途絶えても電力供給を維持できることであり、そのための電源構成の適切な割合が重要だ。竹内氏:安全性は、3つの「E」それぞれに関わる。安全性の確保を前提に、3Eのバランスを取ることがエネルギー政策の基本であり、どれかに偏ることはリスクとなる。現状として、環境性の向上には長い時間がかかる。化石燃料をほぼ産出せず、他国とガスや電力の融通もできない日本では、化石燃料の価格高騰や供給途絶に対する備えが極めて重要だ。髙村氏:気候変動対策の観点からは、「脱炭素の実現」、「エネルギーの安全保障(安定供給)の確保」、「産業の競争力の強化」の3つを同時に達成する必要がある。近年の技術の進展で、S+3Eの各要素は矛盾せず両立できるようになっている。例えば、太陽光のコストも国際価格に近くなっている。 (まとめ) 識者によってS+3Eの優先順位の考え方が異なることがわかる。安全供給を重視する考え方や、気候変動対策の観点から環境適合についても同様に考えるべきという考え方が示された。 論点1-2 第6次基本計画の電源構成の見通し(2030年度)についての見解 現在は、第6次エネルギー基本計画の期間内にある。基本計画で示された2030年度の電源構成の見通しは図7である。これについて、3人の識者の見解を聞いた。 図7 エネルギー需給の実績と2030年度の見通し (出所)資源エネルギー庁「第6次エネルギー基本計画の概要」、「令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」などの資料を基にNIRA作成。 横山氏:2030年度の電源構成はベストミックスとはいえず、S+3Eの観点からも非現実的だ。高まるエネルギー需要を満たすには、安全確保を最優先に、既存の原発を迅速に再稼働させる必要がある。現状はLNGに頼りすぎているので減らさなければならない。竹内氏:第6次エネルギー基本計画および長期エネルギー需給見通し(2030年度のエネルギー需給構成)は、温室効果ガスの46%削減目標との整合を前提として書かれた野心的なもの。それまでと異なり、気候変動目標に沿うようにバックキャストで描かれたが、究極の生活財・生産財であるエネルギーに関する計画の描き方として懸念が強い。また、エネルギー事業を自由化した政府の姿勢との整合性も問われる。髙村氏:2030年度の温室効果ガス削減目標や国連の2035年温暖化目標は、2050年のカーボンニュートラルに向けた道筋を示したものだ。将来的な技術展開やコストにおける不確実性の中で電源構成の見通しを出すことは困難であり、達成可能かとの意見もあるが、脱炭素化に向けて明確に、意欲的な政策目標を持つことは必要だ。将来のビジョンと道筋を示すことで、発電事業者や金融機関の投資行動も変わるだろう。 (まとめ) 2030年度の電源構成については、現実的ではないという点では一致しているが、それを維持すべきかどうかについては意見が分かれ、エネルギー政策の観点から問題があるという見方と、2050年のカーボンニュートラル達成目標と整合的な姿を提示する意義はあるとの見方が示された。 論点2 2030年度の温室効果ガス削減目標を達成するにはどのような手段をとるべきか。 現在、日本政府の目標は2つある。1つは2030年目標の実現で、温室効果ガスを対2013年比で46%減の水準にまで抑制するというもの、もう1つは、2050年のカーボンニュートラル達成で、2020年10月に当時の菅義偉首相が表明したものである。 論点2-1 2030年度目標の実現可能性と目標へのアプローチに関する見解 2030年度、または2050年までの目標達成の見通しは、今後実用化される環境技術に大きく依存する。2030年度は差し迫っており、利用可能な技術は限られている。こうした状況下で、識者は、2030年度目標についてどのように捉えているのか、また、実現に向けてどのようなアプローチが考えられるのかについての見解を整理する。横山氏:2030年度目標に向けては、現状のパスの延長線上にある。電源構成比では化石燃料を減らしながらも、LNGを基本にして、ある程度高効率の石炭を使いながら、既存の原子力を再稼働させることがベストミックスである。髙村氏:2030年度の目標は、かなり達成に近づいている。ただ、電源構成では再エネと原子力の使用を増やし、カーボンプライシングの導入による石炭の削減が必要だ。非化石燃料の比率を上げるしかない。洋上風力のように重点を置いて増やすものを明らかにして再エネを1.5倍に増やす。地域の人たちの理解や同意を前提に、安全基準を満たした原発に関しては再稼働するほかないだろう。竹内氏:2030年度目標の実現はどの国・地域もかなり困難。できる限りの努力として、原発の活用は極めて重要。原子力規制委員会の審査活動の最適化、地域の合意形成の在り方、賠償制度など見直しが必要だ。一方で再エネも課題が多い。国土面積に制約があり、しかも7割が山地である。太陽光発電は地域でのトラブルも多い。洋上風力発電に期待が集まるが、欧州と比較して風況に恵まれず、遠浅の海が乏しいことから、低コスト化が課題だ。 (まとめ) 2030年度の温室効果ガス削減目標へのアプローチに関して、化石燃料の石炭の使用については意見が分かれたが、非化石燃料については、再エネの活用と共に、安全を確保したうえで原子力再稼働を容認せざるを得ないという点ではほぼ一致している。 論点2-2 再エネの可能性についての見解 非化石燃料である再エネの実効性をどう評価しているのかについての見解はどうだろうか。竹内氏:世界で5本の指に入るほど電力需要が大きい日本では、再エネのみでの対応は困難だ。太陽光発電の導入は世界でも例を見ないスピードで進み、世界第4位の設備導入量だが、今後も増加スピードを維持することは難しい。水素の活用にも期待がかかるが、国内の再エネ由来の水素はコストが高く、かつさほど量を確保できない。海外からいかに安価で大量の水素を調達できるかがカギとなる。横山氏:太陽光や風力への依存は、安定供給や経済効率に懸念がある。再エネは、需給が乱れたときに周波数を安定させる「調整力」・「慣性力」を持たず、大規模停電のリスクを伴うため、コストが高い蓄電池など補完技術が必要となり、安定供給や経済効率性の面から問題がある。2030年ではアンモニア・水素やDAC(ダイレクトエアキャプチャー)の社会実装も期待できない。髙村氏:再エネ電力を首都圏に運ぶためのインフラ整備に時間、コストがかかるので、長期的に取り組まなければならない。また、再エネの活用を後押しするには追加的な政策が必要になる。地域共生型の再エネ、コストの低い建物一体型の再エネや省エネ性能の高い住宅建築物、地域のバイオマス利用、CO₂排出量の少ないガス火力の増加が必要だ。 (まとめ) 再エネの可能性については、技術面や地形面でのデメリットが指摘された。他方、2030年度の目標達成のためには、再エネの促進以外の取り組みが必要であるとの意見があった。 論点3 2050年に向けた取り組みについて 2050年カーボンニュートラルの目標に向けては、新たな技術開発が進み、次世代エネルギーが社会に実装されている可能性も高い。3人の識者が、2050年に向けてどのようなビジョン、そして戦略を描いているのかを見ていく。 その前に、開発が進む次世代エネルギー技術の中から、注目されているものをいくつか紹介する。水素(アンモニア、合成メタン、合成燃料等も含む) 水素発電は、日本が技術的に有意な分野だが、第6次基本計画では、2030年までの発電割合は1%程度と小さい。水素の液化、高圧圧縮が必要で、極低温(-253℃)の維持やコスト面、実用面での課題がある。CCS(Carbon dioxide Capture and Storage), CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage) CO₂を回収・地下貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)、再利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の日本の技術水準は、かつて国際的に評価されたが、政策的な支援が弱く、優位性が低下した。技術の進展は遅れており、第6次基本計画では2030年までのCCSの商用化が目標だが、コストと安全性(注2)が課題だ。洋上風力発電 山地が多い日本では維持費が高いといった限界から、海洋上の風で、設置された風車を回して利用して発電する洋上風力発電の導入が推進されている。政府は、2040年までに最大45GWの発電を目指し、「日本版セントラル方式」や新公募ルールで拡大を図っている。ペロブスカイト太陽電池(PSC) ペロブスカイト構造の結晶材料を用いる太陽電池。エネルギー変換効率が高く、安価で高効率。政府は、2030年の早期社会実装を目指して、予算を増額。量販体制の整備で、コストは1kWh当たり6~7円と他電源に比べて低廉化が見込まれる。核融合技術など、新たな次世代エネルギーの開発 水素などの軽い原子核同士を衝突させ、より重い原子核に融合する際に生み出されるエネルギーを活用する技術。太陽と同じ仕組みである。核分裂とは違い、燃料が海水中に存在、原理的に暴走しない、CO₂が発生しない、高レベル放射能廃棄物が発生しないなどのメリットがある。最近では海外のスタートアップが開発に参入。 論点3-1 2050年目標に向けた見取り図についての見解 以下では、3人の識者の2050年に向けた見解を見ていく。竹内氏:2050年のカーボンニュートラルに向けた具体的な実行計画を描くことは、どの国にとっても困難だ。政府は今、この分野での競争力を高めることで経済成長を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)(注3)を掲げている。GXに向け、明確なビジョンの下、実行しながら軌道修正していくことが必要だ。横山氏:2040年以降、省エネ技術の進展である程度エネルギー需要増加が抑えられる可能性があるが、原子力技術者の維持や新規投資のため、政府が原子力利用を継続する指針を示すことが重要。再エネでは、2040年まで太陽光発電の増設が進み、以降は安定供給が可能な洋上風力の導入が進むとみられ、2050年には原子力、洋上風力、水素・アンモニア発電の比率が高まるだろう。DACを使うことも必要だ。髙村氏:2050年のカーボンニュートラル達成には、技術的な解決策を模索している非電力分野に先行して、電力分野の脱炭素化が必須。それを前提に、例えば2040年までに30~40GWの洋上風力(浮体式を含む)を導入する目標を掲げ、再エネ拡大の時間軸を明確にし、エネルギー需要の抑制(省エネ)や化石燃料削減を図る必要がある。 (まとめ) 2050年に向けて、再エネの比率が高まる見通しが示されたが、それだけでは不十分であり、原子力の継続が不可欠であるとの見解である。 論点3-2 次世代の原子力エネルギーの可能性についての見解 最後に、次世代の原子力エネルギーに関する3人の見解を示そう。竹内氏:わが国のエネルギーの安定供給、価格の安定性、環境性を確保するには、原子力技術が必要不可欠。しかし東日本大震災以降、日本の原子力産業は弱体化し、大学で学ぶ機会も減っている。次世代原子力の実用化に向けて、まずは現在の原子力技術の維持や人材育成が課題となる。規制に関しても技術進歩の速度を考慮した対応が必要だ。髙村氏:次世代原子力については、経済性が問題となる。次世代炉などの実装には地域の合意が必要で、新設を含めて20年程度かかる。また、安全基準を緩められるかは疑問であり、バックエンドの問題も考える必要がある。横山氏:核融合や小型原子炉(SMR)、高速増殖炉(注4)など次世代原子力エネルギーは開発が進んでいるが、主電源としての実用化は2030年、2040年には間に合わないだろう。SMRは安全性が高いが、発電量が既存の原発に劣るため分散設置が必要で立地面での課題などの問題がある。 (まとめ) 次世代の原子力エネルギーについては、安全性は高い技術であるが、実用化する上での課題がある、また、日本の原子力分野の技術力や人材面で課題があるという指摘があった。 3.日本のエネルギー政策の体系と変遷 以下では、日本のエネルギー政策の体系を説明し、次いで、これまでのエネルギー政策の変遷を追う。 3-1.日本のエネルギー政策の基本的な考え方 (1)エネルギー基本計画と電源構成 日本のエネルギー政策の基本的な考え方は、2002年、議員立法として成立した「エネルギー政策基本法」に示されている。同法は、「安定供給の確保」、「市場原理の活用」、「環境への適合」の3条件を規定し、また、中長期的なエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を策定することを政府に義務づけている。これを受け、政府は、2003年の第1次エネルギー基本計画の策定以降、概ね3年ごとに計画を改定してきた(表8)。 表8 エネルギー基本計画 時系列表 (出所)NIRA作成。 現在は、2021年に策定した第6次エネルギー基本計画の期間内である。本計画は、菅義偉首相(当時)が2020年10月に表明した2050年カーボンニュートラル宣言、また、2021年4月に表明した「2030年度の温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指す」という目標を前提に作成され、環境への配慮が最優先に置かれている。同計画は、エネルギーミックス(電源構成)の見通しを示すとともに、エネルギー自給率の目標値を設定した(図7)。電源構成については、従前は長期エネルギー需給見通しで提示していたが、2021年度に策定した第6次エネルギー基本計画で、初めて計画の中に組み込んだ。再エネの電源構成をどの程度見込むのか、化石燃料による火力発電をどの程度に抑制するのか、原子力はどう見込むのか、など基本的な方針を定量的に示すもので注目される指標である。 図7 エネルギー需給の実績と2030年度の見通し(再掲) (出所)資源エネルギー庁「第6次エネルギー基本計画の概要」、「令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」などの資料を基にNIRA作成。 しかしながら、現時点においては、日本のエネルギー電源における化石燃料の依存度は高く、再エネの技術開発も途上であることから、電源構成については、計画で示した30年度の見通し達成は困難な状況にある。 こうした中、現在、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、第7次エネルギー基本計画に盛り込む2040年度の電源構成の見通しについて議論を進めている。政府は、別途、パリ協定に基づき国連へ2035年までの温室効果ガス削減目標を2025年2月までに提出することが義務付けられており、第7次エネルギー基本計画の電源構成見通しは、それと整合的な姿となるものである。また、新たな電源構成の目標値の設定に合わせて、地球温暖化対策計画などの関連政策(後述予定)を2024年度中に改定し、政府がGX実行会議で策定の方針を示した「GX2040ビジョン」に政策の内容を反映する見込みだ。 (2)関連する政策 エネルギー基本法を基本に、温室効果ガスの削減を目指す「地球温暖化対策計画」、エネルギーの安定供給を実現しながら脱炭素を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略」の策定、そして「原子力規制委員会」による審査など関連政策を実施している。以下では、個別分野の政策やその根拠となる法律について見ていく。① 地球温暖化対策計画 1997年、政府は、京都で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)での京都議定書の採択を受け、地球温暖化対策法を定めて対策の実施を図るため、地球温暖化対策計画を5年ごとに策定している。 最近の動きでは、2020年の菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル」宣言を行ったことから、同宣言と整合的で野心的な目標として2030年度温室効果ガス46%削減目標(対2013年度比)の実現に向けた地球温暖化対策計画を、2021年度に策定した。② GX推進法と基本方針、推進戦略 第6次エネルギー基本計画の公表後、政府は、「経済と環境の好循環」をさらに進める取り組みとして、2023年に「GX実現に向けた基本方針(以下、GX基本方針)」を閣議決定し、化石燃料からクリーンエネルギー中心の構造へ経済社会システムの変革を目指す姿勢を打ち出した。政府は、再生エネ、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することを盛り込んだ。 この基本方針を受けて2つの法律が制定されることになる。1つは、GX推進法(「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」)であり、GX推進戦略の策定やGX債の発行などが定められた。もう1つは、GX脱炭素電源法であり、脱炭素電源の利用を促進すると同時に電源の安定供給の確保に向け、電気事業法や再エネ特措法など関連法を整備するとした。特に、安全規制に関しては、運転開始から30年を超える原子炉に対して10年以内ごとに設備の劣化状況を評価し、原子力規制委員会の認可を受けることを義務付けるなど、原子力発電に対する政府方針の転換を意味するとして注目されている。 これらの2つの法律の制定を受け、政府は、GX推進戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)を定めた。そこでは、徹底した省エネを推進し、再生可能エネルギーを主力電源化し、原子力を活用するとしたほか、今後10年間に20兆円規模の先行投資支援を行い、また、2026年度以降カーボンプライシングを導入するとしている。さらに、次世代エネルギーの推進や新技術の開発支援を行うことが明記されたことを踏まえ、水素社会推進法、およびCCS事業法が制定された(④参照)③ 原子力規制委員会による審査 東京電力福島第一原子力発電所の事故の反省と教訓を踏まえて、2012年に、原子力規制委員会が環境省の外局として設置された。国家行政組織法第3条に基づく組織であり、高い独立性を持つ。組織発足に先立ち、原子炉等規制法が改正され、従来の規制組織であった原子力安全・保安院と原子力安全委員会を廃止し、安全規制行政の責任機関を原子力規制委員会に一元化した。 原子力規制委員会は、原発事故が起きた場合の危機対応の要となり、指揮権全般を受け持つ。内閣総理大臣が原子力規制委員会の判断を覆すことはできない。また、日本国内の再稼働の可否を判断する安全基準づくり、周辺に活断層がある原子力発電所の調査・安全性の判断を行う。特に、既存の原子力発電所に、最新の技術的知見を反映する制度(バックフィット制度)の導入、運転期間の制限等の規定を追加した。 そして、新規制基準(2013年)は世界で最も厳しいとされる水準の規制基準であり、事業者の申請に基づき、既存の原子力発電所に関する技術的、科学的審査を行っている。(新規制基準の詳細については、「2-2.エネルギー政策の変遷」の「(3)東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故」で説明する。)④ 次世代エネルギー:水素社会推進法・CCS事業法 GX推進戦略を受け、2024年、水素社会推進法(注5)およびCCS事業法(注6)が成立した。 水素エネルギーは、再生可能かつCO₂排出量が少ない、または排出しない次世代エネルギーとして注目されている。水素社会推進法は、基本方針の策定、計画認定制度の創設、認定を受けた事業者に対する支援措置や規制の特例措置、水素等を供給する事業者が取り組むべき判断基準の策定等の措置を講じている。なお、「水素社会推進法案」の制定に先がけて、2023年に、政府は「水素基本戦略」の改訂を行った。その中で、エネルギー基本計画と同様にS+3Eを前提とし、水素の導入については、2030年度に最大300万トン/年、2050年度に2,000万トン/年程度という従来の目標に加え、2040年度に新たに1,200万トン/年程度の導入を目標に掲げた。 また、CO₂を回収、貯留、再利用するCCS・CCUS技術の開発が進んでいる。CCS事業法は、脱炭素化が困難な分野において、化石燃料や原料の利用後の脱炭素化を進めることを目的としている。第6エネルギー基本計画ではCCS長期ロードマップの策定が明記され、長期ロードマップではCCSコスト低減、人々の理解の促進、海外CCS推進、CCS事業法の制定などにより事業環境の整備を図ることが示された。また、CCS行動計画では、コスト目標や年間貯留量目標、技術開発指針、適地調査計画を状況に応じて見直すとされている。さらに、CCS事業を普及させるために、幅広い展開が可能なビジネスモデルの確立を促し、事業者を積極的に支援するほか、安全性に直結する適地開発や地質構造調査における断層のリスク評価についても検討を進める予定だ。⑤ 省エネ 第2次オイルショックが起きた1979年に制定された省エネ法は、その後、幾度となく見直しが行われてきたが、昨今の2050年のカーボンニュートラル、2030年度のエネルギーミックスの見通し、そして、GXの流れを受けて、2023年に大幅に改正された。 見直しの中で、非化石燃料中心のエネルギー構造へと転換を図る趣旨が盛り込まれた。改正のポイントは以下の3つ。 第1に、従来の省エネ法で「エネルギーの使用の合理化」では、「エネルギー」の定義を「化石燃料」に限定していたが、非化石燃料を含むすべてのエネルギーへと定義を変更した。 第2に、非化石燃料への転換に向け、一定規模以上のエネルギー利用者に対して、従来通りにエネルギー使用状況の報告義務だけでなく、非化石燃料の使用状況の定期報告を求めることとした。 第3に、産業部門等の大規模需要者に対して、電力の需給ひっ迫時など状況に応じて電力の需給バランスの調整(ディマンド・レスポンス=DR)を求めることで、電気の需要の最適化を図るとしている。 3-2.エネルギー政策の変遷:5つの段階 日本の近代エネルギー産業が産声を上げたのは明治時代。以下では、現在に至るまでの政策の変遷を5つの段階に分けて紹介する。 (1)第1、2段階:石油への転換と石油危機 ガス・電気事業が始まった当初は、石炭がエネルギー資源の主役だったが、1950年代に中東やアフリカで大油田の発見以降、世界的に供給可能となった石油へと政策転換した。より廉価で安定供給が可能な石油をエネルギー電源とする政策へと舵を切ったが、その後、1973年の第1次石油危機を経て、石油依存から脱却し、天然ガス、原子力、再生エネルギーなどのエネルギー源の多様化を推進する方針となった(図9)。 図9 エネルギー政策の変遷 (出所)NIRA作成。 (2)第3段階:電力の自由化と地球温暖化 1990年代に入り、規制緩和の世界的な潮流の中、日本でも数回にわたり電力システムの制度改革が行われた。電力の安定供給を優先するため、各地域の大手電力会社は独占的に「発電」「送配電」「小売り」を一貫して担っていたが、高コスト構造、内外格差の是正を図るため、段階的な規制緩和に踏み切った。 1995年に31年ぶりに電気事業法を改正し、原則として発電部門の参入を自由化した。その後、1999年に電気事業法の再改正により、2000年3月から小売部門の自由化が始まった。まず、「特別高圧」で受電する大規模工場や百貨店、オフィスビルなど大口の消費者が電力会社を自由に選べるようになった。2004年4月と2005年4月には、自由化の領域を中小規模のビルや工場の「高圧」区分まで拡大した。2016年4月に家庭や商店などの「低圧」区分を含めた全面自由化となった。一方で、送配電部門に関しては、小売全面自由化後も、政府の許可が得られた事業者のみが担当している。 これら一連の改革により、電力市場への企業の新規参入が実現し、消費者が自由に購入先を選択できるようになった。また、電力自由化に伴い、市場の健全性維持を目的とした電力・ガス取引監視等委員会(電取委)が、2015年9月に経済産業省の直属組織として発足した。独立性と高度な専門性を持つ規制機関として、市場の監視機能を強化した。 1990年代、地球温暖化問題に対する国際的な検討が始まり、1997年に世界で初めての国際条約として京都議定書が採択された(発効は2005年)。京都議定書は、今後の温室効果ガスの削減目標を定めた世界で唯一の法的拘束力を有する協定であったが、削減義務を先進国のみに要求し、途上国への拘束力はなく、また、米国の批准も見送られた。 (3)第4段階:東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故 先述の通り、2003年以降、政府主導のエネルギー基本計画を策定してきたが、2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故の発生により、これまでのエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなった。当時の第3次エネルギー基本計画では、3E(エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment))の基本方針だったが、そこに、安全性(Safety)の確保を大前提とすることが追加され、「S+3E」に更新された。 安全性(Safety)とは、安全性の高いエネルギーを確保・追求することを意味する。具体的には、災害時の連携強化や電源インフラの強靭化、原子力発電所の再稼働に関して、原子力規制委員会の新規制基準を設定し事故防止の対策を強化するなどである。震災後の2014年4月に策定した第4次エネルギー基本計画以降は、「S+3E」を同時に達成することを計画の柱とした。 新規制基準の策定にあたっては、事故以前の安全規制の問題点に対する対策を組み込み、従来の規制基準から大幅に厳しい水準へと変更した。例えば、自然災害や火災など外部事象も考慮した過酷事故(シビアアクシデント)を防止するための新基準として、発電設備の強化により故障・破損を防止し、万が一過酷事故が発生した場合でも対処可能な設備や手順を整備すること、そして既設の原発に対しても最新の規制への適合を義務化することなどが挙げられる(図10)。 それぞれの施設における耐震力の強化、地震・津波の評価の厳格化、火災防護対策の徹底などが新規制基準のポイントとされる。新規制基準では、津波への対応として防潮堤などの津波防護施設を設置することや重要施設を設置する地盤への明確な基準が提示され、活断層の変異を遡って評価することなどの条件を明示した。また、地震動が地下で増幅する可能性があることを踏まえ、原発が設置された敷地の地下構造へのより精密な把握が要求された。そして、これらの新規制基準をクリアしない限り、原発の操業は認められない。 図10 従来の規制基準と新規制基準との比較 (出所)原子力規制委員会資料「実用発電用原子炉に係る新規制基準について―概要―」を基にNIRA作成。 (4)第5段階:京都議定書からパリ協定へ 京都議定書の採択から18年後の2015年に、後継となるパリ協定が合意された。パリ協定は、2020年以降の気候変動問題に対する国際的枠組みとなる。世界的に関心も高まり、主要排出国を含む多くの国が参加する形で、2016年11月に発効された。 パリ協定では、途上国を含む全ての参加国に対して排出削減の努力を求める枠組みとし、各国が自主的に自国で削減目標を決定すること(NDC: Nationally Determined Contribution(邦訳:国が決定する貢献))が認められた。また、世界共通の長期目標として、平均気温上昇を「2度目標(努力目標1.5度以内)」と設定している。 日本は、2050年カーボンニュートラルを目指すことを2020年10月に宣言した。宣言を受け、2021年には産業政策・エネルギー政策の両面を踏まえた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、2030年エネルギーミックス実現とも連動して政策を展開している。 4.総括 エネルギー政策をとりまく状況は、この数年で目まぐるしく変化した。現在、政府は第7次基本計画の策定を控え、環境政策や産業政策と整合的なエネルギー政策のあり方を議論している。計画の中で示す2040年度の電源構成見通しは、今後策定されるGX2040ビジョンに盛り込まれる。計画とビジョンは、2024年度中に策定予定だ。また、2040年度の電源構成見通しを前提に、2035年度の温暖化目標(温室効果ガス排出の削減目標)を整合的に作り、2025年2月に国連へ目標値を提出することとなっている。 今回、エネルギー政策を巡る重要な論点について、3人の識者にそれぞれヒアリングを行ったところ、識者の回答からは、いくつかの共通点と相違点が浮かび上がった。議論の展開に違いが見られたが、実際に何ができるかについては技術開発や経済性によって左右され、多くの点で見解が一致した。 他方、CO₂削減への道筋に関しては、脱炭素実現に向けて、段階的な目標を示す必要性があるという意見と、安定供給などの点から現実的な対策を検討すべきという考え方に分かれた。 また、再エネについては、安定供給やコストの面で課題もある一方、補完技術を使うことでクリアできる可能性があるとの指摘があった。再エネの活用は必要だが、現実には再エネだけで電力需要を満たすことはできず、安全性を最優先として、CO₂を排出しない原発の再稼働の必要性については肯定的であった。 さらに、化石燃料の使用については、次世代エネルギーの実装には時間を要することから、当面は化石燃料の使用を維持する点で異論は出なかった。ただし、CO₂排出が少ないLNGか、または低コストの石炭のどちらを優先するについては意見が分かれた。 今回の3人の識者は、安全性の確保を大前提として再稼働について肯定的だが、放射線事故や原発の老朽化、使用済み核燃料の処理などの課題から反原発の声もある。そうした多様な意見や異なる考え方を十分に配慮しながら、さらに議論を展開していくことが必要だ。いずれかの立場や意見が正しいとは決めつけず、多様な意見を集めながら合意形成をしていくことが求められる。 参考文献経済産業省 資源エネルギー庁経済産業省(2024)「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」原子力規制委員会(2016)「実用発電用原子炉に係る新規制基準について―概要―」国立環境研究所(2024)「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2022年度)(確報値)」資源エネルギー庁(2024)「総合エネルギー統計 時系列表」――(2024)「令和4年度(2022年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」――(2023)「日本のエネルギー」――(2022)「エネルギーの安定供給の再構築」――(2021)「第6次エネルギー基本計画の概要」電力広域的運営推進機関(2024)「全国及び供給区域ごとの需要想定」 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)NIRA総合研究開発機構(2024)「日本のエネルギー政策は何を目指すべきか―制度・政策の変遷と論点整理―」政策共創の場No.4 脚注 1 現在は、2021年に策定した第6次エネルギー基本計画の期間内である。本計画は、菅義偉首相(当時)が2020年10月に表明した2050年カーボンニュートラル宣言、また、2021年4月に表明した「2030年度の温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指す」という目標を前提に作成したものであり、環境への配慮を最優先に置いたものである。同計画で、電源構成の見通し(エネルギーミックス)を示し、また、エネルギー自給率を設定した。現在、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、第7次エネルギー基本計画に盛り込む2040年度の電源構成の見通しについて議論を進めている。政府は、別途、パリ協定に基づき国連へ2035年までの温室効果ガス排出の削減目標を2025年2月までに提出することが義務付けられており、第7次エネルギー基本計画の電源構成見通しは、それと整合的な姿となるものである。 1 現在は、2021年に策定した第6次エネルギー基本計画の期間内である。本計画は、菅義偉首相(当時)が2020年10月に表明した2050年カーボンニュートラル宣言、また、2021年4月に表明した「2030年度の温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指す」という目標を前提に作成したものであり、環境への配慮を最優先に置いたものである。同計画で、電源構成の見通し(エネルギーミックス)を示し、また、エネルギー自給率を設定した。現在、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、第7次エネルギー基本計画に盛り込む2040年度の電源構成の見通しについて議論を進めている。政府は、別途、パリ協定に基づき国連へ2035年までの温室効果ガス排出の削減目標を2025年2月までに提出することが義務付けられており、第7次エネルギー基本計画の電源構成見通しは、それと整合的な姿となるものである。 2 海域へのCO₂漏出やそれによる地震誘発などが課題として挙げられ、安全性強化への取り組みが行われている。 2 海域へのCO₂漏出やそれによる地震誘発などが課題として挙げられ、安全性強化への取り組みが行われている。 3 GXは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称。CO₂を排出する化石燃料中心のエネルギー構造から、環境保護に適したエネルギーの活用への構造転換へと転換すると同時に経済成長を実現することを目指す活動や取り組み。 3 GXは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称。CO₂を排出する化石燃料中心のエネルギー構造から、環境保護に適したエネルギーの活用への構造転換へと転換すると同時に経済成長を実現することを目指す活動や取り組み。 4 高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、高速炉において発電しながら消費した燃料以上に新しい燃料を作り出すことができる原子炉。高速中性子を利用して燃料を増殖する仕組み。 4 高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、高速炉において発電しながら消費した燃料以上に新しい燃料を作り出すことができる原子炉。高速中性子を利用して燃料を増殖する仕組み。 5 正式名称「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」 5 正式名称「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」 6 正式名称「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」 6 正式名称「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」 シェア Tweet ©公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ