English version 研究報告書 2022.02.21 第6回テレワークに関する就業者実態調査(速報) この記事は分で読めます シェア Tweet 大久保敏弘 慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員 NIRA総合研究開発機構 最新の調査結果はこちら➡「第10回テレワーク調査」 概要 慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室、(公財)NIRA総合研究開発機構では、「第6回テレワーク(注1)に関する就業者実態調査(注2)」を実施した。本調査は、新型コロナウイルスの感染拡大による、全国の就業者の働き方、生活、意識の変化や、業務への影響等の実態を捉えることを目的に実施したものである。調査は2022年2月3日(木)~14日(月)にかけて行われた。回収数は10,113件であり、うち過去の同調査からの継続回答は9,085件である。速報結果は以下のとおり。 PDFで読む INDEX 1. テレワーク利用率の推移 2. 通常の職場での勤務とテレワークによる勤務の頻度の推移 3. 仕事の効率の変化 4. ICTツールの活用状況 5. オミクロン株の仕事への影響 6. メンタルヘルス 7. ワクチン接種 8. 感染症対策か経済対策か 調査概要 ポイント●全国のテレワーク利用率の推移は、2020年6月以降、おおむね横ばいで推移し、オミクロン株による感染拡大を受けた直近の1月は17%となった。一方、テレワーク頻度は、1日あたりの新規感染者数が減少した2021年12月は減り、オミクロン株の感染が急速に拡大した2022年1月は増えた。テレワーク利用率自体に大きな変化はないが、テレワーク頻度は感染状況に応じて変化している可能性がある。●オミクロン株の個人の仕事への影響として、オミクロン株への感染といった直接的事態よりも、営業時間の規制などの間接的事態が、起こった人の割合が高い。仕事への影響があった(「労働時間の短縮」、「一時休業、自宅待機」、または「長期休業、失業、解雇」)と回答した人の割合は、直接、間接に関わらず、オミクロン株による感染の事態が起きた人の割合の半数程度にのぼる。●オミクロン株の組織への影響として、従業員のオミクロン株への感染といった直接的事態は、営業時間の規制などの間接的事態に比べて、頻繁に起きている。一方で、直接的事態の影響よりも、間接的事態の影響の方が、相対的に組織の活動に大きな影響を及ぼす(活動の短縮、一部停止、全体の停止など)ことを示唆する結果が得られた。●2022年2月時点のワクチン接種意向について、「3回目の接種を希望しているが、まだ終えていない」人の割合が最も高い。一方、今後のワクチン接種をしないと回答した人の割合は、2021年9月時点で、「1回も接種しない」と回答した人の割合を上回っており、3回目の追加接種は1~2回目の接種のようには伸びない可能性がある。●政府の政策への賛否に関して、経済対策重視の割合が感染対策重視を上回る傾向や、「どちらでもない・わからない」の回答が最も多くなる傾向は安定してみられる。直近の2022年2月では、特に感染対策重視の人の割合が小さくなった。 図表図表1 全国および東京圏のテレワーク利用率の推移図表1-1 居住都道府県別でみたテレワーク利用率の推移図表1-2-1 産業別でみたテレワーク利用率の推移図表1-2-2 産業別(抜粋)でみたテレワーク利用率の推移(詳細)図表1-3-1 所得階層別でみたテレワーク利用率の推移図表1-3-2 所得階層別でみたテレワーク利用率の推移(詳細)図表2-1 通常の職場で勤務している人の出社頻度の推移図表2-2 テレワーク利用者の利用頻度の推移図表3a 仕事の効率(2022年1月、テレワーク利用別)図表3b テレワーク利用者の仕事の効率の推移図表4-1 ICTツールの活用状況(テレワーク利用別)図表4-2 ICTツールの活用状況図表5-1 オミクロン株の個人の仕事への影響 (全国)図表5-2-1 オミクロン株の組織への影響 (全国)図表5-2-2 オミクロン株の組織への影響 (東京圏)図表6-1 2019年度国民生活基礎調査のK6の合計点の分布(12歳以上)図表6-2 2019年度国民生活基礎調査のK6の合計点の分布 有業人員(15歳以上)図表6-3 K6の分布図表6-4 性別、年齢階層別でみたK6の分布(2022年1月)図表7-1-1 3回目のワクチンの接種状況(2022年2月)図表7-1-2 2回目のワクチンの接種状況(2021年9月)図表7-2-1 ワクチン接種に関する考え図表7-2-2 ワクチン接種に関する考え(ワクチン接種忌避者に限定)図表8 感染症対策か経済対策か 調査概要調査方法:インターネット調査(スクリーニング調査・本調査)。回収目標数を10,000サンプルとして、過去の調査と同様のスクリーニング調査、割付を行ったうえで、配信し、回収した。調査機関:株式会社日経リサーチ調査対象者:調査会社に登録しているインターネット調査登録モニター調査対象:以下の(ア)および(イ)に対して調査を実施した。(ア)第1回から第5回調査の回答者 第1回から第5回調査の回答者の合計である17,758サンプルすべてを調査対象とした。(イ)第6回調査から参加する就業者回収数:10,113件、うち、過去の調査からの継続回答は9,085件、本調査から参加する新規回答は1,028件。調査期間:2022年2月3日(木)~14日(月)研究体制大久保敏弘 慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員加藤究 フューチャー株式会社シニアアーキテクト/NIRA総研上席研究員神田玲子 NIRA総研理事・研究調査部長井上敦 NIRA総研研究コーディネーター・研究員関島梢恵 NIRA総研研究コーディネーター・研究員鈴木壮介 NIRA総研研究コーディネーター・研究員安藤航平 慶應義塾大学経済学研究科修士課程在籍 1. テレワーク利用率の推移 Q3. あなたは以下の時期に通常業務でテレワークを利用していましたか。(ひとつだけ)(1)2022年1月4週目(2)2021年12月 全国のテレワーク利用率の推移は、第1回目の緊急事態宣言が出された2020年4~5月は25%まで大幅に上昇したが、2020年6月の緊急事態宣言の解除後には17%に急速に低下した。その後、2021年1~3月の緊急事態宣言や夏の東京オリンピックの開催の時期もおおむね横ばいで推移し、オミクロン株による感染拡大を受けた直近の1月は17%となった。テレワークの利用が一定程度の水準で維持され、定着している状態といえるだろう。 東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)に限って見ると、テレワーク利用率の推移(居住地ベース)は全国と比較して10%ポイント程度高い水準で、2020年6月以降、安定的に推移している。(注3) 図表1 全国および東京圏のテレワーク利用率の推移 (注)全国(2020年1~3月:n=10,516、4~6月:n=12,138、9~12月:n=10,523、2021年1~4月:n=9,796、7~9月:n=10,644、12月~2022年1月:n=10,113)東京圏(2020年1~3月:n=3,467、4~6月:n=4,049、9~12月:n=3,514、2021年1~4月:n=3,261、7~9月:n=3,539、12月~2022年1月:n=3,333)緊急事態宣言は東京都に発令されていた期間を示している。 1.1. 居住都道府県別でみたテレワーク利用率の推移 以下では、属性別にテレワーク利用率の推移をみていく。帯グラフでは、コロナ禍前の2020年1月、全国的にテレワーク利用が最も進んだ1回目の緊急事態宣言時の2020年4~5月、直近の2022年1月4週目の3時点の結果を示している。 居住都道府県別に推移をみると(図表1-1)、コロナ禍前から直近までのテレワーク利用率の伸び幅が大きい都道府県は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、愛知県であり、大都市圏でテレワークの利用が広まっている。 図表1-1 居住都道府県別でみたテレワーク利用率の推移-新型コロナウイルス感染拡大前、第1回緊急事態宣言時、直近時点の比較- (注)nは2022年1月時点のサンプルサイズを示している。軸からグレー、青、点線枠の白の順に積み上がっているのは、2020年1月時点より2020年4~5月時点の利用率が高く、その後、2022年1月時点では減少したことを示す。また、第1層が青になっている県(例:秋田県)では、2020年1月時点よりも、2022年1月時点の水準が低くなっていることを、また、第2層が白になっている県(例:岩手県)では、2020年4~5月時点の水準よりも、2022年1月時点の水準が高くなっていることを示す。 1.2. 産業別でみたテレワーク利用率の推移 産業別に推移をみると(図表1-2-1)、コロナ禍前から直近までのテレワーク利用率の伸び幅が大きい産業は、「通信情報業」、「情報サービス・調査業」、「金融・保険業」となった。他方、伸び幅が低い産業は、「飲食業、宿泊業」、「農業・漁業・林業・水産業」、「医療・福祉」があげられる。 時系列で詳しくみると(図表1-2-2)、「通信情報業」は2021年4月以降、テレワーク利用率が徐々に伸び続けており、他の産業よりも明らかに高い水準である。他の産業では増減を繰り返したり、あるいは低迷しているのと対照的である。他の産業の多くは、4回目の緊急事態宣言解除後、テレワーク利用率が若干低下する傾向がみられる。テレワークは実施可能なものの、感染状況が改善すると出社に切り変えていることが伺える。「飲食業・宿泊業」、「医療・福祉」のテレワーク利用率は、コロナ禍前から一貫してほとんど上昇せず、低迷している。 図表1-2-1 産業別でみたテレワーク利用率の推移 (注)nは2022年1月時点のサンプルサイズを示している。 図表1-2-2 産業別(抜粋)でみたテレワーク利用率の推移(詳細) (注)緊急事態宣言は東京都に発令されていた期間を示している。 1.3. 所得階層別でみたテレワーク利用率の推移 所得階層別に推移をみると(図表1-3-1)、所得の高い層でテレワーク利用率の水準が高くなっている。時系列で詳しくみると(図表1-3-2)、1回目の緊急事態宣言期間の2020年4~5月に、所得階層間のテレワーク利用率に大きな差が生じ、解除直後にその差はやや縮小したものの、その後現在まで、一定の格差が改善されないまま残っていることがわかる。直近の動きでは、4回目の緊急事態宣言解除後に所得の高い層で、テレワーク利用率が一時的に落ち込み、その後、オミクロン株の感染拡大時に増加している。 図表1-3-1 所得階層別でみたテレワーク利用率の推移 (注)nは2022年1月時点のサンプルサイズを示している。 図表1-3-2 所得階層別でみたテレワーク利用率の推移(詳細) (注)緊急事態宣言は東京都に発令されていた期間を示している。 2. 通常の職場での勤務とテレワークによる勤務の頻度の推移 Q4. あなたは以下の時期に、通常の職場に出勤しての勤務とテレワーク勤務を、どのぐらいの頻度で行いましたか。なお「通常の職場に出勤しての業務」には「自営業など通常の職場と自宅が同じ場合」も含みます。(1) 2022年1月4週目(2) 2021年12月 通常の職場で勤務している人(テレワーク利用者含む)の出社頻度の推移みると(図表2-1)、2021年9月以降、週5日以上出社している人の割合がやや増えている。 次に、テレワーク利用者のテレワーク利用頻度の推移をみると(図表2-2)、足元の動きとして、2021年9月から12月にかけて低下したが、12月から2022年1月にかけて増加している。この背景には9月以降の1日あたりの新規感染者数の減少と、2022年1月以降のオミクロン株の急速な感染拡大があると考えられる。テレワーク利用率自体に大きな変化はないが、テレワーク頻度は感染状況に応じて変化していると考えられる。 図表2-1 通常の職場で勤務している人の出社頻度の推移 図表2-2 テレワーク利用者の利用頻度の推移 3. 仕事の効率の変化 Q7. 新型コロナウイルスの感染拡大の出来事がなく、2022年1月4週目に通常通りの勤務をしていた場合を想像してください。通常通りの勤務に比べて、時間あたりの仕事のパフォーマンス(仕事の効率)はどのように変化したと思いますか。通常通り勤務していた場合の仕事の成果を100とした場合の数字でお答えください。たとえば、仕事のパフォーマンスが1.3倍になれば「130」、半分になれば「50」となります。上限を「200」としてお答えください。 Q7の回答の分布をテレワーク利用別にみると、図表3aのようになった。テレワーク利用者については、テレワークを利用していない人に比べて、100と回答した人の割合は低く、60~90や110~120と回答した人の割合が高くなっている。テレワークにより、仕事を効率的にできる人と、そうではない人がいることが伺える。(注4) 次にテレワーク利用者の回答結果の分布を時系列でみると(図表3b)、2020年6月から12月にかけて、100と回答した人の割合が増加し、その後、12月から2022年1月にかけては、ほとんど変化がみられない。1回目の緊急事態宣言下で突如始まったテレワークにより、仕事の効率性を下げた人がテレワークに慣れ仕事の効率性が改善させたこと、テレワークにより仕事の効率性が下がる人がテレワークを利用しなくなったことなどが、背景にあると考えられる。 図表3a 仕事の効率(2022年1月、テレワーク利用別) (テレワークを利用している:n=1,693、テレワークを利用していない:n=8,137) 図表3b テレワーク利用者の仕事の効率の推移 (2020年6月:n=2,122、12月:n=1,647、2021年9月:n=1,861、2022年1月:n=1,693) 4. ICTツールの活用状況 Q8. 2022年1月4週目で、あなたは、通常の職場に出勤しての勤務やテレワークで、以下のどのICTツールを利用していましたか。なお「通常の職場に出勤しての業務」には「自営業など通常の職場と自宅が同じ場合」も含みます。(いくつでも) テレワークを促進するうえで不可欠なICTツールが、どの程度利用されているのかを調べた。(注5)選択肢に提示したICTツールを少なくとも1つは利用している人の割合(「ICT利用率」、以下同)をテレワーク利用別にみると(図表4-1)テレワーク利用者はICT利用率が顕著に高い。(注6)しかし、テレワークを利用していない人にとっても、職場のデジタル化や、テレワーク利用者とのコミュニケーションにICTツールは有用であり、一定程度、利用している人がいる。 ICT利用率の時系列の変化は、2021年9月まで徐々に上昇してきていたが、9月以降は若干減少する結果となった(図表4-2)。 図表4-1 ICTツールの活用状況(テレワーク利用別) 図表4-2 ICTツールの活用状況 5. オミクロン株の仕事への影響 (1)あなた自身の仕事についてQ10. 直近1か月ほどの間でオミクロン株の影響として、あなた自身、または、あなたの仕事に、以下のことは起きましたか。起きた場合は、あなたの仕事への影響について、最も重大なものを1つ回答してください。(それぞれひとつずつ) オミクロン株の個人の仕事への影響をみると(図表5-1)、オミクロン株に感染したり、濃厚接触者になるといった、オミクロン株の感染による直接的事態よりも、営業時間の規制や経営の悪化などの間接的事態が起った人の割合が高い。仕事への影響があった(「労働時間の短縮」、「一時休業、自宅待機」、または「長期休業、失業、解雇」、以下同)と回答した人の割合は、直接、間接に関わらず、オミクロン株による感染の事態が起きた人の割合の半数程度にのぼる。 図表5-1 オミクロン株の個人の仕事への影響(全国) (2)あなたの所属する組織についてQ11. 直近1か月ほどの間で広まったオミクロン株の影響として、あなたの所属する組織(会社や団体、個人事業など)では、以下のことは起きましたか。起きた場合は、組織の活動に与えた影響のうち、最も深刻な事態について1つだけ回答してください。(それぞれひとつずつ) オミクロン株の組織への影響をみると(図表5-2-1)、従業員がオミクロン株に感染したり、濃厚接触者になるといったオミクロン株の感染の直接的事態は、営業時間の規制などの間接的事態に比べて、頻繁に起きている。一方で、組織の活動に影響があった(「短縮、一部停止」または「全体が停止」、以下同) と回答した人は、直接的事態、間接的事態に関わらず、どの項目も約10%となった。この結果は、感染などの直接的事態の影響よりも、規制などの間接的事態の影響の方が、相対的に組織の活動に大きな影響を及ぼすことを示唆している。 東京圏に限定すると(図表5-2-2)、オミクロン株による事象が組織で起きている人の割合は全国よりも高いが、組織の活動に影響があったと回答した人の割合は、全国と変わらない。 図表5-2-1 オミクロン株の組織への影響(全国) 図表5-2-2 オミクロン株の組織への影響(東京圏) 6. メンタルヘルス コロナ禍における就業者のメンタルヘルスについて調べた。ここでは、メンタルヘルスの測定するための指標として、K6を用いる。K6は得点が高いほど、メンタルヘルスが悪いと解釈できる指標であり、詳細については脚注を参照されたい。(注7) 新型コロナウイルス感染拡大前の日本のメンタルヘルスの状態は、『2019年度国民生活基礎調査』の結果で確認できる。(注8)K6の合計点(12歳以上)の得点分布を確認すると、図表6-1のようになり、0~4点が68%、5~9点が17%、10~14点が7%、15点以上が2%であった。また、同調査のK6の合計点の分布を、本調査のサンプルと同様、有業人員(15歳以上)に限定した場合は0~4点が70%、5~9点が18%、10~14点が7%、15点以上が2%であり(図表6-2)、K6の得点分布は図表6-1で示した12歳以上の結果とほとんど変わらない。(注9) 次に、本調査において計測した2020年3月~2022年1月の間の5時点でK6の分布の形状を確認する(図表6-3)。その結果、2020年3月から2021年9月にかけて、K6の得点が低い人の割合が増え、全体のメンタルヘルスが大きく改善していることがわかる。2021年9月と2022年1月の結果はほぼ同じ形状であり、メンタルヘルスの改善傾向は止まりつつあることを示唆している。 性別、年齢階層別にみると(図表6-4)、性別よりも年齢階層による違いが大きいことがわかる。コロナ禍のメンタルヘルスは均一に悪いわけではなく、特に40代以下の人は50代以上の人に比べて、深刻な状態にあるといえる。 図表6-1 2019年度国民生活基礎調査のK6の合計点の分布(12歳以上) (n=107,384) 図表6-2 2019年度国民生活基礎調査のK6の合計点の分布 有業人員(15歳以上) (n=61,608) 図表6-3 K6の分布(注10) (2020年3月:n=10,516、6月:n=12,138、2021年4月:n=9,796、9月:n=10,644、2022年1月:n=10,113) 図表6-4 性別、年齢階層別でみたK6の分布(2022年1月) (40代以下男性:n=3,065、40代以下女性:n=2,668、50代以上男性:n=2,521、50代以上女性:n=1,859) 7. ワクチン接種 7.1. ワクチン接種の推移 Q13. 新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種しましたか。(ひとつだけ) 新型コロナワクチンの接種状況の推移について調べた。結果は、第5回調査(2021年9月)と第6回調査(2022年2月)の両調査に参加し、ワクチン接種時期について矛盾回答がないサンプルに限定したものである。結果をみると、2022年2月時点では(図表7-1-1)、「3回目の接種を希望しているが、まだ終えていない」人の割合が67%と最も高い。 「1回も接種しない」人の割合は、2021年9月(図表7-1-2)から2022年2月にかけて14%から10%減少している。一方、2022年2月時点で、今後のワクチン接種をしないと回答した人の割合(「2回接種したが、3回目の接種はしないつもりだ」、「1回接種したが、2回目以降の接種はしないつもりだ」、「1回も接種しないつもりだ」の合計)は24%に上る。今後、希望しているが受けていない人の接種は進むと考えられるものの、3回目の追加接種は1~2回目の接種のようには伸びない可能性がある。 図表7-1-1 3回目のワクチンの接種状況(2022年2月) (n=7,412) 図表7-1-2 2回目のワクチンの接種状況(2021年9月) (n=7,412) 7.2. ワクチン接種に関する考え(注11) Q14. ワクチン接種(「追加接種」)に関するあなたの考えについて、次の点があてはまるかをお答えください。(それぞれひとつずつ) Q14の回答結果をみると(図表7-2-1)、ワクチン接種に対する考えとして、「自分の感染リスクを軽減できる」、「周囲の人を感染から守れる」を支持する人の割合が60%を超えており、他の項目よりも高い。一方、「ワクチン接種をしなくても、基本的な感染防止対策で十分」、「新型コロナウイルスのオミクロン株は、ワクチン接種を受ける必要があるほど深刻ではない」、「すでに多くの人がワクチン接種しているので、自分はワクチン接種する必要がない」、「自分は感染しない、または重症化しない」を支持する人の割合は10%強と他の項目よりも低い。2022年2月時点で、多くの人がワクチンの有効性に対して期待を抱き、また、他人や周囲への配慮から、接種に前向きであることが伺える。 なお、「ワクチン接種の予約が取りにくい、または予約を取るのが面倒」と考える人が一定程度いる。さらに、「ワクチンの安全性は確認できていない」に対し、「当てはまらない」と答えた人よりも、「当てはまる」と答えた人の方が多い。 図表7-2-1 ワクチン接種に関する考え (n=7,412) 図表7-2-1の結果をワクチン接種忌避者(「2回接種したが、3回目の接種はしないつもりだ」、「1回接種したが、2回目以降の接種はしないつもりだ」、「1回も接種しないつもりだ」と回答した人)に限定して集計すると、全体と比較して、ワクチン接種により「自分の感染症リスクを軽減できる」ことや、「周囲の人を感染から守れる」ことへの支持が低い。また、ワクチンの安全性を懸念する人の割合や、ワクチン接種しなくても基本的な感染防止対策で十分と認識している人の割合が高い。 図表7-2-2 ワクチン接種に関する考え(ワクチン接種忌避者に限定) (n=1,672) 8. 感染症対策か経済対策か Q13. 新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえておうかがいします。将来も含めた国民全体にとって、政府が以下の取組を進めることに賛成ですか、反対ですか。(それぞれひとつずつ) 感染症対策重視か経済対策重視か。コロナ対策に対する評価は揺れ動いている。図表8は、「感染拡大の抑止より経済活動の活性化を優先する政策の推進」への賛否について、第3回調査(2020年12月実施)~第6回調査(2022年2月実施)まで、全調査に参加した人に限定した結果である。結果をみると、経済対策重視の割合が感染対策重視を上回る傾向や、「どちらでもない・わからない」の回答が最も多くなる傾向は安定してみられる。直近の2022年2月では、特に感染対策重視の人の割合が小さくなった。 図表8 感染症対策か経済対策か (n=5,833) 参考文献川上憲人(2007)「全国調査におけるK6調査票による心の健康状態の分布と関連要因」『平成18年度政策科学総合研究事業(統計情報総合)研究事業「国民の健康状況に関する統計情報を世帯面から把握・分析するシステムの検討に関する研究」分担研究書』13-21.Furukawa, T.A., Kawakami, N., Saitoh, M., Ono, Y., Nakane, Y., Nakamura, Y., Tachimori, H., Iwata, N., Uda, H., Nakane, H., Watanabe, M., Naganuma, Y., Hatah, Y., Kobayashi, M., Miyake, Y., Takeshima, T., Kikkawa, T. (2008) “The performance of the Japanese version of the K6 and K10 in the World Mental Health Survey Japan,” International Journal of Methods in Psychiatric Research, 17 (3), 152–158.Kessler, R. C., P. R. Barker, L. J. Colpe, J. F. Epstein, J. C. Gfroerer, E. Hiripi, M. J. Howes, S. T. Normand, R. W. Mandersheid, E. E. Walters, and A. M. Zaslavsky. (2003) “Screening for Serious Mental Illness in the General Population,” Archives of General Psychiatry, 60, 184-189.Okubo, T., Inoue, A., & Sekijima, K. (2021a). Teleworker performance in the COVID-19 era in Japan. Asian Economic Papers, 20(2), 175-192.Okubo, T., Inoue, A., & Sekijima, K. (2021b). Who Got Vaccinated for COVID-19? Evidence from Japan. Vaccines, 9(12), 1505. 調査概要 1. 調査の趣旨・目的 テレワークに関する就業者実態調査は、新型コロナウイルスの感染拡大による、全国の就業者の働き方、生活、意識の変化や、業務への影響等の実態を捉えることを目的としたものである。同一の就業者に対する追跡調査を行うことにより、新型コロナウイルス感染症が、働き方や生活などに与える影響をより正確に把握することができる。 本調査は、2020年4月、6月、12月、2021年4月、9月に実施した調査に続く、第6回目の調査となる。就業者の働き方や生活の変化を捉え、災害や感染症による被害を受けても、一人ひとりが能力を十分に発揮して働くことができる社会に向けての課題を分析できる調査設計にしている。 2. 調査名 第6回テレワークに関する就業者実態調査 3. 主な調査項目 ・テレワークの利用状況・利用頻度・ICT利用状況・仕事の効率性、オンラインミーティングの効率性・オミクロン株による個人、職場への影響・会社・経営組織の動向(BCP等)・仕事・生活の変化・メンタルヘルス・コロナ禍での意識・価値観・行動の変化、政策への賛否・会社・経営組織の動向・ワクチンに対する考え、ワクチン接種、副反応、コロナ感染経験など 4. 調査期間 2022年2月3日(木)~14日(月) 5. 調査方法 1) 実施方法:インターネット調査(スクリーニング調査・本調査)。回収目標数を10,000サンプルとして、過去の調査と同様のスクリーニング調査、割付を行ったうえで、配信し、回収した。(注12)2) 調査機関:株式会社日経リサーチ3) 調査対象者:調査会社に登録しているインターネット調査登録モニター4) 調査対象:以下の(ア)および(イ)に対して調査を実施した。(ア)第1回から第5回調査の回答者 第1回から第5回調査の回答者の合計である17,758サンプルすべてを調査対象とした。(イ)第6回調査から参加する就業者 6. 回収数 総数:10,113件うち、過去の調査からの継続回答は9,085件、本調査から参加する新規回答は1,028件。 7. 回答者の属性 8. 研究体制 大久保敏弘 慶應義塾大学経済学部教授/NIRA総研上席研究員加藤究 フューチャー株式会社シニアアーキテクト/NIRA総研上席研究員神田玲子 NIRA総研理事・研究調査部長井上敦 NIRA総研研究コーディネーター・研究員関島梢恵 NIRA総研研究コーディネーター・研究員鈴木壮介 NIRA総研研究コーディネーター・研究員安藤航平 慶應義塾大学経済学研究科修士課程在籍 9. 外部資金 本調査研究は科研費(基盤研究B「大規模災害時代の「災害の経済学」と防災-国際貿易・空間経済学の視点から」研究代表者:大久保敏弘19H01487)、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム(研究代表者:大久保敏弘)、旭硝子財団サステイナブルな未来への研究助成(「自然災害における家計の防災意識とエネルギー意識に関する実証研究」:研究代表者:大久保敏弘)の補助を受けている。 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)大久保敏弘、NIRA総合研究開発機構(2022)「第6回テレワークに関する就業者実態調査報告書(速報)」 脚注 1 本調査での「テレワーク」とは、インターネットやメールなどのICT(情報通信技術)を利用した、場所などにとらわれない柔軟な働き方としている。通常の勤務地(自社および顧客客先、出先など)に行かずに、自宅やサテライトオフィス、カフェ、一般公共施設など、職場以外の場所で一定時間働くことを指す。具体的には、在宅勤務、モバイル勤務、施設利用型勤務などが該当する。ただし、移動交通機関内や外回り、顧客先などでのICT利用は含まない。また、回答者が個人事業者・小規模事業者等の場合には、SOHOや内職副業型(独立自営の度合いの業務が薄いもの)の勤務もテレワークに含まれる。第1回調査の2020年3月時点では就業している人のみを対象としたが、第2~5回調査では、継続回答者で失業した人も含まれる。なお、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」や総務省の「通信利用動向調査」におけるテレワークの定義ではICTを利用した普段の勤務地とは別の場所で仕事をすることとしている。同調査では自社の他事業所や顧客先、外回りでの利用、移動中の交通機関、駅構内、空港内でのPCやモバイル端末利用も含まれている。 2 この一連の調査研究は科研費(基盤研究B「大規模災害時代の「災害の経済学」と防災-国際貿易・空間経済学の視点から」研究代表者:大久保敏弘19H01487)、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム(研究代表者:大久保敏弘)、旭硝子財団サステイナブルな未来への研究助成(「自然災害における家計の防災意識とエネルギー意識に関する実証研究」:研究代表者:大久保敏弘)の補助を受けている。 3 各時期の詳細結果については、2020年1~3月は第1回調査、4~6月の結果は第2回調査、9~12月の結果は第3回調査、2021年1~4月は第4回調査、7~9月は第5回調査の報告書を参照されたい。第1回調査結果:大久保敏弘・NIRA 総合研究開発機構(2020)「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査結果に関する報告書」・第2回調査結果:大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2020)「第2回テレワークに関する就業者実態調査報告書」・第3回調査結果:大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2021)「第3回テレワークに関する就業者実態調査報告書」・第4回調査結果:大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2021)「第4回テレワークに関する就業者実態調査報告書」・第5回調査結果:大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2022)「第5回テレワークに関する就業者実態調査報告(速報)」 4 詳細はOkubo, Inoue and Sekijima(2021a)を参照のこと。 5 回答者はあくまで就業者本人の利用状況を回答しており、会社・組織を代表しての回答ではない。 6 選択肢に示したICTツールは以下のとおりである。(1)コミュニケーションの円滑化として、テレビ会議・Web会議、チャットやSNSによる社内情報共有、(2)共同作業の円滑化として、ファイル共有・共同作業、リモートアクセス、タスク・プロジェクト管理、(3)業務管理として、電子決裁、勤怠管理グループウェア、従業員のメンタルヘルスチェック、生産管理・販売管理・在庫管理、営業管理、採用管理、人事管理、会計管理、(4)オフィスの自動化として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、バーチャルオフィス、非接触型テクノロジー、自動翻訳、BIツール、画像認識・画像解析ツールが含まれる。なお、非接触型テクノロジーの選択肢は第3回調査以降、自動翻訳、BIツール、画像認識・画像解析ツールは第5回調査以降で追加された選択肢である。 7 K6はKessler et al.(2003)で開発された尺度で、精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発されたものである。日本語版はFurukawa et al.(2008)で開発されている。設問項目は、「神経過敏に感じましたか」、「絶望的だと感じましたか」、「そわそわ、落ち着かなく感じましたか」、「気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか」、「何をするのも骨折りだと感じましたか」、「自分は価値のない人間だと感じましたか」の6つの設問から構成されており、5段階のスケールで回答する形式となっている。各設問の回答を「まったくない」(0点)、「少しだけ」(1点)、「ときどき」(2点)、「たいてい」(3点)、「いつも」(4点)で点数化し、単純合計によって得点を算出する。厚生労働省『国民生活基礎調査』 にも利用されており、メンタルヘルスを測定する指標として広く利用されている。『国民生活基礎調査』の詳細は、厚生労働省ウェブページ『国民生活基礎調査』で確認できる。なお、川上(2007)では、5~9点は「心理的ストレス相当」、10~12点は「気分・不安障害相当」、13点以上は「重症精神障害相当」と区分している。川上憲人(2007)「全国調査における K6 調査票による心の健康状態の分布と関連要因」『平成18年度政策科学総合研究事業(統計情報総合)研究事業「国民の健康状況に関する統計情報を世帯面から把握・分析するシステムの検討に関する研究」分担研究書』13-21.また、厚生労働省「健康日本21(第2次)」では、「気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の割合の減少」の目標値として、厚生労働省『国民生活基礎調査』において、20歳以上のK6の合計点における10点以上の割合を9.4%(2022年度)と設定している。 8 2019年は大規模調査が実施されており、K6の設問が含まれる健康票については、平成27年国勢調査区のうち後置番号1及び8から層化無作為抽出した5,530地区内の全ての世帯(約30万世帯)および世帯員(約72万人)を調査客体としている。同調査は全国の世帯および世帯員を対象としており、就業していない人や、15歳以下の人も含まれている。そのため、本報告書で使用しているデータとは、想定しているサンプルの母集団が異なるため、分布を直接比較できないことに留意する必要がある。 9『2019年度国民生活基礎調査』では、2019年5月中に全く仕事をしなかった場合であっても、次のような場合は有業としている。そのため、有業人員(15歳以上)に限定した場合の結果は、想定しているサンプルの母集団が本報告書で使用しているデータのサンプルの母集団と極めて近いといえる。(1) 雇用者であって、2019年5月中に給料・賃金の支払いを受けたか、又は受けることになっていた場合(例えば、病気で休んでいる場合)(2) 自営業者であって、自ら仕事をしなかったが、2019年5月中に事業は経営されていた場合(3) 自営業主の家族であって、その経営する事業を手伝っていた場合(4) 職場の就業規則などで定められている育児(介護)休業期間中であった場合 10 分布の形状を確認する際によく用いられるヒストグラムでは、階級の境界の設定により分布の形状が変わるため、ここでは、階級の境界に依存しないカーネル密度推定により分布の形状を確認する。 11 2回目までのワクチン接種状況に関する分析研究はOkubo, Inoue and Sekijima(2021b)を参照のこと。 12 第1回調査では、全国の15歳以上の就業者を母集団とし、株式会社日経リサーチの提携モニターを対象にスクリーニング調査を実施し、就業者に該当する者のみが回答した。2019年度の総務省『労働力調査』の結果に基づき、性別、年齢(6区分)、地域(5区分)に応じて割り付け、回収目標数の10,000サンプルとなるよう調査を実施した。 ※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp シェア Tweet 関連公表物 第10回テレワークに関する就業者実態調査(速報) 大久保敏弘 NIRA総合研究開発機構 感染症対策か経済対策か 大久保敏弘 コロナショックが加速させる格差拡大 大久保敏弘 テレワークを感染症対策では終わらせない 大久保敏弘 組織と個人をリ・アジャストする 金丸恭文 トーマス・リー 谷本有香 楠木建 五神真 川邊健太郎 ©公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ