翁百合
日本総合研究所シニアフェロー/NIRA総合研究開発機構理事

概要

 日本の勤労者世帯の、年収に対する税と社会保険料から給付を差し引いた負担の割合をOECD諸国と比較すると、共働き子育て世帯の場合、生活保護受給水準をやや上回る低所得層における負担率が高くなっている。本稿では、入手可能な最新データでその傾向が変わらないことを確認した。
 また、米国、英国、ドイツ、フランスの主要4カ国と日本の負担率のカーブを比較したところ、米国や英国の低所得層の負担率は低く、収入の増加に応じて負担率の上昇がなだらかなものとなっていることが明らかになった。両国は、給付付き税額控除制度(米国)、ユニバーサルクレジット制度(英国)を整備して、中低所得層に配慮している。
 日本でも低所得の勤労層の支援制度を設計し、実現することは急務といえる。米国および英国の支援制度の目的は類似しているが、制度の仕組みはかなり異なっている。これらの国での評価や課題はすでに明らかになっており、日本でも、目的に応じた制度設計の工夫、執行面における課題の克服など、諸外国の経験を参考に検討する必要がある。こうした支援制度の整備を通じて、国際的に高い水準にある低所得層の負担を軽減し、負担率のカーブを、諸外国のような収入に応じてなだらかに上昇する形状に近づけることが急がれる*

INDEX

はじめに

 筆者は、20235月にオピニオンペーパーNo.65で、OECD tax-benefitモデルを用いて被用者の負担率について国際比較を行った。ここでいう負担率とは、世帯が負担する税と社会保険料の合計から給付を差し引いた額が、世帯収入に占める割合を指す。前回の分析では、OECD諸国(34カ国(注1))の平均値と比較した場合、日本では低所得層における社会保険料負担が大きいこと、また、生活保護受給基準をやや上回る収入水準の世帯において負担率が特に高いことを指摘した。

 その後、国政選挙や自民党総裁選挙などを通じて、中低所得の現役世代に対する給付付き税額控除といった支援政策の必要性が議論されるようになった。現在は、給付付き税額控除は高市政権や野党の政策メニューとして掲げられており、制度導入に向けた本格的な議論が始まりつつある。

 こうした状況を踏まえ、本稿では、当時の分析データをアップデートしたうえで、日本とOECD主要4カ国(米国、英国、ドイツ、フランス)を取り上げ、より実態に近い国際比較を試みる。さらに、具体的な支援制度のあり方について英米の制度を参考に検討を行う。

1.被用者の負担率の国際比較分析の深堀り

(1)共働き子育て世帯の負担率のデータのアップデート

 まず、共働き子育て世帯に着目し、データ更新が分析結果に与える影響を確認する。前回の分析では、OECD tax-benefitモデルの2021年データを用い、被用者世帯の負担率について国際比較を行った。今回は、同モデルの最新データである2024年データを使用し、日本についてはそれに2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映させた。

 日本における2時点間の違いは、次のとおりである。

 第1に、2024年に児童手当を高所得層に拡充する制度改正が行われた。第2に、物価高対策のため生活扶助基準額の加算や最低生活費認定額が引き上げられた。第3に、2025年度税制改正および2026年度税制改正案で課税最低限が引き上げられるとともに、子ども・子育て支援金制度の導入に伴い社会保険料の徴収が開始されることとなっている。第4に、OECD tax-benefitモデルの変更として、2021年時点のデータには含まれていなかった介護保険制度が盛り込まれている(本試算では、40歳の夫で試算しているため、保険料負担が発生する)。第5に、所得水準の上昇を背景に、3年間で被用者1人あたりの平均年収が約35万円増加した(2021年:508万円→2024年:543万円)。

 その結果が図1である。最新データと2021年の日本のグラフの形状を比較すると、大きな形状の変化はない。ただし、この間に最低生活費認定額が引き上げられたこともあって、低所得者の負担率の軽減が若干図られており、世帯収入のキンク(屈曲)が生じる収入水準がやや右にシフトしている(2021年では58%→最新データでは64%)。

 国際比較の観点からも大きな変化はない。すなわち、共働きで子どものいる世帯で比較すると、日本は低所得層でOECD平均よりも負担率が高いという、2021年のデータから得られた結論は、最新データでも変わらないことが確認できた。

 なお、図12に関しては、生活保護については前回と同様、OECDのデータで採用されている地域を使っている(日本の場合は首都東京を採用している)。

図1 共働き・子どもあり世帯の負担率の2時点間比較(OECD平均と日本、2024年をベースとした最新データと2021年)

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(注)1.最新データについては、OECD tax-benefitモデルの2024年データを使用。ただし、日本については2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.今回使用したOECD tax-benefitモデルのバージョンでは、世帯総年収の選択範囲が被用者1人あたり平均収入の200%までとなっているため、2021年もそれにそろえて200までのグラフに修正している。
3.年齢は夫婦ともに40歳、子どもは2歳と6歳と仮定。第2稼ぎ手の労働時間をフルタイムに対し75%(週30時間)、賃金率を1人あたり平均に対し35%で固定する(日本の場合、第2稼ぎ手の年収は142万円となる)。主たる稼ぎ手はフルタイム労働と仮定し、年収が変化したときの世帯総年収を算出した。
4.横軸は各国の被用者1人あたり平均年収(2024年、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。日本の場合は540万円とする。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

 次に、負担率を税、社会保険料、各種手当に分解してみる。ここでも前回同様の結果が得られた。まず、税と社会保険料については、OECD平均では、税の負担割合が高いのに対して、日本では社会保険料の負担が高い。特に、低所得層で、日本では税負担が低く、社会保険料負担率が高いことがわかる。さらに、手当などの支給については、OECD平均では家族手当が手厚く、低所得層の子育て費用負担を軽減している。

図2 共働き・子どもあり世帯の総年収と負担率の構成(OECD平均と日本、2024年をベースとした最新データ)

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(注)1.OECD tax-benefitモデルの2024年データを使用。ただし、日本については2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.年齢は夫婦ともに40歳、子どもは2歳と6歳と仮定。第2稼ぎ手の労働時間をフルタイムに対し75%(週30時間)、賃金率を1人あたり平均に対し35%で固定する(日本の場合、第2稼ぎ手の年収は142万円となる)。主たる稼ぎ手はフルタイム労働と仮定し、年収が変化したときの世帯総年収を算出した。
3.横軸は各国の被用者1人あたり平均年収(2024年、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。日本の場合は540万円とする。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

(2)日・OECD主要4カ国の比較分析:前提の検討と変更点

 次に、日本とOECD主要4カ国(米英独仏)との比較を行う。前回の分析では、OECD諸国平均との比較を行い全体像の把握を試みたが、今回、OECD主要4カ国と比較する理由は2つある。1つは、日本と経済規模が近い4カ国と比較することに意味があると考えたためである。もう1つは、米国および英国では、給付付き税額控除やユニバーサルクレジットなど、中低所得の勤労層(注2)を主な対象とした支援が実施されており、それらが負担率にどの程度の影響を与えているかを確認するためである。なお、低所得の勤労層等に対する支援制度として、ドイツでは手厚い児童手当が、フランスでも勤労手当と児童手当が存在している(注3)

 ただし、日本と主要4カ国との比較に際しては、OECD諸国を対象とした比較から、次の2点の修正を行った。

 第1は、共働き世帯における収入の前提である。前回の分析は、図1および図2のように、「妻は就業調整していて夫の収入のみが増加する」ことを他の国にも当てはめてシミュレーションを行った(以下「妻の所得固定ケース」とする)。しかし、欧米では、妻が就労調整を行うことは日本ほど一般的ではない。また近年は、日本でも若年の共働き世帯では妻が正社員であるケースが増えており、夫婦双方の所得がともに増加する世帯も増えていると考えられる。そこで今回は、夫と妻の収入が同額ずつ増えることを前提とした(以下「夫婦同額増加ケース」とする)。

 日本において、共働き夫婦の収入の前提の違いが負担率に与える影響を示したのが図3である。高所得世帯では負担率にやや差がみられるものの、大きな差異は確認されない。なお、「夫婦同額増加ケース」の方が、高収入世帯で負担率が若干低くなっているのは、世帯全体で同じ所得であっても、夫の所得のほうが妻よりも多い場合の方が、夫婦の所得が均等である場合よりも、税率の累進性から夫の所得にかかる税率が高くなるためである。

図3 「妻の所得固定ケース」と「夫婦同額増加ケース」の比較

図3 「妻の所得固定ケース」と「夫婦同額増加ケース」の比較

(注)1.OECD tax-benefitモデルの2024年データを基に、2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.生活保護制度や住民税率については、1級地-1(東京23区)のものを使用している。
3.年齢は夫婦ともに40歳、子どもは2歳と6歳と仮定。妻の収入を固定する場合は、主たる稼ぎ手をフルタイム労働、第2稼ぎ手(妻)は労働時間をフルタイムに対し75%(週30時間)、賃金率を1人あたり平均に対し35%で固定している(日本の場合、第2稼ぎ手の年収は142万円となる)。
4.横軸は日本の被用者1人あたり平均年収(2024年、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。日本の場合は540万円とする。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

 第2は、生活保護制度における地域区分の変更である。生活保護の給付水準が同一国内でも地域によって異なるため、国際比較にあたっては、各国でできるだけ類似した地域が望ましい。そこで、日本の生活保護世帯の地域区分を、従来の1級地-1(東京23区)から、2級地-1(地方都市)へと見直した。OECDが従来選定している地域は、日本は東京23区だが、日本以外の4カ国は、いずれも国内の中規模の地方都市となっているためである(注4)

 日本において生活保護制度の地域区分を変更したことによる負担率の形状の違いは図4のとおりである。東京よりも地方都市の生活保護の給付水準が若干減少するため、負担率の曲線が若干左方にシフトし、低所得の世帯の負担率が高くなる。

 ただし、生活保護の給付水準が2級地-1よりも低い地域(都市部の1から地方の小規模な自治体の3級地まで存在)もあるので、負担率のカーブは地域によって幅を持ってみる必要がある。

図4 生活保護1級地-1と2級地-1の負担率比較

図4 生活保護1級地-1と2級地-1の負担率比較

(注)1.OECD tax-benefitモデルの2024年データを基に、2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.共働きの場合の夫婦の年収比は1:1と仮定して計算している。年齢は夫婦ともに40歳、子どもは2歳と6歳と仮定。
3.横軸は日本の被用者1人あたり平均年収(2024年、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。日本の場合は、540万円とする。
4.点線は、住宅扶助額を勘案した場合(後掲コラム参照)。また、生活保護が支給されている所得層は、所得水準50%から各ラインのキンク(屈曲)が生じる所得水準までである。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

(3)日・OECD4カ国の比較分析:分析結果

 上記2点の前提の修正を行ったうえで、各国の共働き子育て世帯の負担率カーブを作成し、国際比較を行った結果が図5である。なお、ここでは、各国で制度が異なり、地域差の大きい住宅扶助額を除いて試算している(住宅扶助額を含めた場合の参考試算についてはコラムを参照)。

図5 日本とOECD主要4カ国の負担率の国際比較(共働き・子どもあり世帯、住宅扶助を除く)

図5 日本とOECD主要4カ国の負担率の国際比較(共働き・子どもあり世帯、住宅扶助を除く)

(注)1.OECD tax-benefitモデルの2024年データを使用。ただし、日本については2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.各国とも住宅扶助(家賃手当など)は含まない。また、日本の生活保護制度は2級地-1を採用。
3.各国とも共働きの場合の夫婦の夫と妻の年収は同額ずつ増えると仮定して計算。また年齢については、日本では、夫婦ともに40歳、子ども2人は2歳と6歳、また、米国・英国・ドイツ・フランスでは、夫婦ともに35歳、子どもは2歳と5歳と仮定。
4.横軸は各国の被用者1人あたり平均年収(2024年時点、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。具体的には、日本:540万円、米国:70,627ドル、英国:51,310ポンド、ドイツ:63,288ユーロ、フランス:44,969ユーロ。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

 日本の負担率は、保険料率が高いドイツを除く3カ国と比較すると、低所得層で、かつ、生活保護受給基準をやや上回る所得層で高くなるという特徴は図1および図2と同様である。具体的には、日本は負担率のカーブは、被用者平均年収比でみて5060%で急上昇し、6080%の水準で高い値を示し、その負担率は米英フランスを上回っている。また、それ以上の所得層では日本の負担率の累進性は限定的である。

 各国と比較すると、特に、ユニバーサルクレジットを導入している英国や、給付付き税額控除のある米国では、中低所得層への支援が手厚いことから、負担率が低く、また、収入の増加に応じて負担率の上昇はなだらかなものとなっていることがよくわかる。また、日本と比較すると、フランスも中低所得層の負担率が低いことも確認できる。ドイツと比較すると、日本は60%のところで負担率が上回る。ドイツは日本と同様に低所得層の負担率は高いが、高所得になるにつれて負担率がさらに高くなり、日本および米英フランスと比較して、累進的な負担率となっているのが特徴である。なお、日本で負担率が特に高くなる世帯、すなわち被用者1人あたりの平均収入比でみて6080%に相当する世帯の所得額は、325430万円程度である。

 なお、ここでは共働き・子育て世帯の分析を行っているが、前回の2021年データを用いてOECD平均との国際比較を行った分析では、①日本の片働き子育て世帯の負担率の形状は、共働き子育て世帯と同様であること、②子どものいない世帯(単身世帯・共働き・片働き世帯)の負担率を国際比較すると、日本では子育て世帯同様に、低所得層の負担率が高いが、その負担率の高くなる世帯の収入水準は子育て世帯のそれよりも低いこと、③子どものいない世帯と比較すると、日本では子育て世帯への支援が十分でないことなどを確認している。

コラム

 ここまでの分析では、住宅扶助を除いたうえで国際比較を行ってきた。それは各国で住宅扶助の仕組みや給付基準、適用条件が異なり、同一国内でも地域によって違いがあるためである(注5)。たとえば、日本では、生活保護の地域区分によって給付水準が異なり、1級地-1(東京23区)と2級地-1(地方都市)の負担率カーブを比較すれば前掲図4のとおり違いが生じる。住宅扶助額の低い3級などの地域は負担率カーブがさらに左にシフトする。また、共同住宅や親族の家に住んでいる場合など、住宅扶助を受けない世帯もある。

 試みに、OECD選定地域(地方都市)の中水準の住宅扶助額を加算し、日本の2級地-1と比較した結果は、参考図のとおりである。

 まず、日本の共働き・子育て世帯の負担率は、負担率がプラスになる所得水準が15%程度右にシフトするため、被用者1人あたり平均年収比70%から急上昇し7585%の水準(405460万円程度に相当)で高い負担率となっている。

 国際比較をすると、米国では、50%以上の世帯には住宅扶助が適用されないため、負担率のカーブは変化しない。このため、住宅扶助を含めると、住宅扶助が米国より厚い日本の負担率カーブは、7585%の水準での負担率の高さは目立つものの、米国の負担率カーブに近づいている。一方、米国以外は、負担率カーブが各国とも全体として右側にシフトしている。特に、英国とドイツの住宅扶助額が厚いことから、カーブが大きく右にシフトして低所得層の負担率の軽減が図られており、日本の7585%の負担率の高さが一層目立つかたちとなっている。フランスと日本は同じ程度右にシフトしており、両国の負担率カーブの差は大きくは変わらない。

 ただし、繰り返しになるが、日本も含めて各国の住宅扶助額の水準は、その地域、基準によって大きく異なる。この分析結果はあくまで参考図として示しており、地域によって住宅扶助額が大きく異なり負担率カーブがずれることを念頭に置く必要を示唆している。


(参考図)OECD主要4カ国と日本の負担率の国際比較(共働き・子どもあり世帯、住宅扶助を含む)

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(注)1.OECD tax-benefitモデルの2024年データを使用。ただし、日本については2025年度および2026年度税制改正等の内容を反映。
2.各国の生活保護制度における住宅扶助額は、各国の地方都市の中水準の支給額を選んでいる。
3.各国とも共働きの場合の夫婦の夫と妻の年収は同額ずつ増えると仮定して計算。また年齢については、日本では、夫婦ともに40歳、子ども2人は2歳と6歳、また、米国・英国・ドイツ・フランスでは、夫婦ともに35歳、子どもは2歳と5歳と仮定。
4.横軸は各国の被用者1人あたり平均年収(2024年、フルタイム労働者換算)を100とした場合の世帯年収の相対的な位置を表している。具体的には、日本:540
万円、米国:70,627ドル、英国:51,310ポンド、ドイツ:63,288ユーロ、フランス:44,969ユーロ。
(出所)The OECD tax-benefit model, Model version 2.7.1を基に、NIRA総研が修正して試算。

2.諸外国の低所得の勤労層の支援制度

 以下では、給付付き税額控除やユニバーサルクレジット制度の具体的な内容を深堀したうえで、日本の課題を考える。

(1)米国の給付付き税額控除制度の概要とその目的

 給付付き税額控除とは、税額控除額が、納税者が負担している税額を上回る場合、その差額を給付として受け取ることのできる制度である。

 米国のEITCEarned Income Tax Credit 勤労所得税額控除)は、給付付き税額控除の手法で1975年に導入され、90年代のクリントン政権で拡充された。社会保障税の軽減も含め、以前からあった福祉型支援を就労促進型支援へと転換し、中低所得の勤労層の負担軽減、所得引き上げを意図して導入された制度である。支援の対象は、勤労所得を有する中低所得世帯であるが、就労が要件となっている。また、子どもの有無・人数で控除率と上限額が異なる。勤労による収入が増えると受益額が逓増し、収入がある水準に達するとしばらく一定の受益額となり、さらに収入が増加すると受益額は逓減して消失する仕組みとなっている。この設計により、収入の低い層は働くほど受益額が増えて、就労を促す仕組みとなっている。なお、1997年からは児童税額控除(Child Tax Credit)も勤労所得を持つ者に対して給付付き税額控除の手法で導入され、子どもを養育する中低所得の勤労層の負担軽減をさらに図っている。

 米国の税申告制度は、源泉徴収だけで納税プロセスが完結しないため、年1回の個人による確定申告が原則である。毎年、納税者は所得・家族構成を申告し、その際EITCの適用資格があるか、対象者である場合に税控除か給付かを同じ申告プロセスで自動的に確定・処理できる仕組みとなっている。米国は既婚者の場合、夫婦合算申告か夫婦別離申告かを選択できる仕組みであるが、夫婦合算申告を選択した場合のみEITCで給付を受けることができる。このようにEITCは、複雑な審査プロセスを必要とせず、申告を所得税の確定申告プロセスに載せているため、申告および管理・審査に要するコストが相対的に低い制度設計となっている。ただ、その一方で、ルールが複雑であることもあり、過誤・不正が多く発生していることも指摘されている。

 このように、EITCの目的は、①貧困を削減、②就労インセンティブを強化し、③不正は多いものの、税の申告と給付を一体化して行政コストを効率化させることにある(注6)

(2)英国のユニバーサルクレジット制度の概要とその目的

 一方の英国のユニバーサルクレジット制度は、2012年の福祉改革法で複数の給付制度を統合するものとして導入が決まり、徐々に制度が整備され現在も移行のプロセスにある。従来、住宅手当、児童給付、勤労給付など6つの給付制度が別々に存在し制度が複雑でコストが高かったが、それらを一本化した低所得層への給付制度となっている。なお、勤労給付については、2003年の導入時は勤労税額控除という名称であり、米国のEITCのように給付付き税額控除の手法を用いた制度であったが、源泉徴収の仕組みを通じて雇用主が控除および給付を行う仕組みであったことから、雇用主の事務負担を考慮し、2006年に給付制度に移行したものである。

 英国の場合も給付には就労要件がかかっているが、求職活動中の人も給付を受けることができる。一方、給付構造をみると米国とは異なり、公的扶助機能も統合された制度であることから、一定の所得までは給付額は維持され、その後は所得の増加に応じて給付額は逓減し、働くほど自立を促す仕組みとなっている。子どもの数や同一世帯の就労状況、貯蓄・資産額などを世帯ごとに把握して給付額が決定されている。

 英国では、被用者の場合は勤務先企業による源泉徴収・支払税額調整制度であるPay As You Earn (PAYEペイイー)という仕組みが導入されている。勤務先企業は、給与支払の都度、源泉徴収を実施するとともに、給与情報を税務当局へ報告することとなっている。ユニバーサルクレジットの給付においては、その情報が給付主体である雇用年金省に連携され、活用されている。個人事業者等の場合は、雇用年金省に自ら毎月所得情報を申告することとなっている。該当世帯への支給頻度は月1回、世帯代表者の口座に振り込まれる(注7)

 ユニバーサルクレジット制度の目的は、①低所得世帯の生活保障、②米国とは異なる手法ではあるが就労ディスインセンティブの解消に加えて、③給付制度の一本化・簡素化による行政コストの削減、といえる。

(3)米英の制度の評価

 米英の制度については、総じてポジティブな評価が見受けられる。特に、研究の蓄積も多い米国では、低所得層の支援、労働インセンティブの改善、行政コスト効率化として成功しているとの評価が多くみられる(注8)。一方、課題としては、申告制度が複雑であり過誤があることや、共働き低所得層の既婚女性にとってのメリットが小さいことなどが指摘されている(注9)。また、英国では、執行手続きが複雑で支給の遅延などの問題が挙げられている(注10)。さらに、世帯所得で合算されてしまうが故に共働きの第2稼ぎ手である既婚女性の就労インセンティブが、片働きの場合に比較すると弱くなる傾向がある、といった米国と類似の指摘もみられている(注11)

(4)日本で検討する場合の目的と課題・論点

 日本でも、米国や英国のような支援制度を参考にして、国際的に高い水準にある低所得層の負担を軽減し、負担率のカーブを、諸外国のような収入に応じてなだらかに上昇する形状に近づけることが急がれる。英米の制度で参考になるのは、労働インセンティブや子育て支援に配慮している点である。低所得の勤労層にこうした考え方を入れて制度を設計することは、今後の日本で急速に進む労働不足、人口減少を考えても重要な視点と思われる。

 しかし、日本での導入には課題も多い。第1に、対象となる世帯の所得把握とタイムリーな給付という執行面の課題をクリアすることである。個人または世帯の所得把握が鍵となる。日本の場合、被用者の場合は現在の企業が把握している従業員の自社給与に関する所得情報はあるが、フリーランスなどはマイナンバー制度を活用した申告制と組み合わせるなどの工夫が必要である。低所得の現役世代には金融資産の大きな差はないと考えられ、まずは対象の勤労層でどの程度の収入の個人または世帯まで支援するかを判断し、対象個人または世帯の所得把握を進める実務的な検討を急ぐ必要があるだろう。

 また、日本は確定申告制度が米国ほど普及していないため、利便性の高い申告制度と給付制度を考える必要がある。一方で、行政コストの効率化や企業の事務負担を大きく軽減する機会と考えて、中期的には英国型の官民データ連携の仕組みも参考にして検討する必要があるだろう。

 第2に、米英の制度を踏まえると、給付付き税額控除制度の検討にあたってはその目的の明確化が重要である。米英の場合は、貧困の削減に加えて、労働インセンティブや子育て支援への配慮を重視している。

 日本で検討するにあたっては、次の3つの視点が重要であろう。1つ目は、「現役世代の負担率が、高齢者との比較においても、また収入に対しても、できるだけフェアにする必要がある」といった公正性確保の視点、2つ目は、「生活にゆとりがなくなってきている子育て世帯や若年世帯等を支援する必要がある」という少子化対策、子育て支援としての視点、そして3つ目は、労働人口が大きく減少する中で、「低所得の勤労層への支援を、労働意欲を損なわないよう工夫する必要がある」といった、就労によって豊かな生活を営めるようにする「ワークフェア」の視点である。

 子育て支援については、子どもの数を支援要件かつ給付の多寡の基準にしている米英の手法は参考になる。また、就労インセンティブの観点では、米国のように収入が増えると給付額が逓増し、ある水準に達すると一定となり、さらに収入が増加するとなだらかに逓減する、といった制度を工夫する必要がある。

 就労インセンティブと両立する給付付き税額控除制度の検討にあたっては、米英の経験に基づけば、給付付き税額控除を世帯単位にするか、個人単位にするかといった論点は重要である。加えて、扶養控除や配偶者控除といった所得税制との整合性も整理し、所得税の人的控除の体系も見直す契機にしていく必要もあるだろう。

 第3に、給付付き税額控除の財源確保についても考える必要がある。その際には、諸外国の負担率カーブも参考にして、負担率を収入に対してフェアでなだらか、そしてより累進性が確保されるように、所得再分配のあり方を検討するという視点も重要になるだろう。

参考文献

翁百合(2023)「子育て世帯の負担と給付の公正性は確保されているか」オピニオンペーパーNo.65 NIRA総合研究開発機構
関島梢恵(2024)「勤労者世帯の負担と給付の国際比較 OECD tax-benefit model(TaxBEN)を用いたアプローチ」NIRA総合研究開発機構
西沢和彦(2020)『医療保険制度の再構築』慶應義塾大学出版会
森信茂樹(2026)「給付付き税額控除の導入意義と課題」経済同友会2026年1月7日講演資料
Bastian, J. (2020) "The Rise of Working Mothers and the 1975 Earned Income Tax Credit," American Economic Journal: Economic Policy, 12(3), 44–75.
Brewer, M., Browne, J., and Jin, W. (2011) Universal Credit: A Preliminary Analysis (IFS Briefing Note No. 116). Institute for Fiscal Studies.
Hoynes, H., and Rothstein, J. (2016) Tax Policy Toward Low-Income Families (NBER Working Paper No. 22080). National Bureau of Economic Research.
Hobson, F. (2021) Universal Credit: Ten Years of Changes to Benefit Claims and Payments (Briefing Paper No. 9109). House of Commons Library.

翁百合(おきな ゆり)

翁百合(おきな ゆり)

日本総合研究所シニアフェロー、NIRA総合研究開発機構理事、一橋大学大学院特任教授。京都大学博士(経済学)。著書に『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社、2010年)など。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)翁百合(2026)「低所得の勤労層への支援の検討―日・主要4カ国比較と英米の支援制度の経験から得られる示唆―」NIRAオピニオンペーパーNo.89

脚注
* 本稿におけるデータ分析は、NIRA総研研究コーディネーター・研究員の鈴木日菜子が担当した。 * 本稿におけるデータ分析は、NIRA総研研究コーディネーター・研究員の鈴木日菜子が担当した。
1 OECD加盟国38カ国のうち、コスタリカ、コロンビア、チリ、メキシコを除く。 1 OECD加盟国38カ国のうち、コスタリカ、コロンビア、チリ、メキシコを除く。
2 本稿では、勤労層とは現役世代のうち就労している人びと(自営業等も含む)を念頭に論じている。 2 本稿では、勤労層とは現役世代のうち就労している人びと(自営業等も含む)を念頭に論じている。
3 関島(2024)参照。 3 関島(2024)参照。
4 米国はミシガン州デトロイト市、英国はメイドストーン、ドイツはベルリン市、フランスはパリ以外の10万人以上の都市およびその他の新しい都市であり、いずれも各国内で規模としては中位クラスの地方都市となっている。 4 米国はミシガン州デトロイト市、英国はメイドストーン、ドイツはベルリン市、フランスはパリ以外の10万人以上の都市およびその他の新しい都市であり、いずれも各国内で規模としては中位クラスの地方都市となっている。
5 米国の場合は、借主となる世帯が月収の一定割合を家賃として負担し、残額を政府が家主に直接支払う仕組みがあるが、給付枠が限定されているほか、自治体による運用上の裁量が大きいとされる。英国の住宅扶助はユニバーサルクレジットに含まれており、地域ごとに定められた適正家賃を基準にして、部屋数やベッド数、世帯収入等に応じて変動する。ドイツやフランスの住宅手当も、適正家賃を基準として、世帯所得や世帯の人数に応じて変動する。適正家賃は、ドイツの場合、基礎自治体の1平米あたりの賃料に応じて、家賃水準が1から7までにランク付けされている。フランスの場合は、フランス全国を大きく3つに区分し、上限を設定している。 5 米国の場合は、借主となる世帯が月収の一定割合を家賃として負担し、残額を政府が家主に直接支払う仕組みがあるが、給付枠が限定されているほか、自治体による運用上の裁量が大きいとされる。英国の住宅扶助はユニバーサルクレジットに含まれており、地域ごとに定められた適正家賃を基準にして、部屋数やベッド数、世帯収入等に応じて変動する。ドイツやフランスの住宅手当も、適正家賃を基準として、世帯所得や世帯の人数に応じて変動する。適正家賃は、ドイツの場合、基礎自治体の1平米あたりの賃料に応じて、家賃水準が1から7までにランク付けされている。フランスの場合は、フランス全国を大きく3つに区分し、上限を設定している。
6 Hoynes, H., Rothstein, J. (2016) 参照。 6 Hoynes, H., Rothstein, J. (2016) 参照。
7 Hobson, F.(2021) 参照。 7 Hobson, F.(2021) 参照。
8 Hoynes, H., Rothstein, J. (2016) 参照。 8 Hoynes, H., Rothstein, J. (2016) 参照。
9 Bastian, J. (2020) 参照。 9 Bastian, J. (2020) 参照。
10 Hobson, F. (2021) 参照。 10 Hobson, F. (2021) 参照。
11 Brewer, M. (2011) 参照。 11 Brewer, M. (2011) 参照。

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