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わたしの構想

組織と個人をリ・アジャストする

わたしの構想No.50 2020/10発行
識者:トーマス・リー カリフォルニア大学バークレー校 ハース・スクール・オブ・ビジネス 准教授、谷本有香 フォーブスジャパン・Web編集部 編集長、 楠木 建 一橋大学大学院経営管理研究科 教授、五神 真 東京大学 総長、川邊健太郎 Zホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
*原稿掲載順
企画:金丸恭文 NIRA総研 会長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO

組織と個人をリ・アジャストする
 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、テレワークなどICT を活用した新しい働き方が始まった。その変化は、働き方の見直しにとどまらず、組織のコミュニケーションのあり方 も大きく変えようとしている。
 ICT によるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。また、未来の組織像はどうなるのか。
 ポストコロナを見据えた組織と個人の変革のあり方を問う。

 わたしの構想No.50「組織と個人をリ・アジャストする」PDF    ■ 英文版PDF

 企画に当たって
金丸恭文 NIRA総研 会長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO
「組織と個人をリ・アジャストする―顧客に最適解をスピーディーに提供せよ」
Keywords……………リ・アジャスト、問題の本質、既存のシステムの再調整、組織の役割、最適解のスピーディーな提供、タスクベース、速いコミュニケーション、意思決定の規模、スペシャリティー



 識者に問う
「組織と個人をリ・アジャストする」

ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

1 トーマス・リー カリフォルニア大学バークレー校 ハース・スクール・オブ・ビジネス 准教授
市場取引か、階層組織化か
Keywords……企業内の意思決定・行動の透明性、CIO の役割変化、市場取引の透明性、「情報の非対称性」の解消、企業文化の構築、企業内外での信頼構築

2 谷本有香 フォーブスジャパン・Web編集部 編集長
インティマシーをいかに創出するか
Keywords……イノベーションを起こしやすいコミュニケーション、インティマシー(親密さ)、安心・安全圏、世界への切符、プロデューサー型リーダー

3 楠木 建 一橋大学大学院経営管理研究科 教授
効率か効果か―センスで見極めよ
Keywords……人間の本性と因習、「効率」対「効果」、センスとスキル

4 五神 真 東京大学 総長
大学は社会変革を駆動する「経営体」へと生まれ変わる
Keywords……知識集約型、無形の知の「価値化」、大型の「産学協創」、トップ同士による大型契約

5 川邊健太郎 Zホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
やりたい個人を後押しするのが組織の役割になる
Keywords……個人のエンパワーメント、個人革命、プラットフォーム、ミッションドリブンに離合集散、やりたい個人、対等な関係

インタビュー実施:2020 年8 月~ 9 月
インタビュー:井上 敦(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)、北島あゆみ(同)

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

トーマス・リー氏
Paul Milgrom, John Roberts〔1992〕Economics, Organization and Management, Prentice Hall

谷本有香氏
谷本有香〔2017〕『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』SB クリエイティブ

楠木 建氏
楠木建・杉原泰〔2020〕『逆・タイムマシン経営論』日経BP

五神 真氏
五神真〔2019〕『大学の未来地図―「知識集約型社会」を創る』ちくま新書

川邊健太郎氏
フランス・ヨハンソン〔2005〕『メディチ・インパクト世界を変える―「発明・創造性・イノベーション」は、ここから生まれる!』幾島幸子訳、ランダムハウス講談社

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 企画に当たって

金丸恭文 NIRA総研 会長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO
「組織と個人をリ・アジャストする―顧客に最適解をスピーディーに提供せよ」
 
 新型コロナウイルスのまん延によって、日本企業はかつてない変革を迫られている。どうやってテレワークを進めるかという話題が盛り上がっているが、それは問題の本質ではない。新しい状況に合わせて、既存のシステムを再調整する「リ・アジャストメント」こそが重要なのだ。例えば、今の状況で企業を立ち上げるとしたら、どんな組織を作るべきだろうか? いや、そもそも組織は必要なのだろうか? これまではいったい何のために組織を作っていたのか?
 実を言えば、ある程度以上の規模になった企業には、企業全体の共通目的はあまりない。成長が共通目的になるにすぎず、目的や目標は事業部ごとにばらばらだ。カリフォルニア大学バークレー校准教授のトーマス・リー氏は、産業組織が存在する理由を、外部との取引コストを削減するためだとみなす。ICTの進展で、情報共有やアイデアの交換がスピーディーかつ低コストで行えるようになり、また、市場の透明性も高まっている。こうした変化は、企業内外の連携の形を変えつつあると指摘する。結局のところ、企業は顧客ニーズに対して最適解をできるだけ速く提供することに傾注し、組織もそれに即したものに変わっていく。

企業の役割とは、顧客に最適解をスピーディーに提供すること
 このような考え方を端的に象徴するのが、Slack やTeams などのビジネスチャットツールだ。チャットツールでは、すべてがタスクベースで進行する。顧客からの案件が舞い込むと、関連したトピックが立ち上がり、まずは数人程度のメンバーが意見交換を始める。やがて、興味を持った他のメンバーも参加するようになり、活発な議論が行われるようになっていく。チャットにおいて重要なのは、人の意見を取り入れて考え、有意義な意見をどんどん出していくことであり、役職など何の関係もない。役職がなくても「有能だ」と皆から思われている人間は、あちこちのトピックに顔を出して「人気者」として認知される。逆に、役職があっても大した意見の出せない者は、無能が可視化されてしまう。フォーブスジャパン・Web編集長の谷本有香氏は、ICTは日本人が世界で自らをアピールするツールとなりうるというが、顧客ニーズに対して最適解をスピーディーに出すという観点からすれば、チャットツールほど人の実力が反映されるものはない。
 ここで私が言いたいのは、チャットツールを導入しろということではない。「使えるものはすべて使え」ということだ。社員のほとんどが文字を読めないというのなら、フェイス・トゥ・フェイスで意見交換をするしかない。だが、日本社会では皆が文字を読めて、パソコンやスマートフォン、プレゼンツールもチャットツールも使える。TPOに合わせてツールを選ぶだけの話で、オンラインとオフラインの二者択一である必要はない。
 日本企業の問題点は、とにかくコミュニケーションに時間が掛かり、意思決定の規模も小さいことにある。だが日本の隣には一〇倍の人口を抱え、一人ひとりの欲望も日本人よりはるかに大きい、中国が存在している。そんな国と渡り合っていくには、コミュニケーションを速く、意思決定の規模を大きくするしかないのだ。

経営者も社員も、スペシャリティーが問われる
 経営者や社員のマインドにも変革が求められる。これまでなら、エグゼクティブは広い役員室で自分のアイデンティティーを確認できたし、社員も毎日通勤していれば、自分の居場所を確保して給料を得ることができた。しかし、今後は企業の競争環境は激化し、雇用形態も激変する。終身雇用的な仕組みから、副業や兼業など外部のリソースを有効活用する方向へ向かうことは間違いない。そうなると、経営陣も社員もスペシャリティー、つまり「自分はいったい何者で、何を得意とするのか」が厳しく問われることになる。自分の存在意義を確認するために必要なのは、役員室や通勤ではなく、スペシャリティーをもってタスクフォースの中でいかに貢献していくかだ。
 それでは、スペシャリティーの本質とは何だろうか。一橋大学大学院教授の楠木建氏は、「センス」と「スキル」の重要性を説く。各分野の業務を行うためにスキルは不可欠だが、物事や状況を総合的に判断するためにはセンスが求められる。スキルとセンスをバランス良く備えることが、スペシャリティーと言えるだろう。

経営組織のあり方を変革する
 日本においても、組織のあり方を根本から見直そうという動きが、ようやく起こり始めた。東京大学は、総長の五神真氏の下、大学自らが戦略を立て、行動するという方針を打ち出した。そのために無形の「知」を価値化し、投資を呼び込んで成長する「経営体」に生まれ変わるという。新たな「産学協創」において、トップ同士の話し合いで大型契約を実現できるようにするのは、まさに規模の大きな意思決定をスピーディーに行える組織への脱皮といえよう。
 Zホールディングス株式会社代表取締役社長CEOの川邊健太郎氏は、ICTによって組織と個人のパワーバランスが変化し、対等な関係になっていくと予測する。ICTでエンパワーされた個人はミッションごとに離合集散するが、個人単位の連携では不可能なミッションもたくさんある。そうした個人を支えるプラットフォームとして、組織が必要だという考え方だ。それは、YouTube とYouTuber、あるいはクラウドファンディングサービスとプロジェクト起案者の関係に似ている。
 ICTの進展を背景とする意思決定のあり方の変化は、個人の意識変革をもたらし、組織は個人の集合体ではなく、個人をエンパワーする機能を担う。「リ・アジャストメントの時代」には、企業も働く側も、その役割や機能が市場から厳しく問われることになる。

金丸恭文(かねまる・やすふみ)
NIRA総合研究開発機構会長。フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO。内閣官房未来投資会議議員なども務める。

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 識者に問う
ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

トーマス・リー カリフォルニア大学バークレー校 ハース・スクール・オブ・ビジネス 准教授
「市場取引か、階層組織化か」


 ICTの進展は、近年、組織のあり方や外部との関係を変化させ、企業のダイナミズムに大きな影響を与えている。その変化を組織内と組織外に分けて考えてみる。
 まず、企業は、組織・業務のさまざまな場面でICTを応用している。これによって、企業内での意思決定や行動の透明性が高まり、業務状況の監視も容易となった。また、部署間の関係も変化している。企業のCIO(最高情報責任者)は、ICTを活用した業務の効率化に注力してきたが、今は企業戦略を担う役割に変わってきている。市場の変化に機敏に対応できるよう、CIOの機能をCFO(最高財務責任者)に統合する事例も多くみられる。
 他方、コロナ禍で急速に普及したテレワークは、導入当初の効果が長期的に持続するのかが不明だ。監視されていると意識することで、人の振る舞いが変化する心理的な現象をホーソン効果というが、その効果により向上した生産性は、通常、時間と共に減少する。現時点では、従業員がテレワークでも自分の生産性を維持することを必要以上に意識し、ホーソン効果が生じている可能性がある。離れて働いていると、インフォーマルで非言語的な指導が得られない。今後、テレワークが継続されるか否かは、職場で行動や規範を規定する企業文化を維持し、進化できるかにかかっている。
 次に、ICTは企業間の関係性にも大きな影響を及ぼす。産業組織論では、企業や産業は、財やサービスの市場調達コストを最小にするために階層組織を形成するとされる。ICTは市場取引の透明性を高め、売り手と買い手の「情報の非対称性」を解消しうる。これが市場の取引コストを大幅に低減させ、市場取引を選択する動きを強めている。Amazon やUberに代表されるプラットフォームを利用したビジネスが拡大しているのも一例だ。一方、航空機エンジンメーカーの英ロールスロイス社は、エンジンにつけたセンサーから得られるデータを解析し、効率的な運航・保守等のサービスまでを一貫して提供している。前者は、産業構造と企業間関係が「市場志向型」に向かう傾向を、後者は、産業構造と企業間の「階層的関係」の強化を示す。これらの影響は、三五年以上も前に、マローンとイエイツが経済学の言語を用いて説明したものだ。市場志向型か、階層的関係の強化か、ICTの進展がどちらの方向に働くかはわからない。だが、鍵となるのはICTによる信頼の構築・醸成である。
 ICTは、それ自身が何かを生み出したり、正解を与えるわけではないが、信頼を構築するためのツールを提供することができる。経営者は、どのようにICTを導入し、企業内文化や、企業内外での信頼を構築していくかが問われている。

トーマス・リー(Thomas Y. Lee)
イノベーションや新製品の開発を実現するためのICTについて研究。テキスト・マイニングやデータ・マイニング手法の開発を専門とし、近年は、オンライン顧客レビューのテキストをマイニングして市場の構造化を促すような取り組みを行っている。MIT工学システム学科よりPh.D.を取得。ペンシルベニア大学准教授等を経て、現職。

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ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

谷本有香 フォーブスジャパン・Web編集部 編集長
「インティマシーをいかに創出するか」


 世界の経営者にインタビューしてきて実感するのは、日本企業には「イノベーションを起こすコミュニケーション」がないということだ。それが、イノベーションを起こせなかった要因だ。現代なら、LINE やFacebook、Slack といったICTツールを使って、イノベーションを起こすためのコミュニケーションの土壌をつくり出すことができる。その成否が、イノベーションを生みうる企業になるかどうかの分岐点だ。
 そういった土壌をつくる鍵を、私は「インティマシー(親密さ)」だと考えている。会議に上座・下座があり、上司の前で自由な意見が言いづらい環境では、多様なアイデアは生まれない。こうした企業文化や風潮を鮮やかに覆すことができるのが、ICTツールだ。気軽に上司の意見に「いいね!」ボタンを押し、部下のアイデアにスタンプで返す、その空気感がインティマシーだ。真にクリエイティブで、アイデアを創発している企業は、「何を言ってもよい安心・安全圏」を意図的につくり、組織にインティマシーをもたらす空間や機会をたくさん創出している。組織の空気感をそうした方向に変えるのが、トップの役割だ。
 ICTツールは、世界への切符でもある。最近は、日本企業のCEOを、国際的なカンファレンスでほとんど見掛けない。海外でのプレゼンスが低い一因が、言語やコミュニケーションに対する気後れにあるなら、VRやアバターで解決できるかもしれない。日本は文化的にアバターなどへの親和性が高く、自然に、自分を投影、分人化して、コミュニケーションができる。今後、例えば企業トップが互いにアバター化し、海辺でカクテルを傾けながら商談できるようなサービスができれば、日本人はそこで良いコミュニケーションが取れるはずだ。アバターなどのICTツールは、ビジネスで使い得る、強力なツールになる。
 そして、リーダーのあり方も変わる。今、求められるのは、旧来のカリスマ的な経営者によるトップダウン型ではなく、個人個人の力や持ち味を発揮させるプロデューサー型だ。あえて「決めない部分」をつくり、そこで組織の人材に暴れてもらえば、今までとは違うスケールのことができる。こうしたプロとプロのシナジーをチームワークで機能させるリーダーがいる会社が、いま元気がある。企業の理念や社会へのメッセージを枠組みとして持ちつつ、その中では自由な方向性で多様なプロジェクトが進む、それが未来の組織像ではないか。

谷本有香(たにもと・ゆか)
トニー・ブレア元英首相、スティーブ・ウォズニアック アップル共同創業者をはじめ、三〇〇〇人を超える世界のVIPにインタビューしたインタビューのプロフェッショナル。『世界のトップリーダーに学ぶ―一流の「偏愛」力』(二〇一八年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、その知見にもとづくリーダー論多数。ブルームバーグTVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、また同社初の女性コメンテーターを務め、二〇一六年より『フォーブスジャパン』に参画。二〇二〇年六月より現職。

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ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

楠木 建 一橋大学大学院経営管理研究科 教授
「効率か効果か―センスで見極めよ」


 新型コロナウイルス感染症の発生で、社会や経済の見通しは不透明になっている。こうした状況下で何かを考え、判断する時に頼りになるのは、人間の「本性」だ。オフィスに出勤せずに自宅などで仕事をするリモートワークは、「毎日、通勤するような面倒なことは嫌だ」という人間の本性に即しており、コロナ禍が終息しても定着していくと思う。オフィスに集合して仕事をするのは、いわば「因習」だった。コロナ騒動は、「仕事はオフィスに集まってするもの」という因習を突き破って、人間の本性が顕在化する契機となった。
 組織の運営、経営、働き方で、「オンライン」という選択肢ができると、人と対面したり、皆で集合する「オフライン」との使い分けを考える必要がある。それは、「効率」対「効果」という古典的な問題でもある。オンラインは明らかに効率が良い。事務的な会合や、全員の承認を得るためのフォーマルな会議、例えば取締役会や教授会などには向いている。しかし、効果というのは、効率とは全く別の問題としてある。会合や会議の中で、多様なアイデアがどんどん出ることを期待したり、物事を始める際に全員で気持ちをそろえて、やる気を高めたり、重要な案件で自分の意図をきちんと相手に伝えるといった、良い効果を求める場合には、人と実地で対面したり、会議室に皆で集まるオフラインが適している。
 効率を目的とするのか、効果なのかを見極めるのが「センス」だ。センスとは、物事や状況の見方を総合的に判断するために必要なもので、経営戦略を立てる上でも不可欠な能力だ。センスは先天的なものではなく、自ら取り組むことで獲得できる能力で、優れた経営者はセンスを磨いている。それぞれの分野で業務を行うためには「スキル」が不可欠だ。しかし、とかく新しい動きが始まると、スキルの獲得だけに注力して、本来の目的を忘れてしまいがちだ。手段を抽出しているうちに、それが目的化してしまい、成果につながらない例が多々見受けられる。プレゼンのスキルばかり身に着け、話の内容が面白くないのは最たる例だ。
 これからの仕事では、オンラインとオフラインを使い分けていくことが求められる。どういうときにどちらを使うか。これにしても人間の「本性」についての洞察が基準となる。

楠木建(くすのき・けん)
鮮やかな切り口で描き出す経営論に定評がある。著書『ストーリーとしての競争戦略』(二〇一二年、東洋経済新報社)は二五万部を超えるベストセラー。企業戦略だけでなく、リーダー像や若者の仕事術、働き方など、さまざまなアプローチで、成熟社会における仕事のあり方についての思考を重ねている。専門は、競争戦略論、イノベーション。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授、同大学イノベーション研究センター助教授等を経て、二〇一〇年より現職。政府審議会委員、学会理事のほか、民間企業の経営アドバイザーなども多数歴任。

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ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

五神 真 東京大学 総長
「大学は社会変革を駆動する「経営体」へと生まれ変わる」


 ICTの発展によりデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進み、世界の産業構造は、二〇~三〇年かけて資本集約型から知識集約型へのシフトが進んできている。しかし、日本は、企業経営の考え方から法制度まで、いまだ「ものづくり」のベースから抜け出せていない。立ち遅れた日本社会を、知識集約型への変革に向けて駆動する役割は、「知」をベースとした活動を行うアカデミアだからこそ担える。
 大学が社会変革を駆動するには、国の方針とお金により受動的に運営していくのではなく、自ら戦略を立て、行動する「経営体」に生まれ変わらなければならない。その変化には先行投資資金が必要であり、大学がそれを得るためにも、また知識集約型社会に移行する意味でも、無形の知を「価値化」することが不可欠。これまでも東大はベンチャー育成に積極的に取り組み、「本郷バレー」とも呼ばれるようにベンチャー企業が周辺に集積した。しかし、国際的にみれば規模はまだ小さく、物性物理や素材・化学など、日本が強い研究分野の創業も少ない。海外ベンチャーキャピタルにも積極的に働き掛け、事業化につなげたい。
 また、二〇二〇年一〇月には、長期の大学債を発行し、市場から資金を調達する。大学全体としてコーポレートファイナンス型の資金を得ることにより、目先の状況や個々の事業の成否にとらわれず、長期的に価値を生むべきことにじっくり投資し、新しい形での公益の実現を図る。
 さらに、大学が民間企業の投資の受け皿になるために、課題設定から事業化領域まで企業と協働する大型の「産学協創」を目指す。これまでの産学連携は現場の課題解決を目指すものが多く、ほとんどが数百万円規模にとどまっていた。大学の知の価値も過小評価されていた。これからは、トップ同士が話し合って組織間の連携で大型契約を実現する。特に注目してほしい事業は、台湾のTSMC社とアライアンスを結び、製造プロセスへのアクセスを日本の産業界に提供する仕組みだ。東大がゲートウェイ機能を担い、個々の企業ではアクセスしづらい、同社の半導体の最先端プロセスを活用し、次世代の半導体を試作製造できるようにする。
 地球規模の課題への対応が求められ、グローバルな全体価値を最適化するような活動が喚起されるときに、社会変革を駆動する大学になるという課題設定は、時宜にかなうものだ。人文系の知も総動員し、大学の経験を企業と共有することでよりよい未来社会を実現する。

五神真(ごのかみ・まこと)
二〇一五年より第三〇代東京大学総長を務める。産業・社会が知識集約型に転換する中、知の拠点である大学が果たすべき新たな役割を説き、改革を進めてきた。大学の役割拡張の構想は、全都道府県の大学・研究機関をつなぐ学術情報ネットワーク「SINET」を核とするスマートアイランド化等、多岐にわたる。日本学術会議会員、未来投資会議議員、科学技術・学術審議会委員等、公職も多数歴任。東京大学工学部助教授、大学院工学系研究科教授、大学院理学系研究科教授、副学長、大学院理学系研究科長等を経て現職。専門は、光量子物理学。理学博士(東京大学)。

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ICTによるコミュニケーションの変化は、組織と個人にどんな変革をもたらすのか。
未来の組織像はどうなるのか。

川邊健太郎 Zホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
「やりたい個人を後押しするのが組織の役割になる」


 ICTがもたらしているのは、「個人のエンパワーメント」だ。ICTは場所、時間の制約を取り払い、時空を超えるものにコミュニケーションを進化させたが、特に、商用のインターネット、スマートフォンやSNSの登場により、個人へのエンパワーメントという大きな飛躍が生じた。さらに、Facebook のようなサービスの登場で、エンパワーされた個人同士がつながるフェーズに入った。これにより、従来は組織で行っていたことを、個人が単独でも遂行しうるという「個人革命」がもたらされている。フリーランスやシェアリングエコノミーで食べていける人が増えているのはこの表れだ。この変化は、従来の組織の存在意義を必然的に低下させる。組織に属さずとも、個々人のつながりの中でできることを行うような組織は、今後、なくなっていくだろう。
 しかし、組織が全く不要になるわけではない。一つには、個人をエンパワーするための巨大なプラットフォームを作るには、やはり組織が必要になる。YouTube とその上で活躍するYouTuber、あるいはクラウドファンディングサービスとその上で出資を募るプロジェクト起案者のような関係を考えると分かりやすい。これからの社会は、「こういうことをやりたい」という、個人のアイデアや夢、欲の実現に向けて、よりミッションドリブンに人が離合集散し、そこで何かが生まれる。それをプラットフォームが支える形になっていくのではないか。
 もう一つには、個々人の連携だけでは不可能な、大きなことをするにも、組織は必要だ。働く人は、今後、やりたいことを実現するために、個人で取り組むのか、より大きなことを達成できる組織に属するのか、選択する時代になる。例えば当社では「情報技術のチカラで、すべての人に無限の可能性を。」というミッションを掲げている。個人では実現が難しいミッションを、組織でやってみたいと思う人が参画する。そのミッションを実現するために、組織は、集まってきた「やりたい個人」を後押しするマネジメントを行う。組織と個人は、より対等な関係になっていくといえる。そうした組織運営が、今後、企業や組織が成長するための必須条件になると思う。コロナ禍では、テクノロジーによって、効率的で安全に作業できる空間を提供できるかが、組織の魅力を大きく左右した。会社としてのエゴを前面に出して滅私奉公を求める組織は敬遠される。経営トップが、不断の意志と実行力をもって、変革していく必要がある。

川邊健太郎(かわべ・けんたろう)
大学在学中にベンチャー企業を設立。その後設立したピー・アイ・エム㈱とヤフー㈱の合併に伴い、二〇〇〇年にヤフーへ入社。「Yahoo! モバイル」の担当プロデューサー、Yahoo! ニュースの責任者等を経て、㈱GYAO 代表取締役社長に就任し、事業再建に取り組む。二〇一二年ヤフー㈱COO、二〇一八年よりヤフー㈱代表取締役社長CEO。ヤフーの持株会社体制への移行に伴い、二〇一九年一〇月からはZホールディングス㈱およびヤフー㈱代表取締役社長CEO。


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©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、澁谷壮紀、山路達也

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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