ウリケ・シェーデ
カリフォルニア大学サンディエゴ校教授

概要

 ポストコロナの世界でDX(デジタル変革)の必要性が高まる中、日本企業が競争力を高めるための経営戦略とは何か。今後、鍵となるのは、既存の中核事業を成長させながら、既存の事業とは全く質の異なる新しい事業を開拓する「両利きの経営」だ。その実現には、「社内のやり方(企業文化)」の変革と、人事改革が必須である。また、日本企業は、DXにおいて世界で後れを取っていると言われる中で、製造業などの例を通じて、競争優位に立つ企業が存在することを示す。

INDEX

ポイント

●ポストコロナの世界でDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)の必要性が高まる中、大きなビジネスチャンスをものにするためには、新しい戦略が必要となる。新しい意味での「選択と集中」を行う手法の一つが「両利きの経営」だろう。

●両利きの経営の実践に役立つツールを3つ紹介する。1つ目は、「適合モデル」(アラインメント・モデル)である。戦略を実行するためには、成果の鍵(KSF)、人材 、人事システム、および「社内のやり方」(企業カルチャー)が緊密に適合している必要がある。適合モデルは、その適合性を判定するために活用できる。

●2つ目は「DISCCモデル」である。これは「社内のやり方」の変化と捉え、変革を促す5段階のプログラムである。DISCCモデルを通じて、業務プロセス改革には人事改革が必要となることが明らかとなる。

●3つ目は「9ボックス・グリッド」である。これは、評価と人材育成をリンクさせる1つの手法である。人材育成は従業員それぞれの目標に応じてカスタマイズされる。このような「社内のやり方」の変革と人事改革を組み合わせることで、両利きの経営を実現し、イノベーションを起こすことができるだろう。

●「80 対 20 の法則」を考えると、20%の企業が、日本経済の活力・成功・効率・革新の 80%を占めている。本レポートでは、その 20%に焦点を当て、その一部が 21 世紀に競争するために「社内のやり方」と人事を変えるために何をしているかを説明する。

目次

1. はじめに: 2つの衝撃 – デジタル変革とコロナ危機

2. デジタル変革への戦略転換
  1. デジタル変革の定義
  2. インダストリー 4.0: 生産自動化ピラミッドの崩壊
  3. 製造のデジタル化におけるグローバル競争

3. 戦略実践:両利きの経営と「適合モデル」
  1. 両利きの経営:事業の3つの「地平線」を一度に管理する
  2. 戦略の実行: 「KSF・人材・人事システム・やり方」 の適合モデル

4. 「社内のやり方」(企業カルチャー)変革のためのDISCCモデル
  1. 「企業カルチャー」とは?
  2. DISCCモデル: 「社内のやり方」変革のマネジメント
  3. 効率性・生産性向上に向けた職場行動の変革
  例:「イノベーション・ツーリズム」・ワークスペースリメーク・時間の価値

5. 人材マネジメント改革: 新しい人事機能に向けて
  1. 終身雇用の功罪
  2. 働き方改革
  3. 人事制度改革
  4. 例: 9ボックス・グリッド
  5. テレワークによってイノベーションを起こすための考え方

6. 結論: デジタル変革とリーダーシップ

図表

図表1: 製造のデジタル化時代の価値創造
図表2: デジタル製造における競合状況 (例)
図表3: AI分野の主要な出願者(パテントファミリー数)
図表4: イノベーション戦略マップ
図表5: 事業の3つの「地平線」
図表6: モノづくり事業の適合モデル
図表7: 新イノベーション事業の適合モデル
図表8: 「社内のやり方変革」のDISCCモデル
図表9: パフォーマンス評価のための9ボックス・グリッド

研究体制

ウリケ・シェーデ  カリフォルニア大学サンディエゴ校教授

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)ウリケ・シェーデ(2020)「どうすれば、日本企業がDX競争に勝てるのかーDXならびにポストコロナ時代に向けた 新経営戦略の実践」NIRA研究報告書

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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