谷口将紀
NIRA総合研究開発機構理事長/東京大学大学院法学政治学研究科教授
大森翔子
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

概要

 インターネット技術の発達に伴い、人々の情報接触の方法は多様化している。一方で、ネット空間で流通する政治情報に関しては、フェイクニュース、エコーチェンバーといった問題が深刻化している。こうした環境下における人々の情報接触は、世界各地で政治的分断に繋がることが危ぶまれており、日本も決して他人事ではない。本プロジェクトでは、日本における人々の政治コミュニケーションの現在位置について、政治情報接触の方法や経路を明らかにする調査を行った。
 調査データを分析した結果、若年層の「新聞離れ」が再確認されたほか、人々が日常生活上のルーティンとしてニュースに接触する傾向は認められるものの、それは定時や余暇にテレビをつける、ポータルサイトを見るといったレベルにとどまり、SNSを通じて能動的に情報を取得する者は、どの世代においてもかなり少ないことなどが明らかになった。情報流通の始めから終わりまでをワン・パッケージで管理することが難しくなった今、民主主義のアリーナとしてあるべき政治コミュニケーション空間のガバナンスについて、官民を超えた議論を始める必要性が高まっている。

INDEX

図表

表3-1 最もよく利用しているモバイル機器
表3-2 「政治、選挙」に関する情報を最も得ている媒体
表3-3 ふだんの生活で「よく」接触している媒体(新聞)
表3-4 ふだんの生活で「よく」接触している媒体(テレビ)
表3-5 ふだんの生活で「よく」接触している媒体(インターネット)
表3-6 情報接触の方法
表3-7 インターネットを通じた政治ニュース情報接触とその後の行動
表3-8 メディアから得られる政治に関する情報の印象(「新聞・テレビ」)
表3-9 メディアから得られる政治に関する情報の印象(「Yahoo!ニュース」)
表3-10 メディアから得られる政治に関する情報の印象(「Twitter」)
表3-11 世代別にみた「政治、選挙」に関する情報を最も得ている媒体
表3-12 世代別にみたふだんの生活で「よく」接触している媒体(新聞)
表3-13 世代別にみたふだんの生活で「よく」接触している媒体(テレビ)
表3-14 世代別にみたふだんの生活で「よく」接触している媒体(インターネット)
図3-15 世代別にみた情報接触の方法
図3-16 世代別にみたインターネットを通じた政治ニュース情報接触とその後の行動
図3-17 世代別にみたメディアから得られる政治に関する情報の印象(「新聞・テレビ」)
図3-18 世代別にみたメディアから得られる政治に関する情報の印象(「Yahoo!ニュース」)
図3-19 世代別にみたメディアから得られる政治に関する情報の印象(「Twitter」)

第1章 問題の所在と研究の目的

要旨

 インターネット技術の発達に伴い、人々の情報接触の方法は多様化している。その利便さが高く評価される一方で、インターネットを介した政治の情報に関しては、フェイクニュース、エコーチェンバーといった問題が深刻化している。こうした情報環境下における人々の情報接触は、自分と意見の異なる人を排除し、国としての合意形成を困難とするような政治的分断に繋がることが危ぶまれており、日本においても決して他人事ではない。そこで本プロジェクトでは、人々の政治情報接触について「リアルな」様態を探ることがますます難しくなっていることを勘案し、人々の政治コミュニケーションの現在位置について、政治情報接触の方法や経路を明らかにする調査を行うことにした。

1.はじめに

 民主主義社会における諸問題について、人々が情報を得て、意見を形成するプロセスは不可欠である。そのプロセス次第で、民主主義は健全なものにもなりうるし、逆に恐ろしい暴走をきたすこともありうる。例えば、SNSを介した情報拡散は、#MeTooやBLMといった新しい形態の政治運動に力を与えた一方、アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件のような民主主義の危機にも無視できない役割を担った。人々の情報取得ルートは多種多様だが、中でも(マス)メディアの役割が重要であることは指摘するまでもないだろう。様々なジャンルの情報を人々の理解しやすいように編集し、伝えることが(マス)メディアの使命でもある。

 インターネット技術の進化は、(マス)メディアの構造と人々の情報接触行動を大きく変えた。まず、人々は様々な情報へ手軽にアクセスすることが可能になった。従来であれば新聞の朝刊・夕刊、テレビのニュース番組の放送を待って得ていた情報は、インターネットにより時間的な制約が大きく減じられることになった。そして、どの媒体から情報を得るかについて、選択肢が爆発的に増加した。インターネットを通じた情報は新聞やテレビなどの伝統的なメディアばかりでなく、新興のメディア企業、ついには個人からの発信も促進することになった。爆発的に増えた選択肢から人々は何らかの理由で接触する媒体を選び──あるいは選ばずに──情報を得るようになっている。

 こうした変化は、人々の生活を便利にした一方、新たな社会問題も生んでいる。特にインターネットを介した政治の情報に関しては、フェイクニュース、エコーチェンバーといった問題が世界的に後を絶たない。こうした情報環境下における人々の情報接触は、政治的分断に繋がることが危ぶまれており、日本においても決して他人事ではないが、そもそも日本では政治的情報接触行動に関する基礎データが乏しい。本プロジェクトはこうした問題意識から、人々の「政治コミュニケーション」について、政治情報接触の方法や経路を明らかにする調査を行い、政治情報に関連する諸問題へどのように対抗すべきか考察するものである。

2.人々の情報接触の動向

インターネット中心のメディア情報接触へ

 インターネットを通じた情報接触が盛んになる一方で、日本がいまだ世界に冠たる新聞大国であることは広く示されている。世界価値観調査第7波(2017-2019)の結果を見てみると、情報源として日刊紙に週1回以上接触すると答えた回答者は日本においては66.3%、アメリカにおいては39.6%で、圧倒的に日本人の新聞接触率が高い。

 しかし、そのような日本においてもインターネットコンテンツの利用の多様化と、利用時間の長時間化は進んでいる。総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」は継続的に各メディアの平均利用時間を調査しているが、2020年実施調査における平日1日間における全年代平均の利用時間を見てみると、リアルタイムのテレビ視聴は平均163.2分、ネット利用は168.4分、新聞閲読は8.5分であった。テレビの視聴時間が1番長かった従来の調査と比較して、初めてネット利用時間がテレビ視聴時間を上回った。特にインターネット利用時間は2015年の1.5時間からわずか6年で約70分間も伸びている。

 利用時間ではなく、接触頻度を質問する世論調査の結果も平仄が合っている。新聞通信調査会の2020年調査では、毎日または週に4~5日それぞれのニュースメディアを目にする人は、新聞49.1%、NHKテレビニュース45.9%、民放テレビニュース67.4%、インターネットニュース59.1%であった。

 近年におけるこの動きに拍車をかけたのは、「既存のケーブルテレビや衛星放送を介さず、インターネット経由で番組やコンテンツを配信するサービス」(柴田2016)であるOTT(Over-the-Top)サービスの急速な普及にあるだろう。日本映像ソフト協会が2020年に行った世論調査では、有料動画(映像)配信サービスの利用者は、Amazonプライムビデオ58.8%、Netflix 21.8%、Hulu 13.9%(それぞれ定額見放題のプラン)に加入しており、会員数を増やしていることが見てとれる。

 さらに、日本のインターネット情報接触最大の特徴は、Yahoo!ニュースの圧倒的なシェアである。Yahoo!ニュースには、全国紙、テレビ局、雑誌社、オンラインメディア、そして個人に至るまで多くの主体が記事を提供している。その中でも当該ポータルサイトのトップページ「ヤフトピ」に掲載される8本(PC版)のニュースは、注目度が高い。この部分への掲載は、同社の編集部員が公共性と社会的関心を基準に人力で選んでいる。NHK放送文化研究所が2018年に行ったメディア利用動向調査によると、ニュースを見聞きするメディアとして選択した人の割合は、NHKニュース・報道番組60%、民放ニュース・報道番組74%、新聞53%、Yahoo!ニュース46%、LINE NEWS25%、SNSで流れてくるニュース15%と、Yahoo!ニュースが人々にとって新聞に比肩する媒体であることが伺える。

 その他の動きも挙げておこう。インターネット媒体での記事配信を基本とするウェブメディアと呼ばれる新興メディアが数多く登場し、政党や政治家個人・政治団体も自身の情報発信のためにTwitter、Facebook等での情報チャンネルを持つようになっている。このように、近年における日本のメディア情報環境は、インターネットを中心として急速な変化を遂げた。OTTが上陸し、人々の生活時間を侵食する一方で、伝統メディアの多くもインターネット市場に参入し、対抗している。個人もソーシャルメディアで政治情報を発信するなど、政治や社会の諸問題を発信するメディアの構図自体が大きく変化している。紙媒体の新聞とテレビが訴求力を完全に失ったわけではなく、依然として大きな影響力を保っているものの、人々の利用頻度のシェアを失う趨勢にあり、これらに代わってポータルサイトをはじめとしたインターネットでのプラットフォーマーが中心となりつつある。

スマートフォンを中心とした「細切り」の情報接触の時代

 さらに、2000年代後半に登場したスマートフォンの浸透も人々の情報接触に影響を与えている。情報接触デバイスの中心がスマートフォンになったことを要因の1つとして、吉藤(2020)は人々が「細切れ」の情報接触を行うようになったと主張している。「メディア利用の生活時間調査2018」データを分析したところ、「スマホ・携帯」を利用した、10分未満の「細切れ」な情報接触が盛んに行われていると言うのである。「スマホ・携帯」では、平日・休日ともに「メール」「SNS」「ニュース」「ウェブ」の利用が多いことも明らかになっている。つまり、近年の政治情報への接触方法としては、スマートフォンや携帯電話を通じた10分未満の「細切れのメディア利用」であるケースが増えていることが示唆される。

パーソナライズ化がもたらすもの

 人々の情報接触に大きな影響を与えたインターネット技術の1つは、個人の関心、志向を考慮して「好みそうな」情報がAIによって提供される「パーソナライズ化」であろう。インターネット上での個人の検索・購入行動やページ閲覧の記録等から、「その人が何を好んでいるか」を学習し、優先的に表示する。この技術は広く知られているとおり、商品のマーケティングに限らず、ニュース情報でも応用されている。著名なメッセージ系SNSアプリである「LINE」が提供する「LINE NEWS」では、2016年からレコメンド機能を取り入れ、2020年にはトップ面に表示されるニュースは1億通りになったという(注1)

 画期的なこの技術があらゆる情報接触に応用されることによって危惧されるのは「フィルターバブル」、すなわち各利用者の関心に沿う情報ばかりがレコメンドされる結果として関心のない(が重要な)情報に接触する機会が減少する現象である。特に、ニュースや公的な情報に関心がなく、もっぱらエンターテインメント情報を優先したい人々の選択的接触を助長する恐れが指摘されている(Prior 2005; 2007)。一方で、見たいものだけを見ることは防ぎうるという議論もある。先に挙げたLINE NEWSでは、既にレコメンド機能において、あえてそのユーザーが関心のなさそうなニュースを表示することも試みられている。

メディアへの信頼の変容

 加えて注視すべきは、人々の諸メディアに対する信頼感である。既に触れたとおり、日本は「新聞大国」であり、メディアの中でも新聞に対する信頼感は高い。新聞とテレビに対する信頼を尋ねた世界価値観調査の結果を見ると、日本(2019年調査)では、4点尺度で「信頼する」、「どちらかと言えば信頼する」のいずれかと回答した人が新聞で70%、テレビで64%である。日本以外の結果に目を向けると、アメリカでは新聞で29%、テレビで24%が「信頼する」寄りの回答であり、日本がかなり高い水準を維持していることは明らかだ(注2)

 さらに、新聞とテレビと比較して、インターネットメディアの信頼感が低いことが都度指摘されてきた。例えば、NHK放送文化研究所が2015年に行った「『世論』形成と情報利用に関する世論調査」において、メディアが伝える内容に対する信頼度を質問したところ、「テレビのニュース」は70%、「新聞の記事」は71%、「週刊誌・雑誌の記事」は51%、「Yahoo!などのポータルサイトのニュース」は26%、「2ちゃんねるなどの掲示板やブログ」は6%の人が4点尺度で「信頼する」寄りの回答であったという。しかし一方で、インターネットメディアの種類を細分化することにより、異なる風景も見えてくる。総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査(注3)」では、インターネットメディアを「インターネットニュースサイト」、「ソーシャルメディア」、「ブログ、その他のサイト」、「動画配信、動画共有サイト」に区分しており、令和元年調査における国内政治・経済問題で「信頼できる情報がどの程度あるかと思うか」との設問の回答分布をみると、5点尺度で測定された信頼度(「信頼する」寄りの回答)はそれぞれ52.9%、22.1%、7.3%、10.1%と、かなりのばらつきが見られた。ひとくちに「インターネットメディア」といっても様々であり、それぞれに対する信頼度も千差万別である。

3.本プロジェクトの目的

 以上を踏まえた本プロジェクトと本報告書の目的を整理する。インターネット技術の革新により、人々が様々な情報へ手軽にアクセスすることが可能になった。多様な情報へのアクセス可能性の高い「高選択」な情報環境は、その利便さが評価される一方、特にインターネットを介した政治情報への接触に関しては、フェイクニュース、エコーチェンバーといった問題が後を絶たず、政治的分断に繋がる恐れもある。加えて、「高選択」な情報環境は流動が激しく、人々の政治情報接触について「リアルな」様態を探ることがますます難しくなっている。本プロジェクトでは、人々の政治コミュニケーションの現在位置について、政治情報接触の方法や経路を明らかにする調査を行い、政治情報に関連する諸問題へどのように対処すべきかを考察する上での基礎資料とする。

 本報告書の構成は以下のとおりである。本章(第1章)では、人々の政治コミュニケーション、特に政治情報接触における諸問題と現状を調査する必要性と本プロジェクトの研究目的について述べた。第2章では、この目的を達成するために行った世論調査の設計(設問項目・調査実査の概要)を説明する。第3章では、調査データを用いた分析を行い、その結果を示す。そして、第4章では得られたデータをもとにした政治コミュニケーションへの含意を論じる。

第2章 研究方法

要旨

 本章は、本プロジェクトが実施した、日本における18歳以上の有権者を対象としたインターネット調査の調査設計および調査概要を示す。調査では、基本的な社会属性(性別・年齢層・居住地域・職業・業種・教育程度)、本プロジェクトの主たる関心である政治コミュニケーション項目(普段の生活における利用している具体的なメディア、メディア接触の経路、メディア接触後の行動、メディア接触に関連する意識)、加えて、調査回答に「手抜き」を行うサティスファイサーを検出する項目と、データ補正に用いる項目(特定の日程のテレビを視聴したか否か)を聴取した。

1.調査票の設計

本プロジェクト調査項目の概要

 本プロジェクトでは、人々、特に有権者の政治情報接触に関する行動・意識を探るため、世論調査を実施し、その分布を提示し考察を行う。まずは、前章で示した研究目的に従って設定する、本プロジェクトの調査において聴取する項目を整理しておこう。なお、それぞれの調査項目のワーディングの詳細は、付録を参照されたい。

■ 基本的属性

 基本的属性は以下で説明する6つの項目を採用した。これは、国勢調査と面接調査、インターネット調査を同質問で同時実施した谷口・大森(2022)において、分布に差異が生じていたもの、また後述する補正において用いる属性を勘案し、設定している(注4)

(1)性別
(2)年齢層
(3)居住地域

 以上の3つの項目は、回答者の基本的属性の中でも、次節で説明する調査の事前割り付けに利用する項目である。性別は男女の2区分、年齢層は6区分(18~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳、70歳以上)、居住地域は5区分(京浜、阪神、東日本、中日本、西日本)として情報を得る。

(4)職業
(5)業種

 回答者の従事する職業に関する情報は、国勢調査に倣い、「有職者かどうか」・(有職者に対し)「勤めか自営か」・「仕事の内容」を質問する。なお、業種に関しては、今回の調査では、「農業、林業、漁業」(第1次産業)、「鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、製造業」(第2次産業)、「それ以外の仕事」という選択肢を設定している。

(6)教育程度

 教育程度については、「あなたが最後に卒業・修了した学校はこの中のどれにあたりますか。学生・生徒のかたは、いま在籍している学校の区分をお答えください。」として、「中学校(旧制の小学校や高等小学校を含む)」、「高校(旧制の中学校を含む)」、「短大・高専(旧制の高校や専門学校を含む)」、「大学・大学院」の4つのカテゴリーを設定している。

■ 政治コミュニケーション関連項目

(1)もっともよく利用するモバイルデバイス

 まず、回答者のモバイルデバイス環境を質問している。各デバイスの出荷台数は公表されていても、特定の時点において人々がどのデバイスを利用しているかというデータは、バイアス補正の行われていないネット調査によるものがほとんどである。そこで「iPhone」、「Androidスマートフォン」、「スマートフォン以外の携帯電話(ガラケー)」の選択肢のうち、もっともよく利用しているものを1つだけ選択してもらい、改めて計測したものである。

(2)政治、選挙に関する情報を得る手段

 この項目は、政治と選挙の情報に限定して、どこから情報を取得しているのかを問うものである。公益財団法人明るい選挙推進協会が国政選挙のたびに実施している全国意識調査から、「あなたは、政治、選挙に関する情報を主に何から得ていますか。最も多くの情報を得ているものを1つ選んでください。」という設問を本調査でも踏襲した。選択肢には「テレビ」、「新聞」などのメディアのほか、「家族や知人からの話」も含まれている。

(3)ふだんよく読む新聞

 回答者がふだんの生活で接触するメディア媒体、特に新聞に着目した質問である。紙媒体でも、オンラインでも、新聞メディアが提供するものであればどちらでも許容している。選択肢は全国規模の5大紙のほか、居住地域の地方紙、業界紙・専門誌を含めた。

(4)ふだんよく見るテレビ番組

 回答者がふだんの生活で接触するメディア媒体、特にテレビ番組に着目した質問である。本調査においては、具体的なテレビ番組を列挙して視聴の有無や頻度を問うのではなく、テレビ番組のカテゴリーごとに接触を問う形式を採用した。選択肢はニュース番組(NHK・民放)、情報番組(NHK・民放)のほか、教養番組や音楽・ドラマ等のエンターテインメント番組を含めた。

(5)ふだんよく利用するインターネットサービス

 回答者がふだんの生活で接触するメディア媒体、特にインターネットサービスに着目した質問である。本調査では、LINE、Twitter、FacebookなどのコミュニケーションSNSに加え、動画系SNS(YouTube、TikTok等)、ニュース系サイトやアプリ、OTT系の動画配信サービス、インターネットテレビ、ネット掲示板やブログ等を含めた。

(6)情報接触の方法

 この項目では、「あなたには、以下に書かれた事柄はどのくらい当てはまるでしょうか。それぞれについてお答えください」として、情報接触──ニュース接触および政治情報への接触──の方法について質問した。例えば、「決まった時間に、お決まりの新聞を読む、テレビニュースを見る、またはインターネットのニュースサイトを見る。」、「友達登録・フォローしている政党や政治家の投稿やメッセージを、自分から見に行く。」など、具体的な方法を想起させる選択肢を設け、それぞれに対して「当てはまる」~「まったく当てはまらない」の4点尺度で評価してもらう設問設計としている。

(7)インターネットを通じた政治ニュース情報接触とその後の行動

 この項目は、インターネットを通じて政治ニュース、あるいはニュース以外の情報に接触した際に、その後どのような行動をとるか、特にインターネットメディアを通じた行動に着目した質問である。「インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、表示された関連ニュースを見る。」や「インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、GoogleやYahoo!などの検索エンジンでさらに関連するニュースを検索する」といった、比較的簡単な行動に加え、記事のリンクや自らの意見の投稿など、他者に向けた発信行動についても項目を設定している。各問共通で、「よくする」~「まったくしない」の4点尺度で評価してもらう設問設計である。

(8)各メディアから得られる情報の印象

 政治に関して各メディアから得られる情報について、「公正だ」、「全体像を伝えている」、「正確だ」、「信用できない」、「早く伝えることを最優先している」、「問題解決をさまたげている」、「分かりやすい」、「楽しめる」、「手軽に得られる」という9つの評価項目を、それぞれ「そう思う」から「そう思わない」の5点尺度で評価してもらう質問である。情報源を「新聞・テレビ」、「Yahoo!ニュース」、「Twitter」と具体的に挙げ、評価してもらう。この質問は「公正だ」から「分かりやすい」までの7つの項目は、人々のメディアへの懐疑を検討したMaksl et al.(2015)における調査項目(Media Skepticism Scale)を参考に設定し、「楽しめる」と「手軽に得られる」の2つの項目は本プロジェクト調査のオリジナル項目である。

■ その他の項目

(1)サティスファイサー検出項目

 インターネット調査においては、Satisficer(省力回答者/サティスファイサー)の問題を無視できない。インターネット調査のモニターには、調査回答に労力を割くことを避け、「でたらめな」回答を行う者が存在し、データの質を損ねることが懸念される(三浦・小林 2015;大森 2021)。今回の調査では、サティスファイサーを検出する質問を1問、メディア利用に関する考え方の質問群に「この質問は『だいたいそう思う』を選んでください。」と指示する項目を紛れ込ませた。この項目で「だいたいそう思う」以外の選択肢を挙げた者は、指示を無視してでたらめに答えたサティスファイサーの疑いが強いことを示唆する。

(2)テレビ視聴行動測定項目(補正変数)

 次章で詳述するとおり、インターネット調査においてメディア接触行動を測定する際には、母集団から無作為抽出した標本よりも、ある程度積極的なメディア行動を行う回答者が多いことが予想される。そのため、得られたデータに対して何らかの変数を用いた補正を行うことが期待される。先行研究では、インターネット調査によって計測したいものが、調査回答者が(調査モニターに登録するような)インターネットユーザーであることに影響されることが予想される場合、目標変数に近い補正変数を得る(つまり、調査票に盛り込む)ことが提唱されている(谷口・大森 2022)。

 そこで、本調査では政治情報接触行動や意識という目標変数に近い補正変数として、「特定のテレビ番組の視聴有無」を採用する。具体的には、「先週(7月3日)放送されたNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人 第26回悲しむ前に』(午後8時~8時45分)を、あなたはNHK総合テレビでご覧になりましたか。」という質問を設定する。特定の番組の視聴率・視聴到達人数は、株式会社ビデオリサーチによって計測されており、無作為抽出から得られた標本の視聴率・視聴到達人数の推計値を得ることができる。次章の補正においては、国勢調査から得られる基本的属性の分布に加え、この特定番組を視聴したか否かの変数を用いる(注5)

(3)政治行動に関する項目

 本調査では、政治行動に関連する項目も測定する。具体的には、7月10日執行の参議院選挙の投票政党(選挙区・比例)、政治に取り組んでもらいたい優先課題、イシューオーナーシップ、争点態度、長期的党派性、感情温度を質問した。

2.調査概要

 調査は、2022年7月10日~7月11日に調査会社(楽天インサイト株式会社)のウェブモニターを対象として、インターネット調査形式で行われた。2020年国勢調査の集計結果にもとづき、性別(男女の2区分)・年齢層(18~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳、70歳以上の6区分)・居住地域(京浜、阪神、東日本、中日本、西日本の5区分)で回収目標サンプルの事前割り付けを行い、有効回答者は1500名、うち男性は721人(48.1%)、女性は779人(51.9%)、年齢は~20代:197人(13.1%)、30代:194人(12.9%)、40代:255人(17.0%)、50代:235人(15.7%)、60代:222人(14.8%)、70代以上:397人(26.5%)であった。

 調査回答者のうち、上述のサティスファイサー検出質問について、「だいたいそう思う」以外の回答を行った者(指示違反者)は、265名であり、回答者の17.7%であった。次章以降の分析については、これらのサティスファイサーの回答を排除したデータを利用する。

第3章 分析と結果

要旨

 第3章では調査の結果を示す。まず、前章で述べたレイキング法を用いてデータの補正を行った。次に、各調査項目の記述統計を確認した。主要な結果として、全世代を通じて「新聞離れ」の状態にあることが示され、テレビやインターネット利用では利用コンテンツに世代間格差があること、人々がニュース接触を行う行動自体は日々のルーティンとして確立されているものの、SNSを通じて能動的に政治情報を取得する者はごく少数であることなどが明らかになった。

1.データ補正について

データ補正の必要性と採用する方法

 前章で述べたとおり、今回の調査はインターネットモニターを対象としたものである。NIRA総研では、「インターネット調査におけるバイアスの補正:国勢調査・同時期の面接調査を利用した検討」プロジェクト(2020年7月~2022年3月)にて、インターネット調査における各種のバイアスを明らかにした。特に、モニター型インターネット調査におけるメディア利用質問の回答の記述統計は、調査実施前に基本的属性を用いて事前割り付けを行ったとしても、無作為抽出法を経た面接調査回答者のそれよりも、はるかに利用度が高い方向に偏っている(例えば、インターネット利用時間は長時間であり、インターネット利用目的も多岐にわたるなど)ことが示されている(谷口・大森 2022)。今回の調査結果についても統計的な補正を行うべきであろう。

 本稿で用いた補正方法は、セル・ウェイティング法の拡張として位置づけられるレイキング法である。セル・ウェイティング法は基本的には1つの共変量に着目して補正を行うのに対し、レイキング法は複数の共変量に着目して層化を行い、各共変量の周辺分布が母集団の周辺分布と等しくなるように各層に重みをつけて推定を行う(星野 2010)。まず特定の共変量に対して周辺分布が母集団の周辺分布と等しくなるように各セルの重みを計算し、さらにほかの共変量の周辺分布が母集団の集団分布と等しくなるように……と計算を繰り返す。

 今回の調査データにおいては、テレビ視聴行動測定項目(NHK大河ドラマの視聴有無)を補正変数の1つとして、ビデオリサーチ社が公表している「平均視聴人数(タイムシフト・総合)」の「到達人数」推計値に合わせた補正を行う。加えて、国勢調査の集計データから算出した18歳以上の日本人の年齢層(18~39歳、40~59歳、60歳以上)、性別(男女)、居住エリア(京浜、阪神、東日本、中日本、西日本)、さらに2022年7月10日執行第26回参議院議員通常選挙における比例区投票政党(棄権も含む)も変数として利用した(注6)

補正の結果

 補正前後の分布の変化をかいつまんで紹介しておこう。

 例えば、「友達登録・フォローしている新聞社やテレビ局の投稿やメッセージを、自分から見に行く」という項目に「まったく当てはまらない」と回答した者は、補正前の61.7%に対して、補正後は70.3%とかなり高まっている。同様に「LINEやTwitter、Facebookなどで、政治や社会問題について考えを表明する有名人・団体(政党や政治家を除く)を友達登録・フォローしている」という項目に「まったく当てはまらない」者の割合も、補正前の72.7%から補正後は80.6%と上昇する。

 インターネットを通じた政治ニュース情報接触とその後の行動を問う質問では、「インターネットで見かけた政治に関するニュースに関する、SNSでの他人の投稿をリツイートなどで共有する」、「インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、自分の感想や考えを、『ヤフコメ』やTwitterなど、インターネット上に投稿する」それぞれの項目について、「まったく当てはまらない」割合が補正によって10%程度増加する。また、「Twitter」を「公正だ」と思わない寄りの回答者も、補正後に5%程度増えている。

 項目によって差はあるが、基本的に補正前の集計値はメディア接触行動に積極的な回答者が過大に評価されており、インターネットモニター型調査であるがゆえのバイアスの存在が示唆される。以下の分析結果は、補正後の値である。

2.記述統計

 始めに、最もよく利用しているモバイル機器について(表3-1)、iPhone、Androidスマートフォンはどちらも同程度(回答者の4割以上)利用されているのに対し、スマートフォン以外の携帯電話(ガラケー)の利用者は5.8%であった。本調査と設問項目は異なるが、総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)の利用率は激減し、2021年度調査では13.5%という結果と平仄があっている。人々のモバイル機器での情報接触が、「スマホ中心」であることが伺える。

 次に、「政治、選挙」に関する情報を最も得ている媒体である(表3-2)。

 最も多かったのはテレビで51.0%、続けてインターネット25.4%、新聞12.5%という結果であった。同様の質問をしている、明るい選挙推進協会の全国意識調査(2021年調査)では、テレビが60.4%、新聞が17.8%、インターネットが16.0%という結果である。第2位がインターネットと新聞で入れ替わるのは、本調査が補正値とはいえインターネット調査であることと、明るい選挙推進協会の全国意識調査の非回答バイアス(新聞を読む人ほど調査に回答しやすかった)の両方の要因が考えられる。

 表3-3~表3-5は、ふだんの生活で「よく(高い頻度で)」接触している媒体を集計したものである。

 まず「新聞」カテゴリーについては、「新聞は読まない」が最も選択率が高く、52.1%であった。繰り返し言われている「新聞離れ」がここにも表れている。新聞を読む人の間で多いのは、居住地域のブロック紙・その他の地方新聞が合わせて2割のシェアを占め、次いで全国紙である朝日新聞・読売新聞がともに10%強である。

 「テレビ」カテゴリーについては、「テレビは見ない」の選択率は11.0%といまだ低い水準にある。最も選択率が高いのは「民放のニュース番組」で48.6%であった。次に選択されているのは「音楽・ドラマ・映画・アニメ・スポーツ番組」で39.8%、「NHKのニュース番組」(37.7%)、「民放の情報番組」(35.8%)と続く。インターネットの発達に伴って人々の情報選好が娯楽寄りになったとしても、現状ではニュースを忌避しているわけではないことが示唆される。

 「インターネット」カテゴリーについては、LINEの選択率は7割を超えている。ほかにも、YouTubeは6割、Yahoo!、Googleといった検索エンジンを中心としたサービスも5割超の選択率である。興味深いのは、放送局や新聞社・雑誌社が提供するニュースサイトの選択率は8.0%に過ぎないのに対し、LINE NEWS(16.2%)やSmart News(21.3%)といったニュース提供サービスの選択率が15%を超えていることである。OTTでは、Amazon Prime、Hulu、Netflixなどの動画配信サービスが17.4%であった。

 情報接触の方法(表3-6)については、15項目のうちから興味深い結果をピックアップして紹介する。

 「決まった時間に、お決まりの新聞を読む、テレビニュースを見る、またはインターネットのニュースサイトを見る」の項目に対し、6割以上の人が「当てはまる」または「まあまあ当てはまる」と答えたように、娯楽志向が叫ばれながらも、多くの人々には何らかの媒体でニュースを目にする日常生活のルーティンが存在している。「移動中や休憩などのひまな時間ができると、テレビニュースまたはインターネットのニュースサイトを見る」についても肯定寄りが過半数であった。また、日本ではYahoo!に代表される検索エンジンとニュース情報の表示を統合したポータルサイトの存在が大きい。「GoogleやYahoo!などの検索エンジンを使うついでに、そこに表示されたインターネットのニュースを見る」には7割以上が該当した。

 一方で、SNSを用いて能動的にマスメディアの情報を接触している人はあまり多くない。「LINEやTwitter、Facebookなどで、新聞社やテレビ局を友達登録・フォローしている。」人は16%程度、友達登録・フォローしている新聞社やテレビ局の情報を自ら見に行く人はさらに少ない。安倍晋三元首相や河野太郎デジタル相のTwitterアカウントのフォロワー数は250万を超えていたが、本調査において「LINEやTwitter、Facebookなどで、政党や政治家を友達登録・フォローしている」人は8%程度であり、友達登録・フォローしている政党や政治家の情報を自ら見に行く人はそれよりも少ない。これは政党・政治家でなく、政治や社会問題について考えを表明する有名人・団体に対しても同様である。

 ここまでをまとめると、多くの人々はニュース情報接触に対するルーティンを持ち、また、ひまな時間や何かの「ついで」にニュースに接触するが、特定政治家に対するフォロワー数から示唆されるほどにはSNSでマスメディアや政治家から情報を積極的に取得しているわけではない。

 インターネットで政治ニュースに接触した後、人々がとる行動を示したものが表3-7である。インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、その傍らに「表示された関連ニュースを見る」人は6割(「よくする」「ときどきする」の合計、以下同じ)、「GoogleやYahoo!などの検索エンジンでさらに関連するニュースを検索する」人は4割に上る。ニュース自体を目にしたのではないが、Yahoo!やLINE、Twitterなどのトレンドに政治の話題が上っているときに、それが何であるかを検索するのは1~2割台。インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、SNSやリツイートで共有したり、自分の意見を投稿したりする人は1割いるかどうかの水準であった。

 続いて、各メディア(「新聞・テレビ」、「Yahoo!ニュース」、「Twitter」)から得られる政治に関する情報に対する印象を表したのが表3-8~表3-10である。

 「公正だ」について、最も「そう思う」もしくは「どちらかと言うとそう思う」(以下「そう思う」寄り)と答える割合が高かったのは「新聞・テレビ」の26%弱である。しかし、「Yahoo!ニュース」を公正と答えた人も24%程度おり、もはや伝統メディアとの差はない。一方、「Twitter」の「そう思う」寄りは9%弱と少なく、個人ベースの発信であるSNSとポータルサイトの間には一線が画されているようだ。

 「全体像を伝えている」、「正確だ」も同様、「そう思う」寄りの回答者が最も多いのは「新聞・テレビ」、次いで「Yahoo!ニュース」である。こちらも両者の差は大きくない。「Twitter」では「そう思う寄り」の回答者は少ない。SNSの情報は断片的という回答者の理解が伺える。

 しかし、「信用できない」では、意外な結果が示されている。「そう思う」寄りの回答が最も多い項目が「Twitter」であることは、これまでの結果から直感的に理解できるとしても、次いで多いのは「新聞・テレビ」である。新聞やテレビを介した情報の内容が信頼できないのか、それとも伝統メディアという主体そのものがもはや不信感の対象になっているのかは、調査結果から詳らかではない。

 「早く伝えることを最優先している」、つまり速報性を優先しているか否かについては、「Yahoo!ニュース」が最もその傾向を認識されている。

 「問題解決をさまたげている」について、最も「そう思う」寄りの回答が多かったのは新聞・テレビであった。以下、「Twitter」、「Yahoo!ニュース」と続く。第1章で触れたように、日本においては伝統メディアへの信頼度は比較的高い傾向にあるから、この結果はやや意外である。

 「分かりやすい」と認識されていたのは「Yahoo!ニュース」であった。Yahoo!ニュースでは動画形式とテキスト形式の両方が表示されるニュースが多いこと、伝統メディアよりも「分かりやすそうなニュース」を人々が自ら選択できることなどによるのかもしれない。

 「楽しめる」については、「Twitter」が最も「そう思う」寄りの回答が多く、ほか2つの媒体よりも、20%程度高かった。政治に関する情報という限定を付しても、ソーシャルメディア、特にTwitterから得られる情報に、人々は娯楽的な側面を見出しているともとらえることができそうだ。

 「手軽に得られる」という印象は、「新聞・テレビ」も6割以上が「そう思う」寄りであるが、それ以上に多くの回答者から認識されていたのは「Yahoo!ニュース」であった。紙媒体の新聞やテレビが置かれていることの多いリビングルームに行かなくても、手元のスマホやPCからアクセスできるインターネットニュースが、伝統メディア以上に便利なものとして人々に認識されるようになった。

3.世代別記述統計

 本節では、世代別(18~39歳、40~59歳、60歳以上の3区分)の主要な集計結果を示す。まず、「政治、選挙」に関する情報を最も得ている媒体(表3-11)については、全世代共通でテレビが最も多い。世代差が見られるのはインターネットで、若年層(18~39歳)では3割以上が「最も多くの情報を得ているもの」として挙げている。

 表3-12~表3-14は、ふだんの生活で「よく(高い頻度で)」接触している媒体に関する項目の世代別分布である。

 「新聞」カテゴリーにおける18~39歳代の選択率で、「新聞は読まない」が7割を超えている点は特筆すべきであろう。新聞を読まないと回答した者は40~59歳代でも57.9%と高いが、60歳以上の回答者では34.2%まで減少する(注7)。今回、紙・オンラインを問わず接触を測定したにもかかわらず、若年層の接触率がかなり低い。

 「テレビ」カテゴリーについては、どの世代でも新聞と比べて「テレビは見ない」の選択率はかなり下がる。ただし、若年層ほどテレビを見ない者の割合が増えている。ニュース番組・情報番組に着目すると、若年層は60歳以上と比較して、「NHKのニュース番組」で40%近く、「民放のニュース番組」で15%以上、「NHKの情報番組」で20%近く、「民放の情報番組」で20%以上、選択率が低い。

 「インターネット」カテゴリーでは、「新聞」「テレビ」の両項目とは対照的に、若者の利用率の高さが伺える。若年層においてはLINEが85.1%、YouTubeが75.1%、Instagramが58.2%、Twitterが54.4%の選択率で、他世代よりも高い傾向にあった。また、LINE NEWSが27.9%、Amazon PrimeなどのOTT利用率も26.8%と他世代より高い。

 一方、「Google」と「Yahoo!」には興味深い傾向が見られる。Googleの利用率は世代による大きな差はなく、ある意味で「一般的」なサービスになっているのに対して、Yahoo!は、18~39歳代よりも40歳以上の利用率の方が20%程度も高く、インターネットメディアの中では高年齢層のメディアという性格を占めている。若年層に強いLINEとYahoo!が経営統合した補完性がよく示されている。

 図3-15以下は、「そう思う(思わない)/当てはまらない(思わない)」寄りの世代別分布をグラフで示すことにする。

 まず、情報接触の方法(図3-15)について「決まった時間に、お決まりの新聞を読む、テレビニュースを見る、またはインターネットのニュースサイトを見る」が「当てはまる」寄りなのは、若年層よりも高年齢層で多い。逆に「移動中や休憩などのひまな時間ができると、テレビニュースまたはインターネットのニュースサイトを見る」人の割合は、若年層ほど高い。若年層は「細切れの時間」を利用してニュースに接触していることが伺える。

 しかしながら、特に若年層の利用率が高いLINEをはじめとするSNSにおいて、画面にニュースが表示されたときにタップして読むといったニュース接触行動はある程度見られるものの、メディアや政治関連のアカウントのフォロー、自分から政治情報を見に行く、タイムラインで「たまたま」見かけるなどの行動経験に関しては、若年層でもかなり低い傾向にある。

 政治情報に限定したインターネットニュース接触については、「表示される関連ニュースへの接触」は、どの世代においても5~6割程度の回答者が「ときどき」以上の接触を行っている。自ら検索エンジンでそのニュースに関連するものを検索する行動を「ときどき」以上の頻度でとる者についても、全世代で差はない。

 注目すべきは、図3-16に示した「Yahoo!やLINE、Twitterなどでトレンドに上がっている政治の話題について、SNSで検索する」で、若年層では「ときどき」以上の頻度で行う者が3割以上見られた。「Yahoo!やLINE、Twitterなどでトレンドに上がっている政治の話題について、GoogleやYahoo!などで検索する」では若年層の36.1%がある程度の頻度で行っていたのとほぼ同水準であり、若年層は従来の検索エンジンと同様の使い方で、SNSで情報を検索している姿が浮かび上がる。

 続いて、各メディア(「新聞・テレビ」、「Yahoo!ニュース」、「Twitter」)から得られる政治情報に対する印象について、世代別の分析結果を示す(図3-17~図3-19)。

 「新聞・テレビ」に関して特筆されるのは、若者の間での「公正だ」や「全体像を伝えている」と考える割合の低さである。逆に、新聞やテレビを「信用できない」は50%程度が「そう思う」寄りである。

 「Yahoo!ニュース」については、若年層において「信用できない」と答える人の割合が、新聞・テレビよりも10%以上低い。「全体像を伝えている」と考える人の割合も、新聞・テレビよりもわずかながら多い。他の世代では新聞・テレビの方が「信用できない」寄りの回答率が低く、「全体像を伝えている」寄りの回答率が高く、若年層のメディア観の特徴として挙げられるだろう。

 「Twitter」に関しては、概して若年層は高齢層よりも肯定的ながらも、例えば「公正だ」寄りは11%など、絶対的な水準として高くはない。「手軽さ」においては、若年層の5割以上が「そう思う」寄りであり、世代間の違いが認められる。

第4章 要約と含意

 以上、本稿では、インターネットの発達により情報の選択肢が増加した環境における、人々の政治情報接触行動の在り方を探ることを目標に、独自に行った世論調査データを分析した。主要な分析結果としては、以下の6点が挙げられる。

●「新聞離れ」は、データの上でも如実に現れている。特に若年層では「新聞は読まない」者が圧倒的多数を占める。

●「テレビ離れ」については、新聞ほど顕著ではないものの、世代間格差が存在する。中でもニュース・情報番組をよく見る若年層の割合は、他世代と比べて低い。

●インターネットでは、LINEやYouTubeをよく使う者の割合が6割を超えている。概して若年層ほど利用率は高いものの、代表的な検索エンジンに関しては、Googleの利用率には世代間格差がなく、Yahoo!ではむしろ40歳以上の利用率の方が高かった。

●人々が日常生活上のルーティンとしてニュースに接触する傾向は認められる。しかし、それは定時や余暇にテレビをつける、ポータルサイトを見るといったレベルにとどまり、SNSを通じて能動的に情報を取得する者は、どの世代においてもかなり少ない。

●インターネットで政治情報に接触した後の行動に関して、若年層にはSNSの検索機能を検索エンジン代わりに用いている者が一定程度存在する。

●各メディアにおいて流通する政治情報が「公正だ」「全体像を伝えている」「正確だ」というイメージにおいては「新聞・テレビ」と「Yahoo!ニュース」でほとんど差はない。ただし、若年層では新聞・テレビを信用できないと答える者が4割程度いる。「Twitter」に対するイメージとしては、若年層が手軽さを認めているものの、信頼性に関して肯定的な姿勢を示す者は多くない。

 インターネットを中心とした情報接触環境の多様化は、人々の選択肢を大幅に増やしている。本プロジェクトの調査結果からは、新聞離れといった近年繰り返し指摘されている点に加えて、数多くの興味深い知見が示された。

 若年層が新しいメディア環境にいち早く順応し、次々と生み出される新サービスを活用していることは想像に難くない。ただし、若年層のニュース接触は1つのニュースストーリーをじっくり視聴するのではなく細切れの隙間時間を利用して行われることや、新聞やテレビなどの伝統メディアを信頼せず、かつGoogleやYahoo!ではなくSNSを検索ツールとして使う傾向すら見られること等を勘案すると、彼・彼女らが得ている政治情報は断片的、かつ、不確実なものである可能性が高い。

 1つの新聞社やテレビ局が、取材→編集・制作→新聞の発行や配達・番組の放送という具合に、情報流通の始めから終わりまでをワン・パッケージで管理する時代はもはや昔話である。政党や政治家などを含めた様々な主体や媒体が介在し、そこにはフェイクニュースや情報操作などの害悪も存在しうる中で、民主主義のアリーナとしてあるべき政治コミュニケーション空間のガバナンスについて、官民を超えた議論を始める必要性を、本プロジェクトの調査結果は物語っている。

参考文献


大森翔子(2021)「インターネット調査のサンプル特性:国勢調査・面接調査との比較」NIRAワーキングペーパーNo.1.
──(2021b)「インターネット調査における省力回答者に関する一考察」NIRA政策研究ノートvol.3.
柴田厚(2016)「既存の放送メディアを揺さぶるアメリカのOTTサービス」『放送研究と調査』2016年3月号,pp.2-13.
谷口将紀・大森翔子(2022)「インターネット調査におけるバイアス:国勢調査・面接調査を利用した比較検討」NIRA研究報告書.
星野崇宏(2010)「調査不能がある場合の標本調査におけるセミパラメトリック推定と感度分析:日本人の国民性調査データへの適用」『統計数理』58(1),pp3-23.
三浦麻子・小林哲郎(2015)「オンライン調査モニタのSatisficeに関する実験的研究」『社会心理学研究』31,pp.1-12.
吉藤昌代(2020)「細切れのメディア利用をどのように捉えるか:メディア利用の生活時間調査2018から」『放送研究と調査』2020年2月号,pp.58-63.
Maksl, A., Ashley, S., and Craft, S. (2015). Measuring News Media Literacy. Journal of Media Literacy Education. 6. 29-45.
Prior, M. (2005). News vs. Entertainment: How Increasing Media Choice Widens Gaps in Political Knowledge and Turnout. American Journal of Political Science, 49, 577-92.
Prior, M. (2007). Post-Broadcast Democracy: How Media Choice Increases Inequality in Political Involvement and Polarizes Elections. Cambridge: Cambridge University Press.

付録 調査における質問と選択肢

問1 あなたのお住まいの地域をお教えください。

都道府県(   ) 市区町村(   )

問2 あなたの性別をお答えください。

1.男 2.女

問3 現在の年齢は、おいくつですか。

□□歳

問4 あなたのご職業は、以下のどれに当てはまりますか。この中から1つだけお答えください。

【仕事をお持ちのかた】
1.正規の職員・従業員
2.労働者派遣事業所の派遣社員
3.パート・アルバイト・その他雇われている人(契約社員・嘱託を含む)
4.会社などの役員
5.個人で事業を経営している人(農家などを含む)・自由業者・内職(家庭内で行う賃金をもらう仕事)をしている人
6.家族従業者(自営業主の家族として事業を手伝っている人)

【仕事をお持ちでないかた】
7.仕事を休んでいる
8.仕事を探している
9.専業主夫・主婦
10.学生
11.その他(高齢など)

問5 問4で1から6までの回答をした方におうかがいします。あなたのお仕事の種類はどれに当てはまりますか。この中から1つだけお答えください。

1.農業、林業、漁業
2.鉱業、採石業、砂利採取業、建設業、製造業
3.上記以外の仕事

問6 あなたが最後に卒業・修了した学校はこの中のどれにあたりますか。学生・生徒のかたは、いま在籍している学校の区分をお答えください。

1.中学校(旧制の小学校や高等小学校を含む)
2.高校(旧制の中学校を含む)
3.短大・高専(旧制の高校や専門学校を含む)
4.大学・大学院

問7 先週(7月3日)放送されたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人 第26回悲しむ前に」(午後8時~8時45分)を、あなたはNHK総合テレビでご覧になりましたか。

(注意)
●「見た」とは、1分以上ご覧になった場合を意味します。
●7月3日(日)にNHK総合テレビから録画したものを1週間後(7月10日(日))までにご覧になったときも「見た」に含めます。
●BS4KやBSP(BSプレミアム)、NHKプラスでご覧になったときや、NHK総合テレビの再放送をご覧になったときは「見なかった」をお選びください。

1.見た
2.見なかった

問8 あなたがもっともよく利用しているモバイル機器は次のうちどれですか。(1つだけ選択)

1.iPhone
2.Androidスマートフォン
3.スマートフォン以外の携帯電話(ガラケー)
4.いずれも利用していない

問9 あなたは、政治、選挙に関する情報を主に何から得ていますか。最も多くの情報を得ているものを1つ選んでください。

1.テレビ
2.ラジオ
3.新聞
4.雑誌
5.インターネット(ソーシャルメディアも含む)
6.家族や知人からの話
7.その他
8.政治、選挙に関する情報は得ていない

問10 あなたが、ふだんよく読む新聞(紙・オンラインどちらでも)は何ですか。次の中から当てはまるものをすべて選択してください。

1.朝日新聞
2.産経新聞
3.日本経済新聞
4.毎日新聞
5.読売新聞
6.お住まいの地域のブロック紙・その他の地方新聞
7.業界紙・専門紙
8.新聞は読まない

問11 あなたが、ふだんよく見るテレビ番組は何ですか。次の中から当てはまるものをすべて選択してください。

1.NHKのニュース番組(ニュース7、おはよう日本、ニュースウォッチ9など)
2.民放のニュース番組
3.NHKの情報番組(あさイチ、クローズアップ現代、NHKスペシャルなど)
4.民放の情報番組(真実報道バンキシャ!、情報7daysニュースキャスター、羽鳥慎一モーニングショー、ひるおびなど)
5.教育・教養・実用番組
6.音楽・ドラマ・映画・アニメ・スポーツ番組
7.その他のジャンルの番組
8.テレビは見ない

問12 あなたが、ふだんよく利用するインターネットサービスは何ですか。次の中から当てはまるものをすべて選択してください。

1.LINE(ライン)
2.Twitter(ツイッター)
3.Facebook(フェイスブック)
4.Instagram(インスタグラム)
5.YouTube(ユーチューブ)
6.ニコニコ動画
7.TikTok(ティックトック)
8.Google
9.Yahoo!
10.放送局や新聞社・雑誌社が提供するニュースサイト
11.LINE NEWS(ラインニュース)
12.Smart News(スマートニュース)
13.NewsPicks(ニューズピックス)
14.Gunosy(グノシー)
15.NHKオンデマンド、NHKプラス、TVerなどテレビ局の番組配信サービス
16.Amazon Prime、Hulu、Netflixなどの動画配信サービス
17.WOWOW、スカパーなどのケーブルテレビ・衛星放送の有料チャンネル
18.ABEMAなどのインターネットテレビ
19.ポッドキャストなどのインターネットラジオ
20.5ちゃんねる、ガールズちゃんねるなどの掲示板サイト
21.まとめサイト
22.個人が運営するニュースサイト・ブログ
23.どのインターネットサービスも利用していない

問13 あなたには、以下に書かれた事柄はどのくらい当てはまるでしょうか。それぞれについてお答えください。

(1)決まった時間に、お決まりの新聞を読む、テレビニュースを見る、またはインターネットのニュースサイトを見る。
(2)移動中や休憩などのひまな時間ができると、テレビニュースまたはインターネットのニュースサイトを見る。
(3)GoogleやYahoo!などの検索エンジンを使うついでに、そこに表示されたインターネットのニュースを見る。
(4)LINEやTwitter、Facebookなどで、新聞社やテレビ局を友達登録・フォローしている。
(5)友達登録・フォローしている新聞社やテレビ局の投稿やメッセージを、自分から見に行く。
(6)友達登録・フォローしている新聞社やテレビ局の投稿を見るのは、タイムラインで見かけたときだ。
(7)LINEトーク画面の1番上にニュースが表示されたとき、タップして内容を読む。
(8)LINEやTwitter、Facebookなどで、政党や政治家を友達登録・フォローしている。
(9)友達登録・フォローしている政党や政治家の投稿やメッセージを、自分から見に行く。
(10)友達登録・フォローしている政党や政治家の投稿を見るのは、タイムラインで見かけたときだ。
(11)LINEやTwitter、Facebookなどで、政治や社会問題について考えを表明する有名人・団体(政党や政治家を除く)を友達登録・フォローしている。
(12)友達登録・フォローしている政治や社会問題について考えを表明する有名人・団体(政党や政治家を除く)の投稿やメッセージを、自分から見に行く。
(13)友達登録・フォローしている政治や社会問題について考えを表明する有名人・団体(政党や政治家を除く)の投稿を見るのは、タイムラインで見かけたときだ。
(14)政治や選挙について、自分からインターネットで情報を検索することがある。
(15)政治や選挙について、友人・知人からの共有(リツイートなど)やSNSのトレンドを通して情報を得ている。

(各問共通)
 1.当てはまる
 2.まあまあ当てはまる
 3.あまり当てはまらない
 4.まったく当てはまらない

問14 あなたは、インターネットで政治に関するニュースを見たときに、以下の事柄をすることがありますか。それぞれについてお答えください。

(1)インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、表示された関連ニュースを見る。
(2)インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、GoogleやYahoo!などの検索エンジンでさらに関連するニュースを検索する。
(3)インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、リンクをTwitterやLINEなどのSNSに共有する。
(4)インターネットで見かけた政治に関するニュースに関する、SNSでの他人の投稿をリツイートなどで共有する。
(5)インターネットで見かけた政治に関するニュースについて、自分の感想や考えを、「ヤフコメ」やTwitterなど、インターネット上に投稿する。
(6)Yahoo!やLINE、Twitterなどでトレンドに上がっている政治の話題について、SNSで検索する。
(7)Yahoo!やLINE、Twitterなどでトレンドに上がっている政治の話題について、GoogleやYahoo!などで検索する。

(各問共通)
 1.よくする
 2.ときどきする
 3.あまりしない
 4.まったくしない

問15~問17

政治に関して「新聞・テレビ」(「Yahoo!ニュース」/「Twiter」)から得られる情報について、あなたはどのように思われますか。それぞれについてお答えください。
(1)公正だ
(2)全体像を伝えている
(3)正確だ
(4)信用できない
(5)早く伝えることを最優先している
(6)問題解決をさまたげている
(7)分かりやすい
(8)楽しめる
(9)手軽に得られる

(各問共通)
 1.そう思う
 2.どちらかと言うとそう思う
 3.どちらとも言えない
 4.どちらかと言うとそう思わない
 5.そう思わない

問18 あなたは、今回の参議院議員選挙の「比例代表」では、どの政党に投票しましたか。1つ選んでください。

0.今回は投票しなかった
1.自民党に投票した
2.立憲民主党に投票した
3.日本維新の会に投票した
4.公明党に投票した
5.国民民主党に投票した
6.共産党に投票した
7.れいわ新選組に投票した
8.社会民主党に投票した
9.NHK党に投票した
10.その他の政党に投票した

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)谷口将紀・大森翔子(2023)「人々の政治コミュニケーションメディアへの情報接触行動を中心に」NIRA総合研究開発機構

脚注
1 LINE NEWS「LINE NEWSのトップ面は1億通り、AIで実現した『ニュースの個人化』」2020年828.(最終閲覧日:2022年11月3日)
2 アメリカの数値は2017年実施調査のもの。
3 平成24年~令和元年調査。
4 詳細は大森(2021)、谷口・大森(2022)を参照されたい。
5 選択肢においては、①1分以上の視聴を「見た」とみなし、②放送の1週間後までに視聴すれば「見た」に含めること、③BS4KやBSP(BSプレミアム)、NHKプラス、NHK総合テレビの再放送を視聴したときには「見なかった」とみなすなど、ビデオリサーチ社の測定の方法を考慮したものを設定した。
6 本報告書の分析は統計ソフト「R」を利用している。レイキングは同ソフトanesrakeパッケージを用いた。
7 この質問からは明らかにできないが、インターネットサービスを通じて接触している情報(例えば、ポータルサイトに掲載されているニュース)が、新聞社発のものであることが意識されていないという見方もできそうである。

© 公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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