NIRA総合研究開発機構

概要

 『中央公論』20224月号の「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」にて引用された調査データについて、詳細を報告する。NIRA総研では、自由と平等をテーマに、一般の人々の意見を集約するための調査を実施した。本調査では、「自由と平等のどちらを選ぶか」に加え、「コロナ対策のための個人の自由の制限は許されるか」など、個人の自由と公共のあり方について、人々がどのように考えているかを調査した。

INDEX

ポイント

● 行政が取り組む主な政策課題の中では、「年金・医療」や「子育て・教育」といった社会保障に関連する分野が重要視されている。

● 自由と平等のどちらかを選ぶとしたら、自由の方が平等よりもかなり多い。また、Step2で、専門家の意見を読んでもらってから同じ質問をしたところ、Step1よりも「どちらともいえない」という回答が増えた。

● コロナ対策のためには個人の自由の制限は許されると考える人の方が、許されないと考える人より多く、過半数を占める。

● 自由を選ぶ人は、行政サービスの簡素化を支持する人が多い。平等を選ぶ人は、手厚い行政サービスを支持する人の割合が他より多いが、行政サービスの簡素化を支持する人もほぼ同じくらいいる。自由と平等、簡素化と手厚くのどちらを選ぶかに関わらず、行政サービスのあり方は、ユニバーサルよりもターゲティングを支持する人が多い。

調査概要

• 日本が直面する課題について解決策を探るためには、政策に関心を持つさまざまな人々の意見を集約し、それを踏まえた政策ビジョンを構築することが必要だ。その第1段階として、社会・経済に関するテーマに関して、一般の人々の意見を集約するための調査を実施した。
• 本稿では、「自由と平等」に関する調査結果について報告する。
• 本調査では、テーマに関する専門家の論考を読み、考える熟慮により、人々の態度がどう変化するかを検証するため、同一の回答者を対象に、2回のアンケート調査を行った。
• Step1では、テーマに関する質問のほかに、社会・経済的属性や政策に対する考えなどを聞いた。
• Step2では、始めに2名の専門家(重田園江氏と渡辺靖氏)の文章を調査対象者に読んだうえでアンケートに答えてもらい、読後に変化が出るのかについて調査をした。

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研究体制

谷口将紀 NIRA総研理事長/東京大学大学院法学政治学研究科教授
宇野重規 NIRA総研理事/東京大学社会科学研究所教授
神田玲子 NIRA総研理事・研究調査部長
川本茉莉 NIRA総研研究コーディネーター・研究員(担当)

大切だと思う政策課題

 1番大切だと思う政策課題では、「年金・医療」を選ぶ人が圧倒的に多い。1-5番目の累計では、「防災」「公共インフラの整備」が相対的に多くなる。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図1

専門家の論考

 Step2では、自由と平等に関する2人の専門家の論考を始めに提示し、それを読んでもらったうえで、アンケートに回答してもらった。

意見A 重田園江さん(明治大学教授)

 「平等な自由」という考えがあります。これは、他の人の自由や権利を侵害しないかぎり、人は平等に自由を保障される、という考えです。ここで平等は、たとえば貧富の差をなるべく少なくしよう、という場合の平等とは異なっています。後者の場合、人々の生存条件をできるだけ等しくするという発想です。これに対して平等な自由においては、人の生き方はできるだけ多様であるべきなのです。人に迷惑をかけなければ、好きなように生きていい。
 
 ただしここで、他者の権利を侵害しない、の中身が問題になります。差別主義者がSNSで差別を吹聴するのはアウトです。夜中に騒音を出すのもダメでしょう。では無人島で騒ぐのはどうでしょう。そのときペットボトル飲料をたくさん飲んで海に捨てたとしたら。環境負荷は「他者」への侵害でしょうか。他者の範囲にどこまでを入れるべきなのでしょう。他者をあまりに広げすぎると、平等な自由は結局誰も何もできないことにつながりかねません。他方で迷惑をかけるかもしれない他者は、往々にして見えにくく、それが弱者であるほど声も届きにくい。マイノリティや貧困者は言うに及ばず、言語を持たない動植物や自然環境。誰が誰にどう迷惑をかけているかを想像するのは難しいのです。ここには、狭い地球に共存する人類を含む生物の共存と、有限な資源をめぐる根本的な問いがあります。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における表1

意見B 渡辺靖さん(慶応義塾大学教授)

 どの国に生まれるか。誰のもとに生まれるか。私たちは選択出来ません。しかし、それらは私たちの人生にとてつもなく大きな影響を与えます。私たちは生まれながらにして自由でも平等でもないのです。であるならば、せめて一定の条件を満たした個人はどこに住むか選択する自由を平等に与えられるべきです。そうすれば競争原理が働き、魅力のない国や地域は自ずと淘汰されてゆくことになります。DX(デジタルトランスフォーメーション)が拡げるオンライン上のコミュニティやサービスはそのための偉大な可能性を秘めています。

 1987年に社会学者ダニエル・ベルが述べたように「国民国家は大きな問題を扱うには小さすぎ、小さな問題を扱うには大きすぎる」のです。今回のコロナ禍はその事実を如実に曝け出しました。国や地域に愛着の念を抱く事は理解できます。しかしそれらはしばしば同調圧力にもなり得ます。同調圧力は個人の自由を損ねる半面、ある種の平等を可能にするかもしれません。ただ、その平等にどれほどの価値があるのでしょうか。たまたま生まれ落ちた環境に拘束されない自由。それを少しでも可能にする制度やルールを各領域で模索してゆくことが必要と考えます。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における表1

自由か平等か

 自由と平等のどちらかを選ぶとしたら、自由の方が平等よりもかなり多い。Step2で、専門家の意見を読んでもらってから質問したところ、Step1よりも「どちらともいえない」という回答が増えた。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図2

自由か平等かー年齢・世帯年収別の分布ー

どの年齢層でも年収が高くなるほど、「どちらともいえない」が減り、自由を選ぶ人が多くなる。

「自由か平等か」でみた世帯年収の分布

 自由を選ぶ人と平等を選ぶ人の世帯年収を比較すると、自由を選ぶ人のほうがやや高めである。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図7

コロナ対策のための個人の自由の制限は許されるか

 Step1、Step2ともに、コロナ対策のためには個人の自由の制限は許されると考える人の方が、許されないと考える人より多く、過半数を占める。調査時期は8月と9月で、ちょうど第5波が来ていた時期である。

コロナ対策のための個人の自由の制限は許されるか
ー年齢・世帯年収別の分布ー

緊急事態における非常措置権限を認めるべきか

 非常措置権限を憲法で政府に認めるべきだと思う人が、認めるべきだと思わない人より多く、過半数を占める。

※Step2では質問していない。

参考になった論点別の「自由か平等か」

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図4

「自由か平等か」でみた行政サービスのあり方

 自由を選ぶ人は、行政サービスの簡素化を支持する人が多い。平等を選ぶ人は、手厚い行政サービスを支持する人の割合が他より多いが、行政サービスの簡素化を支持する人もほぼ同じくらいいる。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図3

「自由か平等か」でみた行政サービス給付のあり方

 いずれの層も、ユニバーサルよりもターゲティングの支持が多い。比較的ユニバーサルの支持が多いのは、平等を選び、かつ、手厚い行政サービスを支持する層。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図5

現役世代(18ー60歳代)で平等を選んだ人の、行政サービスに対する考え

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図8

「自由か平等か」でみた財政規律の考え

 自由を選ぶ人は、財政赤字を心配ないと考える人の割合が他より多いが、財政赤字を危機的水準と考える人もほぼ同じくらいいる。平等を選ぶ人は、財政赤字を危機的水準と考える人が多い。

(注)『中央公論』2022年4月号「2000人調査から見えた日本人の『自由』と『平等』観」における図6

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2022)「『中央公論』2022年4月号にて引用された調査データ」

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