大久保敏弘
慶應義塾大学経済学部教授

概要

 コロナ禍を契機に、ネット経由で、単発・短時間のサービスを提供する「ギグワーク」への関心が高まっている。働く側にとっては、スキルや時間を活かして自由度の高い働き方を実現でき、発注側はニーズに応じたサービスを手ごろな価格で利用できる。一方、ギグワーカーは労働者としての権利や福利厚生が保障されていない。所得も不安定になりがちで、セーフティネットの脆弱性が課題だ。労働力不足が進む日本社会にとって、また、昨今の物価高騰が進む中、ギグエコノミーの重要性は増しており、新しい働き方を健全に発展させられるか、分水嶺に立っている。
 就業者実態調査の結果によると、副業・兼業としてのギグワークの経験がある就業者は全体の4%、日本全体で推定275万人程度いることがわかった。特に若年層、従業員のいない自営業主、専門技術職、管理職、テレワーク利用者ほどギグワークを行っている。内容は「データ入力作業」などホワイトカラー系の仕事が多く、隙間時間を使った本業の所得補填の色合いが強い「後ろ向きのギグワーク」が中心だ。従来期待されていた、組織に縛られず自らのアイデアやスキルで柔軟に効率よく働く「前向きのギグワーク」とは異なる。「前向きのギグワーク」を普及させるには、企業が副業に肯定的になり、従業員のスキルを正しく評価し十分な賃金を保障すること、マッチングプラットフォームの制度設計を改善していくことが不可欠だ。

INDEX

1.ギグワークの台頭

 近年、新たな働き方として「ギグワーク」が注目されている。ギグワークは、Gig(小さなライブハウスなどで1度だけ演奏すること)とWork(仕事)からできた造語だ。主にインターネット上のマッチングサービスを通じて、労働者が特定の仕事やサービスを単発で顧客に提供することを指す。ギグワークは2000年代から欧米を中心に広まり始め、コロナ禍で一気に拡大した。日本でも急速に増加しており、代表的なギグワークとしてUber Eatsなどの配達員が挙げられる。

 労働者から見たギグワークのメリットとしては、柔軟に労働時間や労働量を決められること、雇用契約や組織にとらわれることなくスキルを活かして様々な仕事ができることがある。一方、デメリットも多い。ギグワークを行う労働者(ギグワーカー)は、会社などの組織に所属していないため、労働者としての権利や福利厚生が保障されない。また、仕事はネット上のマッチング次第で決まり、常に仕事があるとは限らず、必然的に所得は不安定になる。さらに、ギグワークに限った話ではないが、単純作業や成り手の多い仕事は給与が低くなる。

 ギグワーカーとして働くことはメリット・デメリットの両面があるが、消費者はギグワークによってさまざまな恩恵を受けられるようになっている。これまではニーズがありながらさまざまな制約(労働者の確保やコストなど)によって実現できなかった、あるいは高価だったサービスを、手ごろな値段で気軽に利用できるようになった。先に挙げたUber Eatsや出前館による食事の宅配サービスのほか、出張調理や家事代行などのサービスが次々と登場している。今日の日本社会では高齢者の1人暮らしが増え、家の片づけ、庭の手入れ、家の修繕、買い物、雑用など本人だけでは手に負えなくなっている。また共働き家庭で子育てをしている場合、日々の家事や食事の準備も大変だ。ギグワーカーが担う各種生活サービスは、こうした課題へのソリューションとなっている。

 ギグワークの対象となるのは、消費者向けの生活サービスにとどまらない。今日、多くの企業や事業主は人手不足に苦しんでいるが、労働者を正社員として雇用し十分な賃金を払う余裕がない。そのため、社内だけで回らない仕事をギグワークとして単発で外部に委託することも増えている。例えば、データ入力やウェブ管理などを外部委託することで雇用コストを削減できる。また、ビジネス街にある飲食店が昼時間帯の補助人員を臨時で雇ったり、スーパーが年末年始の繁忙期に棚卸などを依頼したりするケースもある。雇用契約を結ぶことなく単発で仕事を依頼できることは、企業側にとってベネフィットが大きい。

 ギグワークが登場した頃、ギグワークの中心はフリーターと考えられていた。しかし、特にコロナ禍以降、フリーターにとどまらず就業者全般の幅広い層がギグワーカーとして働く、あるいは働きたいと考えるようになってきている。ギグワークは、その動機から大きく次の2つに分けられる。

 日本では少子高齢化による労働力不足が深刻である。また経済の長期的な低迷や重い税負担により労働者の可処分所得は減少しており、これに昨今の物価高騰が拍車をかける。そうした状況から抜け出し、生活費の不足分を補おうとする、いわば「後ろ向き」のギグワークだ。

 他方、働き方に対する労働者の意識も変化してきている。ライフスタイルの多様化が進んでいることで柔軟な働き方が求められるようになり、副業として組織に縛られず自らのアイデアやスキルで柔軟に効率よく働きたいという人も増えている。こちらは「前向き」のギグワークと言えよう。

 「後ろ向き」、「前向き」のいずれにしても、副業としてのギグワークの重要性は急速に高まってきている。そこで本稿では就業者の副業を中心にしてギグワークを議論する。

2.ギグワークの定義

 一口にギグワークといっても、様々な定義がある。フリーターをギグワーカーとする定義もあるが、本稿で議論するのは副業・兼業としてのギグワークである。したがって、本稿でのギグワーカーは就業者であること(非正規も含む)が前提である。失業者、主婦(主夫)、学生、フリーターは含まれないことに注意していただきたい。

 本稿及び下記に紹介する就業者調査において、ギグワークとは「企業と雇用契約を結ばず、インターネット経由で企業や個人から単発・短時間の仕事を請け負う働き方」と定義する。

3.ギグワークの現状

 コロナ禍の2020年初頭から、大久保敏弘研究室とNIRA総研は共同で、テレワークに関する就業者実態調査を8回にわたって実施している。テレワークやデジタル化を中心とした様々な質問を調査対象者に行い、デジタル経済の進展と就業者の行動を定点調査している。第8回調査ではギグワークの経験、頻度・時間、報酬、仕事内容・職種、仕事の満足度を詳細に聞いた。第8回調査の回答者は9,804人で、うち調査時点の就業者は9,447人である。

 調査の結果、393人の就業者が2022年12月時点までに何らかのギグワークを行ったことがあると答えている(図1)。これは全体の4%にあたる。またマッチングサービスなどに登録済みで、今後ギグワークをやる予定のある人は344人だった。こちらも全体の4%にあたる。さらに、経験や登録・予定はないが、ギグワークに興味がある、今後やってみたいと答えた人は1,896人にのぼり、これは全体の20%にあたる。実際にやった人はまだ少ないものの、就業者のギグワークに対する関心は高いことが分かる。

図1 ギグワークの経験、希望

図2 属性別にみたギグワークの経験、希望

 雇用形態別にみると(図2)、自営業主で従業員なしの人はギグワークを行っている割合が高い(13%)。職業別では専門的・技術的職業(6%)、管理的職業(6%)で多く、産業別では通信情報業(7%)、農林水産業(7%)で多い傾向がある。また、年齢が若い人ほどギグワークを行っており、性別による違いはほとんど見られない。テレワーク利用者は、ギグワークを実施している割合が高い。

 日本全体の労働力人口はおよそ6,860万人である。日本政府はフリーランス人口を約462万人としており、民間の研究所などによってはフリーランス人口=ギグワーク人口、あるいは潜在的なギグワーク労働人口とみなしている(注1)。しかし我々の調査対象はあくまでも就業者の副業なので、一部の個人事業主が調査対象として重なるものの、全体として対象が異なる。我々の調査の結果を基にすると、日本全体で275万人程度が副業としてのギグワーカーということになる。

4.ギグワーカーの働き方、仕事内容、報酬

 2022年にギグワークを行ったことのある就業者に、ギグワークの頻度とギグワークをした日の平均ギグワーク仕事時間を聞いた(図3、図4)。かなりばらつきがあるものの、平均して月1回未満が38%、月1回~週1日(1か月に1日~5日)が28%、週2~4日(1か月に6日~20日)が25%、週5日以上(1か月に21日以上)は10%である。1日あたりの平均ギグワーク仕事時間は4.8時間であり、隙間時間に仕事をしているようである(注2)(注3)

図3 ギグワークの頻度

図4 ギグワークをした日の平均ギグワーク仕事時間

 次に、ギグワークを行ったことがある人に仕事内容を聞いた。ギグワークの仕事は単発であり、仕事内容も幅広い。就業者調査では具体的な仕事内容を計50項目以上にわたって尋ねたが、分類の難しいものも多い(表5)。1つの仕事が複数分野にまたがる場合も多々あるため、該当する内容を全て選んでもらう複数選択式の質問票になっている。したがって、受注した仕事の数と仕事内容の数は一致しない。

    表5 ギグワーカーの仕事の種類
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 ギグワークとして1番多いのが、「(1)データ入力」で111人にのぼる。次に多いのが、「(2)文章入力、テープ起こし」で59人。「(3)添削、文章校正、採点」が52人。「(50)モニター、アンケート、品質評価」で48人。「(8)デザイン、コンテンツ制作」が39人。「(5)伝票などの書類整理」が26人。「(32)原稿・ライティング・記事等執筆業務」、「(7)パワーポイントやエクセルなどの資料作成」が25人と続く。あくまでも副業・兼業で行っているので、短時間や定型の仕事が多い傾向にある。

 本業との関連性を見ると(付表1)、特定職種の人は本業をギグワークにも活かしているようである。特に多いのが、情報処理・通信等技術者やエンジニアがデータ、ソフトウェア開発などのIT関連の仕事を行うケース。また、管理的職業や事務が本業の人が、データ入力、文章校閲、文章入力や文章執筆などの事務関連仕事を行っている。さらにデザイナーがデザイン・コンテンツ作成を手がけている。全般的に、オフィスワーカーを中心として本業のノウハウを生かし、リモートでギグワークを行っている傾向にある。本業が現場労働従事者であるケースは少ない。

 本稿におけるギグワークは就業者の副業・兼業であるため、「時間あたりの効率が悪い」、「長時間になりがち」、「本業に影響がでそうな肉体労働」、「出来高払いになりがち」な仕事はかなり少ない傾向にある。「(35)家事代行、便利屋、家事手伝い」、「(45)建設・現場作業・土木工事」、「(48)清掃、メンテナンス」、「(49)農作業等」はゼロではないものの極めて少ない。

 また、極めて少数ではあるが、「(31)税務・法務等行政専門サービス」、「(33)鍼灸、整体、マッサージ」、「(26)調理等のサービス、インストラクター」、「(36)理容師・美容師等」など、免許などの資格が必要な仕事をギグワークとして行っているケースもあった。そうした仕事を行っている人の本業は、全く別の職種の場合もある。例えば、事務や営業・販売を本業とする人が調理・栄養インストラクターを、医療技術従事者やその他専門従事者(司書、学芸員)が理容師・美容師をギグワークとして行っているといった具合である。

 ギグワーク未経験者で、マッチングサービスに登録もしておらず予定もないが、興味はあるという人に対してやりたい仕事を聞いた。希望者の多い仕事は、データ入力、モニター・アンケート、事務関連(文章入力、文章校閲)、調査・研究、レビューである。決められた定型作業を時間で区切って自宅PCでできる作業と言えるだろう。次に希望者が多いのは、製造、倉庫作業・梱包、情報・プログラミング、デザイン、接客・レジで、定型作業や決められた現場にて単発で働く作業である。

 次に所得との関係を見る。図6は所得層に関してギグワーカーの分布を示したものである。中間層が若干多いものの、かなり幅広い層がギグワークを行う傾向にあることが分かる。

図6 2022年の年収とギグワーク

 ギグワークからの報酬(2022年の年間報酬)に関しても調査している。年間報酬は平均149万円であり、100万円以下の人が多い(図7)。所得を補填するためにギグワークが広がっているようである。

図7 2022年にギグワークを行った就業者のギグワーク報酬

 就業者がギグワークを副業として行う場合、所得の補填や補助の色合いが強い「後ろ向きのギグワーク」が多くなる。従来期待されていた、「前向きのギグワーク」、つまり、企業組織にとらわれずスキルを活かすことで時間を柔軟にし、効率よく所得を伸ばす新しい働き方とは色合いが異なる。

5.「後ろ向きのギグワーク」から「前向きのギグワーク」にしていくためには:問題点と解決策

 副業としてのギグワーク、中でも「前向きのギグワーク」がなぜあまり伸びていないのか。調査結果から理由を探っていく。

 ギグワークを行ったことがある人に対して、ギグワークへの意見や満足度を尋ねた結果が図8である。ギグワークは時間を柔軟に使え、こまめに働ける利点があることについて満足度は高い。しかし、得られる所得や仕事単価が低いこと、法的地位(最低賃金、傷病休暇、社会保険など)への不満が強い。特に所得への不満が大きい。13%のギグワーカーが所得に全く満足しておらず(10段階中最低)、たった4%が非常に満足している(10段階中最高)と答えた。仕事の単価に関しても不満が顕著である(11%が全く満足してない一方で、わずか3%が非常に満足していると答えている)。

    図8 ギグワークに対する満足度
    (クリックすると拡大します。)

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 この不満点は別の観点からもわかる。就業者調査では、これからギグワークを行う予定の人、登録だけをしている人が望むギグワークからの報酬を尋ねた。図9は期待する報酬の分布である。期待年間報酬は平均163万円であり、実際にギグワークで働いた人の年間平均報酬である149万円よりも14万円ほど高い傾向にある。ギグワークを行う予定の人が一定以上存在するものの、実際に働いてみると所得が思うほど高くない現状が見えてくる。あるいは、仕事の報酬や条件がわりに合わない、常に求人があるとは限らないため登録をしても働き始めていないとも考えられる。ギグワークが副業として伸びていない第1の理由は、実態のギグワーク報酬が期待よりも低いためと言えそうだ。

図9 就業者でギグワーク予定者、希望者が期待する報酬分布

 ギグワーク報酬の低さは、働き過ぎにつながる可能性も高い。昨今、低所得層から中間層の所得が落ち込んでおり、物価高の打撃も大きいことはすでに述べたが、これによって今後、低所得層から中間層ほどギグワークを行う可能性がある。厳しい現実の中で生活を支えるため、単発で手軽にできるギグワークで働く魅力は大きい。しかし、こうした状況が続けば、十分な報酬を得ようと無理をして働く人が一定程度以上でてくる可能性がある。そもそも、本職の就業先の企業が十分スキルを評価し所得を十分保障しないことにも問題があるだろう。

 副業としてのギグワークが伸びていない第2の理由としては、副業・兼業を認めていない企業が多いことが挙げられる。「第4回テレワークに関する就業者調査」では兼業や副業など多様な働き方の実現に関する就業先の状況を聞いた。結果、副業や兼業に肯定的な企業(「とても重視している」または「やや重視している」と回答、以下同)は13%程度に過ぎず、33%の企業が否定的(「あまり重視していない」または「まったく重視していない」と回答、以下同)である(図10)。ちなみに他の項目については、肯定的な回答をした企業の割合はもっと高く、否定的な企業は少ない。例えば、ワークライフバランスのとれた職場環境については全体の28%が積極的であり、20%が消極的である。女性の雇用活用に関しては肯定的な回答が27%を占める。ここから、副業・兼業に関しては積極的な企業が相対的に少ない傾向が見て取れる。

図10 所属組織が重視していること(2021年4月時点)

 女性雇用の推進やワークライフバランスの向上などに比べて、副業・兼業については否定的な企業がずっと多い。もちろん、社員に副業・兼業を認めることで本業がおろそかになる可能性や利益相反の可能性もあるので、企業側が副業・兼業を積極的に認めたくないのは理解できる。しかし、企業に雇用されている労働者も消費者である。ギグエコノミーによる利便性の高いサービスが社会に行き渡れば、消費者はその恩恵を受けてより豊かな生活を送れるようになり、労働者としても効率的に働けるようになる。結果的に、企業も生産性向上といった恩恵を受けられる。企業側も、本業と相乗効果が期待できそうなものに限定するなどして部分的にでも副業を解禁するなど工夫していく必要があるだろう。

 ギグワークが副業として伸びていない第3の理由としては、マッチングサービスにおける情報の非対称性や、マーケットの制度設計の問題がある。ギグワークは契約のない単発仕事なので、労働者の能力に見合った十分な報酬が得られにくい可能性がある。マッチングサービス上で、有能な労働者は高い報酬を求めるがうまく仕事を得られずに退出する、あるいはいい顧客を見つけ長期的な関係を作り退出していく。すると、低スキルの労働者ばかり残って、安く仕事を請け負っていくことになる。そうなれば、良質なサービスを求めるカスタマーはマッチングサービスを利用しなくなる。これが極端に進めば、「悪貨は良貨を駆逐」する、つまりサービスの質が落ちて市場として成り立たなくなることもありえる。単発の仕事だということでギグワーカーが期待通りの仕事をしなかったり、逆に依頼者が過剰な要求をしたりといったトラブルも起こりやすくなる。

 日本におけるギグワークの仕事内容は多様化してきており、市場での評価額も分かりにくくなっている。例えば、家事と一口に言っても、単純な家事の手伝いから、庭の手入れ、ペットの散歩、修繕、整理・片付け、PC操作の手伝い、便利屋的な仕事、代理や代行など多岐に及ぶ。もちろんマッチングサービスの運営会社側はトラブルを防ぐために様々な対応を行っているので、このような問題も今のところは顕在化していない。

 ちなみに就業者調査では、マッチングサービス運営会社との関係(トラブル対応、契約履行)に関する満足度を尋ねており、半数の46%ほどが不満でもなく満足でもない。8%は大きな不満を持ち、5%が大きく満足している。結果を見るに、まだまだ制度設計に改善の余地はありそうだ。ミクロ経済学(契約理論など)や行動経済学などをはじめとする経済学の知見を活かして制度設計を巧みに行わないと、今後致命的な問題が出てくるかもしれない。

6.むすび

 本稿では副業としてのギグワークを就業者実態調査の結果を基に議論した。昨今の所得の伸び悩みや物価高に伴い、ギグワークは急速に注目を集めるようになっている。多くの就業者はギグワークによる副業に興味はあるものの、実際ギグワークをやっている人の報酬はそれほど高くはなく、本業の所得の補填にとどまっているようである。さらにギグワークの報酬に不満を持っている人も多い。就業者は仕方なく「後ろ向きのギグワーク」を行っているのが現状だ。その背景にあるのは、企業が被雇用者のスキルを十分に評価していないこと、そして生産性を上げて賃金を向上させようという意欲に欠けることかもしれない。「前向きのギグワーク」を増加させるには、企業が副業に肯定的になり、従業員のスキルを正しく評価し十分な賃金を保障することが欠かせない。

 先述したように、ギグエコノミーによってさまざまな新しいサービスを手ごろな価格で利用できるようになり、消費者は多大な恩恵を受けることができる。特に労働力不足、少子高齢化や共働きの進む日本社会において多様な生活サービスは重要な意味を持つ。そうしたサービスの充実は、結果的に企業の生産性向上にも繋がってくる。単発仕事をネット上でマッチングさせる仕組みそのものにも制度設計の問題など課題は多い。今後、包括的に議論を進め、経済学の知見を活かして制度設計していく必要があるだろう。

    付表1 職業とギグワークの種類
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大久保敏弘(おおくぼ としひろ)

慶應義塾大学経済学部教授。NIRA総合研究開発機構上席研究員。ミシガン大学修士課程修了、ジュネーブ大学及びジュネーブ国際開発高等研究所博士課程修了(Ph.D.国際関係学・経済学)。専門は国際経済学、空間経済学。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
大久保敏弘(2023)「副業としてのギグワークはなぜ広まらないのか-就業者実態調査から見る現状と課題-」NIRAオピニオンペーパーNo.64


脚注
・調査の実施およびデータ分析は、筆者のほかにフューチャー株式会社シニアアーキテクトの加藤究氏、NIRA総研の井上敦、関島梢恵、鈴木壮介が担当した。
1 内閣官房日本経済再生総合事務局(2020「フリーランス実態調査結果」2023213日アクセス)
2 1日13時間以上の場合は13時間として平均値を算出している。
3 ギグワークを行ったことはないが、予定または希望している人に限定すると、ギグワークの希望頻度は、平均して月1回未満は47%、月1回~週1日が32%、週2~4日が17%、週5日以上は4%、1日あたりの希望時間は平均3.7時間であり、ギグワークを実施している人よりも希望仕事量は抑制的である。

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