企画にあたって

カーボンニュートラル実現に山積する課題

シナリオを描き時間軸に沿った着実な対応を

翁百合

NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所理事長

KEYWORDS

2050年カーボンニュートラル、グリーン成長戦略、COP21パリ協定、SDGs、欧州グリーン・ディール、エネルギーの供給面と需要面の対応、技術革新、産業構造や社会システムの改革、循環型経済、社会のトランジションのシナリオ

 2020年10月、菅義偉首相は、国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、その後「グリーン成長戦略」がまとまった。同宣言は、内外に好意的に受け止められたが、この宣言の背景には次のような潮流がある。

 まず、2015年の「気候変動枠組条約COP21パリ協定」で、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求することが決められ、温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡達成に向けて日本も歩み始めていた。また国際金融市場でも、近年多くの機関投資家が国連の「責任投資原則」(2006年)に署名するなど、社会的責任を果たそうという動きが広がり、ESG投資が拡大してきていた。さらに、20年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大により、人々の価値観が大きく変化し、消費者レベルでも生物多様性や気候変動リスクへの意識が高まり、15年に国連サミットで採択された「SDGs(2030年を照準とした持続可能な開発目標)」達成への貢献が、一層注目されるようになった。

脱炭素で加速する欧州、復帰した米国。不可逆的な動き

 コロナ感染が広がる中で、グリーンリカバリー(気候変動を抑制しながら経済を立て直す考え方)で環境と成長の両立を目指す動きが欧州などを中心に一段と加速している。既に欧州は2019年の「欧州グリーン・ディール」で50年までに脱炭素社会を実現することを拘束力のある目標とし、それを成長戦略としており、20年には巨額のEU復興基金を設け一層の戦略推進に舵を切った。欧州では太陽光、水力、風力など再生可能エネルギーへのシフトは既に進んでいるが、さらに最近加速しているのは、再生可能エネルギーなども活用した水素エネルギーへの官民挙げての取り組みである。中国も60年までの脱炭素を宣言した。また、本年、米国大統領に就任したバイデン氏もトランプ前大統領時代に離脱したパリ協定に再コミットし、巨額の財政支援を予定している。日本にとってカーボンニュートラルは厳しい目標とされてきたが、もはや不可逆的な動きだ。そこで今回はこの問題に高い知見をお持ちの内外の専門家の方々に、カーボンニュートラル実現の道筋をどうみているか、そのための課題は何か、についてお話を伺った。

再生エネを補完する脱炭素火力、産業・家庭の電化、価格メカニズムの設計を

 国際大学の橘川教授は、現在議論が進む次期エネルギー基本計画に関連し、エネルギー供給について、アンモニアを燃焼させる脱炭素火力を着実に伸ばし、今後、主力電源化していく再生可能エネルギーの「出力変動」という課題を補うことができるようになるかが、脱炭素実現のカギになると述べる。そしてその実現には、アンモニア供給の確保とコストの削減が必要になるとしている。この点、国内最大の発電事業者であるJERAの奥田副社長も、同様の戦略が現実的アプローチであり、再生可能エネルギーも伸ばしつつ、既存の技術や設備を生かしながら、技術変化に応じて円滑なトランジション(移行)を図る必要があるとする。今後の技術革新の進展は予想が難しいが、エネルギー基本計画については、50年に向けて合理的な計画を掲げつつ、複数のシナリオを技術革新に応じて修正しながら戦略的に脱炭素を促進することが必要といえそうだ。

 東京大学の松村教授は、エネルギー供給面と同時に、需要面のエネルギー源を電気に替える「電化」の重要性を指摘する。産業部門や家庭部門での電化を進めながら、CO2削減に向けてさまざまなエネルギー活用を進めるには、コスト効果の高い方策が自然に生き残る制度設計が重要であると強調する。そして再生可能エネルギーの固定価格買取制度から市場連動型価格への転換に加え、特に今後、排出コストの負担を求めるカーボンプライシングの導入が最重要政策になると提言する。こうした制度を企業などの理解を得ながらいかに設計していくかが、カーボンニュートラル実現の成否を握るといえるだろう。

目標達成に向けて政策を総動員

 国際エネルギー機関の貞森局長は、再生可能エネルギーの大幅な価格低下に伴い、「50年ゼロエミッション」を掲げる国が増加し、世界の研究開発の動きは極めて速いと分析する。こうした国際的な潮流をみれば、日本はあらゆる手段を総動員しないと排出実質ゼロは簡単には達成できないと警鐘を鳴らすが、特に政府による技術開発支援の重要性を強調していることに注目すべきだろう。在日オーストラリア大使館のロー公使・参事官は、オーストラリアは、現状、脱炭素は宣言していないが、パリ協定に強固なコミットをしており、経済とのバランスをとりながら、着実に脱炭素に向けて取り組んでいると話す。同国の資源を生かした水素戦略など、豪日での協力関係は今後新しいエネルギー分野で一層重要になると期待を寄せる。資源大国、豪州との連携強化が日本の脱炭素にとって重要であることは、橘川教授も強調している。炭素国境調整を巡って各国の動きも出てきているが、日本は国際的にも戦略的対応が今後一層求められることになろう。

5人の識者の意見 「2050年CO2排出実質ゼロ」実現の道筋はあるのか

 カーボンニュートラル実現に向けた課題は数多いが、エネルギー供給のみならず、産業、運輸、家庭部門といった需要面の対応が極めて重要であり、さまざまな技術革新に向けて国を挙げて取り組むだけでなく、産業構造の変化や社会システムの改革を進めるとともに、これによって影響を受ける人たちへの目配り、支援も求められる。さらに、国民も、リユースなどの行動を通じて循環型経済(サーキュラーエコノミー)に向けた行動変容が求められる。政府は、自治体や民間企業とともにカーボンニュートラルに向けた社会のトランジションのシナリオを描き、時間軸に沿って課題へ対応し、国民を巻き込んで脱炭素社会を着実に実現していくことが求められている。

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「2050年CO2排出実質ゼロ」実現のための課題は何か。実現に向けた道筋はあるのか。

脱炭素火力を基軸に、シナリオを実現する

橘川武郎

国際大学大学院国際経営学研究科教授

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脱炭素火力の社会的実装、アンモニアの確保とコスト削減、CCS、非電力部門の対応、資源大国オーストラリア

 菅首相が、昨年10月26日に表明した「2050年CO2排出実質ゼロ」は、一定の説得力をもって受け止められた。それは、日本最大の火力発電事業者であるJERAが、アンモニアを燃焼させる「脱炭素火力」のビジョンを、直前に宣言していたからだ。これで、「電力部門」における排出実質ゼロの社会的実装が一気に現実味をもった。脱炭素火力を織り込めるならば、日本の発電の常識は大きく変わる。

 脱炭素火力の課題は「量の確保とコスト削減」だ。宣言どおりアンモニア火力が実現すれば、莫大なアンモニア需要が生じる。それに見合う供給量を確保するには、安定したサプライチェーンを構築できるかが、重要な分岐点となる。また、アンモニアの生産過程で発生するCO2を回収して地中に貯蔵するCCS(二酸化炭素回収・貯蔵)は、世界でまだ4箇所しか稼働・計画していない上、コスト面でも課題がある。さらに、日本はCCSで回収したCO2の貯蔵先が、国内では限られている。海外に頼るとなると、そこでのCO2削減分を自国の実績にどう計上するかという「二国間クレジット」の整備が高いハードルとなるだろう。

 2050年の電源構成は、主力の再生可能エネルギーに対し、脱炭素火力が4割程度と考える。政府は、火力と原子力を合わせて3~4割と想定しているが、脱炭素火力が成長して再生エネの出力の変動性を補うようになれば、再生エネの主力電源化が進み、原子力の比率は低下するだろう。この点では、政府と大きな見解の違いはないと思っている。

 他方、日本のエネルギー需要の6割を占める「非電力部門」は、長期見通しすら立っていない。対応はこれからだ。自動車と家庭用エネルギーの電化を進めつつ、燃料を水素やアンモニアに変える。ガス業界は天然ガスの主成分であるメタンを水素とCO2から生成する「メタネーション」という技術、石油業界はガソリンに代わる「eフューエル」という水素とCO2の合成燃料。さらに水素発電をどうするか。これらが脱炭素に向けた重要な動きとなる。

 資源の調達、CCSの利用、豊富な風力・太陽光と石炭・天然ガス資源の活用で重要となるのが、資源大国、特にオーストラリアとの関係だ。地政学的にも、米中デカップリング(分断)の状況では、オーストラリアはインド太平洋の資源の物流で「キー」となる国だ。わが国が脱炭素化のシナリオを現実のものとするには、日豪の連携が欠かせない。

識者が読者に推薦する1冊

橘川武郎〔2021〕『災後日本の電力業―歴史的転換点をこえて』名古屋大学出版会

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「2050年CO2排出実質ゼロ」実現のための課題は何か。実現に向けた道筋はあるのか。

現実的なアプローチで脱炭素への責任を果たす

奥田久栄

株式会社JERA取締役副社長執行役員経営企画本部長

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再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の組み合わせ、国や地域の事情に合わせたロードマップ、円滑なトランジション、アンモニアによる発電、洋上風力

 国内最大の発電事業者であるJERAは、「ゼロエミッション」の達成に大きな責任がある。国内の火力発電所の約半分を所有し、国内電力の3割を供給する。CO2の排出量は日本全体の1割を占めている。昨年、われわれは「2050年脱炭素」に取り組む姿勢を明確にするため、実現に向けた3つのアプローチを示した。

 1つ目は、再生可能エネルギーと「ゼロエミッション火力」を組み合わせること。ゼロエミッション火力とは、CO2を排出しない火力発電のことだ。今の火力発電は石炭やガス等を発電燃料とするため、CO2が発生する。この発電燃料を、アンモニアや水素に段階的に置き換える。2つ目は、経済成長の段階や地理条件、インフラ状況など国や地域の事情にあわせたロードマップで実行していくこと。例えば、電力需要が伸びているアジア新興国は、新設したばかりの石炭火力もあり、再生エネ100%の欧州方式は受け入れ難いだろう。3つ目は、技術レベルに応じた円滑なトランジションを図ること。既存の設備や技術を生かしながら、技術開発が進み次第、速やかに次のステップへ移行していく。

 これらを前提に実行の道筋を示したのが、日本版ロードマップだ。まずは、2020年代後半までに、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを化石燃料と混焼する技術を、本格運用させる。現在は実証段階の技術だが、徐々に混焼率を高め、2050年までにアンモニアのみでの発電を目指す。同時に、その火力を「再生可能エネルギー」に組み合わせていく。再生エネは出力が日照や風など自然条件に左右されるが、火力で補うことで、再生エネの拡大もスムーズに進む。燃料を化石燃料からアンモニアに置き換えても、今ある発電所や送電線などの資産を利用でき、コストをかけず早期に低炭素化、脱炭素化できる。さらに、日本近辺の海上でも設置が可能な「浮体式」の洋上風力の検討を進める。遠浅の海域が少ない日本では、海底に固定する着床式よりも適している。設備の量産でコストダウンを図る。

 2050年脱炭素を実現するための処方箋は1つではない。欧州の多くの事業者は再生エネ100%の運用を目指す。しかし、われわれは火力技術と併用する戦略が日本にとって最適だと考える。現実的なシナリオで、CO2の排出を確実に削減していく。それがわれわれの脱炭素へのアプローチだ。

識者が読者に推薦する1冊

橘川武郎〔2020〕『エネルギー・シフトー再生可能エネルギー主力電源化への道』白桃書房

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「2050年CO2排出実質ゼロ」実現のための課題は何か。実現に向けた道筋はあるのか。

コスト効果の高い方策が生き残れる制度作りが肝要

松村敏弘

東京大学社会科学研究所教授

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電化シナリオ、戦略の組み合わせ、効率的に達成する方策が自然に選択される仕組み、カーボンプライシング

 「2050年CO2排出実質ゼロ」の達成は、決して夢物語ではない。最も実現性が高いシナリオは「電化シナリオ」だ。すなわち、エネルギー源を可能な限り電気に変え、その電気を、再生可能エネルギーなどのゼロエミッション電源で作る。その上で、電気に変えられない需要は、ゼロエミッション水素やバイオエネルギーを利用する。発生したCO2を回収し、貯蔵あるいは原料として利用するCCSUもゼロエミッション化の有力な手段になる。一定の分野で排出が残るとしても、森林保全・植林、大気中からのCO2回収、元々ゼロエミッションのバイオ発電とCCSUの組み合わせ等のマイナスエミッションで相殺することも可能だ。こうした戦略の組み合わせで、CO2排出実質ゼロは十分に達成しうる。

 進むべき道は、将来の電化率、電源種、再生エネなどの割合の目標値を細かく決めることではない。正道は、将来のイノベーションの成果などに応じて、排出実質ゼロを最も効率的に達成するそれらの数値が、自然に選択される仕組みを作ること。電力・エネルギーの安定供給など、望ましい機能を果たすものが、その社会的価値に見合う適切な報酬を得られる仕組みを作り、その上で、その価値を安価に供給できるものが競争の結果生き残ることで、最適な組み合わせが自然に選ばれる電力・エネルギーシステムを作ることが肝要だ。特定の数値を決め、その達成のために無理な政策を重ねれば、国民負担がどこまで膨れあがるか分からない。補助金など国のサポートは、特定の電源等を対象とするのではなく、外部経済などの社会的価値に対応したものに限定すべきである。外部性の性質を明らかにした上で、それを満たすものを公平にサポートし、フェアな競争で効率的な社会が実現するようにすべきだ。

 この観点から、再生エネの固定価格買取(FIT)から市場連動型(FIP)への転換は前進だ。電気の社会的価値に応じて変動する市場価格に国のサポートに当たるプレミアム単価を上乗せするFIPは、FITよりも、社会的価値に見合う、透明で公正な報酬体系だ。

 超低炭素社会を実現するための最重要政策は、炭素の排出に伴う社会的コストを原因者に負担させる「カーボンプライシング」だ。各界からの強い抵抗はあるとしても、これが実現への一丁目一番地となる。既にある歪な各種エネルギー税を「炭素税」に統一するような、エネルギー税体系の抜本的な再設計をする、大胆な改革を考えるべきだ。

識者が読者に推薦する1冊

依田高典・田中誠・伊藤公一朗〔2017〕『スマートグリッド・エコノミクスフィールド実験・行動経済学・ビッグデータが拓くエビデンス政策』有斐閣

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「2050年CO2排出実質ゼロ」実現のための課題は何か。実現に向けた道筋はあるのか。

目標達成には、早急かつ大幅な政策強化が必要だ

貞森恵祐

国際エネルギー機関(IEA)エネルギー市場・安全保障局長

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IEAの分析、石炭を大量に使う産業部門、長距離輸送で使用する移動体燃料、各国の急速な政策展開、「1時間に1工場のペース」、政策手段を総動員

目標達成には、早急かつ大幅な政策強化が必要だ

 IEAで当職に就いて8年。この間をみても、エネルギーや気候変動の分野で各国の政策展開は非常に速いと感じている。「2050年CO2排出実質ゼロ」を目標として掲げる国が、日本を含めて急速に増えている。

 「電力部門」の脱炭素化は、再生可能エネルギーの低廉化によって現実味を帯びた。しかし、IEAの分析によると、各国が今示している政策ではパリ協定の目標達成には程遠い。現にコロナ禍の影響で2020年のCO2排出は前年比6%減少したが、経済回復に伴って12月には前年比2%増に転じた。とりわけ、世界のCO2排出量の6割を占める「電力以外の部門」の脱炭素化への転換は、容易ではない。石炭を大量に使う製鉄の溶鉱炉など産業部門、飛行機や船舶など長距離輸送で使用する石油由来の移動体燃料では、脱炭素に転換する有力な手段や技術が開発されていない。2050年排出実質ゼロ実現のために必要な排出削減の半分は、まだ実用化されていない技術を前提としている。

 また、現在稼働している工場やビル、発電所など、低炭素でない既存の施設をそのまま使い続けた場合に排出される分だけでも、気温は1.65度上昇する見込みであることにも留意が必要だ。

 政府は、研究・開発のリスクを民間企業に負わせるのではなく、技術革新を促す支援に積極的に関わっていかなければならない。例えば、水を分解して水素を生成する「グリーン水素」。世界最大の工場が福島県にある。この規模の生産設備を「1時間に1つのペース」で増設しないと、2050年目標の達成に必要な低炭素水素の生産量は確保できない。政府の役割は、こうした技術が市場で受け入れられる条件を政策として整備することだ。IEAは2021年5月に、全世界で2050年までに排出実質ゼロを実現するためのロードマップを公表する予定であり、各国の低炭素化加速の取り組みを支援していくこととしている。

 技術的に大きなチャレンジではあるが、世界の研究・開発はものすごいスピードで進んでいる。石油やガスの資源がない日本にとってもチャンスだととらえるべきだ。排出実質ゼロは、省エネ、再生エネ、CCS、水素、原子力、そして電力の安定供給の技術。あらゆる手段を総動員しないと達成できない。どれにするか選んでいる余裕はない。

識者が読者に推薦する1冊

IEA "World Energy Outlook 2020"

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「2050年CO2排出実質ゼロ」実現のための課題は何か。実現に向けた道筋はあるのか。

オーストラリアと日本、新たなエネルギー関係の時代が始まる

デービッド・ロー

在日オーストラリア大使館経済担当公使・参事官

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パリ協定の調印国、経済と成果の両にらみ、低排出技術革新、豪日の戦略的パートナーシップ、水素戦略、COP26

 オーストラリアは、昨年の大きな山火事を始めとして、気候変動の最前線に立たされている。パリ協定の調印国としてのコミットメントは揺るぎないものであり、それを反映して、国として「21世紀後半までにCO2排出ゼロ」の目標を掲げている。エネルギーとCO2排出削減の問題は、イデオロギーでない。「経済とのバランス」と「排出削減の成果」を両にらみで着実に進めることが重要だ。脱炭素宣言をしなくても実績を出すことはできる。

 化石燃料はわが国の経済にとって引き続き重要な位置を占めている。そこで、オーストラリアが特に力を入れているのが低排出技術の革新である。既存技術の活用を進める一方、実用性、拡張性、商用性の高い新規技術を支援する。技術革新を30年続ければ、多くの成果を期待できるというのが、わが国の考え方だ。2005年から昨年までの15年間で、すでに排出量を17%弱削減した。1人当たりの再生可能エネルギーの新規導入は、世界平均の10倍のスピードで進んでいる。

 豪日関係は、基本的価値観を共有する特別な戦略的パートナーシップであり、両国は長年にわたって幅広い分野で協力を深めてきた。エネルギーに関しては、1960、70年代は石炭や鉄鉱石、80年代はLNGに対する日本からの投資が、オーストラリアの輸出産業の発展に大きく寄与した。日本にとっては安定した資源供給国であり、両国は極めて補完性の高い関係にあるが、今後はさらに、新しいエネルギー関係の時代が始まると考えている。

 オーストラリアは風力や太陽光など再生可能エネルギーの潜在可能性が高く、資源を生かした技術開発が豪日の協力ですでに進行中だ。特に水素戦略には力を入れ、ビクトリア州から日本へ、水素エネルギーのサプライチェーンを構築するプロジェクトは実証段階にある。同州でのCO2の回収・貯蔵の計画も進む。将来的には、グリーン水素やグリーンアンモニアに対する日本からの投資や引取契約が進むことにも大いに期待している。

 世界全体を考えれば、今後、CO2の排出量が増加するのは、中国など新興国や発展途上国だ。彼らにも排出削減への関与を強めてもらうには、今年秋のCOP26などの国際的な議論の場で、豪日が連携することが重要になる。脱炭素に向けたさまざまなアプローチで、豪日関係は引き続き大きな意味を持つと考えている。
*原文は英語版に掲載

識者が読者に推薦する1冊

オーストラリア政府〔2019〕"Australia’s National Hydrogen Strategy" (概要の日本語訳あり)

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2021)「脱炭素社会 実現への道のり」わたしの構想No.53

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  • 世界のCO2排出量:IEA分析による5つの削減シナリオ

    注)STEPSはThe Stated Policies Scenarioの略で、各国政府が現在表明している政策に基づくシナリオ。「2050年排出実質ゼロ誓約の完全実施」は、2050年排出実質ゼロを表明している国など(EU、UK、ニュージーランド等)がその誓約内容を完全実施した場合のシナリオ。SDSはSustainable Development Scenarioの略で、2070年に排出実質ゼロとする持続可能な開発シナリオ。「2050年排出実質ゼロシナリオ」は、2050年に排出実質ゼロの目標を達成するシナリオ。
    出所)IEA

  • 各国の1人当たりCO2排出量の推移(1990年-2019年)

    注)中国の直近データは2018年の値。
    出所)IEA Data and statisticsより作成(2021年3月12日アクセス)

    付表

  • 各国・地域のエネルギー別発電コスト

    注1)グラフの値は、各発電所LCOE(均等化発電原価)の価格帯中央値。割引率は7%で計算されている。欧州の石炭データは、当該調査に提供されていない。
    注2)CCGTは、通常の火力発電よりCO2排出の少ない「コンバインドサイクル発電」という発電方式を示す。
    出所)IEA,NEA(2020)“Projected Costs of Generating Electricity 2020 Edition”

    付表

  • アンモニアによる火力発電の脱炭素化

    出所)経済産業省、資源エネルギー庁、JERA、報道資料等により作成

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、北島あゆみ、山路達也
※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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