井上敦
NIRA総合研究開発機構主任研究員

概要

 本稿では、技術革新による失業不安(「技術失業不安」)、および就業期待(「技術就業期待」)に焦点を当て、これらと政策選好、政治的態度、教育および労働に関する行動や意識の関係を分析した。「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」を用いて分析したところ、技術失業不安を抱く人は46%である一方、技術就業期待を有する人は30%に留まることがわかった。また、技術失業不安を抱く人は所得再分配、雇用支援および生活支援に関する公的サービスの拡大、平等社会を支持し、ポピュリスト態度が強い傾向が確認された。一方で、技術就業期待を有する人は雇用支援に関する公的サービスの拡充、機会均等の原則に基づく自由競争社会を支持し、学習時間が長く、転職志向があり、政府不信や投票棄権意向が弱い傾向が見られた。これらの分析結果に基づき、技術革新が生み出しうる政策需要とその対応について論じた*

INDEX

図表

表1 記述統計
表2 技術失業不安の決定要因
表3 技術就業期待の決定要因
表4 技術失業不安、技術就業期待と所得再分配政策への選好との関係
表5 技術失業不安、技術就業期待と課税を伴う公的サービス拡大への選好との関係
表6 技術失業不安、技術就業期待と平等社会、自由競争社会への選好との関係
表7 技術失業不安、技術就業期待と政治的態度との関係
表8 技術失業不安、技術就業期待と教育、労働に関する行動、意識との関係
表9 異質性

1.技術的失業がもたらす政情不安

 「いま、世界は新しい病にかかっているのであり、聞いたことがなかった病名だという読者が多いだろうが、今後何年かに頻繁に聞くことになるだろう。技術的失業というのがその病名である。」(J. M. ケインズ『孫の世代の経済的可能性』山岡洋一訳)

 これは大恐慌のさなか1930年にジョン・メイナード・ケインズが書いたエッセイ“Economic Possibilities for our Grandchildren”の一節である。ここでケインズは技術的失業の概念を提示し、これが一時的な不適応の段階にすぎず、むしろ長期的には人々の生活水準が大幅に向上すると予測した。それから90年たった現在、技術進歩を通じて経済は著しく成長し、人々の生活は豊かになった。しかし一方で、情報技術の急速な発展による「第4次産業革命」と呼ばれる経済構造の転換に進み、自動化技術による失業や賃金低下への懸念が高まっている。

 自動化技術には労働を減らす効果と増やす効果がある(Acemoglu and Restrepo, 2019(注1)。これらの影響の程度は、技術の特性や労働市場などの経済構造に依存する。このため、実証研究の蓄積が俟たれるが、既存の実証研究では国や地域よって結果が一貫しておらず、明確なコンセンサスが形成されていない(注2)

 しかしながら、メディアなどで見られる世間一般の議論は、自動化技術が仕事を増やすことへの期待(「技術就業期待」、以下同)よりも、仕事を奪うことへの不安(「技術失業不安」、以下同)に大きく偏っているように思われる(注3)(注4)。自動化技術による技術的失業を楽観視することはできないが、悲観論が行き過ぎると、政情不安が生じ、新技術の社会受容が阻まれる恐れもある。歴史的には、19世紀の産業革命期、イギリスでラッダイト運動が起き、力織機に仕事を奪われた手織工などが機械を打ち壊した(注5)。欧州を対象にした近年の研究では、自動化技術による失業リスクに晒されると急進右派政党への投票行動を強めることが明らかになっている(Aneli et al., 2021; Caselli et al., 2021; Im et al., 2019(注6)2016年の米国大統領選挙においては、自動化技術の影響を受けやすい地域ほど経済ナショナリズムの政治方針を掲げたドナルド・トランプ氏への支持率が高いことが明らかにされている(Frey et al., 2018(注7)。日本もこうした社会動向と無縁ではない。谷口(2018)はAIの発達が自分の暮らしを脅かすと認識している人ほど、政治に強い不信感を持っていることを明らかにした。これらの先行研究からは、自動化技術は人々の技術失業不安を介して、政策や政治への選好に影響を与え、政情不安を生む要因となることが示唆される。

 技術革新がもたらしうる政情不安を避け、技術革新の恩恵を享受できるかは、技術革新による利益の分配的な帰結に対して、政府が適切に対応できるかに大きく左右されるように思われる。有効な策を講じるためには、技術失業不安を有する人々の特性や政策需要を理解する必要がある。具体的には、人々は技術失業不安を認識した場合、失業や賃金低下のリスクから身を守るために、所得再分配や雇用支援、生活支援の公的サービスの拡大など、社会保障の充実や平等社会の実現を要求し、政府への依存を高めるかもしれない。あるいは、再教育や転職活動など労働市場での活動を通じて、自らの行動でリスクを回避するかもしれない。例えば、米国の労働者に対して調査をしたGolin and Rauh2022)では、自動化に対する恐怖は、増税への選好、政府からの手当の増加、労働組合への加入、再教育や転職の意向、ポピュリスト態度、投票意向と強い関係があることを明らかにしている。さらに、失業確率情報を無作為に提供する実験を通じて、自動化技術に対する恐怖が所得再分配の強化、ベーシックインカムの水準の引き上げ、労働組合への加入、政治的に左傾化するなどの効果を見出している。

 本稿では、日本のデータを用いて、人々の技術失業不安と政策選好、政治的態度、教育や労働に関する行動や意識の関係を分析することで、技術失業不安を有する日本の人々の政策需要を考察する。また、技術失業不安だけでなく、技術就業期待との関係も分析することで、技術革新によって生まれる新たな就業機会を活用したいと考えている人々の政策需要も考察する。具体的には、第2節で説明する「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」のデータを用いて、第1に、技術失業不安、技術就業期待を有する人がどの程度いるのかを確認する。第2に、どのような特性を持った人が技術失業不安、技術就業期待を持つ傾向があるかを確認する。第3に、技術失業不安、技術就業期待の有無によって、所得再分配政策への選好、課税を伴う公的サービスの拡大への選好、平等社会や自由競争社会への選好、政治的態度、教育や労働に関する行動や意識が異なるかを検証する。その上で、技術革新が生み出しうる政策需要やそれに対する政策的対応について議論する。

 本稿の構成は以下の通りである。第2節では分析に用いるデータを紹介し、第3節で分析結果を説明する。第4節では分析の結果を受けて、技術革新が政策需要に及ぼしうる影響について考察し、結論を述べる。

2.データ

 本稿では「第1回政治・経済・社会に関する意識調査(NIRA基本調査)」の個票データを利用する(注8)。この調査は20233月にNIRA総研が実施したインターネット調査であり、楽天インサイト株式会社に登録しているインターネット調査登録モニターに対して行われた。2020年の総務省『国勢調査』の結果に基づき、性別(2分類)、年齢(6分類)、地域(5分類)について、人口構成比に応じて割り付けされ(合計60セル)、2,000件の標本が抽出された。そのうち、有効回答数(トラップ設問をクリアした人)は1,805件である(注9)。本稿では、この1,805件の有効回答データを用いて分析を行う。

 NIRA基本調査の特徴として、政治、経済、社会に関連する人々の意識を幅広く尋ねていることが挙げられる。このため、技術失業不安や技術就業期待といった経済に関する意識と、政策や社会像、政治的態度など社会・政治に関する意識や態度との関係を調べることが可能となっている。

 なお、本稿では総務省「国勢調査(2020年)」を母集団とみなして、サンプリングバイアスを補正するための母集団ウエイトを用いる。具体的には、「国勢調査(2020年)」の18歳以上の日本人に限定した性別(男性、女性)、年齢階層(1839歳、4059歳、60歳以上の3階層)、居住地域(東日本、京浜、中日本、阪神、西日本の5地域)、労働力状態(有職か無職か)、および20227月参議院選での比例区投票政党(棄権を含めた4カテゴリー)の分布をもとに、レイキング法によりウエイトを作成した(注10)。本稿の結果は、すべてこのウエイトを用いて算出したものである。

 表1は分析に用いる変数の定義および記述統計をまとめたものである。まず説明変数のうち、本稿で焦点を当てている、技術失業不安と技術就業期待は、「デジタル化や技術革新によって、次のようなことが起こりそうだと思いますか」という一連の設問にある「自分や家族の仕事がなくなる」、および「自分もやってみたいと思える新たな仕事が生まれる」の回答を用いる。表1より、技術失業不安がある人は46%である一方、技術就業期待がある人は30%にとどまっており、技術失業不安が技術就業期待を上回ることがわかる。さらに、技術失業不安と技術就業期待の有無を組み合わせて確認すると、「技術失業不安なし、かつ技術就業期待なし」の人は37%、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし」の人は33%、「技術失業不安なし、かつ技術就業期待あり」の人は17%、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり」の人は13%であった。

 被説明変数について、第1に、所得再分配政策への選好について、次の2つの設問から4つの変数を作成する。まず課税方法に関するものであり、「A:個人所得税を引き上げるときには、高所得者の税率を引き上げるべきだ;B:個人所得税を引き上げるときには、所得の多い少ないにかかわらず、一律に税率を引き上げるべきだ」の回答を用いる。累進課税の傾斜を大きくすべきとする意見Aを支持する人は所得再分配政策への選好が強く、一律課税をすべきとする意見Bを支持する人は所得再分配政策に否定的と解釈できる。表1より、累進課税を支持する人は62%と半数を超え、一律課税を支持する人は12%に過ぎない。次に老後の生活保障に関するものであり、「A:国はすべての人に最低限の老後の生活保障を行うが、基本は各人の自助努力で備えるべきだ;B:国はすべての人が安心して暮らせる程度の老後の生活保障を行うべきだ」という設問の回答を用いる。安心して暮らせる老後の生活保障をすべきだとする意見Bを支持する人は所得再分配政策への選好が強く、老後は自助努力で備えるべきだとする意見Aを支持する人は所得再分配政策に否定的と解釈できる。表1より、安心して暮らせる生活保障を支持する人は45%とおよそ半数となり、自助努力で備えることを支持する人は27%であった。以上の集計結果からは、所得再分配政策を支持する人の割合は反対する人の割合を大きく上回ることがわかる。

 第2に、課税を伴う公的サービス拡大への選好について、次の2つの変数を用いる。いずれも「以下の公的給付や公共サービスについて、その水準や質を上げるために追加の税金や社会保険料を自ら支払ってもよいと思うものをお選びください」という設問の選択肢のうち、「雇用支援(求職支援、技能訓練支援、起業支援など)」、「生活支援(失業給付、生活保護、公営賃貸住宅の提供など)」の回答結果を用いる(注11)。表1より、雇用支援の拡大を支持した人は9%、生活支援を支持した人は12%となり、医療サービスや緊急時・災害時支援と比較すると、支持する人の割合は限定的であった(注12)

 第3に、平等社会、自由競争社会への選好について、次の2つの設問から4つの変数を作成する。いずれも格差の是非を問うもので、「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついても仕方がない」、「競争の自由を守るよりも、格差をなくしていくことの方が大切だ」という設問である。表1より、前者の設問では、機会均等の原則に基づく自由競争社会を支持する人の割合(40%)が、否定的な人の割合(23%)よりも高い。一方で、後者の設問では、自由競争社会を支持する人の割合(24%)が平等社会を支持する人の割合(33%)を下回る。一見相反する結果だが、全体的には、競争する機会が公正に与えられ、努力が報われなかったときにはセーフティーネットにより救われる社会を望んでいるように見受けられる。

 第4に、政治的態度について、次の6つの設問を用いる。まずポピュリスト態度に関するものとして、「現在の政党は既得権益にとらわれており、より直接的に人々の意思を代表するリーダーが現れてほしい」(ポピュリスト態度1)、「たとえリーダーが物事を成し遂げるためにルールを曲げるとしても、強いリーダーを持つことは日本にとって有益である」(ポピュリスト態度2)、「政治家ではなく、国民が最も重要な政策決定を行うべきである」(ポピュリスト態度3)、「たいていの政治家が気にしているのは、裕福で力のある人々の利益である」(ポピュリスト態度4)である。また、これらの4つの設問の回答を用いて主成分分析を行い、得られた第1主成分を標準化(平均0、標準偏差1)したものをポピュリスト態度尺度として用いる。次に、政府への不信に関するものとして、「あなたは、次にあげる日本の組織などをどの程度信頼しますか」の「政府」の項目に対する回答結果、投票棄権意思に関するものとして、「もし、この週末に選挙があるとしたら、あなたは、どの政党に投票したいと思いますか」の回答結果を用いる。表1より、ポピュリスト態度14の人はそれぞれ84%46%60%71%となり、内容によってポピュリスト態度が大きく異なることがわかる。この結果からは、全体的には、リーダーシップを発揮し民意を直接代弁する政治家の出現を求める一方で、政治家が目的達成のためにルールを曲げることは肯定しない考えが見て取れる。また、多くの政治家が国民である自分たちのことを考慮せず、富裕層や特権階級の利益を優先させていると認識している人が多いこともわかる。さらに、政府に不信を抱いている人は64%と半数を超え、投票の棄権意思を持つ人は16%であった。

 第5に、教育に関する行動として、直近の「通常の1週間」における「学習・自己啓発・訓練」の時間を用いる(注13)。表1から、全体平均では1週間で30分程度の時間が学習に当てられていることがわかる。また労働に関する意識として、「A:一般的に、働いている人は、チャンスがあれば、転職する方がよい;B:一般的に、働いている人は、同じ企業に長く勤める方がよい」の回答結果を用いる。表1より、転職志向がある人は39%、終身雇用志向の人は19%となり、転職志向が終身雇用志向を上回ることがわかる。

 回帰分析においては、見せかけの相関を生む可能性のある様々な諸要因を統制する。具体的には、個人の特性や経済的環境として、新型コロナ禍で家計が悪化したかどうか、性別、年齢、学歴、年収、雇用形態、職業、パーソナリティ、自律性に関する変数を考慮する。

(注) 標本サイズは1,805。

3.推定結果

3-1.技術失業不安、技術就業期待の決定要因

 技術失業不安、技術就業期待を有する人は、どのような特徴を有しているのだろうか。ここでは、これらの決定要因を調べるために、技術失業不安および技術就業期待を表すダミー変数を被説明変数とするプロビット・モデルを推定する。表2および表3は、各説明変数の係数の推定値を用いて平均限界効果をまとめたものである(注14)

 まず、技術失業不安の決定要因を確認していく(表2)。

 新型コロナ禍での家計悪化との関係を見ると、新型コロナ禍で家計が悪化した人は悪化しなかった人よりも、技術失業不安を有する確率が16%ポイント高い。これは、新型コロナ禍で経済的に苦しんだ人は、技術革新による失業リスクにも晒されると認識する傾向があることを示している。

 次に、性別、年齢との関係を見ると、女性は男性よりも技術失業不安を有する確率が高いが、統計的な有意性はない。また、60代および70代は、20代以下よりも技術失業不安を有する確率がそれぞれ10%ポイントおよび12%ポイント高い。なお、40代および50代も技術失業不安を有する確率が高いが、統計的な有意性は見られない。この結果からは、特にシニア層が技術失業不安を持ちやすいことがわかる。

 学歴、年収との関係を見ると、大学卒の人はそうではない人よりも、技術失業不安を有する確率は低いが、統計的な有意性はない。一方で、年収が高い人ほど技術失業不安を有する確率が有意に低い。このことは、相対的に年収が高い人が、ITに代替されにくい高度な技能が求められるタスクを行っているとする先行研究と整合的である(Autor and Dorn, 2013; 三谷・小塩, 2012)。

 雇用形態および職業との関係を見ると、非正規職員は他の雇用形態の人と比べて、技術失業不安を有する確率はほとんど変わらない。有職の人は無職の人に比べて、技術失業不安を有する確率が高い。職業別に見ると、「輸送・機械運転」、「生産工程」、「事務」、「建設・採掘」は特に技術失業不安を有する確率が高い。これらの職業は、定型的、反復的なルーティン作業が比較的多く求められ、AIやロボットなどの自動化技術により代替されやすいとする先行研究と整合的である(Autor et al., 2003; Goos et al., 2009; 池永, 2009; フレイ・オズボーン・野村総合研究, 2017)。

 最後にパーソナリティ、自律性について見ると、神経症傾向が強い人は技術失業不安を有する確率が高く、一方で自律性が高い人は技術失業不安を有する確率が低いことが確認された。

表2 技術失業不安の決定要因

(注)標本サイズは1,805。プロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 次に技術就業期待の決定要因を確認する(表3)。

 新型コロナ禍での家計悪化との関係を見ると、家計が悪化した人は悪化しなかった人よりも、技術就業期待を有する確率が低いが、統計的な有意性はない。

 性別および年齢との関係を見ると、女性は男性よりも技術就業期待を有する確率が4%ポイント低い。30代以上は、20代以下よりも技術就業期待を有する確率が低く、年齢階層が上がるほど同確率は減少する。例えば、30代では20代以下と比べて10%ポイント低く、70代以上では35%ポイント低くなる。このことは、技術就業期待が世代間で大きな差があり、特に若年層で広く浸透していることを意味している。

 学歴および年収との関係を見ると、大学卒の人はそうではない人よりも、技術就業期待を有する確率が高い。技術革新により生み出される新たな仕事は、比較的高度な知識や技能が要求されるとの認識があるためかもしれない。一方で、年収の高低による技術就業期待を有する確率については、統計的に有意な差は確認されない。

 雇用形態および職種との関係を見ると、雇用形態や職の有無での違いはほとんど見られない。職業別に見ると、技術就業期待を有する確率が低いのは生産工程、建設・採掘、サービス職業であり、同確率が高いのは、その他を除き、農林漁業、販売、専門的・技術的職業である。

 最後にパーソナリティと自律性について見ると、誠実性が強い人は技術就業期待を有する確率が低く、一方で開放性、自律性が高い人は技術就業期待を有する確率が高い。

表3 技術就業期待の決定要因

(注)標本サイズは1,805。プロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

3-2.技術失業不安、技術就業期待と政策選好、政治的態度、教育や労働に関する行動や意識との関係

 技術失業不安、技術就業期待と政策選好、政治的態度、教育や労働に関する行動や意識の関係との関係を検証するために、第2節で説明した被説明変数を、技術失業不安、技術就業期待およびその他の説明変数に回帰する。被説明変数がダミー変数の場合はプロビット・モデルを推定し、各説明変数の係数の推定値を用いて算出した平均限界効果を報告する。また被説明変数が連続変数の場合は、最小二乗法(OLS)による線形回帰の係数推定値を報告する(注15)

 まず所得再分配政策への選好との関係を見ると、表4の結果から、技術失業不安がある人はない人に比べて、累進課税を支持する確率が4%ポイント高く(第1列)、老後に安心して生活できる生活保障を支持する確率が9%ポイント高く(第3列)、老後の生活を自助努力で備えることを支持する確率が6%ポイント低い(第4列)。これらの結果は、技術失業不安がある人は所得再分配政策への選好が強いことを示唆している。一方で、技術就業期待がある人とない人の間で、所得再分配政策への選好について、統計的に有意な差は確認できない。

表4 技術失業不安、技術就業期待と所得再分配政策への選好との関係

(注)標本サイズは1,805。プロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。個人特性は、新型コロナ禍での家計悪化、性別、年齢階層、学歴、年収、雇用形態、パーソナリティ、自律性を含む。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 課税を伴う公的サービス拡大への選好との関係を見ると、表5の結果から、技術失業不安がある人はない人に比べて、雇用支援(求職支援、技能訓練支援、起業支援など)、生活支援(失業給付、生活保護、公営賃貸住宅の提供など)の公的サービス拡大を支持する確率がいずれも4%ポイント高い(第1列、第2列)。

 一方で、技術就業期待がある人はない人と比べて、雇用支援の公的サービス拡大については支持する確率が4%ポイント高い(第1列)。一方で、生活支援の公的サービス拡大については、技術就業期待がある人とない人の間に、統計的に有意な差は見られない。

表5 技術失業不安、技術就業期待と課税を伴う公的サービス拡大への選好との関係

(注)標本サイズは1,805。プロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。個人特性は、新型コロナ禍での家計悪化、性別、年齢階層、学歴、年収、雇用形態、パーソナリティ、自律性を含む。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 平等社会、自由競争社会への選好との関係を見ると、表6の結果から、技術失業不安がある人はない人と比べて、平等社会を支持する確率が69%ポイント高く(第1列、第3列)、一方で自由競争社会を支持する確率が67%ポイント低い(第2列、第4列)。これらの結果は、技術失業不安がある人は所得再分配政策を支持する傾向がある結果(表4)とも整合的である。

 一方で、技術就業期待がある人はない人と比べて、平等社会を支持する確率が低いが、統計的に有意な関係は見られない(第1列、第3列)。また、自由競争社会を支持する確率は35%ポイント高く(第2列、第4列)、「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついても仕方がない」への支持(第2列)は、統計的に有意な差がある。これらの結果からは、技術就業期待を有する人は、機会均等の原則に基づく自由競争社会を希望する傾向があるが、平等社会を否定する傾向が明確にある訳ではないことが見て取れる。

表6 技術失業不安、技術就業期待と平等社会、自由競争社会への選好との関係

(注)標本サイズは1,805。プロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。個人特性は、新型コロナ禍での家計悪化、性別、年齢階層、学歴、年収、雇用形態、パーソナリティ、自律性を含む。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 政治的態度との関係を見ると、表7の結果から、技術失業不安がある人はない人に比べて、ポピュリスト態度3(「政治家ではなく、国民が最も重要な政策決定を行うべきである」)、ポピュリスト態度4(「たいていの政治家が気にしているのは、裕福で力のある人々の利益である」)を有する確率がそれぞれ7%ポイント、9%ポイント高く、ポピュリスト態度尺度も高い。また、政府への不信、投票棄権意思を有する確率も高いが、統計的な有意性はない。

 一方、技術就業期待がある人はない人に比べて、ポピュリスト態度1(「現在の政党は既得権益にとらわれており、より直接的に人々の意思を代表するリーダーが現れてほしい」)、ポピュリスト態度2(「たとえリーダーが物事を成し遂げるためにルールを曲げるとしても、強いリーダーを持つことは日本にとって有益である」)を持つ確率がそれぞれ5%ポイント、7%ポイント高い。ポピュリスト態度尺度も高いが、統計的に有意な関係は見られない。また、政府への不信感を有する確率は11%ポイント低く、投票棄権意思を有する確率は5%ポイント低い。これらの結果からは、技術失業不安を有する人とはポピュリスト態度の内容が異なるが、技術就業期待を有する人も一部のポピュリスト態度を有する傾向がある一方、政府への不信や投票棄権意思を持つ人は少ないことがわかる。一部のポピュリスト態度と正の関係があるにもかかわらず、政府への不信、投票棄権意思と負の関係がある点は特徴的である。

表7 技術失業不安、技術就業期待と政治的態度との関係

(注)標本サイズは1,805。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。(1)~(4)列、(6)~(7)列はプロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。(5)列はOLSの係数推定値を報告している。個人特性は、新型コロナ禍での家計悪化、性別、年齢階層、学歴、年収、雇用形態、パーソナリティ、自律性を含む。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 教育、労働に関する行動、意識との関係を見ると、表8の結果から、技術失業不安がある人とない人の間に、1週間あたりの学習・自己啓発・訓練の時間(第1列)、転職志向(第2列)、終身雇用志向(第3列)の統計的に有意な差は見られない。この結果からは、技術失業不安がある人は、技術革新による失業リスクに対して、再教育や転職など労働市場を通じた対処をとる傾向は見て取れない。

 一方で、技術就業期待がある人はない人と比べて、1週間あたりの学習・自己啓発・訓練の時間が平均で17分多く(第1列)、転職志向を有する確率が12%ポイント高く(第2列)、終身雇用志向を有する確率が4%ポイント低い(第3列)。技術失業不安を有する人とは対照的に、技術就業期待がある人は、技術革新が生む新たな就業機会の利益を労働市場での活動を通じて享受しようとする意向が見て取れる。

表8 技術失業不安、技術就業期待と教育、労働に関する行動、意識との関係

(注)標本サイズは1,805。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。(1)列はOLSの係数推定値を報告している。(2)列はプロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。個人特性は、新型コロナ禍での家計悪化、性別、年齢階層、学歴、年収、雇用形態、パーソナリティ、自律性を含む。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

 以上をまとめると、技術失業不安を有する人は、所得再分配政策、雇用支援および生活支援に関する公的サービスの拡大、平等社会を支持し、自由競争社会に否定的な傾向があり、ポピュリズム態度が強いことがわかった。一方、学習時間、転職志向は、技術失業不安を有しない人との明確な違いは見られなかった。また、技術就業期待を有する人は、雇用支援に関する公的サービスの拡大や機会均等の原則に基づく自由競争社会を支持する傾向が見られた。また、一部のポピュリズム態度が強い一方で、政府への不信や投票棄権意思を有しない傾向があり、学習時間は長く、転職志向を有する傾向が確認された。

3-3.異質性

 技術失業不安と技術就業期待は排他的な関係にはなく、両方を有する人もいれば、いずれか一方、あるいは、いずれも有しない人もいる。そこで、技術失業不安と技術就職期待の有無により、次の4つのグループに分けて分析することで、技術失業不安と技術就職期待の異質性を検証する:(1)技術失業不安なし、かつ技術就業期待なし、(2)技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし、(3)技術失業不安なし、かつ技術就業期待あり、(4)技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり。表9は、技術失業不安なし、かつ技術就業期待なしを参照グループとしたときの推定結果である。

 所得再分配政策への選好との関係を見ると、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし」の人は、所得再分配政策を支持する傾向が特に強いことがわかる(第1列、第3列、第4列)。この結果からは、技術革新による失業のリスクを認識し、かつ新たな就業機会が得られないと考える人は、特に所得再分配政策への選好が強いことが見て取れる。

 課税を伴う公的サービス拡大への選好との関係を見ると、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり」の人は、雇用支援(第5列)および生活支援(第6列)の公的サービス拡大を支持する傾向が特に強いことがわかる。この結果からは、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり」の人は、求職支援などの失業リスクに対するセーフティーネットとしての雇用支援だけでなく、職業訓練、起業支援など新たな就業機会に備えたキャリアアップやキャリアチェンジのための雇用支援を望んでいることがうかがえる。

 平等社会、自由競争社会への選好との関係を見ると、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし」の人は、平等社会を支持し、自由競争社会に否定的な傾向が強いことがわかる(第710列)。この結果は、所得再分配政策への選好との関係(第14列)と整合的である。

 政治的態度との関係を見ると、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり」の人は最もポピュリスト態度を有しやすい一方、政治不信は有しない傾向が強い(第1117列)。一方で、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし」は、ポピュリスト態度を有しやすく、政治不信、投票棄権意思を有する傾向も強いことがわかる。

 学習時間との関係を見ると(第18列)、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待なし」の人は最も学習時間が短い一方、「技術失業不安あり、かつ技術就業期待あり」の人は学習時間が比較的長い。技術失業不安を持っている人のなかでも技術就業期待を有しているかどうかで学習時間が大きく異なる点からは、技術就業期待が学習動機になっている可能性が示唆される。転職志向についても、技術失業不安を有している人のなかでも技術就業期待も有している場合は、転職志向を持つ人の割合が高い(第19列)。終身雇用志向については、「技術失業不安なし、かつ技術就業期待あり」の人が、終身雇用志向を有する確率が最も低いことがわかる(第20列)。

(注)標本サイズは1,805。かっこ内の数字は頑健な標準誤差。列(1)~(14)、(16)~(17)、(19)、(20)はプロビット・モデルを推定し平均限界効果を報告している。列(15)、(18)はOLSの係数推定値を報告している。*は10%,**は5%,***は1%水準で統計的に有意であることを表す。

4.結論

 本稿では、第1NIRA基本調査のデータを用いて、技術失業不安、技術就業期待と政策選好、政治的態度、教育や労働に関する行動や意識の関係を分析した。その結果、主に次の3点が明らかになった。

 第1に、技術失業不安を持つ人は46%である一方で、技術就業期待を持つ人は30%にとどまった。

 第2に、技術失業不安の決定要因として、新型コロナ禍で家計が悪化したこと、シニア層、低年収、有職(特に定型的、反復的な作業が比較的多く求められる職業)などが確認された。一方で、技術就業期待の決定要因として、男性、若年層、大学卒などが確認された。

 第3に、政策選好について、職業、経済的環境、個人属性やパーソナリティの違いを考慮しても、技術失業不安を有する人は、所得再分配政策、課税を伴う雇用支援や生活支援に関する公的サービスの拡大、平等社会を支持し、自由競争社会には否定的な考えを持つ傾向が確認された。また、ポピュリスト態度が強い傾向も見られた。学習時間、転職志向については、技術失業不安を有しない人と明確な差は確認されなかった。これらの結果からは、技術失業不安を有する人は、技術革新がもたらす失業や賃金低下のリスクに対して、再教育や転職など労働市場を通じた対処よりも、社会保障の仕組みを通じた対処を重視する考えがあることが推察される。さらに、技術失業不安を有する人でも、技術就業期待を有しない場合は、所得再分配政策への選好、平等社会の支持や、自由競争社会への反対、政府不信、投票棄権意思の傾向が強く、学習時間は短く、転職志向を有する割合が低いこともわかった。

 技術就業期待を有する人は、雇用支援に関する課税を伴う公的サービスの拡大、機会均等の原則に基づく自由競争社会を支持する傾向があることが確認された。一方、所得再分配政策、生活支援に関する公的サービスの拡大、平等社会への支持については、技術就業期待を有しない人と明確な差は確認されなかった。また、一部のポピュリスト態度を有する傾向がある一方、政府への不信、投票棄権意思を有する人の割合が低いことが確認された。さらに、学習時間が長く、転職志向を持つ傾向があることもわかった。これらの結果からは、技術就業期待を有する人は、技術革新がもたらす新たな就業機会に対して、再教育や転職など労働市場での活動を通じて利益を享受しようとする意向があることが推察される。

 これらの発見は、技術革新が雇用に及ぼすプラス、マイナスの影響に関する人々の認識が政策需要と強く関連していることを表している。生成AIなどの自動化技術の社会実装が進み、特にサービス業において自動化の波が押し寄せていることを考えると(Baldwin and Okubo, 2023)、今後、技術失業不安を有する人が増加することが予想される(注16)。本稿で得られた結果は因果関係を特定できるものではないため、技術失業不安がもたらしうる影響に関して政策的含意を明確化することは難しいが、技術失業不安を有する人と有しない人の間で大きく政策需要が異なることからは、両者の間で政治的分断が生じる可能性はあり得る(注17)。さらに、本稿で確認した技術失業不安と政策需要の間に因果的効果があるのであれば、この新たな分断線を境に、技術失業不安を有する人は政府への不信やポピュリスト態度を強め、社会的保護の政策需要を高めて、財政を圧迫していく可能性もあるだろう。

 技術革新による政治的分断を防ぎ、技術進歩の恩恵を社会が安心して享受するには、技術的失業を正しく怖がり、また、技術革新が雇用を生む効果を正しく認識する必要があるように思われる。本稿の分析では、技術失業不安を有する人の割合(46%)は、技術就業期待を有する人の割合(30%)を上回り、技術革新が新たな労働需要を生むことへの認識が相対的に弱いことが確認された。自動化技術は労働を奪うだけではなく、新たな労働需要を生む効果を持つことや、今後求められるスキルに対する経済的リターンを科学的知見を基に社会に伝えることは、技術失業不安に偏った認識を改め、技術失業不安を緩和させることに役立つだろう。技術革新が社会に及ぼす客観的事実に関する共通認識の形成が求められる

 労働需要に応じた再教育の提供、労働の流動性の向上も欠かせない政策課題である。繰り返しになるが、技術革新は既存の知識やスキルを陳腐化させて雇用を奪うだけでなく、新たな労働需要を生む。それは従来求められたスキルとは異なるものを要求するだろう。本稿の分析結果からは、技術失業不安を有する人も技術就業期待を有する人も、課税を伴うとしても雇用支援に関する公的サービスの拡大を支持する割合が高く、技術革新による失業リスクや新たな就業機会に備える意向がうかがえた。こうした政策需要に応え、労働市場で求められるスキルを習得するための教育プログラムを整備するとともに、修得したスキルを労働市場に円滑に供給できるよう労働の流動性を高めることは、労働者を技術的失業から守るために、今後より一層求められるであろう。

 最後に、所得再分配の調整である。科学技術が急速に発展する中、技術的失業によって職を失い、低技能・低賃金の仕事に就かざるを得なくなった人々の生活保障に関する政策需要は一層高まると予想される。政府には、自由経済の下で市場を補完し効率的な資源配分を実現するという本来の役割を果たしつつ、所得再分配を通じて、技術進歩がもたらす利益を社会で広く分配するための調整が求められる。所得再分配後の所得格差がどの程度であれば人々は許容できるのか。政府は人々の声に耳を傾け、技術革新が生む新たな政策需要に応えられるかが、技術革新による政治的分断を避けるカギになるだろう。

参考文献


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引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)井上敦(2023)「技術革新と政策需要との関連性:失業不安と就業期待に着目して」NIRAワーキングペーパーNo.6

脚注
* 本稿の執筆にあたり、NIRA総合研究開発機構の神田玲子氏、関島梢恵氏から草稿に対して有益なコメントを数多くいただいた。また両名ならびに同機構の宇田川淑恵氏、鈴木壮介氏、竹中勇貴氏から研究会で有益なコメントを数多くいただいた。ここに記して謝意を表したい。
1 自動化技術が労働に及ぼす影響として、Acemoglu and Restrepo2019)では次の3つが示されている。第1に、自動化技術が労働者の仕事を取って代わり、労働需要が低下する「代替効果」である。第2に、自動化技術を導入した企業が生産性を向上させ、製品やサービスへの需要が増加し、その結果、労働需要が高まる「生産性効果」である。第3に、自動化技術によって労働を必要とする新しいタスクが生まれ、労働需要が高まる「復職効果」である。
2 例えば、Acemoglu and Restrepo2020)は米国でのロボット導入の影響を検証し、雇用と賃金の双方を減らすことを明らかにした。Graetz and Michaels(2018)はOECD17か国のデータを分析し、ロボットの導入が低技能労働者の労働時間シェアを減少させる一方で、労働生産性と賃金を高め、総雇用に対しては明確な影響が見られないことを報告している。Dauth et al.2021)はドイツを対象にし、ロボットの導入により製造業の雇用が減少したが、サービス業の雇用が増加し、経済全体として雇用を減少させる効果は見られなかったと報告している。同時に、ロボットに置き換えられた労働者の賃金が減少し、高技能労働者との賃金格差が広がったことを指摘している。日本においては、Dekle2020)とAdachi et al.2024)は、ロボット導入が産業の生産性向上に寄与し、製品需要と労働需要が増加したことを明らかにした。Aghion et al.2022)は自動化技術が労働に及ぼす影響を広範にレビューし、産業レベルでも企業レベルでも、効果がないか、あるいはプラスの効果をもたらす報告が多いことを確認している。その上で、自動化技術は単なる労働の敵ではなく、むしろ企業の競争力を高め、新たな市場を開拓することで、より多くの労働者を雇用する可能性があると結論づけている。
3 Autor2015)は、ジャーナリストや専門家のコメンテーターでさえ、機械による労働の代替を誇張し、生産性、収益、労働需要を高める自動化技術と労働の相補性を無視する傾向があると指摘している。また大まかな集計ではあるが、筆者が日経テレコン記事検索を用いて、日本経済新聞(朝夕刊)を対象に、201011日~2023831日の期間に、①「人工知能 仕事を奪う(うばう)」、②「人工知能 仕事を創る(つくる)」、あるいは、「人工知能 仕事を生む(うむ)」というキーワードが含まれていた記事数をカウントすると、①は88件である一方、②はわずか4件であった。
4 AIやロボットにより、今後、米国の雇用の47%が自動化されるリスクがあるとするFrey and Osborne 2017)の研究結果が、自動化技術が仕事を奪うという主張の根拠にされることが多い。日本の文脈では、フレイ・オズボーン・野村総合研究所(2017)は日本の労働人口の49%が自動化技術で代替可能と試算した。
5 Aidt and Franck2015)、Caprettini and Voth2020)では、産業革命期の省力化技術の導入が政情不安や暴動を引き起こす重要な要因であることを実証分析により明らかにした。
6 ポピュリズムの台頭に関する経済学文献を包括的にレビューした論文として、Guriev and Papaioannou2022)がある。
7 Frey et al.2018)は反事実モデルの分析から、選挙前の数年間にロボットの導入が増加していなければ、スイング・ステートであるミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州はヒラリー・クリントン氏に軍配が上がっていたことを示唆する結果を得ている。
8 NIRA基本調査の設計、分析結果の詳細は、NIRA総合研究開発機構(2023を参照のこと。
9 トラップ設問は、質問文を注意深く読まず回答する回答者を検出するための設問である。同調査では、「この項目には、「4.どちらかと言えばそう思わない」を選択してください」というトラップ設問が用意されており、当該設問で「4.どちらかと言えばそう思わない」を選択した人の回答を有効回答としている。
10 インターネット調査におけるサンプリングバイアスや省力回答者バイアスなどの各種バイアスおよびその補正方法については、谷口・大森(2022a, b)が詳しい。本稿では谷口・大森(2022a)に示されているレイキング法によって作成したウエイトを使用する。
11 複数回答が可能な設問であり、「該当するものはないない」を選択した場合だけ他の選択肢を選べないように設計されている。なお、単に公的サービス拡大を支持するかどうかを問う設問ではなく、課税を伴う公的サービスの拡大を受け入れるかという内容であることに留意されたい。
12 本設問の回答割合が高かった項目は、「該当するものはないない」(36%)、「医療サービス(保険料・サービスの質・費用など)」(34%)、「緊急時・災害時の支援(災害救助、災害補償など)」(26%)、「子育て支援(育児休暇手当、保育サービス、児童手当など)」(23%)、「年金制度」(23%)であった。
13 「通常の1週間」とは、休暇や休日、祝日、病気などによって生活時間が大きく変わらなかった1週間のことを指す。「学習・自己啓発・訓練」とは、仕事・学業として行うものを除き、知識・教養を高めることや、仕事に役立てる(技術・資格取得を含む)ことなどを目的とした活動を指す。例えば、学生が授業・予習・復習として行うものや社会人の職場研修は除き、クラブ活動や部活動は含まれている。時間は選択肢の各カテゴリーの中央値を実数として扱う。
14 有職者に限定して推定した場合も、同様の結果が得られている。
15 統制変数を含めた推定結果については、付表1を参照のこと。なお、有職者に限定した場合、また世帯の将来の家計状況の見通しに関する回答結果を追加的に統制した場合でも、ロバストな結果が得られた。さらに、技術失業不安と技術失業期待の一方のみをモデルに入れて推定した場合でも、ロバストな結果が得られた。
16 Baldwin and Okubo2023)では、近年はChatGPTのような生成AIの登場により、サービス業に関連する作業が自動化され、多くの事務職や専門職の仕事を変えつつあると指摘されている。また、新型コロナパンデミック下でリモートワークを促進するデジタルツールの利用が高まったが、それによりAIの利用も増加したことを示唆する予備的な証拠を得ている。
17 本稿で検証した技術失業不安および技術就業期待と政策選好の関係は、観察されていない要因(例:新技術への順応性等の個人の能力)によって引き起こされた「見せかけの相関」である可能性は排除できず、因果関係を示すものではないことに留意する必要がある。因果関係を明らかにするには、他の条件とは無関係にこれらの認識を変動させる外生的変動を利用する必要がある。例えば、Golin and Rauh2022)やArntz et al.2022)では、情報提供実験を行い、無作為に自動化技術による失業リスクの情報を受けた人と受けなかった人の間で、政策選好が異なるかを検証している。

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