川本茉莉
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

概要

 NIRA総研では、人々に受け入れられる政策ビジョンを構築するための研究プロジェクトを立ち上げ、経済・社会に関する4つのテーマに関する調査を実施した。本稿では、そのうちの1つである「政府規模と国民負担」に関して報告する。今回の調査では、行政サービスについて簡素化すべきか手厚くすべきか、また国民負担について減らすべきか増えるのはやむを得ないかを、それぞれ質問した。同時に、社会保障費など政府支出や税金など国民負担に関する項目別に、減らすべきか増やすべきかについてもたずねた。
 調査の結果、国民負担全体に対する考え方と、各項目への考え方がおおむね整合的であったのに対し、行政サービス全体の規模に対する考え方は、必ずしも具体的な項目ごとへの考えと結び付いていないことが分かった。また、この議題に関する専門家の論考を読み、その中で支持する論点を調査したところ、所得制限のないユニバーサルサービスを支持するのは所得制限などで給付対象外となりがちな高所得層が多く、逆に経済的弱者は給付対象者を絞るターゲティングでのサービス提供を支持していることが判明した。

INDEX

 図表

 図表1 専門家の論考

 図表2 調査の概要

 図表3 回答者の属性

 図表4 大切だと思う政策課題

 図表5 行政サービスに対する考えの推移

 図表6 国民負担に対する考えの推移

 図表7 年齢と世帯年収別の行政サービスに対する考え

 図表8 年齢と世帯年収別の国民負担に対する考え

 図表9 政府支出と国民負担の各項目への考え

 図表10 社会保障費に対する考え

 図表11 教育費に対する考え

 図表12 行政の人件費に対する考え

 図表13 消費税に対する考え

 図表14 法人税に対する考え

 図表15 それぞれの論点を参考になったとした人の割合

 図表16 年齢と世帯年収別の2つの論点を選んだ人の論点

1.はじめに

 NIRA総合研究開発機構(以下、NIRA総研)では、人々に受け入れられる政策ビジョンを構築するための研究プロジェクトを立ち上げた。本プロジェクトの第1段階として、社会・経済に関する以下の4つのテーマに関して、一般の人々の意見を集約するための調査を実施した。

・後期高齢者の医療費窓口負担引き上げ
・財政赤字と国債発行
・政府規模と国民負担
・自由と平等

 このうち、後期高齢者の医療費窓口負担引き上げに関する調査については、川本(2022)にて報告した。ほか3テーマについても、同一のアンケート調査において実施した。本稿では、残る3テーマのうち、政府規模と国民負担に関する部分について報告する。

2.調査の概要

 本プロジェクトの調査は株式会社日経リサーチに委託し、同社の持つアンケートモニターを対象とした。

 政策上の争点に対し、人々が合意につながるためのプロセスとして、熟議と熟慮の2つの方法が、どのように有効に機能するかを検証することが、本調査の主な目的となる。その検証のため、調査は以下の3ステップに分けて実施した。

 Step1は、属性などの基本的情報や、熟議や熟慮のプロセスを踏む前の状況を得るためのアンケート調査である。日経リサーチのアンケートモニターのうち、国内在住の1889歳の男女を対象とし、社会・経済的属性や政治・政策・信頼への考えを選択回答式で聞いたほか、前述の3つのテーマに関連した事項について、選択回答式と自由記述回答を交えて質問した。政府規模と国民負担に関しては、行政サービスと国民負担の水準についてそれぞれどのように考えるのかを、理由とともに聞いた。回収数は2,104名であり、性別と年齢(10歳刻み)は人口構成比(201910月推計)で割り付けた。ただし、同モニターの性質上、1820歳代および、80歳代女性の回収数が目標数を下回ったため、それぞれ30歳代および80歳代男性の回収を増やすことによって補填した。

 Step2-Aでは、Step1の回答者のうち10名がオンライン座談会を行い、熟議によって考えがどのように変化するのかを調査した。座談会参加者は、Step1の自由記述回答の内容をもとに、NIRA総研で選定した。参加者の選定に当たっては、座談会のテーマである行政サービスと国民負担の水準に対する考え方が、Step1での分布に近くなるように考慮するとともに、年齢や性別に偏りのないよう調整した。参加者には事前に、政府規模と国民負担に関して、立場の異なる2名の専門家の論考(図表1)を読んでもらった。座談会では、それを踏まえて、政府規模と国民負担に対する考えを1人ずつ述べてもらった後、他の人の発言を受けてどう考えたかを、挙手して発言してもらった。座談会の内容については、本稿のコラムを参照されたい。

 Step2-Bでは、専門家の論考を1人で読み、考える熟慮により、人々の態度がどう変化するかを検証した。Step1の回答者全員を対象に、Step2-Aの参加者に読んでもらったものと同じ専門家の論考(政府規模と国民負担に関しては図表1)を提示した後、専門家の論考の中で参考となった論点や、テーマに関連する事項についての考え、自身の意見の変化について、選択回答式と自由記述式を交えて質問した。有効回収数は1,402名で、Step1の回答者の3分の2であった。各調査の概要は図表2にまとめた。

図表1 専門家の論考
a 意見A―神野直彦氏の論考

b 意見B―八代尚宏氏の論考

3.回答者の属性

 Step1およびStep2-Bの回答者の属性を図表3に示す。

4.大切だと思う政策課題

 Step1の調査において、行政が取り組む主な政策課題10テーマについて、大切だと思う順に5つ選択してもらった。その結果を図表4に示す。1番大切だと思う政策課題では、4割近くの人が「年金・医療」を選び、次いで「子育て・教育」が多く選ばれており、社会保障への関心が高いことが分かった。1番目から5番目までの累計でも、「年金・医療」の割合が1番多いが、10個のテーマに偏りはあまり見られなかった。

5.政府規模と国民負担に対する考え

5-1.2回のアンケート調査での変化と属性別の分布

 Step1Step2-Bにおいて、本調査のテーマである政府規模と国民負担について、それぞれ以下のABのどちらに考えが近いかを質問した。

 <政府規模>

 A: 今よりも国や自治体の支出を減らし、行政サービスを簡素化すべきだ

 B: 今よりも国や自治体の支出を増やし、行政サービスを手厚くすべきだ


 <国民負担>

 A: 今よりも税金や保険料などの国民負担を減らすべきだ

 B: 今よりも税金や保険料などの国民負担が増えるのはやむを得ない

 Step1Step2-Bともに、行政サービスは「手厚くすべき」よりも「簡素化すべき」が多い一方、国民負担は「増えるのはやむを得ない」よりも「減らすべき」と考える人が多い結果となった(図表56)。また、熟慮の前後、すなわちStep1からStep2-Bへの変化を見ると、多数派である行政サービス「簡素化すべき」と国民負担「減らすべき」が減った。ただし、行政サービス「手厚くすべき」と国民負担「増やすべき」はほぼ横ばいであり、代わりに「どちらともいえない」が増加した。「どちらともいえない」という回答は、しばしば何も考えていない人という印象を与えがちだが、むしろ、自分とは異なる立場の論考を読み、熟慮することで、立場を決められなくなった人もいるということが分かる。

 行政サービスと国民負担に対する考えを、年齢と世帯年収別に見たものが図表78である。行政サービスについては、年収が高くなるほど行政サービスの簡素化を望む人が多くなっている。一方、国民負担については年収による差よりも年齢による違いの方が明確に表れており、年齢が高くなるほど国民負担増を受け入れる人が多い。

5-2.政府支出と国民負担の各項目への考え

 Step2-Bにおいては政府支出や国民負担に関する10の項目について、それぞれ減らすべきか増やすべきかを聞いた。図表9にその結果を示す。

 政府支出については、社会保障費や教育費など、図表4aで多くの人から重要視されている政策課題に関連する費用は増やすべきという回答が目立つ。一方で、行政の人件費は半数以上の人が減らすべきと考えている。

 これら3つの費用項目に対する回答を、行政サービス全体に対する意見別に見てみる(図表101112)。行政サービスを簡素化すべきだと考えている人の多くも社会保障費と教育費については増やすべきだと答えており、逆に行政サービスを手厚くすべきとしている人でも、人件費は減らすべきという回答が約半数を占めている。このことから、行政サービスを簡素化するか/手厚くするかと質問するときと、社会保障費や教育費、行政の人件費などの具体的な項目を挙げて減らすか/増やすかを聞いたときとで、イメージする内容が異なっていることがうかがえる。行政サービスを簡素化すべきと考えていても自分や周りの人が享受できる社会保障や教育は減らしてほしくないし、手厚い行政サービスを望んでいても公務員は増やさなくても良いというのが人々の声なのである。

 国民負担について、消費税に対する回答を、国民負担全体に対する考え別に見てみると、負担全体を減らすべきという人は、消費税も減らすべきという回答が、増やすべきという回答を大きく上回るが、全体的な負担増をやむなしという人の間では、消費税を増やすべきと考える人が、減らすべきよりも多くなっている(図表13)。同様の傾向が、所得税、保険料についても見られた。これらの項目は、多くの人が直接支払っているものであるため、国民負担全体に対する考えとリンクしやすいといえるだろう。

 一方で、法人税については、国民負担全体を減らすべき、増えるのはやむを得ないと考える人ともに、法人税は増やすべきという回答が過半数となった(図表14)。法人税は個人が直接支払うものではないため、自分以外の部分からは税金をもっと徴収してほしいという考え方になったものと思われる。

6.ユニバーサルサービスかターゲティングか

6-1.専門家の論考で参考になった論点

 Step2-Bでは、回答者に読んでもらった2名の専門家の論考を8の論点に分解し、その中から参考になった論点を全て選んでもらった(注1)。それぞれの論点を参考になったとした人の割合を図表15に示す。

 最も多くの人が選んだのが、「必要とする人に、支援が直接届くように、効率化すれば、高齢化社会の下でも政府の規模を小さく抑えることは十分に可能だ。」(以下、「必要な人に支援が届く」)という論点である。これは、サービスの対象をターゲティングすることで、支出規模を抑えられることを主張している。

 正反対の立場が、「北欧のように所得制限を付けずに全員にサービスを提供し、『社会の共同事業をやるためお互いに負担し合おう」と訴えていかねばならない。」(以下、「全員にサービス提供」)という、ユニバーサルサービス提供の主張であるが、この論点を選んだ人は最も少なかった。サービスの簡素化・負担減を望む人が、手厚いサービス・負担増を受け入れる人よりも多いという図表56の結果とも整合的である。

6-2.ユニバーサルとターゲティングを望むのはどのような人か

 では、この2つの論点を選んだ人々の属性には、どのような違いがあるのだろうか。年齢・世帯年収別に選んだ論点を比較してみる(図表16)。なお、2つの論点を両方とも選んだ人は、どちらをより支持しているか不明なため、分析から除いている。どの年齢・年収層においても、「必要な人に支援が届く」を選ぶ人の方が、「全員にサービス提供」よりも多い。

 ただし、その割合は年齢・年収層によって異なっている。「必要な人に支援が届く」は高齢者に多く選ばれており、年齢が低くなるほど選択率は低くなっている。また、年収700万円未満の高齢者では、4割近くの人が「必要な人に支援が届く」を選んでおり、「全員にサービス提供」を選んだ人との差も大きく開いている。一方、年収700万円以上の現役世代では、「全員にサービス提供」を選ぶ人の割合が比較的高くなっている。特に、1830歳代の高所得者では、「必要な人に支援が届く」を選んだ人の割合とほぼ差がない。高齢者や所得が低い人など、受給対象者となりやすい人はサービスのターゲティングを望み、逆に、所得制限が設けられた場合に受給対象外となりやすい高所得者層はユニバーサルなサービス提供を望むという結果になった。

7.おわりに

 前回調査(川本(2022))のテーマであった後期高齢者の医療費窓口負担引き上げは少なくとも高齢者にとって身近な政策であったのに対し、今回調査の政府規模は、より抽象度が高いテーマであった。このため回答者は具体的なイメージを持ちにくかったように思われる。行政のサービスの簡素化というときに、多くの回答者が念頭に置いたのは、国家予算の最も多い部分を占める社会保障関係費ではなく、行政の人件費のような無駄の削減や効率化であった。

 仮に政府規模に関する全体的イメージを持ち得たとしても、自分が享受できるサービスはできるだけ減らしてほしくないというのが正直な声だろう。ユニバーサルサービスを支持するのは所得制限を設けたときに給付対象外とされがちな高所得層が多く、逆に経済的弱者は限定された対象者に集中的に給付を行うターゲティングサービスを支持している。行政のサービスの簡素化を望む人は、必ずしも自分の負担増を甘受するとは限らない。

 人々に政策について考えてもらうためには、抽象的な課題設定を避け、より具体的に、日常生活に結び付けて考えられるような形で、真正面から政策的帰結を示すことが必要だろう。今回の調査では、熟慮を経ても負担増・給付減を支持する人は増えなかったが、負担減・給付増が減った(中立派が増えた)という意味では、人々は単純に自分の益のある方に流れるわけではないことが分かった。中立派が増えたことから、どちらか一方の立場で合意に至ることの難しさが明らかになったが、同時に、熟慮を経ることで、自分と異なる立場の意見にも一定の理解を示したことが分かる。さまざまな立場の人が合意に至るための道筋を見つけることは容易ではないが、そのヒントは得られたのではないか。

コラム:大きい、小さいよりも「効率的な政府」を

古田 大輔

NIRA総合研究開発機構上席研究員
(注2)

 大きな政府か、小さな政府か。グループインタビューで10人に対し、行政サービスと国民負担の大小の2軸で意見を聞いた。事前のアンケート調査では、やや小さな政府よりの意見が多かったが、インタビュー時には9人が小さな政府を支持し、大きな政府を支持したのは1人だけだった。

 ただ、ここで注意が必要だ。より深く聞いてみると、小さな政府を支持するといいつつ、大きな政府を志向するような意見を述べる人もいた。大きな政府と小さな政府という政治的な対立軸が見えにくい日本においては、その2つの言葉が何を示しているのかが、個々人によって異なるためだと思われる。

 参加者は男性6人女性4人、202人、302人、402人、501人、603人。以下、主な意見から見ていく。

1.政治の効率性への不満が小さな政府支持の背景に

 国民負担を増やして行政サービスを手厚くする大きな政府を否定する意見として、最も目立ったのは「政府は効率が悪い」というものだった。

 「今の政府のやり方というのはやっぱり効率が悪過ぎると思います。それで全体の生産性が下がっている」(60代男性)

 この男性は「行政サービスはもっと増やすべきだ」と大きな政府を志向する意見も言いつつ、小さな政府への支持を表明した。理由として挙げたのが、政府の効率性の低さだった。国民負担を重くして、財源を政府に預けたとしても、それに見合う行政サービスを提供できる能力が政府にはないのではないかという不信感を強く表明した。

 具体的に例示したのは、新型コロナウイルスに対する対応や年金申請時の自らの経験だった。PCR検査の結果をFAXで集計しているという報道や、年金手続きで行政側が持っているデータを自ら大量に手書きをしなければならない非効率性を非難した。

 マイナンバーカードの普及と活用の遅れ、遅々として進まないデジタル、縦割り行政や大組織の意思決定の複雑さなどへの言及が他の参加者からも相次ぎ、それらが小さな政府を支持する根拠となっていた。

2.削るものは「行政の無駄」「箱物」

 国民負担を減らすとともに、どういう行政サービスを縮小して小さな政府にしていくのか。やり玉に挙がったのは「行政の無駄」と「箱物」だ。

 民間から公共施設勤務に転じたという50代女性は実体験から「無駄遣いしてはいけないというところが民間に比べると少ない」と指摘。一方で、60代男性は「箱を作って終わり。ずっとそういうのが続いているので、重税感はあるけど何を達成したのか分からないというのが、国民の間の感情じゃないかと思います」と不満を述べた。

3.共存する適正な行政サービスへの期待

 「難病があり、シングルマザーの家庭に育ったマイノリティー」と自己紹介した40代男性は、事前のアンケートでは行政サービスは手厚くすべきで、国民負担が増えるのはどちらかといえばやむを得ないと回答していた。しかし、今回のインタビューでは、自身が受けてきた行政サービスに感謝し、評価する一方で、小さな政府を支持するという矛盾するような意見を述べた。その背景にあるのも「効率」だった。

 「サービス自体は拡大しないといけないと思う。絶対に高齢化社会になっていくので。福祉サービスは拡大するんだけれども、小さな政府の中にあって拡大していきつつ、効率化というのは必須だろうなというふうに思います」

 60代女性も「小さな政府より」と述べつつ、「あんまり小さくすると、行政サービスに支障が出てしまうんではないか」という懸念を口にした。

4.大きな政府か小さな政府かに落とし込めない 

 効率化してほしいし、箱物行政などの無駄は省いてほしい。それによって国民負担を縮小しつつ、生活に密着する部分ではむしろサービスの拡充を求める。これが参加者の多くが共有した意見といえるだろう。

 国民負担と行政サービスの2軸の問いに戻ると、無駄を省くという前提の下、負担は減らし、サービスは拡充するということになり、大きな政府と小さな政府という単純な構図には落とし込めなくなる。20代女性の意見にそれが端的に表れていた。

 この女性は小さな政府を支持し、「今までの日本はどちらかというと小さな政府」という認識を示した上でこう述べた。

 「今後、子育てとか親の介護とかいろいろなことがある。高齢になったときを考えると、アメリカのように極端に小さな政府になっていったりしてしまったときに、最低でも今の水準を保つことができるのかっていわれると、小さな政府に突き進むのがいいともいえないのかなと思います。大きな政府、小さな政府の中間もあると思うので、大きい小さいに縛られずに中くらい、テーマによって融通利かせていいとこ取りしてほしい」

5.大きな政府への唯一の支持は自らの体験から

 10人の中で唯一はっきりと大きな政府を支持したのは30代女性だった。「ぜんそくを持っている」と自己紹介したこの女性は、高価な治療薬や患者への支援不足について実体験をもとに説明した。その上で、大きな政府で医療予算を手厚くすれば、「(患者の)症状が良くなって働き手も増えて、結局、所得税も返ってくる」と主張した。

 また、新型コロナ対策に関して、国立病院が多い欧州の国の例を挙げ、大きな政府だからこそ、国立病院を運営して効率的な対策が可能になるという内容を具体的に述べた。

6.大きなビジョンから生まれる議論への期待

 大きな政府と小さな政府に関する個々のイメージが異なる上に、大きな政府への支持を表明したのは1人だったため、グループインタビュー中に明確な議論の軸は生まれなかった。その中でインタビュー終盤に60代女性が求めたのは「政府に大きなビジョンを示してほしい」ということだった。

 「この国をどういうところに導いて、どういうことをしたいから、こういう政策をします。この分こういうふうに税金がかかるけれども、皆さん痛み分けでお願いします。そういう情報が発信されていない」

 そのような情報に対し、国民側も「大きな政府がいいか小さな政府がいいか、セーフティーネットはこうしてほしい、福祉はこうしてほしいとか、そういう面に関しても全てこちらからもっと働き掛けるということも必要だと思いました」と述べた。

7.考察:熟議は連続的に開催するべきではないだろうか

 「大きな政府か小さな政府か」という質問は、財政規律の議論と同様、個々人の生活に落とし込みづらい大きな議論だ。医療費の窓口負担のような具体的なテーマ設定とは異なる。参加者にはそもそも「大きな政府や小さな政府とは何か」という定義の部分でイメージの相違があったようだ。だからこそ、小さな政府の支持を表明しつつ、意見の中身はむしろ大きな政府への支持に近い人たちもいた。有識者コメントだけでなく、前提知識を共有した上での熟議であれば、意見も異なってきたのではないか。

 前提知識の共有だけでなく、具体的なテーマからより抽象的な大きな議論まで、連続的に実施する試みも有効かもしれない。例えば、医療費の窓口負担という個別具体的なトピックから始め、財政規律について議論し、大きな政府・小さな政府のテーマにつなげていく。

 今回のグループインタビューでは、「個人の自由を重視するから小さな政府を志向する」というような政治哲学的な主張は聞かれなかった。アメリカの2大政党制のような明確な対立軸が存在しない日本において政策について幅広く、個々人の生き方や思想にまでつながっていく議論をしていくためには、息の長い取り組みが必要ではないかと感じる。

参考文献

 
川本茉莉(2022)「後期高齢者医療をめぐる熟慮・熟議型調査」NIRAワーキングペーパーNo.2

 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
 (出典)川本茉莉(2022)「政府規模と国民負担をめぐる熟慮・熟議型調査」NIRAワーキングペーパーNo.3

脚注
1 本設問では、「どれも参考にならなかった」という選択肢も設けている。
2 本コラムは、NIRA総研上席研究員であり、座談会のモデレーターを務めた古田大輔(株式会社メディアコラボ代表取締役)が執筆した。

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