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わたしの構想

未知の感染症に挑む自治体トップの覚悟

わたしの構想No.51 2020/12発行
識者:三日月大造 滋賀県知事、仁坂吉伸 和歌山県知事、稲村和美 兵庫県尼崎市長、石山志保 福井県大野市長、平井伸治 鳥取県知事
*原稿掲載順
企画:宇野重規 NIRA総研 理事/東京大学社会科学研究所 教授

未知の感染症に挑む自治体トップの覚悟
 2020 年、新型コロナウイルスの感染拡大で、自治体は未知の感染症への対応を迫られてきた。
 県知事と市長の5 名は、どのような覚悟で第一波に挑んだのか。
 自治体における対応を振り返る。


 わたしの構想No.51「未知の感染症に挑む自治体トップの覚悟」PDF    ■ 英文版PDF

 企画に当たって
宇野重規 NIRA総研 理事/東京大学社会科学研究所 教授
「自治体トップの模索と工夫が生む変化―中央と地方の関係をバージョンアップする」
Keywords……………新型コロナウイルス感染症対策の国の役割・地方自治体の役割、自治体の抱えた困難と対策、国と自治体・自治体間のあるべき関係、国によるサポート、地域ごとの模索や工夫を最大限化、得られた知見を相互に共有、日本の中央-地方関係・自治体間の関係をバージョンアップ



 識者に問う
「未知の感染症に挑む自治体トップの覚悟」

新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

1 三日月大造 滋賀県知事
応答性のある対話で、より良い自治を追求する
Keywords……感染症への恐怖・不安、利他のこころ、県民との応答性のある対話、自治体間の機能分担と連携、地方から国への提案型仕組み作り

2 仁坂吉伸 和歌山県知事
感染症法の基本に忠実に、論理的に決断
Keywords……国内初の院内感染、早期発見と早期隔離、関係者全員のPCR 検査、感染者の行動履歴の徹底調査、保健所の統合ネットワーク化、国と地方の役割分担

3 稲村和美 兵庫県尼崎市長
近隣自治体や住民といかに情報共有していくか
Keywords……大阪の経済圏・生活圏、市民への情報提供と感染者のプライバシー、首長同士の迅速な情報共有、保健所の横の連携、HER-SYS の活用

4 石山志保 福井県大野市長
朝令暮改は必ずあると理解を求め、事に当たった
Keywords……都心から離れた小さな自治体、実態が見えず情報がない、手探りの対応、対策を打つ腹を決める、国や県の対策や予算を生かす

5 平井伸治 鳥取県知事
いち早く合理的な戦略を実行し、国と連携する
Keywords……高齢者が多い、限られた医療資源、過去の新型インフルエンザの教訓、切迫感をもった対応、医師会の協力、現場主導でのアプローチ、地方と国との信頼関係

インタビュー実施:2020 年10 月
インタビュー:渡邊翔太(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

三日月大造氏
ピエール・ロザンヴァロン〔2020〕『良き統治―大統領制化する民主主義』古城毅ほか訳、宇野重規解説、みすず書房

仁坂吉伸氏
冨山和彦〔2020〕『コロナショック・サバイバル―日本経済復興計画』文藝春秋

稲村和美氏
アーネ・リンドクウィスト、ヤン・ウェステル〔1997〕『あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書』川上邦夫訳、新評論

石山志保氏
畠中恵〔2019〕『わが殿』文藝春秋

平井伸治氏
神野直彦〔2010〕『分かち合いの経済学』岩波新書

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 企画に当たって

宇野重規 NIRA総研 理事/東京大学社会科学研究所 教授
「自治体トップの模索と工夫が生む変化―中央と地方の関係をバージョンアップする」
 
 新型コロナウイルスの感染拡大に対するさまざまな試みは、あるいは、日本における中央-地方関係、さらに自治体間の関係を大きく変えるきっかけになるかもしれない。
 言うまでもなく、未知のウイルスの正体を突き止め、その感染拡大を防止するためには、関係する専門家の知識をすべて動員し、国を挙げて対策を講じるべきであろう。また、対策の実施に当たっては、法律の整備や財政上の施策が必要になるが、これも第一義的には国の役割である。病気の感染者はもちろん、経済的にダメージを受けた人々や企業に必要なサポートを提供するのも、国が主導して行うべき事柄に違いない。
 その一方で、広い国土の日本において常に一律の対策が必要なわけではない。地域ごとの状況に合わせて、具体的な対策を実現するのは地方自治体の役割である。場合によって、国とは異なる判断をせざるをえない場合もあるだろう。さらに住民の多様な声に応え、必要な対策を講じることも、住民により身近な自治体の役割である。
 これらの課題は、新型コロナウイルスの感染拡大以前から明らかであったが、具体的な課題の出現とそれへの対応を通じて、より切迫したものとして感じられたはずである。この機会に、自治体ごとの独自の対応策をめぐる情報を集約し、得られた知見を相互に共有することは極めて有意義であろう。この企画では五つの自治体の首長にインタビューを行い、感染症への対応の中で、自治体の抱えた困難と、国と自治体、あるいは自治体間のあるべき関係について話をうかがった。

住民の声に応え、時には国とは異なる判断を迫られた
 滋賀県の三日月大造知事が何より心掛けたのが、「応答性のある対話」であったというのは象徴的である。日本各地で、未知のウイルスに対する恐怖にあおられ、患者の特定や隔離を求める声が高まった事例が見られた。とはいえ、それがエスカレートすれば人権侵害はもちろん、「社会が壊れてしまう」危険性さえある。殺到した「知事への手紙」を一つひとつ分析し、政策に反映させたことは、地方自治体ならではの貢献であったろう。外国人住民を含め「すべての人の自由と平等、そして多様性と持続可能性」を大切にしたという指摘が重要である。
 県内病院で国内最初の院内感染が確認された際、PCR検査の対象を限定する国のスタンスに倣わず、むしろ独自のモデルを示した和歌山県の事例も重要である。仁坂吉伸知事によれば、感染を疑われる関係者全員の検査に踏み切り、入院隔離を徹底し、さらに感染者の行動履歴を徹底的に追跡したことが、いち早い感染拡大の抑止につながったという。その際に「統合ネットワーク化」された県内の保健所体制が有効であったことも、今後のパンデミック対策に当たり有益な情報であろう。「論理的に物事を判断し……責任を持って」対応するという言葉が重い。

地域の模索や工夫、そして知見
 市町村の場合はどうだろうか。兵庫県の東端にあり、経済圏・生活圏としては大阪との結びつきが強い尼崎市の場合、阪神エリアの近隣自治体の首長との情報交換が重要だった、と稲村和美市長は指摘する。一部の自治体だけで行っても効果が薄い対策は広域でそろえる一方、独自性をもって取り組むべき対策は各自治体で判断したというメリハリが注目される。生活の場所と勤務先が県を越える場合、管轄する保健所間で情報共有が難しく、全国規模での統合的なデータベース構築が求められるという指摘も示唆的である。
 面積は福井県で最も広いが、人口は三万二〇〇〇人と少ない大野市の事例も貴重である。福井駅からローカル線で一時間ほどかかる大野市において、新型コロナウイルスの「実態が見えない」状況が、独自の難しさをもたらしたと石山志保市長は語る。同市の場合むしろ、小中高校の全国一斉休校の要請が、意識が切り替わる契機となったという。「国や県の対策や予算を最大限生かした」という指摘にあるように、国や広域自治体の支援を有効に活用しつつ地域独自の対応を模索することが、大野市のような自治体にとっては重要であった。
 「四七の自治体があれば、四七の戦略がある」と指摘するのは、鳥取県の平井伸治知事である。基礎自治体を入れれば、数はさらに増えるだろう。鳥取県の場合、人口が最も少なく、高齢者が多い。医療資源が十分でない中、感染が拡大すれば壊滅的な事態になる。このような危機感から鳥取県は、国に先駆けて新型コロナウイルス対策に取り組んだ。県の病床数が少ないことから地域の医師会に協力を求め、逆に自治体の備蓄するマスクを医師会に提供した。国の法令が現場主導のアプローチの制約となったが、やがて地方と国の間に信頼関係が生まれたという指摘が興味深い。
 国によるサポートを確保した上で、いかに地域ごとの模索や工夫を最大限化できるか。そしてその成果となる知見を共有し、全国的なデータベースを構築するか。新型コロナウイルス対策を契機に、日本の中央-地方関係、さらに自治体間の関係をバージョンアップさせたい。

宇野重規(うの・しげき)
NIRA総合研究開発機構理事。東京大学社会科学研究所教授。東京大学博士(法学)。専門は政治思想史、政治哲学。

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 識者に問う
新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

三日月大造 滋賀県知事
「応答性のある対話で、より良い自治を追求する」


 命の危機にもつながる感染症への恐怖・不安は、強弱の波はあるが、今も続いている。
 滋賀県で初めてクラスターが発生するなど感染者数が急増した四月には、不安を抱えた県民から問い合わせや要望が殺到した。自身や周囲の感染を恐れるあまり、患者の特定や隔離を求める声もあった。他者への思いやりを失い、社会が熱くきつくなり、このままでは社会が壊れてしまうと感じ、私は大変怖かった。そして、そのことを正直に県民に話した。
 この危機の中で、より良い自治はどうあるべきなのか。私が何よりも心掛けたのは、「応答性のある対話」だ。県民の気持ちや疑問、要望をくみ取り、分析して、それに応えることを第一に考えた。「知事への手紙」に届いた意見一つひとつに目を通し、県議会議員と定期的に意見交換を行った。このようにして把握した県民の声を対策に生かしてきた。また、子どもの安全と学びの機会とのバランスをどう取るべきか、保護者をはじめ、多くの人が悩んでいた。そこで、当事者である子どもたちにアンケートを行い、寄せられた約三万二〇〇〇件の回答を全て分析して、子どものための新しい行動様式「すまいる・あくしょん」を策定した。
 コロナ禍では、自治体間の機能分担と連携が不可欠だ。身近な住民サービスは市町村が、市町村で対応できない公衆衛生などは県が、といった具合に自治体間で連携・協力の体制を構築できた。対策の最前線に立つ地方から、全国知事会等を通して国にさまざまなことを提案し、意見交換を行ったことが、国の制度改正や補正予算につながった。地域の実情を知る地方から提案を行い、地方と国が一体となり施策を構築していくという仕組みは、これからの日本社会のシステムを変革していく上で有効な方法の一つになるのではないか。
 私は、このコロナ禍を一過性のものと捉えずに、未来への教訓にするとともに、社会を変革する転機にしたいと考えている。今回の経験を通じて、「大切にしたいこころ」、「大切にしたい視点」、「大切にしたい姿勢」を県民に提案している。大切にしたいこころとは「自省を伴う利他のこころ」であり、大切にしたい視点は、すべての人の自由と平等、多様性と持続可能性を指す。そして、大切にしたい姿勢は、権利の保障、応答性を備えた対話、協働による変革である。これらを基礎において、より良い自治と真の民主主義のあり方を追求し、本当の意味での「健康しが」を目指し、挑戦している。

三日月大造(みかづき・たいぞう)
滋賀県知事。一橋大学卒業後、西日本旅客鉄道株式会社入社。衆議院議員(四期)、国土交通大臣政務官、国土交通副大臣を経て、二〇一四年より現職。現在二期目。松下政経塾出身。県民との対話・共感・協働に重きを置き、県民の活動現場を訪問して直接対話する「こんにちは!三日月です」の開催は七五回にのぼる。政策形成では、デザイン思考を取り入れることにも挑戦しており、ウィズコロナ・ポストコロナ時代における今後の施策を検討する際にも、デザイン思考の核となるペルソナ分析の手法が用いられた。

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新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

仁坂吉伸 和歌山県知事
「感染症法の基本に忠実に、論理的に決断」


 日本の感染症法と保健所の体制は、新型コロナウイルス対策において非常に有効な手段だ。今年二月中旬、和歌山県の済生会有田病院で、国内初の院内感染が確認された際も、対応にあたって何より重視したのは、感染症法の基本である「早期発見」と「早期隔離」だ。また、感染者の行動履歴を徹底的に調査し、感染者と関係の深い人から検査を優先するトリアージを行う一方、外来患者の受け入れを中止した。合理的に考え、基本に忠実に実行することが大事だからだ。ただし、済生会有田病院の場合はエクストラを行った。当時はどんな病気かも分からず、県民も怖がっているので、PCR検査の対象を限定するという国のスタンスに倣わず、関係者四七四人全員の検査実施に踏み切り、三週間で病院の完全クリーン化に成功、三月四日には全ての通常業務を再開した。
 感染者の行動履歴の徹底調査は、今も重要だ。これは、日本の保健所体制が存在したからこそ十分に行うことができた。行動履歴の調査で特に必要なのは、県内の保健所の「統合ネットワーク化」だ。次第に分かったことだが、保健所がばらばらにやっていては、絶対にうまくいかない。中核市である和歌山市の保健所は市長管轄だったが、ご理解をいただいて県が保健所を統合的に管理することで、早期発見と隔離をスムーズに実行できた。
 この一連の対応は、「和歌山モデル」と称賛されたが、感染症法で県に与えられている権限を行使したまでだ。県は、新型コロナ対策特別措置法の対策でも主体として実行する立場にある。法律の権限の中で、われわれは、さまざまな施策を試し、改善し、他県のいい事例は取り入れるようにしてきた。時には国の指示と見解が異なったが、論理的に物事を判断した上で、県民に対して説明がつくのであれば、知事権限の範囲内で責任を持ってやればいいと思う。例えば、「感染が疑われる症状が出ても四日間は病院に行くな」という国の指示に和歌山県は従わなかった。今では国も、この指示を取りやめている。国も、最終的には、正しい方向へと対応を修正していく覚悟はできている。国と地方は対立するのではなく、分野ごとに、うまく対応できる役割を担当すればよい。それぞれが独立して責任を持つことが大事だ。
 日本人は欧米がいつも範となると考えがちだが、欧米には感染症法と保健所の機能(感染症法に基づく早期発見、早期隔離、行動履歴の徹底的な調査)がない。日本はこの資産を最大限に生かすべきだ。

仁坂吉伸(にさか・よしのぶ)
和歌山県知事。東京大学卒業後、通商産業省(当時)入省。経済産業省製造産業局次長、ブルネイ国大使、社団法人日本貿易会専務理事等を経て、二〇〇六年より現職。現在四期目。県民とのコミュニケーションを大切にしており、就任以来、HPやメールマガジンの「知事メッセージ」で数多くの情報提供や政策説明を行ってきた。全国の自治体に先駆けて「ワーケーション」の普及を推進。コロナ禍で働き方が見直される中で、ワーケーションの活用を踏まえた企業誘致を目指す。二〇一九年に、ワーケーション自治体協議会(WAJ)を設立し、会長に就任。

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新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

稲村和美 兵庫県尼崎市長
「近隣自治体や住民といかに情報共有していくか」


 尼崎市は人口四五万人の中核市で、市管轄の保健所があり、PCR検査を実施できる研究施設もある。兵庫県の東端で大阪市に隣接しており、経済圏・生活圏としては大阪と一体性の強い街だ。市は、住民との距離がもっとも近く、行政の最前線なので、市民に対してどのように情報を共有していくかが課題だった。まず直面したのは、感染者情報でプライバシーをどこまで守るべきかという問題だ。極力詳しいことを知りたいという住民のニーズはあるが、情報を出し過ぎると人物が特定できてしまう。尼崎市では、他都市の経験で、情報を出し過ぎた場合の弊害を把握していたため、保健所と相談しながら比較的抑制した情報公開を心掛けた。例えば、感染者の家族を「同居人」と公表し、続柄までは知らせないようにしている。
 現場では、阪神エリアの首長とSNSで頻繁にやり取りし、スピード感を持って情報共有、検討を行ってきた。複数の首長が同時にやり取りする中で、自治体間で異なる部分が見えたのは有益だった。お互いの考えや取り組みの方向性を理解した上で、例えばパチンコ店の休業要請など、一部の自治体だけで行っても効果が薄いような対策は広域でそろえるが、独自性をもって取り組むべき対策は各自治体で判断を進めてきた。
 他方で、「横」の情報共有が難しかったのは、保健所であった。保健所は分権的で現地主義の組織であり、例えば、尼崎市民で大阪に勤務する人は、家族は尼崎市の保健所、本人の勤務先は大阪内の保健所が担当している。両方の情報を合わせないと全体像が見えないが、それは時に膨大な業務量の中で困難をきわめた。今後は、新型コロナ対応の情報基盤であるHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)の活用を含め、平素から、全国規模で統合的なデータベースを構築し、また、データの取得とプライバシーの保護を両立したマニュアルを策定しておくことが、次なる流行や新しい感染症への備えとなるだろう。
 今回の新型コロナに限らず、今後は、首長同士をはじめ、自治体や保健所による、都道府県を越えた横の連携が一層重要となる。あらゆる事態に対応可能な広域行政の仕組みをあらかじめ作るのは非常に難しい。想定外のことに柔軟に対応していく力を、いかに身に付けていくかが大事である。

稲村和美(いなむら・かずみ)
尼崎市長。神戸大学卒業後、地元の証券会社に入社。兵庫県議会議員を経て、二〇一〇年より現職。現在三期目。尼崎市では、厳しい財政状況が続く中で、二〇一三年に策定した行財政改革計画『あまがさき「未来へつなぐ」プロジェクト』により、持続可能な行財政基盤の確立を着実に進めてきた。コロナ禍においては、早くからデータ分析班を新設し、分析した感染状況をグラフなども用いて分かりやすい形で、HPで公表している。新型コロナ対策では、状況に応じて臨機応変に、保健所やPCR検査、市民生活のサポートセンター等の態勢を強化してきた。

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新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

石山志保 福井県大野市長
「朝令暮改は必ずあると理解を求め、事に当たった」


 大野市は、福井県で一番面積が広く、人口は三万二〇〇〇人の小さな自治体だ。福井駅からローカル線で一時間ほどかかる所に位置する。新型コロナウイルスに対しては、従来の災害や感染症対策とはまったく違う対応が求められた。通常の災害対策では、どう救助し復元・復旧していくかが明確だが、今回の新型コロナは新しいウイルスで、感染症の実態が見えない。国や県の発表、テレビや新聞の報道から「何が正確な情報なのか」を確認しながら、市として対応を一つずつ積み重ねていくしか方法はなかった。
 大野市は東京から離れていることもあり、当初は、行政も市民も感染拡大を遠い世界の話のように感じていた。しかし、二月末に国が出した小中高校の全国一斉休校の要請が、意識が切り替わる契機になった。新型コロナという敵に対して一番情報を持っている国が、「全国一律でやらねばならない」と判断したことで、私も対策を打つ腹を決めた。市の職員には、「今は非常事態だから、いつもの仕事の発想でやっていると対応できない。災害時の対応だと思って、切り替えて物事に当たりましょう」と伝えた。
 三月中旬に福井県で初の感染者が発生し、四月には大野市内でも数人が感染して、この時期は日に日に緊張が高まった。「どこかの施設を閉めなければいけないかもしれない」、「大野市の職員も感染者や濃厚接触者になるかもしれない」という状況が現実味を増す中で、ほぼ毎日、対策本部会議を実施していた。現場から上がってくる報告や県の記者会見の情報などを踏まえ、週末ごとに自分なりに状況を整理して翌週に向けて対策を考え、月曜日の対策本部会議で共有した。対策を立てるに当たっては、大野市だけでは全ての財源を賄うのが難しく、国や県の対策や予算を最大限生かした。五月初頭に市の最初の補正予算、五月半ばには独自の対策を盛り込んだ予算を組み、その後、国の臨時交付金を利用し準備ができた。
 感染症の実態が分からず、何が正しい情報で取るべき対策なのか、手探りでの対応が迫られる中で、大野市民を守るためにきちんと動かなければならないという思いで、最善の策を考え続けてきた。対応が試行錯誤になることもやむを得ない。職員には「朝令暮改は必ずある」と理解を求め、大変頑張ってもらった。今回、蓄積してきた悩みや経験は、すべて今後に生かすことができると考えている。

石山志保(いしやま・しほ)
大野市長。東京大学卒業後、環境庁(当時)入庁。大野市役所入庁。二〇一八年より現職。現在一期目。「大野ですくすく子育て応援パッケージ」を取りまとめ、若い人たちが大野で住み、結婚し、子育てしたくなるような環境づくりに取り組むほか、二〇二一年四月に開駅予定の道の駅「越前おおの 荒島の郷」の整備により、市民の「稼ぐ力」の向上を目指している。コロナ禍を契機に教育や行政のデジタル化を推進。児童生徒一人一台のタブレット端末導入を早め、本年度末までに整備予定。行政のキャッシュレス化やデジタル環境の整備・運用なども進めている。

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新型コロナへの対応で、それぞれの自治体はどのような問題を抱え、どう乗り越えたのか。
今後、必要な備えは何か。

平井伸治 鳥取県知事
「いち早く合理的な戦略を実行し、国と連携する」


 鳥取県は、人口が最も少なく、高齢者が多い県である。医療資源が十分でないことから、いったん感染が広がったら壊滅的な状況になると脅威を感じ、早くから新型コロナウイルスをどう迎え撃つべきかを議論していた。日本で最初の陽性者が発見されたのは、一月一六日。その当日、住民への相談窓口を設置、五日後には連絡会議を開催した。われわれは、「検査による早期発見」、「院内感染の防止」、「感染拡大の徹底的な防止」を基本戦略にした。切羽詰まった状況の中で対応を急いだ結果、三月時点での人口あたりの「確保病床数」は、鳥取県が日本トップになっていた。
 限られた医療資源しかない県で、国よりも先にさまざまな対策を打つことができたのは、過去に経験した新型インフルエンザの感染のスピードを教訓に、切迫感をもって対応したからだ。新型インフルエンザの感染力は非常に強く、患者の増加ペースが一気に上昇した。
 この度の新型コロナウイルス感染症対策においては、当初、県の病院が有していた病床は、わずか一二床。これで戦えるわけはないと判断し、急遽、地域の医師会の協力を得ることにした。もともと、鳥取県では、コミュニティーの規模が小さいことから、医療関係者との間に顔の見えるネットワークが築かれていた。とはいえ、命を張って現場にいる医師や医療スタッフは、医療機関でのマスク不足が深刻化し、ものすごい不安感を抱えていた。そこで、自治体が備蓄していたマスク二二万枚を、全て医師会に提供するなど、できる限りの支援を行った。それに医師会が応えてくれ、短期間に、病床数を三〇〇床まで増やすことができた。全国で不足している「診療・検査医療機関」に、鳥取県では八割以上の医院等が協力しているのも、この信頼関係の賜物だ。
 四七の自治体があれば、四七の戦略がある。感染の拡大状況、確保している医療資源、住民の理解や協力の度合いなど、新型コロナ対策の条件は地域によって千差万別であり、それぞれの解がある。上から示す指針だけでは無理であり、現場主導でのアプローチが重視されるべきだ。当初、国の法令上の制約で現場が思うように動けないこともあったが、国の対応が徐々に柔軟になり、全体としては国と地方のコミュニケーションが有効に機能し、多くの地域で、それぞれの状況に適した対応がとられていた。今回、地方と国の間に生まれた信頼関係をさらに発展させていくことができれば、行政のあり方も大きく変わるだろう。

平井伸治(ひらい・しんじ)
鳥取県知事。東京大学卒業後、自治省(当時)入省。鳥取県総務部長、鳥取県副知事等を経て、二〇〇七年より現職。現在四期目。政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議・新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員。全国知事会の新型コロナウイルス緊急対策本部本部長代理兼副本部長を務め、提言の取りまとめや政府との折衝を担っている。県知事としては、都道府県で初のクラスター対策条例を制定したり、コロナ禍の観光業に対し、県独自のガイドラインを早い段階で作成したりするなど、先手先手の新型コロナ対策を実施し、県内の感染拡大を抑えこんでいる。

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©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、北島あゆみ、澁谷壮紀、山路達也

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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