白川浩道
クレディ・スイス証券経済調査部長/NIRA客員研究員(座長)
宇南山卓
神戸大学大学院経済学研究科准教授
塩野剛志
クレディ・スイス証券経済調査部エコノミスト
神野真敏
NIRA研究調査部主任研究員

概要

 今後、都市部に住む世帯数や全世帯に占めるシェアが高まる可能性が高い。本報告書は、この「都市化」に着目して、 消費市場規模の将来推計を行った。その結果、都市部における消費額が2025年頃までは増加基調を辿る可能性が高いことが明らかになった。
 日本の高度成長期に都市部に流入・定着した団塊の世代が、高齢化した後も都市部に居住し続ければ、 都市部の世帯数は2010年の2,033万世帯から2025年には5.2%の増加の2,138 万世帯となる。 総世帯に占める都市部に居住する世帯の割合も2010年の39.9%から2025年には42.3%と増加する。すなわち、 都市部に居住する世帯数・シェアがともに高まるという「都市化」の進展が想定される。
 この世帯数の都市化を前提に、都市部の消費規模の推計を行ったところ、2025年の都市部の消費規模は、2010年対比で2.9% 増加の113.9兆円となった。費目別にみると、住居関連、食料、保健医療、教養娯楽サービス等で増加することが予想される。また、 東京特別区に限れば、2025年以降も増加が続き、2030年には2010年対比でみて5.7%増加の26.6兆円となる。

INDEX

エグゼクティブサマリー

 都市部に居住する世帯数及びシェアは今後増加する。本報告書では、この「都市化」の
動きに注目し、都市部(注1)の家計消費が 2025 年頃までは増加基調を辿る可能性が高いことを示す。

 本報告書の主な結論は以下の通りである(第1章「『都市化』と家計消費の将来」参照)。

●日本の高度成長期に都市部に流入・定着した団塊の世代が、高齢化した後も都市部に居住し続ければ、都市部に住む世帯の数・シェアともに高まる可能性が高い。つまり、都市部の労働力として経済成長を支えた団塊の世代の「世代効果」が「都市化」として顕在化する。

●都市部と都市部以外(非都市部)に居住する家計は、異なる消費パターンや余暇の過ごし方をしている。さらに、世帯が高齢になるほど都市部の家計消費額が非都市部のそれを上回る傾向にある。これらは、日本全体でみた家計消費にも無視できない影響を与える。

●シミュレーション分析によれば、2025年まで都市部の世帯数は増加基調を辿り、その家計消費も2025年頃まで増加基調を辿る可能性が高い。また東京特別区では、全国の都市部以上に世帯数は増加し、家計消費においても世帯数と同様に、一回り高い増加基調を辿る可能性があることが示された。

●なお、本報告書のシミュレーション分析の結果は、都市部の将来消費額に対する下限推計値を提供するものとの解釈も可能である。都市部に居住する高齢者層による消費行動の積極化、都市部への居住に対する選好の高まりなどを背景に、都市部の消費市場の増加基調がより長期間維持される可能性も十分にある。

【各論】

第2章 「都市化」と消費トレンドに関する理論的整理

 本章では、団塊の世代が高齢化していくことで顕在化していく都市化が消費にどのような影響を与えるかを理論的に整理した。

 都市部と非都市部の間での消費行動の違いを明示的に考慮すると、時点ごとの都市部への人口集中度によって年齢別の消費のプロファイルが変化し得る(図表1)。これは、「世代による消費行動の違い」を「都市部と非都市部の消費パターンの違い」に帰着させることによって定量化しようとするものである。

 実際のデータ(注2)を使って都市部と非都市部における消費行動の違いを見てみると、①都市部の家計は外食、被服・履物、教養娯楽用耐久財及び同サービス、理美容サービスなどの「選択的な消費」への支出が多い傾向にあるほか、②都市部の高齢者ほどより多くの自由時間を有しており、買い物や交際・付き合いなどの積極的な社会活動にあてていることなどが明らかになった。

図表1 都市化と消費のイメージ図

第3章 都市部における世帯数の将来推計

 本章では、世帯数のトレンドに焦点を当てながら都市化の現状を考察した上で、「各世帯が今後も同じ人口規模の都市階級に住み続ける」という仮定の下で、都市部(全国主要都市)における世帯数の将来推計を行った。本推計の主な結果は以下の通りである(図表2)。

●都市部に居住する世帯数は、2025年には2,138万世帯となり、2010年比で5.2%増加する。これは、二人以上世帯が減少するものの、単身世帯がそれを上回って増加するためである。

●都市部の世帯数の総世帯に占めるシェアは、2010年の39.9%から2025年には42.3%へ上昇する。また、65歳以上世帯についてみると、2010年の36.0%から2025年には37.9%へ上昇する。

●なかでも、東京特別区の世帯数は、2010年の440.4万世帯から2030年には481.3万世帯へと、9.3%増加する。東京特別区で増加率が大きくなるのは、東京特別区の二人以上世帯の減少率が都市部の減少率よりも小さいためである。

図表2 全国主要都市に居住する世帯数に関する推計結果

(出所)総務省『国勢調査』(2011)、国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』(2008)より筆者推計。

第4章 消費の将来シミュレーション-高齢層が支える都市部消費-

 「全国消費実態調査」(2004)のオーダーメイド集計をもとに、都市部(全国主要都市)と全国の年齢別の消費動向の違いを反映させることによって、高齢化と都市化が2025年までの消費市場規模に与える影響についてシミュレーションを行った。主な結果は以下の通りである(図表3)。

●都市部の消費規模は、2025年頃まで増加基調を辿る。2025年の都市部の消費規模は、2010年(約111兆円)との対比で2.9%、約3.1兆円増加する。

●費目別にみると、都市部では住居関連(約1.5兆円増)、食料(約0.6兆円増)、保健医療(約0.3兆円増:自己負担ベース)、教養娯楽サービス(約0.3兆円増)、その他(約0.4兆円増)等で増加することが見込まれる。他方、自動車関係費(約0.3兆円減)等では減少することが見込まれる。

●これは、今後、都市部において世帯数が増加することに加えて、①都市部に居住する世帯の消費支出額は、単身世帯・二人以上世帯ともに非都市部のそれを上回る傾向にあること、②世帯が高齢になるほど都市部の消費額が非都市部のそれを大きく上回る傾向があること、などによる。

●特に、東京都区部では、2025年の消費は2010年比5.5%(約1.3兆円)増と、全国主要都市の同比2.9%を上回る。なかでも、帰属家賃含む住居は2010年比9.2%、家具・家事用品は同比8.6%、食料は同比5.1%、保健医療は同比15.1%、その他消費は同比8.1%増加するなど、全国主要都市よりも高い伸びとなった。

図表3 世帯数動態による消費変動の将来推計、全国と全国主要都市の比較(2010年=100)

(出所)総務省『全国消費実態調査』(2004)、第3章推計値および、統計センターのオーダーメイド集計をもとに筆者推計。

第5章 都市部における更なる需要増の可能性とその促進策

 前章までの議論では、現時点における年齢別の消費プロファイルを前提として、各世帯が今後も同じ人口規模の都市階級に住み続けるとの仮定の下で分析を行ってきたが、上記シミュレーションの想定以上(注3)に都市化や高齢者消費の活発化が進む可能性もある。このような可能性をもたらす要因として、特に以下のような傾向に着目すべきである。

(1)街なか居住意向の高まり

●年齢階級別のコーホート分析の結果から、街なかや都市中心部への住み替え希望が近年高まってきていることが伺われ、今後もこの傾向が続く可能性が高い。

●身体機能が低下した際に住みたいと思う住宅として、街なかに存在する高齢者用住宅や老人ホームを挙げる高齢者の割合が増えてきている。

(2)高齢者のアクティブ化

●近年、高齢者の多くが日常生活に問題ない健康状態を維持していること、月々の生活費が赤字にならないこと、社会参加活動に対して強い関心を持っていることなどから、最近は活動的な高齢者(「アクティニア」)が増加する傾向にある。

●過去15年の全国消費実態調査のデータを見ると、消費支出に占める教養娯楽、諸雑費(含む、理美用品、腕時計、宝飾品など)のシェアについても拡大トレンドが観察され、高齢者が以前よりも娯楽志向の強い消費に前向きになってきている可能性が示唆されている。

 これらの傾向を背景として、都市部に居住する世帯数や高齢者の消費支出が想定以上に増えれば、本報告書のシミュレーション結果以上に都市部の消費が活性化し、全国ベースでの消費規模の減少をある程度相殺する可能性がある。

第6章 おわりに

 第5章のような傾向をさらに促進するためにも、都市部において高齢者向けをはじめとする住宅インフラの更なる拡充を図るとともに、公共交通インフラや教養娯楽・文化芸術関連施設等の整備を図ることが必要である。また、こうした取組の結果として個人向けサービス業の都市部への集積が進めば、これらの業種の生産性の向上を通じて、日本の成長力の強化にも資すると考えられる。

目次

第1章 「都市化」と家計消費の将来 
白川浩道

第2章 「都市化」と消費トレンドに関する理論的整理
宇南山卓

第3章 全国主要都市における世帯数の将来推計
神野真敏

第4章 消費の将来シミュレーション-高齢層が支える全国主要都市の消費- 
塩野剛志

第5章 都市部における更なる需要増の可能性とその促進策 
塩野剛志・神野真敏

第6章 おわりに  
白川浩道

図表

図表2-1 都市化と消費のイメージ図
図表2-2 都市部と非都市部の世帯属性
図表2-3 都市部と非都市部の消費
図表2-4 都市階級別65歳以上の平均生活時間
図表3-1 都市階級別、世帯主年齢階級別の世帯数(2010年)
図表3-2 全国主要都市における年齢階級別の世帯数の推移
図表3-3 年齢階級別コーホートでみた全国主要都市に居住している世帯の割合
図表3-4 全国主要都市に居住する世帯数とその居住割合の推計値
図表3-5 全国主要都市に居住する世帯数の増加率および、単身世帯、二人以上世帯の寄与度
参考図表3-6 都市階級別、年齢階級別の世帯数の将来推計値
図表4-1 年齢階級別消費支出額(月額、円):全国主要都市対全国
図表4-2 単身世帯と二人以上世帯の1人当たり消費額の比較
図表4-3 世帯数の将来推計:全国と全国主要都市の比較
図表4-4 世帯数動態による消費変動の将来推計、全国と全国主要都市の比較(2010年=100)
参考図表4-5 全国消費実態調査ベースとGDPベースの変換比率
参考図表4-6 GDPベース市場規模のシミュレーション結果
参考図表4-7 消費市場規模(2010年=100)のシミュレーション結果
参考図表4-8 東京特別区に限ったGDPベース市場規模のシミュレーション結果
参考図表4-9 東京特別区に限った消費市場規模(2010年=100)のシミュレーション結果
参考図表4-10 全国、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出月額
参考図表4-11 全国、単身世帯、年齢階級別の消費支出月額
参考図表4-12 全国、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出シェア
参考図表4-13 全国、単身世帯、年齢階級別の消費支出シェア
参考図表4-14 全国主要都市、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出月額
参考図表4-15 全国主要都市、単身世帯、年齢階級別の消費支出月額
参考図表4-16 全国主要都市、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出シェア
参考図表4-17 全国主要都市、単身世帯、年齢階級別の消費支出シェア
参考図表4-18 東京特別区、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出月額
参考図表4-19 東京特別区、二人以上世帯、年齢階級別の消費支出シェア
図表5-1 コーホートごとの住み替え意向-立地について-
図表5-2 高齢者住宅+老人ホームを希望する割合
図表5-3 健康面での日常生活への影響
図表5-4 毎月の家計の状況
図表5-5 社会参加活動への意向
図表5-6 日常の利便性に対する不満率
図表5-7 年齢階級別、持ち家から各借家への転移世帯割合(分母:全転移数)
図表5-8 3大都市圏の年金需給世帯の教養娯楽と諸雑費支出シェア
図表6-1 人口集中地区の住宅戸数、先行きシミュレーション
図表6-2 街なか居住再生ファンド出資額と国からの補助金
図表6-3 衰退した施設・充実すべき施設(N=1,100、複数回答)

研究体制

白川浩道 クレディ・スイス証券経済調査部長/NIRA客員研究員(座長)
宇南山卓 神戸大学大学院経済学研究科准教授
塩野剛志 クレディ・スイス証券経済調査部エコノミスト
(NIRA)
神田玲子 研究調査部長
太田哲生 研究調査部総括主任研究員
神野真敏 研究調査部主任研究員
豊田奈穂 研究調査部主任研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)白川浩道・宇南山卓・塩野剛志・神野真敏(2011)「新・家計消費論-高齢層が支える都市部消費-」総合研究開発機構

脚注
1 本報告書が分析対象とする都市部とは、東京特別区、政令指定都市、県庁所在市のことをいう。本文中では、全国主要都市という用語も同義で使われている。
2 総務省「全国消費実態調査」(2009)と総務省「社会生活基本調査」(2006)を利用。
3 現時点における年齢別の消費プロファイル、及び、各世帯が今後も同じ人口規模の都市階級に住み続けると想定している。

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