English version 研究報告書 2007.12.01 モノづくり支援策と地域雇用の維持 この記事は分で読めます シェア Tweet 株式会社立地評価研究所 概要 本報告は、『地方の魅力づくりとその活用』ならびに『地域雇用拡大への新たな取り組み』をテーマに、全国5機関のシンクタンクに委託して実施した事例調査のうちの1つ「工場集積地の快適化方策と地域雇用への影響―大阪府東大阪市―」の研究成果である。 経済のグローバル化に伴い、日本の多くの中小製造業者は、経営不振、資金繰りの悪化等による倒産・廃業も多く、加えて後継者難による廃業がかなり見られる。そこで、本研究においては、日本一工場集積度が高い「中小企業のまち・東大阪市」における現状と近年の動向を確認し、これまでの支援策を省みたうえで、地域雇用の維持を視野にいれた新しい支援策についての提言をめざした。 東大阪市は、市人口に占める工場勤務の市民数比が7.6パーセントの高さにあるが、10年前(市人口比10.9パーセント)から比すると、およそ30パーセントの市民雇用が減っており、今後さらに製造業での事業所や雇用の減少が予測される。 こうした現在の状況及び今後の予測を前提として、まず今まで行われてきた地元自治体(東大阪市)や東大阪商工会議所における中小企業支援策について、これまでの施策の内容や経緯、事実関係をとりまとめ、現時点からみた評価を行った。 その上で、これからの市の産業政策として、経済のグローバル化に対応した「開かれたモノづくり都市・東大阪」としての基本的な方向性を確認するとともに、そのために必要な要素や条件について検討した。特に、工場・住宅混在の弊害について、問題点を指摘するとともに、混在の解消に向けた課題を整理した。そして今後期待される支援策について、他自治体の事例も鑑みながら、提言を行った。 全文を読む INDEX 要約 1.わが国では製造業の雇用者数は約1,000万人、民間雇用者総数の約2割を占め、産業分類では最も大きい。近年、経済のグローバル化に伴い、日本の多くの中小製造業者は安い海外価格等との競争にさらされ、この10数年に渡って、受注単価の切り下げや受注量の減少などを受け、苦戦している。経営不振、資金繰りの悪化等による倒産、廃業も多く、加えて後継者難による廃業がかなり見られる。 この期間の中小製造業の実態や、雇用等の状況を、市内に6,500もの工場があり、日本一工場集積度が高い「中小企業のまち・東大阪市(市人口510,000人)」に見ることとした。 2.東大阪市は大阪市に隣接する中都市である。市内に小規模工場を中心に約6,500(2005年時点、ピーク時には約10,000)の工場がある。市内の工場従業者は計59,000人、この内2/3の39,000人が東大阪の市民である。従って市人口に占める工場勤務の市民数比は7.6%と高い。 10年前の1995年には市内の工場に勤務する市民は56,500人(市人口比10.9%)であったから、この10年間で17,500人、およそ30%の市民雇用が減っている。このままの傾向で推移すれば10年先(2015年)には製造業に雇用される市民はさらに13,000人が減り、事業所数では3,000が失われるであろう。最も減少するケースでは、市人口は現在よりも8%減の47万人程度に減少する可能性がある。 3.この期間、地元自治体(東大阪市)と東大阪商工会議所は提携しながら各種の中小製企業支援策を講じてきた。これを振り返る。 *1990年(平成2年)以前 工場公害の抑制・防止策を中心とした施策が中心であった。このため市内の加納地区に工場の集団化、集約化が企図され、事業化された。この他には特に、産業政策は見られない。ただし、東大阪商工会議所が行った「地場産業実態調査」(1977-81)は後の「東大阪地場産業見本市」や「テクノメッセ東大阪」「もうかりメッセ」として発展していく契機となった点は高く評価できよう。 *1990年(平成2年)以降 1993年(平成5年)に東大阪市は「東大阪産業振興ビジョン」を策定した。これによって、市の基本姿勢は産業振興へと改まり、以降、市のモノづくり支援策は多彩、幅広いものとなっていった。 中小企業に対する技術・経営相談や指導、研修会や金融支援など国や府が行う制度事業に連動した支援策とは別に次のものが特筆される。 ①市立産業技術センターの開設 ②中小企業都市サミットの開催 ③「東大阪技術プラザ」(インターネット上の技術・製品見本市)の立ち上げと運営 ④クリエイション・コア東大阪での各種の支援活動 ⑤定期化した「東大阪産業見本市」等に対する助成 ⑥企業誘致、開業支援のための税軽減 ⑦トップ企業誌『きんぼし東大阪』の刊行 ⑧中小企業の融合、異業種交流の促進 4.これからの市の産業政策(モノづくり支援策) 基本方向としては経済のグローバル化に対応した”開かれたモノづくり都市・東大阪“の建設である。このために今後の施策は次のどれかのテーマをもつものでなければならない。 ①既存産業を引っ張る新規産業の育成、そのための貸工場等の供給 ②工場環境の保全-住工混在問題の改善・解決 ③集積した産業基盤技術、つまり東大阪の“地財”を活用すること ④人材の育成や交流 ⑤海外企業の誘致、アジアモノづくりセンターの誘致、また開設などグローバル化への対応 先進的な他の諸自治体が実行、また実行しようとしている支援事例や工場環境保全事例などに学びつつ、市民の福祉と生活基盤の向上のため、産業支援策=新まちづくり策と位置づけて上記施策を確固として実行していくことに尽きるであろう。 目次要約はじめに-雇用と製造業第1部 現状および近年の動向 第1章 調査地域(東大阪市)の概要 第2章 本市の特色 第3章 本市の立地ポテンシャル第2部 “モノづくり東大阪”への支援事例 第1章 行政(東大阪市)の支援 第2章 地元産業経済団体(東大阪商工会議所)の取り組み 第3章 支援策を振り返って第3部 世界に開かれたモノづくり都市へ 第1章 開かれたモノづくり都市への条件 第2章 工場・住宅混在の弊害防止へ 第3章 期待されるモノづくり支援策 図表図表1:広域図図表2:東大阪(交通)図表3:市域の土地利用の推移図表4:施設別の面積図表5:類似都市比較・用途別平均地価図表6:東大阪市の地価動向(年間変動率)図表7:地価変動の推移(東大阪市)図表8:人口・世帯数の動向図表9:昼夜間人口の推移(1965-2005)図表10:東大阪市内図表11:市内の製造工場数の推移図表12:地区別工場数の動図表13:工場集積、分布図表14:業種別事業所数と従業者数図表15:産業別就業者比図表16:工場就業者のウエイト図表17:本市内で就業している市民、市内の工場従業者の動向図表18:市内製造事業所・規模別内訳図表19:人事管理についてのアンケート図表20:非正規雇用を活用する理由図表21:東大阪市の状況図表22:加納工業団地の全景図表23:東大阪中小企業だより図表24:クリエイション・コア東大阪図表25:利子補給額年計図表26:用地情報提供システムのフロー図図表27:メッセ(大阪・東京)図表28:きんぼし東大阪誌図表29:地域別人口・世帯数・工場推移図表30:高井田地区図表31:柏田地区図表32:住民アンケート図表33:今後のあり方図表34:住宅・工場の共存は可能か図表35:<住工共存のための対策の中味>(住民・事業者)図表36:集会風景図表37:テクネットすみだ工場図表38:BIGあさひ 研究体制研究代表者 大西正曹 関西大学社会学部教授研究担当者 大西靖生 (株)立地評価研究所研究主幹研究分担者 土居博輝 (株)立地評価研究所研究員 井上香織 (株)立地評価研究所研究員 安原秀 建築家・ヘキサWORKS代表 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)株式会社立地評価研究所(2007)「モノづくり支援策と地域雇用の維持」総合研究開発機構 ※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp シェア Tweet ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ