企画に当たって

トラスのイギリスに何を学ぶか

市場の混乱招き、超短命に終わった英トラス政権―膨らむ政府債務、日本は何を学ぶべきか

谷口将紀

NIRA総研理事長/東京大学大学院法学政治学研究科教授

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政府の繊細なかじ取り、市場との対話、財政・金融安定化の道筋

 チャールズ新国王の戴冠に沸いた英国。しかし、同国の政治はこのところ混乱を続けている。2016年、デーヴィッド・キャメロン首相はEU残留の是非を問う国民投票に敗れて総辞職し、そのEU離脱交渉に行き詰まった後任のテリーザ・メイ首相も3年という短い期間で辞任、後継のボリス・ジョンソン首相は国民的人気を博し、総選挙で保守党を圧勝に導いてEU離脱(Brexit)を実現したものの、新型コロナウイルス感染症流行で行動自粛を求めながら、自らはパーティーに参加するなどのスキャンダルが明らかになって、退任を余儀なくされた。

 ジョンソンの跡を襲ったのがリズ・トラスである。オックスフォード大学在学中は自由民主党員として活動しながら卒業後は保守党に転じ、キャメロン内閣の環境・食糧・農村地域大臣としてはEU残留派であったのに、国民投票後はEU離脱派に方針を転換した。そして、1980年代に新自由主義を推し進めたマーガレット・サッチャー首相を信奉し、首相就任後に法人税減税を進めようとした一方、巨額の支出を伴うエネルギー費抑制策を発表。財源の裏付けを伴わない唐突な政策変更を前に、市場は急激な通貨安、株安、国債価格の下落など混乱に陥り、トラスはわずか49日で辞任に追い込まれた。英国史上最短の首相在任期間であったばかりか、(小泉純一郎首相や安倍晋三首相などを例外として)短期間で頻繁に交代するといわれる日本の首相と比べても、終戦直後、東久邇宮内閣の54日さえ下回る短さであった。

 現在、日本の債務残高はGDPの2倍を超え、大規模な金融緩和策も長期化している。少子高齢化・人口減少と相まって財政・社会保障制度の持続可能性を危ぶむ声が大勢となってはいても、単純に財政や金融を引き締めるわけにはいかず、政府には長期にわたる繊細なかじ取りが求められる。「トラスのイギリス」に何が起きたのか。そこから日本は何を学ぶべきなのか。今回の「わたしの構想」は、5名の英国政治・経済のエキスパートにご寄稿いただいた。

トラスはなぜ、誤った政策を採用したのか

 国際ジャーナリストで、英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏は、長期的な成長をもたらす規制改革について信頼できる計画や枠組みを示さないまま、予算不足の補填に触れないで大型な減税の即時断行を目指したことが「金融の時限爆弾」となって、金利の高騰、通貨の急落、債券市場の変動をもたらし、ひいては年金基金の支払い能力低下を惹起したと指摘している。

 ニッセイ基礎研究所研究理事の伊藤さゆり氏も同様に、トラスの「成長計画2022」は、コロナ禍で財政が悪化し、かつ、エネルギー価格も高騰している中で財政を拡張する「タイミング」、英国の低成長の原因はBrexitであるにもかかわらず大型減税で経済活性化を図ろうとした「政策の内容」、そして独立の財政機関であるOBR(予算責任局)による予算案の検証を避けようとした「手法」のいずれも不適切であったと批判する。

 なぜトラスは誤った政策を採用したのか。そして、どうして保守党はこのようなリーダーを選んだのか。明治学院大学教授の池本大輔氏によると、ジョンソン政権の「大きな政府」路線に対する批判を受けて、トラスはサッチャー以来の「小さな政府」路線を志向していた。しかし、次期総選挙に向けた政治的な配慮から財源の裏付けを明らかにしないまま大規模な光熱費補助をぶち上げたことが市場の離反を招いたという。

 これに加えて、岡山大学教授の成廣孝氏は、党員による決選投票を行う党首選挙ルールの下では経済不振の真因であるBrexitの見直しは望み薄であること、そして2010年の選挙以来保守党内の顔ぶれが大きく変わり、トラス首相自身を含めて政治経験の浅い議員が政権中枢を占めたことが、市場の反応を前もって検討しないままで間違った政策を打ち出す失態を生んだという。

鎮静化を図る保守党、対する労働党は

 トラス後継のリシ・スナク首相は、大幅な支出増を避け、必要に応じた増税も辞さない姿勢で事態の鎮静化を図る。しかし、保守党の支持率は低迷が続き、労働党に大きく水をあけられている。労働党政権ならば英国経済を回復させられるのか。

 早稲田大学教授の高安健将氏によれば、キア・スターマー党首率いる労働党の前途も必ずしも易しいものではない。同党としては積極的な財政政策を採りたいところではあるが、トラス政権崩壊の経緯からして現在の英国には公共投資の余力はない。投資と分配による政策で広範な人々の支持を獲得し「新たな連合」を形成できるかどうかが同党にとっての課題となる。

「トラスのイギリス」から、日本が学ぶべきこと

 日本は「トラスのイギリス」を他山の石とすべきだろうか。今の日本の状況は低成長、高インフレ、長期にわたる金融政策の継続などの諸点で英国と似ているというのが、エモット氏の見立てである。これに対して成廣、高安、伊藤の各氏は、日本では大規模減税のような巨額の財源を要する政策を首相単独のイニシアチブで行うのは困難であり、また、純債権国であって比較的余裕があるため、直ちに市場から拒否されることは起こりにくいとする。ただ、それだけに財政規律の緩みが限度を超えたときはより大きな痛みを強いられるリスクを帯びている点で、各氏は一致している。市場に耳を研ぎ澄まし、丁寧に対話を重ねながら財政・金融安定化の道筋を見定める必要がある。

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トラスはどこで失敗したのか。日本は何を学ぶべきか。

金融の安定を軽視して、時限爆弾に火をつけた

ビル・エモット

国際ジャーナリスト/『The Economist』元編集長

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トラスノミクス、金融の時限爆弾、信頼できる経済計画

 トラス首相が在任した壊滅的な49日間が経済に与えた結末は、どの国に対しても金融の安定に適切な注意を払わずに政策を実施することの危険性を思い知らせた。トラスは、大胆で野心的な改革で国の経済を変えると約束して政権に就いた。しかし就任後は、改革に向けた首尾一貫した計画を示さず、半世紀ぶりの大幅な減税を直ちに提案しただけで、予算不足の補填にも触れなかった。低成長、借入の対外依存、新型コロナやウクライナ戦争による急激なインフレもあり、トラスの政策は「金融の時限爆弾」となって、金利の高騰、通貨の急落、債券市場の変動を惹起し、英国年金基金は支払能力が脅かされる事態となった。

 トラスの無謀な政策は、自身の経験不足というだけでなく、分裂している保守党の党首選挙に勝利しようとした結果でもあった。保守党は、Brexit以降、前任のジョンソンのスキャンダルまみれの在任期間に、信頼性と結束力を失墜させていた。トラスは、党員の支持を得て政権に就くために、劇的な政策を得ようとし、2024年の総選挙までに党勢を回復させる相当大きいインパクトも必要だった。政策の独自性を示すため「トラスノミクス」と名付けた。トラスの失敗は、長期的な成長をもたらすはずの規制改革について、何も信頼できる計画や枠組みを提示できなかったことだ。もしトラスが、小幅の減税案にとどめ、経済計画全体の詳細が明らかにできるようになった段階で、大きな減税の計画を発表するなど、異なる順序を踏んで目標を追求していたならば、政権を維持できたかもしれない。

 端的に言えば、トラスはすべての信用を失った。しかし、首相の急速な失脚は、金融化された現代の経済における隠れた時限爆弾の存在をも浮き彫りにした。金融システムは、これまでと同じ状況が続くという前提で、積極的な投入を過剰に行うが、マクロ経済の急な変更によって予期せぬ大きな損失が一部に生じる可能性がある。この懸念は、政策立案者は、金融の安定を維持するために、漸進主義と明確な意思疎通を優先すべきであることを意味する。

 今の日本の状況は、低成長、異常な高インフレ、極めて長い金融政策の継続と、英国によく似ている。日本銀行が量的緩和の出口を探る一方、政府が防衛、育児、教育などの分野で支出を増やす中で、政策立案者は金融の安定を維持する方法を見つけなければならない。日本には、トラス首相を辞任させたような、時限爆弾による破滅的な結末に耐える余裕はない。
*原文は英語版に掲載

識者が読者に推薦する1冊

Charles P. Kindleberger, Robert Aliber〔2005〕Manias, Panics, and Crashes:A History of Financial Crises, Wiley

トラスはどこで失敗したのか。日本は何を学ぶべきか。

市場は、政策のタイミング・内容・手法を不適切と判断した

伊藤さゆり

ニッセイ基礎研究所研究理事

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タイミング・内容・手法、市場のセンチメント、財政機関の検証

 トラスが首相に就任して間もなく「成長計画2022」案を出すと、通貨ポンド、国債、株価の「トリプル安」となった。市場は「成長計画」をリスクの高い政策と評価したのだ。その理由は、この政策を出すタイミング、その内容、また、手法のいずれもが不適切であったことに尽きる。英国はコロナ禍で財政が悪化し、エネルギー価格の高騰でインフレが加速する状況にあり、大型減税と大規模な借入による財政政策は、さらなる物価高騰を招きかねなかった。また、市場は米FRBの政策金利引き上げが予測されてセンシティブになっており、その意味でも、明らかにタイミングが不適切だった。

 また、「成長計画」の中身は、経済活性化の起爆剤にするために大型減税を実施し、企業の税負担の軽減を図るというものだ。しかし、この処方箋は間違ったものだった。確かに英国はこの7~8年、企業の投資が低迷しているが、その理由は税負担の重さではない。Brexit以降、EUとの関係や規制などで不透明さが増し、企業が前向きに投資できなくなったことが主因だ。保守党強硬派の支持を受けて成立した政権は、低成長の原因がBrexitにあると言えずにいるという事情がある。適切な処方箋は、EUとの関係の安定化に努め、振れ幅が小さく予見可能性の高い政策を着実に実施することしかない。

 また、手法の面でも問題があった。英国はこれまで、保守党政権自身が、財政の透明性を高める仕組みを作り上げている。独立した財政機関OBR(予算責任局)が政府の予算案の検証を行うことになっている。しかし、トラス政権は、財政ルールは自らの成長志向の政策の妨げになると考え、OBRの検証を受け付けない形で政策を打ち出した。トラスのそうした手法を、市場は「財政リスク」と認識した可能性が高い。

 英国は、国の経済規模に対して、資本移動のレベルが高い。対外的な債務と負債も多いため、資本流出を引き起こさない政策運営が非常に重要になる。トラスの失敗は、そうした市場のセンチメントを不安定化させてしまったことだ。日本は、今はまだ、純債権国で比較的余裕がある。その分、財政規律の緩みに対処しないまま問題を悪化させ、後になって大きな痛みを強いられるリスクがある。今の段階で、財政の中期的な信頼を確立する枠組みを作るべきだ。

識者が読者に推薦する1冊

伊藤さゆり〔2023〕「「トリプル安」後の英国―日本が真に学ぶべきことは?」ニッセイ基礎研究所『基礎研REPORT(冊子版)』2月号[vol.311]

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トラスはどこで失敗したのか。日本は何を学ぶべきか。

「人気取り」に引っ張られ、市場の信認失う

池本大輔

明治学院大学法学部教授

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小さな政府路線、イングランド北部の労働者、想定外の市場の反応

 ジョンソン首相の辞任を受けて行われた保守党の党首選挙で、トラスは、前政権下で予定されていた法人税増税・社会保険料引き上げを撤回し、高額所得者向けの所得税の最高税率を廃止するなど、富裕層優遇策を打ち出して勝利した。ジョンソンの辞任は、ロックダウン中のパーティーなどスキャンダルが理由とされることが多いが、その背景には保守党内の路線対立があった。ジョンソン政権は、Brexitを支持したイングランド北部の労働者層を保守党に取り込むため、貧しい地域でインフラ支出を拡大。また直近ではコロナ対策のために財政出動を迫られた。その結果、戦後の英国で最大規模の財政支出増を賄うため、増税が必要になった。保守党内で、こうした「大きな政府」路線への不満が高まったのを受けて、サッチャー以来の「小さな政府」路線へ戻そうとしたのがトラスである。

 一言でいえば、トラスが目指したのは「経済政策は右(小さな政府)、移民など社会文化的な政策はリベラル」という路線だ。しかし、今の英国の有権者のマジョリティーが求めるのは、「経済政策は左(格差是正・平等重視)、社会文化的な政策は保守」で、トラスの立場は有権者の2%程度の支持しかない。トラス自身、自分の政策が不人気なことは分かっており、次の総選挙を見据えて、有権者のマジョリティー層を取り込む必要があった。就任直後に公表した「成長計画2022」で追加された光熱費の大規模補助は、トラスが本来目指す政策というのではなく、有権者にアピールするための「人気取り」政策と理解すべきだ。

 トラスがサッチャーと異なるのは、党内選挙で首相となり、総選挙で国民の信任を得た政権ではなかったということだ。次の総選挙で勝った後に、財政支出を削減して、帳尻を合わせるつもりだったのだろうが、選挙に向けた政治的な配慮から、財源の裏付けを明らかにせず、後回しにした。

 Brexitの国民投票以来、英国の政治は、製造業の衰退により寂れてしまったイングランド北部の労働者を、2大政党が取り合う状況になっている。トラスは、こうした政治の変遷を受けて、有権者への「人気取り」をすることによって自身のやりたい政策を強行しようとしたが、想定していなかった市場の反応に潰されたと言えるだろう。本来は、市場重視を標榜するトラスが、市場に刺される形で退陣に追い込まれたのは、皮肉と言うよりない。

識者が読者に推薦する1冊

池本大輔〔2022〕「英・『ポピュリスト宰相』が倒れるまで」『外交』74 巻,112–117 頁

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トラスはどこで失敗したのか。日本は何を学ぶべきか。

トラスの失敗、背景に保守党が抱える課題

成廣孝

岡山大学社会文化科学学域教授

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党員の力学、組織的問題、政治経験の浅さ

 トラスの失敗を考察するには、トラスが首相になった背景をみる必要がある。そこには、現在の保守党が抱える課題がある。

 1つは、党員の主流派が支持しない政策や人物は、選択されにくくなっていることだ。今回の党首選挙は、事前の議員選挙ではスナクが優勢だったのに対し、最終決定となる党員選挙の段階で、党員がトラスを支持して勝利した。党員に人気の高い前首相ジョンソンによるトラスの支持と、ジョンソンを後ろから撃ったかたちになった前蔵相スナクの不人気も勝因となった。英国経済の不調は明らかにEU離脱が原因だが、「党員の力学」が強まり、党員の主流である「Brexit支持派」の反対を押し切る政策を掲げることが難しくなっている。

 こうした状況は、保守党の経済成長に関する方針を安定性のないものにしている。トラスは、増税や社会保険料の増額なしに大規模な投資をうたった前任者同様、財政的に放漫な面を引きずっていた。さらに、2019年の選挙時にジョンソンが約束して支持を得ていた大規模な公共投資の側面を後退させ、大幅な富裕層減税により経済的効果を期待する政策に変更した。それは、保守党が政権復帰以来続けてきたが、その効果が不確かな政策に固執するものであり、総選挙の洗礼を受けていないトラスに許されるのかという疑問すら出ていた。

 もう1つの課題は、2010年選挙からの組織的問題であろう。党主導で女性やマイノリティーの候補が増え、オープンプライマリー制度も部分的に導入された。それまでの選挙での連敗や経費スキャンダルも相まって、保守党議員の顔ぶれは大きく変わった。トラスやスナクも2010年に初当選したばかりで、彼女の閣僚も総じて政治経験が浅かった。トラスの失敗は、政治家としての経験が浅いにもかかわらず、自身の政策にブレーキをかけてくれ、党内で重しになるような人材を閣内に置かなかったことだ。党首選で最大のライバルとなった財政慎重派であったスナクも排除された。市場の反応を前もって検討し得る体制にはほど遠く、それが独立財政機関OBRによる予算案の検証を軽視することにもつながった。

 さて、後継のスナク政権は、支出は大幅には増やさず、増税が必要なら行う姿勢で、軌道修正を図っている。日本では、大規模減税のように大きな財源を必要とする政策を、首相単独のイニシアチブで実施するのは困難で、トラスが行ったような失敗は起きないだろうと思われる。しかし、「異次元の財政出動」の度が過ぎれば、市場が反応する可能性はあるだろう。

識者が読者に推薦する1冊

成廣孝〔2021〕「第四章 ポスト・グローバリゼーションと欧州統合、ブレグジット―イギリス政党政治を中心に」岩崎正洋編『ポスト・グローバル化と国家の変容』ナカニシヤ出版

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トラスはどこで失敗したのか。日本は何を学ぶべきか。

多様な人を巻き込み「新たな連合」を目指す労働党

高安健将

早稲田大学教育・総合科学学術院教授

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投資と分配による成長、新たな連合、労働組合との距離

 労働党の前党首コービンは、富裕層や大企業への課税を通じた社会保障と再分配という、「大きな政府」路線を打ち出して、ビジネス・金融界の懸念を招いた。現党首のスターマーは、ビジネス・金融界に対して融和的なメッセージを発して信頼の回復に努めている。

 重視する「成長」の具体的なプランはまだ見えない。労働党としては財政政策を展開したいところで、実際、成長戦略としても気候変動対策への積極的な投資を掲げている。だが、財政支出の規模には慎重にならざるを得ない。トラス政権がずさんな借り入れ計画で市場から批判を浴びて短命に終わったことから分かるように、今の英国はコロナ禍への対応で財政赤字は膨らみ、政府債務残高の対GDP比も、緊縮財政の連続にもかかわらず上昇し続けており、公共投資の余力がない。

 労働党は、一部の富裕層を優遇する「トリクルダウン式」の政策を以前から問題視しており、投資と分配による成長を目指している。しかし、生活コスト高への対応や、不満の爆発する公共セクター労働者の賃金や待遇改善にどの程度踏み込めるのか、案は出ているが、具体策はまだはっきりしない。対応を誤れば、失望が党の力を蝕むことになる。

 政策の支持を得る基盤となるのが「新たな連合」、つまり労働党を支持する連合の形成だ。トラス政権は保守党内での人気獲得を優先し、都合のいいようにしか現実を見ずに失敗した。生活苦に喘ぐ人々は増え続けている。労働党は、党の外との新しい連携、新たな連合を形成しようとあがいている。Brexitを否定せずEUと実務的な関係を作ることで、もともとは労働党支持だった離脱派の票をも取り込もうとしている。コービン時代に影響力を強めた最左派を排除し、最近の労働組合によるストとも距離をとることで、一般有権者の支持を得ようとしているが、党内のつなぎ止め方を探ることも大事だ。

 英国は、トラスの政策に市場が即時に反応したことで、すぐに軌道修正できたとも言える。日本の場合、政府の政策が市場や国際社会から拒否されるということが直ちには起こっていないだけに、対外的な不安を煽る一方で必要な慎重さを欠き、一部の短期的な人気だけを優先していると、気づかぬうちに社会の長期的な利益を失いかねない。政策立案は内向きの思考に陥ることなく、広く社会の声を聞き、周辺国や市場とも対話する視点が不可欠だ。

識者が読者に推薦する1冊

今井貴子〔2018〕『政権交代の政治力学―イギリス労働党の軌跡 1994-2010』東京大学出版会

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2023)「トラスのイギリスに何を学ぶか」わたしの構想No.66

データで見る

  • 英トラス政権の「成長計画 2022」

    出所)英国政府発表資料「成長計画2022」をもとにNIRA作成。

  • 英国の投票予定政党の推移と年齢別内訳(2023年5月)

    注1)投票予定政党のうち、グラフでは保守党と労働党のみ記載。
    注2)円グラフは投票予定政党の年齢階層別内訳割合(調査日:2023年5月3~4日)。
    出所)YouGov(2023年5月10日アクセス)をもとにNIRA作成。

    付表

  • 英国・日本の国債残高対GDP比率と国債保有者内訳

    注)国債保有者内訳は、英国は2022年9月時点、日本は2022年12月時点のデータを参照。
    出所)日本銀行内閣府英国債管理庁(DMO)をもとにNIRA作成。

    付表

  • 英国債10年物利回りの推移(2022年7月1日~2023年1月2日)

    出所)Investing.comをもとにNIRA作成。

    付表

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
神田玲子、榊麻衣子(編集長)、山路達也
※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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