企画に当たって

コロナ対策の教訓をどう生かすか

リアルタイムにデータを取得できるデジタル化がカギを握る

金丸恭文

NIRA総合研究開発機構会長/フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO

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有事の判断、デジタル化、国家の再設計

 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界各地で深刻な人的被害、経済的被害をもたらした。同時に、日本の社会制度や政治が長年抱えていた問題を顕在化させることにもなった。では、日本のやり方は、どこが間違っていて、今後どうしていくべきなのか。5人の識者とともに、取るべき方針を探っていく。

重要だった有事の判断とデジタル化

 日本における新型コロナウイルスショックは、2020年2月、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に接岸されて始まった。ネットやSNSを介して中国・武漢や世界の状況が伝わる中、ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込むスーツ姿の厚生労働省職員と防護服の自衛隊員。対照的な姿は、初動における危機意識の違いを浮き彫りにした。ここで重要だったのは、有事の判断だ。国際医療福祉大学副学長の鈴木康裕氏は、パンデミックにおいて一時的な有事モードに切り替えることの必要性を訴えている。私もそれに同意する。

 次に、デジタル化の遅れである。ダイヤモンド・プリンセス号には外国人も含めて約3,700名の乗客・乗員がおり、健康状態や感染状況など貴重なデータの宝庫であった。だが、調査に当たった厚労省職員は、そうしたデータを紙ベースで収集し、エクセルにまとめていた。官邸や報道機関などから問い合わせがあると、個々の担当者がエクセルの表を印刷して対応せざるを得ないありさまであった。また、医療機関から保健所への報告にはファクスが使い続けられ、情報を把握する上でのボトルネックとなった。緊急事態に迅速に対応するためのデジタルシステムがあらかじめ整備されていなかったために、非効率な人海戦術に頼るアナログ対応になってしまった。一時金の給付が遅れたのも同じ要因であり、特にポイントまで付与して取得促進を図ったマイナンバーカードとそのシステムは使えず、世界との差を実感した国民の失望は大きかった。

オンライン診療の有効活用と安全保障としてのワクチン、治療薬開発

 2020年4月7日の閣議決定で、時限措置ではあるものの、初診からのオンライン診療が可能になった。当時、日本医師会会長であった横倉義武氏も、オンライン診療には一定の理解を示していた。しかし、地域の医師会からは反対の声が強く、恒久化に道筋がついた今も、あまり活用されていない。オンライン診療がハイブリッドなツールとなり、コロナ禍に限らず、全国で診療メニューの当たり前のサービスとして活用されるようになるには、解決すべき多くの課題が残っている。

 これはオンライン診療に限った話ではない。例えば、ワクチン接種も、英国では一定の研修を受ければ、一般の人ですら打ち手になれた。しかし日本では、現行法で認められている、医師もしくは医師の指示の下での看護師等が担い、一般の人はおろか、薬剤師も認められなかった。公立病院、開業医、薬剤師など貴重な医療従事者や設備を生かして感染症に対して有効な手立てを取れるよう、感染症法や医師法などの改正を含む、医療体制の再構築に取り組む必要がある。

 前衆議院議員の塩崎恭久氏は、政治のリーダーシップによって司令塔を整備することを主張する。これを実現するためには、政府がきちんと国民に対して説明を行い、世論を味方につけていくしかないだろう。

 これまで日本は、ワクチンにしても、人工呼吸器などの医療機器やマスクにしても、必要に応じて海外から調達してきた。経済的な価値観に基づき、良い物を安く購入することを第一に考えてきたわけだが、新型コロナウイルスによってその前提が崩れてしまった。第一三共株式会社代表取締役社長兼CEOの眞鍋淳氏も提言するように、これらのリソースを確保することは、安全保障の意味合いが強くなっている。感染症パンデミックの自然発生以外にも、ウイルスを用いたバイオテロの可能性も考えられる。ワクチンや治療薬、医療機器の開発も含めたウイルス対策は、事業的なリスクも高く、民間企業のビジネスとして成立させるのが難しい。また近年は、大学における基礎研究への補助も絞られており、日本の研究力の低下は著しい。

 研究者や企業が安心して研究・開発に取り組めるよう、政府として長期的視点に基づいた予算措置をきちんと講じるとともに、有事の許認可プロセスを見直すべきである。

政府は、統治能力を高めるための投資をせよ

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授のマリアナ・マッツカート氏は、「国家が統治能力を高めるための投資を行ってきたかどうかが、国家の危機管理能力を左右する」と指摘するが、私も同意見だ。政府が規制改革を進める際、民間に任せることを大きな方針としてきた。だが、感染症パンデミックへの対応は、営利企業の経済合理性とはかけ離れた危機対応の問題だ。

 公立病院にしても医療費削減を第1の方針にするのではなく、公的病院としてのガバナンス改革はもちろんのこと、危機対応を含めたデザインと、それに見合った投資を行うべきだろう。例えば、国立大学病院などを地域の中核病院に位置づけ、パンデミックが発生した時には、専門医をはじめとする医療従事者や医療機器などのリソースを集中させる。一般の入院患者は民間病院に引き取ってもらう、といったデザインを、あらかじめ地域別に策定しておくべきだ。日頃から投資を行い、準備を行っていて初めて、いざパンデミックが起こったときにアジャイルな対応が取れるのである。

 そして、重ねて強調しておきたいのは、デジタル化の重要性である。いくら法改正をしたり、組織体制を変更したりしたところで、リアルタイムのデータをきちんと得られなければ、適切な対応を取ることはできない。ウイルスにせよミサイル攻撃にせよ、データがない限り適切な判断ができず、どこに責任を担わせたところで誰も動きようがない。日本が脅威に晒されることを前提とした国家の再設計が求められている。

識者に問う

日本のコロナ対策から得られる教訓は何か。今後の医療改革で、何が必要なのか。

政治のリーダーシップで有事の司令塔を整備せよ

塩崎恭久

前衆議院議員

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司令塔、有事の国と地方の役割分担、公衆衛生と臨床医療の一体化

 大規模感染症の流行時には、「平時の発想」から「有事の体制」に切り替える必要がある。わが国の問題は、現状を災害レベルの緊急事態と政府が認識しているにもかかわらず、国が司令塔となる有事の体制を組めないことだ。有事には平時と異なる、国と地方の新たな役割分担が必要であり、そのための法改正と制度変更を実現しなければならない。司令塔体制は、今年6月の政府の基本方針(骨太)でようやく言及されたが、来年の通常国会で審議されるのでは遅い。役人が責任を取らないのであれば、政治家が「有事だから変える」と取り組むリーダーシップが必要になる。

 病床が確保できないのは、医師や看護師の数が足りないからだという指摘があるが、それは間違いだ。国や都道府県が、医療機関に対して、お願いベースの要請しかできず、命令をする権限を持っていないからだ。法律改正を行い、有事には国や都道府県からの指示・命令ができるようにするべきだ。国立病院や特定機能病院、地域医療機能推進機構(JCHO)の病院ですら、極めて限られた病床しか提供していない。こうした現状を是正するのが政治の役割だ。

 だからと言って、今やっているような、要請に応じない場合は名前を公表するという脅迫めいたやり方は、信頼関係で成り立つ地域の医療において筋違いのいじめのようなものだ。感染者の受け入れを命令する場合は、余力がある公的病院を中心に考えるべきだ。また、今は自治体任せになっている臨時医療施設、いわゆる野戦病院の設置は、自治体で解決できないのであれば、政府が直接設置できるようにすべきだろう。

 明治時代から続いている保健所を中心とした感染症対応にも問題がある。かかりつけ医が、症状のある患者に、PCR検査を受けさせたくても、まず保健所の判断を仰がなくてはならない。検査や入院の必要性の判断を、医師資格を持たない保健所職員が、しかも人手も足りない中で行っている。保健所を中心とする「公衆衛生」が、地域の医療機関や医師などの「臨床医療」よりも、上位にある体制を続けていては、救える命もこぼれていく。地域の保健所と医療関係者が協力し合い、有機的に一体となって取り組むことが必要だ。

識者が読者に推薦する1冊

塩崎恭久〔2020〕『「真に」子どもにやさしい国をめざして―児童福祉法等改正をめぐる実記』未来叢書

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有事モードへの切り替えが必要だった

鈴木康裕

国際医療福祉大学副学長/厚生労働省初代医務技監

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一時的な中央集権、発想の切り替え、潜在的なリソースの把握

 感染症がある程度までの規模なら「平時」の延長で対応できるが、今回のパンデミックは「有事モード」に切り替えて対応すべきだった。しかし、その切り替えるべき仕組みそのものがなかった。「有事モード」の客観的な基準や責任を国民に明確に示し、恣意的な判断を排除した上で、適時に切り替えることが必要だ。さらに、事後的にその評価を行い、次の有事に生かしていく。

 「有事モード」では、刻々と変わる各地の感染状況を国全体で判断し、包括的に対応しなければならないため、一時的に中央集権にすることが必要だ。しかし、現行の感染症法では、中央官庁である厚生労働省が担う役割は、技術的な助言や支援に限られ、自治体に対する強制力を伴った指導ができない。平時はそれでよいが、有事には、それでは乗り越えられない。例えば、地域が独自に重症者の定義や報告の基準を設定していては、感染が拡大している地域に、流行していない地域から医療資源を融通しようとしても、正確な判断が下せない。

 また、今回のような有事には、平時における完全主義から脱却することが必要だったが、実行に移せなかった。例えばワクチンは、海外の治験のデータのみで承認することもあり得たが、昨年12月、国会の附帯決議で国内外の治験を踏まえて審査することとなった。国内でも治験を行った結果、接種開始が3カ月近く遅れた。その間に、コロナにかかって亡くなった方が相当数いるだろうし、医療ひっ迫にもつながった。ワクチンによる負の影響が出るのを避けたいという考えだが、有事には、100%の万全を期すという平時の発想から切り替える必要がある。

 感染症が収束しても、そこで立ち止まらず、次の波に備えて必要な施策を立て、実行しなければならない。人口当たりで米国の5倍ある病床数は少し減らし、むしろ病床当たりの医療従事者の数を増やすことが必要だ。また、看護師や臨床検査技師は、医師・歯科医師、薬剤師と同様に届け出を義務化し、全国的な登録制度にすべきだ。看護師資格を持つ220万人のうち、現在、看護業に就いていない人は70万人いるが、どこにいるのか把握できていない。結婚や出産で職を離れても、例えば時短勤務なら可能という人もいる。いざというときのために、潜在的なリソースを平時から把握しておく必要がある。

識者が読者に推薦する1冊

熊本史雄〔2021〕『幣原喜重郎―国際協調の外政家から占領期の首相へ』中公新書

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日本のコロナ対策から得られる教訓は何か。今後の医療改革で、何が必要なのか。

非常時にモードチェンジできる医療提供体制の構築を

横倉義武

日本医師会名誉会長/社会医療法人弘恵会ヨコクラ病院理事長

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かかりつけ医、オンライン診療、一般病床の転用

 昨年3月下旬からの第1波では感染症の実態はまだ分からなかったが、7月の第2波が始まる前には「無症状・軽症患者が多いが、基礎疾患のある方や高齢者が感染すると重症化しやすい」と分かっていた。臨床医の立場から考えると、その段階で「検査で感染者を早期発見・隔離」という最も望ましい対策に切り替えるべきだった。また、今年春の第4波では行政の指示の下、ホテル療養者や自宅療養者が増えたが、医療管理が行き届いていなかった。福岡県は地域の医師会と連携し、全てのホテルに医師と看護師を配置した。こうした対応が全国でできればよかったと思う。加えて、その後の第5波で感染者が急増したことを考えても、オンライン診療をはじめ、さまざまな通信手段で患者が自分の状態を相談できる仕組みを整備すべきだった。

 この点について、私としては、「かかりつけ医」を定着させることも大切だと思っている。私は医師会会長の時代から、地域医療の役割分担が必要という観点で、かかりつけ医の機能向上に取り組んできた。診療報酬上の課題もあって反対の声が根強く、いまだ制度化に至っていないが、今後、改めて議論すべき課題と考える。

 日本の医療は、ここ数十年の間に、主に生活習慣病に対応するものになっていた。このため、感染症病床が非常に少なく、初動から対応が遅れた。新型インフルエンザの流行時には顕在化していた課題だった。当時も反省し、2010年には政府の審議会で提言が出されていたが、それが十分に生かせないまま、今回のパンデミックを迎えてしまった。今回の教訓を踏まえて、今後は、「いざ非常時」となったら医療提供体制を速やかに非常時モードに切り替える仕組みに改革することが必要だ。感染症病床は、増設するにしても限度があり、パンデミックが起きてしまったら不足することは明らかである。あらかじめ地域の中で、一般病床から感染症対応に転用する割合を決めておく。また、パンデミック発生時に、医療従事者が非常時の態勢や考え方に切り替えて対応するには、トレーニングも必要だ。日本医師会や都道府県は、災害のための医療チームを組織して定期的に研修を実施している。災害にとどまらず感染症対応でも、講義や実技の受講を義務付けるとよいだろう。医療に携わる人間はみな、非常時に協力して対応する決意はある。平時から実効的な協力体制を考えておくことが重要である。

識者が読者に推薦する1冊

真野俊樹〔2013〕『比較医療政策―社会民主主義・保守主義・自由主義』ミネルヴァ書房

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国家の安全保障としてワクチン・治療薬の研究開発力の強化を

眞鍋淳

第一三共株式会社代表取締役社長兼CEO

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研究開発基盤の整備、産業力強化、国の司令塔組織、創薬エコシステム

 新型コロナウイルス感染症で国産ワクチン開発が後手に回った要因を3点挙げたい。

 まず、日本のワクチン産業と研究開発力の弱体化である。かつて日本はワクチン先進国だったが、度重なる予防接種禍や政府の副反応訴訟敗訴から、新技術への取り組みに消極的になった上、国民のワクチン忌避傾向により、市場形成や事業が成り立ちにくくなっている。次に、感染症に対する平時の危機意識の不足である。日本はSARSやMERSが直接入って来なかった。新型インフルエンザのときには課題を洗い出したが、収束後は危機感が薄れた。今回、迅速に創製された欧米のワクチンは、各国が安全保障と位置付けて、10年近く前から研究・開発されてきたものだ。そして、新技術へのシフトの遅れである。低分子薬で成功した日本の製薬企業の多くは、現在の主流となったバイオ技術へのシフトが遅かった。これは、新技術に取り組むリスクを支える「創薬エコシステム」が、日本では十分に形成できていないことが背景にある。大学の基礎研究への支援も限られている。

 次のパンデミックで日本が最速でワクチンや治療薬を創製するためには、それぞれの要因への対応が求められる。第1に、今年6月に閣議決定された「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を迅速・確実に実現して日本の研究開発基盤を整備するとともに、ワクチンの事業性を改善して産業力を強化することである。ワクチンに対する国民の理解を深めるため、科学的に正しい情報を、そのリスクも含めて分かりやすく伝えていくことも重要だ。

 そして、日本も感染症対策を国の安全保障と位置付け、平時からけん引する「司令塔組織」を設置する。この司令塔が総合的・長期的視野をもって、感染症の国家戦略を立案する。その中でワクチンや治療薬については、平時から産学官連携により技術革新や人材育成を支援し、生産設備や安定供給のための基盤整備を進める。いざ有事となれば、関係省庁を取りまとめ、明確な方針の下に、自治体や医療機関にワクチン等を迅速に届ける役割を果たす。

 さらに、最も新薬の創製に成功している米国のように、製薬企業、ベンチャー、大学、規制当局、投資家など、新薬創出に必要な人が活発に交流する創薬エコシステムを構築して、イノベーションの力を高める。研究者の能力やイノベーションの成果を正当に評価することも必要だ。それなくしては、人は集まらず、研究の裾野も広がらず、日本が真の科学技術立国になる事は難しい。

識者が読者に推薦する1冊

日本薬学会(編)〔2021〕『THE 創薬―少資源国家にっぽんの生きる道』薬事日報社

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日本のコロナ対策から得られる教訓は何か。今後の医療改革で、何が必要なのか。

感染症で問われた行政の統治能力

マリアナ・マッツカート

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授

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国家の危機管理能力、統治能力への投資、21世紀のニーズ

 新型コロナウイルスによるパンデミックは、各国政府に難題を突き付けた。その範囲は、所得補助の給付から、経営難に陥った企業への支援、医療提供体制の強化と幅広い。私はカテル教授との共同研究(注)で、政府のコロナ対応についての国際比較を行った。そこで得られた示唆は、各国政府は危機時に社会を統括する能力を備えているか否かが試され、その備えの程度や行政の能力の違いにより、各国が受けた影響が大きく異なったということだ。

 米国や英国では、製造業や公衆衛生、サプライチェーンのぜい弱性が浮き彫りとなった一方、ドイツや韓国では、民間セクターの行動に対する政府の調整能力の高さに加え、政府が医療システムに対する重要な決定権を持っていたことで、強じんな対応力があることが示された。

 最大の教訓の1つは、国家が統治能力を高めるための投資を行ってきたかどうかが、国家の危機管理能力を左右するということだ。行政規制の緩和や株主の利益重視、無責任な規制、民間への業務委託といった政策手法は、想定ほどにはうまく機能しなかった。今回の経験から明らかになったのは、政府が自身の適応・学習能力を向上させるとともに、公共サービスと市民のニーズの結合、強じんな生産システムの構築、データとデジタルプラットフォームの管理に取り組む必要があるということだ。また、これらの機能を評価する公的機関の能力が空洞化しており、対処しなければならない。

 政府と企業が公共のために共生するには、政府が新たな役割を果たす必要がある。政府は市場の失敗に対処するのみならず、民間セクターと共に、市場を形成し、共創する責任がある。これまでも、国は初期段階で投資をして、新たな成長を促し、成長分野に民間の投資やイノベーションを呼び込んできた。国が担うべきは、こうした活動から社会的なリターンを確保することだ。例えば、グーグルマップなどのプラットフォームで利用者が生成したデータを、単に収益化するのではなく、交通機関など公共サービスの改善につなげることもその1つだ。政府の施策で、社会のデジタル化をターゲット広告や個人情報ビジネスから遠ざけることができる可能性は大いにある。

 今回のパンデミックは、政府を21世紀のニーズに適合させる好機だ。新型コロナ対応の成功例は、創造的復興や将来の危機への備えのために、ダイナミックな行政能力を培うための投資が必要だということを教えてくれた。私たちは、この危機を無駄にしてはならない。

(注)Mazzucato, M. Kattel, R. (2020). COVID-19 and public-sector capacity
Oxford Review of Economic Policy, Volume 36, Issue Supplement_1, 2020, Pages S256‒S269.

*原文は英語版に掲載

識者が読者に推薦する1冊

Mariana Mazzucato〔2021〕Mission Economy: A moonshot guide to changing capitalism, Allen Lane

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2021)「コロナ感染症、不決断という日本の病」わたしの構想No.56

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  • 新型コロナ新規陽性者と累積死亡者の推移

    注)緊急事態宣言の期間は東京都での実施に準ずる。
    出所)厚生労働省「感染症発生動向情報等」

    付表

  • 新型コロナの確保病床の使用状況・患者の療養状況

    出所)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査結果」(2021年9月15日0時時点)

    付表

  • 新型コロナの確保病床数とその割合

    出所)塩崎恭久氏提供『愛媛県訪問リハビリテーション実務者研修会』講演資料より「新型コロナウイルス感染症対応状況」(2021年7月31日時点)、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査結果」(2021年7月28日0時時点)、厚生労働省「令和元年医療施設(動態)調査」

    付表

  • 医薬品研究開発状況に関する国際比較

    注)比較にあたり、研究開発費は政府のヘルス分野のR&Dへの予算および産業の化学・医薬製品のR&Dの合計を、IMF公表の“IFS”における当年期中平均レートで米ドル換算。スイスは2017年、他は2018年。研究者数は企業部門(医薬品等製造業)、日米は2018年、他は2017年。パテントファミリー数は欧州特許庁(EPO)、日本特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)の3つの特許庁で取得された特許で、同一の発明の特許を1ファミリーとしてカウント。中国は研究者数とパテントファミリー数のデータのみ。
    出所)OECD“Main Science and Technology Indicators”、NSF“Business Research and Development and Innovation”

    付表

©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
神田玲子、榊麻衣子、山路達也
※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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