山影進
東京大学大学院総合文化研究科教授

概要

 設置から40年が経過したASEANは、2007年の「ASEAN憲章」採択を踏まえ、国際機関、共同体となるべく基盤整備に乗り出した。最高意思決定機関の明確化、各種閣僚級会議の抜本的再編、議長国制度の導入など「新ASEAN」設立ともいうべき変化がおきている。
 その背景には、アジア地域での安全保障のありかたの変化が挙げられる。ASEAN諸国同士の紛争を平和的に解決する機構としてのASEANの使命が終わり、地域の安全共同体へと前進した。今後ASEAN諸国が抱える地域安全保障の課題は、域外大国による地域の不安定化の防止と非伝統的安全保障をめぐる協力の推進となった。
 ASEANによる本格的な経済統合の歴史は浅い。本腰をいれたのは1990年代に入ってからである。とはいえ、近年の貿易自由化の動きは速い。今後、ASEANが内部抱える経済格差(古参組と新参組CLMV間)は地域の不安定化の要因となりうる。ASEANは域内の経済格差是正措置をいくつか試みているが、独自の資金をもたないため措置の実行には域外諸国や国際機関の協力が必要である。
 現在、ASEANは共同体創設に向かっているが、他方で求心力と重要性が低下する部分もあり、域外諸国との関係強化を図る加盟国の行動も見られる。「新ASEAN」の課題は多い。
 こうした「新ASEAN」に対し、日本は①ポストEPAの日ASEAN関係構築、②東アジア・アジア太平洋協力に向けての日ASEAN協力の推進が必要である。日本は、非伝統的安全保障分野での協力、CLMV開発支援、ASEAN諸国のキャパシティ・ビルディングへの継続的協力、人的交流の強化などを進めることが重要である。また、対ASEAN諸国へのODA協力の内容の再考、日本社会の開放を含むパートナーシップ強化などが求められる。

INDEX

目次

はじめに
1. ASEAN共同体創設とASEAN憲章採択の意義
2. 地域安全保障と地域的不安定
3. 地域経済統合と地域的格差
4. 地域共同体志向と遠心力
5. 「新ASEAN」と日本はどのように付き合うべきか
おわりに

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)山影進(2008)「「新生ASEAN」の課題と日本」NIRAモノグラフシリーズNo.08

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