宮尾龍蔵
東京大学大学院経済学研究科

概要

 日本経済は企業部門を中心に景気回復が続き、経済の成長力や競争力は着実に高まってきた。ICT(情報通信技術)の利活用がさらに浸透し、イノベーションやコミュニケーションのコストは大きく下がっている。ICTや研究開発など無形資産への投資と利活用をさらに推し進めることは、わが国の成長力強化にとって不可欠であることは論をまたない。
 ただし、折からの人手不足のなか、ICTが汎用技術としてより浸透することで、今後より多くの労働や仕事が新技術を体化した資本によって代替される可能性がある。技術の代替性が高まると、労働所得への分配を抑制することが企業にとっては合理的だ。このメカニズムが強まれば、経済全体のパイが拡大しても労働分配率の伸びはより抑えられるだろう。消費や物価の回復には勢いがつきにくくなる可能性には留意が必要である。
 経済の成長力が今後も高まっていくという認識のもと、2%物価上昇率は、引き続き目指すべき達成可能な目標である。しかしその実現には、まだ相応の時間がかかると予想される。今後の金融政策運営は、緩和長期化による効果と副作用のリスクの双方をより注意深く点検しつつ、現行の枠組みを柔軟かつ粘り強く継続していくべきである。

INDEX

 日本経済は企業部門を中心に景気回復が続き、経済の成長力や競争力は着実に高まってきた。ICT(情報通信技術)の利活用はさらに浸透し、イノベーションやコミュニケーションのコストは大きく低下してきている。一方で、家計消費には慎重さが残っており、2%物価安定目標の実現にはまだ相応の時間がかかると予想される。本稿では、ICTの進展が、景気や物価、労働分配などに及ぼす多様なメカニズムを整理するとともに、財政との関わりなど緩和長期化によって懸念される副作用のリスクについても検討する。最後に今後のあるべき金融政策運営について述べる。

日本経済は企業部門を中心に経済の回復が続くが、家計消費の慎重さは残る

 まず、回復が続く日本経済の現状を確認しておきたい。わが国のマクロ経済は全体として着実な改善を続けている(図1)。特に最近の回復を牽引しているのが企業部門である。企業収益は改善が持続しており、国内設備投資も足許で増勢が明確になってきている(図2、図3)。

 企業部門改善の背景には、海外経済の回復に加え、次節で述べるような、ICT(情報通信技術)のさらなる進展も見逃せない。ICT投資や利活用はさらに広く浸透してきており、その結果、イノベーションやコミュニケーションのコストは大きく下がってきている。プラスの供給ショックが継続して発生している状況であり、わが国の成長力と生産性の上昇に寄与しているとみられる。

 一方で、家計の消費にはまだ慎重さが残っている。2012年あたりから消費支出の回復は勢いが増し、消費者物価上昇の原動力となってきた。しかし期待された賃金への波及は思いのほか緩やかで、2014年からの消費税増税や年金所得の減額(物価スライドの終了、マクロ経済スライドの実施)などの影響も重なり消費の伸びは勢いを欠く(図4)。

 経済全体のパイは着実に拡大しており、労働所得自体も増加している(図5 A)。他方で全体の所得が労働所得へ分配される比率(労働分配率)は低下している(図5 B)。労働所得にのみ依存する多くの家計にとっては、全体の景気ほどには回復を実感できない様子が見て取れる。後述するように、労働分配率の伸びが抑えられる要因として、ICTの進展が影響している可能性があり、それが消費回復への重石の1つとして加わっているかもしれない。

図1 日本経済全体の回復は続く ―実質GDP―

(出所)内閣府「国民経済計算」

図2 企業収益の改善が回復を牽引 ―売上高・経常利益率(全産業)―

(出所)財務省「法人企業統計」

図3 国内設備投資も足許で活発化 ―民間企業設備投資(実質)―

(出所)内閣府「国民経済計算」

図4 家計消費には慎重さが残る ―民間消費支出(実質)―

(出所)内閣府「国民経済計算」

図5 労働所得自体は伸びるも、労働分配率は低下傾向
―A.名目GDPと雇用者報酬―

―B.労働分配率(雇用者報酬/名目GDP)―

(出所)内閣府「国民経済計算」

ICTの進展、研究開発投資などが成長力強化に寄与する

 ではICTの進展を概観してみよう。ICTは現代の汎用技術(General Purpose Technology)であり、持続的な成長を牽引する原動力の1つであるという認識は、おそらく広く共有されるだろう。いまや携帯電話・スマートフォンは国民に幅広く行き渡り、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)など「第4次産業革命」と称される進化も急速に進行中である。経済のデジタル化は企業活動や経済取引のさまざまなシーンに広がり、その傾向は日々強まっている。技術進歩によってICTの利用や開発のコストは低下し、それがさらなる利活用を促している。総務省が公表した集計データをみても、ICT関連の投資は高水準で推移し、付加価値(実質GDP)でみても伸びが継続している(図6、図7)。

 さらに付言すれば、ICTの進展と歩調を合わせる形で、研究開発投資も活発化してきている。2016年末、GDP統計の基準改定が実施されて2008SNA基準となり、新たに研究開発支出が資本化され国内設備投資に含まれることになった。図8は、新系列の企業設備投資と旧系列(1993SNA、2016年第2四半期まで)とを比較しているが、この図において、新旧系列の差が研究開発投資に相当する。2012年ごろから研究開発投資が増え始め、その増勢が国内設備投資の拡大に寄与してきたことが見て取れる。企業の研究開発はデジタル化、ロボット化、IoTなどをさらに推進させ、ICTをさらに経済に浸透させる。それはまたイノベーションのコストをより一層低下させ、新製品や新サービスの開発を後押しする。研究開発とICTが互いに影響を及ぼし合いながら資本蓄積が進み、成長力強化に寄与してきた姿が浮かび上がる。

図6 ICT投資は高水準で推移 ―情報化投資(実質)―

(注)情報化投資=電子計算機+ソフトウエア+電気通信機器、2011年価格
(出所)総務省「平成29年版情報通信白書」

図7 ICT関連GDPの伸びも続く ―情報通信産業の実質GDP―

(注)情報通信産業GDP=通信業、情報通信関連製造業・サービス業、研究など、2011年価格
(出所)総務省「平成29年版情報通信白書」

図8 国内設備投資の活発化に研究開発投資が寄与 ―企業設備投資の新旧系列:その差は研究開発投資―

(注) 新系列:2008 SNA(1994年〜2017年第3四半期)、旧系列:1993 SNA(1994年〜2016年代2四半期)、2つの系列の差は主として研究開発投資を表す。
(出所)内閣府「国民経済計算」

技術進歩により労働から資本への代替メカニズムが強まれば、労働所得への分配は抑制される

 ICTの進展は、企業の生産技術にも基本的な変化をもたらす。よく論じられるとおり、これまで人が担ってきた定型化された仕事は、デジタル機器や情報システムなどICT資本に代替され、自動化されてきた。技術進歩により資本財価格は低下傾向をたどっており、その傾向は世界的に観察される。

 利潤を最大化する企業にとって、より割安な資本をより多く使用して生産を行うことは合理的である。経済学では、賃金と資本財価格の比率(資本の相対価格)が変化することで労働と資本の投入比率が変化するその反応度合いのことを「代替の弾力性」と呼ぶ。この代替の弾力性が1より高い場合、企業は資本財価格の低下幅以上に資本の投入量を増やす。その結果、資本サービスへ分配される所得の割合が増え、労働サービスへ分配される所得の割合(労働分配率)が低下するという結果が示される(注1)。最近の研究では、このメカニズムに基づいて、近年グローバルに観察される労働分配率の低下傾向の約半分が説明されるという実証結果も報告されている(注2)

 ここで本稿が注目するのは、ICTやデジタル化など一段の技術進歩によって、労働から資本への生産技術の代替性がさらに高まり(つまり上記の代替の弾力性が1を超えてさらに上昇し)、上記のメカニズムがより強まってきているのではないかという点である。特に日本の場合、折からの人手不足も手伝って、相対的に希少で割高な労働から、豊富で安価な資本へと代替する動きが強まっている可能性がある。実際、省力化やデジタル化を進める設備投資ならびに研究開発投資は活発化しており、金融業などイノベーションが加速している分野では代替の動きは早まっている。さらに、資本に代替される労働や仕事が増えることで、企業内部ではミスマッチによる人余り(摩擦的な失業)や配置転換などの調整コストが発生し、それが賃金の上昇を抑制しているといった面も考えられる。

 賃金や労働分配の伸びを抑制するメカニズムが作用し続けることは、家計消費にも影響を及ぼすだろう。家計が配当など資本所得にもアクセスできれば、ICT進展による成長の果実を十分に享受できる。しかし、周知のように、わが国家計の金融資産のなかで株式・投資信託の割合は低く、米国や欧州に比べてもその低さは際立っている(米国47%、欧州27%程度に対して、日本では15%程度にとどまる)(注3)。資本所得へのアクセスが限られる中間層にとって、経済全体の拡大による恩恵はスムーズには及びにくい。また代替のメカニズムが今後も強まると家計が予想すれば、仮に景気全体の拡大は見通せても、労働所得の将来の見通しは高まりにくいかもしれない。

 図5で確認したように、わが国の労働分配率は低下してきており、ICT進展を背景とする代替のメカニズムがその1つの要因として加わっている可能性は排除できない(注4)。今後もICTはさらなる進化が期待されており、成長の果実を家計部門により広くかつスムーズに波及させることはこれまで以上に重要となる。そのためには、代替のメカニズムにも留意した施策を検討すべきである(注5)。たとえば、家計が資本所得へよりアクセスしやすくなるような措置として、利子・配当所得に対する減税など検討に値するだろう。

2%物価安定目標:実現にはまだ時間がかかるが、目指すべき目標に変わりはない

 以上のような考察を踏まえて、今後の金融政策運営について考えてみたい。

 まず、2%物価安定目標の実現には、まだ相応の時間がかかる可能性が高いと考えられる。日本銀行による最新の経済・物価見通し(「経済・物価情勢の展望」2017年10月)によれば、2%物価目標が実現する時期は2019年度と見込まれている。後2年程度で実現する可能性が高いというのが日銀によるメインシナリオだ。しかし、上記のような代替のメカニズムも勘案すれば、その期間で達成できるかどうか不確実性は高い。ICTの進展が加速して、2%目標の実現時期がさらに後ずれることになっても不思議ではない。

 2%物価安定目標の実現までにより長期の時間を要する場合、2%という目標自体を引き下げるべきだろうか。忘れてはならないのは、仮にICTの一段の進展により労働分配率や物価の伸びが抑えられることになっても、経済全体のパイは拡大し成長力は高まっているという点である。2013年1月、政府と日銀が公表した共同声明では、下記のとおり明記されている。

日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。


 実際、共同声明で謳われたこの認識に沿う形で、この間の日本経済の景気ならびに成長力は着実に高まってきた。先の図で確認したように、それは企業の収益力の改善、国内設備投資・研究開発投資の拡大などからも窺われる。今後も成長力と競争力が持続的に高まっていくという認識のもと、2%物価安定目標は、目指すべき達成可能な目標であることに変わりはない。

将来の政策へのガイダンスは強力な緩和効果を及ぼしている

 日本銀行は2%物価安定目標を堅持し、現在の緩和政策を粘り強く続けるべきである。その際、大規模な緩和が長期化することの効果と副作用リスクの双方をこれまで以上に注視していかなくてはならない。

 まず効果の面についてみると、緩和策が継続することによる政策効果は今後より強まると予想される。設備投資・研究開発投資などが堅調に推移し成長力が高まっていけば、経済に中立的な均衡金利水準(自然利子率)は緩やかに上昇していく地合いにある。それは金融緩和の効果を高めることになる。

 もとより現代の非伝統的金融政策において、各国の中央銀行は、将来の政策に関する指針(政策金利やバランスシート政策に関するフォワードガイダンス)を公式に表明し、その情報発信そのものを政策ツールとして活用している。日本銀行の現在の枠組みでは、物価上昇率の実績値が安定的に2%目標を超えるまでマネタリーベースを拡大するという「オーバーシュート・コミットメント」もその1つである。将来のバランスシート拡大という政策を、2%目標にリンクさせて(つまり予め期限を設けないオープンエンドの形で)継続することを表明したもので、このガイダンス自体が強力な緩和政策となっている。それは為替レートや株価など金融環境全般へ強い緩和効果を及ぼしていると推察される。

 逆にいえば、将来の政策に関するガイダンスもしくは2%目標の枠組みそのものを修正することは、人々や市場が既に織り込んでいる予想の修正を迫るものであり、金融環境の急変をもたらすリスクがあるという点は十分留意しなければならない(注6)。現代の非伝統的金融政策、とりわけ大規模かつオープンエンドに国債買入れを行うバランスシート政策は、経済に対して明確かつ持続的な効果を及ぼしうるという見方は理論・実証の双方から示されてきている(注7)

財政との関わりなど副作用のリスクもより注意深く点検すべき

 一方で、緩和長期化に伴って懸念される副作用のリスクについても目配りする必要がある。非伝統的金融政策に関する主なリスクとしては、(ⅰ)金融面の不均衡(資産価格バブルなど)、(ⅱ)金融システムへの影響(金融機関収益の悪化など)、(ⅲ)財政政策との関わり(財政ファイナンスのリスクなど)などが指摘される。

 (ⅰ)の資産価格への影響は、政策の効果とまさに裏腹の問題である。過去のバブル発生の経験をみると、1980年代後半の日本のバブルや2000年代初頭のITバブル、世界金融危機をもたらした米国の住宅バブルなど、いずれもその背景では生産性向上や技術革新などが発生して経済のファンダメンタルズが改善しており、人々の期待が強気化したという共通項がある。現在のわが国には高齢化や人口減少など成長抑制要因がある一方で、本稿で論じてきたように企業部門の成長力・競争力の改善やICTのさらなる進展などプラス要因も存在する。後者のプラス要因は海外にも当てはまる。ファンダメンタルズ改善を背景に、人々の期待が強気化しないかどうか、あるいはそこに信用拡大が伴っていないかどうかなど、内外の資産価格バブルを巡るリスクには今後相応の注意が必要とみられる。

 (ⅱ)については、金融システム全体でみれば、自己資本と流動性の両面で安定性は確保されている(日銀「金融システムレポート」2017年10月)。もっとも金融機関の低収益環境は構造的に続く可能性があり、脆弱性が高まらないかどうか丁寧に点検していかなくてはならない。

 (ⅲ)の財政面との関わりについて、2つに分けて検討したい。まず1つは、大規模な緩和が続く一方で財政健全化の取組みが遅れており、財政ファイナンスの様相を呈しているとの懸念についてである。この点については、政府は財政健全化の方針を明確に掲げており、日銀は政府財政とは独立して自らの判断で政策運営を行っている。日本の経常収支は黒字基調を維持して対外純資産の蓄積も進んでおり、いわゆる「Safe Haven(安全通貨)ステイタス」は今後も維持される可能性が高い。現時点で、わが国の国債や通貨(政府・中央銀行が発行する負債)の信認に対するリスクが高まっているとは考えにくい。

 一方で、この状況が永久に続く保証はないというのも事実である。政府債務残高を無限に増やすことはできず、現在190%程度まで高まってきている政府債務のGDP比率にもどこかに上限があるはずである。その限界点の先には、財政ドミナンスや財政インフレと呼ばれる危機的状況が待っている。財政は規律を失い、金融政策は政府財政に従属して国債の直接引き受けやヘリコプターマネー政策などを制度的に容認せざるを得なくなるだろう。そうした状況に陥るリスクは現時点では低いとみられるが、完全には排除できない。経済の成長力をさらに強化するとともに、政府は財政規律を堅持しなければならない。

 財政との関わりでもう1点懸念されるのは、将来出口を迎えた際に日本銀行の収支が悪化し財政負担が発生するのではないかという点である。出口を迎えて付利金利を引き上げた場合、金融機関への利払いコストが増える一方、日銀の保有国債の金利が低いために「逆ざや」になりかねない。この「逆ざや」がどの程度の規模になり、そもそも発生するのかについては、今後の国債買入れのペース、出口における付利金利の上昇ペース、長期金利の水準など、さまざまな要因に依存する。出口において急激に利上げを行わなければならないほど経済物価が過熱するような状況になれば、それに伴って支払利息は急増する。しかし、米国におけるインフレ動向や利上げのペース、米国長期金利の水準、世界的な賃金・物価の伸び悩み傾向などをみると、少なくとも現時点で判断する限り、急激な出口シナリオを迎えるというよりは、緩やかなものになる可能性の方が高いとみられる。

 いずれにせよ、バランスシートの縮小という最終的な出口がみえてくるのは、2%目標の達成が近づいてからである。建設的かつ現実的な出口論を進めるうえでも、実体経済や物価情勢に関する分析と評価が不可欠である。その際、本稿で強調したとおり、ICTの進展や成長力など経済の供給面の動向がカギを握ることはいうまでもない。

金融政策は今後も経済の回復を下支えする役割を担う

 わが国の経済・物価情勢を概観する限り、2%物価安定目標の実現まではまだ距離があるものの、企業部門を中心に堅調な改善が続いている。成長力・競争力強化の取組みは着実に進展してきており、それは今後も継続するだろう。その認識のもと、2%物価上昇率は、引き続き目指すべき達成可能な目標である。

 企業業績の改善が続くなか、金融政策はこれからも日本経済の回復を下支えする役割を担っていかなければならない。海外経済の回復基調が続き、米欧では金融政策の正常化に向けた動きが徐々に進んでいる。わが国でも『量』は正式な操作目標ではなくなり、既に国債買入れペースは幅を持って運営されている。内外経済の堅調さが続けば、現在ゼロ%程度としている長期金利の操作目標の調整もやがて視野に入ってくるだろう。わが国の金融政策運営にあたっては、緩和策の継続による効果とリスクの双方をより注意深く点検し、現行の枠組みを柔軟かつ粘り強く継続していくことが求められる。

宮尾龍蔵(みやお りゅうぞう)

東京大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)(ハーバード大学)。元日本銀行政策委員会審議委員(2010年3月~2015年3月)。専門は金融、マクロ実証分析。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)宮尾龍蔵(2017)「ICTの進展と金融政策運営」NIRAオピニオンペーパーNo.33

脚注
1 代替の弾力性が1を超える場合、生産技術はより一般的なCES型生産関数を用いて表される(通常はコブ・ダグラス型生産関数のもとで代替の弾力性は1と想定)。CES型生産関数に基づき、かつ代替の弾力性が1を超える場合、資本財価格の相対的な低下により、労働所得の資本所得に対する比率(したがって労働分配率)が低下するという結果が示される。
2 L.Karabarbounisand B.Neiman , “The Global Decline of the Labor Share , ” Quarterly Journal of Economics , 129(1), 61-103 , 2014 .
3 日本銀行「資金循環の日米欧比較」2017年8月。
4 労働分配率の低下をもたらす他の要因としては、①企業のグローバル化(労働集約的な生産工程のオフショア化)、②労働市場の制度要因(労働組合の組織率の低下など)、③「スーパースター企業」の隆盛(アマゾンやフェイスブックなど特定企業の市場シェアが高い産業ほど労働分配率はより大きく低下)があげられる。
5 企業に対して賃上げを過度に要求することは、労働は資本に比べてさらに割高になることを意味し、逆にこの代替のメカニズムを強めてしまうかもしれない。
6 2013年5月、米国FRBのバーナンケ議長が大規模資産買入れの修正をほのめかす議会証言を行ったことで長期金利が1%近く急騰したことは記憶に新しい(いわゆる「バーナンケショック」)。
7 拙著『非伝統的金融政策』(有斐閣、2016年)2章、3章などを参照。

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