企画に当たって

牛尾治朗

国有企業改革こそが鍵を握る

牛尾治朗

NIRA総合研究開発機構会長/ウシオ電機株式会社代表取締役会長

KEYWORDS

中国経済、国営企業、国有企業、景気減速、ニューノーマル(新常態)、経済成長の条件

大国入りを果たした中国

 アジアの新しい世紀が始まろうとしている。太平洋を取り巻く12カ国が加盟するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やアセアン諸国によるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)が本格化すれば、アジア地域で超グローバル化とも呼ぶべき新しい動きが生まれる。そうなれば、その軸となる日米豪、そして中国がどのようなスタンスを取るかによって、世界の超グローバル化の行方は大きく左右されることになろう。

 中国は、2000年以降、平均して年率10%の成長率を継続し、09年に世界第2位の大国入りを果たした。いまでは、米国、中国、日本、ドイツの4カ国を合わせたGDPは世界の約半分を占めるに至る。近年は中国で評価額が10億ドルを超える非上場のユニコーン企業が増えてきている。シャオミやディディ・クアイディ、DJIなどのIT企業が次々と誕生しているのも、中国経済がサービスを中心に新しい発展局面に入ったことを示している。

国営企業から国有企業へ

 さて、時を1990年代に戻そう。

 「経営組織は国有企業でいいが経営行動は民営でなければいけません。国有国営の日本の鉄道は一昨年から国有状態のままで経営陣が一挙に民営組織に変わったため、このように素晴らしい業績が展開されました。市場原則の導入、顧客との密接なコミュニケーションと深い関係、働く人のモラルアップ、納入業者への信頼関係等々いわゆる市場経済は、関連する重要な関係者と信頼関係を保(たも)ちつつ情報をオープンにしながら経営する態度が大切です。」

 これは1992年3月14~16日の間に笹川平和財団と中国国際友好連絡会が主催する「日中企業経営管理上海セミナー~民営とは何か~」のセミナーの冒頭で、私が問題提起をした内容である。

 日本側のメンバーは日本電信電話の石井康雄さん、東日本旅客鉄道経営本部の細谷英二部長(前りそな銀行会長)、一橋大学の野中郁次郎教授と竹内弘高教授と私であった。また、中国側は北京から国家計画委員会、上海経済委員会の中枢人物が参加し、200名の参加者で会場が埋まり、かなり熱があるものとなった。とりわけ、細谷さんの民営化戦略の成功の報告は非常に評判がよかった。

 それから2年ほどが経(た)ったころ竹内教授から「本日人民会議(全国人民代表大会)でこれから国営企業を国有企業と名称を変えることになったと連絡があり、あのセミナーの議論が通じたみたいですよ」と知らせてもらった。

 その後中国の国有企業は極めて活発に民営型の経営、関連する企業に対する信頼関係を築くこと等を熱心に実現し、大変な成果を収めたようである。

 しかしながら、日本の郵政改革をみても明らかなように、所有権を有する政府の介入を排除することには限界があり、政治的な思惑によって方針は容易に変更される。国有企業改革が強く叫ばれているのも、経営のみならず「所有」も民間化するという新しい局面に踏み込む必要を専門家が感じているからだろう。

景気回復か、長期停滞か

 今回の6人の専門家は、中国経済についての多様な見方を示している。

 まず、現在の景気減速をどう捉えるかという点では、2008年の世界金融危機後の景気対策を通じて支出を増やした国有企業や地方財政が、いまは過剰設備や超過債務に陥っているという見方で一致している。ただし、その解釈については2通りの見方ができるようだ。

 1つは、瀬口清之氏、関志雄氏、田中修氏が指摘するように、短期的には株価が下がっているが、住宅市場の回復は景気の下支えとなっており、構造転換が順調に進めば次第に経済は明るさを取り戻す、とみるものである。

 もう1つは、中国経済はデフレ状況にあり、長期低迷入りを示唆するものだ。梶谷懐氏は、このまま推移すれば、90年代の日本のように経済は長期停滞に陥るとみる。それを回避するため、物価上昇率の期待を一定の水準まで引き上げるリフレ政策を取るべきだと主張する。

 さらに時間軸を伸ばして将来展望も射程に入れれば、中国の富裕層・中間層の消費意欲は根強く、今後も貨物需要が見込まれるとの大橋洋治氏の指摘も肯ける。日本と中国のあいだの人やモノの移動のためのインフラが整備されれば、経済は飛躍的に発展すると見込まれる。

ニューノーマルへの移行の条件

 中長期的には、これまでの高成長から「ニューノーマル(新常態)」といわれる6%台の低成長に移行するという見方で識者の意見は一致している。問題は、そのためにはいくつかの条件をクリアしなければならないということだ。

 まず、ほとんどの識者が挙げたのは国有企業の改革である。世界金融危機で中断された改革を再び推し進め、所有の完全民営化を進めるべきという指摘だ。しかし、改革の成功に対しては皆懐疑的である。

中国経済について、6人の識者はどう考えているか
(※文字の大きさは、インタビューで識者が使用した頻度を示している。)

 次に、イノベーションによる生産性の向上を実現することが必要だという点も共有されている。知的所有権の確立が必要という指摘はもっともだ。他方、関氏のサービス分野の民間企業の活力を生かせば生産性向上も実現できるという指摘は、サービス産業による途上国の新たなキャッチアップ経路の可能性を示唆しているように思える。

 加えて、経済的な側面のみならず、政治的な民主化を進めることが必要だとの柯隆氏の指摘は重要だ。民主化が経済成長に不可欠かどうかは専門家のあいだでも議論が分かれるが、企業経営の透明性を高めることが、経済成長にとって不可欠な条件であることは疑いようのない事実であろう。

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

大橋洋治

成長は減速するが、なお有望市場

大橋洋治

ANAホールディングス株式会社相談役

KEYWORDS

有望な市場、個人消費、訪日客、貨物輸送の増加、上海、天津、寧波

 中国経済が、このままハードランディングに向かう可能性は低いと見ている。現在年率7%程度の成長率は、今後10年で5~6%に落ちるだろうが、それでも中国が非常に有望な市場であることに変わりはない。1人当たりGDPが向上し、富裕層のみならず中間層の購買力が高まって、個人消費は今後も伸びる。自動車や家電製品などの耐久財に加え、旅行・サービスへの消費がさらに増えることは確実だ。現在、北京・上海・広州などの主要都市では、2020年をめどに空港が拡大されており、中国内外への航空の往来はますます盛んになる。

 中国からの訪日客も引き続き期待できる。訪日客の増加に向けて、到着空港での入国審査の簡易化やホテル不足の解消が、日本の課題となる。日本からも、マーケティング目的などの訪中が今後も増える。観光客については、日中の政治的関係にも左右されるが、従来の沿岸都市ばかりでなく、今後は内陸にも向かうのではないか。内陸部は、世界遺産の九寨溝(四川省)や、成都近くの「三国志」関連の遺跡など発展性のある地域はまだまだあり、掘り下げて研究していく価値がある。

 こうしたなか、中国路線でとくに注視しているのは、貨物だ。日本の航空会社は、もともと人(搭乗客)が主体。貨物は搭乗客を運ぶ際の「余禄」的な意味合いが強かったが、日中間のビジネス拡大に伴い、今や貨物輸送なしにはありえないほどで、今後も引き続き大きな増加を見込んでいる。貨物専用機材を増やしているが、まだ不十分だ。仕向け地としては、貨物の最大拠点である上海だけでなく、船舶輸送でも重要な天津や、また日本ではまだあまり顧みられていない寧波も注目の都市である。

 中長期的には、急激な少子高齢化や環境汚染など、簡単には処方箋の見つからない重い課題を中国は抱えている。共産党一党支配がいつまで続くかなど、政治的な不透明さもある。指導部が冷静に実情を把握して正しい処方箋を示せるかが、今後の発展を占う鍵となるだろう。

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一海知義〔2007〕『漢詩一日一首 春・夏・秋・冬』平凡社ライブラリー

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

瀬口清之

安定成長に向け輸出競争力の維持を

瀬口清之

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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安定維持、市場との対話、国有企業改革、輸出競争力の維持

 2016年の中国経済は、6.5%前後の成長率を達成し、引き続き安定を維持するだろう。株価下落による売買高減少がマイナスに寄与するが、これまで足を引っ張っていた地方財政と不動産投資の回復がプラスに働く上、第13次5カ年計画が初年度である今年は成長率を押し上げる。つまり、5カ年計画で実施される「一帯一路(新シルクロード)」構想、長江流域経済ベルト、北京・天津・河北省経済圏発展モデルの3つの国家プロジェクトの初年度の景気押し上げ効果が期待できる。

 来年度以降は、成長率は6.5%から徐々に低下し、2020年代には5%台に落ち着くのが安定成長期への望ましい姿だ。

 中国政府が掲げている「新常態」の政策は、適正な成長率へ移行し、効率的な経済構造に転換するための投資の健全化を目標としており、これは基本的に正しい。ただし、経済構造の転換を成功させるには、少なくとも以下の3つが必要だ。

 第1に、改革実施の中心的プレーヤーと期待される人民銀行や中央・地方政府が、市場との対話の仕方を身につけることである。地方財政改革推進のため、金融機関の地方プロジェクト審査能力の強化も必要だ。しかし、市場に政策意図が伝わらず、地方政府や金融機関に審査の経験がなかったため、所期の効果が得られなかった。

 第2に、停滞している国有企業改革を大胆に進展させることである。民営化により、市場経済の下での自由競争を促し、中国経済の健全な発展を促す事が重要だ。現在は、国有企業の採算は黒字であるため、幹部に危機意識がなく、2015年から実践段階に入るはずの改革は手つかずの状態だ。高度成長の終わる2020年代に入ってからでは改革が手遅れになる恐れがある。

 第3に、中国が輸出競争力を維持することである。それができるかどうかは、日本企業の対中投資が再び増加し、中国の技術力を高められるかどうかが鍵となる。これまで中国の改革開放政策を支えてきた日本企業が、今後さらに中国での市場シェアを増やしていくことが両国のウィン・ウィン関係に繋がっていくだろう。

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瀬口清之〔2014〕『日本人が中国を嫌いになれないこれだけの理由』日経BP社

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

梶谷懐

短期的にはデフレ脱却が重要

梶谷懐

神戸大学大学院経済学研究科教授

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デフレからの脱却、過剰投資、金融緩和、リフレーション、金融政策の独立性、都市化政策

 中国経済の1番の懸念材料は、中国がいま、いわゆるデフレ状態にあるということだ。まずは、デフレからの脱却に取り組むべきだ。

 リーマン・ショック後の4兆元にものぼる大規模な景気対策後、国内投資に過度に頼ってきた経済は調整局面に入った。卸売物価は、製造業の景気悪化を反映して、ここ数年マイナスが続いている。借り入れの担保となる不動産の価値も下がり、負債と資産が肥大化した国内企業は、債務デフレの状態に陥っている。これは、過剰投資の問題を一層深刻化させており、ここしばらくは景気の低迷が続くだろう。

 解決策の1つは、過剰債務企業を清算し、投資に依存しない健全な企業を増やすことだ。しかし、民間企業がつぶれても、国有企業が生き残ってしまうリスクが大きい。

 それより実効性が高い解決策は、金融緩和によって人民元の供給を増やし、リフレーションを進めることだ。そのためには金融政策の独立性が確保されなければならない。だが、いま進めている人民元の国際化は、金融政策の自由度を縛り、リフレの足かせとなる。「独立した金融政策」「通貨の安定」「自由な対外資本取引」の3つを同時に実現することは困難だからだ。通貨の安定を前提とする元の国際化とデフレ脱却の二兎を追うのではなく、まずリフレによるデフレ脱却に焦点を絞った政策を進めるべきだろう。

 中長期的には、北京・上海など大都市と農村部や地方の格差をどう解消するかが大きな課題となる。その解決策として、都市化政策が行われている。大都市については、農村出身者に都市の居住証を与える政策が進められている。居住証は学歴などによりランク付けされ、あえて差をつけることにより急速な都市人口の膨張を抑えようとしている。他方で内陸部を中心に、30万人規模の都市建設をめざしているが、財源の問題や新たな乱開発の原因となるというリスクが指摘されており、先行きは不透明である。

 「新常態」の下で経済のかじ取りをどうするか、専門家でも意見が分かれている。デフレ脱却、人民元の国際化、都市化政策のどれを優先させるかにより、成長率も大きく変動する。うまくかじ取りが行なわれなければ、中長期的な経済停滞に陥りかねない。

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梶谷懐〔2015〕『日本と中国、「脱近代」の誘惑―アジア的なものを再考する』太田出版

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

関志雄

ニューチャイナへの転換が成長維持の鍵

関志雄

株式会社野村資本市場研究所シニアフェロー

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賃金上昇、消費伸長、生産性向上、国有企業改革、転換期

 中国経済の現状をそれほど悲観的には見ていない。上海市場の株価は急落したが、中国企業の資金調達が主に銀行融資に頼っているため、それによる投資への影響は限定的である。むしろ資金が株価下落を機に不動産市場に戻ったことで、2014年後半から一時調整局面に入った住宅価格は持ち直している。これをきっかけに、GDPに占める割合が1割を超す住宅投資が回復に向かえば、景気の失速は避けられよう。

 楽観的になるもう1つの根拠は、低迷する輸出や投資とは対照的に、労働力不足を背景に賃金がGDPを上回るペースで上昇するようになったことを受けて、消費が順調に伸びていることだ。とくにネット通販は、農村部にも浸透しはじめ、2014年の販売額が米国の1.5倍に当たる4,500億ドルに達している。

 中長期的には、供給サイドの改革を通じて潜在成長率の下落傾向に歯止めをかけることが最大の課題だ。労働人口が減少し、高齢化とともに家計の貯蓄率が低下するなか、成長の鍵を握るのが生産性の向上である。それを実現する手段はイノベーション、産業の高度化、国有企業改革だ。

 このうち、イノベーションと産業高度化は、民間企業の活力を生かせば十分実現可能だ。実際、中国で成長が最も目覚ましいインターネット産業において、BATと呼ばれるトップ3の企業(バイドゥ、アリババ、テンセント)はすべて民間企業である。この勢いに乗って、中国は懸念されている「中所得国の罠(わな)」も乗り越えられるとみている。

 他方、楽観出来ないのは、国有企業改革だ。国有企業の多くは、投資需要の減速で過剰設備を抱えるようになった重厚長大産業に属している。これらの産業においては、効率を高めるために、国有企業の民営化や統廃合を通じた再編が求められる。残念ながら、既得権益集団の抵抗に遭い、国有企業に関わる改革のペースは非常に遅い。

 このように、中国経済はオールドチャイナからニューチャイナへの転換期にある。労働力、資本、土地といった生産要素を国有企業や斜陽産業から民営企業や新興産業に順調に移していけるかどうかは、今後の見通しの明暗の分かれ目となる。

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関志雄〔2015〕『中国「新常態」の経済』日本経済新聞出版社

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

柯隆

明日の中国の「方向性」が見えない

柯隆

株式会社富士通総研主席研究員

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2020年ポスト習近平問題、政治・経済改革、チャイナセブン、市場経済化、イノベーション型経済、知財保護、中所得国の罠

 2015年夏の株価急落は、習近平政権が「明日の中国」の方向性を明示できていないことが原因で生じた。方向感が見えないため投資家は動揺し、資本逃避が起きた。経済の潜在力が急に低下したわけではない。

 現政権は2022年まで続くが、政権交代の2年前からは権力闘争が激化するのが常だ。2020年にポスト習近平問題が顕在化すれば、経済問題は2の次となる。リスクをクライシスにしないためには、今後3~5年のあいだに思い切った政治・経済改革を実行することが重要だ。

 政治改革を行ない、皆が納得する形で習近平の後継者が選ばれれば、政治も安定する。共産党が下野する形での民主化は無理でも、チャイナセブンとよばれる7人が民主的に話し合い、集団指導体制を透明性あるシステムで運営できるかどうかだ。

 経済面では、国有企業への統制を弱め、市場経済化を進めねばならない。共産党はその必要性を認識しているが、そのための具体的な解決策が見えていない。国有企業は共産党の支持基盤であるため、むしろ政府によるコントロールを一層強めており、現実は逆方向に進んでいる。

 もう1つの課題は、人口減少を補うためにも、イノベーション型経済へ転換することだ。しかし、見通しは暗い。イノベーションを促すのに必要な市場競争を、市場を独占している国有企業が邪魔している。また、新たな技術開発を促すには、知的財産権の保護も不可欠となる。中央政府は知財保護の必要性をよく認識しているが、問題は地方政府だ。たとえば浙江省の一部の地域で、外国のブランド品をコピーする企業が集中しているが、取り締まると財源が半分になるといって、地方政府は取り締まる気がない。現地の雇用問題にも直結するため、改革は容易ではない。地方政府に知財保護の意識が浸透するまでには20~30年かかるだろう。

 これらの改革の方向性を政権が示せなければ、今後の見通しは悲観的といわざるとえない。経済成長も慢性的に低下して、「中所得国の罠」に陥る恐れがある。

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Michael Pillsbury〔2015〕"The Hundred-Year Marathon:China,s Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower" Henry Holt and Co.(マイケル・ピルズベリー〔2015〕『China 2049』野中香方子訳、日経BP 社)

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中国経済をどうみるのか。成長のための課題は何か。

田中修

構造調整を進め、格差縮小を実現できるか

田中修

日中産学官交流機構特別研究員

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短期「楽観」・中期「悲観」、構造改革、持続可能な社会保障制度、累進課税、企業の競争力

 中国経済については、短期的には「楽観」、中期的には「悲観」に見ている。足元の消費者物価の上昇は、季節変動の要因を受けやすい生鮮野菜の値上がりによるものだが、潜在的な需要減によるデフレの兆候もまだ現われていないと考えている。消費はとくにネット販売が好調で、新しい消費形態の拡大が経済を支えつつある。投資では、不動産投資の減少を、道路整備などの都市インフラ投資で支えている状況だが、不動産販売額は足元では増えてきている。

 中国の指導部はこれらの動きを高成長から中成長への移行過程にあり、「新常態」と前向きに評価している。雇用が確保されている限り、景気対策を打つべきではないというのが指導部の考えだ。中国は従来の大規模投資から、3次産業や消費を軸にした、質・効率を重視した経済発展へと変化しつつあると強調している。

 他方、中期的には、第13次5カ年計画の最終年である2020年までに構造改革をいかに実現するかが、重要な課題となる。まず、持続可能な社会保障制度の基盤づくりが重要だ。現在、社会保障制度を急ごしらえで整備しているが、2025年以降大量に生まれた文革世代が高齢者となる超高齢社会が到来することを考えれば、現在進めている見直しでは不十分だ。今後成長率が下がることで歳入が伸び悩むかもしれないため、財政とのバランスを考えた制度設計が求められる。

 次いで重要なのは、低所得者のボトムアップを図り格差を縮小することだ。現在は、所得税の所得分類が11種類もあり複雑で、ごまかしができ、相続税もない。少なくとも累進課税の強化をすべきだ。さらに、国有企業を民営化し、外資の導入を進め、独自のブランドをつくり、企業の競争力を蓄えていくことも必要となる。

 これらの構造改革を断行するにも、現実には既得権益層の抵抗が根強く、逆行する現象すら見られる。国際的に高速鉄道を売り込むため、分割した鉄道車両会社を再統合するなどの動きだ。構造改革に失敗すれば一気にゼロ成長に落ち込む可能性もある。G20も構造調整を求めている。「外圧」を利用して指導部がいかに改革を進められるか、見守りたい。

識者が読者に推薦する1冊

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田中修〔2015〕『スミス、ケインズからピケティまで世界を読み解く経済思想の授業』日本実業出版社

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2016)「中国経済をどうみるのか」わたしの構想No.21

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、川本茉莉、原田和義
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