斉藤徹史
総合研究開発機構主任研究員

概要

 我が国の規制改革は、総じてみれば「進んでいる」といえるが、その一方で、「進んでいない」分野もあるとされる。「進んでいない」状態を「進んでいる」状態とするためには何をすべきか、過去の規制改革での経験をもとに考察した。
 本稿は、規制改革に関する国の会議の議事録や当時の改革に関わった方々へのインタビューなどをもとに改革の阻害要因を分析している。その結果、政界では「官邸のリーダーシップの不足」、行政では「官の自己改革意欲の不足」、経済界では「既得権の維持」、国民では「消費者主権や自己責任への認識不足」などが阻害要因として明らかになった。
 一方、これらを乗り越えて規制改革が進んだ分野も存在する。進展した事情・要因について、「航空自由化」と「一般医薬品の一般小売店での販売」を例にみると、「各省の改革派の存在」、「政府内の規制改革を担当する組織からの圧力」、「官邸のリーダーシップ」、「海外との競争」が抽出された。これらは、先の「官の自己改革意欲の不足」に対し、内外からの改革圧力として機能している。
 以上から、規制改革の進展にあたっては、改革に関わる「人物」の要素と、改革の原動力となる「制度設計(仕組みづくり)」の要素を考慮することの必要性を指摘できる。具体的には、①官邸のリーダーシップのもとで規制改革に関する国の会議を制度設計し、そこに熱意や能力をもった人物が参加すること、②官邸が規制改革の方針を明らかにする仕組みをつくること、③TPP協定という仕組みを海外からの「圧力」として機能させることが改革の進展には効果的である。
 これらの検討は、規制改革のみならず、政治、経済、行政などの分野で制度改革を進めるにあたっても参考になるものと考える。

INDEX

目次

はじめに
1. 規制改革とは何か
 (1) 規制改革の概要
 (2) 我が国の規制改革は「進んでいる」のか
 (3) 規制をめぐるアクター
2. 規制改革の歴史
3. 規制改革はなぜ進まないのか-過去の経験から
 (1) 政界に関わる阻害要因
 (2) 行政に関わる要因
 (3) 経済界に関わる要因
 (4) 国民に関わる阻害要因
 (5) 小括
4. 規制改革が進んだ要因を過去の事例から探る
 (1) 航空分野
 (2) 一般医薬品の一般小売店での販売
 (3) 小括
5. おわりに代えて-規制改革の経験から得られる今後への示唆


図表

図表1 G7各国の製造業市場の規制の強さ
図表2 OECD各国の参入規制の強さ

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)斉藤徹史(2013)「規制改革の経験から何を学ぶか」NIRAモノグラフシリーズNo.38

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