久末亮一
政策研究大学院大学研究助手

概要

 1970年代から犯罪問題との関連で認識されてきた「マネー・ローンダリング」は、 犯罪活動の国際化に伴い非伝統的安全保障の課題へと変容し、現在では2001年の同時多発テロを契機として、 テロ資金問題との関連から安全保障上の課題としても注目を集めるに至っている。
 これに対して、約20年の時間をかけて形成されてきた法的規制や国際間協力の枠組みは、一定の有効性を持つものではある。 しかしアジアにおいて、マネー・ローンダリングの手段・動態の一部は、「家族」「部族」「地域」といった、歴史的に形成されてきた信用体系、 慣習、社会関係などに基づくネットワークと連動性を持っており、硬直的な法的枠組みによる規制はもとより、 実態把握さえ困難な部分が存在する。一方で、マネー・ローンダリング規制の過剰強化、 さらにはそれが特定国間の外交戦略上の制裁手段としてアジアでも利用されつつある近年の状況は、 グローバルな経済活動のダイナミズムまで阻害する危険性を有しており、注意深く見守る必要がある。
 こうしたなかで、今後の日本がマネー・ローンダリングの流れを適切に監視し、実効性ある政策をおこなうためには、問題を国際的・ 地域的な観点から総合的に捉え、日本独自の主体的な情報収集・分析を可能にする体制を確立し、 またこれを実行しうる柔軟な人材活用を実施することが求められる。こうして、日本の政策側における金融情報能力を高めることは、 新たな次元での国力を高めることに貢献するものである。

INDEX

目次

はじめに
1.問題認識の変遷および国際間・アジア間の規制枠組
2.資金流動の動態と対策の限界
3.グローバリゼーションとの相克
4.日本の今後とるべき対応
おわりに

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)久松亮一(2008)「アジアにおけるマネー・ローンダリング問題」NIRAモノグラフシリーズNo.10

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