松浦達也
和歌山県森林整備課主任

概要

 森林は、二酸化炭素の吸収機能など地球環境問題等の解決に貢献できるものと期待が集まってきている。京都議定書の発効により、日本は温室効果ガス排出量を6%削減するよう義務付けられたが、その排出量は年々上回る一方で、排出削減は、国民・政府・企業が一体となって取り組むべき課題となっている。
 和歌山県は、県土の77%が森林に覆われる森林県であるが、林業は、社会構造の変化により厳しさを増し、山村の過疎化・高齢化と相俟って、経営放棄された「荒廃した森林」が拡がり、森林の持つ機能が発揮できなくなることが危惧されている。
 こうした中、林業経営を指向した「経済林」に対し、環境保全を目指す森林を「環境林」と位置付けて整備を行うことにより雇用を創出する「緑の雇用」事業を和歌山発の事業として取り組み、この森林整備に携わる人材が育成される中で、この人材活用と都市部企業の活力をマッチングさせる試みが「企業の森」であった。
 折しも、地球温暖化対策やCSR活動が活発化してきた時期に加え、高野・熊野地域が世界遺産に登録されたことにより、その必要性を訴える好機に恵まれ、全国でも先駆的に取り組んだ試み「企業の森」は全国的に認知されることとなった。
 2007(平成19)年9月現在、27の企業や労働組合などが参画し、それぞれの目的に応じた森林整備や地域との交流事業を実施し、地元住民からも大いに歓迎されている。企業・団体は社会貢献が実現でき、山林所有者は森林を再生してもらえ、地元森林組合も仕事ができ、地元市町村、県にとっても地域活性化に繋がるという3方両得の事業「企業の森」は、山村地域を元気にする様々な波及効果をもたらしている。
 今後は、企業の取組みをCO₂吸収源確保に対する貢献という観点から、温室効果ガスの排出量の削減と吸収量の確保を関連付けた新たな仕組みづくりや「寄付金控除」などの優遇制度を検討することにより、企業がより参画しやすい環境を整備することが必要である。
 このように、企業内でも環境問題のみならず、企業ブランド価値の向上やイメージアップという観点から、CSR、社会・環境貢献がクローズアップされている今こそ、本県が実施している「企業の森」事業がより有効な手段であると日々訴えているところである。

INDEX

目次

第1章 森林保全と地球温暖化対策
第2章 森林整備と企業の社会的責任(CSR)
 1 緑の雇用と環境林整備
 2 「企業の森」事業の推進
 3 「企業の森」が生み出す様々な効果
 4 参画企業・団体のサポート
 5 企業・団体が様々な活動に取り組む
第3章 今後の展望と課題

図表

図表1 我が国の温室効果ガス排出量
図表2 和歌山県の森林の状況
図表3 「緑の雇用」環境林整備計画(H14策定)
図表4 「企業の森」事業参画企業・団体一覧
図表5 「企業の森」事業の仕組み
図表6 「企業の森」経済波及効果調査結果イメージ
図表7 和歌山県森林による二酸化炭素の吸収等環境保全活動認証事業フロー図
図表8 和歌山県「企業の森」ホームページ
図表9 和歌山県「企業の森」パンフレット

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)松浦達也(2008)「和歌山県「企業の森」事業―企業のCSR活動等を積極的にサポートー」NIRAモノグラフシリーズNo.07

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