鶴田浩一郎
NPO法人ハットウ・オンバク代表理事
野上泰生
NPO法人ハットウ・オンバク理事

概要

 温泉観光地として長期低迷傾向に悩んでいた別府が独特のイベント手法を通じて地域再生の取組みを行っている。2001年に開始された「別府八湯温泉泊覧会(オンパク)」は、地域再生には不可欠な地域資源を活かした多彩なサービスの発掘から事業化、そして、その担い手となる人材の育成を可能にしたイベントである。
 オンパクの発端は1996年頃から別府市内の各地において発生した「別府八湯運動」と呼ばれる一連のまちづくり活動にさかのぼる。それらの活動は地域住民による地域資源の見直しと洗練化の作業であったが、個々の場面においては一定の成果をあげてはいたものの運営基盤が脆弱で事業性に欠けており持続性に疑問符のつくものが多かった。このままでは、せっかくの良い活動が中途で終わってしまうとの危機感を抱いたメンバーらによりオンパクが計画され実行されていった。
 オンパクは、地域資源を活かした小規模な体験交流型のプログラムを一定の期間内に集中的に提供するイベントである。オンパクには多くのまちづくり団体や小規模な事業者らが参加し多彩なプログラムを主体的に提供している。オンパクは、個々のプログラムを集積させてプロモーションすることにより、各々の事業者単独では困難な高い集客実績やサービス品質の向上を実現している。近年ではプログラムの定員稼働率や顧客満足度はいずれも80%を超えるレベルにまでなっている。
 別府では、オンパクへの参加を通じて各地のまちづくりの活動が活発化すると同時に、様々な事業者が地域資源を活かしたサービスの事業化に成功している。例をあげると温泉泥を使ったエステサービス、温泉を活かした健康増進教室、メンタルケアのサービス、多彩な地域資源体験ツアーの実施などである。これらの実績から、オンパクは地域におけるまちづくり活動の支援だけでなく、コミュニティビジネスや社会的起業の支援まで広く有効であることがわかってきた。
 また、オンパクを継続的に開催することで形成される顧客組織や業種横断的な事業者ネットワークがまちづくりプラットフォームとして次第に価値を高めている。別府では、地域住民を中心に5,000人を超える顧客組織が生まれ、200を超える事業者らによるネットワークがオンパクを中心としたまちづくりプラットフォームを形成している。運営母体であるNPO法人ハットウ・オンパクは、オンパク及びオンパクを通じて形成されたまちづくりプラットフォームによる様々な収益事業を手掛けており、あと一歩で自立できるまでになってきた。
 オンパクの取組みは、プログラム開発や運営に関しての事業評価手法が考案され、運営や集客を支援するIT基盤も整備されるといった具合に事業のモデル化が進められている。既に北海道の函館市では「はこだて湯の川オンパク」が事業モデルを導入し成果をあげ、今後も福島県いわき市や能登半島地域など全国の各地でオンパク事業の水平展開を行う「ジャパン・オンパク」事業が始まっている。
 今後の課題としては、ジャパン・オンパクを通じた新しい地域連携の推進、各地のオンパクで生まれてきた地域資源を活かしたサービスの流通手法の考案などがあげられる。

INDEX

目次

第1章 オンパク誕生の経緯
はじめに
 1 別府にふさわしい「まちづくり哲学」の醸成
 2 オンパクが生まれるまで
第2章 事業目的と事業構造
 1 事業目的
 2 事業構造
第3章 事業機能とモノ・カネの流れ
 1
 オンパクの事業機能
 2 オンパク事業における「モノ・カネ」
第4章 事業成果
 1 事業課題の解決状況
 2 事業評価手法の考察
 3 「オンパク」モデルの確立
第5章 今後の展開
 1 ジャパン・オンパク事業
 2 地域旅行工ージェント事業

図表

図表1 オンパクの概要(別府のケース、2006年オンパク)
図表2 オンパクが提供するメリット
図表3 オンパクにおける地域資源の発掘から商品化の流れ
図表4 「はこだて湯の川オンパク」のメディア露出実績
図表5 資金・サービスの流れから見たオンパクの事業模式図
図表6 2006年度のオンパク・イベント事業収支実績
図表7 オンパクに商品化された地域資源活用型サービスの一覧
図表8 オンパク・パートナーの種別及び関与形態別参加数(2005秋3ヶ月オンパク・延べ数)
図表9 オンパクファン倶楽部の推移(2006年秋まで)
図表10 2006年におけるNPOオンパクの事業収益
図表11 第1回「はこだて湯の川オンパク」の定量的評価指標と実績
図表12 オンパクのプログラム企画・集客実績
図表13 別府オンパクにおけるプログラム満足度の推移
図表14 オンパクで用いるアンケート用紙
図表15 オンパク・パートナーの参加継続意欲調査(2005年)
図表16 オンパクにおける目的別のプログラム構成比率の推移
図表17 2007年時点での「ジャパン・オンパク」事業対象地域
図表18 NPOオンパク扱い長期滞在保養型宿泊商品の販売目標

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)鶴田浩一郎・野上泰生(2008)「地域の輝きを育てる「オンパク」モデル―オンパク型イベント手法を通じた地域資源の活用と人材育成―」NIRAモノグラフシリーズNo.06

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