公文俊平
多摩大学情報社会学研究所所長
田中辰雄
慶應義塾大学経済学部准教授
山口真一
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 助教/専任研究員
足羽教史
インクリメントP株式会社知的財産法務部部長
鈴木謙介
関西学院大学社会学部准教授
山内康英
多摩大学情報社会学研究所教授

概要

 西欧主導によって始まった近代化を、文明のパワー(手段)を指標に捉え直すと、近代は、「国家化」、「産業化」、「情報化」の3つの波が複合的に重なり、基本的特徴を残しつつも次の新しい局面に進みながら発展を遂げてきたことがわかる。21世紀に入ると、これらの波がそれぞれグローバル化、デジタル化(第3次産業革命)、ソーシャル化(第1次情報革命)として表れ、政治、経済、社会の各領域で、プラットフォーム化と呼べる社会変化を起こしている。
 例えば、支援や協力の国家間ネットワークの基盤構築、アップルやグーグルなどの企業による産業プラットフォームの誕生、そして、フェイスブックなどのソーシャル・コミュニケーション・プラットフォームの形成である。良質なプラットフォームが広く普及し、よく機能するようになれば、人々の生活の質は持続的に向上し、「平和」、「繁栄」、さらには「楽しさ」も実現することが期待できる。
 今後については2つのシナリオが考えられる。1つのシナリオでは、情報化の刺激により、国家化と産業化の新しい局面である「超国家化」と「超産業化」が出現し、これらの局面と情報化の局面の3つが複合する形で進展し、われわれは成熟した近代を迎える。一方、人工知能技術の劇的な進化により、対極的なシナリオも見え始めた。それは、人工知能に代表される「超知能」の出現によって、成熟した近代は新文明へと移行するというものだ。
 いずれのシナリオにおいても、「超国家化」、「超産業化」、「情報化」という以下に示す局面に着目し、それらがもたらしうる国家や産業の質的変化や社会変化にどう向き合うかが問われている。

INDEX

エグゼクティブサマリー

●「超国家化」-超国家的な統治機構の必要性
 21世紀にわれわれが直面する環境破壊、悪性のウイルスの蔓延やサイバーテロなどの地球規模の課題は、もはや一国では対処できない。また、経済政策や経済制度についても、グローバルな共働の必要が自覚され始めている。そのため、国家を超えた超国家的な統治機構の必要性が次第に高まるだろう。国連やEUなどは、まだ萌芽的なものにすぎないが、「超国家化」の出現を示唆している国際的な動きだと見ることができる。

●「超産業化」-加速する経済の不可視化
多くのビジネスの過程が電子化・機械化され、不可視になっている。この動きは、今後一層加速を続け、経済の成長と繁栄を持続させる一方、人間を「無業」にする。これは、知能を持った機械がいずれ人間を置き換える過程の進展とも捉えられる。ただし、その進展過程は、知能を持った機械が実現する生産性の極端な高さとその増大の加速的な持続によって特徴づけられるという意味では、これまでの産業化とは質的に異なり、「超産業化」と呼ぶことがふさわしい。

●「情報化」-挑戦と事前適応という 2 面性
 情報化により「超国家化」と「超産業化」が出現し、その結果、国家を超えた統治機構と無職が常態となる状況が生まれる。これは、国民としてのアイデンティティと勤労の価値を消滅させる危険性をもたらす。しかし同時に、情報化はネットワーク化された仲間たちと「共働・通有」しながら、その特徴である「賢さ」や「楽しさ」の追求に生きがいを見いだすという新しい社会環境を生み出している。そして、この社会環境は、「人間化した機械」と人間が共生してくための前提条件ともなっており、情報化の「事前適応」という特性を表している。

●近代化の成熟局面における課題
 「超国家化」、「超産業化」、そして「情報化」が出現する近代化の成熟局面において、われわれは、情報化が間接的に引き起こす、国民としてのアイデンティティや勤労の価値の消滅の危険という挑戦に適切に対処することが求められる。

図表1 近代化の各展開過程における文明のパワー(手段)をS字波で表す

目次

研究成果1
総論
 第1章 これまでの私の近代化論
 第2章 21世紀の位置づけ
 第3章 長期ビジョン
 参考  大局面および小局面の特徴比較の補足
補論    産業化の変遷と課題

研究成果2
各論
 デジタル技術の飛躍的進化により変貌する近未来 (足羽教史)
 情報化Ⅰ=ソーシャル化 (鈴木謙介)
 国家化Ⅱとナショナリズム (山内康英)

図表

図表Ⅰ-1-1 近代化の3局面イメージ
図表Ⅰ-1-2 近代化の3つの大局面
図表Ⅰ-1-3  “nation”の出現頻度
図表Ⅰ-1-4  “sovereign state”と“nation state”の出現頻度(19世紀~20世紀)
図表Ⅰ-1-5 「国民国家化=国家化Ⅱ」の3 つの小局面
図表Ⅰ-1-6 「国家化Ⅱ」を追加した近代化とその大局面のイメージ
図表Ⅰ-1-7 国家化の大局面の推移と軍事革命
図表Ⅰ-2-1 複合的に重畳する各小局面
図表Ⅰ-2-2 18世紀後半以降の近代化の小局面の複合イメージ
図表Ⅰ-2-3 5つの小局面の対比
図表Ⅰ-3-1 近代化の複合的進展ビジョン
図表Ⅰ-3-2 超知能文明の出現ビジョン
参考図表1 近代化の3つの大局面の特徴比較
参考図表2 近代化の小局面の特徴比較
図表Ⅱ-1-1 近代化の小局面の複合イメージ
図表Ⅱ-1-2 英米の第1次産業革命
図表Ⅱ-1-3 独日の第1次産業革命
図表Ⅱ-1-4 英米の第2次産業革命
図表Ⅱ-1-5 独日の第2次産業革命
図表Ⅱ-1-6 欧米先進国の1人当たりGDP
図表Ⅱ-1-7 第1次産業革命突破開始時期
図表Ⅱ-1-8 第2次産業革命突破開始時期
図表Ⅱ-1-9 英米独日の製造業就業者数割合
図表Ⅱ-1-10 英米独日の製造業就業者数割合減少タイミング
図表Ⅱ-1-11 英米独日の製造業生産性
図表Ⅱ-1-12 英米独日の製造業総生産
図表Ⅱ-1-13 英米独日の上位1%の所得が全体所得に占める割合


研究体制

(研究会委員)
公文俊平 多摩大学情報社会学研究所 所長
足羽教史 インクリメントP株式会社知的財産法務部 部長
鈴木謙介 関西学院大学社会学部 准教授
田中辰雄 慶應義塾大学経済学部 准教授
山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 助教/専任研究員
山内康英 多摩大学情報社会学研究所 教授

(NIRA)
神田玲子 理事/研究調査部長
羽木千晴 研究調査部研究コーディネーター・アシスタント

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)
公文俊平・田中辰雄・山口真一(2015)「プラットフォーム化の21世紀と新文明への兆し」総合研究開発機構
足羽教史(2015)「デジタル技術の飛躍的進化により変貌する近未来」総合研究開発機構
鈴木謙介(2015)「情報化 I=ソーシャル化」総合研究開発機構
山内康英(2015)「国家化IIとナショナリズム」総合研究開発機構

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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