山崎朗
中央大学教授(「地域活性化研究会」座長)
矢作弘
大阪市立大学教授(「同」委員)
阿部和俊
愛知教育大学教授(「同」委員)
藤本典嗣
福島大学准教授
森直子
財団法人総合研究開発機構リサーチフェロー
山本勝子
日本福祉大学知多半島総合研究所所長代理(「同」委員)

概要

 本研究では、人口減少時代における地域の未来図を描き、政策課題を抽出した。人口減少の加速化によって、地方の生活圏の生活利便性は今後急速に低下していくおそれがある。報告書では、人口減少に対応した戦略的な地域活性化策のあり方について論じている。とくに、都市の階層性を前提とした都市間連携、広域的な地域クラスターの発展戦略、地域連携の実践的な取り組み、社会資本の重点投資策などの政策を提言した。

INDEX

エグゼクティブサマリー

 2005年から日本の人口は減少に転じた。中長期的な視点からわが国の将来展望を行うと、人口減少、少子高齢化、経済活動のグローバル化の影響を地方ほど強く受けていくと予想される。こうした地域経済社会の環境変化に対して、現時点から国民全体が将来の構造変化を認識しつつ、その変化に対応可能な制度を構築しなければならない。

 本報告書では、上記の問題意識に基づき、人口減少時代における地域の未来図を描くとともに、人口減少を克服すための戦略的な地域活性化策のあり方について提言を試みた。

すでに人口減少社会に突入した日本

 2000年~2005年の都道府県別人口の推移をみると、大都市圏と一部の県を除いて既に32道県で人口が減少している。人口推計によると、2005年~2010年にかけて人口が増加するのは、7都府県となる見込みである。2010年以降はさらに人口減少が進み、2030年にはすべての都道府県において人口減少過程に入ると予測されている。

近い将来、大都市圏は高齢化が表面化

 首都圏を中心とした大都市圏では、将来的には高齢化の問題が顕在化する可能性が高い。2035年の段階で最も老年人口が多いのは東京であり、次いで神奈川、大阪、埼玉、愛知の順となっている。これらの都県は、他の道府県と比較して人口減少は緩やかであるものの、高齢化の影響を最も強く受ける地域となる。

生活圏からみた人口減少社会の姿

 実際に生活が行われているエリア、すなわち「生活圏(人口20~30万人の都市で、県庁所在地並みのサービスが受けられる地域)」という地域区分で人口をみてみると、現時点で生活圏が約30万人規模の圏域は全国で82地域(圏域)存在する。しかし、2050年にはこの定義に合致する生活圏は69圏域まで減少する。県庁所在地並みのサービスを享受できない地域が多くなる。

人口減少が地域経済社会に与える影響

 今後の人口減少率は、大都市圏よりも地方圏の方が高い。そのため、地方圏では大都市圏に比べて人口減少の影響を強く受ける。人口減少が地域経済に及ぼす影響として、①地域需要減少による高度なサービス機能の消滅や地域経済の停滞、②労働力人口の減少による経済成長率の低下、③社会インフラ、生活基盤の崩壊による地域の利便性の低下、などがある。

経済活動のグローバル化、サービス経済化、情報化が地域経済社会に与える影響

 経済活動のグローバル化、サービス経済化、情報化の進展は、都市圏への人口・産業の集中を加速させる可能性が高い。すでにに、産業の高次機能(研究開発機能)や企業の中枢機能(本社機能)は、東京圏への集中傾向が強まっている。今後、グローバル化やサービス経済化が一層進展した場合、人口の集積度水準に応じて「発展地域」と「衰退地域」への二極化が生じるおそれもある。

地域政策の新たな目標

 人口減少時代の地域政策は、東京や三大都市圏と地方圏の1人当たり所得格差是正という目的を実現するために実施するのではなく、①人口が減少しつつも豊かな生活が維持できるような地方都市の再生および生活圏の形成、②グローバリゼーションの潮流に対応できるような地方の港湾、空港整備・活用、③地方交付税、農業保護、公共事業の優先的配分にできるだけ依存しない自立的な経済構造の構築、を目指して実施する必要がある。

豊かな地域社会の実現へむけた制度設計

 一般的に1人当たりGDPの高い国、地域、都市は、豊かな社会とされる。しかし、経済指標上の豊かさが真の豊かさに結実するには、住民が居住している一定の地域内(通常は1時間程度の圏内)で、高次かつ多様なサービスの供給を享受できるという前提条件が必要である。人口減少時代においては、それぞれの地域がこうした多様なサービスを享受できるようなシステムを検討、構築していく必要がある。

 豊かな社会を実現するための具体的な方策としては、①地方都市の都心をコンパクト化し、郊外に拡散した住宅、商業施設、公共施設を都心に集約し、魅力ある住空間、商業空間、ビジネス空間へと転換すること、②周辺の農村部を含んだ広域的な生活圏構築のために、都心へのアクセスを確保すること、③利用されずに放棄される山林、農地、住宅、オフィスビル、商業施設、私道、公共施設を解体し、「都市の縮減」を美しい景観の創造に結びつけ、生活の質を向上させること、などが考えられる。

 これらの目的を実現するためには、土地利用のあり方を含めて国土構造を再検討しつつ、それぞれの地域単位での戦略的な都市計画を実施しなければならない。

都市の創造的縮小と連携

 欧米諸国では、縮小都市研究、縮小都市政策が実施されている。欧米では、「縮小」を必ずしも否定的に捉えておらず、環境負荷を軽減し生活の質を改善するチャンスと考えている。こうした観点から、人口減少時代においては、都市を創造的に縮小させつつ、それぞれの都市が競争ではなく、協調・連携という発想を持って都市圏全体の最適化を図ることが重要である。具体的な方策としては、ドイツの都市システムにみられるような、中心地システムの考え方が有効である。こうした考え方に基づいて都市計画を行うことで、広域都市圏全体の生活利便性が向上し、そこに住む住民の福利厚生が高まる可能性がある。

都市間の協調・連携を可能にする税財政システムの導入

 上述したような都市間の協調・連携を実現するためには、都市間の税財源の公平性を確保しなければならない。通常、それぞれの都市が役割に応じて機能を分担した場合、大型商業施設などが立地する中心地の税収が多くなるため、中心地とそれ以外の地域との間で税収格差が生じる可能性がある。こうした都市間の税財源の格差を是正するためには、都市圏全体で税収をプールし、その税収を当該都市圏全体で配分することで税収格差を是正していく必要がある。このようなシステムは、タックスシェアリング(Tax-sharing)と呼ばれ、米国のミネアポリス/セイントポール都市圏では、タックスシェアリングが実施されて一定の成果をあげている。

戦略的公共投資の必要性

 今日の中央・地方政府の財政状況を考慮すると、もはや単純な「ばらまき型」の投資はできない。今後は、地域戦略という観点から地方圏への配分を担保しつつ、費用対効果を考えながら戦略的な公共投資を実施することが、生活圏全体の最適化を実現するうえでも、また日本全体の最適化を実現するうえでも重要である。「戦略的公共投資」が効果を発揮するためにも適切な政策評価が必要不可欠である。

行政だけに頼らない地域活性化

 人口減少による深刻な影響に対応するためには、従来型の行政中心の政策対応だけに依存するのではなく、活用できるものは積極的に活用するという仕組みが必要となる。近年、NPOや地域コミュニティなどによる地域活性化策や活性化のための諸活動の機運が高まっている点は注目される。

 愛知県の知多半島では、地域に関わる様々な主体(行政や大学や企業、住民など)が連携して、行政だけに頼らないまちづくりを行っている。これらの関係主体によって構成される地域連携組織「知多ソフィア・ネットワーク」では、観光産業の育成や地域情報化の推進、食に関する産業振興など、地域が抱えている課題全般に幅広く関わっている。こうした産・官・学・民によるネットワークの構築により、地域に関わる様々な主体が知多半島全体の利益(公益)を考えるような意識(ソーシャル・キャピタル)を持つことができた。

望ましい地域(都市)構造を描く

 経済的中枢管理機能を指標として日本の主要都市を検討した場合、近年の重要な傾向として、大阪、札幌、広島の低下、名古屋と仙台の上昇が指摘できる。こうした都市の盛衰を考慮すると、将来的に日本の地域構造は、東京・名古屋・大阪を中心とする一大圏と東北日本、西南日本の3大圏構造になっていく可能性が高い。仮に、現在のような東京を中心とした都市システムを転換させる必要がある場合には、地方分権や首都機能移転、あるいは道州制といった「国のかたち」を変えるような大胆な改革が必要となる。

目次

総論
転換期を迎える地域経済

各論
人口減少時代の地域政策論 山崎朗
人口減少時代の「地方都市の 「かたち」」を考える 矢作弘
日本の都市システムと地域構造 阿部和俊
企業の事業所配置と地域の将来展望 藤本典嗣
地方港湾からみた選択的な資金配分による地域活性化の可能性 森直子
地域連携 さまざまな方法-愛知県知多半島の実践から- 山本勝子

図表

<転換期を迎える地域経済-人口減少社会の到来に対応した新しい制度設計の必要性>

図表1 わが国の人口構造の構成比
図表2 各時点における人口増加地域
図表3 65歳以上人口の将来予測(2035年)
図表4 生活圏からみた人口減少社会の姿
図表5 人口減少で維持困難となる地域社会(悪循環の例)
図表6 世界の財・サービス貿易(名目GDP比)の推移
図表7 世界の貿易国組合せ別財貿易(輸出額ベース)の推移
図表8 情報産業、研究開発に従事する人の地域別シェア
図表9 国内銀行貸出残高の地域別シェアの推移
図表10 生活圏からみた本社・支社の立地数と特化係数(上位25圏)
図表11 長期政府債務残高の対GDP比較
図表12 一般財源に占める地方債現在高の割合
図表13 循環的因果関係にもとづく消費財生産者と消費者(=労働者)の集積
図表14 循環的因果関係にもとづく最終財生産者と中間財・サービス生産者の集積
図表15 行政に頼らない地域活性化モデル

<日本の都市システムと地域構造>

図表1 対象企業の業種構成
図表2 対象企業の業種構成(比率)
図表3 主要都市における経済的中枢管理機能の状況(1950~2005)
図表4 主要企業の複数本社製の状況
図表5 支所数の相対値による主要都市の順位規模曲線
図表6 支所数の相対値による主要都市の順位規模曲線(最多都市を100.0とする)
図表7 主要都市のテリトリーの変遷(聞きとり調査ほか)
図表8 1960-2005年のテリトリー人口の推移
図表9 製造品出荷額
図表10 主要都市のテリトリー(政府出先機関による)2000年

<企業の事業所配置と地域の将来展望>

図表1 82生活圏における本社立地
図表2 82生活圏における本社立地特化係数
図表3 82生活圏における本社立地動向
図表4 82生活圏における支所(支社・支店・営業所)立地
図表5 82生活圏における支所合計立地特化係数
図表6 82生活圏における支所合計立地動向

<地方港湾からみた選択的な資金配分による地域活性化の可能性>

図表1 海運に占める外貨、内貨、内航フェリーのシェアの推移
図表2 国内貨物輸送量および輸送手段別シェアの推移
図表3 三大湾およびその他の地方港湾が港湾貨物取扱量に占める割合
図表4 海上国際貨物(外貨)における三大湾とその他の地方港湾の割合(2005年)
図表5 三大湾、北部九州、その他の地方港湾の外貨コンテナ取扱総量の割合の推移
図表6 日本の港湾(重要港湾以上)
図表7 日本の港湾(格付け別による)
図表8 港湾別世界コンテナ貨物取り扱いランキング
図表9 2002年の港湾別世界コンテナ貨物取扱ランキン上位約400位に載った日本の港湾
図表10 御前崎港女岩地区のコンテナターミナル
図表11 御前崎港の外国貨物取扱実績(2005年)
図表12 御前崎港の品目別輸出貨物取り扱い割合(2006年)
図表13 御前崎港の品目別輸入貨物取り扱い割合(2006年)
図表14 伊万里港七つ島地区のコンテナターミナル
図表15 伊万里港の外国貨物取扱実績(2005年)
図表16 伊万里港の貿易額割合(2003年)
図表17 伊万里港の品目別輸入貨物取り扱い割合(2006年)
図表18 伊万里港の品目別輸出貨物取り扱い割合(2006年)

<地域連携さまざまな方法-愛知県知多半島の実践から->

図表1 知多半島の位置
図表2 知多半島の人口推移
図表3 知多ソフィア・ネットワーク世話人構成
図表4 『ぶらりぐるり知多半島』ガイドブック製作・販売図

NIRA 地域活性化研究会プロジェクト研究体制

委員
山崎朗  中央大学教授(座長)
阿部和俊 愛知教育大学教授
矢作弘  大阪市立大学教授
山本勝子 日本福祉大学知多半島総合研究所所長代理

NIRA
井上裕行  総合研究開発機構 研究開発部長
新井直樹  同研究開発部リサーチフェロー
飯笹佐代子 同研究開発部リサーチフェロー
比嘉正茂  同究開発部リサーチフェロー
森直子   同研究開発部リサーチフェロー
和仁屋浩次 同研究開発部リサーチフェロー
榊麻衣子  同研究開発部

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)山崎朗・矢作弘・阿部和俊・藤本典嗣・森直子・山本勝子(2008)「地方再生へのシナリオ-人口減少への政策対応

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