財団法人山梨総合研究所

概要

 本報告は、『地方の魅力づくりとその活用』ならびに『地域雇用拡大への新たな取り組み』をテーマに、全国5機関のシンクタンクに委託して実施した事例調査のうちの1つ「地域内資源の融合による健康サービス産業振興モデルの研究」の研究成果である。
 少子高齢化、人口減少社会が進行している中、医療・介護からその予防へどう転換するかは、個人にとっても地域社会にとっても重要な課題である。本研究は、山梨県南麓地域の地域資源である水と温泉、高原気候、森林環境等を活かした「健康ツーリズム」等に対する各地での取り組みを調べ、健康サービス産業の振興方策を検討することを目的として実施された。
 具体的には、
 ○水中運動による健康づくり(「健康プラザ」富士河口湖町)
 ○森林空間を活用した健康プログラムの提供(「森療時間」(財)キープ協会)(「増富の湯」(財)みずがき山ふるさと振興財団)
等の事例に基づき、健康サービスが事業として成立する条件や課題について整理した。また、今後、健康サービスをさらに充実させるための課題等について展望した。

INDEX

要約

はじめに

 少子高齢化、人口減少社会が進行している中、医療・介護からその予防へどう転換するかは、個人にとっても地域社会にとって重要な課題である。本研究は健康ツーリズム等に対する各地での取り組みを調べ、地域資源を活用した健康サービス産業の振興方策を検討することを目的とする。

第1章 山梨県の産業動向と産業政策

第1節 山梨県の産業動向
 山梨県の産業は、1980年頃までは農業のウェイトが高く、織物・ニット、貴金属宝飾の軽工業が中心であった。1982年の中央高速自動車道の全線開通により、ロボットや製造装置などの中核的企業とその関連企業の産業立地が進み、1999年には機械・電気・精密3業種合計の特化係数は全国3位となる。しかし、2000年以降はグローバル化とともに生産部門の海外移転、大学研究機関や研究者・技術者に恵まれた国内他地域への移転が進み、山梨県においては産業振興の方向性に発想の転換が必要になった。

第2節 山梨県の産業政策
 2004年、山梨県は「戦略的産業ビジョン」を策定し、選択的・集中的に推進すべき産業として、
 ・人々の生きがいを創出する分野(ホスピタリティ産業の育成)
 ・健康・保健を増進する分野(健康・保養中核基地の育成)
 ・大地の恵みを生かす分野(木材産業、ワイン産業)
 ・新しいツーリズムを育てる分野をあげ、推進するものとしている。

第2章 地域資源の特徴と健康サービス提供機関

第1節 山梨県の資源の特徴
 1.自然環境資源
 「健康ツーリズム」に関連するものとして、水と温泉、高原気候、森林環境がある。
 山梨県は海抜150mから3,776mに位置し、富士北麓、八ヶ岳南麓等の代表的な観光地は海抜800~1500mの高原気候である。国内外の研究によれば、これら高原での運動は活性酸素による害が少なく、持久能力、体温調整機能の強化・トレーニングなどに効果がある。また、県土の78%が森林、その44%が県有林であり、富士北麓・八ヶ岳南麓の森林の多くは県有林であり、その利活用について県が主導的な役割を果たすことができる。

 2.社会的資源
 山梨県環境科学研究所は2000年から継続して「山梨の自然がもたらす快適性に関する研究」を行っている。研究成果は現在、県内各地で展開されている森林空間を活用した健康ツアーに根拠を与えている。また、森林を管理運営している「県森林環境部」の政策も「森林空間の健康的利用」の推進に寄与している。

第2節 健康サービス提供機関
 山梨県内の「水中運動」と森林空間を用いた「健康プログラム」の取り組みの経緯は以下の通りである。

 1.水中運動による健康づくり
 1987年に石和温泉病院にクアハウスが併設されたことから、水中運動サービス提供が始まり、その後、健康プラザ(富士河口湖町)などの運動浴場をもつ自治体浴場が開設されている。

 健康プラザは2001年オープンした住民向けの温泉浴室と運動浴場を持つ浴場である。今回実施した利用者調査では、50歳以上の利用者が7割を占め、週に3回以上の利用者が約5割。利用者の8割が水着を着ての「プール」利用であり、水中運動が中高年の日常的な健康づくりのために利用されていることが明らかになった。

 2.森林空間を活用した健康プログラムの提供
 山梨県内は現在、6団体により健康プログラムを提供するツアーが開催されている。健康サービス事業として成立しているものは、(財)キープ協会、(財)みずがき山ふるさと振興財団によるもので、双方ともに2005年から10回以上の企画事業を行っている。

第3章 八ヶ岳南麓地域における健康サービス

第1節 地域の概要
 北杜市は八ヶ岳南麓の8町村が合併し、誕生した市である。市の人口は2007年10月現在で49,747人である。

 観光は当市の主要産業であり、2006年の観光客は年間760万人、宿泊客数は約75万人で、観光客数は増加傾向であるのに対し、宿泊客は減少傾向が顕著である。北杜市は、森林療法・温泉セラピー・農業体験ができる環境、多くの芸術・文化施設などの地域資源を生かし、長期滞在が可能な地域を目指している。また、北杜市は「環境日本一の潤いの杜づくり」を目指し、水力、ソーラー、森林などの自然エネルギーの導入に取り組んでいる。

第2節 キープ協会
 財団法人キープ協会は、1938年に設立された清泉寮を母体に1948年に設立された。1986年には環境事業部を設置し、大人・家族・子供など多様な集団に環境教育を行っている。

 社会的ニーズの多い保養・休養客を対象とした1泊2日の健康プログラムが「森療時間」であり、2005年7月から、現在まで11回開催されている。「森療時間」は、赤坂溜池クリニックと連携して実施されている。クリニックの医師による講話と健康相談、医療スタッフによる自律神経の測定や健康法の指導。森の体験・環境教育はキープ協会のスタッフ3名が担当。課題は以下の通りである。

 ・誘客方法は、他の環境教育プログラムと同様で、ホームページ、雑誌・関連団体へのチラシ配布、メールマガジンを通じて行っているが、参加者は減少しつつある。企業
 ・団体と関係を生かし、企業の保健事業とのタイアップを進めていくことが求められる。
 ・プログラムについては、多様なニーズに対応するため、メタボリックシンドローム対策などに焦点を当てたノルディック・ウオーキングと食事を中心とする日帰りツアーや、地域内の温泉と提携した数泊の保養プログラムを実施予定である。
 ・宿泊施設の清泉寮はバス・トイレ付の部屋数は限られ、施設も老朽化している。現在、清泉寮付近で温泉掘削が行われており、温泉施設と宿泊施設の整備が検討されている。
 ・「森療時間」は、キープ協会3名、クリニック関係者3名で実施されている。キープ協会スタッフに求められる役割は環境教育ばかりではないため、スタッフの人材育成が課題である。

第3節 増富の湯
 増富の湯は1997年に開館した自治体(現北杜市)の温泉施設で、この浴場と2つの宿泊施設を(財)みずがき山ふるさと振興財団(以下「増富の湯」と略す)が管理運営している。浴場の利用客は日帰り客が大半で一日約300人の利用がある。「増富の湯」は温泉浴や体操などによる健康づくりを提供していたが、2005年に浴場周囲を巡るフィットネス遊歩道を整備し、運動プログラムと温泉浴を組み合わせた日帰りプランをJR東日本とタイアップして実施。2006年11月からは温泉療法と森林療法を組み合わせた2泊3日の「療養プラン」を提供している。課題は以下の通り。

 ・誘客手段はJR東日本とのタイアップ事業では「大人の休日」、自主事業では「ホームページ」掲載である。口コミによる参加者やリピーターも多く、顧客満足度も高い。他県からの参加者が大半であり、受け入れ体制が可能であれば、積極的な誘客も期待できる。
 ・「増富の湯」のスタッフのうち、健康指導等が可能なスタッフは2名と限られており、健康チェックや効果測定などの医学的見地からのサービスはない。リピーターが多いことから、これらの人が最低限の健康チェックができる体制づくりが必要。
 ・経営にとって、冬季は光熱費がかさむ一方、客数が激減するため、冬季対策は最大の課題となっている。

第4章 まとめ

第1節 健康サービス事業の成立条件
 山梨県の「森林空間」を活用した健康サービスは「県環境科学研究所」の研究成果の裏づけと県有林(県土の34%を占める)のオーナーとも言うべき県森林環境部の普及活動が両輪となって、各地の取り組みを推進した。

 しかし、事業として成立するためには解決すべき課題がある。キープ協会、「増富の湯」の双方の機関がサービス事業として実施できたのは、次のような恵まれた条件を持っていることである。

 ・健康が事業の柱であること
 ・誘客のタイアップ先
 ・「健康」に関連するスタッフ(一部は提携)
 ・宿泊施設・フィールド

 各地で同様の取り組みが、様々な関係者の連携のもと行われているが、スタッフと宿泊施設をもつサービス業がコアになることが必要である。

第2節 課題と展望
 今後、健康サービスをさらに充実するために以下のような課題がある。

 1.企画ツアーの展開(フィットネス、生活習慣病などの目的別、季節別の企画ツアーの実施)
 2.個人客に対する健康サービスの充実(ダイエット・美容等のパッケージサービスの提供など)
 3.地域内の連携強化(増富の湯と増富温泉郷内の旅館との関係強化による健康サービスメニューの充実等)
 4.人材育成と教育・研究機関との共同(県立大学等によるサービススタッフの研修、健康サービスの開発)
 5.健康政策の一環として健康サービス機関の活用
 6.環境政策の一環として地域エネルギー資源の活用(森林の豊かな増富温泉をモデルとしたバイオマス発電の導入等)

目次

要約
はじめに
第1章 山梨県の産業動向と産業政策
第2章 地域資源の特徴と健康サービス提供機関
第3章 八ヶ岳南麓地域における健康サービス
第4章 まとめ

図表

表1-1 産業別就業者数(構成比(%))
表1-2 産業特化指数から見た山梨の機械工業1999年(平成11年)
表1-3 1人当たり国(県)民所得の推移
表2-1 山梨県産の主なミネラルウオーター
表2-2 健康プラザ利用者数
表2-3 各教室参加者数
図2-1 施設の利用回数
図2-2 施設利用後の効果
図2-3 施設の利用状況
図2-4 施設利用後の効果
表2-4 森林空間を活用した健康プログラムの提供例
表3-1-1 旧町村ごとの人口等データ
表3-1-2 北杜市と山梨県の人口動態
図3-1-1 北杜市の人口動態
図3-1-2 北杜市への転入者の内訳
表3-1-3 圏域ごとの観光客実人数の推移(旧圏域分類による)
表3-1-4 峡北圏域の延べ観光客数(旧圏域分類による)
図3-1-3 大泉設置のアメダスによる最高気温の月平均(2006年)
表3-1-5 峡北圏域における冬季・夏季の延べ観光客数(2006年)
表3-1-6 圏域ごとの宿泊者数の推移(旧圏域分類による)
表3-1-7 峡北圏域における冬季・夏季の宿泊者数(2006年)
表3-1-8 旧町村の工業関連データ(2003年・従業員4人以上)
図3-2-1 キープ協会の位置
図3-2-2 キープ協会施設配置
図3-2-3 キープ協会組織図
表3-2-1 清泉寮年間宿泊者数
図3-2-4 健康増進プログラム対象者の分類
図3-2-5 キープ自然遊歩道マップ
表3-2-2 2007年7月7~8日「森療時間」スケジュール
表3-2-3 アンケート結果集計(満足度評価)
表3-2-4 「森療時間」募集人数と参加人数
表3-2-5 信濃町の森林
表3-2-6 「癒しの森事業推進委員会」構成
図3-3-1 北杜市における「増富の湯」等の位置
図3-3-2 「増富の湯」の館内施設
図3-3-3 「増富の湯」利用者数の推移
図3-3-4 「リーゼンヒュッテ」宿泊者数の推移
図3-3-5 「増富温泉」宿泊者数の推移
図3-3-6 「療養プラン」スケジュール
図3-3-7「療養プラン」実施場所
図3-3-8 位置
表3-3-1 鹿教湯温泉の泉質・特徴
表3-3-2 8種類の浴槽と温泉プールの特徴
図3-3-9 温泉入浴プログラム例
図4-1 高度なウェルネスを達成する要素
図4-2 ホテルや温泉地を対象としたウェルネス概念に関する質的管理モデル
表4-1 キープ協会と増富の湯の健康サービスと実施場所


研究体制

研究代表者 中田裕久 財団法人山梨総合研究所調査研究部長
研究担当者 早川源  同専務理事
      藤波匠  同主任研究員
研究分担者 安藤克己 同主任研究員
      柏木貞光 同主任研究員
      斉藤七二 同研究員
      野崎三則 同研究員 
      河野恵市 同研究員
      中沢敏  同研究員

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)財団法人山梨総合研究所(2007)「山梨県における健康サービス提供による地域の活性化-八ヶ岳南麓地域の取り組みを中心として」総合研究開発機構

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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