中益陽子
亜細亜大学法学部法律学科准教授

概要

 雇用の流動化が進むと予想される昨今、雇用契約ではない就労形態に注目が集まっている。こうした非被用者としてのフリーワーカーは、社会保障制度上どのような処遇を受けるのか。問題は被用者との処遇差であるが、日本の制度の場合、この種の処遇差として顕著なものは、社会保険制度における非就労時の所得保障給付や事業主負担の存否等である。しかしながら、こうした違いは、被用者か否かによって生じるものではない。むしろ、正社員に近い被用者か否かによって社会保険制度上の取扱いが異なることに由来するものである。よって、フリーワーカーに関する処遇差の是非を考える前に、正社員に近い被用者か否かによる処遇差をどう考えるかの議論が必要である。そのうえで、自営業者の就労における代替性等を考慮し、フリーワーカーに非就労時の所得保障の仕組みを提供すべきか等を、さらに検討すべきだろう*

INDEX

   

問題意識
日本の社会保障制度上、フリーワーカーに関する処遇および処遇差はどのようなものか。処遇差は、どのような理由で設けられているか。またそれは、克服可能なものか。

分析
フリーワーカーに関する処遇差の代表的なものは、非就労時の所得保障が整備されていない点である。しかし、この処遇差は、被用者か自営業者かではなく、正社員に近い被用者か否かによって生じる。

見解
フリーワーカーの処遇差の是非を考える前に、まずは正社員に近い被用者か否かによって生じる処遇差の是非を考える必要がある。かりにこの点を修正するとしても、代替性のない自営業者に非就労時の所得保障給付を支給できるかについては、別途考慮を要する。

どのように異なるのか

保険給付の種類に関する違い

 フリーワーカーとして働くということは、現在の社会保障制度でどのように扱われるだろうか。
 
 社会保障制度全体をみてみると、就労形態によって処遇に差があるのは、基本的には社会保険制度に限られることがわかる(表1を参照)。逆にいえば、これ以外の制度では、フリーワーカーであることによる特段のメリットもデメリットもなく、他の者と同様に扱われる。

表1 労働者・被用者と自営業者等との制度別取扱いの差

(注1) 後述のとおり、所得別段階定額制であって、報酬比例との差は相対的ともみうる。
※下記に述べるとおり、例外が多くある。

 上記の社会保険制度における就労形態による処遇差は、大きくいって2つある。1つ目は労働保険制度(労働者災害補償法と雇用保険制度)の労働者や被保険者となるかであり、2つ目は年金制度や医療保険制度の被用者保険制度(厚生年金保険や健康保険等)の被保険者となるかである。フリーワーカーを含む自営業者は、原則として、これらの制度の労働者や被保険者とはならない。ただし、それによる差をどうみるかを考えるときには、次のことにも注意が必要だろう。

 まず、1つ目の違いのうち、労災保険制度の対象とならないことについては、多くの場合、他の社会保険制度(年金、医療、介護の各社会保険制度)に労災保険制度と同種の給付が存在し、自営業者はこうした給付を利用することができることについても併せて考えるべきである(ただし、いずれの給付も、内容上、労災保険給付の方が額や範囲等の点で手厚い。表2を参照)。一方、労災保険制度の休業補償給付・休業給付および傷病補償年金・傷病年金は、フリーワーカー等の自営業者からみると、他の社会保険制度には類似の仕組みがない給付である。このことに加えて、失業や休業時の所得保障である雇用保険制度から自営業者が除外されていることを考えると、フリーワーカー等の自営業者には、非就労時の所得保障がない場合がある、といえそうである。

表2 労災保険給付と他の社会保険給付との差

 上記2つ目の処遇差も1つ目の違いと似た面がある。すなわち、フリーワーカー等が年金制度等の被用者保険制度の被保険者とならないからといって、これに類する給付を受けられないわけではない。というのも、フリーワーカー等は被用者保険制度からは排除されるが、一部の休業時の所得保障給付(具体的には、医療保険制度の傷病手当金と出産手当金)を除けば、年金制度および医療保険制度内で被用者保険制度と同種の給付が支給されるからである(表3参照)。なお、一部の休業時の所得保障給付を除けば、と述べたが、フリーワーカー等には、これらの給付の支給が想定されていないわけではない。実際は、国民健康保険法58条2項が定めるとおり、国民健康保険制度の保険者はこの種の給付を提供することもできる(つまり、任意給付となっている)。

表3 被用者保険制度の給付と自営業者に対する給付の異同

(注2) 算定方法をどう評価するかについて下記「保険料賦課および所得保障給付の算定方法に関する違い」参照。

 以上のとおり、給付の種類という点からみれば、フリーワーカー等の自営業者には、非就労時の所得保障給付について、これが存在しなかったり、任意給付であったりして、被用者と異なる取扱いがされていることがある。ただし、任意給付の仕組みを別にしても、フリーワーカー等が非就労時の所得保障給付から排除されているとはいえない。というのも、年金制度の老齢年金および障害年金が非就労時の所得保障給付であり、周知のとおりこれらが自営業者等に支給されるからである(ただし、無職等の者にも支給される制度設計であることは注目に値する)。

保険料賦課および所得保障給付の算定方法に関する違い

 フリーワーカーに関する処遇差としては、保険料の賦課方法および所得保障給付(自営業者については、もっぱら年金給付)の算定方法の違いもある。被用者保険制度の保険料は、年金制度も医療保険制度も報酬比例制となっている。一方、フリーワーカーを含む自営業者等の保険料は、原則として、年金制度の国民年金に関して定額制、医療保険制度の国民健康保険で応能負担と応益負担の組合せとなる。また、年金の算定方法は、被用者保険制度の場合は報酬比例制、自営業者については保険料比例のようにみえる。

 しかし、上記のうち、医療保険制度における保険料負担方法(上記のとおり、自営業者については応能負担と応益負担の組合せ)を除けば、被用者保険制度との違いは相対的ともいえる。というのも、フリーワーカーを含む自営業者に関する年金保険料の定額制は、4段階の所得段階別定額制であるところ、被用者保険制度の報酬比例制も、標準報酬によるある種の所得段階別定額制ともみうるためである(厚生年金保険で31段階、健康保険で50段階。なお、たとえば、厚生年金保険の標準報酬は当初5段階制であったのが、時代を経るにつれ細分化した)。

 また、年金制度における給付算定方法は、厚生年金保険についても、国民年金と同じように、保険料比例の仕組みのように評価することも可能である。というのも、年金制度における被用者保険制度(厚生年金保険)の給付算定方法は、たしかに標準報酬と保険加入期間に比例しているようにみえるが、厚生年金保険では保険料の未納ということがあまり生じないことからすれば、保険加入期間は、ほぼ保険料納付期間に等しい。そのうえに、保険料が標準報酬にもとづいて算定されるということになれば、結局のところ、標準報酬にもとづいて算定される給付額は、間接的には保険料とも連動しているためである。他方で、国民年金の給付は保険料比例であるが、その保険料は上記のとおり所得段階別であって、所得比例の性質もある。

 このように、被用者であろうが自営業者であろうが、年金制度では、保険料賦課方法には報酬・所得比例の要素が、そして給付算定方法には報酬・所得比例と保険料比例の両方の要素がある。

医療保険制度における賦課方法と社会保険制度における事業主負担の存在

 これに対して、被用者と自営業者で明らかに異なっているのは、医療保険制度の保険料賦課方法および保険料全般に関する事業主負担の存在である。

 まず、医療保険制度の保険料賦課方法が被用者と自営業者で異なる理由は、給付の制度設計にあると考えられる。つまり、医療サービスは、その緊急性や生命・身体にとっての重要性から、年金給付等と異なり、保険料負担を多く納めたかどうかによって給付に差を設けることが予定されていない。他方で、一般的にいって、被用者の報酬は比較的正確に捕捉できるのに対し、自営業者の所得についてはこれが難しい。要は、給付が同じにもかかわらず、所得の捕捉が難しい自営業者を被用者と同様に報酬・所得比例の保険料負担としたのでは、自営業者が実際の経済力に比べて少ない負担で被用者と同様の給付を受けられるケースが出てきかねず、不公平だからである。そのため、サービス利用の蓋然性の高さ等を考慮したり、世帯員すべてが被保険者となり保険料を課される仕組み(世帯の家族間で所得を分散し、低所得状態を演出できるような事態等を避けるために)としたりするものと評価できる。

 保険料賦課に関するもう1つの大きな違いは、被用者保険制度等における事業主負担の存在である。このように保険料を事業主が分担するからこそ、被用者は、基礎年金に加えて厚生年金を支給される等、自営業者よりも手厚い給付を受けられる側面がある。

 こうした事業主負担の根拠についてはさまざまな見解があり、必ずしも意見の一致をみていない。いずれにせよ、下記のとおり、すべての被用者に関して事業主負担が義務付けられる制度設計になっていないことからして(そもそも事業主負担の根拠によっては、こうした制度設計の正当性を議論することができようが)、そのような事業主負担の恩恵を受けない被用者に関する議論を抜きにして、一足飛びに自営業者における事業主負担類似の仕組み(たとえば、取引先の保険料負担)の是非を考えることは難しそうに思われる(なお、イタリア等の諸外国では、一定の自営業者についてこの種の制度設計を採用する例がある)。

誰と異なるのか

 このことと関連して、被用者かフリーワーカーか、という二分法的な分類が通用するかは、処遇差のある社会保険制度でも微妙であることを指摘しておかねばならない。結論からいえば、日本の社会保険制度(ただし、労災保険制度を除く)では、被用者かそれ以外かよりは、いわゆる正社員に近い働き方をしている労働者かそれ以外かの区別の方がより大きく影響するためである。

 要は、被用者保険制度等の被保険者は、原則として労働時間等の点でフルタイムに近い者に限られている(厚生年金保険および健康保険、雇用保険の被保険者の要件を参照)。この選別に漏れれば(すなわち、一定の短時間労働者等については)、被用者といえどもフリーワーカー等と同じ扱いとなる。

 このように労働時間によって被用者を分ける根拠の1つとしては、被用者保険制度等の保険料における事業主負担の存在があろう。この事業主負担の根拠については、上記のとおり諸説あり、今後の分析を要するところであるが、考えられるものとしては、保険料を負担させるだけの関係性が事業主との間にある働き手に限定する趣旨か、もしくは、端的にいって、正社員に近い働き方をする被用者を社会保障制度上手厚く保護する政策的必要性からではないかと推測される。いずれにせよ、この根拠がフリーワーカー等に妥当する事情かどうかの議論が待たれる。

 他方で、いったん被用者保険制度から除外された被用者は他の者と混在し、就労の有無やその形態を問わず、概ね経済力を指標として取扱いに差が設けられている点も注目される(たとえば、医療保険制度の被用者保険制度における被扶養者や年金制度の第3号被保険者、保険料減免の要件等を参照)。つまり、社会保険制度における処遇差の基準としての就労形態は、唯一無二ではない。また、自営業者と被用者との処遇差を論じるときには、任意加入(労災保険制度の特別加入や健康保険の任意継続被保険者等)や医療保険制度の国民健康保険組合(地域型の国民健康保険にはない傷病手当金等の仕組みを備えるものも多い)のような仕組みを自営業者等が利用できる場合があるのはもちろん、そもそも被用者保険制度の労働者概念が労基法上のそれとずれており、法人の代表者などを含む点をどうみるかという問題も考慮すべきだろう。

 このようにみれば、被用者と自営業者間だけでなく、被用者間、また自営業者間にも多様な処遇差が存在するというべきである。そのため、こうしたさまざまな就労者のなかからフリーワーカーだけを取り出して、たとえば、正社員のような労働者との均等を考慮することは、社会保険制度の制度設計のあり方を検討する議論としてはバランスを欠くこともあろう。

非就労時の所得保障の可能性

就労捕捉の困難さ

 上記のとおり、フリーワーカーとそれ以外の就労者との間の社会保障制度上の処遇差を検討する視点そのものが現行制度の対象者の区分とは齟齬があること、またその処遇差の程度をどうみるかも議論の余地があることを述べた。そのうえで、処遇差の大きなものとして、非就労時、とくに休業時の所得保障給付についてみる。

 まず、現行制度上、こうした非就業時の所得保障給付が自営業者についてあまり整備されていない理由は、その就労と所得の捕捉が難しいという点にある。とくに就労の捕捉がきわめて困難である。なぜならば、自営業者については、一般に、労働者・被用者と異なり代替性がある。つまり、引き受けた仕事を自分自身で行う必要さえないためである。また、仕事を休んでいるのか、あるいは単に当該ビジネスの需要がないだけなのかも判然としないことも多い。つまり、こうした働き手については、契約上も実態上も、就労と非就労を客観的に区別すること自体に難しさがある。

 しかしながら、こうした働き手の非就労も、場合によっては「みなし」の仕組みで制度設計が可能となることがあろう。たとえば、上記にみたとおり、老齢年金および障害年金は、非就労時の所得保障の一種とみうるが、自営業者等を含めてその支給が可能なのは、一定年齢への到達および一定レベルの障害状態を就労不能とみなしているためと思われる。また、一部の自営業者が被保険者となる国民健康保険組合では、入院期間につき傷病手当金を整備するものがある。これは、入院期間を休業とみなすものであろう。さらに、社会保険制度外までみれば、産前産後休業のうちの産後6週間の強制休業期間は、この間を就労不能とみなすものといえる。これらの実例に鑑みれば、自営業者の就労実態の捕捉の困難さは、このようなみなしが可能である場合において、被用者との処遇差を設ける致命的な理由とならないだろう(注3)

 ただし、自営業者のあらゆる休業についてこうしたみなしが可能なわけでもない。また、自ら就労さえしない可能性のある自営業者に非就労時の所得保障を提供するならば、無職の者にこれを提供しないのかも検討しなければ、制度全体の公平性を逆に欠くこともあろう(上記のとおり、年金制度については、就労者以外の無職者等を含めて所得保障給付を提供する制度設計となっている)。実際上代替性がない等の一定の自営業者には非就労時の所得保障を行うニーズが高いという主張もありえようが、前述のとおり、いかにして代替性のなさや就労実態を汲みうるかという課題はやはり残る。指揮命令の存否等によって労働時間を区切ることが容易な労働者・被用者との差は完全には解消されないだろう。

 なお、就労の場所・様態の柔軟化(たとえば、テレワークの普及)、労働者・被用者の多様化(とくに労働時間の長短による評価に馴染まない裁量性の高い労働者の増加)といった就労形態の変化に伴い、就労実態の捕捉の困難さは、被用者にも拡大していくことが考えられる。かりにそのような事態が現実になれば、そもそも労働時間等によって被用者保険制度の適用の可否を分けるという現行システムの妥当性も再検討を迫られる可能性があることを付言しておく。

所得捕捉の困難さ

 一方、所得捕捉の難しさについては、保険給付を拠出に連動させることで(すなわち、納めた保険料に見合うだけの給付しか支給しない制度設計とすれば)、所得隠匿等によって、自営業者が納めた保険料に比して過分な給付を受けるといった問題は回避することができる。

 たとえば、すでに指摘したとおり、年金給付は、厚生年金保険でも国民年金でも、納付した保険料との連動性が高く、拠出連動型の給付の一種ともみうるのであり、こうした制度設計の1つといえよう。また、労災保険制度の特別加入では、もらいたい給付の額から保険料を選択する仕組みとなっており、保険料との連動性が高い。

 しかし、拠出連動型の給付は、初めに述べたとおり医療サービスについては採用しにくい。このことからすれば、自営業者とそれ以外の働き手とで医療保険の保険料の賦課方法に違いを設けるという仕組みは、当分残りそうに思われる。

 また、所得の捕捉の困難さに由来する問題のうち、所得隠匿等については、キャッシュレス化が進むなどして就労に伴う金銭授受の透明性が担保されるようになれば、問題としては小さくなるかもしれない。しかし、そうだとしても、低所得の自営業者の処遇をそれ以外の自営業者と同一にしてよいかは、低報酬の被用者をどのように処遇すべきかという問題と相まって、別途検討されるべきだろう。おそらくは、社会保障制度のなかでも、保険料の負担を前提とする社会保険制度で国民皆年金や国民皆保険の仕組みをとれば、保険料の免除や減額の仕組みがなんらかの形で残り、就労者間であってもひとくくりの対応とはできないのではないかと思われる。

中益陽子(なかます ようこ)

中益陽子(なかます ようこ)

亜細亜大学法学部法律学科准教授。専門は社会保障法、労働法。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得満期退学。在学中に伊ボッコーニ大学へ留学。イタリアをはじめ国内外の社会保障制度を研究する。最近の主な論文に「国民皆保険および医療の機会均等の今日的課題」『社会保障研究』,10, pp.4-22 (2019,単著)。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)中益陽子(2020)「「
フリーワーカー」時代における社会保障制度の課題」NIRA政策研究ノートvol.2

脚注
* 本稿は、NIRA総研の研究会「個人自営業者の就労をめぐる政策課題に関する研究」での議論をもとに、筆者の独自の意見をまとめたものである。 * 本稿は、NIRA総研の研究会「個人自営業者の就労をめぐる政策課題に関する研究」での議論をもとに、筆者の独自の意見をまとめたものである。
3 なお、2020年3月に創設された新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策の1つであるフリーランス等への同感染症による小学校休業等対応支援金は、臨時休校となった小学校等に修学する子どもの世話をし、その世話のために休校前に締結した契約等に基づく仕事を取りやめていることを非就労とみなす仕組みと考えうる。ただし、対象者は、業務従事・遂行の様態や業務の場所・日時等について発注者から指定を受けていること、時間を基礎として計算される等の報酬形態であること等、労基法上の労働者を想起するような要件が設定されていることからみて、純粋なフリーランスに対する措置と評価できるか疑問が残る。 3 なお、2020年3月に創設された新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策の1つであるフリーランス等への同感染症による小学校休業等対応支援金は、臨時休校となった小学校等に修学する子どもの世話をし、その世話のために休校前に締結した契約等に基づく仕事を取りやめていることを非就労とみなす仕組みと考えうる。ただし、対象者は、業務従事・遂行の様態や業務の場所・日時等について発注者から指定を受けていること、時間を基礎として計算される等の報酬形態であること等、労基法上の労働者を想起するような要件が設定されていることからみて、純粋なフリーランスに対する措置と評価できるか疑問が残る。

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