NIRAオピニオンNo.45 2019.10.31 整合性のある政策論議を財政の長期検証なき社会保障論議への警鐘 この記事は分で読めます シェア Tweet 小塩隆士 一橋大学経済研究所教授 宮尾龍蔵 東京大学大学院経済学研究科教授 協力 神田慶司 大和総研経済調査部日本経済調査課長 協力 横山重宏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部長 概要 現在の日本社会が直面している、低成長・人口減少という転換期を乗り越えるためには、整合性のある政策を実施することが必要不可欠である。しかし、公表されている政府試算を見るだけでは、経済社会の望ましい将来像を描き、その実現に必要な政策を整合的な形で検討することは極めて難しい。 内閣府が公表している「中長期試算」では2028年度までの経済財政状況の展望を示しているが、歳出内容や、個別歳出の性質に応じた抑制の程度について明示的に議論されていない。また、内閣官房など4府省による「社会保障見通し」も、その裏付けとなる財政の展望が示されていない。厚生労働省の「年金の財政検証」では、2115年度までの年金財政を検証しているが、それと密接な関係にある財政や社会保障全体の展望は示されていない。 本来であれば、財政や社会保障全体について、その将来像や持続可能性の分析が一体的に行われなければならない。そこでわれわれが政府の経済前提を用いて将来の財政状況を試算したところ、政府の債務残高対名目GDP比は上昇を続け、財政収支の長期的な持続可能性が十分に確保されていないことが明らかとなった。中長期的な社会保障制度の見直しを検討する上で、今の政府の各試算では不十分であり、マクロ経済や財政状況に与える影響を定量的に分析し、長期的な視野で整合的に議論することが不可欠である。 PDFで読む INDEX 現状の課題:材料不足の政策論議 改革論議の共通基盤:中長期試算における「歳出削減」の具体的内容 改革論議の共通基盤:年金の財政検証や社会保障見通しと整合的な財政の長期検証 ① 拡大する基礎的財政収支の赤字 ② 政府債務残高も長期的に拡大 整合性、長期的視野、客観性を持った質の高い政策論議を 現状の課題:材料不足の政策論議 現在の日本社会は、明治維新、戦後に続く3番目の転換期にある。今回の転換は、過去2回とは異なり漸進的である。戦後の出生率低下により人口構成はピラミッド型から逆ピラミッド型へとゆるやかに移行し、1960年代の高度経済成長を経て1970年代には低成長に推移した。21世紀に入ると、人口は拡大から縮小に転じた。 この転換期を日本が乗り越えるにはどうすればよいのだろうか。その第1歩は日本社会の将来像を政策関係者間で速やかに共有し、着地点を目指して整合性のある政策を実施することである。しかし、公表されている政府試算を見るだけでは、経済社会の望ましい将来像を具体的に描き、その実現に必要な各種政策を整合的な形で検討することは極めて難しい。 現在、政府が中長期的な経済社会の将来の姿を示した主要な試算としては、次の3つが存在する。第1は、内閣府による「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)であり、2019~2028年度の経済および財政状況についての展望を示している(注1)。第2は、内閣官房など4府省による「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」(以下「社会保障見通し」という)であり、年金・医療・介護等の社会保障の給付・負担を2040年度まで推計している(注2)。第3は、厚生労働省による「将来の公的年金の財政見通し」(以下「年金の財政検証」という)であり、2115年度までの国民年金・厚生年金の財政収支を検証している(注3)。その経済前提は、2028年度までは内閣府の中長期試算、2029~2058年度は一定の経済モデルから作成された長期的な経済成長の見込み等に基づいている。 以上3つの政府試算の関係を示した図1からも明らかなように、政府が示す各試算は対象期間が異なるだけでなく、財政に関する試算が存在しない期間がある。社会保障見通しでは2040年度までの社会保障が、年金の財政検証では社会保障の1部分である年金について100年間にわたり、それぞれ持続可能性が分析されている。本来であれば、財政や社会保障全体について、その将来像や持続可能性を一体的に検討する必要があるが、現状を見る限り、一部の政府機能についての持続可能性を確認するだけにとどまっている。財政や社会保障全体の分析を行うための材料が提供されていない状況である。 図1 3つの政府試算の関係 (注) 年金の財政検証では、2019~2115年度の国民年金・厚生年金の財政収支を検証しているが、一定の経済モデルに基づいて作成されているのは2058年度までとなっている。 問題はそれにとどまらない。中長期試算では、(1)アベノミクスで掲げたデフレ脱却・経済再生という目標に向けて、政策効果が過去の実績も踏まえたペースで発現する姿を試算した「成長実現ケース」と、(2)経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移する姿を試算した「ベースラインケース」の2通りの経済前提が置かれている。それぞれのケースにおいてどのような財政運営を想定するのか、例えば、物価や賃金の伸びに対して、どの程度の歳出抑制を行うのか、その具体的な内容は何かといった点についての想定次第で、結果が大きく変わる可能性がある。しかしながら、財政・社会保障全体の姿が提示されている2028年度までの期間においても、その試算の中でどのような政策が想定されているのかについて、人々の間で理解が十分に共有されているとは言い難い。 中長期試算の財政の想定に関しては、「現在の政策を継続した場合」に、将来の姿がどうなるかを政府が示したものと説明されることも多い。しかし、「現在の政策を継続する」ことが、具体的に何を指すのかは自明ではない。「これまで行ってきた歳出削減努力を続ける」という考え方もあれば、「現在の歳出水準を維持する」という考え方もあるが、意味するところは全く異なってくる。こうした点を曖昧にせず、歳出の中身をどう考えるべきか、どの程度の歳出抑制が個別に必要とされるのかを明示的に議論していくことが必要である。 そこで以下では2つの問題、すなわち第1に、各政府試算が十分に体系化されていないこと、第2に、政府試算の前提となる歳出の想定の置き方次第で結果が大きく変わる可能性があることから、歳出内容や、個別歳出の性質に応じた抑制の程度について明示的に議論していく必要があることを指摘する。そして公表されている政府試算の経済前提を用いて財政の将来像を推計し、財政の持続可能性が十分確保されていないことを明らかにする。 改革論議の共通基盤:中長期試算における「歳出削減」の具体的内容 まず、2番目の問題、すなわち、歳出削減の意味が必ずしも明確でないという問題を取り上げる。経済社会の将来の姿を試算する際には、経済や財政などについて一定の前提を置く必要がある。その前提の置き方次第で、試算結果は大きく異なってくる。ここでは、内閣府の中長期試算における政府歳出の想定を変えた場合に、どの程度財政状況が影響を受けるのかを具体的に示す。 中長期試算は、政府の歳出を大きく「社会保障歳出」と「それ以外の一般歳出(以下「非社会保障歳出」という)」の2つに分け、2021~2028年度における姿をそれぞれ異なる方法で想定している。前者の社会保障歳出は、年齢階層別人口に連動させた高齢化要因や物価・賃金上昇率等を反映して増加し、後者の非社会保障歳出は、物価上昇率分だけ増加すると想定している。 このうち、非社会保障歳出について「物価上昇率分だけ増加する」と想定することは、その増加率を名目GDP成長率より低く抑制することを意味する。名目GDP成長率は、実質GDP成長率と物価上昇率の和だからである。従ってこの想定は、非社会保障歳出の対名目GDP比が実質GDP成長率分だけ毎年低下することを意味する(注4)。 ところが、他機関の推計では、非社会保障歳出について、政策変更がないと想定する場合、その対名目GDP比は一定で推移すると仮定することが多い。例えば、欧州委員会(European Commission)が3年に1度行っている財政全体の長期推計「財政サステナビリティ報告(Fiscal Sustainability Report)」では、社会保障歳出は人口構造変化に連動させる一方、非社会保障歳出と税収は対名目GDP比一定としている。また、2028年度までの推計を行っている大和総研も、同様に仮定している(注5)。 そこでわれわれは、中長期試算の「成長実現ケース」の経済前提を用いて、2021年度以降の非社会保障歳出が対名目GDP比一定と想定した場合の基礎的財政収支を試算した(方法はコラム1を参照)。その結果を図2に示す。ここからもわかるように、国・地方の基礎的財政収支の対名目GDP比は、2028年度に1.9%の赤字となり、0.5%の黒字を見込む中長期試算の「成長実現ケース」とは大きく異なっている(注6)。内閣府が示す中長期試算は、われわれの試算に比べて基礎的財政収支の改善がかなり円滑に進む姿を描いている。この差は歳出に関する想定の違いを反映している。このように、政府歳出の想定は、対名目GDP比で見た政府歳出や基礎的財政収支のトレンドに大きな影響を与え、財政の持続可能性に関する評価を大きく左(注7)。 図2 国・地方の基礎的財政収支見通しの比較 (注) 両試算とも経済前提は、中長期試算の「成長実現ケース」を用いた。ただし、非社会保障歳出について、中長期試算では物価上昇率分の増加、NIRA試算では名目GDP成長率分の増加を想定するなど、歳出の前提が異なる。 加えて、社会保障歳出の想定の違いも2つの試算の乖離(かいり)を生む要因となっている。社会保障歳出における医療・介護の単価について、中長期試算では物価・賃金上昇率を反映させているのに対し、われわれの試算では、医療は1人当たり名目GDP成長率、また、介護は賃金上昇率を反映させていることから、国の一般会計の社会保障歳出の対名目GDP比で見て2028年度時点で0.6%ポイントの乖離が生じる(注8)。 政策運営に関して、中長期試算では、大和総研やわれわれの試算に比べて抑制的な歳出の経路が想定されていることになる。政府試算の前提となる歳出の想定の置き方次第で結果が大きく変わる可能性があることから、歳出内容や、個別歳出の性質に応じた抑制の程度について明示的に議論していく必要がある。さらに、政府は2025年度での国・地方の基礎的財政収支の黒字化を公約としているが、その実現のためには、中長期試算で想定されるペースを上回る歳出改革を行うことが求められている。そのための具体的な施策の議論を早急に進める必要がある。 改革論議の共通基盤:年金の財政検証や社会保障見通しと整合的な財政の長期検証 次に、第1の問題、政府試算間の体系化の問題を取り上げる。ここで特に注目するのは、2029年度以降について、財政の持続可能性を検証するための材料が存在しないことである。その点は、とりわけ年金財政について指摘できる。年金財政は、厚生労働省が5年に1度、年金の財政検証を公表している。最新の2019年の検証においては、今後おおむね100年先(2115年度まで)の収支均衡を想定した年金財政の姿が示されている。しかし、そこで対象になっているのは、あくまでも年金財政である。年金の財政検証では国庫負担を想定しているが、その前提となるべき財政の持続可能性は議論されていない。そのため、検証作業の前提となっているマクロ経済前提が、財政の持続可能性と整合的になっているかどうかが議論の対象外となっている。 ① 拡大する基礎的財政収支の赤字 そこでわれわれは、年金の財政検証の経済前提に基づいて、2058年度までの今後40年間の財政収支の姿を試算した。歳出の想定は前掲の通りである。年金の財政検証が想定する6つのケースと同じ経済前提を用いて試算したところ、いずれのケースでも基礎的財政収支は悪化し続けることが確認された。そのうち、年金の財政検証のケースⅠ、Ⅲ、Ⅴと同じ経済前提を用いて、基礎的財政収支の推移を対名目GDP比で見たものが図3である(注9)。ケースⅠは経済成長が最も高く0.9%、ケースⅢは0.4%、ケースⅤは0.0%の実質GDP成長率をそれぞれ想定している(経済前提はコラム2を参照)。 図3を見ると、基礎的財政赤字の対名目GDP比は2021年度以降、いずれのケースにおいても上昇することがわかる。これは、医療・介護を中心として、社会保障給付のための公費負担(国庫負担・地方負担)が、GDP成長率よりも高い伸び率で増加するからである(注10)。医療・介護への公費負担の増加幅は、2018~2058年度にかけて対名目GDP比で2.4%ポイント(ケースⅢ)と見込んでいる。 試算の結果は、年金財政の持続可能性の議論が、基礎的財政収支の悪化を暗黙のうちに想定してしまうことを意味する。この点は、2040年度までの社会保障見通しについても指摘できる。同見通しにおいても、社会保障給付費および公費負担が対GDP比で増加するが、その財政的な裏付けはない。 図3 国・地方の基礎的財政収支の長期見通し (注) 年金の財政検証の各ケースと同じ経済前提を用いて(コラム2を参照)、NIRAが試算を行った。 ② 政府債務残高も長期的に拡大 次に、図4に示した政府債務残高の対名目GDP比の結果を見てみよう。2028年度までは、想定する経済成長率の違いを反映して、ケースⅠおよびⅢでは低下するが、ケースⅤではほぼ横ばいとなる。しかし、それ以降はいずれのケースでも上昇する。なぜ、そのような上昇傾向が見られるのだろうか。 理由は、経済成長率と長期金利の関係にある(注11)。基礎的財政収支が均衡している場合であっても、経済成長率より長期金利の水準が高ければ、政府債務残高にかかる利払い費の増大により政府債務残高の対名目GDP比は上昇する。逆に経済成長率よりも長期金利の水準が低ければ、政府債務残高の対名目GDP比は低下する。 年金の財政検証では長期金利の見通しが示されていないことから、われわれの試算で用いる長期金利の値は、年金の財政検証で用いられている運用利回りと整合的となるように設定した。具体的には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用利回りの実績と、過去の10年国債金利の実績との乖離幅が2.1%であったことから、年金の財政検証の運用利回りから差分の2.1%ポイントを差し引いて長期金利とした(注12)。さらにケースⅤについては、運用利回りと長期金利との差分を1.0%ポイントとした場合の試算も行った(ケースⅤ’)(注13)。いずれのケースにおいても、長期金利の方が経済成長率よりも高くなる。その結果、2058年度までの政府債務残高の対名目GDP比は、すべてのケースで上昇することになる。 図4 国・地方の政府債務残高の長期見通し (注) 年金の財政検証の各ケースと同じ経済前提を用いて(コラム2を参照)、NIRAが試算を行った。カッコ内は2029年以降の①名目GDP成長率と②長期金利を示す。 このように、財政全体の将来像は、経済成長率と長期金利の前提にも大きく影響を受ける(注14)。しかし、年金の財政検証の経済前提により財政の将来像が大きな影響を受けるという認識は政府の議論からは読み取れない。今回行った試算は、政府試算が想定する経済前提および歳出についての仮定を置くと、政府債務残高の対名目GDP比が長期的に上昇することを明らかにしている。財政に関するこうした長期的な見通しを欠いたまま、年金の持続可能性や社会保障の給付と負担の在り方を議論することには大きな限界がある。財政と、年金制度を含む社会保障を両にらみにした政策議論を行うべきである。 整合性、長期的視野、客観性を持った質の高い政策論議を 以上、われわれは、政府試算の経済前提と同じ想定を用いて財政の将来見通しを行うことで、財政を含めた政策が体系化されて試算されていないことを示した。 長期的な検証を行うことの意味は、長期的な視野で整合的な政策決定が可能になることだ。他の政策の影響を強く受ける場合に個別政策を切り離して議論することは問題の解決につながらず、適切ではない。転換期にある日本ではなおさらのことだ。社会保障制度の見直しを検討する際に、マクロ経済や財政状況に与える影響を合わせて整合的に考えることが不可欠である。 昨今は、例えば、財政赤字が拡大しても国債市場での金利は安定していることから、財政規律をそれほど気にしなくてもよいという意見がある。しかし、超低金利の背景には日本や先進各国が国債を大量に買い入れてきたことがあり、現在の金融緩和政策が30~40年にわたってずっと実施されるとは考えにくい。金利水準は、少しずつ、自然な水準に戻っていくと考えるのが一般的であろう。政策議論はどうしても近視眼的になりがちである。足元の経済状況に引っ張られた近視眼的な議論を回避する上でも定量的な長期試算を示すことは有用である。 将来推計にはリスクや不確実性が含まれ、事後的に検証すれば見通しどおりにはならないことも多い。しかし、こうした定量的な分析を基に政策判断を行えば、予想と現実が異なったときの検証を客観的に行うことも可能だ。財政を含めた長期的な検証に基づき政策課題を体系的に把握したうえで、問題の分析、政策の立案、国民の合意を得ていくという政策プロセスをたどるべきである。 コラム1:財政試算の方法について 本稿における財政試算の分析ツールは、財政収支、基礎的財政収支、国債残高などの長期的な財政指標を、人口動態の変化を反映して試算することを目的としたものである。試算方法は、欧州委員会において実施されている考え方にならっている(注1)。 実質GDP成長率、物価上昇率、金利、賃金上昇率、失業率、年齢別人口を外生変数として与え、内生変数は以下のとおり試算している。○年齢関係支出 医療:年齢階層別1人当たり医療費を1人当たり名目GDP成長率で延伸し、将来の年齢階層別人口を乗じて算出する。 介 護:年齢階層別1人当たり介護費を名目賃金上昇率で延伸し、要介護度に応じた65歳以上人口に対する利用者比率を一定として将来の年齢階層別人口を乗じて算出する。 年 金:2019年財政検証の結果を算入する。 生活保護:年齢階層別被保護者率を一定として将来の年齢階層別人口から被保護者数の推計をし、それに名目賃金上昇率で延伸した1人当たり給付額を乗じて算出する。 労災保険:名目GDP成長率で延伸する。 雇用保険:将来の労働力人口、失業率、賃金上昇率を用いて延伸する。 教 育:教職員1人当たり給与を名目賃金上昇率で延伸し、教育段階区分における年齢ごとの人口に対する在学者比率と、在学者1人当たりの教職員数を一定として推計した教職員数に乗じて算出する。○非年齢関係支出 名目GDP成長率で延伸する。○税収 税収弾性値を1として、名目GDP成長率で延伸する。2019年度の消費税率の引き上げおよび軽減税率の導入を反映している。 なお、財政からマクロ経済、社会保障へのフィードバックはない。 (注1) European Commission(2006)“The long-term sustainability of public finances in the European Union,” European Economy No4. コラム2:年金の財政検証の経済前提について 年金の財政検証では、経済前提について6つのケースを想定している。2028年度までの足元の経済前提については中長期試算に準拠し、ケースⅠ~Ⅲは成長実現ケース、ケースⅣ~Ⅵはベースラインケースを採用している。また、2029年度以降の経済前提については、長期的な経済情勢を見通すうえで重要な全要素生産性(TFP)上昇率を軸に、コブ・ダグラス型生産関数に基づいて経済成長率、物価上昇率、実質賃金上昇率、運用利回りなどの経済前提を設定している。 2029年度以降の主要な経済指標について、表にまとめた。なお、年金の財政検証には名目GDP成長率については明記されていないが、厚生労働省が財政検証の経済前提を設定する際に用いた数値を参考にした(表の注2を参照)表 ケース(ケースI、III、V)の主要な経済前提 (%) (注1)物価上昇率は消費者物価上昇率を示す。(注2)厚生労働省「年金財政における経済前提について(参考資料集)」(2019年3月)のP11より、賃金上昇率を算出するときに想定するGDPデフレータ上昇率と消費者物価上昇率の差(GDPデフレータは消費者物価よりも0.0~0.4%ポイント程度上昇率が低い)を参考に、ここでは、GDPデフレータ上昇率は消費者物価上昇率よりも0.2%ポイント低いとした。(注3)名目長期金利は、年金の財政検証の運用利回りから2.1%ポイントを差し引いて算出。(出所)厚生労働省「2019(令和元)年財政検証のポイント」(2019年8月) 小塩隆士(おしお たかし)一橋大学経済研究所教授 宮尾龍蔵(みやお りゅうぞう)東京大学大学院経済学研究科教授 神田慶司(かんだ けいじ)(株)大和総研経済調査部日本経済調査課長/シニアエコノミスト 横山重宏(よこやま しげひろ)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)経済政策部長/上席主任研究員 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)小塩隆士・宮尾龍蔵(2020)「整合性のある政策論議を-財政の長期検証なき社会保障論議への警鐘-」NIRAオピニオンペーパーNo.45 脚注 1 2019年7月公表。 1 2019年7月公表。 2 2018年5月公表。 2 2018年5月公表。 3 2019年8月公表。 3 2019年8月公表。 4 厳密には、名目GDP成長率=実質GDP成長率+GDPデフレータ上昇率であり、物価上昇率とGDPデフレータ上昇率の間には乖離があることから、対名目GDP比の低下幅は、実質GDP成長率よりも、その乖離幅分だけ小さくなる。 4 厳密には、名目GDP成長率=実質GDP成長率+GDPデフレータ上昇率であり、物価上昇率とGDPデフレータ上昇率の間には乖離があることから、対名目GDP比の低下幅は、実質GDP成長率よりも、その乖離幅分だけ小さくなる。 5 大和総研「日本経済中期予測」(2019年3月)では、国・地方の基礎的財政収支の赤字が対名目GDP比で2017年度の2.2%から2028年度には2.6%へ悪化する結果となっている。 5 大和総研「日本経済中期予測」(2019年3月)では、国・地方の基礎的財政収支の赤字が対名目GDP比で2017年度の2.2%から2028年度には2.6%へ悪化する結果となっている。 6 本試算では、2021年度にかけて、2019~2020年度の「臨時・特別の措置」が終了し、2018年度以前の水準に戻ることを想定している。 6 本試算では、2021年度にかけて、2019~2020年度の「臨時・特別の措置」が終了し、2018年度以前の水準に戻ることを想定している。 7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「マクロ経済モデルによる中長期の経済成長予測に関する調査研究」(2015年3月)では、非社会保障歳出が物価上昇率と同率で増加し、社会保障歳出が名目GDP成長率を反映するベースシナリオと、非社会保障歳出が名目額で横ばい、社会保障歳出が実質GDP成長率を反映する削減シナリオを想定している。その結果、2028年度時点では、基礎的財政収支の対名目GDP比で見て約4%ポイントの乖離がシナリオ間で生じる。 7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「マクロ経済モデルによる中長期の経済成長予測に関する調査研究」(2015年3月)では、非社会保障歳出が物価上昇率と同率で増加し、社会保障歳出が名目GDP成長率を反映するベースシナリオと、非社会保障歳出が名目額で横ばい、社会保障歳出が実質GDP成長率を反映する削減シナリオを想定している。その結果、2028年度時点では、基礎的財政収支の対名目GDP比で見て約4%ポイントの乖離がシナリオ間で生じる。 8 2028年度における国の一般会計の社会保障歳出は対名目GDP比で、中長期試算では5.9%、NIRA試算では6.5%である。 8 2028年度における国の一般会計の社会保障歳出は対名目GDP比で、中長期試算では5.9%、NIRA試算では6.5%である。 9 ケースⅤの年金給付については、所得代替率50%を維持した場合を用いている。年金の財政検証におけるケースⅡとⅣは、ケースⅠとⅢ、ケースⅢとⅤの中間値となるためここでは省略する。 9 ケースⅤの年金給付については、所得代替率50%を維持した場合を用いている。年金の財政検証におけるケースⅡとⅣは、ケースⅠとⅢ、ケースⅢとⅤの中間値となるためここでは省略する。 10 各ケースで大きな差がないのは、社会保障歳出の対名目GDP比が各ケースで大きく異ならないためである。 10 各ケースで大きな差がないのは、社会保障歳出の対名目GDP比が各ケースで大きく異ならないためである。 11 厳密には、長期金利ではなく、発行時の年限ごとの金利を反映した実効金利である。 11 厳密には、長期金利ではなく、発行時の年限ごとの金利を反映した実効金利である。 12 2001~2018年度のGPIF運用利回りが平均3.0%、10年国債利回りが平均1.0%であるため、その差分の2.1%ポイント(四捨五入)を乖離幅と仮定した。 12 2001~2018年度のGPIF運用利回りが平均3.0%、10年国債利回りが平均1.0%であるため、その差分の2.1%ポイント(四捨五入)を乖離幅と仮定した。 13 年金の財政検証のケースⅣ~Ⅵにおける2019~2028年度の実質運用利回りが平均0.9%、中長期試算のベースラインケースにおける同期間の実質長期金利が平均-0.2%となっているため、その差分1.0%ポイント(四捨五入)を乖離幅と仮定した。 13 年金の財政検証のケースⅣ~Ⅵにおける2019~2028年度の実質運用利回りが平均0.9%、中長期試算のベースラインケースにおける同期間の実質長期金利が平均-0.2%となっているため、その差分1.0%ポイント(四捨五入)を乖離幅と仮定した。 14 なお、長期的には名目成長率と利子率は基本的には同じ水準になるという考え方もあるが、その場合には運用利回りの想定、もしくは金利水準を変える必要がある。 14 なお、長期的には名目成長率と利子率は基本的には同じ水準になるという考え方もあるが、その場合には運用利回りの想定、もしくは金利水準を変える必要がある。 シェア Tweet ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構発行人:牛尾治朗※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ