企画に当たって

翁百合

日本のスタートアップ育成、いま向き合うべき課題は

多くの人が起業に挑戦し、健全に新陳代謝する国に

翁百合

NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所理事長

KEYWORDS

起業への挑戦、新しいビジネスモデルが育つ土壌、スタートアップ育成5か年計画

 日本経済の潜在成長率は、「失われた30年」といわれるほど、長期的に低下してきている。しかし、グローバルにみれば、デジタルやグリーン、ヘルスケアなどさまざまな分野で大変革が起こっている。イノベーションを主導しているのは、大企業もさることながら、スタートアップの企業群である。米国の30年前の時価総額上位10社の中には、現在10位以内を占めるテスラも、アマゾンもグーグルもいなかった。起業家が、社会課題の解決を目指し、それまで考えもつかなかった新しいビジネスモデルを掲げて次々と育つ土壌は、米国だけではなく、北欧やイスラエル、そしてシンガポールなどアジアの国々でもみられる。こうしたグローバルな動向や、解決すべき社会課題の大きさを考えれば、日本にとって重要なのは、多くの人が起業に挑戦し、スタートアップが育って健全な競争が促進されることである。これによってイノベーションが次々と生まれ、新陳代謝を伴いながら生産性が向上し、経済が活性化する必要がある。

 政府の成長戦略でも、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」が策定された。計画では、現在8,000億円規模のスタートアップへの投資額を、5年後の2027年に10倍を超える規模にするとされる。その三本柱は、①人材・ネットワークの構築、②事業成長のための資金供給や出口戦略の多様化、③オープンイノベーションの推進であり、これらの柱にさまざまな具体的な施策が盛り込まれ、一体として推進することとされている。もちろんかねてから何度となくスタートアップ育成策は実行されてきた。しかし、今回の5か年計画は、成長戦略の主軸と位置付けられたものである。また、グローバルな展開を本格化してスタートアップの規模を拡大するための包括的な方策も盛り込まれている。現在、この計画のロードマップに従ってさまざまな施策が実行される過程にあるが、一方で、さらに検討を深めるべき課題もあると考えられる。そこで、今回はスタートアップの最前線で日々尽力されている専門家の方々に、日本の現状に対する見方と、スタートアップ育成のためにさらに必要な施策をうかがった。

課題はやはり、人材が集まる流れ

 まず日本のスタートアップの現状は、課題はまだ多くあるものの、期待どおり気勢は盛り上がっているとの見方が多い。AI研究の第一人者でその門下生の多くがスタートアップに挑戦している東京大学教授の松尾豊氏は、政府が「スタートアップは重要であり応援する」というメッセージを出し続けることが重要と指摘している。ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズで活躍する高宮慎一氏も、明らかにスタートアップ企業は増えてきたが、日本の経済規模からすれば、よりスケールの大きい企業が生まれてよいと指摘している。

 このようにスタートアップを巡る環境は徐々に変わってきているが、解決できていない課題も多い。まず、第1はやはり人材の問題である。松尾氏も、自然に優秀な人材が集まる流れを創る重要性を強調しているほか、高宮氏も人材の流動性を高める日本ならではの施策の必要性を指摘している。また、ソニーグループでスタートアップのアクセラレーションプログラムを率いている小田島伸至氏は、政府の役割として重要なのは、挑戦するベンチャー企業の人たちの心理的安全性を確保し、起業を「普通の挑戦」にすることだと指摘している。北欧のような、失敗への許容度の高いセーフティーネットの仕組みを考える重要性も示唆される。また、子どもの頃から教育を始めることの意義も複数の人より主張された。スタートアップの魅力を伝え、中学・高校時代からアントレプレナー教育を受けられることは今後不可欠である。さらに、起業家だけでなく、ベンチャーキャピタルの人材の質や量ももっと厚くする必要がある。再生医療分野の大学発ベンチャー企業株式会社ケイファーマの経営者である福島弘明氏は、ベンチャーキャピタルの目利き力の向上が重要な課題と指摘している。

エコシステムに求められるグローバルな連携支援と機動的対応

 第2に、資金面での課題も依然として残っている。福島氏が強調するのは、日本では新規株式上場(IPO)後も継続して支援するベンチャーキャピタルが少ないことである。東京証券取引所グロース市場(注)は時価総額が小規模でも上場できる反面、上場後の資金の出し手はほとんどが個人投資家である。海外の投資家からみても、中核投資家が存在しないスタートアップには魅力を感じないとの見方もあり、さまざまな角度から改善する必要がある。また、大企業からの投資拡大に向けた政策に加えて、大企業との連携をより容易にし、スタートアップの「出口」における大企業とのM&Aなどの選択肢の拡大を図ることも重要だ。松尾氏、小田島氏が強調するように、大企業のイノベーションにつながるだけでなく、スタートアップの成功確率を向上させ、多くの人の挑戦につながる取り組みである。

 第3に、スタートアップ・エコシステムをいかに効果的に機能させるかも今後の課題である。シンガポールで政府の支援の下、スタートアップのエコシステム形成を強力にサポートする民間機関ACEの責任者のフローレンス・ネオ氏は、エコシステムで重要なのは、グローバルな連携を支援し、変化する環境によって目まぐるしく変わるスタートアップのニーズに対して機敏に対応することだと指摘している。日本はもっとこうした取り組みを積極的に加速すべきであろう。

(注)高い成長可能性を有する新興企業中心の市場

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日本の現状と政府の取り組みをどう評価するか。スタートアップを増やし、成長を促す鍵は何か。

松尾豊

起業に挑戦しやすいエコシステム、大企業はM&Aを

松尾豊

東京大学大学院工学系研究科教授

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自由な挑戦、人材が集まる流れ、M&A

 スタートアップに対する気勢は、期待どおりに盛り上がっている。今はまだ、米国のシリコンバレーと比較すれば日本の市場規模は小さいが、スタートアップを取り囲むエコシステムはフィードバックを繰り返して指数的に成長する。成功例が1つ出ると、起業のやり方が普及しチャレンジする者が増えていく。そうして参入が活発化すると、次第に投資の仕組みも整備され、ベンチャーキャピタル(VC)を通じてベストプラクティスの転移が起こる。一見、成長が遅いように思えても、継続して取り組めば、日本のエコシステムもやがて大きく成熟するので、悲観しなくてもよい。

 今の日本人に必要なのは、まずは事業を始めるという姿勢である。やってみてうまくいくなら加速し、ダメならすぐやめるというように、自由にどんどん挑戦することだ。挑戦を喚起する段階から、先回りして課題を並べ挙げることは、やらない理由づくりにしかならず意味がない。最初から完璧にはできないが、スタートアップが力をつけるのに何より大切なのは、起業家が自分で動きながら考え、乗り越えていくプロセスである。国が年度ごとに予算の計画どおりの執行に固執し、お仕着せのスタートアップ支援を実施しても良いことはない。

 政府はスタートアップが重要であるというメッセージを強く押し出した。政府には、スタートアップを応援するメッセージを出し続けることを期待する。多くの人がスタートアップを良いものと感じて、自然と優秀な人材が集まる流れを醸成できるかどうかが、非常に重要である。技術に習熟し、失うものが少ない学生起業家は既に、スタートアップは大企業に就職するよりリスクが少ないと考えている。「スタートアップは、人生のリスクを取ること」という社会の風潮を変えるような仕掛けが欲しい。

 そのためには、国は大企業に対し、スタートアップの買収、いわゆるM&Aを強く促すべきだ。今の日本のスタートアップの出口戦略は、新規株式上場(IPO)に比べて、M&Aが少なすぎる。M&Aは、スタートアップにとって「小さな成功」だ。成功体験が増え、スタートアップの成功確率が上がれば、より多くの人々が挑戦しやすくなる。思い切った挑戦をしづらい大企業にとっても、うまくいったスタートアップを買うことは理にかなっており、イノベーションを促進する上でも重要だ。

識者が読者に推薦する1冊

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松尾豊〔2015〕『人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの』角川EPUB選書

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日本の現状と政府の取り組みをどう評価するか。スタートアップを増やし、成長を促す鍵は何か。

高宮慎一

人材の流動性を促進し、日本ならではのエコシステムを目指せ

高宮慎一

グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

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デカコーン、スタートアップ特区、独自のエコシステム

 日本のスタートアップエコシステムは、その歴史の短さに反して、急速に発展した。米国シリコンバレーの歴史は60年にも及ぶが、日本はたかだか四半世紀であるのにも関わらず、シリアルアントレプレナーやスタートアップ、大企業での経営経験者、プロフェッショナルファーム出身者など多くの優秀な起業家が現れ、資金供給の担い手のベンチャーキャピタルも勃興し、エコステム発展の両輪となった。アベノミクス以来、政府の果たした役割も大きい。政府は直接投資に加え、大企業の業績を後押しし、新たな成長源としてスタートアップ連携・投資を促進した。結果、「ユニコーン(時価総額1,000億円超のスタートアップ)」は、第1号のメルカリが2018年に上場して以降、4年で30社超が登場した。

 日本の経済規模からすると、より多くのユニコーン企業が生まれ、時価総額1兆円以上の「デカコーン」が生まれてもよい。アベノミクスを踏襲する形の岸田政権の「スタートアップ育成5か年計画」は、さらなる後押しとなるだろう。ただし、政府の役割は、新技術には適切なルールを設定し、一方で不要な規制は緩和し、海外からの投資やM&Aを呼び込む法制度の設計が本分だろう。直接投資は民間の投資がつきにくいディープテック(注)やバイオ、国策領域にフォーカスし、その他の領域は市場原理、民間に委ねるべきだ。また、スタートアップの効果を測る上で、ユニコーン数や時価総額だけでなく、経済効果、雇用創出、海外での売上創出などを可視化すれば、国も民間も資源をより一層投下しやすくなる。

 資金供給の課題は解決されつつある。次の課題は人材の流動性だ。米国は総報酬が高い一方、解雇が容易で、有望な新領域に人材が集まる構造だ。日本は、総じては雇用の保障は維持しつつ、プロフェッショナル人材やグローバル人材、特区に限定して解雇規制を緩和するなど、日本に合った形で流動性を出す試みが必要だ。大企業人材の複業やリスキリング促進も有効だ。また、シリコンバレーのモデルの模倣に留まらず、日本ならではの魅力を生かした独自のエコシステムを構築すべきだ。例えばベルリンは、ファッションやアートの中心地であることを生かし、スタートアップ人材を呼び込み、カルチャーやエンターテインメントのスタートアップを多く輩出している。日本も、食、安全、ホスピタリティーや歴史的文化、マンガ、アニメなどサブカルチャーを梃子に、世界中から人材を集めるべきだろう。

(注)基礎研究、技術開発などから取り組む、技術がコアとなる領域。商用化まで長期間・膨大な投資が必要とされる。

識者が読者に推薦する1冊

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高宮慎一〔2018〕『起業から企業へ―4つのステージの乗り越え方』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文Kindle Edition、ダイヤモンド社

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日本の現状と政府の取り組みをどう評価するか。スタートアップを増やし、成長を促す鍵は何か。

小田島伸至

心理的な安全性を確保し、スタートアップへの参画が当たり前の環境を作る

小田島伸至

ソニーグループ株式会社事業開発プラットフォームStartup Acceleration部門副部門長 Sony Startup Acceleration Program責任者

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心理的な安全性、普通に挑戦できる仕組み、大企業と連携

 スタートアップに挑戦する人は増えたとはいえ、依然として起業の難易度は高い。今はまだ、大リーグ野球への挑戦を切り開いた野茂英雄のように、「超優秀で」「超勇気のある」一握りの人が飛び込む世界だ。野茂の時代には、渡米したらもう日本には戻る場所がなかった。今では多くの人が大リーグに挑戦し、うまくいかなければ、日本に帰ってまた頑張ることもできる。スタートアップへの挑戦も、リスクの高い特別な道ではなく、普通の人が当たり前に挑戦できる選択肢にしていく。それを担えるのは政府しかない。精神論ではなくシステマチックに対応する段階に来ている。

 スタートアップの経営者は資金繰りに追われ、時間の3分の1を費やしている。起業家本来の仕事である新たな価値の創出に存分に打ち込めるようにするには、資金提供の手段を充実させる必要がある。政府は助成金をもっと利用しやすくするとともに、大企業が内部留保や利益の中から一定率をスタートアップへの投資や育成に拠出することを制度化してはどうか。制度があれば、今まで積極的投資のネックとなっていた株主への説明責任も解決できる。

 また、いきなり起業してリスクに挑むのではなく、事前に起業やビジネスを実践できる場を増やして、挑戦の確度を高める施策も重要だ。そのため、政府が官民連携を深めてアクセラレーションプログラムそのものに資金を提供する。さらに、事業の成功確率を高めるため、大企業とスタートアップの連携を容易にする政策を実施し、出口の多様性を広げることも有効だ。加えて、社会全体の認知度を高めることも、政府に期待される役割だ。プログラミング教育を義務化したことでエンジニアの裾野が広がったように、子どものうちからスタートアップの魅力を伝え、認知度を上げる教育を定期的に提供することも有効だろう。

 このように、政府の役割は、ベンチャー企業の「心理的な安全性」を担保することといえる。いわば、スタートアップを一攫千金を夢みる仕事ではなく、一般企業での働き方に近づけることである。私が赴任したデンマークの起業家は、無理だと思ったら、事業をやめて別のチャレンジをしている。それを可能にしているのが手厚い失業給付だ。政府には、起業を普通の挑戦にするための仕組みを作り上げていただきたい。

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チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン〔2022〕『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(増補改訂版)入山章栄監修、冨山和彦解説、渡部典子訳、東洋経済新報社

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日本の現状と政府の取り組みをどう評価するか。スタートアップを増やし、成長を促す鍵は何か。

福島弘明

IPO後の支援と、「目利き人材」活用によるVCの投資拡大

福島弘明

株式会社ケイファーマ代表取締役社長

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中長期のサポート、目利き人材、アントレプレナーシップ教育の推進

 岸田政権がスタートアップ育成を支援する政策を明確に打ち出したことは評価できる。

 そのうえで、対応すべき課題は大きく分けて2つある。1つ目は、政府の計画は5か年だが、スタートアップ育成の政策構想の射程は10年以上であるべきだ。新規株式上場(IPO)は投資家にとってゴールではあっても、起業家自身にとってはゴールではない。上場後、さらに成長しなければユニコーンは生まれない。IPOにこぎ着けた後、起業後期の成長投資に対応するベンチャーキャピタル(VC)は少なく、IPOをした途端に支援がなくなるのは問題だ。IPO以降の成長戦略へのサポートを視野に入れ、中長期的な育成の展望と対応策を持つことが、ユニコーンを生む土台となると考える。

 2つ目は、VCにプロジェクトを正当に評価・支援できる「目利き人材」を、もっと活用させることだ。政府は2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模に引き上げる。このこと自体は歓迎したいが、目利き人材が不足しているために、実体が伴っていない。特にバイオ系など専門知識が要求され、結果が出るまでに時間がかかる分野だ。創薬ベンチャーの中には独自の創薬開発プラットフォームを提供して早期にマネタイズする企業もあるものの、ごくわずかである。スタートアップだからこそ、大手製薬企業でも出せない薬でグローバルなビッグテックに成長できる可能性がある。目利き人材の活用を促し、可能性がある企業に政策資金が届き、製品化にたどり着けるようサポートすべきだ。

 昨年(2022年)、政府は「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」を公募したが、採択したベンチャー企業は、わずか2社。応募資格は、認定したVC8社が「出資に値する」と判断した企業に限定していたのに少な過ぎだ。IPO達成時に資金提供が停止される仕組みにも課題が残る。制度を創っても、判断が厳しすぎて結局資金提供しないのでは、その趣旨にもとるだろう。

 そもそも日本ではスタートアップに関心のある人が多くないのも問題だ。ビジネスパーソンの起業マインドはまだ低く、スタートアップに積極的に参加しようという人が少ない。大学も「知を社会に還元する」という意識を持つ教員、研究者がまだまだ少ない。中学生や高校生といった若年世代のうちからアントレプレナーシップ教育を推進し、起業の成功事例や魅力を伝え、日本全体で起業マインドを向上させていくことが大切だ。

識者が読者に推薦する1冊

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ウォルター・アイザックソン〔2011〕『スティーブ・ジョブズ I・II』井口耕二訳、講談社

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日本の現状と政府の取り組みをどう評価するか。スタートアップを増やし、成長を促す鍵は何か。

フローレンス・ネオ

進化を続けるスタートアップのエコシステムに機敏に対応する

フローレンス・ネオ

アクション・コミュニティー・フォー・アントレプレナーシップ(ACE)最高経営責任者

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政府と起業家の橋渡し、起業家精神の醸成、グローバル思考

 スタートアップはイノベーションを推進するだけでなく、国の成長にも大きく貢献する。シンガポール政府はこのことに一早く気づき、1999年には10億ドルのファンドを設立して、著名なベンチャーキャピタル(VC)のファンドマネジャーを招致した。そして、起業家精神をさらに強力に促進するために発足させたのがACEだ。2003年のことである。

 ACEは起業家精神の伝道師といえる。スタートアップの耳、目、そして口となって、起業家の声を代弁し、政府と起業家の橋渡しをしている。新規企業に対して、イノベーションや海外進出のためのプログラム、市場の分析、メンター支援を行うとともに、ネットワーク構築の機会を提供する。また、意見交換会、ハッカソン、起業家のデモイベント、ベースキャンプなどを定期的に開催し、エコシステム全体の連携を円滑、かつ強固なものとしている。高等教育機関や、専門職・管理職・経営者・技術者といった高度専門職、そして成人学習者に、起業家精神を醸成していくことは、経済の課題を解決するうえで重要だ。エコシステムはその役割を担っている。(シンガポールのスタートアップ支援機関「ACE」参照。)

 ACEは設立当初、貿易産業省の下部組織であったが、2014年に民間主導の非営利団体へ改編した。これは2つの利点をもたらした。1つは、スタートアップの代弁者として政策決定に与える影響力だ。ACEは大臣の後押しを受けつつも、民間出身の起業家が会長を務める。そのため、エコシステム全体に関わる政策決定に影響を与える有利な立場を維持できる。同時に、関係者が直面する課題に共に向き合うことが可能だ。もう1つの利点は、戦略的、組織的な柔軟性だ。政府と密接に連携しながらスタートアップと起業家を擁護する。進化するスタートアップ・シーンの中で目まぐるしく変わるニーズに対し、機敏に対応することで、不確実な時代でも成功を収めることができる。

 これからのスタートアップの成功には、グローバルな思考が不可欠だ。ACEは世界の17都市と協力関係を結び、スタートアップが海外市場へ迅速に参入することを支援している。2017年には福岡市と覚書を締結し、両者の協力による相乗効果が生まれた。ACEはシンガポールのスタートアップに日本市場への進出を支援し、日本のスタートアップに対しても、シンガポール、ひいては東南アジア等への入り口を提供している。最近も福岡のスタートアップや企業を招いたピッチセッションを行うなど、エコシステムのさらなる促進に向け、活動している。
*原文は英語版に掲載

識者が読者に推薦する1冊

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Inderjit Singh Dhaliwal〔2022〕The Art and Science of Entrepreneurship, World Scientific Pub Co Inc

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2023)「スタートアップを人生の「普通の選択肢」にする社会へ」わたしの構想No.65

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  • 日本のベンチャー企業の出口:社数の推移(2017-2021年)

    注)「売却」はセカンドリーファンド、その他第三者への売却など事実上の処分を示す。
    出所)一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2022)『ベンチャー白書2022』

    付表

  • 日本のベンチャー企業の出口:社数の推移(2017-2021年)

    注)「売却」はセカンドリーファンド、その他第三者への売却など事実上の処分を示す。
    出所)一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2022)『ベンチャー白書2022』

    付表

  • 日米のベンチャーキャピタルのステージ別投資状況(2021年)

    注1)日米ともに、「レイター」ステージのデータは、「エクスパンション」ステージの数値を含む。
    注2)投資額の対GDP比は、2021年の平均為替レート1ドル109.75 円を使用して算出。
    出所)一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2022)『ベンチャー白書2022』、World Bank, World Development Indicators.(2023). Population total, GDP(current US$).(ともに2023年3月23日アクセス)をもとにNIRA作成。

    付表

  • 日米のベンチャーキャピタルのステージ別投資状況(2021年)

    注1)日米ともに、「レイター」ステージのデータは、「エクスパンション」ステージの数値を含む。
    注2)投資額の対GDP比は、2021年の平均為替レート1ドル109.75 円を使用して算出。
    出所)一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2022)『ベンチャー白書2022』、World Bank, World Development Indicators.(2023). Population total, GDP(current US$).(ともに2023年3月23日アクセス)をもとにNIRA作成。

    付表

  • 起業環境と起業に対するマインドの国際比較(2022年)

    注)参加国2,000人以上の成人(18~64歳)を無作為抽出した、成人人口調査(APS)。2022年は173,000人が参加。「起業する意志がある」は、「今後3年以内に起業する予定があるか」という質問にYESと答えた人の割合。
    出所)GEM(2022)Global Entrepreneurship Monitor 2022/2023 Adapting to a “New Normal”

    付表

  • 起業環境と起業に対するマインドの国際比較(2022年)

    注)参加国2,000人以上の成人(18~64歳)を無作為抽出した、成人人口調査(APS)。2022年は173,000人が参加。「起業する意志がある」は、「今後3年以内に起業する予定があるか」という質問にYESと答えた人の割合。
    出所)GEM(2022)Global Entrepreneurship Monitor 2022/2023 Adapting to a “New Normal”

    付表

  • シンガポールのスタートアップ支援機関「ACE」

    注)ACEはシンガポールのスタートアップエコシステムの発展とチャンピオン企業の育成に寄与する公益の民間機関。1,300社以上のスタートアップ企業、2,000人以上の会員を誇る。
    出所)ACE公式ホームページ、福岡市プレスリリース(2017)「シンガポールのスタートアップ支援機関ACEとのMOUを締結し、スタートアップのシンガポールへの展開を支援します!」(ともに2023年3月20日アクセス)をもとにNIRA作成。

  • シンガポールのスタートアップ支援機関「ACE」

    注)ACEはシンガポールのスタートアップエコシステムの発展とチャンピオン企業の育成に寄与する公益の民間機関。1,300社以上のスタートアップ企業、2,000人以上の会員を誇る。
    出所)ACE公式ホームページ、福岡市プレスリリース(2017)「シンガポールのスタートアップ支援機関ACEとのMOUを締結し、スタートアップのシンガポールへの展開を支援します!」(ともに2023年3月20日アクセス)をもとにNIRA作成。

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
神田玲子、榊麻衣子(編集長)、山路達也
※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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