森直子
総合研究開発機構リサーチフェロー

概要

 グローバル経済化のなかで、国際標準化をめぐる動きは活発化し、経済の死活問題に直結する大きな課題となっている。本論では近年の国際標準化の問題点を3つ取り上げ、日本やアジアが直面する問題を考察する。
 第1の問題点は、「国際標準」が特定地域など偏った利益を代表することがあり、それが貿易阻害を助長する事態まで生じていることである。
 第2の問題は、世界統一標準を設定するなかで消費者便益を公平に保護する難しさの問題である。
 第3の問題は、国内標準と国際標準の整合化、及び調整過程で必要となる膨大な労力の問題である。
 このうち、後者2つに関しては、日本は、そもそも国内標準に消費者便益保護が体系的に取り入れられていない、また、膨大な労力の背景にある「縦割り行政」による弊害といった国内問題を克服せねばならず、苦しい立場での行動を迫られている。
 第1の問題に対しては、日本は他の国のように挙国一致体制での戦略的対応がとり難く、集中的に人材、費用を投資することへのコンセンサスが形成できずに苦慮している。しかし、こうした状況は、かえって日本が、混乱した状態にある「国際標準」の問題を整理し、国際貿易の円滑化と国際標準化とをバランスよく促進していくための議論を主導することを可能にすると思われる。国際標準化におけるアジア諸国との連携も、国際標準の課題解決の議論を、共に世界に問いかけていくことで築かれる。

INDEX

目次

要旨
1.国際標準化の今日的問題
2.国際標準が急速に変化した
 (1)「標準化」は中立的ではない
 (2)国際的「先取り標準」の登場
 (3)「国際標準」の内容変化
 (4)「●▲国株式会社」化が進む
3.国際標準化の3つの問題
 (1)「国際標準」が貿易阻害要因に
   ① 地域エゴが国際標準に昇格する
   ② 地域性の保護と国際標準化の難しいバランス
 (2)製品安全性の国際標準化と消費者便益の不一致
 (3)国際標準への整合化過程での混乱
   ① 国内制度の調整
   ② 国内標準の再整備 ―「国際化」を進める
4.国際標準化の流れにどう対処するのか
 (1)「●▲国株式会社」化には迎合しない
 (2)国際標準とWTO/ TBT協定の関係を見直す

図表

図表1 ポール・デヴィッドによる標準の分類
図表2 公的な国際標準と輸出市場参入条件の関係
図表3 同一領域における複数の公的国際標準間での競争
図表4 諸外国における標準化予算(経済産業省試算)
図表5 各国国内標準/規格、EN規格と国際規格の関係概念図
図表6 日本と欧米の安全に対する考え方の違い
図表7 中国のCCCマーク制度の構図
図表8 ISO規格数の推移

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)森直子(2009)「国際標準化の問題とアジアへの展望」NIRAモノグラフシリーズNo.30

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

研究の成果一覧へ