[ゲスト]
生源寺眞一
名古屋大学大学院生命農学研究科教授

[聞き手]
伊藤元重
総合研究開発機構理事長
          

 対談シリーズNo.68  2012.01

TPP問題と日本の農業

概要

 日本ではTPP交渉への参加を巡り、大きな論争が行われている。TPP参加への賛否や、農業と食料の問題について、名古屋大学大学院生命農学研究科教授の生源司眞一氏にお聞きした。

対談のポイント

●TPPによって、数兆円のGDPのロスが農業分野に生じるという「試算」などがひとり歩きをして事態を混乱させている。確かな情報に基づく議論を重ね、次に何かが起こったときにどうするかという図上演習をやっておくべきである。
●中国には日本の消費者が求めるような米の供給能力がある。しかし国内需要もかなりあり、また、中国、あるいはアジアでは経済成長が進んで、農業の比較優位が失われていく。こうした点を踏まえて経済連携を考えなければならない。
●日本農業の問題点は兼業農家の高齢化で、リタイアした農業者の農地の担い手を育てることが肝要である。米作である程度の規模の拡大は可能だが、これからの農業経営ではいかに「付加価値」を確保するかがポイントになる。
●TPP参加ということになれば、10年間の猶予期間で基本的に農産物の関税をゼロにするのが原則である。農産物の価格低下による所得減少を直接支払いで補償すると同時に、日本の農産物の輸出の可能性を開くための方策を立てていくことが重要である。こうした姿勢がTPP交渉に踏むにあたっての基本になろう。

生源寺眞一(しょうげんじ しんいち)
名古屋大学大学院生命農学研究科教授。1976年東京大学農学部卒。専門は農業経済学。農林水産省農事試験場研究員、北海道農業試験場研究員、東京大学農学部助教授を経て、1996年から東京大学教授、2011年から現職。この間、ケンブリッジ大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長、農村計画学会会長などを務める。主な著書に、『日本農業の真実』[2011]筑摩書房、『農業再建―真価問われる日本の農政』[2008]岩波書店、『現代日本の農政改革』[2006]東京大学出版会など。1999年にNIRA政策研究・東畑記念賞を受賞。

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