[ゲスト]
吉川洋
東京大学大学院経済学研究科教授

[聞き手]
伊藤元重
総合研究開発機構理事長
          

 対談シリーズNo.67  2011.12

社会保障の改革は「賢い効率化」と「応分の負担」で

概要

 社会保障と税の改革は、今の日本が直面する最も重要な制度改革である。同時に、それは国民に負担を求める、政治的には非常に厳しい課題でもある。これまで総理主催の有識者会議や審議会などで主導的な役割を果たしてきた、東京大学大学院経済学研究科教授の吉川洋氏にお聞きした。

対談のポイント

●日本の財政は国際的、歴史的に見ても極めて悪い状態にあり、これ以上放置できない。そして財政悪化の根元には、高齢化に伴う社会保障制度の問題がある。
●従って、「社会保障と税の一体改革」が喫緊の課題となる。改革のポイントは社会保障の「賢い効率化」と「応分の負担」である。
●大前提として負担増による財源の確保がある。消費税率の引き上げは避けられないが、それだけでは十分ではなく、そこで社会保障給付の「効率化」が求められる。
●最終的には年金の支給開始年齢を上げざるを得ない。しかし高齢者の生活条件のバラツキを考慮に入れた対応が必要である。
●高額療養費制度は医療保険制度の柱であり、拡充が必要だ。他方、小さな医療費については、中以上の所得層ではもう少し自己負担があってもよい。
●社会保障番号を導入し、ITを駆使して、限られた財源の中で、リアルタイムの対応が可能な、国民に使い勝手のいい社会保障のパッケージを提供することが必要である。

吉川洋(よしかわ ひろし)
東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学経済学部卒。1978年イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。専門はマクロ経済学。ニューヨーク州立大学経済学部助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学経済学部教授等を経て、96年より現職。2001-06年及び08-09年に経済財政諮問会議民間議員を務めたのをはじめ、2008年には社会保障国民会議座長、2010年以降は財政制度等審議会会長、社会保障改革集中検討会議委員などを歴任。2010年紫綬褒章受章。主な著書に、『いまこそ、ケインズとシュンペンターに学べ』[2009]ダイヤモンド社、『マクロ経済学第3版』[2009]岩波書店、『構造改革と日本経済』[2003]岩波書店。主な編著書に『少子高齢化の下での経済活力』[2011]日本評論社、『デフレ経済と金融政策』[2009]慶應義塾大学出版会等多数。

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