[ゲスト]
田中明彦
東京大学大学院情報学環・東洋文化研究所教授/理事・副学長

[聞き手]
伊藤元重
総合研究開発機構理事長
          

 対談シリーズNo.54  2010.04

日本の東アジア外交戦略

概要

 新政権が外交政策として打ち出した「東アジア共同体」の構築を踏まえ、アジアと日本の関係について再考する必要がある。アジアとの関係における日本の課題や好機、日本の取るべき外交戦略について、東京大学大学院情報学環・東洋文化研究所教授/理事・副学長の田中明彦氏にお聞きした。

対談のポイント

●アジアは今後、「世界の成長センターになることが確実であり、日本にとっては大きな「機会」である。一方、この地域が抱えている政治的、安全保障的不安定要因にどう対応していくかが日本の「課題」となる。
●今後の日本の東アジアにおける外交戦略の要点は、二者択一的な行動ではなく、APEC、ASEAN、ASEAN+3. ASEAN+6、「日中韓」などの複数の枠組みを活用して、望ましい方向に地域を動かしていくことである。特に、いま「日中韓」は大切な枠組みである。
●東アジア全体の安定性を保つためにアメリカのプレゼンスは欠かせない。日本はアメリカがアジアにおけるプレゼンスを維持できるよう行動すべきである。日米の同盟関係はその意味でも重要である。
●中国の経済規模は今後さらに拡大するにしても、世界で支配的なヘゲモニーを取るところまでは達しないだろう。他方、中国の政治体制が長期的に支払うコストは大きく、極端に走ることのないよう、徐々に変化していくことが望まれる。

田中明彦(たなか あきひこ)
東京大学教養学部卒。1981年マサチューセッツ工科大学で政治学の Ph.D.取得。専攻は国際政治学。東京大学教養学部助手、助教授、東洋文化研究所助教授などを経て、1998年同教授、2002年4月~2006年3月まで同所長。2000年4月~2002年3月、2006年4月~大学院情報学環教授。2009年4月~東京大学理事・副学長。主な著書に『新しい「中世」』(1996年)日本経済新聞社(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス』(2000年)筑摩書房(読売・吉野作造賞受賞) 、『アジアのなかの日本』(2007年)NTT出版、『ポスト・クライシスの世界』(2009年)日本経済新聞出版社等多数。

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