研究報告書 2007.12.01 学生のアイデアとパワーを活かした魅力ある地域づくり この記事は分で読めます シェア Tweet 財団法人静岡経済研究所 概要 本報告は、『地方の魅力づくりとその活用』ならびに『地域雇用拡大への新たな取り組み』をテーマに、全国5機関のシンクタンクに委託して実施した事例調査のうちの1つ「学生のアイデアとパワーを活かした魅力ある地域づくり」の研究成果である。 まちづくりや地域おこしにおいて、学生(大学生、短大生、専門学校生等)と地元の商店街や商工業団体とが連携する取組みが、全国で注目されている。学生の立案による商店街空き店舗の活用や、学生のアイデア提供による地域資源の発掘・特産品の開発など幅広い。柔軟で斬新なアイデアをもつ学生の力を地域や商店街の活性化・再生に結びつけ、ひいては卒業後も地元に残って創業・起業に力を発揮して欲しいと願う地域の期待と、また学生の在籍する大学側においても、地域づくりなどの実学は魅力ある授業として人気が高く、少子化の中で学生確保につなげたい意向とが背景にあると考えられる。 本調査の目的は、少子高齢化が進展し、地域づくりの若い担い手が減少する中で、アイデア豊富で実行に向けたパワーのある学生の力を、まちづくりや地域おこしに効果的に活かすための仕組みの構築、さらには、そのポイントを分析することである。 これにより、 ①今までとは異なる、多様で斬新な視点からの地域おこしのアイデアの提供 ②卒業後の地域の担い手の育成・確保 ③市民と行政を中心としたまちづくりの気運の高まりなど、地域再生につながる具体的な提言を目指した。 研究内容としては、まちづくりや地域おこしの動向・現状について、文献調査や専門家へのヒアリングにより、取組みの事例や課題などを整理した。また、学生(大学生、短大生、専門学校生等)に対して、まちづくりや地域おこしへの関心、参加・協働意識等に関するアンケート調査を行った。 学生の持つアイデアやパワーを活用して、地域おこしや商店街活性化等の魅力ある地域づくりに成果を出していくためには、地域と学生、大学、商店街、行政といった関係者同士のパートナーシップが重要である。したがって、そうした関係や環境づくりのための要素、障害要因、改善ための方策、さらには、関わりが短期的(在学中)になりがちな学生たちの活動を継続的に実施していくための条件等を抽出する。 その上で、「学生が参加する地域づくり」に向けて、大学、行政、商店街など、多様な主体が取り組むべき環境づくりについて、方向性を示唆するとともに、提言を行った。 全文を読む INDEX 要約第1章 地域づくりの担い手としての学生を取り巻く環境 少子高齢化が急速に進展するわが国では、いわゆる学生(大学生、短大生、専門学校生等)の年代に該当する18~22歳人口の全人口に対する割合は、5.6%にまで低下している。いま、社会を支えていくこうした世代の減少が、社会活力の低下を招くことへの懸念が高まっている。 また、学生人口の減少は、大学経営にも大きな影響を与えており、まもなく「大学全入時代」を迎えるものと見られることから、学生確保のために独自の取組みを行う大学も見られ始めている。 さらに、地域への影響も大きく、今後、学生を含む若者を地域の担い手として、どのように育てていくかが課題となっている。第2章 学生の社会活動に関する現状分析 静岡県内の学生で、まちづくりへの関心が高い学生を中心に、地域活動に対する意識・取組みへのアンケート調査を行った。これによれば、回答した学生の4分の3が「ボランティア活動への関心」を持っており、関心のある分野も「まちづくり」や「環境問題」、「国際協力や国際親善」など幅広い。 また、「まちづくりへ関心」については、7割の学生が関心を持っており、関心のある分野としては、「商店街・自らの地域の活性化」が約5割、「観光分野」が約3割に上ったが、活動経験は2割弱となった。 活動のきっかけは、「もともと興味があったから」が4割で最も高く、「大学授業を受け、興味を持った」が3割弱、「友人に誘われた」が2割弱で続いている。 ゼミ活動を含む「まちづくり活動の課題」は、「活動資金が不足している」が6.6%で最も高く、次いで「活動時間が少ない」が6.3%で続く結果となった。第3章 広がる学生を活用した取組み 国ベースでも、地域再生や教育改革などさまざまな視点から、学生と連携して地域活性化を図ろうとする取組みが広がっている。 内閣官房では、2005年12月、「大学と地域の連携協働による都市再生の推進」を開始したほか、総務省では、「大学と連携した地域づくり」をテーマに、2005年に、全市町村を対象にアンケートを実施している。 また、文部科学省では、「特色ある大学教育支援プログラム(特色2GP)」、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」を実施し、大学の地域活性化への貢献を後押ししている。 さらに、こうした包括的な取組みのほかにも、個々の大学のゼミナールを中心に、学生と一緒になった取組みが展開されており、中心市街地の活性化や、若者の就職支援、政策提言能力の向上など、さまざまな分野で活動が広がっている。第4章 学生の力を地域活性化に活かすためのポイント 学生の持つアイデアやパワーを地域づくりにつなげていくためには、学生と、教員、大学、商店街、行政、そして地域の多様な主体との、関係者間のパートナーシップの構築が欠かせない。 具体的には、下記3点が主なポイントとなる。 ①継続性を維持する 通常、学生は最長でも4年間で卒業してしまうことから、事業への関わりが短期的になる傾向があり、パートナーと信頼性を築きにくい環境にある。そこで、事業の継続性を維持するためには、運営主体は、就職活動で忙しい4年生を避けて3年生とすることで、責任分担を明確にして、事業の継続性を損なわないように組織的な対応を行っていくこと、あるいは、事業への参加をゼミナール単位とすることで、継続的な活動を担保できる工夫をしていくことが求められる。 一方、学生側のやりがいを高めるためには、学生が興味を持ったテーマをできるだけ尊重することも重要で、提案内容がどのようにパートナー側に評価されているかなど、学生側に事業評価をフィードバックしていくことが、学生側のやりがいを高めることにつながる。 ②大学として組織的に取り組む 学生(ゼミナール単位での活動も含む)の地域活性化への取組みは、多くの場合、指導している教員個人に依存しているのが現状である。そこで、まず大学は、指導教官の負担を軽減するために、組織的にバックアップできる体制づくりを進めていく必要がある。たとえば、大学として地域貢献を行ったり、学生が地域活性化活動を行う窓口となる地域活性化センターを設立することや、社会的課題解決を目指しているリサーチアシスタント(以前の助手や院生に相当)を活用していくことが有用となる。 また、フィールドワークなど地域貢献に熱心に取り組む教員を評価する仕組みづくりも、多くの先生が取り組む環境づくりとして求められる。 ③コーディネーターの存在 学生から出されたアイデアを精査し、地域側の事業パートナーが受け入れやすいものにしていく仲介役が必要となる。学生のアイデアは斬新であるが未熟な部分が多いことから、学生自身のやる気を低下させず、学生自身の主張や考え方を損なわないように、きめ細やかな指導・対応が求められる。また、仲介役としては、必ずしも指導教員がコーディネート役を担わなければならないわけではなく、中小企業診断士や地域産業支援センターなどの専門家に仲介役を依頼していく方法が考えられる。 今後、学生による地域づくりがさらに活発になり、参加しやすい環境づくりが進められていくことが期待される。そのためには、 ①学生が行う活動に対して、過度な期待や短期的な成果を求めないなど、学生の活動については教育的成果を加味して評価すること ②学生側の地域活動暦などを踏まえ、事業パートナーが具体的な目標を設定するなど、地域側が戦略的・長期的なビジョンを持って取り組むこと ③多くの学生が参加しやすいように、大学同士が連携し、フィールドワークの単位認定を進めることなどが重要である。 目次はじめに序要約第1章 地域づくりの担い手としての学生を取り巻く環境第2章 学生の社会活動に関する現状分析第3章 広がる学生を活用した取組み第4章 学生の力を地域活性化に活かすためのポイント 研究体制研究代表者 大石人士 (財)静岡経済研究所研究部長研究担当者 玉置実 (財)静岡経済研究所研究部主任研究員研究分担者 森下泰由紀 (財)静岡経済研究所研究部研究員 佐藤祐介 (財)静岡経済研究所研究部研究員 池谷麻理子 (財)静岡経済研究所総務部職員研究参加者 日詰一幸 静岡大学人文学部教授(外部委員) 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)財団法人静岡経済研究所(2007)「学生のアイデアとパワーを活かした魅力ある地域づくり」総合研究開発機構 シェア Tweet ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ