和仁屋浩次
総合研究開発機構リサーチフェロー

概要

 本稿では、沖縄県が単独州を選択した場合の歳入歳出構造のシミュレーションを行い、道州制実現下における沖縄州と州内基礎自治体の財政構造を明らかにした。
 歳出シミュレーションでは、道州制実現下での国、道州、基礎自治体の役割分担に再編成するとともに沖縄県の地域特性を踏まえた上で歳出構造に関する分析を行った。道州制移行後は沖縄州の歳出総額は現在と比較して減少する一方で、州内基礎自治体の歳出総額は大幅に増加する可能性がある。さらに州内基礎自治体の歳出総額は沖縄州の歳出総額を上回り、沖縄州と州内基礎自治体の歳出規模は逆転する可能性がある。
 歳入シミュレーションでは、道州制実現下での税体系に再編成するとともに、国庫支出金や地方交付税の廃止といった条件を設けるなど、道州制下の税財政に関する議論に対応した制度のもと歳入構造の分析を行った。国からの税源移譲は新たに移譲される事務・権限を賄う程度にしかならず、国庫支出金や地方交付税の廃止に伴う歳入減の影響を補完できない可能性がある。したがって、道州制移行後も財政調整に頼らざるを得ない脆弱な財政構造であり、道州制実現下では現在より厳しい財政運営を強いられることが予想される。
 道州制移行後の財政収支を改善させる方策として、『沖縄県市町村合併構想』にもとづき、「市町村合併が実現した場合の歳出削減効果」を推計した。分析結果によれば、市町村合併は財政収支の改善に寄与するものの、財政調整に依存する財政構造を転換する程にはインパクトを持ち得ないことが明らかになった。
 道州制実現下においても沖縄県は財政力格差を是正するための措置が必要になる。今後、道州制移行によって税財政制度が再設計される際、沖縄県にとって有益な財政調整制度の構築を促すためには領海・排他的経済水域面積の寄与といった沖縄県が日本に果たしている貢献部分を論理的に提示し、沖縄県の地域特性が財政調整の算定基準に制度として組み入れられるように戦略的に取り組む必要がある。また、長期的な観点からは、地域活性化等により自主財源の涵養を図るとともに、自治会やNPOといった行政に代わる“新たな担い手”の育成を行うなど、歳入歳出の両面から構造転換を図り財政基盤の強化に取り組むことが重要である。

INDEX

目次

はじめに
第1節 既存研究の成果
第2節 歳出構造の分析
第3節 歳入構造の分析
第4節 市町村合併による歳出削減効果の検証
おわりに



図表

図表2-1 国・道州・基礎自治体の役割分担
図表2-2 国から地方への事務・権限移譲(目的別分類)
図表2-3 国から地方への事務・権限移譲(道州/基礎自治体)
図表2-4 国から沖縄州・州内基礎自治体への事務・権限移譲
図表2-5 国からの事務・権限移譲後の歳出構造(沖縄州/州内基礎自治体)
図表2-6 沖縄州から州内基礎自治体への事務・権限移譲
図表2-7 シミュレーション後の沖縄州の歳出構造
図表2-8 シミュレーション後の州内基礎自治体の歳出構造
図表3-1 道州制実現下での税体系
図表3-2 税源移譲後の国・道州・基礎自治体の税源構成
図表3-3 国からの税源移譲(沖縄州/州内基礎自治体)
図表3-4 シミュレーション後の財政構造(沖縄州/州内基礎自治体)
図表4-1 市町村合併による歳出削減の理論
図表4-2 推定結果
図表4-3 市町村合併による歳出削減効果の推定

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)和仁屋浩次(2009)「道州制実現下における沖縄単独州の財政構造に関する実証分析ー沖縄単独州の財政課題とその対応策ー」NIRAモノグラフシリーズNo.28

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