宇野重規
NIRA総合研究開発機構理事/東京大学教授
内田友紀
株式会社リ・パブリックシニアディレクター
藤沢烈
一般社団法人RCF代表理事
米田惠美
公認会計士/公益社団法人日本プロサッカーリーグ元理事

概要

 今日、「当事者意識(オーナーシップ)」という言葉に再び注目が集まっている。そこで重視されるのはまず、各個人の当事者意識である。「他人事(ひとごと)」ではなく「自分事」と思うからこそ、人は課題やミッションに主体的に取り組む。次に、この言葉は、誰もが自らの人生の責任ある当事者として、自分のことは自分で決定し、社会的に必要なサポートを受けつつ自立して暮らしていけることを指す。そして第3に、重要な決定が、それに深い関わりを持つ人から近い場所においてなされる必要を説く。自分にとって身近なものだからこそ、人はそれに注意を払い、その価値を重視するからである。
 以上の問題意識を踏まえ、本研究は3人の識者にインタビューを行っている。3人の識者はいずれも、多くの社会的課題の解決にあたって、行政や専門家だけでなく、住民を含む関係者の参加と、企業などによるサポートを結びつけていくことを強調する。そこでは、新たな当事者意識のための仕組みやプラットフォームの整備、サポート体制の充実、行政・住民・企業をつなぐコーディネーターの必要が指摘される。

INDEX

新たな当事者意識の時代へ当事者意識(オーナーシップ)とは何か

宇野重規

NIRA総合研究開発機構理事/東京大学教授

 今日、「当事者意識(オーナーシップ)」という言葉に再び注目が集まっている。自分のことは自分で決めたい、自分の精神と身体に対する自己決定権を指すこの言葉は、古い歴史を持っている。その原点に立ち戻るならば、その起源にあるのは、17世紀の思想家、ジョン・ロックが『統治二論』で展開した思想だろう。
 
 ロックによれば、人は誰でも、自分の身体に対する固有の権利を持っている。それはその人にとって固有のものであり、他の誰かのものではない。人は自分の手を使い、自分の身体を用いて労働する。ならば、人が自然に働きかけ、自らの労働によって生み出したものもまた、その人にとって固有のものだろう。ロックはこのことによって所有権を基礎付け、このような個人の所有権を尊重するものとして政治社会を構成した。
 
 しかしながら、この古い概念は、今日新たな意味を持つようになっている。その際にキーワードとなるのは「オーナーシップ」という言葉であり、この言葉はしばしば「当事者意識」、あるいは「当事者性」と訳されるようになっている。

個人の主体性

 そこで強調される第1の要素は、それぞれの個人の主体性であり、各個人が当事者意識を持って、自らの任務に向き合う姿勢である。その逆は、言うまでもなく「他人事(ひとごと)」である。「上司に命じられたから仕方なくやっている」、「自分の仕事とは思えないが、無理に引き受けさせられている」と感じている限り、その人は課題に対して積極的な関わりを持つことができないだろう。
 
 これに対し、課題やミッションを、「これは自分の問題である」と感じ、自発性を持って主体的に取り組むことこそが「当事者意識(オーナーシップ)」である。企業を始め、多様な組織において、いかにその構成員の「当事者意識(オーナーシップ)」を涵養(かんよう)できるかが重要な意味を持つことは言うまでもない。
 
 しかしながら、「当事者意識(オーナーシップ)」の持つ意味は、企業組織などにおける人材育成や活性化に尽きるわけではない。この言葉の外縁はさらに広がりを見せていると言えるだろう。

自己決定権と自立した生活

 例えば、社会学者の上野千鶴子が、障害者の自立運動を推進してきた中西正司と共著で刊行した本に『当事者主権』(岩波新書)がある。障害者に限らず、すべての人間にはニーズ(必要)がある。超高齢化社会を迎える中、誰もがいつかは他人に依存し、そのサポートなしに生きていけないことになる。しかしながら、そのようなサポートは、他者からの温情や、まして施しによるのではない。
 
 また、専門家を含めて他人から、「あなたにはこれが必要である」として決定されるものでもない。すべての個人は自らが何を必要としているかを決定し、必要なサポートを受け、それぞれの地域で主体的に暮らしていく権利を持つ。このことを指して上野らは「当事者主権」と呼んでいる。
 
 ここに見られる「当事者意識(オーナーシップ)」とは、すべての個人が持つ自己決定権と、社会から必要なサポートを受けて、誰もが自立的に生活できる権利を指すと言えるだろう。その展望の先にあるのは、1人ひとりの個人が、自らの人生の責任ある当事者として生きていけることである。その意味で、当事者性の問題はすべての人間に関わることである。

オーナーによる見守りと監視

 興味深いところでは、現代の金融システムのあり方への批判として「オーナーシップ」が語られることもある。例えばステファン・デイビスらの『金融システム批判・序説』では、市場があらためて「オーナーシップ」という原点に回帰することが主張されている。
 
 現代の市場において目立つのは、極度の短期志向、金融仲介業者が多層的に連なる多層受託者資本主義、さらに金融派生商品(デリバティブ)である。結果としてオーナーとオーナーが所有する企業とのつながりは弱まり、オーナーでもなければ、ステークホルダーでもない人間によって重要な決定がなされている。
 
 ここにあるのは、人は自分のものであるからこそ、それに十分な注意を払い、大事にして、長期的な価値を考えるのに対し、所有者とその対象との間があまりに複雑になり、つながりが希薄化すれば無責任な状態も生まれかねないという認識である。
 
 企業であれ、それ以外の組織であれ、それを「自分のもの」として見守り、監視する存在がなければ、その価値が真に尊重されることはない。そのように考えれば、所有者とその対象となるものとの間の距離を縮めることも、「当事者性(オーナーシップ)」にとっての重要な要素かもしれない。

新たな当事者意識

 このような新たな「当事者意識(オーナーシップ)」の高まりは、多くの応用可能性を持つのではないだろうか。
 
 そこで問われるのは、以下の問いである。多様な社会的課題の解決に、1人でも多くの個人が当事者意識を持って向き合うためにはどうしたらいいか。すべての個人が、その生涯の最後の日まで、社会から必要なサポートを受けつつ、自立した生活を送ることは可能か。そして社会における多様な決定を、その対象に強い関わりを持つ人に少しでも近づけられないか。その最終的なゴールは、すべての個人が、自らの人生の責任ある当事者として生きていける社会の構築にある。
 
 本研究では、以上のような問題関心に基づき、3人の識者にインタビュー調査を行った。3人の識者はいずれも「当事者意識(オーナーシップ)」に着目した上で、それぞれの組織において活動を実践し、特に日本の多様な地域との関わりを重視している点で共通している。

成熟社会における地域計画とオーナーシップ

 例えば、株式会社リ・パブリックの内田友紀氏は、イタリアの大学院でサスティナブル・シティ・デザインを学んだ後、ブラジルなど世界各地で地域計画プロジェクトに関わってきた。その際、専門家主導の都市デザインだけでは不十分であり、住民自らが持続的な対話を通じて当事者意識を持ち、自分の言葉で街の未来を語り出した瞬間に、事業が大きく動き出したことに気づいたという。
 
 経済成長・人口増加を前提にした時代においてはトップダウン型の計画が可能であったとしても、成熟社会を迎えた今日、一般的な都市計画のモデルはなくなっている。それぞれの地域で、住民を含む多様な主体が実験や試行的実践を行うことが大切であるという内田氏の指摘は重要だろう。内田氏は、その後も福岡市や福井市でその活動を続けている。学びと実践を通じて新たな共同体が形成され、「よりパブリックなオーナーシップが育まれている」というコメントが注目される。

地域住民のオーナーシップと行政・企業の連携

 一般社団法人RCFの藤沢烈氏は、東日本大震災後、復興支援のための調査、事業の立案、関係者の調整を行ってきた。その際にあった問題意識は、震災復興を始めさまざまな社会問題について、もはや行政だけが公共サービスを担うことには限界があるという点にあった。そのため、RCFは社会事業コーディネーターとして、行政と住民や企業・NPOなどの民間の取り組みを掛け合わせ、公助と住民を巻き込んだ共助をバランスよく連携させることに尽力してきたという。
 
 社会事業コーディネーターとしての役割で重要なのは、住民の支援に関する行政側のニーズと、支援意欲のある企業側のニーズをつなぐ役割であると藤沢氏は考える。行政は特定地域だけを重点的に支援することはできないし、企業もすべての地域の支援要請に応えられるわけではない。そこに、行政・地域住民・企業をつなぐコーディネーターの必要が生じるという指摘は示唆的だろう。藤沢氏もまた、復興支援には住民が自発的に活動に関わる「地域オーナーシップ」が重要な鍵となると指摘している。

誰もが貢献できる社会に向けて

 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事の米田惠美氏(インタビュー当時)は、公認会計士として活躍する一方、保育士の資格を持ち在宅診療所の立ち上げにも従事した後、Jリーグ理事となった。Jリーグはその発足以来、サッカー事業とともに地域との連携を重視してきた。そこには、地域との連携は、単にクラブの持ち出しではなく、活動の参加者や協力者と関係を深めることで、ビジネスにおいても新たな展開に結びつきうるという信念があった。多くのクラブが農業活動を通じて、障害者の就労支援や給食を通じた地域教育に関与したという事例は興味深い。
 
 米田氏は社会的課題の解決において、強い問題意識を持つ特定の人々だけでなく、多くの人に「私も貢献できる」という感覚を持ってもらい、気軽に一歩を踏み出せるための環境や器が必要であると説く。当事者意識=オーナーシップを持つ人があらゆる地域、あらゆる領域で増えることが課題であり、「Jリーグ・クラブ」が主語の活動を、「地域の人」が主語になる活動へと転換することを目指したという。クラブ、企業、行政、NPOなどの領域を超えて意思疎通できる人材の必要性の指摘と合わせ、本研究にとって学ぶところが大きいだろう。

「当事者意識(オーナーシップ)」の可能性

 このように、現代において新たに注目される「当事者意識(オーナーシップ)」は、多くの可能性を秘めている。多くの社会的課題の解決にあたって、行政のみならず、住民を含む関係者の参加と、企業などによるサポートをいかに結びつけていくのか。その鍵は、すべての関係者に共有される強い「当事者意識」である。これは「他人事」ではなく、まさに「自分事」である、だから大切にしたいし、少しでも貢献したい。このような意識を社会のあらゆる領域において発展させることが、1人ひとりが自らの人生の責任ある当事者であるための鍵であろう。
 
 そのためには、当事者意識を持ちやすい仕組みやプラットフォームの整備、サポート体制の充実、行政・住民・企業をつなぐコーディネーターの存在が不可欠である。このような基盤があってこそ、新たな「当事者意識(オーナーシップ)」の感覚が発展していくはずである。日本社会の新たな可能性がそこに力強く示唆されている。

参考文献

ジョン・ロック『完訳 統治二論』、加藤節訳、岩波文庫、2010年
中西正司・上野千鶴子『当事者主権』、岩波新書、2003年
ステファン・デイビス他『金融システム批判・序説』、奥野一成他訳、金融財政事情研究会、2020年

宇野重規(うの しげき)

NIRA総研理事。東京大学社会科学研究所教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。専門は西洋政治思想史、政治哲学。千葉大学法経学部助教授などを経て、現職。思想家トクヴィルを中心に、米、仏、日本の民主政治について研究を行う。隠岐の島、釜石、福井県での地域活動に関わる。著書『トクヴィル-平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫、2019年増補改訂版)で2007年サントリー学芸賞受賞。

住民との「共視・共創」を目指す

内田友紀

株式会社リ・パブリックシニアディレクター

 わたしは、人口26万人ほどの中規模都市、福井県福井市で育ちました。福井は和紙、刃物、漆器などの伝統工芸や繊維工業、そして繊維から派生した機械・化学工業など、さまざまなスケールのものづくりが根づく場所です。

 福井県は幸福度ナンバーワンの地域だと複数の調査で言われています。それ自体は喜ばしいのですが、街の人々は、あまりそれを実感していない印象がありました。1つには、環境の内にいると状況認識が難しいという要因もあると思いますが、もう1つは、幸福度が客観的データを基に測られているという要因もあると考えています。そこで、「自分たちが主語となる主観的幸せも示そう」というプロジェクトが立ち上がり、私も参加しました。

 大学では都市計画と建築を学びました。都市には、長い時間の中で形成された地形や風土という土台の上に、創造物としての建物や道路が横たわり、さらに、産業や文化、コミュニティなどのソフトが重なる。つまり、大きく3層が重なり成り立っていると考えています。それらが混ざり合いながら営まれる都市は、1つとして同じものはない。そんな生命体としての都市の魅力に惹かれ、都市による創造性の喚起に興味を持つようになりました。

 メディア企業に勤めた後、「自律的で創造的な都市の姿」を探索したいと思い、イタリアの大学院に留学しました。専攻はサスティナブル・シティ・デザインです。大学院ではイタリアを起点にチリ、ブラジル、ベトナムにも滞在し、各地の非政府組織(NGO)や大学、ユネスコなどの機関とともに地域計画プロジェクトに携わりました。

ともに未来を描いてともに創る

 ブラジル南部、パラナ州の小さな街で、とても印象深い経験をしました。1つは、国連のサスティナブル・シティ・アセスメントを地域に導入するために、州政府のインターンシップメンバーとして、参加しました。州政府の肝煎りプロジェクトだったものの、地域住民の方々に提案した際、地元からは「誰がやるのか、お金はどうするのか」などの意見が数多く出され、大反対にあいました。一見優れたプログラムのように見えても、地元の人の「当事者意識(オーナーシップ)」がなければ受け入れられないことを痛感しました。

 もう1つは、大学院のメンバーとしてその街に住み込み、地域のNGOや行政、老若男女らとともに地域プロジェクトを立ち上げました。毎日議論を重ねる中で、次第に住民の方々が自分の言葉で街の未来を語り出し、彼らの視野やビジョンがどんどん変化していく様子を目の当たりにしました。最終的に提案されたプロジェクトは、私たちが街を離れた後も、自律的に発展していきました。

 ブラジルで経験したのは、エキスパート(専門家)によって成果がもたらされることを期待する「価値交換」型の都市デザインではなく、ともに未来を描いてともに創る、「共視・共創」のデザインだったのです。

 この経験を通じて、市民の「当事者意識(オーナーシップ)」が生まれたときに、都市は持続的に変化していくものだということに気づき、それは、その後の仕事の上でも大きな意味を持ちました。都市計画の概念も、かつての経済成長・人口増加を前提にしていた時代は、トップダウン型の計画が中心でしたが、社会が成熟期に入ってからは、どこにでも当てはまる「計画」はなくなりました。その結果、今はそれぞれのまちで、さまざまな立場の人がまちづくりの主体になり、実験や試行的実践をしています。

市民のオーナーシップが都市を変える

 知人に誘われ、帰国後、リ・パブリックという会社の創業に加わりました。「リ・パブリック」という名前は、公共性を編み直すという意味を持ちます。Think & Do Tankとして企業・行政・大学や市民などのセクターをつなぎ、イノベーションを後押しする環境をデザインすることを目指しています。

 最初に手がけたのが福岡市のプロジェクト「イノベーションスタジオ福岡」です。「市民のオーナーシップが都市住民との「共視・共創」を目指すを変える」をテーマに、街に根差した事業創造プログラムを構築しました。このプロジェクトはのちに、「グローバルスタートアップ国家戦略特区」の中核プログラムに位置づけられました。主に福岡に住む市民を対象に、例えば「障害のある子どもの社会的境界をリデザインする」といった、まちの暮らしの質を豊かにするためのテーマを考え、事業の種を構想する取り組みです。また、日本と世界のローカルの知見を交換すべく、デンマーク・デザインセンターとの協働も行いました。高福祉国家デンマークと日本をつなげ、社会制度のみならず文化的背景も考察し、互いに大きな学びを得られたことは自信になりました。

 現在私は、福井市でプロジェクトに取り組んでいます。地方創生がさまざまな場所で進む中、人口規模が小さな地域では、機動力が高く、とがった方針をとる事例を多く聞くようになりました。また、東京・大阪・福岡など大規模な都市でも複数の社会実験が行われています。ですが、都市と地方をつなぐような役割を担う、人口10〜30万人ほどの中規模都市ではあまり事例がありません。中規模都市には、積層してきた豊かな歴史や文化・産業が宝物のようにあるはずです。ヨーロッパの各都市のように、中小規模のまちが日本でも存在感を放っていったとき、社会構造・都市構造は大きく変化し始めるのではないかと考えました。

 「中規模都市の可能性と課題」にチャレンジできないかと考え実現したのが、福井市が主宰し、リ・パブリックと福井新聞社が共同事業体を組み、地域内外のデザイナーらとともにスタートした「未来につなぐ・ふくい魅える化プロジェクト」です。「地域を超えた人の流れと仕事をつくる」をテーマとして2016年に始まりました。現在は、次代のデザイナーのための教室「XSCHOOL/XSEMI」を中核に置き、活動を継続しています。ここでいうデザインは、プロジェクトや状況のデザインを含む、広義のデザインです。

中規模都市に取り組む

 XSCHOOLとは、福井の文化や風土、産業を探索し、社会の動きを洞察しながらプロジェクトを創出するインキュベーションプログラムです。全国から公募した多様な専門性を持つメンバーと、地域産業を担う福井内の経営メンバーが月に1回福井に集まり、また、時にはオンラインで、異なる視点をぶつけ合いながら議論と試作を重ねます。

 デザイナー、建築家、編集者、保育士、研究者などさまざまな出自の人で結成されたチームごとに、社会実装や事業化も視野に入れ、約120日間のプログラムの中で新たなプロジェクトの種を生み出します。ここで重要なのは、背景の異なる人々が互いの文化を持ち寄り、そして共視できる未来を描くこと。プログラムを通して、どのような地域社会像が描けるかを重視しています。

 3年目の2018年度は、福井の基幹産業である「繊維」を探索フィールドとして展開しました。地域産業を入り口とすると、その産業が生まれた背景となる風土や歴史など、新たな街の姿が立ち現れてきます。また、プログラムには、県内外から本当に多くの方が見学に訪れます。デザイン研究に携わる人、企業の新規事業部、地元の社会人や学生など多様な人に見守られながら、オープンにプログラムが進むのもXSCHOOLの特徴です。

 3年が経過し、当初は遠巻きに眺めていた地元企業や住民の方々も、積極的に関わってくださるようになりました。XSCHOOLから生まれたプロジェクトの種は、事業化したり、企業内に新たな部門が立ち上がったりなど、複数実を結んでいます。また、福井に拠点を移したり、複数拠点で仕事をするメンバーも増えてきました。

 さまざまなポジティブな影響がありますが、何より大切なのは、ともに学び実践する共同体が育まれていることだと思います。XSCHOOL関係者は、2017年度の北陸豪雪の影響で、数多くの行政施策が実施できなかった際もさまざまな局面で活躍しました。XSCHOOLを通じて、個人やプロジェクトを越えた、よりパブリックなオーナーシップが育まれていることを感じます。

 ますます複雑性を高める社会において、多様な人々が組織を超えて知見を持ち寄り、ともに未来を構想するコレクティブなネットワーク形成がより重要になります。テクノロジーの民主化により実現手段も広がっています。そのような土壌を耕し、ものの作り方、社会制度、地域のネットワークなど、さまざまなシステムチェンジへも働きかけていけるよう、考えていきたいと思います。

 *インタビューは2019年2月に実施。XSCHOOLは2020年度、地域医療などのより公的領域へとテーマを広げている。

内田友紀(うちだ ゆき)

株式会社リ・パブリックシニアディレクター。福井県出身。早稲田大学理工学部建築学科卒業。株式会社リクルート勤務後、2012年イタリア・フェラーラ大学大学院にてSustainable City Designを専攻。イタリア・ブラジル・チリ・ベトナムなどで地域計画プロジェクトに携わる。同年ブラジル州政府にインターンシップ参加し、国連サステナブルシティ・アライアンス事業に従事した。2013年リ・パブリック創業に参画。リ・パブリックでは、都市型の事業創造プログラムの企画運営を始めとし、地域/企業/大学らとともにセクターを超えたイノベーションエコシステム構築に携わる。次代のデザイナーのための教室XSCHOOLプログラムディレクター。内閣府・地域活性化伝道師。グッドデザイン賞審査委員。

地域オーナーシップを醸成する

藤沢烈

一般社団法人RCF代表理事

 一般社団法人RCF(以下RCF)は、2011年 4 月に震災復興のための調査団体として発足し、現在は、復興事業の立案・関係者調整を担う「復興・社会事業コーディネーター」として活動を続けてきました。大手飲料メーカーや外資系金融企業など、10社以上の企業、30以上の被災県・市町村および関係省庁とともに、地域活性化プロジェクトを推進しています。

行政の隙間を埋める社会事業

 震災復興を始め、さまざまな社会問題に対して、量的にも質的にも、行政だけが公共サービスを担うことに限界が来つつあります。そのため、住民や企業・NPOなどの民間の取り組みを掛け合わせる必要性が高まっています。そこで、RCFは、社会事業コーディネーターとして、公助と、そして住民を巻き込んだ共助とをバランスよく成立させるための連携の場づくりとその運営維持の支援をミッションとして活動しています。

 具体的な活動事例として、岩手県釜石市でのコミュニティ支援事業があります。RCFは、震災後の釜石で、住民と近い距離でコミュニティ支援を行う存在が必要であると考え、住民と行政をつなぐ現地コーディネーター集団の結成を提案しました。コーディネーターは、地域の中で住民と近い距離で過ごし、釜石さくら祭の復活や、移動困難者を対象とするオンデマンドバスの運行に関わりました。

 この事業経験を生かし、原発事故で全町避難を強いられた福島県双葉町と大熊町で同様の取り組みを提案し、それぞれ10名のスタッフが避難者支援にあたりました。その際には、総務省が進めていた「復興支援員」制度を活用し、各自治体と協議しながら事業を実現させています。また、福島では県内各地に復興公営住宅が建てられ、さまざまな地域から避難者が集まることが予測されました。そのため公営住宅ごとにコミュニティ形成支援を行う支援員が必要だと考え、復興庁の制度を紹介することで財政面の課題を解決し、福島県が事業を形成するサポートを行いました。現在も5,000戸の住宅に対して100名の支援員が活動し、各地で避難者が交流する取り組みを進めています。

 2018年の西日本豪雨災害によって大規模な農業被害を受けた宇和島市でも、復興を目指して地域コーディネーターが活躍しています。総務省の「地域おこし企業人」制度(注1)を利用し、RCFのパートナー会社から宇和島市に人材を派遣しています。その派遣人材は市役所に籍を置いて、各団体の連携の円滑化を図り、生活再建を進めていく上での民間側の核となるNPOセンターの立ち上げを行いました。同センターは、地域内で外部の支援団体や市民、被災農家、行政などの間で調整を行い、復興計画策定や地域外の企業との連携に向けた事業推進の支援活動をしています。

 また、2017年度より東京都文京区と連携し、低所得世帯向けに食品を届ける「こども宅食事業(注2)」を開始しています。食品を届けるという手段を通じて、直接当事者とつながり個別に支援していくことが事業の狙いです。行政と複数の地域の支援団体が食品の調達と配送を担い、ソーシャルワーカーとも連携し、世帯ごとに吸い上げたニーズに対して個別サポートも行っています。

 さらに、RCFが設立に関わった社会的企業・事業型NPOの連盟組織である「新公益連盟(注3)」では、大手企業や省庁、地方自治体と連携し、広範囲の地域を支援しています。事業性のあるNPO等を集めて、政党への政策言や休眠預金の活用等を行うことを通して、子どもの貧困問題、国際開発・協力、人材ソーシャルキャリア、ソーシャル・ファイナンスなどをテーマに活動しています。

地域オーナーシップ醸成に向けた6プロセス

 社会事業コーディネーターとしての役割で重要なのは、住民の支援に関する行政側のニーズと、支援意欲のある企業側のニーズをつなぐ役割です。行政は個別の特定地域を重点的に支援することは難しく、企業もすべての地域の支援要請に応えられるわけではないため、行政・地域住民・企業の3者を理解するコーディネーターにしか果たせない役割があります。また、復興事業は5年以上かかりますが、行政の担当者は2年程度で交代してしまうため、市役所の担当が替わってもコーディネーターは被災者支援における専門的な実行機能を長期にわたって担う必要があります。RCFでは、内閣府「地方創生人材支援」など官庁の支援制度の利用も含めて、地域支援について全体をバランスよく見るという役割を果たすことも重視していました。

 復興支援活動においては、住民が自発的に復興支援に関わる「地域オーナーシップ」が重要な鍵となります。その醸成のためには、①現地の状況把握、②ステークホルダーとの連携、③地域資源と課題の把握、④地域推進に向けた体制の確立、⑤住民による自発的な活動、⑥中長期の地方創生計画という6つのプロセスを通して、コーディネーターが関わっていきます。

 まちづくりの論点を把握する上では、地域住民の関係性を知り、5W1Hでさまざまな人に意見を聞き生活への理解を深め、多面的な問いかけを行うことによって、日常会話でまちづくりを話すような関係になることが重要です。その中で、地域住民と行政との間の翻訳・調整機能を果たし、かつ外部支援者と継続的な関係を構築することを通して、振興すべき地域資源を把握していきます。

 ステークホルダーの把握に関しては、まずは地域のキーパーソンとの信頼関係構築から地域との関係を構築し、同じ目線で関わり考える姿勢が重要です。ただし、それは必ずしも「迎合」を意味するわけではありません。

 支援活動にあたっては、住民組織による地域代表性の確保が重要です。地域のまちづくりNPO、まちづくり協議会、自治会などの住民組織が中心となり合意形成を進めていくことが望まれますが、この住民組織は広く住民参加の仕組みを持ち、意思決定過程を共有できるような、地域住民と共に動く組織であることが必要です。中長期的な復興やまちづくりの議論では、迅速さよりも住民参加や多様性が求められるので、この住民組織が十分なリーダーシップを発揮できるよう目指す必要があります。

 復興やまちづくりの活動の意思決定、政策の方向づけを進める上では、行政の情報源が高齢男性に偏ってしまうことがないよう、女性・若者を巻き込んで、多様性を担保することも必要です。多様な主体を巻き込んだ住民組織が地域住民のニーズを拾い上げ、まちづくり事業の企画や実施を総合的にサポートし、成功体験を共有することで、住民の間に復興に向けた主体的な行動が生まれていきます。そして、行政との協議スケジュールを共有し、妥協点を見いだすことを通じて、コーディネーターは中長期の地方創生計画の策定に関わっていきます。

 災害復興では、社会事業コーディネーターが行政・住民・民間の連携を促し、円滑に業務を進めるためのサポートを行う必要性がますます高まってきています。まだNPO自身の力は弱いですが、一翼を担えるよう専門性を高めていく必要があります。そのためにも、NPOや支援の専門家をキャリアパスとして選択できるよう、日本全体として人材育成に取り組んでいくことが重要だと考えています。

藤沢烈(ふじさわ れつ)

1975年京都府生まれ。一橋大学卒業、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立、NPO・社会事業などに特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立。

ヒトゴトではなくワガコトとして

米田惠美

公認会計士/公益社団法人日本プロサッカーリーグ元理事

Jリーグの歴史と新たな挑戦

 Jリーグは1991年設立以来、2019年シーズンで55クラブまで広がりました。Jリーグという組織が一般の事業会社と少し異なり特徴的なのは、事業性に加えて競技性、社会性もミッションとして追うというところです。Jリーグ発足以来掲げている理念の2番目に、「豊かなスポーツ文化の振興と国民の心身の健全な発達への寄与」というのがありますが、初代の川淵三郎チェアマンもこれが大変重要と繰り返し伝えていました。Jリーグでは、この精神にのっとり「地域社会と一体となったクラブづくり(社会貢献活動を含む)」を規約と呼ばれる規程に織り込み、各クラブに義務づけています。2018年の活動集計結果でも、55の全クラブ合計で2万回を超えるホームタウン活動を行ってきています。

 さらに、25周年を機に、「世界でいちばん、地域を愛するプロサッカーリーグになる」ことを掲げ、「シャレン!」と名付けたブランドを立ち上げました。「シャレン!」とは、健康、子育て、生活、ダイバーシティ、働き方、まちづくりなど共通の社会課題に対して「3者以上」で連携する社会連携活動と定義づけています。「Jリーグをつかおう!」というキャッチフレーズを掲げ「Jリーグのもつ強みを活用いただき、地域をよりよくする」ことを目指しています。

 スポーツには人を惹き付ける熱量からくる「発信力」や、人と人を「つなぐ力」があります。クラブには、エンターテインメント力のような人を楽しませる企画力や、スポーツにまつわるさまざまなノウハウもあります。例えば、地域の人々の健康増進というテーマで、クラブのコーチがコンディショニングプログラムを提供する活動を、ソーシャルインパクトボンドと呼ばれるスキームを使って自治体・企業と連携してスタートしています。このケースでは、クラブの「ノウハウ」「発信力・ブランド」が強みとなります。地元との「関係資本」も生かすことができます。

連携の意味

 スポーツ団体は生態系が非常に豊かで、自治体も含めた地域との関係性づくりをとても大切にして経営を行っていますし、周辺には巨大なファン・サポーターやボランティア、スポンサー・パートナー企業群、関係のあるメディアが存在しているわけです。こういったたくさんの方々と価値観を共有して「シャレン!」を実施できるクラブもあって、その場合、影響力が増幅します。組織形態こそ株式会社ですが、地域の中の生態系を考えれば、クラブは公共財です。官と民の間の存在として、官や民が単独では動きにくい部分で活動できるスペースがあるのでうまく活用してもらいたいと思っています。

 地域の共通課題に対して、さまざまな人・組織と連携しながら活動を行うことは、地域の持続可能性につながります。地域あってのクラブです。一方でクラブも単に「持ち出し」ということではなく、活動がさまざまな形の資本として返ってくると思っています。活動の参加者や協働者とのエンゲージメントが深まりますし、互いの強みや存在意義がより認識され、ビジネス等の展開に発展することもあります。

 これまではクラブスタッフが少ない人数で必死に動かしていて、連携といっても、行政あるいはスポンサー企業などとの2者間での活動が多く、活動範囲・質を広げる余地はありそうだなと感じていました。また、社会性の高い活動を実施しているにも関わらず、ともすると、そのテーマ性が見えづらくなってしまっていたり、クラブをよく知っている人にしか情報が届けられていなかったりしたので、仮にクラブ・サッカー・スポーツに関心がない人であっても、多くの人に知ってもらえたら仲間が増えるだろうなと感じていました。ですから、「シャレン!」では、明確に社会的テーマを設定すること、また、活動は「3者以上」とすることを定義づけたのです。そうすることで、活動の質と提供範囲を高めていくことを狙ってきました。

 例えば地域と関係の深い農業ひとつとっても、既に多くのクラブが関わっていました。スタジアムで出店するケースもあれば、ユースの子たちが農作物をつくるケースもありましたが、それらに加えて、「障害者の就労機会」というテーマで一緒に農業に取り組む、「関係人口創出」としてアウェーサポーターのツーリズムと農業を掛け合わせる、「地域教育」として自治体と連携して学校給食にまでお届けするなどの動きも出てきています。

当事者が増えることが日本を豊かにする道

 また、立ち上げ時に大切にしたのが、オープン化・フラット化です。24時間365日いつでも誰でも「シャレン!」のWEB上から企画提案を行うことができるようにしました。私自身、当事者意識=「オーナーシップ」を持った人を増やしたいと思ってこれまでもキャリアを歩んできました。国、東京・地方、高齢者と若者、ジェンダーなど、あらゆる領域で分断が起き、歪みが多様化する中で、「ヒトゴトではなくワガコトとして」動く人材が増えることが、日本における社会課題の解決はもちろん、地方創生という文脈でも、とても重要なことだと思っています。そのためには、それを担う適切な人材が活躍できる器の存在がとても重要です。さらに、この類いのものは特定の意識の高い人に偏りがちですが、そうではなく、誰もが誰かを応援したいと思った時に行動できる環境が必要だと思いました。

 「私も貢献できるぞ」という感覚を持ってもらい、気軽に一歩踏み出せるような装置として、「Jリーグをつかおう!」というキャッチフレーズを掲げたのです。「クラブ」が主語だった活動を、「地域の人」が主語となる活動へと転換するのも狙いです。先述の農業に関するところでは、一般の方からもフードロスというテーマでも提案をいただいたりしています。

 共通目標を掲げて共にする活動を通じて協働者との間に関係性が生まれ、コミュニティができます。誰かの役に立つという貢献の実感が自信になっていき、自己肯定感を伴う成長になり、かつ、それが街への愛着形成や、生きがい、誇りになっていくことを期待しています。社会性の高いプロジェクトに関わることを通じて受益者も元気になり、協働者の誇りにもなり、当事者が増えていけば、共助の社会づくりができてくるだろうと思います。「シャレン!」の目指す世界はそこです。普段は支えられる人も、支える側に回ってみると、誰かの役に立てるということから自己肯定感が高められるという効果があり、そういったことも仕掛けていきたいです。多様な方々が関われるような、さまざまな役割・居場所をつくっていくこともJリーグの大切な使命と思っています。

 このように、Jクラブには「関わるきっかけ」をつくる発信機能、「人と人をつなぐ」コミュニティの機能、共に創っていくという共同体感覚などが備わっているため、当事者性を高めることと非常に親和性があります。クラブが活動の主現場ではありますが、リーグも発信やノウハウの共有など、プラットフォーマーとしてのハブ機能を担っていく必要があります。東京の人材が地域やクラブに関わるという働き方ができるような取り組みもスタートしました。

 進めていく上での課題としては、クラブ、企業、行政、NPOなどの領域を超えて意思疎通できるトライセクター人材が少ないことだと感じています。異なるセクターの経験を積んだ人材の育成・確保が重要です。ビジネス化が難しい領域でもあり、行政も、この手の人材育成やコミュニティ形成の視点を施策に織り込んでいく必要があると思っています。企業は、自社の従業員に出向やプロジェクト参画でリアルな地域課題と向き合う経験を積ませることも、いい人材育成になると思います。我々1人ひとりも転職はハードルが高いかもしれませんが、地元や住む街にプロジェクトベースで関わってみる、プロボノや副業で関わるなど、選択肢はいろいろ出てきていると思います。自分たちの地域をよくしたいと願う方々と共に、世の中に笑顔を増やしていけたらうれしいです。

米田惠美(よねだ えみ) JリーグHPより

公認会計士。公益社団法人日本プロサッカーリーグ元理事。1984年生まれ。2004年に新日本監査法人に入社。公民さまざまな業種の監査や経営アドバイザリーを担当し、2006年に慶應義塾大学経済学部卒業。2013年に独立と共に組織開発パートナーである㈱知惠屋を共同設立。米田公認会計事務所所長であるとともに、保育士資格を持ち在宅診療所の立ち上げにも従事。2017年にはJリーグ フェローを経て、2018年4月~2020年3月までJリーグ理事として、社会連携や組織開発の分野を担ってきた。ヒアリングは在任時のもの。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
宇野重規、内田友紀、藤沢烈、米田惠美(2020)「新たな当事者意識の時代へ -当事者意識(オーナーシップ)とは何か」NIRAオピニオンペーパーNo.55

脚注
1 地方公共団体が、民間企業等の社員を受け入れ、そのノウハウや知見を生かし、地域独自の魅力や価値の向上につながる業務に従事してもらうプログラム。
2 こども宅食公式HPを参照
3 新公益連盟公式HPを参照

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

研究の成果一覧へ