大内伸哉
神戸大学大学院法学研究科教授
池田千鶴
神戸大学大学院法学研究科教授
江口匡太
中央大学商学部教授
中益陽子★
亜細亜大学法学部法律学科准教授
渕圭吾
神戸大学大学院法学研究科教授

概要
 
 AI、ロボット技術、ICT(情報通信技術)の急速な発展は、企業の指揮命令を受けず、自由に独立して働くフリーワーカーを増加させることになる。政府は、雇用労働者を中心に形成されてきた法的な制度を見直し、フリーワーカーも視野に入れた、働き方に左右されない制度を構築する必要がある。差し当たり取り組むべき課題は次の3つだ。
 第1が、フリーワーカーの契約の適正化だ。フリーワーカーは、独立した事業者であるとはいえ、契約リスクにさらされやすいため、安心して取引ができる環境を整備する必要がある。オンラインでの仲介事業への規制も検討すべきだ。
 第2が、新型コロナ騒動でも顕在化したような所得減少リスクへの対処だ。この面でのフリーワーカーと雇用労働者との格差は明確であり、制度の統合が検討されるべきだ。
 第3が、フリーワーカーの経済的自立へのサポートだ。フリーワーカーの技能向上は自助が原則だが、デジタル・トランスフォーメーションに対応するために必要なデジタル技術の習得は、政府が取り組むべき課題だ。
 いずれの政策においても、新たな政策課題であるため、現場のニーズを吸い上げるためにも、政府はフリーワーカーの共助団体と緊密な連携をとることが望ましい*

INDEX

1.問題の所在

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大(以下、「新型コロナショック」という)により、ヒト、モノの動きが止まり、財やサービスに対する需要が減退して、経済活動に大きな影響が生じている。その影響は労働の分野にも及んでいるが、企業に雇用されている労働者(以下、本稿では「雇用労働者」と呼ぶことにする)とフリーランスなど個人で独立して働く者(以下、本稿では「フリーワーカー」(注1)と呼ぶことにする)との間には影響に違いが生じている。

 雇用労働者は、当面は、新型コロナショックの直接的な影響は受けない。企業は従業員を休ませた場合、それが使用者の責めに帰すべき事由がある場合には、賃金補償(休業手当の支払い)をしなければならず(注2)、その費用を政府が一部負担する制度もある(雇用調整助成金(注3))。また経営悪化による解雇には法律上の制限があるし(労働契約法16条)、有期契約労働者の期間途中の解雇や期間満了後の雇止めも、(少なくとも法的には)簡単にできるものではない(労働契約法17条1項、19条)。また失業した場合には、雇用保険による一定の所得補償がある(注4)

 一方、フリーワーカーにとっては、需要の減退は、直接、収入の低下、途絶につながるが、休業手当や雇用保険のような減収補償があるわけではない。雇用労働者の解雇制限に相当するような、取引先からの契約の打ち切りに対する規制もない。フリーワーカーは、自己のリスクで事業を営む事業者であり、その点では、雇用労働者を雇用している側の企業と同じ立場にあるといえる(注5)

 このように雇用労働者とフリーワーカーを含む個人自営業者との間には法的保障の面で大きな格差がある。しかし、こうした格差については、新型コロナショックが起こる前から疑問視する考え方があった。それは次の2つの理由による。

 第1の理由が、技術革新の影響だ。近年のAI、ロボット技術、ICT(情報通信技術)などのデジタル技術の発達は、業務の機械化(自動化)・省人化や効率化を進め、労働の中心を、労働者の身体を使う労働(身体労働)(注6)から知的生産を行う知識労働へと移行させようとしている。知識労働に従事する者は、就業する時間、場所に制約がなく、自由な環境にいたほうが成果を出しやすい(特にテレワークが適している)。このような働き方が増えてくると、指揮命令下で働くかどうかで法的保障に差を設けることの合理性に疑問が生じる。

 もう1つの理由は、個人の意識変化の影響だ。正社員として採用した労働者に安定雇用を保障し、長期的なビジョンで人材育成するという特徴をもつ日本型雇用システムは、急速な技術革新のなか、その維持が困難となってきている。実際、日本経済団体連合会(経団連)は、新卒一括採用を廃止してジョブ型採用に移行したり、年功型賃金を廃止したりする方向を示すなど、雇用システムの見直し姿勢を鮮明にしている。さらに「人生100年時代」を迎え、個人が長い職業キャリアにおいて、企業に雇用されて働くのではなく、フリーワーカーとして働くことを選択する場合が増えていくことも予想される(注7)。個人がフリーワーカーを安心して選択できるようにするためには、働き方の違いによる格差のない法的保障(働き方に中立的な制度)の整備が必要だ。

 なおフリーワーカーにも、さまざまなタイプがある。個人で開業している弁護士、医師、デザイナーなど高度に専門的な知識や技能を持つ者もいれば、そうした知識や技能を要しない業務に従事する者もいる。またインターネットを通じて個人の資産(有体物だけでなく、労務や知識なども含まれる)の貸し借りをする分野(シェアリングエコノミー)で活動するフリーワーカーも増えており、そこでも多様なタイプがある。本稿の提言する政策課題は、こうした幅広いフリーワーカーを対象とするものだ。ただ中長期的には、技術革新による自動化・省人化の進行により、フリーワーカーの世界でも、単純業務の需要が減少することは想定しておく必要がある(注8)

2.なぜフリーワーカーと雇用労働者は区別されてきたのか

 フリーワーカーに対する政策課題を検討するうえで、まず、なぜフリーワーカーと雇用労働者とが、法制度面で区別して扱われているのか、を確認しておくことが有用だろう。

 この理由として挙げられるのは、雇用労働者は、企業に雇用され指揮命令下で働くという従属的な状況(使用従属性)があるため、保護の必要があるとされてきたことだ。使用従属性の原イメージは、劣悪な環境の工場で、大量生産のために稼働する機械に合わせて単純作業に従事する工場労働者だ。こうした労働者の保護のために労働保護立法が行われた。日本では1911年に工場法が制定され(1916年施行)、戦後の1947年には、職業の種類に関係なく、使用従属関係にあるすべての雇用労働者に要保護性を認めた労働基準法が制定された。一方、フリーワーカーを含む個人自営業者(当初は農業従事者が中心)は誰からも指揮命令を受けない点で要保護性がなく、むしろ自己のリスクで事業を営む事業者と位置付けられ、労働者を雇用して事業を営む法人企業と同列に置かれてきた。

 社会保障法の分野では、1961年の国民健康保険制度や国民年金制度の創設により、国民すべてが公的な医療や年金でカバーされることになった(国民皆保険・国民皆年金)が、すでに先行していた各種共済を含む被用者保険(注9)はそのまま存続が認められた。このため、制度は分立することになり、当初から、雇用労働者を対象とする被用者保険と自営業者などを主たる対象とする保険との間には格差があった。また被用者保険は、すべての雇用労働者が加入できるわけではなく、所定労働時間と所定労働日数が正社員の4分の3以上である者しか加入できなかった(注10)。つまり、多くの非正社員は、雇用労働者であるにもかかわらず、事業主負担のある健康保険や報酬比例部分のある厚生年金に加入できなかった(注11)。このような「正社員」vs「フリーワーカー・非正社員」という格差の構図は、今日でも維持されている(注12)

 では、以上のような労働法や社会保障法の分野での雇用労働者とフリーワーカーの格差は、今後も維持されるべきなのだろうか。

 そもそも、なぜ、これまで格差が問題とされてこなかったかというと、就労者に占めるフリーワーカーの数が圧倒的に少なかったからだ。総務省の労働力調査(2019年平均)によると、日本の労働力人口は6,886万人、就業者は6,724万人であり、そのうち「自営業主」は531万人で、従業員のいない個人事業主(雇無業主)は408万人だ(内職者を除くと398万人)。一方、「雇用者」(労働者)は6,004万人であり、役員を除いても5,669万人だ(そのうち、正規の職員・従業員は3,503万人)。副業でフリーワーカーとして働く場合を加算すれば、その人数はもう少し増加するが、日本人の働く人の主流が雇用労働者であることは、いまも変わりはない。このことはフリーワーカーの利益が民主的な政治過程で反映されにくいことを示唆している。

 しかし、前述のように、デジタル技術の発達により、フリーワーカーの数が、今後急速に増加する可能性があり、またフリーワーカーと雇用労働者を法的保障の面で区別することの合理性もなくなってきていることを考慮すると、働き方に中立的な制度を構築する必要性がある。そうである以上、政府は、たとえ現時点でフリーワーカーが少数派であるとしても、近い将来に備えてすみやかに対応に取り組むことが望まれる。

 そこで以下では、具体的にどのような政策課題があり、それをどう解決すべきかについて検討する。

3.フリーワーカーの契約の適正化

(1)交渉力格差について

 労働法において、労働者と事業者を線引きする基準は、「使用従属性」にある(注13)。労働者は、自らや家族の生計を維持するためには、自らの労働力を提供して企業の「使用従属」下に入るしかなく、企業との間で情報や交渉力の格差がある契約弱者であったため、労働法による保護の対象とされてきた。

 一方、フリーワーカーら個人自営業者は、自己のリスクで事業を営む事業者であり、情報の収集や交渉力の向上は自己努力によるべきと考えられてきた。しかし、フリーワーカーは、事業者といっても、法人企業とは異なり、その情報収集能力には限界があり、交渉力の向上が難しい状況に置かれやすい。むしろ個人で労働に従事するという点でみると、雇用労働者との類似性がある。

 実際には、使用従属関係にあることと契約弱者であることはイコールではないし、現に、交渉力のある雇用労働者もいる。むしろ、十分な情報収集能力や交渉力をもつことができず、さまざまな契約リスクにさらされて契約弱者となる可能性があるフリーワーカーのほうが、現在では保護の必要性が高いという見方も可能だ。

 少なくともフリーワーカーが、特定の企業との間で継続的に取引を行っている場合には、その企業との間で雇用労働者と類似の経済的従属性(経済的な依存関係)がある者(準従属労働者)とみて、雇用労働者と同様の法的保障が与えられるべきだ、とする考え方には比較的広いコンセンサスがある。実際、厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」は、このような観点から政策課題を検討している(注14)。ただ、こうした経済的従属性がないフリーワーカーであっても、契約リスクにさらされることがある以上、安心して取引ができるようにするための法的な環境整備が必要だ。

(2)具体的な問題

 フリーワーカーが発注者と契約を締結する場合、直面するリスクとして挙げられるのは、大きく分けると次の3つだ。

 ① 契約が口頭で締結され、文書化されていないため、契約内容をめぐる紛争が生じやすい
 ② 重要な事項が合意されていないため、事後的な交渉が必要となり、その際に紛争が生じやすい
 ③ 専門の紛争解決手続がない、ことだ。

 雇用労働者であれば、①と②は、労働契約の相手方である企業に、労働契約の締結の際に労働条件明示義務があり、そのうちの一定の労働条件は書面明示が義務づけられている(労働基準法15条、同法施行規則5条)。また明示義務のある労働条件のほとんどが、企業が就業規則に記載して、労働基準監督署長に届け出なければならないものだ(労働基準法89条)。③については、雇用労働者であれば、都道府県労働局に紛争解決の援助(助言、指導、あっせん)を求めることができる(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律)うえ、労働審判という迅速な手続を利用することもできる(労働審判法)。一方、フリーワーカーには、こうした法律上の特別な保護はなく、紛争解決手続も、民事調停や訴訟手続といった一般の民事手続を利用するしかない。

(3)経済法による対応

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独占禁止法)には、「不公正な取引方法」(その内容は2条9項を参照)を用いることを禁止する規定があり(19条)、フリーワーカーの取引にも適用される(注15)。特に重要なのが、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する」という「優越的地位の濫用」に対する規制だ(2条9項5号を参照)。この規制は、下請関係での取引では、下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)により具体化されている。

 独占禁止法上の「不公正な取引方法」に対しては、公正取引委員会の排除措置命令(20条1項)や課徴金納付命令(20条の6)があるし、個人による差止め請求も可能だ(24条)。また、2018年12月30日以降、公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決する確約制度(公正取引委員会から違反の疑いを通知された事業者が是正のための計画を策定し、それを公正取引委員会が認定した場合には、上記の命令を出さないという手続)が導入されている(48条の2以下)。優越的地位の濫用に関する紛争の多くは、この確約制度を用いて解決されることが予想されている。また、下請法違反については、公正取引委員会からの勧告がなされ(7条)、その勧告に従った場合には、独占禁止法上の排除措置命令や課徴金納付命令は出されない(8条)。

 ただ、以上のような独占禁止法や下請法の規制で主として想定されているのは法人事業者間の取引だ。公正取引委員会のマンパワーを考慮すると、個人事業者の小規模な取引にまで同委員会の役割を期待することは必ずしも現実的ではない。また、独占禁止法の「優越的地位の濫用」は、個別の事案ごとに判断されるものであり、どのような行為がこれに該当するかは明確でない(注16)。下請法の規制はある程度明確だが、同法の対象となる取引は、事業者の資本金規模と取引の内容によって限定されており、多くのフリーワーカーの取引が適用対象外だ。

(4)労働法的アプローチの適否

 労働法の分野でも、雇用労働者に該当しない者を完全に適用対象外としてきたわけではない。家内労働法は、物の加工、製造等を行う家内労働者を対象として、最低工賃、工賃支払いの確保、安全および衛生の確保などの雇用労働者と類似の保護を認めてきた。また厚生労働省は、「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」(2000年作成、2010年改定)を改正した「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(2018年)(以下、自営型テレワークガイドライン)(注17)により、テレワークのフリーワーカーらと取引をする注文事業者や仲介事業者に向けて、契約の文書明示や内容の適正化を図るためのガイドラインを定めている。

 もっとも、家内労働法は、行政監督や罰則の規定がある統制色の強い法律であり、自由な働き方を志向するフリーワーカーの規制のモデルとするのに適したものではない。また、自営型テレワークガイドラインは、発注企業に対する規制が中心で、フリーワーカーを契約主体として認める視点が弱い。これは労働法における規制の延長線上で考えられているからだ。しかしフリーワーカーには事業者としての側面もあることを考慮すると、フリーワーカーの契約の適正化は、フリーワーカーが発注者との間で主体的に契約を締結する立場にあることを前提としたものとすべきだ。

(5)デフォルト・ルールの活用

 このような観点からは、フリーワーカーの契約リスクへの対処は、自由な働き方を損なわないよう契約の自由を尊重したうえで、最低限必要な規制を講じるというスタンスで考えていくべきだ。契約リスクを回避するために必要なのは、契約の書面化(原則として、デジタルフォームとすべきだ)であり、その義務づけは不可欠だ。さらに、法律で書面に記載すべき事項を定め、そのなかで交渉により決めるべき事項は、フリーワーカーの利益を考慮したデフォルトの内容を設定すべきだ。デフォルトの内容は、合意により変更できる(削除も含む)ので、契約の自由も尊重している(法的な分類で言えば、強行規定ではなく任意規定である)(注18)

 具体的にどのような内容をデフォルトに設定するかは、差し当たり、自営型テレワークガイドラインに掲げられている「契約書の参考例」を参照すべきだ。下請法の定める禁止事項や義務事項もデフォルト条項の設定の際に参考にすべきだ。

 なおこうした規制手法は、フリーワーカー一般に適用されるべきだが、特に準従属労働者については、契約関係の継続性の保障などの観点からのデフォルト事項の追加が検討されるべきだ(注19)

(6)紛争解決手続

 フリーワーカーに関する上記の法整備は、単に法的ルールを定めるだけでは不十分だ。紛争が生じた場合の解決手続まで定めておかなければ、絵に描いた餅になりかねない。

 現行法でも、経済法に関係する紛争については公正取引委員会や中小企業庁を利用することができるが、フリーワーカーは、前述のように個人が働くという点で雇用労働者に近いことからすると、フリーワーカー特有の紛争解決手続が整備されるべきだ。

 なお今後は、テレワークの増加により、雇用労働者かフリーワーカーのどちらに該当するかが明確でないケースが増えることが予想される。紛争解決を申し立てた者がたらい回しされないようにする(注20)ためには、事前に雇用労働者かどうかを判定する専門の手続(認証手続)を設けることも検討されるべきだ(注21)

 このほか、政府は、民事裁判手続について全面オンライン化を提言し(注22)、すでに一部の裁判所では、WEB会議を導入している。こうしたオンライン化は、裁判外でも活用が期待されている。例えば消費者庁では、ADR(裁判外紛争解決手続)のオンライン版であるODR(オンライン紛争解決手続)の導入を検討している(注23)。特にテレワークをするフリーワーカーにとっては、オンラインでの紛争解決のメリットは大きいので、早急に導入を検討すべきだ。

(7)仲介事業者への規制

 フリーランスの取引を円滑に進めるうえで、インターネット上で仲介を行うデジタル・プラットフォーム事業者の役割は無視できない。ただ不当な中間搾取の危険や不明確な契約条件に伴うトラブルなどの懸念もあるので、その防止のための事業規制が検討されるべきだ。すでに自営型テレワークガイドラインでは、仲介事業者が守るべき事項(募集内容の明示、仲介手数料の明示など)が定められている。これはガイドラインにすぎないので、もう少し踏み込んだ規制が必要だが、他方で、過剰な介入により業界の発展を阻害することを避ける必要もあることから、雇用労働者の有料職業紹介や労働者派遣のような厳格な参入規制ではなく(注24)、ガイドラインを遵守しない事業者の公表など事後的な規制が望ましい。

 なお仲介事業者には、フリーワーカーの就業に関与する者もあり、その場合には、労働法の適用につながる使用従属関係があると評価されることもありうる。これは外国ではライドシェアサービスのドライバーの労働者性として問題となっているものだが、日本でもウーバーイーツの配達員の労働組合法上の労働者性(ウーバーイーツの使用者性)をめぐって紛争が起きている(注25)。労働者性の判断は司法の手に委ねざるをえないが、紛争の回避のためには、ここでも前述の「認証手続制度」の活用が検討されるべきだろう。

4.所得減少リスクへの対処

(1)現在の法制度

 雇用労働者の場合には、所得減少リスクに対しては、手厚い保障がある。例えば、「1.問題の所在」でも触れたように、企業が経営状況の悪化で事業の短縮や休止をせざるを得なくなった場合でも、雇用労働者であれば休業手当(企業には雇用調整助成金)や雇用保険の失業給付がもらえる可能性があるが、フリーワーカーにはこうした保障はない。

 また疾病を例にとると、雇用労働者は、業務上の疾病の場合は労災保険による休業補償給付があるうえ、医療費の自己負担はゼロだ(療養補償給付)。業務外の疾病の場合には、健康保険により所得補償として傷病手当金の支給がある(医療費は3割自己負担)。一方、フリーワーカーには、業務上の疾病という概念はなく(注26)、医療サービスは業務に関係する疾病であっても国民健康保険の適用により3割の自己負担があり、また国民健康保険には所得補償の制度はない(注27)

 妊娠・育児時では、雇用労働者は、産前産後の休業時には、健康保険により出産手当金が、また育児休業期間中は育児休業給付金の支給があるし、産前産後休業と育児休業の期間は、社会保険(健康保険と厚生年金)の保険料が免除される。一方、フリーワーカーには、国民健康保険上、産前産後時の所得保障はなく、育児休業という制度もないのでその間の所得保障もない。また社会保険の保険料については、2019年4月から、国民年金について産前産後の免除期間(出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月)が設けられたが、医療保険についてはこうした免除はない。

(2)分立から統合へ

 これらの格差のうち、特に問題となる傷病手当金については、国民健康保険の保険者である各自治体や国民健康保険組合が任意に導入できる以上、それは各保険者で決定した結果にすぎないという見方も可能だ(保険者自治)。しかし現在の分立する医療保険の各制度(組合管掌健康保険、協会けんぽ、健康保険組合、都道府県・市町村国保など)は、それぞれ年齢構成、平均所得などに違いがある。とりわけフリーワーカーを含む個人自営業者だけでなく、無職者(注28)、労働時間が短い雇用労働者(非正社員)など多様なカテゴリーの者が含まれている都道府県・市町村国保の多くは、大企業の正社員を中心とした健康保険組合と比較して、加入者の保険料の負担能力が劣っている(注29)。こうしたことが、都道府県・市町村国保で、任意給付とされている傷病手当金や出産手当金の支給例がないことの要因だ。

 保険者自治の帰結は、比較的富裕な階層の者が連帯して手厚い保障を享受できることだ、と言えなくもない。国民全体の社会連帯という観点から、その妥当性には疑問がある(注30)。これまでも分立型の社会保険制度の妥当性は議論の対象となっていた(医療保険の統合・再編論)が、政府は今後、所得減少リスクへの対処も含め、正社員で働くか、非正社員で働くか、、フリーワーカーとして働くかなどによって保障の格差が生じないようにすべく、働き方に中立的な制度の構築に向けた検討に着手すべきだ(注31)(注32)

(3)統合へ向けた課題

 もっとも、こうした統合を進めていくうえでの課題は少なくない。まず問題となるのは、フリーワーカーの所得捕捉だ(注33)。雇用労働者の場合は雇用主である企業が賃金台帳を調製し、雇用労働者の負担分も含めた雇用保険や社会保険の保険料の納付を行い、所得税は源泉徴収して納付する。フリーワーカーら個人自営業者の所得捕捉は、本人の確定申告に依存せざるを得ず、所得のごまかしといった不正への懸念がある。ただこの点は、マイナンバーカードにひも付けされた電子インボイスによる取引の透明化など、税や社会保険料の支払い事務処理の完全オンライン化による解決に期待することが可能だ(注34)

 一方、フリーワーカーのほうに、こうした統合に向けたニーズがどこまであるかという問題もある。統合により、現在の国民健康保険加入者の保険料は増加する可能性があるし、これに対処するために保険料を抑制すると、給付内容が抑えられることになる可能性もある。これではフリーワーカーには統合のメリットが感じられないかもしれない。所得の高いフリーワーカーであれば、民間の保険や共済を活用する選択肢もある。

 また、医療保険の統合は年金保険の統合につながる可能性が高いが、年金保険のように強制貯蓄の要素があるものについては、所得の高いフリーワーカーであれば、自助努力が可能なので、統合のメリットを感じないかもしれない。

 もちろん、社会保険の統合論は、特定のグループのために行うものではなく、その損得を考慮しすぎると議論が先に進まないだろう。公平かつ持続可能な社会保障とはどういうものかという高次の観点からの議論が必要だ(注35 )

5.経済的自立へのサポート

(1)自助と共助

 フリーワーカーの所得減少リスクは、自らの技能の不足に起因する場合もある。これに対処するために必要なのが、技能の向上のための訓練だ。訓練により技能が向上すれば、交渉力も向上し、経済的な自立につながる。ただ国民の多くが雇用労働者である日本では、職業訓練とは、入社後に、企業により実施されるものだった。日本型雇用システムのエッセンスは、正社員に対して長期雇用を前提に職業訓練(人材育成)を行うことにあった。このため、フリーワーカーや非正社員のように、日本型雇用システムの外にいる者は、技能の向上は自らの努力で行う必要があった。日本型雇用システムが変化していくと、正社員は減少し、自助努力による技能向上を求められる者が増えていくことになる。

 こうした自助努力をサポートするのが、フリーワーカーの共助のための団体だ。雇用労働者の職業団体である労働組合も、その誕生当初は、職業ごとに熟練技能をもった労働者の共助のための団体として、その技能の維持・向上のための職業訓練、労働条件の維持・改善、職業紹介、共済活動などを行ってきた(職能組合、クラフト・ユニオン)。フリーワーカーにおいても、職業的利益を守るために同様の職能組合的な機能をもつ共助団体を結成する動きが出てくることは当然予想できるし、実際にも、結成されている(注36)

 こうした共助団体が、発注者ら取引先企業との間で契約条件の交渉に備えて、報酬カルテルを結成したりすると、独占禁止法に抵触する可能性はある(注37)。ただ個人の事業者は、前述のように、情報や交渉力の面から契約弱者であり、企業法人である事業者よりも、雇用労働者に近い立場であることを考慮すると、フリーワーカーの共助団体には、労働組合と類似の法的地位を付与することも考えられる(注38)。現在は、これは労働組合法上の労働者概念の問題として司法の場で法解釈による対処が図られている(前述)が、立法により個人自営業者の団体の法的地位や権限を明確にすることが検討されるべきだ。

 いずれにせよ、政府は、フリーワーカーに関する政策を進めるためには、これが新たな政策課題であることから、現場のニーズを十分に理解しておかなければ、的を射たものとならない可能性が高い。そのためにも、フリーワーカーの共助団体と緊密な連携を行うことが望ましい。

(2)公助ー政府による教育へのサポート

 フリーワーカーの技能の向上は、これからの知識労働の需要が高まる日本経済にとっての成長の基礎だ。このことを考慮すると、自助や共助だけにまかせず、政府によるサポートも必要だ。特に今後はデジタル・トランスフォーメーション(デジタル変革)が進むなか、デジタル技術の活用が不可欠であることから、この分野の技能の重要性が高まる。このことは、デジタル技術を使いこなす能力の格差(デジタルデバイド)が、所得格差に直結することを意味する。政府には、国民の間でデジタルデバイドが起こらないようにするため、デジタル社会の到来に対応するために必要な基礎的な能力を誰もが習得できる教育カリキュラムをつくることが求められる(注39)。教育の効果が出るまでには時間がかかることから、こうした課題には緊急に取り組むことが必要だ。 

6.コロナ後の社会に必要な政策

 フリーワーカーは、現在の就業者のなかでは圧倒的に少数派だ。しかし、こうした状況は急速に変わる可能性がある。新型コロナショックは、雇用労働者とフリーワーカーとの違いを露呈したようだが、実はそれは一時的なものかもしれない。今後、雇用労働者に対しても、大きなリストラの波が来るおそれがある。雇用労働者には雇用保険はあるが、その給付期間には上限がある。最も給付期間が長い45歳以上60歳未満の年齢層でみても勤続年数が20年以上の場合で330日だ(障害者などの就職困難者であれば360日)。この間、企業は、これまで遅々として進まなかったデジタル化にいや応なく取り組まざるをえなくなり、自動化・省人化が急速に進行することになるだろう。さらにテレワークが定着することにより身体労働は減少し、テレワークで成果を出せる知識労働の需要が高まっていくだろう。こうした新たな労働需要に適するのは、現在の圧倒的多数派である雇用労働者ではなく、自分の判断で独立して業務を遂行するフリーワーカーだ。

 もちろんこれは1つの予想にすぎないが、少し前までは空想的か、あるいは早くても15年後くらいのことという感覚で論じられてきたことが、急速にリアリティーを高めている。具体的な時期の予測は難しくとも、フリーワーカーが多数派となる社会がいつか到来することは確実だ。政府も国民も、そのときに慌てないように、できるだけ早いうちに対策に着手することが必要だ。

 本稿は、フリーワーカーに関する課題のすべてを扱ったものではなく、特に優先度が高いと考えられるものをピックアップしたにすぎない。今後も、本稿に対する意見に耳を傾けながら、フリーワーカーに関する政策課題の検討を進めていくこととしたい。

大内伸哉(おおうち しんや)

神戸大学大学院法学研究科教授。専門は労働法と雇用政策。

池田千鶴(いけだ ちづる)

神戸大学大学院法学研究科教授。専門は経済法、競争法。

江口匡太(えぐち きょうた)

中央大学商学部教授。専門は労働経済学、応用ミクロ経済学。

中益陽子(なかます ようこ)

亜細亜大学法学部法律学科准教授。専門は社会保障法、労働法。

渕圭吾(ふち けいご)

神戸大学大学院法学研究科教授。専門は租税法・租税政策。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)大内伸哉、池田千鶴、江口匡太、中益陽子、渕圭吾(2020)「フリーワーカーの時代に備えよ-多角的な法政策の必要性」NIRAオピニオンペーパーNo.49

脚注
* 本稿は、研究プロジェクト「個人自営業者の就労をめぐる政策課題に関する研究」の座長である大内伸哉が執筆した。とりまとめに当たり、平田麻莉・プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表理事、松尾剛行弁護士(桃尾・松尾・難波法律事務所)、深澤良光国税庁長官官房企画課長(当時)、中野美夏経済産業省商務情報政策局総務課情報プロジェクト室長からヒアリングを行った。ここに感謝の意を表する。また、研究会メンバーの中益氏(★)は、第2の課題であるフリーワーカーと雇用労働者の社会保険制度の統合については慎重な立場を取っている。詳細は、中益陽子(2020)「『フリーワーカー』時代における社会保障制度の課題」『政策研究ノート』vol. 2を参照。なお、本プロジェクトは、関島梢恵NIRA総研研究コーディネーター・研究員が担当した。
1 フリーワーカーとは、「雇われずに個人で働く者で、かつ従業員を雇用していない者(労働法上の使用者ではない者)」と定義することとする。なお本稿では、報酬を得る目的で働く人を想定しており、ボランティアなどの無償労働をどのように扱うかについては一まず検討対象外としている。
2 労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定めている(平均賃金の算定方法は、労働基準法12条を参照)。どのような場合に「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかについては、厚生労働省のサイトも参照
3 雇用調整助成金とは、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって従業員の雇用を維持した場合に、その企業に対して支給されるものである(雇用保険制度のなかの雇用安定事業の一つ)。今回の新型コロナウイルスショックの影響を受ける企業に対しては、特例で支給要件の緩和や助成額の引上げがされている。
4 さらに企業が倒産した場合には、政府が未払賃金の一部を立替払する制度もある(賃金の支払の確保等に関する法律)。
5 2020年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」は、事業収入が前年同月比で50%以上減少した個人事業主に対して、上限100万円の範囲内で、前年度の事業収入からの減少額を給付するという「持続化給付金」の制度を創設した。これが中堅・中小企業と同じスキームでなされた(これらの企業は上限200万円)ことは、フリーワーカーら個人自営業者と雇用労働者との立場の違いを示している。
6 本稿でいう身体労働とは、工場労働のような典型的なブルーカラーの労働だけでなく、オフィスでなされるパソコン入力業務のようなものも含む概念である。
7 政府が「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)で、「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である」と述べて、これを推奨しているのは、雇用労働者が副業を通してフリーワーカーとしてのキャリアを展開する可能性を開くことに期待しているからでもあろう。
8 フリーワーカーの労働問題として現在主として議論されているのは、低技能の身体労働に従事するタイプに関するものだ(クラウドワーカーなど)。これらのなかには、法的に「労働者」と位置づけることができるものも含まれていると想定でき、その場合には現行の労働法の適用により対処できる。
9 医療の分野では、大企業の労働者を中心とした組合管掌健康保険、中小企業の労働者を中心とした全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済、船員保険がある。年金の分野では、厚生年金、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済がある。
10 加入資格は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上である者に加え、2016年10月以降、従業員数が500人を超える企業において、1週間の所定労働時間が20時間以上であること、雇用期間が継続して1年以上見込まれること、賃金の月額が8.8万円以上であること、学生でないことという要件を充足した者も追加された(従業員数が500人以下の企業では、労使の合意があった場合にのみ加入できる)。
11 なお、雇用保険も、同一事業主に継続して31日以上の雇用される見込みがあり、1週間の所定労働時間が20時間以上である者のみ加入できる(日雇労働者には別の制度がある)。これも雇用労働者間の格差の一つといえよう。社会保険制度全般における雇用労働者とフリーワーカーとの間の取扱いの違いについては、中益陽子(2020)「『フリーワーカー』時代における社会保障制度の課題」『政策研究ノート』vol. 2を参照。
12 なお、非正社員であっても、雇用労働者の被扶養者の要件(一定の所得以下であることなど)を満たせば保険料の負担なく、健康保険にも、厚生年金にも(国民年金の第3号被保険者として)、加入できる。しかし、こうした仕組みは、実際には女性の社会進出や働き方の自由な選択を抑制する効果をもっており、むしろ改善の必要があるものといえる。
13 労働者の定義は、労働基準法では「職業の種類を問わず、事業又は事務所……に使用される者で、賃金を支払われる者」(9条)、労働契約法では「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(2条1項)とされている。
14 雇用類似の働き方に関する検討会「雇用類似の働き方に関する検討会報告書」(2018年3月30日)を参照。
15 公正取引委員会・競争政策研究センター「人材と競争政策に関する検討会報告書」(2018年2月15日)も参照。
16 なお、公正取引委員会は、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(優越的地位の濫用ガイドライン)を発表して、想定例や具体的な事例を挙げて、その「考え方」を示している。
17 以下のURLで公開されている。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000198641_1.pdf
18 労働契約とデフォルト・ルールについては、坂井岳夫(2011)「労働契約の規制手法としての任意法規の意義と可能性 ── “default rules” をめぐる学際的研究からの示唆」『日本労働研究雑誌』607,pp.87以下を参照。
19 例えば、フリーワーカーが疾病に罹患している場合、または妊娠中である場合には、納期を○○ヵ月間延長する、あるいは○○ヵ月は、契約の解除を制限するといった条項が考えられる。なお法律で定めるにあたっては、準従属労働者の要件を具体的に定める必要があるが、その際は経済的従属性をできるだけ客観的な指標で示すことが望ましい。
20 実際、フランチャイズチェーンのコンビニエンスストアのオーナーが労働組合法上の労働者であるとして、その結成した団体が同法上の不当労働行為(団体交渉拒否)の救済申し立てをした事件で、中央労働委員会は、労働者性を否定して救済を認めなかったが、その命令文のなかで経済法による解決を示唆している(大内伸哉(2019)「フランチャイズ経営と労働法ー交渉力格差問題にどう取り組むべきか」『ジュリスト』1540,pp. 43以下も参照)。
21 イタリアには、こうした制度が存在する。労働者かフリーワーカーかが事前に確定すれば、その後の紛争を回避できる。詳細は、小西康之(2012)「イタリアにおける認証制度とその機能」『日本労働研究雑誌』624,pp. 35以下を参照。
22 2020年3月10日の「民事司法制度改革の推進について」(民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議)を参照。
23 2020年3月16日時点の「ODR 活性化に向けた取りまとめ(案)」(ODR 活性化検討会)を参照。
24 雇用労働者については、労働基準法で「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」という中間搾取を排除する規定がある(6条)。これを受け、職業安定法では、有料職業紹介事業を許可制とし(30条および33条)、有料労働者供給事業を全面禁止としている(44条)。労働者派遣事業も許可制である(労働者派遣法5条)。
25 日本では、労働組合法上の労働者概念が、労働基準法や労働契約法上の労働者概念よりも広く、業務委託の個人自営業者も含みうると解されているため、フリーワーカーのなかには事業者の団体(事業協同組合など)を結成するのではなく、より強力な救済手続が用意されている労働組合を結成しようとするインセンティブが働いている。なお、事業協同組合の団体交渉権の保障とそれに対する救済手続については、中小企業等協同組合法9条の2第12項以下および9条の2の2を参照。
26 フリーワーカーも、労災保険に特別加入することは可能だ(労働者災害補償保険法33条3号)。しかし、現行法は業種が制限されているため、知識労働系のフリーワーカーの加入は認められていない(労働者災害補償保険法施行規則46条の17を参照)。なお安全配慮義務は、労働契約法で規定されている(5条)ものの、労働契約に限定される義務ではないので、状況によっては、フリーワーカーが、発注者に対して同義務違反により健康障害などの損害が生じたことを理由に、損害賠償責任を追及することは可能だ。
27 任意の制度だが(国民健康保険法58条2項)、実際には、一部の国民健康保険組合(職域医療保険)を除き、この手当の支給は定められていない。なお、厚生労働省は、令和2年3月10日の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者に対する傷病手当金の支給等について」により、特例として、国民健康保険の被保険者にも傷病手当金を支給することを検討するよう要請している。
28 75歳以上となれば、全員、後期高齢者医療制度の対象となる。
29 フリーワーカーたちが国民健康保険組合を結成すればよいといえそうだが、政府は、運用上、新規の組合の認可を認めていない。
30 フリーワーカーたちが国民健康保険組合を結成すればよいといえそうだが、政府は、運用上、新規の組合の認可を認めていない。
31 例えば、自由民主党政務調査会厚生労働部会が2019年4月18日に発表した「新時代の社会保障改革ビジョン」には、フリーランスなどの多様な働き方に対応した「勤労者皆社会保険」を実現する必要がある、と記載されている。
32 所得保障のあり方としては、所得減少の原因(失業、疾病、高齢など)によって分立する現行の仕組みが妥当かという論点がある。この点では、所得の変動ではなく絶対的な所得水準を下回る者のみを対象とする生活保護に一本化する考え方、低所得者の税額を控除し、一定所得以下の場合には負の所得税(給付)を認める税額控除制度を導入する考え方、本人の所得や資産に関係なく政府が国民に一定の額を支給するベーシックインカムを導入する考え方などがある。
33 この点は、前掲の中益(2020)も参照。
34 フリーワーカーの財務に関する情報などは、個人情報として保護されるべき面もあるが、こうした情報は広く流通するほうが透明な市場に貢献するという考え方もある。少なくとも政府機関が税金や社会保険料の徴収目的で財務情報を管理することは広く許容されるべきだろう(松尾剛行氏からご教示を得た)。
35 なお研究会のなかでは、フリーワーカーと雇用労働者との統合には解決が容易でない課題があるとして、慎重論もあったことを付記しておく(詳細は、前掲の中益(2020)を参照)。
36 例えば、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会は、このような活動を行っている。
37 独占禁止法上は、事業者団体(定義は2条2項)が、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」、「構成事業者の機能又は活動を不当に制限すること」、「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」を禁止している(8条1号、4号および5号)。また、独占禁止法の適用除外となる団体(事業協同組合など)を結成した場合も、「不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」は、適用除外とならない(22条)。なお、江口匡太(2020)「フリーワーカーに対する環境整備が必要」『政策研究ノート』vol.1は、経済学者の立場から、フリーワーカーが団体交渉により経済的地位を向上させることの重要性を主張する。
38 なお、この問題については、荒木尚志(2011年)「労働組合法上の労働者と独占禁止法上の事業者ー労働法と経済法の交錯問題に関する一考察」菅野和夫他編『労働法が目指すべきもの』信山社,pp. 185以下も参照。
39 このほかにも、個人がフリーワーカーとして独立して取引活動をしていくうえで必要な法律や金融に関するリテラシーなどの習得も、できるだけ若年期に義務教育のプログラムに取り入れられるべきだ。

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
発行人:牛尾治朗
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