翁百合
NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所副理事長

概要

 アマゾンやグーグルといったグローバル・プラットフォーム企業が、次々と金融サービス事業に参入し始めており、既存の金融機関にとって新たな競合相手となりつつある。こうした競争環境の変化に直面している伝統的金融業は、オープンAPI(Application Programing Interface)の実装を進め、画期的な金融サービスを提供するサードパーティー(第三者企業)との連携、すなわち「オープンバンキング」に活路を見出そうとしている。
 オープンバンキング時代に金融機関に求められるのは、自社の持つ機能やデータを基にした魅力あるプラットフォームの構築を目指し、サードパーティーとともに顧客に対して付加価値の高いサービス・商品を生み出すエコシステムを形成していくことである。金融機関は、エコシステムの形成を通じてネットワーク効果を得ることで、ビジネス機会を最大化できる。
 英国や欧州と並び、わが国でもオープンバンキングを後押しする制度改正を進めており、また銀行の取り組み意識は高い。今後の銀行業はオープンバンキングに向けたビジョンを持ち、顧客のニーズに合うデータをいかに集め、活用するかを考えてビジネスモデルの改革を行うとともに、高い信頼を得ている日本の金融業のアドバンテージを活かし、顧客が安心して活用できる独自のプラットフォームを構築していく事が重要であろう*

INDEX

はじめに

 アマゾンやグーグルといった巨大IT企業が、商取引の様々な分野において、グローバルなプラットフォームを築いている。その一方で、製造業・非製造業を問わず多くの企業が、その下請けになりかねないことに危機感を持っている。これは金融の分野においても決して例外ではない。グローバル・プラットフォーム企業は、金融サービスに大きな関心を持ち、既に参入を始めている。

 伝統的金融業は、こうした競争状況の変化への対応を急いでいる。金融業が模索しているのは、画期的な金融サービスを提供するフィンテック企業との連携である。閉鎖的といわれてきた金融業が、その門戸をオープンにし外部との連携を試みる「オープンバンキング」に活路を見いだし、そのためのひとつの鍵となるオープンAPI(Application Programing Interface)の実装に取り組み始めている。

 主要国の政府も、この動きを積極的に後押しし始めた。特に注目すべきは、英国と欧州の動きであろう。英国政府は、大手4銀行の寡占化に強い危機感を覚え、競争力の強化やイノベーション創出を政府主導で進めている。欧州はEU加盟国それぞれに対応の違いはあるものの、各国に共通する外部連携や個人情報保護の統一ルールの確立に力を注ぐ。

 またわが国も、こうした世界のオープンバンキングの潮流に乗り遅れている訳ではない。制度改正や政策的な対応は進んでおり、邦銀の意識も変わりつつある。

 本稿では、まずオープンAPI(Application Programing Interface)とは何か、その概要を説明し、次に英国と欧州の取り組みを紹介する。その上で、オープンバンキングが今後金融システムに与える影響や、わが国でオープンバンキングを推進していく際の課題などについて検討していきたい。

1.オープンAPIとは何か

顧客データを軸とした連携の推進

 銀行による「オープンAPI」とは、銀行が自社の顧客データへの接続方式を第三者に開放することである。つまり、銀行が作成したいわば「合鍵」をアクセス権限として、信頼できるサードパティー(第三者企業)に渡し、銀行の保有するデータをサードパーティーが参照したり、取引指示したりすることを可能にする(図表1)。フィンテック企業などのサードパーティーに対して、銀行が顧客データへのアクセスを許可することで、自らが保有するデータを最大限活用し、利便性の高い顧客サービスや付加価値の高い金融商品の提供を、サードパーティーと連携して行うことが可能となる。

図表1 金融機関オープンAPIの仕組み

(資料)筆者作成

スクレイピングからオープンAPIへ

 従前のフィンテック業者、たとえば2017年に上場したフィンテック企業、株式会社マネーフォワード(注1)などは、「スクレイピング」という方法で金融機関からデータを集め、家計簿アプリサービスなどを広く顧客に提供してきた。しかし、この方法では、顧客がフィンテック企業に自分のIDやパスワードを伝える必要があることに加え、銀行側はフィンテック企業が銀行のデータにアクセスしていることを認識できない。これらが、銀行とフィンテック企業の一層の連携を進める上での課題だと指摘されてきた。

 そこで、2017年5月の銀行法改正では、日本の銀行はオープンAPIへの対応が努力義務とされ、今後3年以内に80銀行以上のオープンAPIを実現することが、2017年の「未来投資戦略」で定められた。既にメガバンクや住信SBIネット銀行など先進的な銀行では、オープンAPIを用いたサービス提供も始まっている。

 オープンAPIの方式を採用したフィンテック企業は、あらかじめ銀行と契約することになるため、顧客がID、パスワードなどを事業者に伝える必要がない。そして、利用者保護などの体制整備を進めた上で、新しく「電子決済等代行業者(決済指図を伝達する事業者、および口座情報を集め利用する事業者)」(後掲図表2『EUの事業者区分参照』)として登録される。

2.英国の動き

銀行業界の競争活性化のため政府主導で推進

 英国では、欧州諸国に先んじて、オープンバンキングの取り組みが始まっている。まず2014年12月に英国財務省が国家プロジェクトとして「オープンバンキング」で世界をリードすることを目指すと宣言し、そのための環境整備を、特に財務省および競争・市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)が中心となって進めてきた。

 英国がオープンAPIに積極的であるのは、①英国金融業界の寡占状況を改善し、競争環境・イノベーション創出を促したい、②金融サービス利用者の利便性を向上させたい、③英国が世界に先駆けてこの分野のリーダーとなり模範を示したい、といった意向があるためである。

 英国の金融業界は、大手4銀行(バークレイズ、HSBC、ロイズ、RBS)が市場シェアの85%を占めるきわめて寡占的な状況にある。また国民の57%が10年以上同じ銀行に口座を所有し、36%が20年以上保有している(英国Open Data Institute(注2)調べ)など、市場での競争が十分であるとはいい難い。「市場での競争が不十分であるために、銀行が顧客第一のサービスを供給しているとは思われない」という表明がCMAからも出されているほどである(注3)

 その一方で、最近ではMoney Dashboard社のような、銀行横断的な口座管理サービス・決済サービスを提供するベンチャー企業や、チャレンジャーバンクとよばれる新しいビジネスモデルを掲げた銀行も現れている(コラム1参照)。

 こうした状況を踏まえ、政府は、銀行利用者のメリットを最大限向上し競争を促進させるためには、これらの革新的企業が既存の銀行口座にアクセスするオープンAPIが有効であり、これを政府が推進してスピードアップさせるべきだ、と考えた。

 また、顧客の取引口座を他行に移管する際に、手数料無料で、かつ変更手続きの煩わしさを軽減させる「カレント・アカウント・スイッチ」という措置も2013年に導入している。

オープンAPIのフレームを示した「オープンバンキング・スタンダード」

 2016年には、銀行のデータなどを他の事業者が使用してサービスを構築し、オープンAPIを広げていくための基本的な考え方や、セキュリティなどに関するルールの体系化と工程を示した「オープンバンキング・スタンダード」が提示された。これは財務省から要請を受け設置された、銀行業界や消費者団体などの代表者から構成される「オープンバンキング・ワーキンググループ」が手掛けたものだ。さらに競争当局であるCMAは、CMA9とよばれる大手9銀行(注4)に対して、2018年初頭までにオープンAPIを導入し、サードパーティーと口座情報などのデータを共有するように、勧告した。これらの9銀行は、共同で出資してオープンバンキング・リミティッド(Open Banking Limited)という非営利組織を2016年に設立し、CMAの監督のもと、連携してAPI仕様の規格を定めるなど、API実装を推進する方向で少しずつ成果を挙げてきている。

 また、個々の大手銀行も、こうしたオープンバンキングの標準化の動きなどに積極的に対応している。たとえば、4大銀行の一角バークレイズは、APIストアを開設し、開発者に対して、支店ATM情報などを開放した。さらに、多くの取り扱い金融商品にアプリからアクセスできるなどの様々なサービスを提供し始めている。

課題も浮き彫りに

 英国ではこのようにオープンAPIを政府主導で進めているが、一方で、その課題も認識されるようになっている。オープンバンキングによってどのように利便性が向上するのかについて、一般国民の理解がまだ必ずしも進んでいないこと、また、消費者教育がなかなか進んでおらず、国民の間にデジタルデバイドが生じていること、などが挙げられる。

3.欧州の動き

銀行に対してサードパーティーとのAPI接続を義務化

 欧州では、サードパーティーとのオープンAPI接続を銀行に義務付ける制度整備が進みつつある。決済のセキュリティ面での安全性の確保、利用者保護、個人情報保護、フィンテック企業も含めた競争上の公平確保の観点から、決済サービス指令の改正が2015年に行われた。この第2次決済サービス指令(PSD2:Payment Service Directive2)の国内法化の期限は2018年1月とされ、実際のEU加盟28ヵ国(英国も含む)の銀行のオープンAPIの実装については、2019年中頃までの猶予が与えられている。

PISPとAISP

 このPSD2は、①PISP(Payment Initiation Service Provider)決済指図伝達サービス提供者と、②AISP(Account Information Service Provider)口座情報サービス提供者(図表2)という、2種類のサードパーティーのサービスプロバイダー事業者を新たに定義し、その要件を定めている(この定義は、日本の2017年の銀行法改正の際にも参考にされた)。そしてこれらの事業者は、銀行や電子マネー事業者、決済サービス事業者などに開設された利用者の決済口座にアクセスする際には、前述のスクレイピングという方法ではなく、セキュリティ確保の観点などからオープンAPIでの取り組みを原則にすることと定めた。一方の銀行などに対しては、顧客によるサードパーティー経由の決済指図や情報へのアクセスに応じるよう求め、銀行などによるサードパーティーに対する不当な取り扱いを禁止するなど、オープンバンキングに大きく踏み出している。

図表2 EU決済サービス指令におけるPISPとAISP

(資料)金融庁(2017)

欧州内での各国政府の姿勢は区々(まちまち)

 大陸欧州の伝統的銀行でもオープンAPIに以前から取り組んでいるところがある。たとえばスペイン大手のBBVAは、2013年からオープンAPIに積極的に取り組んでいる。デジタルバンクとしては、欧州の伝統的銀行の筆頭格といえ、様々なアプリを開発しAPIマーケットでAPIを公開している。サードパーティーが、口座情報、クレジットカードやデビットカード情報などにアクセスし、多くのデータを集めてビジネスを行うことが可能になっている。

 EU加盟28ヵ国の国内法化は2018年1月には実現しているが、各国政府のオープンバンキングに対する姿勢は実は区々(まちまち)である。たとえば、ドイツ連邦金融監督庁は「現段階では、政府がオープンバンキングを積極的に主導していくつもりはない」と表明している。地方銀行レベルなどであまりデジタル化が進んでいないドイツでは、英国のように政府がこれを推進するというよりは、民間主導であるべきとの考えのもとで、事業者の自主的な努力を促すスタンスをとっている。

個人情報保護との関連性

 また欧州では、2016年4月に一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)も定められ、「個人データは個人のものである」との発想に立ち、個人情報保護を強化、さらに個人データを利用する業者に対し、個人がそのデータの削除や移管を可能とするルールが整備された。このルールは、2018年5月から適用開始となる。個人情報保護の一層の強化を図る一方で、個人に対してデータを移管できる権利を与え、銀行など既存のデータ取扱業者にとっては、顧客データの囲い込みが難しくなる側面もある。したがって、GDPRは、オープンバンキングを展開しようとする銀行など個社にとっては制限的に作用すると思われるが、業界全体としては促進的に機能し得る側面も持つ変化と思われ、今後の動向を注視していく必要がある。

Banking as a Serviceという新しい動き

 日本ではみられないが、英国や欧州各国などにみられる興味深い動きとしては、オープンAPIのために銀行サービス自体を提供するチャレンジャーバンクが新しく登場していることであろう。コラム1では英国のMonzoなどを紹介したが、ドイツでもSolaris Bankなどが新しいビジネスモデルを展開している(コラム2)。銀行サービスをフィンテック企業のために提供する、Banking as a Service(BaaS)のプラットフォームを運営している。

 一般に、銀行にはバックエンドとして、正確かつスピーディーな手続きと、効率的なサービス提供が求められている。しかし新規参入するフィンテック企業やIT企業などには、こうした銀行機能を自前でもたないところも多い。そこでBaaSを担う銀行は、バックエンド機能をフィンテック企業等に提供し、彼らが顧客にとって訴求力の高いサービスを開発・提供することを促している。BaaSを提供する場合、銀行の機能はあたかもOS(オペレーティングシステム)のような「プラットフォーム」に徹しており、そのOS上で顧客ニーズに合ったアプリを提供するビジネスモデルに変化しているといえるだろう。

 これらのチャレンジャーバンクは、ミレニアル世代などを中心に独自のエコシステム―たとえば、P2Pレンディングのプラットフォームと連携して、資金調達を望むフィンテック企業に融資するなど、様々なフィンテックサービス同士を結びつけるエコシステム(詳しくは後段5章参照)―を形成していくことになるであろう。

4.日本の銀行の現状

決して遅れをとっていない政策

 それでは、日本の金融機関は先進国の中でどのようなポジションに位置しているだろうか。日本政府は、2年連続で銀行法の改正を行っている。2016年5月の改正では銀行による出資上限を緩和し、金融機関がフィンテック企業に出資しやすい環境を整え、2017年5月の改正では、前述の通り銀行などに対しAPI公開の努力義務を課した。金融機関が外部連携をしやすいような環境整備を進めている点では、日本はこれまでみてきた英国・欧州と並び、他の先進国と比較してもむしろ進んでいるといえる。たとえば米国ではオープンAPIに取り組んでいる銀行は少なくないが、国全体で法制度を整備している欧州諸国や日本とは状況は大きく異なる。これは米国では、連邦政府と州政府との間でフィンテック企業に対する規制監督権限をめぐる主導権争いがあることも一因であろう。

邦銀のAPIに関する意識調査

 銀行側の意識はどの程度環境変化に追いついているだろうか。図表3は、2017年末時点に全国銀行協会が実施したアンケート調査の結果である。既にオープンAPIを実施している銀行は14銀行にすぎないが、今後前向きに検討している銀行は全体の7割にあたる100銀行にのぼり、総じて日本の銀行は前向きに取り組む姿勢を示している。

図表3 全国銀行協会のオープンAPIについてのアンケート調査結果(2017年12月)

(資料)金融庁

これからは実践のステージに

 環境も整備され、銀行側の取り組み意欲もみられる日本は、オープンバンキングを推進する土壌は整っているといえる。これからは、銀行が真に顧客のためになるサービスや金融商品を真剣に考え、オープンAPIを活用し積極的にサードパーティーなどとの連携を実践していくステージに入っていく、といえるだろう。オープンバンキングの潮流がどのように金融環境を変化させていくかを見据え、独自の新しい銀行像を模索していくことが求められる。

5. オープンバンキングは銀行業をどう変えるか

(1)「統合型」から「プラットフォーム型」への移行

銀行の4類型と「プラットフォーム提供型モデル」
 それではオープンバンキングは、今後、銀行業そして金融システムをどう変えていくのだろうか。欧州銀行協会(EBA: Euro Banking Association)のWorking Groupは、フィンテック企業などサードパーティーとの連携が増えるオープンバンキング時代には、欧州における銀行業の役割は、以下のような類型化ができるとしている(図表4)。これは、「商品開発」とその「デリバリー」という軸で、業務をマトリックス化して類型化したものである。
①  銀行が開発した商品を、銀行が顧客に直接提供し続ける統合型(第1類型)、
②  銀行が開発した商品を、APIを通じてサードパーティーが提供する金融商品製造特化型(第2類型)、
③  サードパーティーが開発した商品を、銀行が直接顧客に提供するデリバリーチャネル特化型(第3類型)、
④  サードパーティーが開発した商品を、銀行のプラットフォーム経由でAPIを通じてサードパーティーが提供するプラットフォーム型(第4類型)、である。

 EBAは、「オープンAPIがまだほとんど実現していなかった閉鎖的な世界では、商品開発とデリバリーをすべて銀行が担う、図表左下の統合型が銀行にとって最善の戦略であった。しかし、オープンバンキング時代には異なる戦略が必要になり、右上の第4類型が望ましくなる。」と指摘している。

図表4 銀行業のビジネスモデルの分類

(資料)Euro Banking Association[2016]

 EBAが指摘するように、将来の銀行は、今よりも、よりカスタマイズされた付加価値の高いサービスや商品を、プラットフォーム総体として、顧客に提供する第4類型の方向にシフトしていくことになるだろう。プラットフォーム機能の役割を果たすためには、信頼できるサードパーティーと連携しつつ、銀行が商品やデリバリー経路に一定の影響力を発揮していく必要があるといえるだろう。

「APIエコシステム」 によるネットワーク効果
 このプラットフォーム型の第4類型は、銀行の商品やサービスの”Uberization”、商取引におけるアマゾンタイプのプラットフォーム・ビジネスともいえるかもしれない。銀行業の分野で、プラットフォーム化して一定の役割を果たしていく可能性があるのは、①既存の伝統的銀行、たとえばBBVAのように積極的にオープンバンキングに取り組み、デジタル化を成功させる銀行、②アマゾンなどの金融業以外のプラットフォーマーで新規に銀行業務に参入しようとする企業、③前述のBaaSを提供するチャレンジャーバンクのような新しいタイプの銀行など、のいずれかになるとの見方もある(注5)

 たとえば、AppleがiPhone上でアプリを開発するサードパーティーを取り込み、iOSを中心としたエコシステムを作り上げたように、銀行も真剣に魅力的なプラットフォーム型を目指すことで、フィンテック企業をはじめ、様々な企業が自然と集まり、付加価値の高いサービスや商品を開発するといったAPIエコシステムを構築することも可能になるかもしれない。

 少なくともこうしたプラットフォーム構築に積極的に乗り出す銀行は、次第にネットワーク効果を得て、様々なビジネス機会を得たり、またせっかくのビジネス機会を逸失するコストやリスクを最小化することが可能になるだろう。

 一方、こうした環境変化についていくことができず、変わることを拒否する銀行や、最低限の対応にとどめビジネスモデルを変化させない銀行は、長期的には厳しい状況になり得る。ネットワーク効果を得られないだけでなく、魅力的でない金融商品しか開発できない結果、顧客との接点も失い、「土管化」し付加価値を生み出せなくなる可能性もある。

(2)日本特有のビジネスモデルを確立せよ

各行独自のビジネスモデルを切り開く時代へ
 オープンバンキング時代は、これまでのようなBank to Customer(B to C)のみではなく、Bank to Business to Customer(B to B to C)のビジネスモデルを積極的に展開する時代ともいえる。銀行はオープンバンキングに向けたビジョンを持ち、徹底的な顧客本位の姿勢に立って、どのようなデータを整備し、どのような連携をして付加価値をつけ、ネットワーク効果を出していくべきか知恵を絞ることが求められる。そして、その銀行にしかない独自のビジネスモデルに向けて改革をし、活路を切り開いていく必要がある。

 これは何も資金力のある大規模銀行に限った話ではなく、中小規模の地方銀行にも当てはまる。日本にとって急務とされる地方活性化に、地方銀行の役割は欠かせないが、現状では地方銀行は十分にその機能を果たせていない。地域に根差し独自の情報を持っている地方銀行がそのデータを整備し、オープンAPIを最大限活用して外部の革新的なアイデアやデータ分析能力を持つフィンテック企業などと連携していけば、地域の企業に多様なビジネス機会や生産性の向上の手段を提供することもできるだろう。自行の持つデータに外部の情報を併せ、より効果的に活用・分析できる企業との連携により、これまでには想像もしなかったような顧客本位のサービスを提供することが可能になるかもしれない。

信頼できる安全なプラットフォームを
 また革新的なサービスを提供していく上では、個人データの取り扱いが重要な要素となる。前述の、欧州の一般データ保護規則(GDPR)には、海外の大手ITプラットフォーマーに国民の情報を吸い取られることを防ぐという意図がある一方で、欧州各国内での個人データの流動性を高め、オープンバンキングを普及させる側面があることも事実である。わが国でオープンバンキングを進めるにあたっても、個人情報保護法など「データを守る」ことと、「データをより有効に活用していく」という両方の視点を持つことが必須である。

 日本の金融業界は世界レベルでみても、制度面やシステム面において、安心・安全で、高い信頼感を得ているという強みがある。こうしたアドバンテージを将来も維持しながら、保有データを安全かつ有効に活用し、様々なサードパーティーと共に、顧客が安心して使えるサービスを提供できるようなプラットフォームを構築していくことが重要だろう。

コラム1 英国のチャレンジャーバンク


 英国にはいくつかのチャレンジャーバンクが存在しているが、そのうちの2つを紹介する。

 2015年銀行免許を取得したAtom Bankは、英国初のデジタル・モバイル専門銀行である。ミレニアル世代に特化したスマートフォン上のデザインを採用し、操作性の高いバンキングサービスを提供している。バンキングシステム基盤はコスト削減のために外部の汎用製品を利用、スマホアプリのデザイン性やゲームのような操作性が最大の特徴となっている。定期預金、当座預金、当座貸越、デビットカード、クレジットカードなどの事業を展開している。創業者のAnthony Thompsonは、もともと2010年に新規参入したリテール銀行Metro Bankの創業者だったが、新たにAtom Bankを設立。「いまや支店を持った銀行を設立するのは、通信会社が電話ボックスを設置するようなものだ」と発言している。

 2015年にMondoの名前で創業し、2016年にMonzoとして銀行免許を取得した新銀行も、モバイル専門の事業展開をしている。ユーザー数は10万人で、ミレニアル世代が中心である。代表的なサービスは、デビットカードによる入出金管理やSNSを利用したP2P決済。社内開発したバンキングシステム基盤を用い、オープンAPIを備え、プラットフォーム型金融ビジネスを志向している。

 こうした独自の切り口で参入する新しい銀行に対して、政府は特に規制を緩和している訳ではなく、迅速に認可を受けられるようサポートチームを作って対応している。

コラム2 ドイツのチャレンジャーバンク


 2007年に創業したFidorは、世界最古のフィンテック銀行ともよばれ、16年にはフランスの協同組合銀行グループであるBPCEグループに買収されたが、現在もFidorとして営業を続けている。他のデジタル・チャレンジャーバンク同様、支店を持たず、同行が抱える35万人の顧客コミュニティを中心としたユーザー・エクスペリエンスを重視し、徹底的利便性の追求を特徴としている。そして同行の銀行プラットフォームfidorOS(fOS)をオープンAPIで利用可能としている。また、人件費が圧倒的に低く、低コストでサービスを提供している。さらに、FidorTecSというIT開発の子会社を有しており、技術提供を外部に行っている。

 Solaris Bankは2016年にベルリンで創業したチャレンジャーバンクであり、Eコマース企業やフィンテック企業向けに、銀行口座、クレジットカード、電子マネー、KYC(顧客管理、Know Your Customerの略)などの銀行機能をAPI経由で提供している。現在ドイツ以外にもEU諸国で事業を展開し、2017年には日本のSBIインベストメントが出資をした。同行は、プラットフォームを通じてドイツとヨーロッパのフィンテックエコシステムの中心プレイヤーになることを目指しており、アジア展開も目標としている。預金を預かり、主にフィンテック企業向けに融資も行っており、現在は預貸利鞘が重要な収入源であるが、APIによって連携した企業からの手数料も収入源となっている。現時点の手数料と利鞘の割合は1:1であるが、フィンテック企業などとのトランザクション・ボリュームを拡大し、将来は2:1に持っていきたいと考えている。自らを銀行ではなく、「銀行業免許を有したIT企業」と称している。

主要参考文献

Competition & Markets Authority[2016] “Making banks work harder for you”
European Banking Association[2016] ”Understanding the business relevance of Open APIs and Open Banking for banks” EBA Working Group on Electronic Alternative Payments.

翁百合(おきな ゆり)

NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所副理事長

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)翁百合(2018)「オープンバンキング時代の銀行業」NIRAオピニオンペーパーNo.35

脚注
* 謝辞:本オピニオンペーパーの作成にあたっては、株式会社野村総合研究所上級研究員城田真琴氏、株式会社マネーフォワード取締役瀧俊雄氏、東京大学大学院教授柳川範之氏(NIRA総研理事)、フューチャー株式会社シニアアーキテクト加藤究氏から貴重な知見、情報をいただいた。また、英国・ドイツの金融当局(英国財務省、ドイツ連邦金融監督庁など)や金融機関(バークレイズ、Solaris Bankなど)へのヒアリングから得た情報にも基づいている。記して感謝申し上げたい。
1 株式会社マネーフォワードは、2012年創業のフィンテック企業。売上高28億円。『お金を前へ、人生をもっと前へ』というミッションのもと、銀行口座やカードなどの口座を自動でまとめ、家計簿を自動で作成するアプリなどの消費者向けサービスのほか、法人向けにバックオフィス事務を効率化させるM Fクラウドサービスなども提供して大きく成長。2017年9月に東証マザーズ市場に新規上場。
2 2012年に非営利の有限責任会社として設立、オープンデータに対する技術支援やスタートアップ支援などを行う企業。
3 CMA[2016]参照。
4 バークレイズ、HSBC、ロイズ、RBS、ネイションワイド、サンタンデールUK、アイリッシュ銀行、アイルランド銀行、ダンスケ銀行
5 Solaris BankのRoland Folz CEOが言及している。

©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
発行人:牛尾治朗
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