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わたしの構想

ニュースメディア 分断なき公共圏を作れるか

わたしの構想No.54 2021/05発行
識者:老川祥一 読売新聞グループ本社 代表取締役会長・主筆代理・国際担当(The Japan News主筆)、中村史郎 朝日新聞社 代表取締役社長、下山 進 作家/上智大学新聞学科 非常勤講師、瀬尾 傑 スマートニュース メディア研究所 所長、ニキー・アッシャー イリノイ大学カレッジ・オブ・メディア 准教授
*原稿掲載順
企画:谷口将紀 NIRA総研 理事長/東京大学大学院法学政治学研究科 教授

ニュースメディア 分断なき公共圏を作れるか
 メディアの発展は日本の民主政治に大きな影響を与えてきた。しかし、この20 年、新聞の発行部数は大きく減少し、インターネットニュースが新たな情報源となっている。
 今後、ニュースメディアはどうあるべきか。


 わたしの構想No.54「ニュースメディア 分断なき公共圏を作れるか」PDF

 企画に当たって
谷口将紀 NIRA総研 理事長/東京大学大学院法学政治学研究科 教授
「転換期のニュースメディア―分断なき公共圏を作り、民主政治の健全性を守れ」
Keywords……………新聞の未来、ニュースメディア、ジャーナリズムの本義、民主政治の健全性、二大紙の戦略、公共圏、政治コミュニケーションのインフラ



 識者に問う
「ニュースメディア 分断なき公共圏を作れるか」

ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

1 老川祥一 読売新聞グループ本社 代表取締役会長・主筆代理・国際担当(The Japan News主筆)
信頼性と速報性を備えたメディアとして、新聞の役割はますます重要になる
Keywords……出来事を正確に伝える、物申すメディア、未来の読者を増やすKODOMO新聞・中高生新聞、デジタルコンテンツを工夫、経営の多角化

2 中村史郎 朝日新聞社 代表取締役社長
デジタルシフトを進め、「みなさまの豊かな暮らしに役立つ総合メディア企業へ」
Keywords……デジタル独自の表現、サービスジャーナリズム、ニュース市場の荒廃、ファクトチェック、総合メディア企業

3 下山 進 作家/上智大学新聞学科 非常勤講師
官の情報を貰い下げるのは報道ではない
Keywords……民主主義のウォッチドッグ、前うち、独自の取材、人々の投票行動を変える、秋田魁新報

4 瀬尾 傑 スマートニュース メディア研究所 所長
メディアは調査報道で付加価値を生み出して、人々の信頼を取り戻せ
Keywords……メディアへの信頼の低下、認識のずれ、民主主義の危機、調査報道、デマに惑わされない強い社会、リテラシー教育

5 ニキー・アッシャー イリノイ大学カレッジ・オブ・メディア 准教授
二一世紀のジャーナリズムの課題―エリート主義、ニュース離れ、デジタル時代の収入源
Keywords……エリート民主主義、多様なニュースメディア、ニュースに接しない人々、認識のギャップ、ニューヨーク・タイムズ

インタビュー実施:2021 年3月~4月
インタビュー:澁谷壮紀(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)、大森翔子(同)

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

老川祥一氏
ギュスターヴ・ル・ボン〔1993〕『群衆心理』櫻井成夫訳、講談社学術文庫

中村史郎氏
朝日新聞社会部(編)〔1990〕『日航ジャンボ機墜落―朝日新聞の24 時』朝日文庫

下山 進氏
下山進〔2019〕『2050 年のメディア』文藝春秋

瀬尾 傑氏
佐藤卓己〔2019〕『流言のメディア史』岩波新書

ニキー・アッシャー氏
Nikki Usher〔2021〕News for the Rich, White, and Blue:How Place and Power Distort American Journalism, Columbia University Press

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 企画に当たって

谷口将紀 NIRA総研 理事長/東京大学大学院法学政治学研究科 教授
「転換期のニュースメディア―分断なき公共圏を作り、民主政治の健全性を守れ」 
 
 日本は世界に冠たる新聞大国である。世界の新聞発行部数トップテンには、読売新聞を筆頭に、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞が名を連ねる。しかし、今や新聞の未来に影がさしている。昨年一〇月現在の新聞発行部数は約三五〇〇万部で、二〇年間で約三分の二に減少した。特に若年層の新聞離れは深刻で、新聞通信調査会の調査によると、三〇歳代以下で新聞を毎日読む人は一〇%に満たない。論調の左右を問わず、インターネット上の新聞批判も厳しい。
 新聞を取り巻く環境の厳しさで先行する米国の事例からは、単なる一業界の消長にとどまらない民主政治への悪影響が懸念される。二〇二〇年大統領選の混乱に見られたように、サイバーカスケード、エコーチェンバー、フィルターバブル、フェイクニュースなど、インターネットを通じた政治コミュニケーションの危うさも浮き彫りになった。ジェファソン元大統領による「『新聞なしの政府』と『政府なしの新聞』のどちらかを選ぶとしたら、私は迷わず後者を選ぶ」という格言を、トランプ前大統領はどのように聞くだろうか。
 今回の「わたしの構想」は、日本のニュースメディアを守り、民主政治の健全性を保つためには何が必要か、わが国のジャーナリズムを率いる、あるいは国内外でジャーナリズムのあり方に関して卓越した所見を示されてきた五人の識者に意見を伺った。

デジタル時代、ニュースメディアがとるべき戦略は
 『2050年のメディア』などの著作で知られる作家・下山進氏の指摘にもあるとおり、日本の新聞、なかんずく政治記者は、政治家や公務員など取材対象と関係を築き、彼らから情報をもらって同業他社に先駆けて記事(特ダネ)にすることに価値を見出してきた。しかし、インターネットが発達した現在では、特オチ(他紙に特ダネを取られること)をしてもすぐにデジタル版で追い付けるから、政や官が持つ情報を抜いた・抜かれたという競争は、もはや読者にとっては大きな意味を持たない。下山氏は、政府が発表しない裏側の事実を明らかにする調査報道こそが、新聞が生き残るための途と主張する。
 インターネットメディア『現代ビジネス』の創刊編集長で、現在はスマートニュースメディア研究所所長を務める瀬尾傑氏も、埋もれている情報や表に出ていない問題を人々に提供する調査報道こそが、メディアの信頼回復、そして民主主義を守るために必要という点で軌を一にしている。インターネットにはフェイクニュースなどの問題があるが、だからと言って監視や検閲といった「劇薬」を用いてはならず、人々が多様なメディアの情報を比較検討して正しい判断をできるようにするリテラシー教育を、義務教育段階から行うことが肝心と言う。
 良くも悪くも日本の一歩先を行く、米国ではどうか。Making News at The New York Times やInteractive Journalismといった著作のあるコミュニケーション学者、イリノイ大学のニキー・アッシャー准教授によると、メディアコンテンツ全体の消費量や消費時間は増加しているが、メディアは多様化し、ソーシャルメディアのフィードにニュースが流れない人が増えている。これからのニュースメディアは、デジタルマーケティングを活用して、人々の関心を引き付け、さらには安定した収入源を見出すことが重要となる由。

新聞ジャーナリズムの使命、経営多角化で支える
 三氏の直言に代表される厳しい時勢にあって、日本の二大紙、読売新聞と朝日新聞の首脳はそれぞれどのような采配を振るうのか。読売新聞グループ本社の老川祥一会長と朝日新聞社の中村史郎社長の見解には、共通点と相違点が見られる。
 まず挙げられる共通点は、フェイクニュースが氾濫する中、世の出来事を正確に伝えるニュースメディアの役割は決してなくならない、なくしてはならないという使命感である。このようなジャーナリズムの本義を守るための手段として、不動産やエンターテインメント、通信販売など事業の多角化を進め、経営基盤を強化しようという点も似ている。
 他方、読売新聞はデジタル版を最優先するという意味での「デジタルファースト」とは一線を画し、週刊「KODOMO新聞」や「中高生新聞」を通じて、子どもに紙媒体の新聞を読む習慣を付けることに注力するのに対し、朝日新聞はデジタル版の充実は紙媒体と競合しないとして、生活に役立つ多彩なコンテンツをデジタルで発信することで新たな読者層の開拓を図るという、デジタル化に関する両社の違いも興味深い。

垣根を越えた政治コミュニケーションのインフラを
 日本では、全国紙の力がなお強く、人々の情報源がインターネットに移ると言っても、Facebook などのソーシャルメディアよりもYahoo! ニュースやLINE NEWS といったプラットフォームが中心であるなど、ステークホルダーの数は限られている。こうした特徴を生かし、フェイクニュースという民主政治の共通敵に対抗するため、新聞各社の論調や新旧メディアの垣根を越え、新しい時代の公共圏、政治コミュニケーションのインフラストラクチャーをデザインすべき時期に来ている―五人の識者の提言を読み、このような思いを強くした。

*本企画に際し、芹川洋一日本経済新聞論説フェロー・NIRA総合研究開発機構研究評価委員にご協力をいただいた。記して感謝申し上げる。

谷口将紀(たにぐち・まさき)
NIRA総合研究開発機構理事長。東京大学大学院法学政治学研究科教授。博士(法学)(東京大学)。専門は政治学、現代日本政治論。

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 識者に問う
ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

老川祥一 読売新聞グループ本社 代表取締役会長・主筆代理・国際担当(The Japan News主筆)
「信頼性と速報性を備えたメディアとして、新聞の役割はますます重要になる」


 新聞をはじめ、従来のニュースメディアは苦境にあります。二〇一一年に一〇〇〇万部近くあった読売新聞の発行部数は、一〇年間で二五〇万部以上も減りました。インターネットの普及などいろいろな要因が絡んでいますが、それでも、新聞がネットに取って代わられることはあり得ません。世の中の出来事を正確に伝えるという、報道機関としての新聞の役割はなくなりません。
 新聞のもう一つの役割は、言論です。読売新聞は三月に新型コロナ対応に関して七項目の提言を行いました。個人もインターネットで意見を発信できますが、それは「個人の意見」でしかなく、正確かどうかも検証されません。多角的に当事者の意見を聞き、組織的・総合的に検討した上で、政府や社会に「物を申せる」メディアは、新聞だけです。
 現実には、新聞を取らない家庭が増えて、確かに経営は苦しくなっています。親は共働きで忙しくなり、子どもも塾などのため家庭で過ごす時間が少なくなったことで、新聞に触れる機会そのものが減りました。そこで、子どものときから新聞を読む習慣をつけてもらい、未来の読者を増やすために、小学館とのコラボレーションによる週刊「KODOMO新聞」と「中高生新聞」を発行しています。大人の新聞をやさしく書き直す、というのではなく、子どもの発想に立ち、素材から、文章、イラスト、レイアウトに至るまで、ゼロベースで作るものです。読売新聞本体は部数減が続いていますが、KODOMO新聞などは少子化にもかかわらず、部数が全く減っていません。
 新聞のデジタル化も進めています。配信センターに政治部や社会部のデスクを交代で配置し、取材現場からのニュースをいち早くオンラインで速報できる体制を作ったのは、読売新聞が最初です。デジタル版は、yomiDr.(ヨミドクター)など、手軽さや丁寧な解説といった読者のニーズに合わせたコンテンツの工夫もしています。ただし、当社は、何でもデジタル版を最優先に考えるという意味での「デジタルファースト」とは、発想を異にしています。「紙の新聞」なしに、デジタルだけで知識や思考力、教養が身につくとは思えないからです。
 他方、経営を支えてきた広告などの収入減を補うため、不動産やエンターテインメント事業にも力を入れています。事業イベントはかつて、新聞の販売促進が目的でしたが、今では独自で大きな収益を上げられるようになり、経営の裾野を広げています。別会社だった「よみうりランド」の買収や、「東京ドーム」の再開発は、多角化の象徴です。

老川祥一(おいかわ・しょういち)
一九六四年、読売新聞社に入社。第一線の政治記者として、激動する政治の現場を取材してきた。同社政治部、論説委員、政治部長などを経て、取締役編集局長、大阪本社代表取締役社長、東京本社代表取締役社長・編集主幹、読売新聞グループ本社取締役最高顧問、読売巨人軍取締役オーナーを歴任。二〇一九年より現職。現在、東京本社取締役論説委員長を兼務。早稲田大学政治経済学部卒業。著書に、『政治家の胸中 肉声でたどる政治史の現場』(藤原書店、二〇一二年)、『政治家の責任 政治・官僚・メディアを考える』(藤原書店、二〇二一年)他。

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ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

中村史郎 朝日新聞社 代表取締役社長
「デジタルシフトを進め、「みなさまの豊かな暮らしに役立つ総合メディア企業へ」」


 二〇年前は複数の新聞を購読するご家庭もあり、新聞の世帯当たり普及率は一〇〇%を超えていた。だが、現在は、ほぼ半減。デジタルシフトをいかに進めるかが課題だ。
 「朝日新聞デジタル」は有料サービスをスタートさせて一〇年になる。試行錯誤により、いくつかのことが見えてきた。まず、紙媒体の購読をやめて朝日新聞デジタルに移った人は少なく、朝日の中では紙とデジタルは競合していない。また、縦書きの紙媒体の記事を横書きのデジタル記事にするだけでは、デジタル会員の獲得には不十分。動画やポッドキャストなど、デジタル独自の表現方法を磨かねばならないことも分かってきた。
 私たちはHotaru というツールを開発し、デジタルの読者の男女比や年齢、どのような経路で記事に到達したか、何分間読んでもらえたか、といったデータを記事ごとに分析している。これを生かし、例えばLINE で朝日のニュースを読む人は三〇~四〇歳代の女性が多いという傾向を見つけた。発信媒体の特性に合わせた配信を模索している。「サービスジャーナリズム」という言葉があるように、より生活者の目線に立ち、ペットのことから相続の問題に至るまで、生活に役立つ多彩なコンテンツをデジタルで発信していくことも試みている。
 一方で、デジタル空間では、経験や実績のあるマスメディアがしっかり取材したニュースと、取材をほとんどしていない「コタツ記事」やフェイクニュースとが同列に並べられてしまっている。私はこれを「ニュース市場の荒廃」と危惧している。ジャーナリズムの大きな役割は、確かな情報を届けるのはもちろん、権力を監視したり、財務省の公文書改ざんのスクープのように埋もれていた事実を掘り起こしたり、多様な言論を提供したりすることにある。これらの価値は今後も変わらないし、ファクトチェックも重要な役割になりつつある。
 信頼できる情報は無料では手に入らない。確かな情報を届けるには相応の人手とコストがかかる。それを生業にするには、安定した経営基盤が必要だ。ジャーナリズムを守るために、逆説的だが、印刷や販売、配達といった従来の新聞業のコストを効率化し、全体に占める比率を相対的に下げる必要がある。新聞業という一本の大樹に頼るのではなく、「みなさまの豊かな暮らしに役立つ総合メディア企業」を目指し、イベントや不動産、教育、通販、知的財産といった木々を育て、森のようにビジネスの枝葉を繁らせ、十分な果実を実らせていきたい。

中村史郎(なかむら・しろう)
一九八六年、朝日新聞社に入社。同社政治部、中国総局員、国際報道部長、広告局長、初代パブリックエディター、執行役員編集担当兼ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長を経て、二〇二〇年、代表取締役副社長。副社長時代は、デジタル政策、バーティカルメディア事業を担当。コンテンツ事業全般を統括した。二〇二一年四月に代表取締役社長(現職)に就任。デジタル時代における朝日ならではのブランド価値の構築に向け、四月からは新しい中期経営計画をスタートさせている。東京大学卒業。

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ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

下山 進 作家/上智大学新聞学科 非常勤講師
「官の情報を貰い下げるのは報道ではない」


 米国では、ニュース砂漠の中、民主主義が後退しているという事実があります。
 日本でも同様のことが起こっているのでしょうか? 確かに、二〇〇〇年には五三七〇万部あった日本の新聞の総発行部数は、二〇二〇年には三五九一万部まで下がっています。
 米国の新聞は、ペンタゴン・ペーパーズ報道以来、民主主義の夜警役(ウオッチドッグ)を担ってきました。しかし、日本の新聞が果たしてそうした役割をしてきたのか、という点については大きな疑問があります。
 日本の新聞社では、地方の支局に配属された新人がまずやらされるのは、県警なり、県庁なりの記者クラブに所属し、広報が発表する案件を報道しながら、早朝、深夜に、警察官や役人あるいは検事の自宅をまわり、関係をつくって情報をとることです。
 それが、東京に戻ってきても、中央官庁や警視庁、東京地検特捜部と続いていきます。
 官や政がもっている情報を他紙にさきがけて書く。これを「前うち」と言います。
 そうした「前うち」の情報は、紙の時代にはそれなりに価値があったのでしょうが、ヤフーなどのプラットフォーマーに無料のニュースが氾濫するようになると、仮に前に打っても、すぐに追いつかれます。コモディティ化してしまうのです。
 そうした情報で紙の新聞をつくっていても、人々は月ぎめ四〇〇〇円といった額を払いません。だから、新聞の部数は減っていったのです。
 ここ数年、「桜を見る会」の疑惑や総務省の接待問題など、国政を動かすような報道は、そうした記者クラブに入っていない、『しんぶん赤旗』や『週刊文春』などが行っています。
 しかし、中には、独自の取材によって政府が広報する裏側の真実をえぐりだす報道をしている社があります。防衛省記者クラブの全国紙の記者は、「秋田市新屋に地上イージスの基地ができる」と官の情報を貰い下げ、「前うち」で書きました。しかし、『秋田魁新報』は、独自の取材によって、防衛省の適地調査が、はじめに結論ありきのものだったことを、明らかにします。それによって人々は投票行動を変え、イージスの配備自体が撤回されました。
 こうした自分たちだけにしかできない報道をすることが新聞の生き残りにつながり、民主主義の活性化につながると私は思います。

下山 進(しもやま・すすむ)
メディア業界の構造変化や興廃を、緻密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。二〇一八年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「二〇五〇年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『二〇五〇年のメディア』(文藝春秋)として上梓した。一九九三年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。著書に『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、二〇〇二年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、二〇二一年)など。サンデー毎日でメディアについてのコラムを連載中。

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ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

瀬尾 傑 スマートニュース メディア研究所 所長
「メディアは調査報道で付加価値を生み出して、人々の信頼を取り戻せ」


 新聞などニュースメディアが抱える最大の課題は、メディアに対する人々の信頼が低下していることだ。これは世界的な現象だが、とりわけ日本では、メディアと市民の間に深刻な認識ギャップがあることが、ロイター研究所の調査でも明らかになっている。メディアは自身を「権力と対峙する」存在と自認しているが、人々はメディアを「既得権益集団」とみている。こうした認識のずれにメディアが鈍感であることが、信頼を喪失させている。このままメディアの信頼が低下し、「正しい情報が伝わるルート」が機能しなくなれば、フェイクニュースや陰謀論のまん延のような混乱を生む。トランプ政権下の米国で起きた分断は、その一例だ。市民は信頼できる情報に基づく適切な判断ができず、民主主義の危機を招きかねない。
 ニュースが民主主義的な社会に貢献する価値は何なのか。メディアは、今一度、問い直す必要がある。誰でもインターネットで社会に発信できる現在、メディアは速報の価値だけに執着する必要はない。埋もれている事実や表に出ていない問題について時間をかけて取材を進め、人々に新たな課題を提供する「調査報道」こそ、民主主義を支えるためにメディアが貢献できる大切な価値だ。しかし、今、メディアのビジネスモデルは変化を迫られ、従来の調査報道の仕組みを維持することが難しくなっている。そこで、われわれは調査報道を支援する「スローニュース」という子会社を設立した。専門知識を持つジャーナリストを育て、独自の取材やデータに基づく記事を書ける環境を作り出すことがその第一歩と考えている。
 ネットメディアについて指摘されるさまざまな問題には、例えばフェイクニュースに対抗するファクトチェックや信頼できる情報を配信する仕組みの構築といった、ニュースの流通面の改善が重要である。とはいえ、政府による監視や検閲といった危険な「劇薬」に手を出してはならない。さまざまな意見があり、各人が議論できるネットの自由な空間は、多様性を育み、テクノロジーや社会の進歩を生んできた。そもそも、うわさや虚報はネットの発達前から存在し、根絶は不可能だ。目指すべきは、人々がデマに惑わされない、強い社会を築くことである。そのためには、情報を比較検討して正しい判断ができるリテラシー教育を、義務教育段階から行うことも必要となる。誰もが発信者になる時代、メディアや教育機関、それぞれが社会的責任をもって努力を積み上げ、ニュース情報の環境を総合的に変えていくことが求められる。

瀬尾 傑(せお・まさる)
日経マグロウヒル社(現日経BP社)を経て、講談社入社。『週刊現代』『月刊現代』等を担当後、『現代ビジネス』編集長。二〇一八年スマートニュース入社。スマートニュース メディア研究所所長に就任し、社会とメディアが抱える課題について研究・提言を行う。二〇一九年に調査報道の支援を目的にした子会社スローニュース株式会社を設立、代表取締役社長。インターネットメディア協会代表理事。総務省「放送を巡る諸問題検討会」構成員。メディア業界の多様な職種の経験を生かし、新しい時代のジャーナリズムの育成と支援に取り組んでいる。同志社大学卒業。

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ニュースメディアは、これからの民主政治でどのような役割を果たすべきか。
また、メディアの経営戦略はどうあるべきか。

ニキー・アッシャー イリノイ大学カレッジ・オブ・メディア 准教授
「二一世紀のジャーナリズムの課題―エリート主義、ニュース離れ、デジタル時代の収入源」


 米国は、「エリート民主主義」に大きく傾いている。人々には投票する権利も言論の自由もある。しかし、実際に情報を最も上手く利用しているのはエリート層で、メディアも、エリート層の関心事ばかり報道している。メディアと民主政治は相互に影響を及ぼしており、メディアのあり方は、人々がどのような民主主義を望むのかによって規定される。さまざまな人々の視点を等しく反映する民主主義を築き、エリート民主主義に対抗するためには、社会的に強く、確固たる経営基盤を持ち、かつ、小規模な独立系の映画制作会社から公共放送までを含む多様なニュースメディアが必要だ。
 しかし、米国では、ニュースに接する機会がない人が増えている。ニュースメディアのデジタル化にともない、特に社会経済的な地位が低い層に顕著となり、彼らが使うソーシャルメディアの画面(フィード)にニュースは流れない。関心が高いのは政治や社会のニュースではなく、スポーツの試合結果である。新聞の購読者数も減少し、スターバックスも店頭で新聞を売らなくなった。殺人や新型コロナウイルスといったニュースを避け、自分や家族の精神的な安定を守りたいと考える人も多い。
 人々がメディアのコンテンツを消費する量や時間は増加しているが、そのパターンは多様化し、関心は断片的になっている。メディアは、人々の注意をひくわずかな時間に、どうすれば政治や社会のニュースへの関心と学びの機会を提供することができるかを考えるべきなのだ。
 ジャーナリズムの側が、読者を誤解していることにも問題がある。「ジャーナリストが教えたいもの」と、「人々が欲しているもの」との間にギャップがあることを認識していない。人々がニュースに対する評価を変えるかどうかは、ニュースメディアがデジタルマーケティングを効果的に活用し、彼らとの認識のギャップを埋めることができるかにかかる。
 ニューヨーク・タイムズはデジタルシフトに成功したが、新聞などのニュースメディアが担当部署を設けさえすれば、デジタル化に成功できるというわけではない。同紙ですら、マルチメディア企業になるまでに、一〇年かかった。重要なのは、将来的にも安定した収入源を見極めることだ。デジタル市場で、どのように利益を確保するかを考えなければならない。その意味で、インターネットのプラットフォーマーがデジタル広告の利益を独占的にコントロールしていることは、ジャーナリズムの未来にとって大きな問題だと考えている。

ニキー・アッシャー(Nikki Usher)
専門は、メディア社会学、政治コミュニケーション。ニューヨーク・タイムズのデジタル化への対応を描いた『Making News at The New York Times』(二〇一四年、University of Michigan Press)は、タンカード・ブック・アワード等を受賞。他、メディアにおけるプログラミングやデータジャーナリズムの台頭を分析した『Interactive Journalism:Hackers, Data, and Code』(二〇一六年、University of Illinois Press)など。南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム大学院よりPh.D。ジョージワシントン大学メディア広報学部准教授を経て、現職。

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©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、北島あゆみ、山路達也、ウェブ・ジョナサン

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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